2025年2月1日土曜日

世界で最も醜悪な大統領専用機を見よ: ガンビアのエアフォース・ワン


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2022年12月24日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 私に投票する地域は発展させますが、私に投票しないのであれば...何も期待しないでいただきたい:ヤヒヤ・ジャメ 

 世界のトップリーダーたちが豪勢な外遊をすることを知らない人はいません。アメリカの 「エアフォース・ワン 」やカタール王室が所有する豪華なVIP専用機を見れば一目瞭然でしょう。こうした専用機はそれぞれ豪華さのレベルが異なるものの、一つだけ確かなことがあります: 世界の指導者たちはスタイリッシュな移動を好むということです。

 このことは、失脚したガンビア共和国のジャメ大統領を除く全世界のリーダーに言えると思います。と言うのも、ジャメ大統領は、「Il-62M」を含む(おそらく)世界で最も見栄えの悪い内装のVIP専用機を誇示していたからです。

 1970年代の内装を備えたソ連製のジェット旅客機が、自国の年金基金で購入したアフリカの独裁者のために、キューバから来た乗員によって整備され、飛んでいる: これが気にならない読者がいますか?。

 公式には「シャイフ・プロフェッサー・アルハジ・ドクター・ヤヒヤ・アブドゥル=アズィーズ・アワル・ジェムス・ジュンクング・ジャメ・ナーシル・ディーン・バビリ・マンサ閣下」と称されるヤヒヤ・ジャメは、軍の最高司令官にしてガンビアの神聖な憲法における最高責任者であり、1994年から2017年までガンビアを統治した人物です。より詳しく説明すると、最初は軍事政権の議長として、その後の1996年から2017年に失脚するまでは大統領の地位にありました。

 在任中、彼は(自身が作った薬で)HIV/エイズや喘息、さらには不妊症を治療できると豪語し、世界最貧国の一つである自国に世界最大級の高級車コレクションを築き上げたことで、国際的な悪名を轟かせました。

 同様に目立ったのは、一時は「IL-62M」が1機と「ボーイング727」が2機、さらにはボンバルディア・「チャレンジャー601」が1機あったジャメのVIP専用機群です。どの国の政府でも4機のVIP専用機を保有することは、すでに相当の負担が発生することは言うまでもありません。ガンビアの場合では、専用機で恩恵を受ける人間がヤヒヤ・ジャメ自身だけであることを考えると、なおさら贅沢と言えます。

 さらに深刻なのは、同国の国営航空会社であるガンビア国際航空が航空機を1機も保有していなかったために、運休を余儀なくされたことでしょう。状況がどれほど深刻だったのかについては、(正式に設立されなかった)ガンビア空軍でさえ、ジャメの便宜のためだけに運用され、1機の「Su-25」対地攻撃機と2機の「AT-602」農薬散布機は、パレードでの飛行やジャメの所有地を肥沃にするために使用される有り様だったことで察することができるはずです。この状態はジャメが個人的に「Su-25」のパイロットを解雇するまで続き、それ以後は同機の運用が放棄されてしまいました。 [1]

 人口が200万人弱のアフリカ大陸で最も小さな国であることから、4機のVIP専用ジェット機は国外への公式訪問時にしか飛ばすことができませんでした(1回に1機ずつの飛行自体が、明らかに4機も所有する必要性を自己否定していると言っても過言ではありません)。実際、ガンビアは国土が狭いため、ジャメは国内の移動でヘリコプターさえも使いませんでした。彼は宮殿から宮殿(そして故郷に建設した私設動物園)への移動に、自身が保有する膨大な車のコレクションを利用することを好んでいたのです。

 それでも、ムスリムの指導者にして(少なくとも2013年までは)台湾を国家承認していた世界でも数少ない国の大統領として、ジャメは長距離用の「Il-62M」を使って中東や台湾を頻繁に訪問しています。

 「チャレンジャー601」については、ショッピングを目的としたヨーロッパへのお忍び旅行を念頭に置いて購入されたものの、実際に使用されることは滅多にありませんでした。

