2017年3月8日水曜日

フォトレポート:シリア・アラブ陸軍(2)

著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

シリア国防省がついに 21世紀のメディア技術を取り入れたために、今ではHD画像が公式サイトとツイッターアカウントに定期的にアップロードされている。
この「大いなる」躍進にもかかわらず、 シリア国防省が依然として外の世界にアラビア語のみでしか情報を発信しないため、それによって、もしそうでなければシリアの戦場で継続中の戦闘に関する声明を読んだり観たりすることに興味があるだろう、多くの視聴者や読者を遮断している。
それでもなお、公開された画像は、私たちに別の「フォトレポート」のための絶好のチャンスを与えている。

シリア・アラブ防空軍(SyAADF)のパーンツィリ-S1(写真)。
過去10年間に、かなりの量の現代的な地対空ミサイル(SAM) がシリアに届けられたが、内戦中にも引き渡しが続けられている。
S-300PMU-2、ブク-M2、ペチョラ-2Mとパーンツィリ-S1の導入によるSyAADFの完全なリニューアルが、本来は2000年代の間に計画されていたものの、最初の引渡しが延期され、結局はキャンセルされたと考えられている。
2014年からイラクに引き渡されているタイプに似た、より高度なバージョンのパーンツィリ-S1が、最近になってSyAADFにも導入された。









シリア軍のT-72AV TURMS-T (Tank Universal Reconfiguration Modular System T-series)は、FCSを強化するため、2000年代にイタリアのガリレオ・アヴィオニカによって改修された型である(写真)。
興味深いことに、 単にT-72AVやT-72M1をTURMS-T規格に改修するだけではなく、SyAAはこの改修計画にT-72 「ウラル(初期型)」も含めることを決定した。
T-72 「ウラル」とT-72M1は、TURMS-T規格のパノラミックサイトが搭載されたT-72の大部分を占めている。
全てをパノラミックサイト付きのTURMS-Tを装備したT-72へ改修することは高価すぎると見なされていたため、限られた量のT-72しかこの改修を受けることができなかった。
なぜ、あまり進歩していないT-72の派生型がこのパノラミックサイトを装備できたのかは、いまだに謎のままである。



ランチャーから発射された「ボルケーノ(火山)」ロケット(写真)。
これらのロケットは、直撃によって居住区画を完全に破壊できる火力を有することでよく知られるようになり、2013年のアル=クサイルでの戦いで大きな決め手となった。
ボルケーノは標準的なロケット弾と、はるかに大きな弾頭を一組にして、大幅に致死性を高めたものの、射程距離と精度が低下した。
この同じ頃、ボルケーノの量産するペースが上がり、現在では、これらのロケットがシリアの戦場のほぼすべての戦線で使用されている。

シリアでは、ボルケーノが3回の開発サイクルを経て生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれている。
107mmと122mmベースのボルケーノが最も普及したタイプであるが、220mmベースのタイプも存在する。
シリアでは107mmと122mm(グラード)ロケットが極めて一般的なので、これらのロケットをボルケーノへ転換することは比較的簡単な方法で可能であり、220mmロケット弾はシリア国内で生産されていることが知られている。





BMP-1は、依然としてシリア軍における歩兵戦闘車(IFV)の保有リストの大部分を占めているが、最近のロシアによるさらなるBMP-1とBMP-1Pの供与で、近い将来、これが変わる可能性は低いだろう。
BMP-1のパッとしない武装や薄い装甲防護力の問題は、シリア内戦の間に痛いほど明確にされているが、これらの能力を向上させる目的で、政権側が実施した改修はほとんどない。
いくつかの部隊は、コンタークト1爆発反応装甲(ERA)を車体と砲塔に追加することによって、BMP-1の装甲を「補強」しようと試みた。
砲塔の装甲はコンタークト1との適合に十分なほど強力ではあるが、車体の紙のように薄い装甲は(コンタークト1の)爆発に耐えられず、装甲の薄い層を粉砕して内部の人員に大きな怪我を負わせる可能性が高い(注:砲塔はERAの爆発に耐えることができるが、車体は装甲が薄すぎてERAの爆発に耐えることができないということ)。


T-72「ウラル」は、シリア軍で運用されているT-72の中で最も古いタイプである。
かつて、ハーフィズ・アル=アサド前大統領によって「世界最高の戦車」と言われていたが、今日ではその大きな弱点で有名であり、多くの動画で命中後に激しい爆燃(注:誘爆)を被り、その結果として砲塔が壮大に吹き飛ばされる様子が映されている。



