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2024年3月3日日曜日

ドローン・パワー構築への道のり:トルクメニスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 当記事は、2022年10月17日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 中央アジアは、必ずしも武装ドローンの保有国として知られているわけではありません。  
 カザフスタンとキルギスは現時点で少数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しており、後者は2021年末に無人機戦の時代に突入したばかりです(注:2022年9月に初めて実戦投入されました)。[1]

 ウズベキスタンは2018年にアメリカから得た数機の「RQ-11 "レイヴン"」という形で控えめな無人航空偵察戦力を保有している一方で、 最新のトレンドに合わせて無人兵器を増強している中央アジアの国が一つだけ存在します:トルクメニスタンです。
 
 過去10年間で、トルクメニスタンは中国、トルコ、イスラエル、イタリア、ベラルーシから何種類ものU(C)AVを導入して無人航空戦力を増強してきました。同時に、同国はいくつかのベラルーシ製UAVの生産ラインの設置も試みてきたものの、これまでに組み立てられたタイプは用途や能力が限定的なものでした。[2] 

 それでも、こうしたUAVの製造で得た経験をベースにトルクメニスタンがいつかベラルーシや他国の大型UAVをライセンス生産することは大いにあり得るでしょう。しかし、00年代後半にはそのような野望はまだ遠い夢でした。なぜならば、トルクメニスタンはその時点でUAVをほとんど運用していなかったからです。事実、1991年の独立後にソ連から引き継いだ大量の「La-17」無人標的機が唯一の無人航空システムだったのです。

 初の実用的なUAVを得るためにトルクメニスタンはイスラエルに関心を向け、「エアロノーティクス・ディフェンス」社の「オービター2B」と「エルビット」社の「スカイラーク」をそれぞれ調達するに至りました。両機種は現在でも現役での運用が続けられています。

空中に射出されたトルクメニスタン軍の「オービター2B」

 2009年には入札でロシアの「ザラ・エアロ」社がイギリスやイスラエルの企業を出し抜いたようであり、トルクメニスタンが内務省の対テロ作戦用にロシアから多数の「421-12」UAVを導入する段階にあると報道されました。[3]

 しかし、トルクメニスタンで(ほかのUAVが定期的に目撃されているにもかかわらず)このタイプの目撃例は一度もないため、この調達が実際に行われたのかどうかは判然としません。 

 2010年代初頭になると、トルクメニスタンはより大型で滞空時間の長いUAVの需要を満たすことも模索し始めました。ただし、同国はそれらをイスラエルから調達するのではなく、イタリアの「セレックスES」社と契約して3機の「ファルコXN」の導入に行き着いたのです。[4]

 2011年に納入された3機は、同国のUAV運用における中心的な拠点と化した首都アシガバート近郊のアク・テペ・ベズメイン空軍基地に常駐しています。[5]

  最大14時間の滞空時間を誇る「ファルコ」は、ほかの中央アジア諸国より何年も早くトルクメニスタンに真の無人偵察戦力をもたらしました。


 2013年には、トルクメニスタンにベラルーシ製UAVの工場を建設するプロジェクトに両国が合意したという驚きの発表がありました。[2] 

 そして同年に「無人航空機センター」の建設が始まり、2015年8月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)によって同施設が開所され、その式典で大統領が同センターで組み立てられる予定のUAVの1機種である「ブセル-M」にサインをしました。

 トルクメニスタンでは「アスダ・アスマン(穏やかな空)」と呼称されている「ブセル-M」は、今は「ブセル-M40」UAVと「ブセル-MB2」UCAVと共に同センターで生産されていることが知られています。[6]

 ここでは「ブセル-MB1」徘徊兵器の製造も推測されていますが、依然としてその事実は確認されていません。

 このセンターが設立される前には国内に防衛産業が皆無だったことを踏まえると、トルクメニスタンでUAVの生産ラインが立ち上げたことは特筆すべき偉業と言えるでしょう。

  最初のUAVの生産は2016年後半に開始される予定であったものの、若干の遅れが出ているようです。[6] 

 同年にはベラルーシから「ブレヴェストニク-MB」UCAVの供給に関する交渉が行われていることも発表されており、この機体も同センターで生産される可能性が高いと思われましたが、同システムをめぐる契約は最終的に実現には至りませんでした。[7] 

 2021年2月にベルディムハメドフ大統領が再び「UAVセンター」を視察した際に、おそらくより新しいシステムの生産に道を開くことになる同施設が生産能力を高めるための近代化が報じられました。[8]

グルバングル・ベルディムハメドフ大統領(当時)の横に展示されている、ライセンス生産された「ブセル-M40」及び「ブセル-MB2」UCAV

 2010年代半ばには、トルクメニスタンが中国から導入した計4種類のUAVの中で最初のものが納入されたことで、同国に無人機戦力は飛躍的に拡大するに至りました。

 これらの中国製無人機には、「CH-3A」や一風変わったジェット推進式の「WJ-600A/D」からなる同国初のUCAVも含まれていました。前者は射程10km程度の「AR-1」空対地ミサイル(AGM)を2発搭載可能であり、後者は射程20km以上の「CM-502KG」AGMを最大2発搭載することができるシステムです。

 中国から導入した他の2種類のUAVは「La-17」を更新する「S300」と「ASN-9」無人標的機であり、これらと市販されている多くのUAVによってトルクメニスタンにおける中国製ドローンの系譜が完成したのです。

「CH-3A」UCAV

「WJ-600A/D」UCAV

 一方で、トルクメニスタンはオーストリアから「DA-42MPP」有人偵察機を5機導入することによって偵察能力の拡充も図りました。

 これらについては、特に国境監視の任務用に導入したと思われます。トルクメニスタンは不安定なアフガニスタンと国境を804kmも接しているため、辺境における軍事的プレゼンスの向上に拍車をかけたのでしょう。

 その任務の直接的な結果のためか、「DA-42MPP」は同国で運用されている航空機の中で最もキャッチされにくい機種となっています。

 「DA-42MPP」は機首直下に前方監視型赤外線装置(FLIR)を搭載しているほか、13時間にも及ぶ飛行可能時間は同機を国境沿いの監視任務にも最適なものにしています。

 2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードでは同国が保有する全ての「DA-42MPP」が編隊飛行を披露した

 過去に「CH-3A」と「WJ-600A/D」を導入したことで、トルクメニスタンは論理的に考えると中国のUCAVシリーズの次のシステム(「CH-4B」または「翼竜」シリーズ)の運用者となるはずでしたが、この国はより多くのUCAVを導入するためにトルコへ目を向けました。

 トルクメニスタン空軍が中国の「CH-3A」や「WJ-600A/D」UCAVの運用中に技術的な問題に出くわし、結果的にトルコから「バイラクタルTB2」をより費用対効果の高い代替機として調達したことも考えられなくもありません。
 
 トルクメニスタンのTB2には「ウェスカム」製 「MX-15D」や「アセルサン」製「CATS」ではなくドイツの「ヘンゾルト」社が製造した「アルゴス-II HDT」 EO/IR・FLIRシステムが装備されており、最大で4発の「MAM-L」または「MAM-C」誘導爆弾が搭載可能となっているようです。[11]

 また、同国のTB2は、機体上部に配置された対妨害装置と思われるデバイスや夜間運用のための2基目の尾部搭載カメラの搭載など、以前のバージョンと比べて多くの改良が加えられています。 


 トルクメニスタンは歴史的に中国やイタリアU(C)AVを首都アシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地で運用してきましたが、「バイラクタルTB2」はUAVの運用を念頭に置いて新たに建設された空軍基地を拠点にするようです。 

 アシガバートの北に位置するこの小さな空軍基地は、2021年2月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領がこの地を訪れた際にはまだ建設中でした。

 「無人航空機センター」に隣接している同基地は(この類のものでは)この地域では初めてのものであり、トルクメニスタンがUAVとその効果的な運用に高い価値を置いていることを明確に示しています。

「UAVセンター」に隣接する空軍基地の完成予想図

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争後、トルクメニスタンは再び無人機部隊に全く新しい戦力の導入を試みました。[12]

 その結果は、イスラエルから「スカイストライカー」徘徊兵器の導入という形で明らかとなりました。これは2020年の戦争でアゼルバイジャンがアルメニア軍部隊や装甲車両、防御陣地に使用して大きな効果を発揮したことで知られている無人兵器の1つです。

 トルクメニスタンは「バイラクタルTB2」と「スカイストライカー」の導入を通じて、44日間の戦争で決定的となったアゼルバイジャンが持つ無人機の攻撃能力を忠実に再現しようとしているようです。また、トルクメニスタン海軍のコルベット「デニズ・ハン」で運用される「スキャンイーグル2」無人偵察機も導入することで、増強されつつある戦力がさらに拡大しました。