2013年、東京国際空港(羽田)に着陸するジャメの「Il-62M」:機体の外観は間違いなく大統領専用機らしく見える

 ジャメ大統領が国家予算を大量に費やして、最新のロールスロイスやメルセデス、ハマー、ランドローバーでマイカーのコレクションを拡大している一方で、彼の飛行機は驚くほど古いものでした。

 彼が所有する2機の「ボーイング727」はそれぞれ1966年(C5-GAF)と1971年(C5-GOG)に製造されたものにもかかわらず、細心の注意が払われて良好な状態が維持されていました(フランスのペルピニャンで頻繁にオーバーホールが行われていたのです)。C5-GOGについては、2016年に新しいエンジンに換装されました。[2] [3] [4]

 G5-GAFは、以前にサウジアラビア王室用のプライベート機として使用されていたものであり、「チャレンジャー601」は1985年の製造で2010年にドイツ空軍から購入された機体です。[5]

 これらとは対照的に、ジャメが最初に所有した「Il-62M(C5-GNM)」は、ロシアの武器密輸業者であるヴィクトー・. バウトの協力を得て入手されたものでした。この機体が最終的にジャメのエアフォース・ワンとして使われるようになった経緯は、アフリカでダイヤモンドや武器の密輸に用いられる航空機には比較的よくあるものですが、実に興味をそそられる話です。

 1980年にアエロフロート用に製造されたこの機体は、1999年にセントラアフリカン・エアに登録されました。ところが、それ自体がヴィクトー・. バウトの密輸事業のための巧妙な隠れ蓑でした。[6]

 バウトはいくつかの航空機を中央アフリカ共和国に登録したわけですが、要は民間航空を管理するの腐敗した役人が彼の機体を登録(合法化)していたということです。[7]

 登録された直後、「Il-62M」はガンビアのニュー・ミレニアム・エアに譲渡されました。同社のCEOはガンビアの政治家であるババ・ジョベでした。つまり、会社とCEOは実質的にバウトの別の隠れ蓑と言える存在だったわけです。

 当時のヴィクトー・バウトは、『彼は母を殺し、父を殺した。でも、私は彼に投票する!』というスローガンを掲げてチャールズ・テイラーが選挙で勝利したばかりのリベリアから、ダイヤモンドと武器の密輸に深く関わっていたことで知られていました。

 しかし、この陰謀はすぐに国連安全保障理事会に気づかれてしまったことで、2001年にガンビア・ニュー・ミレニアム・エアと(そのCEOである)ババ・ジョベに制裁が科され、彼はガンビアで9年の刑期を宣告されるという結果で頓挫しました。[8]

 この出来事で「Il-62M」は所有者を失い、しばらくガンビア後で立ち往生することになります。所有者を失った4発エンジンの旅客機が自分の空港に放置されたら、あなたはどうしますか?そう、自分のものだと主張するのでしょう。まさにジャメはそうしたのです。

 彼には、この飛行機に全く馴染みがなかったわけではありません。 (まだセントラアフリカン・エアが正式に所有していた頃の)1999年12月、ジャメはガボンのリーブルヴィルへの公式訪問のために「Il-62M をチャーターしたことがあります。ここで彼は、乗ってきた飛行機の大きさについて、他ならぬ中央アフリカ共和国のアンジュ=フェリックス・パタッセ大統領から(本当に)褒められたわけですが、パタッセ自身は、これが(汚職役人のおかげで)自国に登録された機体であることを全く知らなかったようです。
[9]

 パタッセの褒め言葉はジャメを喜ばせたようで、彼は「ボーイング727」の代わりにこの機体を定期的に使用するようになりました。特に主要なイベントでの使用例としては、2003年の台湾への国賓訪問や2004年の国連総会でのニューヨーク訪問が挙げられます。[10] [11]

ジャメ大統領が使用していた最初の「Il-62M(C5-GNM)」:この機体は2000年代後半に退役するまでガンビア・ニュー・ミレニアム・エアの塗装で運航された

 アフリカ大陸で最も小さな国がアフリカ大陸で最大のVIP専用機を運航しているという皮肉をジャメは自覚していないわけではなかったようです。彼が大型機に対する賛辞を頭の片隅に置きながら、2000年代半ばに専用機の後継機探しを始めたのは間違いないでしょう。

 そして、彼は中古のエアバスで妥協するのではなく、実際にウズベキスタンから代わりの「IL-62M」を購入したのです!