シリア内戦では、シリアを支配すべく戦う多くの勢力が使用する、大量のAKタイプのライフルが見ら
れているが、PKタイプの機関銃の拡散は度々見落とされがちであった。
PKとPKMは未だにシリアで汎用機銃の大半を占めているが、過去数年間にいくつかの派生型がシリアの戦場で現れた。
これにはロシアのPKP ペチェネグ北朝鮮の73式が含まれる。
後者はイラン由来のもので、イラン・イラク戦争中に購入したものである。
イランが独自のPK・PKMタイプの機関銃を生産し始めた後、これらはすぐに保管され、最終的にはイラク、シリア、イエメンのシーア派民兵組織の手に渡った。








依然としてきれいな状態の3両のT-72AVが、シリアの荒廃した街中を通り抜けている(写真)。
T-72AVは通常の装甲よりも大幅に改善されているが、装着されているコンタークト1では、より強力なロケット推進擲弾(RPG)と対戦車ミサイル(ATGM)に対しては防護できないことが判明している。
加えて、サイドスカートにおけるERAの支え自身が、命中するRPGの爆発に耐えるにはあまりにも脆弱であることが確認されており、ときには1回の命中でサイドスカート全体の落下を引き起こすことがあった。








非常にまれな光景:コンタークト1ERAをすべて取り除かれたシリアのT-72AV(写真)。
この画像は上記に見られるような、ERAを完全に装着したT-72AVとの素晴らしい比較を可能にさせる。
この戦車は訓練部隊によって運用されている可能性が高く、そのERAは、前線での実戦部隊で使用されるT-72AVのために取り外され、明らかにERAを有効に活用できている。



演習中におけるシリアのコマンドー部隊(写真)。
シリア内戦がまさに6年目に入ろうとしているにもかかわらず、これらの部隊によって行われた特殊作戦については全く知られていない。
その代わり、ほとんどのシリアの「コマンドー」は、 シリア軍とNDF(国防軍:政権側の民兵組織)と一緒に通常の歩兵として用いられていると考えられている。
彼らはコマンドー専用のパッチによって他の部隊と容易に識別することができるが、赤色のベレー帽を着用している姿をめったに見ることはできない。






シリア内戦でのATGMの拡散は、ロシア製T-90、米国製M1エイブラムス、さらにはドイツ製レオパルト2の装甲防御力を試すのに十分な機会をもたらした。
トルコがシリアの戦場にM60Tとレオパルト2A4を配備して北シリアへの介入を強化したことで、シリア内戦は世界で最も新しい、戦車と装甲の改修のための完璧なテストの場と化している。
かつて、M1エイブラムスはほとんど貫通が不可能と考えられていたが、イスラミック・ステートによる9M133コルネットATGMの配備によって撃破される状況が見られた。
同様に、トルコのレオパルト2A4も、シリア北部への短期間の展開中に、主に採用されていた貧弱な戦術のために、ATGMの犠牲になった。
T-90Aの装甲防御力はシリアでの戦闘中にもテストされているが、壊滅的な弾薬の爆燃(注:誘爆)はまだ見られていない。









シリア内戦ではT-72が最も注目を集めているが、依然として運用されているT-62とT-55戦車シリーズは、シリアの機甲部隊の大半を占め続けている。
実際、シリア軍の新しく設立された第5軍団は、最近になってロシアからT-62Mを受領し始めた
この最近のロシアからの機甲戦力の流入については、既に過去2年間でT-90A、T-90、T-72(1989年型)、T-72B、BMP-2、BMP-1(P)の供与が見られている。















演習中に、シリア軍兵士が守備位置で小火器の照準を合わせている(写真)。
内戦直前に大量の中国製ヘルメットとボディアーマーが中国から調達されたが、シリア軍はこの新しく支給された装備をすぐに使い果たした。
いくつかの部隊は倉庫に備蓄されていたものを見つけ次第、何でも再装備していたが、他の部隊はより装備に乏しかったり、またはスクーア・アル=サハラ(駐:政権側の民兵組織)のように自身の制服と装備自体が自己負担になったと思われるケースもあり、その結果、今日の戦場では豊富な種類の制服と装備が見られるようになった。







アレッポの下町を通り抜けるT-72M1(写真)。
2012年以来大激戦が繰り広げられたこの都市へのアサド政権の影響力は、かつてはもうあまり長くはないと思われていた。
包囲され、あらゆる側面から攻撃されたシリア軍は、最初は残った領域を強固にしようと試み、その後の攻勢は政権のために局面を変える重要な鍵となった。
あらゆる見込みに反して、アレッポはその4年後にシリア軍によって完全に奪還され、反体制派へ致命的な打撃を与えた。