発射台に載せられたトルクメニスタン軍の「スカイストライカー」徘徊兵器

コルベット「デニズ・ハン」に搭載されている「スキャンイーグル2」

 ここではトルクメニスタンが保有する全UAVの一覧を紹介します(各機体名をクリックすると、トルクメニスタンで運用中の当該UAVの画像を見ることができます)。※記事はまだ下に続きます。


無人偵察機

無人戦闘航空機

徘徊兵器
  • エルビット「スカイストライカー」 [2021]
  •  国家統一企業「ベラルーシ国立科学アカデミー・多目的無人システム科学・生産センター」「ブセル-MB1」 (複数の情報源で言及されるも、未確認)

垂直離着陸型無人機

 トルクメニスタンは敵の無人機が自国に対して使用される可能性があるという脅威について、それらの運用を無力化または妨害することを目的とした数種類の攻撃型およびパッシブ型の対UAVシステムの導入によって対処することを模索しています。これには携帯式の対ドローン銃から長射程の地対空ミサイル(SAM)システム、さらには高度な妨害システムまでの、あらゆるものが含まれているようです。

 トルクメニスタン軍は膨大な数の現代的なSAMシステムを運用しています。[13]

  いくつかの対UAVシステムは「無人航空機センター」で製造されており、これまでに内務省やほかの政府庁舎に設置されています。[8]


「UAVセンター」で展示されている各種の対ドローン・レーダーや電子光学装置

 また、トルクメニスタンの電子戦(EW)戦力には、多数の(ドイツの)「ローデ・シュワルツ」社製通信妨害システムも含まれています。この非常に高度なシステムは、特定のドローンとそのオペレーター間の通信をキャッチして妨害することが可能です。

 このトラックベースのシステムは、通常の無線通信システムと最新の周波数ホッピング方式のシステムの両方を高いホッピングレートで妨害することを可能にする、広帯域の検出器と励磁器を組み合わせたものです。 [14] 


 中国やトルコのUCAVやイスラエルの徘徊兵器の導入により、トルクメニスタンはこの地域における無人機大国となりました。カザフスタンは中国の「翼竜Ⅰ」を4機運用し、最近ではトルコから「トルコ航空通産業(TAI)」製「アンカ」を3機調達しましたが、その地位が動くことはなさそうです。

 トルクメニスタンが頻繁に新しい武器や装備に投資してきたことを踏まえると、軍がどんな敵に対しても優位を確保できるようにするために無人機の戦力をさらに向上させることが考えられます。この国の無人機飛行隊への将来的な追加装備には、イスラエルの「ヘルメス900」「ベイラクタル・アクンジュ」のようなUCAVが含まれる可能性があります。

 このようなタイプのUCAVを導入するならば、監視、シギント、妨害及びEW関連装備、スタンドオフ兵器の運用能力など、現在保有する有人機にない能力を空軍にもたらすことができるのです。

「バイラクタル・アクンジュ」UCAV

[1] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[2] Belarus To Manufacture Drones In Turkmenistan https://eurasianet.org/belarus-to-manufacture-drones-in-turkmenistan
[3] Zala Aero To Deliver UAVs To Ministry of Internal Affairs of Turkmenistan https://www.shephardmedia.com/news/uv-online/zala-aero-to-deliver-uavs-to-ministry-of/
[4] Berdimuhamedow’s Birds Of Prey: The Italian Falco XN UAV In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/Berdimuhamedow-birds-of-prey-italian.html
[5] L’export armato italiano ai regimi dell’ex URSS Intervista a Giorgio Beretta https://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/L-export-armato-italiano-ai-regimi-dell-ex-URSS-Intervista-a-Giorgio-Beretta-b0a850b2-32fd-457e-b715-9f43da2b047e.html?refresh_ce
[6] Президент Бердымухамедов осмотрел центр по производству беспилотников https://www.hronikatm.com/2021/02/uav-production/
[7] Белоруссия начала поставку беспилотников в Туркменистан https://www.hronikatm.com/2016/07/belorussiya-nachala-postavku-bespilotnikov-v-turkmenistan/
[8] The President of Turkmenistan inspects the activity of the Center of unmanned aerial vehicles https://tdh.gov.tm/en/post/26063/president-turkmenistan-inspects-activity-center-unmanned-aerial-vehicles
[9] The Last Of Many - Turkmenistan’s CH-3A UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-last-of-many-turkmenistans-ch-3a.html
[10] Turkmenistan’s Freak UCAV: The WJ-600A/D https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkmenistans-freak-ucav-wj-600ad.html
[11] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[12] Replicating Success: Turkmenistan’s Arsenal Of Israeli SkyStriker Loitering Munitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/replicating-success-turkmenistans.html
[13] Including the FD-2000, KS-1A, FM-90, Pechora-2M and the S-125-2BM.
[14] Electronic Warfare https://www.rohde-schwarz.com/fi/solutions/aerospace-defense-security/defense/signal-intelligence-electronic-warfare/electronic-warfare/electronic-warfare-overview_233140.html

2024年2月23日金曜日

脅威の共通と努力の不平等: ベルギーによるNATO防衛の「ただ乗り」的手法


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

※  この翻訳元の記事は、2023年9月20日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 防衛費が相対的に少ないため、ベルギーは往々にしてNATOの厄介者とみなされる傾向があります。この国の他のNATO加盟国や自国の安全保障に対する「ただ乗り」的手法については、2014年に当時のエリオ・ディルポ首相が2024年までに国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てる意向を表明したことに加え、8年後の2022年にもアレクサンダー・デ・クロー首相が同じ意向を宣言したものの、その達成時期が2035年と11年遅れとなったという事実がよく物語っていると言えるでしょう。[1]

 ロシア・ウクライナ戦争が続く最中でさえ、ベルギーにおける2023年の防衛予算は2022年比で僅か0.01%増しかないGDPの1.19%にとどまっているのです。実際、この国の防衛費の対GDP比はNATO内でルクセンブルクに次いで2番目に低いものとなっています。[2][3]

 ベルギーは防衛予算が相対的に少ないだけではなく、戦力の面でも投資に対する見返りが驚くほど僅かな恩恵しかもたらされていません。この投資と見返りの大きな差については、ベルギーの防衛費をデンマークなどの他国と比較すると一目瞭然です。ベルギーの人口はデンマークの2倍で防衛費も1.5倍近くあるにもかかわらず、後者の方がより充実して装備された軍を有しています。[4]

 さらに悪いことに、ベルギーは(相互運用性を向上させるための)近隣諸国との地上部隊の統合化には全く取り組んでいません。フランスの装甲戦闘車両を大量に調達しているにもかかわらず、フランス軍との部隊統合に関する具体的な計画が欠落していることは注目に値します。これとは反対にオランダは自国の陸軍をドイツ陸軍と完全に統合しており、これは両軍が保有する装備が同一ではないにもかかわらず達成された偉業と言っても過言ではありません。

 ベルギー軍を苦しめている重要な課題は、とりわけ自国内における軍への認識不足が挙げられます。長い年月をかけて、ベルギー軍は若者の教育機関としての役割を担うようになり、防衛費を地域の産業へ流すルートとしての役割を果たすようになってしまいました。

 国防というベルギー軍の主要任務から焦点をそらすという現在進行形の傾向は、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相を筆頭とする現ベルギー政府によってさらに悪化しつつあります。最近の例としては、防衛プロジェクトに予定されていた1億ユーロ(約158億円)をベルギー人宇宙飛行士を宇宙へ送り出すために欧州宇宙機関(ESA)に転用したり、ベルギーがいまだに「F-35」初号機の納入を待っているという状況にもかかわらず、フランスとスペインの将来戦闘航空システム(FCAS)における潜在的な協力に3億6,000万ユーロ(約570億円)を投資した決定が含まれています。[5]

 現在のベルギーが抱える防空戦力の欠如を考慮すると、こうした投資はより不可解なものとなります。ベルギーには旧式あるいは有効性を欠いた防空システムはありません...そもそも地上ベースの防空システム自体が存在しなくなってしまったです。このおかげで、ベルギーはルクセンブルクと(軍隊を保有していない)アイスランドと並ぶ、防空システムを持たないNATO加盟国の3か国となってしまいました。

 この異例の状況は長年にわたるお粗末な戦略的判断と予算不足の産物であり、ベルギー軍は少数の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)を運用する余裕すらないほどまで蝕まれてしまいました。MANPADSが退役させられた2017年以降、陸軍は地上ベースの防空システムを保有していない状態に陥ったままです。