 2005年にガンビアに到着した後にC5-RTGの登録を受けたこの機体は、1993年に組立ラインを離れたばかりの、末期に生産された「Il-62M」の1機でした。同機は完成後にウズベキスタン政府に引き渡され、2000年まで同国のVIP専用機として活躍したことで知られています。[12]

 C5-RTGが引き渡されると、最初の「Il-62M(C5-GNM)」は退役となり、現在でもバンジュール国際空港の廃棄物集積場に放置された状態で残っています

 新たに導入されたC5-RTGの運航については、キューバの国営航空会社であるクバーナ航空で同型機を操縦していたキューバ人の乗員に委託され、機体の整備が必要となった場合はキューバに空輸され、ハバナのホセ・マルティ国際空港にあるクバーナ航空の整備施設でオーバーホールを受けました

 しかしながら、この飛行機が正式に就航する前に、まずはシャイフ・プロフェッサー・アルハジ・ドクター・ヤヒヤ・ジャメ閣下の個人的なニーズに合わせて改造する必要があったことに言及しなければなりません。実際、彼は独特な要望を持っていたのです。面白いことに、その要望にはジャグジーや国家安全保障の問題を協議する会議室の設置ではなく、空港のターミナルから外してそのまま持ってきたようなマッサージチェアが含まれていました。その他の追加装備には、(1970年代風の装飾で飾られた)新しい座席エリアと、(いくつかの)DVDプレーヤー付きテレビモニターの設置が含まれています。

 彼の要望を受け入れて改装した結果、内装は1970年代風としか言いようがないものに仕上がるという、1993年に製造された機体としては驚くべき偉業が成し遂げられました。なお、この内装については、その後における同機の平穏無事なキャリアで更新されることはありませんでした。ちなみに、C5-RTGのコックピットはオリジナルの状態であり、未改修のままです。

 いずれにせよ、個人的な好みがどうであれ、ジャメの飛行機が独特だったことは否定できません!




 2017年のジャメ追放後、アダマ・バロウ大統領率いる新政権は資金難に陥っている国のために少なくとも1,000万ドル(約15億円)を集めようと期待を抱いて、即座に4機のVIP専用機と2機の「AT-602」農薬散布機、そして膨大な車のコレクションを売りに出しました。[13]

 ガンビアはもともと貧しい国ですが、ジャメが在位の最後の数日間を利用して、国庫を事実上ゼロにしたことがすぐに明らかとなりました(そのためにコレクションが売りに出された)。

 赤道ギニアへの亡命では高級車のほとんどを置き去りにせざるを得なかったジャメですが、在任最後の週に貨物機をレンタルしてお気に入りの車を空輸するという手段に出ました。しかも、辞任を可能な限り長引かせて一台でも多く空輸できるよう試みたのです。[14]

 ジャメがどのようにして贅沢な暮らしをする余裕があったのかという謎についても、その後すぐに明らかとなりました。大統領は国有企業の大部分から分け前を得ていた上に、自身の浪費を支えるためにジャメ平和財団が集めた資金を充てていたのでした。 [15]

ジャメが所有していた7台の「ハマーH2(SUT)」リムジンのうちの1台:彼はこれを持ち出すことができなかったため、新政権によって売りに出された

 VIP用ジェット機4機、農薬散布機2機、高級車約30台に1,000万ドルという目標額は、それほど多くないように感じるかもしれません。しかし、50年前のボーイング2機と、すでに商用(旅客)運航されていないソ連のジェット旅客機1機の相場を考えると、決して非現実的な金額ではないことには間違いないでしょう。

 そして、需要が無かったわけでもありません。事実、(他国で)最後に売りに出された「Il-62」が2012年に北朝鮮に渡ったことが確認されています。自国が抱える2機のVIP用機のスペアパーツの供給源とするために、北朝鮮は元クバーナ航空の「Il-62M」を調達したのです。[16]