ダマスカスにある無名戦士の墓で、戦死した兵士の碑である(写真)。
モニュメントのドームは宇宙を象徴し、その上のアーチは勝利を象徴している。
2つの節(クルアーン:169,170)がドームの両側に書かれている。

وَلَا تَحْسَبَنَّ الَّذِينَ قُتِلُوا فِي سَبِيلِ اللَّـهِ أَمْوَاتًا بَلْ أَحْيَاءٌ عِندَ رَبِّهِمْ يُرْزَقُونَ﴿١٦٩﴾ فَرِحِينَ بِمَا آتَاهُمُ اللَّـهُ مِن فَضْلِهِ وَيَسْتَبْشِرُونَ بِالَّذِينَ لَمْ يَلْحَقُوا بِهِم مِّنْ خَلْفِهِمْ أَلَّا خَوْفٌ عَلَيْهِمْ وَلَا هُمْ يَحْزَنُونَ ﴿١٧٠﴾ (آل عمران: 169، 170) - '
アッラーの御為に殺された人たちを決して死んだものと思ってはならないぞ。彼らは立派に神様のお傍で生きておる、何でも充分に戴いて。
あの人たちはアッラーが授けて下さったお恵みに感激し、またいまだ彼らのところまでは来ていないが、後からついて来ている人たちのためにも大いに喜んでおる。もうそういう人たちには何も恐ろしいことはないのだし、悲しむこともないのだから。(クルアーン:169,170)



 ※ この翻訳元の記事は、2017年2月28日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。   

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2017年2月24日金曜日

シリアにおける北朝鮮の「HT-16PGJ」携帯式対空ミサイル


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ほぼ10年にわたる厳しい制裁の下で国際武器市場における北朝鮮の従来型兵器の拡散はたびたび過小に報告されており、過去の多くの武器取引は完全に記録されていません。それにもかかわらず、これらの取引の跡は未だに世界の紛争地域の多くで目立っており、時折新しい映像などが国際的な武器取引への北朝鮮の関与を窺わせています。

 今日の紛争のホットスポットで既に存在している、北朝鮮によって改修された主力戦車, 様々な種類の砲, 対戦車ミサイル (ATGM) 軽機関銃 (LMG)のほか、シリア内戦で使用されている武器の画像を分析すると、バッシャール・アル=アサド大統領の政権と対立する様々な勢力の間で、北朝鮮の携帯型防空ミサイルシステム(MANPADS) の存在が明らかとなりました。

 このミサイルの目撃はアサド政権への初期供与の規模がかなり大きいと暗示させるほど十分一般的になりましたが、常にシリアでも使用されている同様のソ連製9K310(SA-16)「イグラ-1E」として識別されていたという事実は、今までこれらが北朝鮮製であると気づかれなかったことを意味しています。

 2014年8月、同年の夏にイスラーム軍から奪取したKshesh(注:ジラー空軍基地)においてイスラム国の戦闘員の手でこの一つの例が最初に特定されましたが、さらなる追跡調査で、 2013年2月のアレッポにおけるシリア軍第80旅団の基地で自由シリア軍と(もとはアルカーイダ系グループ)カテバ・アル=カウサールによって捕獲された少なくとも18発の発射機とそれに付随するシステムの一群の存在も明らかとなりました

 航空機やヘリコプターがこれらのミサイルで撃墜されたことは明確に知られていませんが、戦場における彼ら(北朝鮮製MANPADS)の継続した存在は最近(注:執筆当時)厳しく包囲されたラタキア県では未だに機能していることを示唆しています。

先端キャップが取り外された北朝鮮の「HT-16PGJ」MANPADS:ジラー空軍基地で2014年8月撮影




2013年2月にアレッポで鹵獲された「HT-16PGJ」

 これらのMANPADSは北朝鮮では一般的に「Hwaseong-Chong(火縄銃)」と呼ばれているようですが、シリアに輸出されたタイプは3番目か4番目に北朝鮮で独自に開発されたものと考えられています。
 
 ソ連の9K32(SA-7)「ストレラ-2」MANPADSからコピーされた(PGLMまたはCSA-3Aという名称を付与されたかもしれない)初期のタイプは1980年代に開発された可能性が高いですが、9K34(SA-14)「ストレラ-3」の独自の派生型と思われるものは早い時期であれば、すでに1992年の時点で目撃されています。