 最近になってベルギー国防省は防空戦力の再建プランを公表しましたが、この計画の実現は最低でも2030年までかかるでしょう。[6]

MANPADSは比較的安価であるために世界中のほぼ全ての国に配備されているが、ベルギー陸軍にとってMANPADSを継続的に運用することはコストが高すぎることが判明し、2017年に後継の導入なしで退役させることに至った:2023年にはこれらのシステムが1個小隊に装備され、同部隊が2030年までの暫定的な防空能力を提供する予定だ。[7]

 2022年2月に明らかとなったベルギーの防衛構想は、「STAR(安全保障、技術、野心、復活)」計画として具現化されました。この戦略的な青写真は、戦力強化のために102億ユーロ(約1.6兆円)を投資し、2030年までに防衛予算をGDPの1.54%へ引き上げることを骨子としています。[8]

 公約したにせよ、上記の約束を具体的な投資に結びつけるには切迫感が欠けているように思えます。特筆すべきは、重砲を保有していないNATO加盟国4か国に含まれるベルギーが地上部隊への火力支援として現在14門のフランスの「LG1」105mm牽引式榴弾砲に依存していることでしょう(ベルギー以外で重砲を保有していないのはアルバニア、ルクセンブルク、アイスランドの3か国)。

 これらを更新するため、2022年に「カエサル」トラック搭載式砲兵システム(自走砲)9門をフランスに発注しました。ただし、ベルギーはすでに生産されている「カエサル」の派生型を導入するのではなく、まだ開発段階にある「カエサル "6x6"」を選択したのです。その結果として、この国は最初のシステムの引き渡しを受けるために2027年まで待たなければならなくなってしまいました。[9]

 これと比較すると、デンマークが2023年3月にイスラエルから19門の「ATMOS 2000」自走砲を調達してから最初のシステムが納入されるまでの期間は、たった5か月でした。[10]

 ロシアのウクライナ侵攻に触発されたことは一目瞭然ですが、後でベルギーは「カエサル "6x6" NG」自走砲の将来的な調達数を9門から28門に引き上げました。ただし、ベルギー政府はまだ19門を追加調達するための資金を計上していないため、契約は結ばれていません。[11]

 「カエサル "6x6" NG」を(将来的に)28門導入することは、とりわけベルギーの基準からすれば著しい戦力強化のように思えますが、28両の装輪式SPGを導入したところでベルギーがNATO加盟国内で最も弱い砲兵戦力を持つ一国としての立場には変化をもたらすことはないでしょう。

 全「カエサル」部隊の運用可能状態への移行と乗員が訓練を受けるのに必要な期間を考慮すると、(戦力化には)おそらく2030年代前半までかかる可能性が高いと思われます。28門の装輪式自走砲という質素な導入に端を発した訓練と戦力化に至るプロセスは、実に10年以上にも及ぶものになると思われます。

 これも比較してみると、ポーランドは韓国に「K9」自走砲24門を発注して6か月余りで成功裏に納入を終えました。[12]

ベルギーは砲兵戦力を強化することになったものの、それでもNATO加盟国の中では最も脆弱な砲兵戦力を持つ一国のままだ:画像は「カエサル "6x6" NG」で、9門が発注された。

 軍事力の強化を追い求めるベルギー陸軍は、数多くの試練に直面しています。まず、数十年にも及び予算不足の結果に対処する必要がありますが、こうした結果を是正する責務を負った官庁は、そうしたことに心から関心を示しているようには見えません。

 次に、ベルギーは過去数十年の間に下された数々の理解しがたい調達の結果に今なお苦心しています。その中でも、陸軍の「ピラーニャIIC DF90」火力支援車の導入は特筆すべき事例です。

 フラホート元国防相の在任中(1999年〜2007年)に調達された「ピラーニャIIC DF90」は、老朽化した「レオパルド1A5BE」戦車の後継装備です。この調達プロセスについては、当初から奇妙な点がありました。最も顕著だったのは、フラホートが他のNATO加盟国では採用されていない90mm砲をこのAFVの主砲に選択したことです。

 戦車や強度がある構造物のような標的に対する砲の有効性(またはその欠如)についても懸念が浮上したことに加えて、90mm砲を製造できる工場はたった1つしかなく、必要な弾薬の需要を満たす工場も同様に1つしかないことも判明しました。この状況を受け、ベルギー財務省は2005年に2度にわたって調達の承認を取り消しました。[12]

 それにもかかわらず、最終的にフラホートの思い通りとなり、2006年に「ピラーニャIIC DF90」40台の発注に成功したのでした。

 2007年12月にフラホートの後任としてピーター・デクレム(現2025年大阪・関西万博のベルギー政府代表)が国防相に就任した時点で18台はすでに契約済みとなっていたものの、彼は残りの22台の発注を即座にキャンセルしました。[13]

 同時期に、ベルギー陸軍はこの「ピラーニャ」を少なくとも20年間は運用する必要があることを悟り、買い手側として深い後悔の念に襲われたようです。この後、陸軍はより適切な代替装備を望みながら、すでに受領済みの18台を売りに出しました。[13]

 ベルギー陸軍にとって残念なことに売り込みは関心を持つ顧客を引き寄せることに失敗したことから、自軍の部隊に最低限の火力支援を提供するため、最終的に18台を受け入れざるを得なくなったのでした。

 まだ「ピラーニャIIC DF90」の話には続きがあります。この話が以上で終わったと思い込んでいた人は驚くのではないでしょうか。

 90mm砲の性能に関して提起された懸念は、対戦車用の砲弾を使用した場合の能力不足にありました。こうした砲弾が入手可能になったとき、なんと「ピラーニャIIC DF90」はそれを発射できないことが判明したのです。この問題に対処するための10年にわたる苦闘の末、2019年にベルギー陸軍はこれ以上解決策を試す価値はないとの結論を下しました。[13]

 現在でも、「ピラーニャIIC DF90」は対戦車能力を有していない状態のままです。この悲劇がもたらした財政的影響は相当なものであり、車両の調達費だけで7,000万ユーロ(約111億円)、さらに弾薬に500万ユーロ(約7.9億円)を超える費用が費やされました...おまけに、砲弾の一部は対象となるピラーニャの90mm砲自体と互換性がなかったことをここに記しておきます。

 近年、32台の「ピラーニャIIC DF30」に各2基の「スパイク-MR」対戦車ミサイルを装備させることを通じて対戦車能力の不足を軽減する試みが部分的に実施されました。しかしながら、この措置はベルギー陸軍の火力支援能力の不足を是正するには依然として不十分のままです。

「ピラーニャIIC DF90」は、過去数十年にわたってベルギー軍が調達した中でも多くの物議を醸した装備だ。

 この "ピラーニャ・サーガ" は独立した一つの事件ではありません:むしろ、1980年代以来のベルギーにおける防衛調達を悩ませてきた特有の決定と腐敗で構成された長い歴史の中の一章に過ぎないのです。

 歴史的に見ると、ベルギーにおける防衛調達は、政党が防衛企業からの賄賂を通して資金を捻出するための手段とみなされていました。この問題に対処するため、ベルギーでは1990年代に、政党が(防衛)企業から賄賂を受け取ることを阻止する目的で、選挙の結果に基づいて政府が政党に補助金を交付するという法律が施行されました。[14]

 過去の汚職スキャンダルに巻き込まれた政治家の多くが裁かれることがなかったのは、汚職の程度があまりにも広範囲にまん延していたためであり、政権与党が汚職の調査を実施すれば、必然的に自陣営内における防衛関連の汚職も摘発されることになってしまうからです。[14]

 汚職のおかげで主要な防衛関連の契約は頻繁に多額の賄賂を喜んで提供する企業に与えられ、その結果として、ベルギー軍は標準以下の装備で妥協せざるを得なくなった事例がもたらされました。こういった汚職のスキャンダルはほとんど過去の遺物となったものの、ベルギー政府には、装備の質に基づくのではなく、政治的な便宜の獲得や近隣諸国と融和するために装備を調達する傾向が根強く残っているように見受けられます。

 この現象は大半のヨーロッパ諸国で一般的なものですが、ベルギーの調達活動におけるその割合は著しく高いようです。これら全ての要因の集大成が「大砲の射程距離よりも短い」と一部で評されている長期調達戦略を生み出し、その結果として生じた調達決定における数々の失敗は「百科事典サイズの失策事例集」と評されています。[14]

