2017年6月1日木曜日

新たな脅威?:イスラミック・ステートが放つ自爆ドローン


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は、2017年4月25日に「Oryx」ブログ本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります(注:本国版の記事はリンク切れで閲覧不可)。   
 
 モスルでの戦いは旧市街地での最も困難な争奪が依然として続いており、イスラミック・ステート(IS)支配下の最大都市を巡る激しい戦闘が7ヶ月目に突入しています。

 イラク軍との戦闘で、ISは多くのAFVや特殊部隊と航空支援を備えたより強力な相手に直面すると、都市の狭い通りでのVBIED(車両運搬式即席爆発装置)の大規模な使用を含む、この組織にとって既に特徴となった戦術を採用しました。

 モスルの戦いでは、(実績のある武器や戦術の使用とは別に)都市環境とISの戦い方に完全に適合した幾つかの「Made in Islamic State」の兵器システムが初公開されました。 ほぼ間違いなく最も適した好事例は新型の対戦車ロケット及び兵器化されたドローンの配備です。イラク軍が堅固に防備を固めたISから今までに都市の大部分を奪回したものの、この双方は使用が増加するにつれて広く公開されています。

 モスルからリリースされたISの最新動画の公開は、武器製造と都市における無人航空機及び無人車両に関するISの成果をより細かく披露しています。クルアーンの第29章の第69節を参照して名づけられた動画「我ら自らその手を引いて正しい道を歩ませよう」では、以前には見られなかった幾つかの兵器システムの組み立てと配備を映し出されていました。RPG、無反動砲、自家製対戦車ロケットランチャーの生産はすでに著しい発展を遂げているものの、 自爆型UAVと思われるものの実戦デビューはなおさらそうであり、これは都市部におけるイラク軍に対する、「自殺ドローン(人命が関与していないという意味での、やや不適当な名前)」として一般的によく知られています。

 この脅威は潜在力があるにもかかわらず、この動画では少ししか放送されていません。ただし、自殺ドローンの実戦デビューは、この新しいIS製武器の現時点における欠点を明らかにしています。  


 自爆型UAVは比較的新しいコンセプトであり、人間のオペレーターによるものか自律的に選択された目標を打撃する前に、この自爆機を標的空域へ飛行させることがです。この方法には事前に設定された標的に命中するようにプログラミングされた、従来の巡航ミサイルや誘導ロケットに比べていくつかの利点があります。
 
 もし、自爆型UAVが適切な目標を発見できなかった場合、自爆させるか(場合によっては)基地に戻ることさえできるため、運用において一層の柔軟性をもたらすでしょう。

 シリアにおいて、ISは自爆型UAVを主にデリゾールの包囲された市街地にいる政府軍に対して何度か投入したと以前に報告されています。しかし、問題になっているこのUAVが、単発のPG-7ロケット程のペイロードで政府側の地域に自ら突入することになっているのか、その代わりに実際にはこれらを投下するように設計されているのかは不明のままです。しかし、後者の方がより可能性が高いように思われます。

 運用可能な自爆型UAVを配備したのは、ISが最初ではありません。事実、このような兵器は既にアゼルバイジャン、イエメン、イスラエル、米国が紛争で使用しており、後者はシリアにも配備しています。このような「カミカゼドローン」のもう一つの運用国は北朝鮮であり、現時点ではこの種の兵器に関して最大の運用者と推測されています。

 もちろん、ISによって使用されている粗雑に組み立てられた奇妙な機械は、プロ級の兵器を生産する国々で使用されている現代的な兵器にはほとんど匹敵せず、その脅威に対処するには比較的困難ですが、テロリストを都市の外へ排除しようとしているイラク軍への絶え間ない妨害を大幅に増大させる可能性を有しています。

 ISによる「自殺ドローン」と思われる生産は、2017年3月にISからの文書のリークで初めて示唆されました。これらの文書は、 空対地ミサイルとして使用される20kgの爆薬を積載することが可能な多目的UAVの開発及び製造のための許可と財政支援を受けるため、チュニジアのドローン開発者であるアブ・ユスラ・アル・チュニジによる要求が詳細に記載されていました。

 ISの文書の要約(日本語訳)は以下のとおりです。

イスラミック・ステ-ト
ハラブ州
中央兵員局

(概要)