 北におけるMANPADSの開発は、最終的にここ近年でしか認識されていないロシアの9K38(SA-18)「イグラ」に由来と思われるシステムをもたらしました。

 シリアで現在見られるMANPADSは古い9K310「イグラ-1」(SA-16)と最も類似点が共通しているものの、特徴的な先端の三角状のエアロスパイクは9K38(SA-18)「イグラ」や9K338(SA-24)「イグラ-S」で見られるより近代的な針状のエアロスパイクに置き換えられており、性能が向上している可能性が高いと思われます。

 北朝鮮のシステムがソ連/ロシア製との識別を可能にする最も重要な相違点は、MANPADSの電源である熱電池をより前に配置している点です(注:北朝鮮製はオリジナルのSA-16と異なり、熱電池が(キャップを除く)ミサイル・チューブ先端より僅かに前へ突き出るような配置をしています)。

 また、この熱電池はシステムがまだ使用可能かどうかを判断する材料となっています。熱電池の枯渇はMANPADSが役に立たなくなったことを意味し、対空装備を入手を熱望する武装勢力が自ら代用電池を作り、使用を試みたいくつかのケースに至ることがあります。

ラタキアにおける北朝鮮の「HT-16PGJ」MANPADS(2015年11月26日撮影)、右:北朝鮮の閲兵式における同型と思われるMANPADS

 さらなる画像分析によると、シリアで発見された北朝鮮のシステムには「HT-16PGJ(ミサイル単体ではHG-16)」と表記されており、第80旅団で捕獲されたものは2004年1月1日付けの契約日が記載されたシステムの一部であり、これは熱電池の有効保存期間がまだ切れそうにもないことを意味しています。

 2003年にとある(ベラルーシといわれている)未知のサプライヤーが引き渡した約300基の「イグラ」について、西側の情報に基づくレポートは、特にシリアでは同MANPADSが未だに目撃されていないため実際には北朝鮮のシステムをめぐる取引に言及している可能性があります。

 仮にもしそうであるならば配送が2004年の初めの時点で継続していたことから、報告よりもさらに多くのMANPADSが調達された可能性が高いと思われます。実際、ミサイルの箱に対する徹底した調査は合計600基のHT-16PGJで1箱に各2発ずつミサイルが入っていたことから、少なくとも300箱がシリアに引き渡されたことを明らかにしています。

 シリア内戦ではかなりのMANPADSの派生型が見られたにもかかわらず、ソ連の伝統的な「ストレラ-2M」、「ストレラ-3」と「イグラ-1」から中国の「FN-6」に至るまでスーダンを通じてカタールによって供給されたほか、ロシアの「イグラ-S」が紛争開始の数年前に引き渡されましたが、今日、シリアの空を飛び回る多数の勢力(注:シリア空軍やロシア空軍など)に対抗する防空戦力は未だに不足したままとなっています。

 これによっていくらかの武装勢力は極端な射程の、見かけだけの間に合わせでしかない防空戦力で戦うことを強いられ、あらゆるMANPADSは貴重な資産とみなされるようになりました。

 これらのシステムの能力のために、ミサイルが国外へ密輸されて民間航空機が撃墜されることを恐れたことから、西側諸国は内戦初期に穏健なシリアの反政府勢力へMANPADSを供給することに消極的でした。通常、このような航空機はMANPADSの有効高度よりも高い高度で巡航していますが、離陸直後や着陸前に発射されたミサイルは過去に本当の脅威となったことがあります。

 ロシアの「イグラ-S」に類似するものがシリアの戦場で見つけられる最も能力の高いMANPADSシステムであるとは思われませんが、古い「ストレラ-2」や「ストレラ-3」、「イグラ-1」、そしておそらく中国の「FN-6」よりも確実に有効であり、後者(FN-6)はそれを使用した反政府勢力によって信頼できないことが明らかとなっています。

 ロシア空軍はラタキア県を含むシリア全土でアサドの対抗勢力との空爆作戦の最前線にとどまり続けるため、いかなる種類の防空システムもその出所を問わず反政府勢力に快く受け入れられることでしょう。

 将来的にこれらのシステムのより多くが出現するかどうかについては、当然ながらまだ分かりませんが、世界中の国に対する北朝鮮の武器輸出の全容の解明がやっと始まったばかりであるとはいえ、結局はいつか違法な武器取引市場に行き着く可能性がある北朝鮮におけるMANPADSを含む新しい武器の開発は未だに進行中です。

朝鮮人民軍で使用されるMANPADS:左から3人目まで使用しているものが、同側から順に「イグラ-1」、シリアでも使用されている「HT-16PGJ」、「ストレラ-3」








特別協力:'BM-21 Grad'(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2016年3月に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。
 ※ 最終更新日:2021年10月8日    