 大きな失策の一つとしては、2019年に3,100万ユーロ(約49億円)をかけて実施された、「パンドゥール」情報・監視・目標捕捉及び偵察(ISTAR)車38台に対するSLEP/ELU(就役期間延長プログラム/寿命延長アップグレード)があります。この事例では、アップグレード完了後に、内部の追加装備と装甲によって、5人の乗員のうち4人が身長1.70メートル以上あると運用できないことが判明しました。[15]

  「パンドゥール」38台の乗員が同AFVと装備された偵察機器を操作するために特別な訓練を受けていたことを考えると、彼らと(男性の平均身長が1.81メートルのこの国で)身長が1.70メートル以下の約150人の新兵と入れ替えることは当然ながら不可能な仕事であり、特に人手不足が深刻な時代には余計に無理な話です。

 驚くべきことに、(この状況にもかかわらず)これがベルギー軍によって提示された解決策となったのでした。[15]

 また、アップグレード後にブレーキシステムにさらなる問題が浮上しました。2007年にベルギー軍の「パンドゥール」がブレーキの問題でレバノンの渓谷に転落し、3人の兵士が死亡してしまったので、これは特に悲劇的なものだったと言えます。[15]

 軍が最終的にどのような方法でこの問題を解決したのかについて、正確なことはまだわかっていません。

 もっとも、SLEP/ELUを実施した企業は「パンドゥール」を運用可能な状態に戻すために何度も調整を行う必要があったと推測されます...このシナリオはベルギー国防省のより適切な監督が行き届いていれば防げたかもしれません。

SLEP/ELUを受けた「パンドゥール」の運転席:内部の改修によって、身長1.70メートル以上の乗員5人のうち4人が支障なく車両を操作することが不可能となった。これは画像でも一目瞭然であり、運転手の脚部がステアリングホイールに押しつけられている。

 間違いなく最も重大な戦略面と調達面での失策は、ベルギーが陸軍から重火器を排除するという決断を下したことでしょう。これによって2008年には最後の「M109」自走榴弾砲(SPG)が、2014年には「レオパルド1」戦車が退役させられたのです。この決定は2000年代半ばのフラホート国防相の在任中に下されたものであり、その主な動機は「装輪式AFVの方が装軌式AFVよりも運用コストが安い」という財政的な都合によるものでした。ところが、ベルギー政府はこの計画を適切に処理するために必要な資金を確保さえしなかったのです。
 
 一方で、大急ぎで装軌式AFVの退役を進めて64台の「M109」自走榴弾砲を改修した直後に段階的に退役させるという途方もない予算の無駄遣いをしました。他方で、ベルギーは装輪式装甲車に更新するための投資を渋っているため、今でも装軌式装甲回収車と自走架橋柱の運用を続けています。

 AFVの装軌式から装輪式への完全移行については、この計画が構想されてからほぼ25年後の2030年代初頭まで実現しないと予想されているのです!

 2000年代初頭まで、ベルギーは「AIFV-B-C25」歩兵戦闘車(IFV)及び 「AIFV」装甲兵員輸送車(APC)、「M109A4BE」自走榴弾砲を装備する2個機械化旅団によって支援された「レオパルド1A5BE」戦車隊を運用していました。さらに、「CV(R)T」(装軌式装甲偵察車型及びAPC型)を装備する部隊もありました。

 2000年代初頭になると「CV(R)T」が最初に退役し、続いて「AIFV」のIFV型とAPC型も「ピラーニャIIC」に更新されました。その後、「M109A4BE」自走榴弾砲は高価な近代化改修を受けたばかりであったにもかかわらず、(後継のとなる新装備が未導入の状態で)退役に追いやられてしまいました。

(前述のとおり) 「ピラーニャIIC DF90」は発注した40台のうち18台しか配備されなかったほか、対戦車能力も欠いていたため、結局のところ「レオパルド1A5BE」戦車は2014年まで運用されたのでした。

 デンマーク、オランダ、フランスなどの諸国が、保有兵器の中で装輪式AFVの比率を高めながらも少数の装軌式AFVを維持している現状とは対照的に、ベルギーが全装軌式AFVを装輪式AFVに更新するという試みは間違いなく杜撰であり、おまけに実行もお粗末なものだったと言えるでしょう。

64台の「M109」が完全に改修・アップグレードされた後、フラホート国防相はベルギーの防衛企業であるFTS社に(予備部品を含めて)これらを1台1.5万ユーロ(約235万円)という破格の低価格で売り払ってしまった。

 現在の陸軍に残存している機甲戦力は、大規模な1個中型旅団に集中配備されている装輪式AFVの寄せ集めしかありません。その規模にもかかわらず、この旅団は防空戦力が皆無である上に、射程が僅か14kmの105mm牽引式榴弾砲14門のみに火力支援を依存しているのです。装輪式車両の保有状況は装軌式が中核を占めていた時代より改善されたとは口が裂けても言い難く、意図した役割に適したとは言えない数々の種類の車両の寄せ集めとなっています。

 2017年、後継装備を求めるベルギーはフランスの「スコーピオン計画」に参加し、60台の「EBRC "ジャグア"」装輪式偵察車と382台の「VBMR "グリフォン"」装輪式APCを発注するに至りました。それら自体は非常に高性能な車両ではありますが、実際に旅団の火力を強化することには少しも貢献しません(それでも、システム・ネットワーク面で大幅な改善をもたらしますが)。

 NATOでは重武装・重装甲の装軌式AFVの需要が高まっており、ウクライナでは装輪式AFVに対する優位性が改めて証明されたにもかかわらず、ベルギーはアイスランドとルクセンブルクと並んで装軌式AFVを運用しないNATO加盟国の一つになることが決まっています。繰り返しになりますが、アイスランドは軍隊を保有しておらず、ルクセンブルクは人口が30万人強しかいない国です。

 おそらく世間一般に信じられているのとは逆に、装軌式AFVの再導入については、それ自体を有効なものにするために必ずしも大量の数を必要とはしません。デンマークの場合を例に挙げると、現時点で44台の「レオパルド2A7」戦車、同じく44台の「CV9035DK」IFV、そして約20台の装軌式の支援車両を運用しています。

 こうした小規模なAFV群の有用性に疑問を抱く人もいるかもしれませんが、これによって中型旅団を大型旅団に改編させることが可能となり、戦争中に他のNATO加盟国の支援に依存する必要なしに、より幅広い目標に対処する能力を向上することができるのです。

 それでも、ベルギーが装軌式AFVを導入する可能性は極めて低いままです。その主な理由は、ベルギーの国防計画に染み付いた優柔不断さとビジョンの欠如、そしてベルギー政府によって計上される予算の不足にあります。実際、戦略と調達における意思決定のペースは非常に鈍く、ベルギーはまるでロシアによるウクライナ侵攻がなかったかのように装備を整えている印象を与えています。

「EBRC "ジャグア"」装甲偵察車(左)と「VBMR "グリフォン"」装甲兵員輸送車(右)は、ベルギー陸軍の中核AFVとなる予定だ。

 ベルギー陸軍は中型旅団に加えて、特殊作戦連隊も保有しています。ところが、ベルギー陸軍もSTAR計画の双方はNATOの東側(注:ロシア)に重点を置くよりも、アフリカでの紛争に関連する通常任務のためにこれらの部隊を訓練し、装備することを想定しているのです。

 その具体例としては、すでに運用されている7機の輸送機を増強するための、特殊部隊の任務に特化した輸送機と大型輸送ヘリコプター各8機の調達計画が挙げられます。[8]

 このような能力の保有は有益なことである一方で、防空システムを保有していない国の特殊作戦に仕立てられた部隊が、現在のNATOが優先しているニーズに合致しているかどうかは疑問視せざるを得ません。最大8機の「CH-47」大型輸送ヘリコプターを導入することは説得力のある話ですが、さらに同数の輸送機を導入するとなると、ベルギーは装軌式AFVや多連装ロケット砲が不足しているのに(VIP機を除いて)4種類もの輸送機を保有することになってしまいます。

 このような事例は、ベルギー国防総省が現在進行形のグローバルな動きに追いつくのに苦労しており、最優先事項とNATOが必要とする事柄との大きなズレに直面していることを示しているようです。

 実際、現在のドゥドンデ国防相のリーダーシップは誤った最優先事項との関わりを深めつつあります。ベルギーがまだ19台の「カエサル」155mm自走榴弾砲の追加契約を結んでおらず、防空能力を欠き、財政上の制約から弾薬不足に苦しんでいる一方で、デドンデ国防相はフランスとスペインの将来戦闘航空システム(FCAS)への3.6億ユーロ(約5,750億円)の投資を僅か2週間で押し通すことに成功したのです。[16]

