ラベル シリア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル シリア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年9月30日火曜日

【復刻記事】シリア介入の準備が進む: 「Su-34 "フルバック"」が到着した


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月29日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 最初のロシア機がシリアに配備された時点で「Su-34 「フルバック」戦闘爆撃機のシリア展開は近いと見られていましたが、ここ数日でようやく現実となったことが確認されました。これで、ラタキア県のフメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港(IAP)にすでに配備されている「Su-30SM」4機と「Su-24M/M2」12機、そして「Su-25」12機に、最大で6機の「Su-34」が加わったと見られます。

 最大34機の作戦機に加えて、現時点で最大20機の「Mi-17」と「Mi-24/35」ヘリコプター、2機の「Il-20M」情報収集機、そして少なくとも3種類の無人航空機(UAV)がシリアに配備されています。特にUAVはイドリブ県上空での偵察飛行に力を入れており、まだ電子情報収集(ELINT)に特化した「Il-20M」がこれに加わっていなかったとしても、その姿を近いうちに目にすることは確実でしょう。

 すでに「Su-24M/M2」はイドリブ上空で目撃されているものの、今までのところ反政府勢力との戦闘は控えているようです。12機の「Su-25」については、ちょうど1週間前に「An-124」戦略輸送機で到着した後、組立て作業と試験飛行に追われています。その一方で、「Su-34」は長い航続距離のおかげでフメイミム/バッシャール・アル・アサドIAPに自力で到着することができました。

 下の画像の2機は、いずれも胴体下部に増槽を搭載して航続距離を伸ばしています。おそらくはシリア派遣部隊の機体であったと考えられています。この画像については、カスピ海からイラン・イラク領空を経由してシリアに向かう途中のモズドクを飛行中に撮影されたものです。


 下の画像はシリアで撮影されたもので、イドリブかハマー県の上空で旅客機と編隊を組むように飛ぶ6機の戦闘爆撃機らしきものが映っています。この旅客機はロシア空軍所属の「Tu-154」と思われ、フメイミムに向かう「Su-34」の随伴用として使われたようです。


 誘導・非誘導を問わず幅広い種類の兵装を搭載できるように設計された「Su-34」の展開は、シリアのあらゆる場所を攻撃できる後続距離と能力を備えた強力な戦闘爆撃機をシリア派遣部隊に提供するものと言えます。

 フメイミムの拡張工事が続き、UAVと「Il-20M」がイドリブ県の反政府勢力の戦力と位置に関するデータ収集に追われる中、ロシア空軍の作戦機部隊が初出撃の準備中であることを考えると、シリアは派遣部隊の初陣は時間の問題のようです。



おすすめの記事

2025年9月28日日曜日

【復刻記事】西側製小火器の流入:シリアの特殊部隊でイギリス製狙撃銃の使用が確認された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月28日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリア政府に対するロシアに軍事支援はこの1か月で全く新しいレベルに達し、国際的なメディアはシリアへの航空機や装甲車の流入に注目している一方で、アサド政権への新たな小火器の引渡しについては未だに少しも明らかとなっていません。しかし、ロシアの国営ニュースチャンネルであるヴェスティ(現在のRIAノーボスチ)は9月27日、イギリスのアキュラシー・インターナショナル社製「アークティア・ウォーフェア・マグナム(AWM)」狙撃銃を装備したシリア兵の映像を公開したことで、これまで考えられていたよりもシリアの装備調達方針が幅広いことが明らかになったのです(編訳者注:動画はアカウントの停止で視聴不可、また実際はシリア兵ではなくロシア兵であり、ロシア連邦保安庁保安庁特殊任務センター所属である可能性が高い)。

 ヴェスティの記者は、9月上旬にイスラーム軍が攻勢を開始して以来の激しい戦闘が続いているダマスカス郊外にあるハラスタで、反政府勢力の支配地域に攻勢をかける特殊部隊を追いました。この映像では、戦車や装甲戦闘車両(AFV)が反政府勢力の陣地と思われる場所に射撃したり、特殊部隊がさまざまな新装備を使用している様子が映し出されています。


 映像に映っている狙撃銃に2012年にアキュラシー・インターナショナル社が発売した独立式ピストルグリップが装備されていることは、この銃の導入が本当に最近のことだという事実を一層強調しています。 .338ラプアマグナム弾を使用とする「AWM(L115A3)」ボルトアクション式狙撃銃は1996年に設計され、現在までにロシアやアメリカを含むさまざまな国で使用されています。この銃の良質な性能の証として、2009年にアフガニスタンでイギリスの狙撃兵が2.475メートル先にいる2人のタリバン戦闘員を射殺したことで狙撃の最長記録を更新したことが有名です(編訳者注:この記録は後年に更新され、2023年にウクライナSBUの狙撃兵が「ホライゾンズ・ロード」で3,800メートル先のロシア兵を射殺した事例が現在の最長記録)。