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2017年2月22日水曜日

備蓄品からの補充:ロシアから供与されたT-62MとBMP-1がシリアに到着した


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 シリア軍への新しいAFVの供与に関する多くの噂に続いて、シリアから流出したいくらかの画像はそのような引渡しが実際に行われたことを明らかにしました。これらの新しく引き渡されたAFVは、 現在、T4空軍基地~タドムル(パルミラ)間でIS(イスラミック・ステート)との厳しい戦闘に従事しているシリア陸軍第5軍団へ配備されることになっています。
事実、現在ここで行われている戦闘を報じる画像やビデオで、既にこれらの車輌がISへの反撃の役割を果たしている状況が確認されているのです。

 多くの人々は2015年後半にシリア軍部隊にこれらの車輌の小数の引き渡しに続いて、より多くのT-72やT-90でさえ供与されることを期待していましたが、現時点における第5軍団の中核はT-62MやBMP-1(P)といった戦闘で実績のあるAFVで占められているように見えます。
確かに、他のシリアの戦場で用いられているT-72やBMP-2の派生型よりは旧式であるものの、これらのAFVの供与はひどく枯渇したシリア軍の車廠への追加としては依然として歓迎されているようです。

 実際、T-62MはT-90戦車シリーズに見られる「シュトーラ」のようなアクティブ防護システムには恵まれていませんが、シリアにおいて今も疲弊した機甲部隊の大半を占め続けるT-55やT-62の初期派生型よりは大幅に改善されています。

 引き渡されたBMP-1及びBMP-1Pは僅かな攻撃力と防御力しか提供しないものの、特にこれらの車輌を運用した経験がある乗員にとっては習得と維持が容易という事実があることから、第5軍団では十分に役立つ可能性があります。 


 第5軍団はシリア・アラブ陸軍(以下、SyAAと記載)に新しく設立された部隊であり、過去数年間にSyAAの役割を大規模に引き継いだ、勢力を増す様々な民兵組織に対するカウンターウェイトとしての役割を果たすものです。シリアの体制を存続させるためには SyAAの部分的な解体とそれに続く民兵組織の増加が必要でしたが、それが将来的に手に負えない状況に陥る可能性があるという幾多の大きな問題を引き起こしました。第5軍団の設立は、これらの問題の少なくとも一部を解決することをねらいとしているようです。

 ロシアは民兵をシリアの最高司令部の指揮下で独立した部隊として存続させるのではなく、政権に圧力をかけて多くの民兵の指揮及び統制をSyAAに戻すことによって、同軍の事実上の再建を図るけん引役であるように思われます。自身の影響範囲内でシリアを維持するというイランの目標はいくつかの民兵組織の設立で成立しましたが、その多くは結局のところ外国の組織であり、ロシアはそのかわりに統一された軍の創設によって現政権の存続を可能にさせる安定した状況を作り出そうと試みています。

 このような統一された軍の欠如が、タブカへの攻勢の失敗と2度目のタドムル(注意:パルミラ)の喪失を最近の例として、過去数年に渡る政権側の敗北の大半で苦痛を伴いながら明確にされてきました。

 ロシアがシリアに介入した直後に、第5軍団の創設と同様のプロジェクトが開始され、NDF(注:アサド政権の民兵組織)の一部を含むいくつかの民兵組織が第4軍団に合併するように求められました。 かつてNDFが政権の主要な部隊としてSyAAの大部分と置き換えられたとき、NDFは近隣の警戒から、他の場所への攻勢の引き受けとシリアの至る所にある町やガス田、戦略的な軍用施設の警戒にまで任務を拡大しました。したがって、上記の構想はNDFが地方の防衛専用の戦力に残って、これらの任務がSyAAに戻されることを要求したのです。しかしながら、今までのところ、このプロセスは全く成功していないように思われます。

 ほとんど独占的に徴兵された人員から構成されるシリア軍の他の部隊とは対照的に、第5軍団は以前はスクーア・アル・サハラ(砂漠の鷹)のような民兵組織にしか見られなかった給与と手当を提供することによって、多数の男性を引き付けることを期待しています(注:第5軍団は志願制) 。さらに兵士の数の増強を図るため、以前に徴兵を免除されていたり対象とならなかったシリア人男性達は、軍役から除外される厳しい規則があるために第5軍団に入る可能性が高いでしょう。


 現在、ほぼ6年にわたる長い内戦が、かつてシリアの機甲部隊に大きな被害をもたらし、特にロケット推進擲弾(RPG)と対戦車ミサイル(ATGM)の広範囲への拡散による多大な損失に苦しんでいます。その上、戦車を脆弱な固定のトーチカとして役目を担わせるという、ほとんどの政権側の部隊によって採用された貧弱な戦術のために、その価値を効果的に退化させられてしまいました。

