2017年3月15日水曜日
暗闇からの一撃:イスラーム軍がイラン製「ゼルザル2」ロケットを放つ
著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)
ジャイシュ・アル・イスラム(イスラーム軍)は、2017年3月6日にアサド政権側に対して少なくとも2発のイラン製ゼルザル2ロケットを発射し、再び注目を集めた。
同組織は以前、2015年8月31日に東ゴータで実施された同組織への継続的な空爆に対する報復として、1発のゼルザル2を発射したものの、 過小報告のためにこの攻撃における標的と戦果は不明のままであった。
しかし、これは長射程のロケット弾を発射する武装勢力の脅威が非常に現実的なものであることを認識させた。
2017年3月の発射はここで観ることができる。
イスラーム軍によって「イスラーム5」と呼ばれるゼルザル2の最近の発射は、2015年8月に行われた際の目的と同様に、抑止と報復に役立つであろう。
実際、最初のゼルザル2の発射直前に、同組織のメンバーは以下の声明を読み上げた:「ダマスカス東部のカブーン地区及びティシュリーン地区はもちろん、東ゴータ地区の民間人に対する政権軍の攻撃への報復として、 カラモウン地区における我等イスラーム軍のロケット及び砲兵連隊は、政府の支配地域に対するミサイル攻撃作戦の開始を宣言した。」
ゼルザル2の最初の使用は、以前にはイスラーム軍がそのような洗練された兵器を所有していたことが知られていなかったため、多くの人々に大きな驚きを与えた。
確かに、これらのミサイルの鹵獲は反政府勢力の報道発表やビデオには紹介されていなかった。
イスラーム軍がイラン製ゼルザル2をどのようにして入手したのかについて、正確な話は不明のままではあるが、これらのロケット弾はシリアのカラモウン地域で、2013年に自由シリア軍の部隊によって捕獲されたと考えられており、その後、イスラーム軍に売却されたとみられている(その数は少なくとも計5発と考えられている)。
発射機自体は捕獲されていないと考えられていたことから、その後、イスラーム軍は独自の発射機を製造した。
この2回の発射の間にある1年半の間隔は、シリア内戦が推移する期間中におけるイスラーム軍の軍事資産に対する典型的な使用パターンを確信させる。
イスラーム軍は、入手した軍事資産を利用できるようになると、内戦でその「資産」を最大限に活用する代わりに、 主に抑止力としてそれらを配置しており、政府軍に彼らと東ゴータに対する軍事行動を再考させるように圧力をかけている。
この戦略はイスラーム軍が3台の9K33移動式地対空ミサイルシステム(注:SA-8「ゲッコー」)を使用したことで初めて明らかになっており、これらについては彼らが十分な数のミサイルを利用することが可能にもかかわらず、過去数年間にたった数回しか使用されていない 。
大量の標的が存在するにもかかわらず、最後の2回の発射までの約2年の間に発射が確認されたゼルザル2はなく、イスラーム軍は攻撃という本来の役割でこれらのシステムを常時運用することに気が進まないようである。
ゼルザル2は、1990年代にイランが独自に開発した610mm無誘導地対地ロケット弾であり、ヒズボラがこのシステムを保有してイスラエルの大部分を射程に収めたと報じられた後、それについて論争の対象となった。
ヒズボラがこれまでゼルザル2を保有していたかは不明のままであるが、レバノンで存在したという事実は考えられない。
そうしているうちに、イランはシリアにおいて、ゼルザル2及びファテフ110弾道ミサイルの組立ラインを開設していた。
このミサイルは2011年に実施されたロケット弾及びミサイルの射撃演習で初めて見られた。
同演習は国内の治安状況がますます悪化している中で、シリアの強さを外の世界に伝える目的で行われたものであった。
ゼルザル2はよく弾道ミサイルと混同されるが、実際には無誘導のロケット弾である。
同ロケットのCEP(Circular Error Probability:半数必中界)は今のところ不明ではあるが、スピン安定化された無誘導ロケット弾は精密誘導兵器ではないため、飛行場などの大きな対象を最適な標的とする。
ゼルザル2の600kgにもなる大重量の弾頭は、距離200kmあるいはそれ以上の広範囲に存在する目標を打撃する能力がある。
興味深いことに、シリアのロケット砲やミサイルは報復兵器として考えられており、これらにはシリアが被った外国勢力の手による軍事的敗北にちなんだ名称を意図的に付けられた。
その命名基準に基づき、ゼルザル2は、1920年にシリア・アラブ王国がフランス軍の手によって打ち破られた「マイサラムの戦い 」から引用した「マイサラム(Maysalun)」の名で呼ばれている。
ファテフ110は「ティシュリーン(Tishreen)」として呼ばれるようになり、これは同様にイスラエルに敗北を喫した10月戦争(第4次中東戦争)からの引用である。
同じように、スカッド・ミサイルはイスラエルが占領したゴラン高原に準拠して「ジャーラン(Joulan)」として呼ばれている。