 2000年代初頭にF-35計画への不参加を選択したベルギーは、自国企業が計画で得ることができるはずだった利益を取り逃がしてしまいました。これもまた、フラホート前国防相の近視眼的な判断によるものだったと言えます。

 こうした事情を踏まえると、早い段階からFCAS計画に参加することは合理的であるように見えますが、FCAS自体は2040年代以降にフランスの「ラファール」とスペインの「タイフーン」の後継機として開発されるものであるにもかかわらず、現在のベルギーは(結局導入を決めた)「F-35」が2060年代まで運用されることを想定していることを見落としてはいけません。

 ベルギーが最も基礎的な軍備への投資すら渋っていることを考慮すると、FCASを調達する可能性と2040年代に2つの異なるタイプの戦闘機を運用することは極めて現実離れしたものであるため、(FCAS計画の参加は)完全に無用と言えます。つまり、ベルギーがFCAS計画に産業面で関与することによって本当に利益を得るのであれば、有用な出資と言えるでしょう。

 フランスの企業は、ベルギーが2018年に「ラファール」ではなく「F-35」を選択したことに対して今でも恨みを抱いています。NATOの核共有制度の一環としてベルギーのクライネ=ブローゲル空軍基地に約20発ほど配備されている「B61」核爆弾の搭載が不可能だったこともあり、「ラファール」が有力候補だったにもかかわらず、実質的に選ばれる余地はありませんでした。

 FCAS計画を主導する仏ダッソー社のCEOは、同計画におけるベルギーの産業面での協力の可能性に言及する際、曖昧さの余地を残すことなく次のように述べました:"私は、この計画にさらなる「F-35」保有国を加えることを理解できません。「F-35」を選んだ人たちのために、どうして私の工場や設計事務所に彼らの場所を作らなければならないのでしょうか?人々は、私たちがすぐにベルギー企業へ仕事を与えることができると口にしています...ノン、仮にそれが私に課されるのであれば、私は戦うでしょう。今日、ベルギー人に仕事を与える理由が私には理解できないのです。'' [17]

 結局のところ、ベルギーは調達する見込みどころか産業面での(大幅な)参加も得られないかもしれない戦闘機計画に参加するために、3億6,000万ユーロ(約570億円)を割り当てたのです。

ベルギーは2060年代まで運用が計画されている34機の「F-35」の初号機の納入に先立って、2040年代以降に運用予定の第2のステルス戦闘機計画への参加をすでに公約している。

 これらの投資を特に不可解なものにしているのは、近い将来に戦争が勃発した際に、ベルギーの兵士たちが、防空戦力や十分な弾薬のみならず14kmという絶望的に短い射程距離を超えた位置にいる地上目標と交戦する手段すら存在しないという自軍の装備の不十分さに直面するであろうという現実です。

 それにもかかわらず、この現状がベルギーの兵士に適切な装備を与えるという役目を担っているドゥドンデ国防相に、(おそらく)ベルギー経済の活性化とベルギー人宇宙飛行士の宇宙飛行に防衛費から4億6000万ユーロ(約730億円)という莫大な金額を流用することを止めることはありませんでした。

 こうしたベルギー兵の福利に対する明らかな関心の欠如については、深刻に懸念すべきものとしか言いようがありません。

 同様に懸念されるのは、ベルギー国内において、こうした事実...とりわけ自国の兵士たちが自衛のための最も基本的な装備すら無いまま武力紛争に突入するという見通し...に対する国民の激しい反発が目に見えてこないことです。もし国家が兵士の扱いで評価されるのであれば、ベルギーは恥じて顔を下に向けるべきでしょう。

 必要不可欠な軍備の欠如に加えて、ベルギー軍は深刻な人員不足に直面しています。この問題は必要不可欠な軍事力の不足という問題と並んで徴兵制の廃止や保留を図った西欧諸国に影響を及ぼしており、ベルギーは現役兵の40%近くが2020年代初頭に定年を迎えるという別の課題に直面しています。[18]

 より多くの人材を集めるための努力は、こうした人手不足に対処することにまだ成功していません。2023年9月には、パイロットと特殊部隊の採用基準を引き下げたほどです。[19]

 こうした人手不足の問題に対処することは、ベルギーにとって最優先事項です。それゆえに、ドゥドンデ国防相がベルギー陸軍に教育機関としての役割を与えたことは実に不可解なと言えます。[20]

 2023年、ドゥドンデは軍に対して、チームワークとスポーツに重点を置いた6か月のプログラムに失業中の若者200人を第一グループとして参加させるよう命じました。このメンバーは軍事訓練を受けるどころか、軍の一員になることもありません:単に軍から教育だけを受けることになるのです。

 ドゥドンデによると、"若く、未熟で、資格を持たない人々に就職市場へ参加する機会を提供するのが軍の社会的役割" とのことです。これについては、まさに軍の役割ではないという主張も成り立つでしょう。それどころか、他のNATO諸国と比較した場合における人手不足と戦力ギャップという背景を考慮すると、 ベルギー陸軍の任務に教育機関としての役割を組み込もうとするドゥドンデの試みが根本的に誤っていると断定せざるを得ません。


 防衛の責務から逃れようとしているベルギーは、NATOを極度にむしばんでいます。大多数のNATO加盟国はGDPの2%を防衛費に充てるよう努力していますが、ベルギーはこのスケジュールを2035年まで故意に引き延ばしているように見えるのです。

 この国は2020年代後半までにウクライナが安定した状態に戻ることを見込んでいるようです。おそらく、このような状況になれば、ベルギーが2%の公約を履行しなくても何とか許容されるのではないかと期待しているのでしょう。

 ベルギーをNATOから追放するための議論を展開することは可能ですが、そのような結果がもたらされることは非現実的であり、同盟にとっても最善の利益とはなりません。とはいえ、ベルギーがNATOからの自主的な脱退を選択することに利点を見いだせるかどうかは、検討する価値があります。

 ベルギーが自国の経済と人口に相応しい戦力の提供を怠ることで(意図せずとも)NATOの弱体化を着実に試みていることや、そして2%という基準を満たすことに渋っていることを踏まえると、この国の外交・防衛政策がもはやNATOの政策と足並みをそろえていないことが次第に明らかとなっています。

 NATOの本部がベルギーにあることを考えると、なぜ彼らがベルギーに対してより強い圧力をかけないのかと疑問に思う人がいるかもしれません。何よりもまず、ベルギーは協定を結ぶのが非常に困難な国です。なぜならば、この国には政府が1つではなく6つもあるからです(注:ベルギーには連邦政府が1つ、地方政府が5つがある)。

 第二に、ほかの国々がまだ2%の基準を達成していない限り、そうでない一国を批判したり、対策を講じたりする可能性はありません(注:ベルギーだけを特別に非難することはできないということです)。

 第三に、ベルギーが代替の利かないニッチな能力を提示することで戦力不足の深刻さを重要視されにくいという、巧妙なアプローチを採用していると疑う理由もあります。この一例として、ベルギーは将来的に2隻のフリゲートに弾道弾迎撃ミサイルの装備を熱望しています。[21]

 現時点でMANPADSすら欠いているベルギーにとって、これはあまりにも野心的に思えるかもしれませんが、この国は僅かな数のミサイルを調達するだけで高度な能力を獲得することができ、それによって他のほとんどの加盟国が有していない能力をNATOに提示することができるわけです。

ベルギーが宇宙空間で弾道ミサイルを迎撃する能力を保有したいと切望していることは、特にこの国が陸軍を6年間も防空戦力なしに放置していた状況を考えれば非常に驚異的である。

 ベルギーのNATO防衛に関する「ただ乗り」的手法は、ほかの国々にも影響を及ぼしています。オランダとベルギーの海軍は緊密な協力関係にあり、統一された指揮の下で活動していますが、それは艦艇の共同調達にまで及んでいます。
 
 2010年代には、ベルギーが掃海艦の更新プロジェクトを監督して、オランダが「M」級フリゲートの更新計画を担当することが決定されました。この選択は本来オランダが望んだものではなく、防衛資器材機関内の人員不足のために必要となったものでした。その後、ベルギーが入札業者を選んだ結果、(オランダ海軍での試験で不調を発揮した)機雷除去関連装置を含めた全産業部門の参画がフランスかベルギー企業に移ることになってしまいました。[22]

 しかし、それだけではありません。オランダが主導する「M」級フリゲートの更新計画では両国が2隻ずつのフリゲートの調達を要求されていましたが、ベルギーが初期費用超過後に計画用の予算増額を嫌がったため、規模を縮小せざるを得なかったのです。この状況はオランダ海軍が好むよりも小型の設計案を提示するに至りましたが、ベルギーにとってはこれでもコストが高すぎることが判明したため、1隻だけをフル装備にして、もう1隻は後日装備(FFBNW)とする計画にせざるを得なくなりました。[23]