 利用可能なAFVの量が今日の作戦に対してはまだ十分あるように思われるが、その数は完全に新しい戦闘団(第5軍団)に装備させるにはあまりにも不足しすぎています。第5軍団の新設というロシアの役割に合わせて、この新しい軍団の装備を担当するのも同じロシアです。これによって、新しい軍団には広範囲にわたる近代的なロシア製兵器が装備されるという見方もありますが、ロシアはこれまでのところ、ロシア軍自身でもはや運用されていない旧式兵器を供与することを約束してきたのです。

 それにもかかわらず、供与された兵器と車輌はSyAAと第5軍団にとって理想的に適していました。小型の武器や大量のウラル、GAZ、カマズ、UAZのトラックとジープの引渡しに加えて、第5軍団への供与品には今までのところT-62M、BMP-1P、BMP-1、M-1938(M-30)122mm榴弾砲が含まれていました。
 
 T-62Mは既にシリアで使用されているものよりも現代的なモデルで、ロシアが提供したものは1970年代の間に近代化されたバッチであり、オンロード及びオフロードにおける機動性の向上を考慮してオリジナルのゴム縁付き転輪を交換しています。

 これらがシリアで出現する前に、既にシリアへの輸送のために港へ向かう少数のT-62Mがロシア国内で目撃されています。これらの戦車はその後、大多数の車輌や装備が既に到着しているタルトゥス港行きの 「シリア急行」に搭載されて出荷されました。そして、T-62MとBMP-1はシリア中央部のISに対する戦闘に加わっている第5軍団の一部を含む新しい部隊への配分をタルトゥスで待つ姿が目撃されました。


 T-62は1980年代初頭にはより近代的な西側の戦車に性能を大きく上回られていたことを受け、いくつかの同戦車の派生型をアップグレードすることを目的とした近代化プログラムの産物がT-62Mです。このプログラムは、 火力、防御、機動性の分野におけるT-62の欠点を対処することを目的とし、それまで期待されていた値より低かった能力を大幅に向上させました。また、この改修は同時期に実施されたT-55及びT-55AをT-55Mに近代化する改修と並行して行われました。

 装甲の強化は、 BDD「ブローヴィ」増加装甲を砲塔前面と車体上部及び底部の避弾経始上に装着すること、ゴム製のサイドスカートや砲塔への対放射線防護用の内張り、それに対戦車地雷に対する底面の装甲強化によって達成されました。結果として増加した重量については、新型のV-55Uディーゼルエンジンによって補われました。

 強力な115mm砲の全潜在能力を活用するために、KTDレーザー測距器と関連機器から構成される 「ヴォルナ」射撃管制装置が搭載されました。この戦車もまた、シリアの T-55(A)MVで使用されている9M117 (9K116-1)「バスチオン」ATGMとほとんど同一の砲発射式ATGM9M117 (9K116-2)「シェクスナ」を発射する能力を得ました。このために、砲手と戦車長の両方が新たな照準システムを得たことから、夜間戦闘時の有効性を大幅に向上しました。この全てに加えて、この戦車には新しいスタビライザー、115mm砲用のサーマルスリーブ、新型の無線機が搭載され、砲塔の右側面には発煙弾発射機が装備されました。

 その年式にもかかわらず、T-62Mは、ソ連のアフガニスタン侵攻中に同国の山岳地で大いに使用され、コーカサスにおける数十年間の対テロ作戦の後、ロシア軍からやっと退役したばかりであす。T-62Mは現在でも他のいくつかの国、特にキューバで運用され続けており、皮肉なことに「キューバ革命軍」の最も現代的な戦車としその任務を果たしています。


 T-62の1967年型及び1972年型のようないくつかの派生型は統一的にT-62Mへ改修されましたが、 1967年式がDShK12.7mm重機関銃を装備していないことにより、双方とも未だ容易に識別することができます。興味深いことに、シリアは1967年式及び1972年式をT-62Mに改修したものを受取ったようです。後者(1970年式改修型)は今までシリア中央部から出てきている映像でより大々的に取り上げられており、 死傷者は報告されていないものの、ISが放つATGMの初めての餌食となってしまいました。

 供与されたほとんどの戦車には、シリアへの出荷前にロシアで描かれた「H22-0-0」という鉄道輸送用マーカーをまだ見ることができます。これらの表示を消さないことは今回の状況には全く重要性を持たない一方で、ウクライナに配備された戦車にも同様のマーカーが残っているため、ウクライナ東部における戦争へのロシアの関与を確認するために再度用いられるでしょう。