シリア内戦の全体を通して、限られた数だけのゼルザル2とファテフ110が反政府勢力へ発射されたとみられている。
その代わりに、シリア軍は反政府勢力が掌握した村に対するソ連製R-17「スカッド」及び9M79(-1/ M) 「トーチカU」弾道ミサイルを大量に使用し、ほぼ例外なく民間人に死傷者をもたらした。
シリアは元々ストックしていた9M79Mミサイルを発射し尽したとみられており、ロシアが追加のミサイルを引き渡したと報じられている。
マイサラム(左)とティシュリーン(右)は下の画像で見ることができる。
これらの弾道ミサイルの存在意義にもかかわらず、ゼルザル2「マイサラム」とファテフ110「ティシュリーン」をシリア軍に導入して生産ラインを開設した点は、シリアをヒズボラの武器庫にするという、シリアとイラン間の協定の一部であったという事実によって特に注目された。
この協定での役割では、ヒズボラに向かうことになっている重火器の大部分は、シリアで待ち受けるイスラエルとの将来にわたる潜在的な衝突を抑止するであろう。
この重火器には、多連装ロケット砲や地対地ロケット弾、弾道ミサイルだけでなく対艦ミサイルも含まれる。
この特異な取引の理由は、レバノンでは、より大きな兵器システムを安全に保管し防護することができないためである。
そのような高価値目標が入っている建物は、地対空ミサイルシステム(SAM)の統合されたネットワークがなければ極めて脆弱であり、ヒズボラにはそれが欠けている。
シリアは、S-300PMU-2やブク-M2、ペチョラ-2M及びパーンツィリ-S1の計画的な導入で、防空部門ではるかに優れた能力を発揮し得ただろうと言われているが 最初の納入は延期され、最終的にはキャンセルされたとみられている。
この高密度の防空ミサイル網は、イスラエル空軍がこれらの兵器庫を標的とすることを阻止するはずであった。
しかし、現在までのところ、それらはイスラエル軍機による継続的な侵入や空爆に反撃することができていない。
この「協定」は、2006年のレバノン紛争時に、シリアの220mm多連装ロケット砲(MRL)及びカイバル1/302mmMRLがレバノンとの国境を越え、イスラエルの目標を打撃するためにレバノンの各地に配置されたときに初めて試された。
ヒズボラは、レバノンでこれらのMRLの隠密輸送と運用を担当していたが、シリア軍の第158ミサイル連隊もヒズボラと緊密に協力してカイバル1を運用したとみられている。
この紛争中に、少なくとも1基のカイバル1がイスラエル軍機によって撃破された。
シリアのMRLと弾道ミサイルのすべての車両が明るい色の民生用トラックに基づいている理由として、これらをレバノンへ大規模に展開できるという利点があり、レバノンの比較的発見されにくい場所に移動させてロケット弾を発射した直後に、素早く民間車輌に偽装することができる。
しかし、シリアの介入自体は、ヒズボラに武器と弾薬(9M133コルネットATGMを含む)を供給し、彼らのためにMRLを運用することよりも、はるかに進んでいたものと考えられている。
これらのシステムを運用する関係と同様に、この介入が、4人の乗員が死亡したイスラエルのサール5級コルベットである、INSハニトに対する攻撃の背後にある主犯と考えられている。
この艦には中国のC-802地対艦ミサイルかイランの派生型が命中しており、使用された発射機(ミサイルを含む)及び操作員はシリアから派遣された可能性が高い。
現在、イスラミック・ステートによって完全に影が薄くなっているが、内戦の過程におけるイスラーム軍の成果は劇的に他ならない。
他の反政府勢力でよく見られる歩兵と機甲戦力との間のお粗末な協調能力とは対照的に、彼らは単一の機械化部隊で両者を運用する最初の勢力であった。
また、以前にも言及したように、イスラーム軍は防空戦力を上手に維持する唯一の反政府勢力と言われている。
その上、彼らは2013年後半に、Kshesh(注:ジラー)空軍基地に本拠を置く独自の空軍を設立した。
彼らの空軍のL-39は、どれもが今までに作戦ソーティで飛行したことはないが、それ自体は可能であったことが判明している。
同様に、たとえどの程度の数のミサイルが兵器庫にあるのか不確かであったとしても、彼らは依然としてゼルザル2クラスの兵器を運用する唯一の反政府勢力のままである。
この不正確なロケット弾が実際には何かを破壊する見込みが無かったいう事実にもかかわらず、イスラーム軍からの継続的な砲撃による警告は軽く受け止めるべきではない。
彼らがその能力を有し、それをいとわずに継続するかどうかは未来だけが教えてくれるだろう。
※ この翻訳元の記事は、2017年3月6日に投稿されたものです。
当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
正確な表現などについては、元記事をご一読願います。
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