 2019年に2機の「AT-602」の売却に成功した後、残ったボーイングと「Il-62」については、同年に国内外の複数の入札者を競り落としたガンビアの起業家に僅か50万ドルで売却されるという結果を迎えました。[17]

 ところが、この売却で「Il-62M」の当面の運命が少しも変わることはありませんでした。
というのも、この起業家は、すぐに別の利害関係者に売却する意図で飛行機を購入したからです。

 彼の計画は2021年にやっと実現しました。この年、「Il-62M」は貨物機としてベラルーシのラーダ・エアラインズに売却され、2021年8月にミンスクに到着したことが確認されています。[22]

 すでに2機の「Il-62M」を運用していた同社にとって、売りに出された機体が1993年と比較的新しいことが魅力的に感じたのでしょう。なお、「ボーイング727」は依然として売れ残っており、今でもバンジュール国際空港に放置されています。

2018年、バンジュール国際空港で埃まみれとなったジャメの「Il-62M(C5-RTG)」:再び飛行する日を迎えるまで、さらに3年を要した

バンジュール国際空港の駐機場における「ボーイング727」の1機:もう1機と共に4年以上もこの場所で放置されている

 ジャメと彼の飛行機の双方が、ほとんど読まれることのないマイナーな歴史年表に登場するようになれば、詐欺的な独裁者としての彼のレガシーは、自身の理解し難い趣味の悪さに関するエピソードと競い合うことになるでしょう。

 ガンビアの人々や世界中の老朽化したVIP用機は、「美とは見る人の目の中にある」という格言を具現化したような、国家どころかファッションの問題でさえ判断力に欠ける男の君臨した時代が終わったことを知って、ホッと胸をなで下ろしたのではないでしょうか。

判断力に欠けた男:ヤヒヤ・ジャメ

[1] African MiGs Volume 1: Angola to Ivory Coast https://www.harpia-publishing.com/galleries/AfrM1/index.html
[2] C5-GAF https://www.jetphotos.com/info/727-19252
[3] Registration Details For C5-GOG (Gambia Republic) 727-1H2 https://www.planelogger.com/Aircraft/Registration/C5-GOG/498390
[4] https://www.airplane-pictures.net/photo/739326/c5-gog-gambia-government-boeing-727-100/
[5] Registration Details For C5-AFT (Gambian Air Force) Challenger-601 https://www.planelogger.com/Aircraft/Registration/C5-AFT/540182
[6] Registration Details For C5-GNM (Gambia New Millenium Air) Il-62-M https://www.planelogger.com/Aircraft/Registration/C5-GNM/722468
[7] https://airlinehistory.co.uk/airline/centrafricain-airlines-centrafricaine/
[8] ACCORD – Austrian Centre for Country of Origin and Asylum Research and Documentation a-7674 (ACC-GMB-7674) https://www.ecoi.net/en/document/1264492.html
[9] Registration Details For TL-ACL (Centrafrican Airways) Il-62-M https://www.planelogger.com/Aircraft/Registration/TL-ACL/722467
[10] https://www.jetphotos.com/photo/166632
[11] https://www.jetphotos.com/photo/372347
[12] Registration Details For UK-86569 (Uzbekistan Gvmt) Ilyushin Il-62M https://www.planelogger.com/Aircraft/Registration/UK-86569/722819
[13] Gambia to sell off presidential planes https://standard.gm/gambia-to-sell-off-presidential-planes/
[14] Gambia Got Robbed: Jammeh’s Cars Being Loaded Into An Awaiting Cargo Plane - Photos https://www.gistmania.com/talk/topic,323209.0.html
[15] Exclusive: How money flowed to Gambia's ex president https://www.reuters.com/article/us-gambia-jammeh-idUSKBN16312M
[16] https://www.flickr.com/photos/tpeddle/8261940065/
[17] Gov’t disposes 3 Jammeh aircraft https://thepoint.gm/africa/gambia/headlines/govt-disposes-off-3-jammeh-aircrafts
[18] Republic of Gambia sells VIP Il-62M to Belarus https://www.ch-aviation.com/portal/news/106777-republic-of-gambia-sells-vip-il-62m-to-belarus

2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です

おすすめの記事

0 件のコメント:

コメントを投稿