 たとえ旧式だとしても、これらのAFVの大量供与はシリアの戦闘車両群を壊滅させた蔓延する消耗の趨勢を逆転する可能性があります。おそらく最も重要なことは、自身の経済的苦境やシリアが破綻している事実にもかかわらず、ロシアが大量の軍用装備で同盟国を支援する能力があり、それを全くいとわないままであることを示している点でしょう。

 今回の新構想(注:大量供与)は本質的に組織化された形でのSyAAの再建を意味しており、シリア内戦の将来の展開に大規模な影響を及ぼすことは確実です。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年2月18日に投稿されたものです。
    当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
    正確な表現などについては、元記事をご一読願います。     

2017年1月17日火曜日

フォトレポート:シリア・アラブ陸軍(1)

著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)
 
以下の画像は、シリア四軍が参加した2012年の大規模演習を含む、過去数年間に実施されたシリア陸軍の演習を撮影したものである
この演習はシリアにおける治安状況がますます悪化している最中に実施され、国際社会からリビアに対するような介入の呼びかけにまで至った。
これに反応して、シリア軍は数日間の演習を実施し、外の世界へ強さを見せつけた。

シリアではT-82としても知られているT-72AVが、ダマスカス郊外県での演習中に見ることができた(写真)。
シリアでは、「T-82」群が対戦車ロケット(RPG)や対戦車ミサイル(ATGM)の大規模な拡散により大きく苦戦しているが、いまだにかなりの量が運用され続けている。
下の画像に見られるような、爆発反応装甲(ERA)ブロックの全てを装着した完全に無傷のT-72AVは今ではますます珍しい光景になった。


T-72AVと一緒に運用されているこの戦車はT-72 'ウラル'であり、これは内戦の開始前にシリアが得た最初のかつ最も量が少ないT-72の型である(写真)。
この戦車には訓練用のレーザー交戦装置が装備されている(写真)。
T-72 'ウラル'は、TPD-2-49ステレオ式測遠機が砲塔から突き出ており、サイドスカートも後の型がゴム製のサイドスカートであるのに対してヒレ型の装甲パネルを装備していることから、他のT-72のバリエーションと容易に識別できる。
 

2012年の演習にて標的を狙うM-46/130mm野砲の砲列(写真)。
いくらかの他種類の野砲が外国から届けられたり、内戦の間に保管状態から引き出されたとはいえ、130mmのM-46と122mmのD-30はシリア軍の主要な野砲のままである。
限られた数のM-46/130mm砲はその機動性と有効性の向上を目的としたプログラムの下、メルセデス・ベンツのトラックに搭載されている
そして、中国のBEE4/130mmロケット補助推進弾(RAP)がこのプラットフォームで使用するために特別に調達され、M-46/130mm砲の運用能力を大幅に向上させた。
これについて多数の砲の改修が計画されていたにもかかわらず、内戦の開始が本格的な生産の開始を妨げたことから、それに従ってこの車載型は比較的珍しいタイプのままとなっている。
 



























2010年の演習から、3台のT-55(A)MVと1台のBMP-1の車列が進行中の状況(写真)。
シリア軍の膨大な戦車及びBMP群はかつてはイスラエルが占領していたゴラン高原上において共同で運用される予定ではあったが、今では多くの車輌がシリアを平定すべく戦う様々な部隊や民兵に付随した運用をされている。
第4機甲師団及び共和国防衛隊の部隊だけが組織化されたやり方と、(時には)歩兵の支援を受けながらAFVを運用し続けている。
 

シリア軍のT-55(A)MV群は伝統的にゴラン高原沿いに集中して配置されていており、現在使用されているイスラエルの戦車と比べて旧式だが、それらの戦闘効率はT-72 'ウラル'およびT-72M1を上回ると主張できる。
T-55(A)MVは、コンタークト-1爆発反応装甲(ERA)、KTD-2レーザーレンジファインダー、スモークディスチャージャー、アップグレードされたエンジン、そして9M117Mバスチオン対戦車ミサイルを発射する能力を備えている。
いくつかタイプのミサイルはT-55自体の価格より高いため、内戦での使用例はシリアのクネイトラ県での作戦中でしか見られていない。



























間違いなく現在の戦場で最も恐れられているRPGである、RPG-29で兵士が照準を合わせている(写真)。
PG-29V/105mmタンデム弾頭はこれまでにシリア陸軍の戦車群、特にT-72に対して莫大な損失をもたらしている。
T-55(A)MV及びT-72AVの両方は、戦車自身の生存性を向上することをねらいとしたERAを装備しているが、これらのタンデム弾頭はそのような装甲に対抗するように特別に設計されているため、それを貫徹する際には問題にほとんど直面することはない。