 最終的に、オランダは艦の設計を元の(より大きな)仕様に戻すことを選択しました。ところが、ベルギー政府は同時期に軍事費を増額したものの、フリゲートのために追加予算を割り当てることを拒否したのです。[23]

 2023年6月、計画変更に伴うコスト上昇を相殺してフリゲートの更新計画を進めるため、オランダはベルギー企業に3億5,500万ユーロ(約563億円)を投資する決定を下しました。[24] もう割り勘はしません。

オランダの新型対潜フリゲート:ベルギー海軍が「M」級フリゲート2隻の後継として同数を取得する予定だ。

 ベルギーの基本的な義務の不履行については、ウクライナへの軍事支援にも及んでいます。支援不足を秘匿しようとするベルギーは永久に続くかのような言い訳を並べ立て、さらには真っ赤な嘘すらつくという手段に訴えてきました。この恥ずべきショーの大部分は2022年8月に投稿した記事で紹介しましたが、それ以降に起こった出来事の一部を再検討することは有意義なものと言えます。[25]

 以前に先述の記事で紹介したとおり、ベルギーは2000年代(と1990年代)にほぼ全ての重火器を段階的に退役させました。これらは一部が外国のバイヤーに売却されたものの、ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻した時点で、大半はベルギーの倉庫に保管されたままでした。ただし、これらの倉庫はベルギー陸軍ではなく、民間の防衛企業のものです。

 ほかの多くの国とは異なり、ベルギーは妥当なバイヤーが見つかるまでの保管費用の負担を避けるため、退役した装備をほぼスクラップ同然の価値で迅速に防衛企業へ売却したのです。

 2008年に完全にリファビッシュと改修を終えた「M109」SPGを、ベルギー政府は「フランダース・テクニカル・サプライ(FTS)」社に1台15,000ユーロ(約240万円)という破格の値段で売却しました。 「M109」は潜在的なバイヤーへのアピールを高める目的で回収が施されたわけですが、1台あたり僅か15,000ユーロで売却されたことは私たちをさらに混乱させます。[26][27]

 2022年4月にベルギー政府が(2016年にインドネシアに売却されずに残った)28台の「M109」の一部を買い戻そうとした際、「FTS」社は1台につき、政府が数年前に売却した価格の10倍以上の販売価格を提示したとのことです。[26]

 売却時からコスト面で大きく後退したとはいえ、15万ドルという価格であれば、これらは非常に安価と言えます。

 2022年5月にベルギー政府が「FTS」社と「M109」の価格について最終交渉を試みたところ、同社からすでに別の相手に売却されたと告げられましたが、後にイギリスが介入して、ベルギーに提示された同じ価格で自走砲を購入したことが判明したのです。[26]

 ウクライナ軍が「M109A4BE」のような砲兵戦力を緊急に要していたことを考慮すると、売却時の10倍という法外な対価を支払うのを嫌ったと言う(完全な自業自得の)理由で契約を結ばなかったベルギー政府の危機感の欠如は、実に情けないとしか言いようがありません。

 おそらくさらに不名誉だったのは、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相の反応である。彼は、"取引は決裂したものの、最も肝心なことは今やウクライナがベルギーの「M109」を得たことです "と言い張ったのです。[28]

 ベルギー政府にとって幸運だったのは、30台以上の「レオパルド1A5BE」戦車とウクライナが大いに必要としている38台の「ゲパルト」自走対空砲、そしてベルギーの(民間)防衛企業の倉庫で未だに保管されている多数の「AIFV」や「M113」APCを獲得することで償う機会を得たことでしょう。

 今さら驚くことではないかもしれませんが、ベルギーは一度スクラップ同然で売却した装備に現在の市場価格を支払う意志がないとして、これらの買取を断固として拒否しています。価格の上昇は法外に思えるかもしれませんが、基本的に、これらの防衛企業はこれらの装備について、何年も、ときには何十年にもわたって保管・維持することで生じる追加費用を含めた時価に基づいて価格設定しているのです。

 それ以来、この装備の大部分は別のNATO諸国、特に(自身の責任を果たすために力を入れている)イギリスによって購入されました。

 ベルギーは最終的にウクライナ向けに40台の「M113」を調達したわけですが、これはオランダとルクセンブルグとの共同で購入したものにすぎず、総額は僅か1,200万ユーロ(約19億円)でした。しかも、ベルギーはこれらの車両を自国企業から調達したのではありません:イタリア企業から購入したのです。[29]

 防衛企業からの装備品調達を断固として拒否する実態を隠そうとしたベルギー国防省は、装備品の買い戻しができない理由を説明するため、真っ赤な嘘をつくという手段に訴えました。

 その特筆すべき事例が、ベルギーの防衛企業である「OIPランド・システムズ」社が所有している38台の「ゲパルト」自走対空砲(SPAAG)です。[30]

 これらが依然として (ウクライナのために)調達されていないのはなぜかというジャーナリストの質問に対して、国防省の報道官は、ベルギーは運用状態に戻すために全力を尽くしたものの、結果的に成功しなかったのだと回答しました。[30]

 この報道官は記者の調査能力を過小評価していたようですが、記者はすぐに「ゲパルト」を所有する企業に連絡を取って説明を求めました。この質問に対して、「OIP」社はそれらを運用状態に戻すことに何も支障がないことを明言しました:ベルギーは「ゲパルト」1台あたり200万ユーロ(約3.2億円)という市場価格の支払いに応じることを嫌ったというのです。[30]

 こうした事例は、ベルギー国防省が装備の不買を決定した理由について、真摯な説明をするよりも(むしろ)嘘をつくことを選択したという印象を裏付けたと言えるでしょう。ジャーナリストたちが所有者である企業説明を求めて嘘を暴く可能性を無視したことは、ベルギー国防省の広報部門が未熟でプロ意識に著しく欠けていることを示しています。

ベルギー「OIP」社の施設に保管されている数十台もの「レオパルド1A5BE」戦車、「ベルゲパンツァー2」装甲回収車、「レオパルド1」ベースの操縦手訓練車、「AIFV-B-C25 IFV」、「M113」APC:ベルギー国防省は実に残念がりながら、これらの購入を拒否した。最終的に30台の「レオパルド1A5BE」がドイツに、数量不明なるも「AIFV-B-C25」 IFVも詳細不明の第三者によって調達された。

OIP社の倉庫にある旧ベルギー軍の「ゲパルトB2/B2L」: これらは1台につき約200万ユーロで再び運用できるようになるものであり、すでにウクライナに配備されている「ゲパルト」より性能が高くないにせよ、ロシアのヘリコプターに対抗する効果的な手段として機能するシステムを同国に提供することができる。[31]

 この状態については、ベルギーが国内および海外の防衛企業からの装備品の調達を控えていることを暗に意味するものではありません。2023年9月には、ベルギー国防省がウクライナ用にドイツから8発(!)の「RIM-7」艦対空ミサイル(1発の価格は7,000ユーロ:約111万円)を調達するというプレスリリースを公表しています。[32]

 同じ頃、デンマークは、2022年2月以来すでにウクライナに提供されている15億ユーロ(約2,380億円)相当の軍事支援に加えて、2023年と2024年にかけて24億5,000万ユーロ(約3,890億円)相当の新たな軍事支援を発表しました。デンマークによるウクライナへの軍事支援には、すでに85台の戦車と54台のAPC、24台のSPGが含まれているほか、間もなく19機の「F-16」戦闘機も加わる予定です。[33] [34] 

 これに対して、ベルギーによるウクライナへの軍事支援は3億ユーロ(約476億円)弱相当にもかかわらず、同国政府はウクライナへの軍事支援について、"ウクライナ軍を支援するためにできることは全部やった" と説明しています。[35]

  ウクライナに対するベルギーの支援は著しく不足している一方、この国による突出した貢献は間もなく納入される1億1100万ユーロ(約176億円)相当の「FN MAG」汎用機関銃であり、この寄贈については、2022年2月以降に提供されたベルギーの軍事支援の半分近くに相当します。ただし、これには重要な補足事項があります:オランダが運用する「ASWF」級フリゲート計画のコスト高騰による3億5500万ユーロ(約564億円)の補償パッケージの一部として、この寄贈に関する全コストがオランダによって負担されるということです。[24] 

 ベルギーが6つの異なる政府によって治められており、それが意思決定を妨げているのだという意見もあるかもしれません。しかし、ベルギーがさまざまな防衛企業と交渉して、ドイツから1発7,000ユーロのミサイルを購入することに良心の呵責を感じないという事実は、この問題が主に必要とされる資金の配分をベルギーが渋っていることに関連しています。