氏名: アブ・ユスラ・アルチュニジ 
年齢: 47
専門:飛行機及び航空学の分野で多少の知識を有し、動力用電気と電子工学を専攻。

関係者に対し、アバビル計画を提示する。
これは多目的UAVであり、以下の用途を含む。

1- 直径30kmにわたる地域の偵察
2- 20kg以上のペイロードを有する空対地ミサイルとして使用可能
3- 夜間または日中に1機以上のUAVを使用することで、敵の注意をそらすことに使用可能
4- 敵機の妨害

このプロジェクトには、以下の者から構成されるチームを必要とする:
- 電気機械の技術者
- ファイバーグラスの専門家
- CNCでの作業方法を知るAutoCADのエキスパート
- 金属工

このプロジェクトには約5,000USドルがかかり、完了に3ヶ月を要する。私が研究開発の部門で働いていたときに携わっていた試作機の写真を示す。

 このプロジェクトは原因不明の理由でストップしたようです。アブ・ユスラ・アル・チュニジが、彼のアバビル計画を継続するために許可と財政支援を受けたのかは不明ですが、 ISが公開した最新の動画で見られるドローンが、実際にアバビルである可能性は低いと思われます。

 彼はシリアのハラブ州(アレッポ県)におけるドローン開発の許可と財政支援だけではなく20kg以上の爆発物を想定したペイロードも要求したものの、これはモスルで見られたドローンに搭載するには重すぎたと見受けられます。


 ISが公開した動画では、ドローンの飛行(動画の8分43秒付近) は僅かに映されているだけですが、操作に関する興味深い詳細な描写を見せています。(ところどころダクトテープで結合された)金属フレームをベースにしたこのドローンは、ISによって生産された最大のものです。

 これまでに、ISは主にクアッドコプター、スカイウォーカーや様々な旧来のドローンが使用されてきました。彼らは何度か兵器化されたスカイウォーカーを披露しましたが、そのような改造型(自爆型)は作戦上使用されないと考えられます。

 リリースされた映像では、コントローラーを手にしたドローンのオペレーターが左側に立っている状況が映し出されていました。ただし、彼はドローンの離陸担当だっただけで、後にこのラジコンが内蔵カメラによって同機の飛行経路の画面を見る別のオペレーターへ引き継がれた可能性に注意する必要があります。

 この動画では、中身が半分ほど入った燃料タンク(注:機体中央部の透明なタンク)が見える、ドローンのはっきりとした姿が映し出されたにもかかわらず、搭載しているべき物体を見ることはできません。それが当時非武装であったのか、もしかすると搭載物がエンジンの付近に取り付けられていたことを意味するのかどうか、そのために発見するのが困難であるのかは不確かです。

 ドローンからの画面は、同機がM1エイブラムス戦車を含むイラク陸軍の車両と兵士の集結ポイントに向かって降下する前に、時速約110kmの速度でそれまでに約10分飛行した旨を表示しています。

 興味深いことに、この映像はドローンが突入する直前にカットされています。それは搭載された爆薬が起爆したことを暗示している一方で、実際には、もっぱら最後の瞬間に機体を急転換させたか、何も搭載しない状態で単純に墜落した可能性もあります。後者の場合、このドローンの目的は使用可能な兵器を実際に戦闘員に与えたというより、運用試験やプロパガンダでの使用を目的としてしていたのかもしれません。


 今日の世界で見られるドローンの急増によって、爆発物の輸送プラットホームとして無人航空機(UAV) を使用して西側の地域を攻撃するという状況が、真剣に受け止められるべき脅威となっています。

(自作ドローンの)粗雑で明らかに急造である特徴は、ISのような勢力のための遠隔制御兵器がどんどん開発され易いこの時代において、このような非対称戦術から軍隊を防護することがますます困難になるだろうという事実を和らげることにはなりません。


 自爆型UAVでイラク軍を攻撃するこの試みは成功する可能性が低いですが、その手法がいつか世界中における同様の紛争で幅広く効果的に使用される戦術となる可能性があるという脅威が増大しています。

 イラクにおけるISの時代は徐々に終わりが近づいていますが、シリアではより多くの驚きが待ち受けているのは確実であり、この紛争は予測不可能な方法で展開を継続し、将来戦われる戦争の手法が彼らの強い影響を受けることは間違いないでしょう。


おすすめの記事
※ クルアーンの翻訳については、次の書籍を参考にさせていただきました。
    井筒俊彦訳、「コーラン(中)」、岩波書店、1957年、265ページ

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