現用のAK(M)と他の(外国の)派生型を大量のAK-74Mの調達で置き換える計画であったが、内戦がこの大規模な再装備プログラムを中断させた。
伝えられるところによれば、AK-74MはトライアルでイランのKH-2002を含むいくつかの他の競争相手と競合し、結果として後者が参加した10丁のうちの2丁以外全てが故障したという(注:事実上、AK-74Mがトライアルの勝者であることを示す)。
しかし、内戦が推移する間に、シリアは他の現代的なロシア製兵器と共にいくらかの新しいロットのAK-74Mの供給を受けた。
それでもなお、AK(M)-47やPKMといった武器は親アサドの軍隊の中では最も一般的な小火器であり続けている。

























作戦区域内を隊列を組んで進行するBMP-1歩兵戦闘車(写真)。
内戦中に大きな損失を被っているBMP-1は、シリアの至る所に広がる各派閥で運用されている姿を見ることができる。
この車両は多くのDIY改造のベースとして活用されており、BMP-1をベースにした多連装ロケット発射機でさえ、最近になって第4機甲師団で運用されている姿が目撃された。



























今日の戦場でT-34/85の実戦への再投入が期待されていたが、この伝説的な戦車のシリアにおける最近の目撃はわずか5件に限られたままとなっており、そのうち2件はT-34/85をD-30/122mm榴弾砲で武装したT-34/122mm自走榴弾砲に改修されたものであるが、これらは内戦のずっと以前に退役した。
他の2両のT-34/85はシリアのクネイトラ県において、そのままの姿でイスラエルに直面するトーチカとして配置・使用されている状態が見られた。
これらの戦車は、つい最近まで運用可能だったと思われる。
以下のT-34/85は、内戦の勃発直前に演習中に見られた(写真)。
T-34/85またはT-34/76について言えば、実際、全世界にわたりその優れた作戦能力で使用され続けてはいるが、今日に現存しているのはイエメンと北朝鮮に留まっている。



























2012年の演習におけるM-160/160mm迫撃砲(写真)。
内戦初期の段階で大量の使用されたことを見てみると、抗議と武装蜂起がまだ都市に限定されていたときに(内戦が拡大する前に)、これらと他の重迫撃砲は反乱を起こした地域の砲撃のために、たびたび都市郊外の周囲に配置された。
近年になって、シリア陸軍はM-160のほかにロケット弾発射体を搭載した追加のM-240/240mm迫撃砲が補充されたと考えられている。






最近の演習で、2両のBMP-1が敵の拠点に対する、AFVと歩兵と協同した襲撃を想定した訓練を実施している(写真)。
これは素晴らしい宣伝映像に役立つとはいえ、このように調整された襲撃は、今日の内戦では限られた数の親アサドの部隊だけによって(正確に)実行されている。
その反対陣営では、アル=ヌスラ戦線(最近になってレバント征服戦線と改名された)がアレッポのアサド政権が維持する領域を襲撃する際に、主にT-72とBMP-1での協同した運用を多用している。



























シリア陸軍の兵士達が、演習中にBMP-1の兵員室乗降部に向かって走っている(写真)。
画像の兵士は、現在のごちゃ混ぜした軍服や装備をした同軍兵士と比較すると相対的によい装備をしているようだ。
シリア陸軍は内戦の勃発直前にヘルメットや防弾ベストを含む中国で生産された戦闘装備を大量に取得したが、戦場での優位を獲得するためにますます多くの新兵が集まり始めると、簡単に在庫が尽きた。




























BM-21が、40連装122mmロケット弾のうちの1発を目標に向けて発射している(写真)。
BM-21は、シリア軍で最も多く運用されている多連装ロケット砲(MRL)である。
これまでにかなりの数の北朝鮮製BM-11/122mmMRLと一緒に運用されていた型は、以前にシリアが保管していたT-54及び古いT-55と共にレバノンへ供与された。
シリア軍は保有するボルケーノ(注:政権側のDIY的ロケット弾)及び220mm、300mm、302mmの多連装ロケットの数を増加し、質的な火力を相当に増加させることによって、BM-21の多数の損失をいくらか補償している。
シリア北部で行動している反政府勢力は、最近、とある湾岸諸国の1つによって東欧から得たBM-21を受け取り、シリアにおけるこのシステムの拡散をさらに促進させている。



























※ この編訳元の記事は、2016年11月に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが大きく異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。

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