 ベルギーが豊富に持つべき資金について: ベルギーは他国にはない資産を保有しています。というのも、ブリュッセルのユーロクリア銀行に蓄えられているロシアの資産から利息を徴収しているのです。2022年だけで、ベルギーは同銀行のロシア資産から8億2,100万ユーロ(約1,300億円)もの利息を得ました。[36] 

ベルギーによるウクライナへの最大の軍事支援は、オランダが全額出資した「FN MAG」汎用機関銃である。

 ベルギーがウクライナに「F-16」を供与できない背景にある理由について言及すると、当初、国防省は十分な量の「F-35」が納入されるまでは自国の作戦上の必要性から「F-16」が不可欠であると主張し、自国が同型機をもはや必要としなくなる時には完全にボロボロになっているからだと述べました。[36]

 それに加えて、ミシェル・ホフマン参謀長によれば、ベルギーはウクライナに追加的な軍事支援を提供する前に、弾薬とインフラ面における自国の不備に対処することを優先する必要があるとのことです。[37]

 ベルギーの防衛予算とウクライナに割り当てられた資金が実際には別の財源であるという本質的な違いは別として、 弾薬とインフラの不備を認めることは、ベルギー人宇宙飛行士とFCAS計画に4億6,000万ユーロ(約730億円)への投資を、許しがたいは言わないまでも一層ややこしいものにしています。

 ミシェル・ホフマンの主張から2週間足らずで浮上した調査は、ベルギーが実際にウクライナへ「F-16」を供与できる可能性があることを示唆していますが、ベルギー国防省由来の嘘とペテンの一貫したパターンを考えれば、驚くべきことではないのかもしれません。[38]

 実際、これら全ての物語に一貫するテーマは、ベルギーがウクライナへの軍事支援で期待されるレベルに達していないだけでなく、解決策を模索せずに言い訳に訴えているように見えます。

 アメリカに発注した「F-35」の迅速な引き渡しを求めたり、(オランダがすでに送った全装備品に対して行っているように)8,000時間を超えた「F-16」がウクライナに到着した時点でベルギーは責任を負わないという条件で送ったり、あるいは「F-16」を予備部品や技術的用途の資機材、あるいは囮として提供するなどの選択肢を探ったりする代わりに、ベルギーはウクライナを支援できるような解決策を追求することに気乗りしないようです。

 2022年にウクライナがオランダに「YPR-765」APCの供与を要望したとき、オランダ陸軍はこの旧式化したAPCの戦場における有用性を思い描くことに苦労しました。それでもウクライナは関心を示し、結果的に196台が寄贈されました。[39]

 興味深いことに、ベルギーはウクライナが必要としているものについて、ウクライナ自身よりも強い確信を抱いているようです。もしウクライナが旧式の「F-16」の渇望を表明しするならば、これらの戦闘機がウクライナにとって全く役にも立たないとベルギーの誰が断言できるというのでしょうか?問題の根本的な動機は、ベルギーが戦闘機の供与に消極的だという姿勢にあるようです。

 上述した全ての事実を考慮すると、ウクライナに提供する意思のある支援の範囲を明確にして国民に明確に伝えることは、ベルギーにとって極めて重要だと思われます。ハンガリーがNATO加盟国でありながらウクライナに軍事支援を提供しないことを非難する人もいるかもしれませんが、少なくともウクライナに対するハンガリーの立場は明確なものになっています。その一方で、ベルギーはウクライナへの全面的な指示を伝達したように見えますが、実際の支援は不十分です。

 ベルギー国防省はウクライナに特定の種類の装備を提供しないことについて質問された際に嘘に訴え出るのではなく、コスト上の判断なのか、紛争激化を懸念してのものなのかという本当の理由を明確にすることで、より健全な決断を下すことができるでしょう。

 2023年3月、オランダ国総省は6機の「CH-47」輸送ヘリコプターをウクライナに寄贈せずに民間企業へ売却することを決定したと発表しました。この発表では、この選択の背景となった理由も国防省によって説明されています。[39]

 一部には不評を買うかもしれない説明をすることは、総じて(特に政府にとっては)嘘に頼るよりも賢明な行動なのです。

ベルギー空軍のF-16:ウクライナはベルギーから運用可能な機体か、あるいは予備部品の供給源として受領するのかどうかは未だに不明である。

 ベルギーの国防上の失敗を指摘するのは簡単なことですが、使える資金が少ないことと、ベルギー国防省及び意思決定に内在すると思しき欠点の両方を考慮に入れて、いくつかの解決策を提案することが公平というものでしょう。

 ベルギー陸軍が装軌式AFVを再導入することは極めて実現性が低いため、戦車や装軌式の歩兵戦闘車の復活を示すことは単なる希望的観測にすぎません。それでも、ベルギーの中型旅団にとって、戦時に他のNATO加盟国に頼ることなく自律的に行動する能力を持つことは必要不可欠です。

 したがって、現時点でベルギー陸軍が保有していない多様な兵器システムの導入が必要となります。これに含まれるのは、SPAAGとSAMシステム、MLRSのような長距離砲兵戦力です。これは、デンマークやオランダのような国の取り組みと一致しています。両国は、戦時に旅団が他のNATO諸国の軍から独立して機能することを可能にするため、MLRSや移動式SAMシステム、そしてSPAAGといったシステムを調達しているのです。

 強力なレベルの相互運用性を確保し、費用効率を維持するために、オランダやフランス、ドイツといった国々との緊密な協力関係を追求することも可能です。ベルギー陸軍にフランス製のAFVや火砲が圧倒的に多いことは、フランス陸軍と深く統合できる絶好の見込みがあることを意味します、そのため、この可能性については、徹底的に検討・活用するべきでしょう。

 ベルギーが歴史的に海洋国家でなかったことや、現在保有する艦艇の乗員に関する既存の課題(人材不足)を踏まえると、ベルギー海軍のいかなる形態での拡大も非現実的かつ不必要と思われます。この国が現時点で不足している海上能力を必要とする場合には、より広範囲な海上能力を有するオランダ海軍との協力を求めることが可能です。

 ベルギーは合計で34機の「F-35」を受領する予定であり、これらは2つの空軍基地(フランス語圏の基地とオランダ語圏の基地)に配備されることになっています。各基地には17機の「F-35」が割り当てられますが、双方には追加の機体用の十分なスペースもあります。空中発射巡航ミサイルや対レーダーミサイルといったスタンドオフ兵器と組み合わせた場合、ベルギーには既存の兵器システムの能力を大幅に増強する機会が与えられることになるでしょう。この増強については、完全に新しい兵器システムを導入するのではなく、既存のシステムの量を増やすか、新たな兵装を導入したりすることによって達成できます。

 ベルギー空軍は4機の「MQ-9B"スカイガーディアン"」中高度長時間滞空(MALE)型UAVも受領する予定です。これらの無人機に武装させる可能性はあるものの、現時点でベルギー政府は無人攻撃機の運用に反対しています。とはいえ、これらの無人偵察機に兵装を搭載させるならば、通常は有人戦闘機によって実施される海外展開を無人機に引き受けさせることができます。結果として、より多くの「F-35」を別の任務へ投入することが可能となるのです。

  1. 以下に列挙した一覧は、現在または将来的にベルギー陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、軽迫撃砲、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。



陸軍 - Belgian Land Component

装甲偵察車 (将来的な数量:60)
  • 60 EBRC "ジャグア" [2025年以降に納入] (18台の「ピラーニャIII DF90」 装甲戦闘車と32台の「ピラーニャIII DF30」歩兵戦闘車を更新するもの)

装甲兵員輸送車 (将来的な数量:382)
  • 382 VBMR "グリフォン" [2025年以降に納入] (135台の「ピラーニャIII」装甲兵員輸送車と218台の「ディンゴ2」歩兵機動車を更新するもの)

歩兵機動車 (将来的な数量:322)

火砲 (将来的な数量:28 自走砲 , 12 自走迫撃砲)

防空システム
  • C-UAS/C-RAM(対無人機・対砲弾類) & 近距離防空 (VSHORAD) システム [調達を検討]
  • 短距離地対空ミサイル(SAM)システム [調達を検討]
  • 長距離地対空ミサイル(SAM)システム [調達を検討]


空軍 - Belgian Air Component

戦闘機 (将来的な数量:34)

MALE型無人偵察機 (将来的な数量:4)

輸送機&空中給油機 (将来的な数量:2 輸送機 , 最大15 輸送機)

