2021年8月26日木曜日

ヌロル・マキナ「エジデル 6×6」:トルコ初の装輪式装甲兵員輸送車



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 オマーンの不毛の砂漠からマレーシアの密林まで...現代では、トルコ製の装輪式装甲兵員輸送車は世界中で運用されています。

 トルコ製装甲兵員輸送車(APC)がこれらの国やバーレーンで活躍していることに加えて、現時点でほかの国々でも6x6や8x8の新型APCの調達を選定中であり、オトカ「ARMA」FNSS 「パース」がその有力な候補にしばしば挙げられています。

 それでも、トルコで初めて真に成功した装輪式APCのプロジェクトについては、それがトルコ製装輪式APCの最初の顧客であるジョージア(グルジア)へ輸出された事実があるにもかかわらず、多くの人に知られていないままです。

 それではヌロル・マキナ「エジデル 6x6」を詳しく紹介しましょう。

 トルコ語で龍を意味する「エジデル」は、これまでに世界7カ国で運用されている「エジデル・ヤルチュン」4x4 MRAPや、現時点ではカタールでのみ運用されている「NMS(ヨリュク)」4x4歩兵機動車(IMV)の製造でよく知られているヌロル・マキナ社が設計・製造しました。
 
 「エジデル」が最終的に具体化されるまでのプロセスはおそらくこの車両の最も興味深いものですが、本質的にはソ連のBTRシリーズを(非常に)漸進的に発展させたものです。

 1990年代初頭、ヌロル・マキナ社はルーマニアのROMARM社と共同で立ち上げたプロジェクト:「RN-94 6x6APC」(下の画像)の開発を通じて、防衛分野に初めて参入しました。後者はすでにAPCの設計に豊富な経験を持っており、特にソ連のBTR-60、70や80をベースにした「TAB」シリーズが有名です。

 最初の「RN-94」はまだルーマニアで製造されていましたが、2台目はすでにトルコで組み立てられており、その後にもう5台の試作車両の製造が続き、1999年までにさまざまなテストを受けました。

 「RN-94」には数種類の(砲塔タイプの)武器ステーションや、4発のマリュートカ対戦車誘導ミサイル(ATGM)を搭載することも可能でした。



 当初はトルコ国防省からの発注が予想されていましたが、軍内部からの要求が変化し、1999年までには、もはやトルコ陸軍で「RN-94」を導入する必要性がなくなってしまいました。

結局はバングラデシュがこの「RN-94」の唯一の顧客となり、2005年に救急車型のRN-94を9台購入しました。[1]

 「RN-94」の開発で得られた技術的なノウハウを活用したヌロル社による全く新しいAPCの開発がほぼ同時に開始され、そのプロジェクトの成果が最終的に「エジデル 6x6」となりました。[2]

 ROMARM社はRN-94プロジェクトから得られた経験を「Saur」シリーズのAPCに活かしましたが、結果としてどの車両も買い手がつきませんでした(注:ルーマニア軍自体はモワグ社製のピラーニャⅢを導入しています)。

        

 一方の隣国のジョージアでは、ミハイル・サーカシビリ大統領がアブハジアと南オセチアの分離独立地域に関してロシアと衝突する可能性を見越して、2004年以降、グルジア軍に最新の装備をさせるために巨額の資金を投入し始めました。
 
 この中にはイスラエルの「スパイダー」SAMLAR-160多連装ロケット砲、「ヘルメス450」UAVのみならずトルコの「コブラ」IMVも100台ほどが含まれていました。

 それにもかかわらず、2008年8月にロシア軍が侵攻を開始した際には、これらのシステムはその猛攻撃を止めることに少しも役に立ちませんでした。

 敗北した直後、ジョージアは12日間の戦争で損失した装備を補填し、将来の脅威に対処する能力を向上させるために、改めて軍の再装備を開始しました。

 この期間で導入された最も重要な装備が約72台のヌロル製「エジデル 6x6」APCであり、これはジョージア陸軍と内務省で使用されているBTR-70とBTR-80装輪式APCを補完し、後に置き換えるためのものでした。 [3]

