2026年8月3日月曜日

イスタンブールの ”肺" :アタテュルク国際空港国民公園


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年6月23日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 イスタンブールが多くの人の旅行先リストのトップに挙がるのは、何ら驚くことではありません。歴史的な名所から風情あるカフェやレストランまで、あらゆる趣向や予算に合わせた楽しみ方が見つかります。

 彼らは中心部に位置する数多くの観光名所を訪れる傾向が強いため、ほとんどの観光客はイスタンブール市民の日常生活を悩ませている2つの問題:交通渋滞と緑地の不足について知る機会はほとんどないでしょう。イスタンブールはヨーロッパで最も緑地の少ない都市であり、その総面積に占める割合はわずか2.2%に過ぎないのです(ちなみにヘルシンキの場合は40%)。実際、緑地がこれより少ない中東の都市はバグダッド、カイロ、ドバイ、リヤドくらいしかありません。[1] [2][3]

 2013年5月、イスタンブール大都市自治体が市内のタクシム・ゲジ公園を取り壊して(1940年まで同公園の敷地内にあった)オスマン帝国時代のハリル・パシャ砲兵兵舎のレプリカとショッピングモールを建設するという計画を発表した際、抗議活動が勃発し、やがて全国的な「2013年トルコ反政府運動」へと発展しました。この抗議活動の焦点は次第により多種多様な問題や懸念へと展開していったものの、抗議自体は、イスタンブール市民たちがこの都市に残っている僅かな緑地を戦わずに諦めるつもりはないことを示していたと言えます。

 逆に、アタテュルク国際空港国民公園のような新しい公園の建設に対しては、多くの野党から激しい反対の声が上がっています。


 1970年代以降、イスタンブールの人口は、郊外に建設された新しい工場が全国各地から労働者を呼び寄せたことで、急激に増加し始めました。

 人口が急増した結果、かつては郊外だった地域が急速にイスタンブール大都市圏に飲み込まれていったため、公営住宅の需要が高まったことは言うまでもないでしょう。イスタンブールの土地の大部分が超高密度の住宅地に割り当てられていたおかげで、公園や緑地の整備にはほとんど目が向けられませんでした。

 イスタンブールは緑豊かな森や公園に囲まれています。それにもかかわらず、そこを訪れるには長時間にわたる車での移動や、公共交通機関での乗り換えが何度も必要となっているのが実態です。

 イスタンブールを(少なくとも一部でも)市民に還元すべく、2019年にトルコ政府は(空港機能が新イスタンブール空港に移管された)旧イスタンブール・アタテュルク空港の敷地に広大な公園を整備する計画を発表しました。この公園整備計画は、1970年代以降のトルコにおける主要都市の大半に見られた無計画な都市開発の弊害の是正を目的とした、大規模な都市再生計画の一環として発案されました。[4][5]

 緑地の整備や拡張するために活用可能なスペースが限られているため、新しい公園は、かつて工場やその他の大規模施設の跡地に建設されることが一般的です。


 アタテュルク国際空港国民公園は、アタテュルク空港の2本の滑走路のうち1本の滑走路とその周辺に建設される予定となっています。この滑走路自体は、2020年初頭にイスタンブールのパンデミック対応病院の拠点として選定されたため、すでに使用不能となっていました。

 アスファルトの滑走路や誘導路の代わりに13万2500本以上の木の植樹が計画されており、これが実現すれば都市の気温上昇を抑える効果も見込めます。

 もう1本の滑走路は、特定の貨物便やプライベートジェット便、(テクノフェストを含む)航空ショー、(現在もここに小規模な訓練基地と博物館を設置している)空軍が利用するために今後も使用される予定です。


 この公園の建設計画が激しい政治的障害に直面しなければ、それはもはやトルコとは言えないでしょう。

 最大野党であるCHP:共和人民党のであるケマル・クルチダルオール(当時)代表は、この公園建設計画を「国家への裏切り行為」と非難し、責任者を追及すると脅したほか、建設を請け負う予定の企業に対しても警告を加えました。 [6]

 CHPは、すでに全運航が新イスタンブール国際空港に移管されているにもかかわらず、旧空港が依然として稼働中であること、1本の滑走路と貨物専用エプロンが(例えば大地震の際に救援物資を空輸するためなどに)引き続き使用されること、そして以前にクルチダルオール氏が同空港に公園を建設する自身の計画を発表していたことを理由に、今回の計画に反対しています。[6]

 以上の論点を除けば、かつてイスタンブールの国際空港として機能していたおかげで、車や既存の地下鉄M1A号線を利用して容易にアクセスできるためのインフラがすでに整っていることから、この公園の立地自体は大きなメリットがあると言えるでしょう。




 公園や緑地は、都市の住みやすさを向上させます。アタテュルク国際空港国民公園は、イスタンブールの慌ただしい都会の生活から逃れる、心地よい憩いの場となるでしょう。

 反対の声がないわけではありませんが、いつの日にか疲れ果てた旅人やこの都市の住民の誰もが、この安らぎと静けさに満ちた空間、イスタンブールの「緑の肺」をきっと心から楽しむようになるのではないでしょうか。


 編訳者による追記:結局、アタテュルク国際空港国民公園の建設は進んで2025年11月1日に開園した。同公園を管轄する、トルコ環境・都市化・気候変動省(MoEUCC)によると、遊歩道やサイクリングロード、スポーツフィールド、展示エリア、人民図書館、公園、プール、社会施設を備えているほか、展示ホール、ワークショップ、4つの炊き出し所、4つのレストラン、4つの市場、4つの図書館が入居する2つの複合施設も建てられたとのことだ。
 また、16万5千人以上を同時に収容できる災害避難所にもなるのが大きな特徴となっている。[7][8][9]

 以下の画像は開園セレモニー後にエルドアン大統領が投稿した動画から抜粋したものである。







  植樹されてから時間が経過していないこともあり、現時点ではイメージより緑が少ない「よく整備された公園」以上の感想が出てこない。しかしながら、こうした事業は年月の経過を待たないと成果が見えてこないのも事実である。今後も状況を注視していきたい。

[1] Discover Istanbul : The green city https://www.petitfute.co.uk/istanbul-the-green-city
[2] A view into Istanbul’s “greenness”: Istanbul Metropolitan Municipality Solid Waste Data https://towardsdatascience.com/a-view-into-istanbuls-greenness-istanbul-metropolitan-municipality-525ba89bb82a
[3] % of public green space (parks and gardens) http://www.worldcitiescultureforum.com/data/of-public-green-space-parks-and-gardens
[4] Ataturk Airport from a Global Airport to a Beach Park https://www.cctinvestments.com/ataturk-airport-from-a-global-airport-to-a-beach-park/
[5] 10 new parks open as Turkey seeks to make cities greener https://www.dailysabah.com/turkey/10-new-parks-open-as-turkey-seeks-to-make-cities-greener/news
[6] Istanbul’s old airport set to get green makeover amid opposition https://www.dailysabah.com/turkey/istanbul/istanbuls-old-airport-set-to-get-green-makeover-amid-opposition
[7] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün ziyarete açılıyor! https://turkinform.com.tr/ataturk-havalimani-millet-bahcesi-bugun-ziyarete-aciliyor
[8] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün açılıyor https://www.trthaber.com/haber/gundem/ataturk-havalimani-millet-bahcesi-bugun-aciliyor-924543.html
[9] Atatürk Havalimanı Millet Bahçesi bugün açılıyor.


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました

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