練習機

ヘリコプター(将来的な数量 15 汎用ヘリコプター , 12+ 輸送ヘリコプター , 5 対潜ヘリコプター , 4 捜索救難ヘリコプター)


海軍 - Belgian Naval Component

フリゲート (将来的な数量:2)
  • 2 対潜フリゲート (ASWF) [2030年以降に引き渡し] (A ballistic missile defence capability is currently considered. Will replace 2 M-class frigates)

哨戒艇 (将来的な数量:3)

掃海艦 (将来的な数量:6)
  • 6 「シティ」級掃海艦 [2024年から2029年にかけて引き渡し] (「トリパルタイト」級機雷掃討艇5隻を更新するもの)

当記事の着想を提供してくれたカスパー・グーセンス氏とStoonbrace氏、そして(記事の内容に大きく貢献した)彼らのベルギーの防衛に関する貴重な先行研究に感謝を申し上げます。

[1] https://twitter.com/Stoonbrace/status/1538488541226868737
[2] Defensiebudget stijgt met amper 0,01 procent: België wordt ‘paria binnen de NAVO’ https://www.n-va.be/nieuws/defensiebudget-stijgt-met-amper-001-procent-belgie-wordt-paria-binnen-de-navo
[3] Slechts zeven NAVO-landen geven 2 procent uit aan defensie, België bengelt onderaan https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/03/21/zeven-navo-landen-geven-gevraagde-2-procent-uit-aan-defensie-be/
[4] For Queen & NATO: Listing Denmark’s Recent Weapons Purchases https://www.oryxspioenkop.com/2023/06/for-queen-nato-listing-denmarks-recent.html
[5] Hoe creatief omspringen met 235 miljoen euro België haar astronaut opleverde https://businessam.be/hoe-creatief-omspringen-met-185-miljoen-euro-belgie-haar-astronaut-geeft/
[6] België koopt Mistral-raketten en stapt als observator in SCAF-project voor nieuwe gevechtsvliegtuigen https://www.demorgen.be/snelnieuws/belgie-koopt-mistral-raketten-en-stapt-als-observator-in-scaf-project-voor-nieuwe-gevechtsvliegtuigen~b83f4c10/
[7] De Kamer van Volksvertegenwoordigers - Schriftelijke vraag en antwoord nr 55-517 : Aankoop luchtafweersystemen. - NAVO-integratie. https://www.stradalex.com/nl/sl_src_publ_div_be_chambre/document/SVbkv_55-b090-1200-0517-2021202215959
[8] De heropbouw van Defensie gaat verder met het STAR-plan https://dedonder.belgium.be/nl/de-heropbouw-van-defensie-gaat-verder-met-het-star-plan
[9] Belgische en Franse ministers van Defensie tekenen CaMo 2 en de aankoop van negen CAESAR NewGeneration https://beldefnews.mil.be/belgische-en-franse-ministers-van-defensie-tekenen-camo-2-en-de-aankoop-van-negen-caesar-newgeneration/
[10] Denmark receives first ATMOS SPHs and PULS MRLs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/denmark-receives-first-atmos-sphs-and-puls-mrls
[11] Belgische artillerie krijgt 19 bijkomende Caesar-kanonnen https://www.nieuwsblad.be/cnt/dmf20220630_93440627
[12] A 21st Century Powerhouse: Listing Poland’s Recent Arms Acquisitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/11/a-21st-century-powerhouse-listing.html
[13] Tientallen miljoenen gekost, maar Belgische pantservoertuigen kunnen niet vuren https://www.demorgen.be/nieuws/tientallen-miljoenen-gekost-maar-belgische-pantservoertuigen-kunnen-niet-vuren~b64c7613/
[14] ‘De langetermijnvisie bij legeraankopen is korter dan het schootsveld van een kanon’
https://www.knack.be/nieuws/de-langetermijnvisie-bij-legeraankopen-is-korter-dan-het-schootsveld-van-een-kanon/
[15] De Pandur RECCE. Het ongewenste kind van het RECCE 2001 debacle. https://www.belgianmilitaryinterests.be/de-pandur-recce-het-ongewenste-kind-van-het-recce-2001-debacle/
[16] C’est officiel : la Belgique se positionne pour intégrer le Scaf https://www.lalibre.be/belgique/politique-belge/2023/06/16/cest-officiel-la-belgique-se-positionne-pour-integrer-le-scaf-
[17] Belgium flirts with joining FCAS fighter program https://www.defensenews.com/air/2023/06/16/belgium-flirts-with-joining-fcas-fighter-program/
[18] Leger loopt leeg: komende vijf jaar gaat bijna helft van alle Belgische militairen met pensioen https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2019/07/17/bijna-helft-leger-zwaait-af-komende-vijf-jaar-leger-loopt-leeg/
[19] Voortaan ook gevechtspiloten met bril of lenzen: Defensie versoepelt aanwervingsregels om vacatures te vullen https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/06/defensie-zoekt-ruim-4-000-nieuwe-militairen-en-ander-personeel-i/
[20] 300.000 jongeren hebben geen werk: vrijwillige legerdienst moet hen aan een job helpen https://www.nieuwsblad.be/cnt/dmf20230527_96674900
[21] België investeert in raketschild en (het leggen van) zeemijnen https://marineschepen.nl/nieuws/Belgie-investeert-in-raketschild-en-zeemijnen-130522.html
[22] Information gathered through discussions with members of the Dutch Navy.
[23] 'Waarschijnlijk' meer geld voor nieuwe Nederlands-Belgische fregatten - Belgische Defensieminister https://marineschepen.nl/nieuws/Waarschijnlijk-meer-geld-voor-Belgische-fregatten-070722.html
[24] Nederlands-Belgische samenwerking bij Anti Submarine Warfare fregatten https://www.defensie.nl/actueel/nieuws/2023/06/22/nederlands-belgische-samenwerking-bij-anti-submarine-warfare-fregatten
[25] A Show Of Shame - Belgian Weapons Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/a-show-of-shame-belgian-weapons.html
[26] Belgium will not send howitzers to Ukraine due to unreasonable prices https://www.brusselstimes.com/231363/belgium-will-not-send-howitzers-to-ukraine-due-to-unreasonable-prices[27] Former Belgian army M109A4BE 155mm howitzers purchased by UK now deployed in Ukraine https://www.armyrecognition.com/defense_news_january_2023_global_security_army_industry/former_belgian_army_m109a4be_155_howitzers_purchased_by_uk_are_now_deployed_in_ukraine.html
[28] La Défense n'a pu récupérer ses anciens obusiers, qui semblent bien partis vers l'Ukraine https://www.dhnet.be/actu/belgique/2022/06/01/la-defense-na-pu-recuperer-ses-anciens-obusiers-qui-semblent-bien-partis-vers-lukraine
[29] Entre revalorisation en formation, John Cockerill mobilisé pour soutenir l’Ukraine https://www.forcesoperations.com/entre-revalorisation-en-formation-john-cockerill-mobilise-pour-soutenir-lukraine/
[30] België is erg fors met woorden, niet met daden in de Oekraïense oorlog https://businessam.be/belgie-is-erg-fors-met-woorden-niet-met-daden-in-de-oekraiense-oorlog/
[31] https://twitter.com/gepardtatze/status/1689658735247949824
[32] Belgium to Deliver Eight Sea Sparrow Surface-to-Air Missiles to Ukraine https://www.thedefensepost.com/2023/09/07/belgium-ukraine-sea-sparrow/
[33] Danish support for Ukraine https://um.dk/en/foreign-policy/danish-support-for-ukraine
[34] Denmark Reporting For Duty: Danish Military Support To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2023/05/denmark-reporting-for-duty-danish.html
[35] Belgische steun voor Oekraïne: een overzicht https://diplomatie.belgium.be/nl/beleid/beleidsthemas/uitgelicht/belgische-steun-voor-oekraine-een-overzicht
[36] https://twitter.com/kaspergoossens/status/1704965545982853175
[37] Chef Defensie Michel Hofman: "Ondenkbaar dat we onze F-16's leveren aan Oekraïne" https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/07/stafchef-defensie-michel-hofman-over-f-16-s/
[38] België is wél in staat om F-16's naar Oekraïne te sturen, in tegenstelling tot wat Defensie beweert https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/19/belgie-kan-wel-degelijk-f-16s-naar-oekraine-sturen-als-het-dat/
[39] Information gathered through discussions with members of the Dutch Army.
[40] Verouderde Chinook-transporthelikopters in de verkoop https://www.defensie.nl/actueel/nieuws/2023/03/09/verouderde-chinook-transporthelikopters-in-de-verkoop


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