 機動性の高い「エジデル」はジョージアの機動戦のドクトリンに非常に適しており、国産の「ディドゴリ」IMVと一緒に運用されています。




(重量が僅かに13トンを超過するBTR-80と比較すると)「エジデル 6x6」 TTZA (Taktik Tekerlekli Zırhlı Araç:戦術装輪式装甲車両 )の重量は18トンであり、舗装路での最高速度は110km/hで航続距離は約800kmです。[4]

 操舵については6x6のために前4輪だけがステアリングされる方式となっています。

 「エジデル」の車体は装甲板で構成されているため、小火器からの射撃や砲弾の破片に対して全方位的な防御力を備えています(より高度な防御力を実現するための増加装甲も装備可能ですが、ジョージアは導入していません)。[4]
 
 車体の底部はV字型であり、自体やIEDの爆風から2名の乗員と最大で10名の搭乗兵を保護します。

 (車体の両側面に3基ずつ装備されている)6基の発煙弾発射機は、使用すると自車の位置を一時的に隠すことができることから、追加的な防御手段としての機能を備えています。

 さらに、「エジデル」には車体後部に2基のウォータージェットが装備されているため、水上を時速9kmで推進することが可能です。[4]



 「エジデル 6x6」の武装はこのクラスのAPCとしては比較的標準的なものであり、遠隔操作式の7.62mmや12.7mm重機関銃、または40mm自動擲弾銃を装備しています(後者はジョージアで運用されている車両に装備されています)。また、「エジデル」は最大で口径90mmまでの砲を装備した、多種類にわたる遠隔操作式(砲塔型の)兵装ステーションも搭載することが可能です。

 (RN-94に搭載された砲塔と同型である)25mm機関砲を装備したフランスのドラガー砲塔を搭載した歩兵戦闘車(IFV)型も顧客(ジョージア?)に提案されましたが、受注されることはありませんでした。

 さらには偵察型、対戦車ミサイル搭載型、自走迫撃砲型、90mm砲を装備した火力支援車両型、救急車両型、指揮車両型、回収・工兵車両型を含むさまざまな派生型が開発されました。

 ヌロル・マキナ社は中東からの需要を予期してアラビアの砂漠で「エジデル 6x6」の試験を実施しましたが、結局はそれ以上の発注を受けることはありませんでした。その結果、今日ではジョージアがこのAPCの唯一の運用国となっています。




 「RN-94」と「エジデル 6x6」は最終的にトルコ軍に採用されませんでしたが、これらの開発から得られた経験は、オトカ「ARMA」、FNSS「パース」やBMC「ZMA」といった装輪式APCを生み出した新生トルコの防衛産業にほぼ確実に大きな恩恵をもたらしたことでしょう。
 
 今日では、トルコは陸軍と特殊作戦コマンド用に初の6x6 APCとしてFNSS「パースIII 」を受領する予定になっています。

 その一方でジョージアで運用されている「エジデル 6x6」は忘れられがちな存在ですが、決して能力が劣っているわけではありません。

 2009年に2隻のOnuk製「MRTP-33」警備艇がジョージア沿岸警備隊用に調達されたこと以外では、トルコからの大規模な武器調達は実現していません。

 それでもなお、ロシアの軍事行動の脅威が常にこの地域に迫っている中で、「バイラクタルTB2」のようなトルコ製の兵器がジョージア軍のウィッシュリストの上位に入っていることは間違いないでしょう。

 おそらくいつの日か、進化した兄弟たちが全ての始まりとなった車両:「エジデル 6x6」と一緒に活躍するかもしれません。
私たちの本の日本語版は9月3日に大日本絵画社様から発売予定です!

 ※  この翻訳元の記事は、2021年4月26日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
      正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


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