 シリアで目撃された個体に装備された新型のピストルグリップは、(グリップと一体化した)ストレートストックをより現代的なピストルグリップに交換することでより新しい「AX」系狙撃銃に人間工学を取り入れることをねらいとしたものであり、その過程で軽量化が図られています。映像の銃の有効射程はマズルブレーキにサプレッサーが装着されているために若干短くなっていると思われますが、狙撃兵だらけとも言えるシリアの戦場では、(サプレッサーの使用で)この銃を使用する兵士がより長く敵に発見されずにいられることに役立つのは間違いないでしょう。



 映像の他の部分には、特殊部隊員が「PKP "ペチェネグ"」汎用機関銃を使用する姿が映っていました。特殊部隊用に最低でも100丁の「PKP」が2013年にシリアへ引渡されたと考えられていますが、「ペチェネグ」が人前に姿を現した事例は極めて少なく、今回の映像が公開される前に1度目撃されただけです。

右奥にあるのが「PKP "ペチェネグ"」汎用機関銃である

 しかしながら、アサド政権が最近入手したのは小火器に限ったことではありません。兵士の個人装備の大半は、アメリカ、特にアメリカのスポーツ用品メーカーであるアンダーアーマー以外から調達されていないようです。

 アメリカ製装備を選択することは一見すると不自然に思えるかもしれませんが、アメリカ製を筆頭とする西側製小火器や装備は現在でも日常的にシリアに入ってきており、その大半はレバノンの闇市場経由と云われています。これらの西側製小火器の大部分が沿岸地域のアラウィー派によって入手されたものです。彼らは長年にわたって反政府勢力が侵攻してくる可能性から自衛するための準備をしてきました。

 シリアには世界各地から小火器が流入しており、今ではロシア製の新型狙撃銃や軽機関銃、イギリス製の狙撃銃、アメリカ製のアサルトライフル、そして第2次世界大戦時代の骨董品などが混在している状況です。近年では最も武器の多様性に富んだ戦場と言えます。これほど多種多様な兵器にアクセスできる状況を考慮すると、近いうちに内戦の当事者が敵と戦う手段を使い果たすことは起こりそうもありません。


改訂・分冊版が2025年に発売予定です


おすすめの記事

2025年9月22日月曜日

【復刻記事】さらなる増援: 「Su-25 "フロッグフット"」がシリアに到着した


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月21日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 数日前にシリア領空で「Su-30SM」と「Su-24M2」が目撃された後、StratforとAllSource Analysisが9月20日に入手した最新の衛星画像によって、フメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港(IAP)で組み立てられている12機の「Su-25 "フロッグフット」の存在が明らかになりました。これで、シリアへの展開が確認されたロシア軍作戦機の数は合計で(少なくとも)20機となりました。ほぼ同じ頃、アメリカ政府の当局者は、ロシア軍のシリアへの大規模な軍事介入の一環として戦闘機28機とヘリコプター20機がシリアに駐留していると述べています。

 現時点におけるシリア派遣部隊の航空戦力は、「Su-24M2」戦闘爆撃機12機と「Su-30SM」多用途戦闘4機、「Su-25」対地攻撃機12機に加え、主に「Mi-24/35」攻撃ヘリと数機の「Mi-17」輸送ヘリで構成されるヘリコプターが最大で20機、若干数の無人機(UAV)です。ただし、「Su-24M2」の姿はまだフメイミム/バッシャール・アル・アサドIAPの衛星画像で確認できていません。後日に撮影された画像に写っているか、別の場所に移動した可能性があります。すでにシリア軍の「Su-24」飛行隊がT4飛行場に駐留している点を踏まえると、「Su-24M2」の配備先も同じと考えるのが理にかなっているでしょう(編訳者注:実際はフメイミムに配備された)。

 フメイミムからUAVが飛んでいるという情報は、シリアに配備されているロシア軍部隊の規模を考えれば驚くことではありません。すでにロシアの小型UAVの存在は2015年7月21日に確認されており、今では彼らの作戦飛行がより大型のUAVで強化された可能性があります。

 ロシア軍の人員、装備、車両そして作戦機の大量配備の背後にある正確な狙いは依然として不明のままですが、ロシアが主導する奇襲攻撃は、アサド政権によって行われている攻撃とは全く異なる結果をもたらすかもしれません。もう一つ考えられる可能性は、ロシアが前線への大規模な兵力投入を控え、その代わりにまず航空戦力で内戦に介入することです。シリアに展開する作戦機とヘリコプターの規模は今後数日間で最大50機に達する可能性があります。


 (ヘッダー画像に見える)整然と並べられた「Su-25」は優れた近接航空攻支援(CAS)機です。その大きなペイロードを活用して、あらゆる攻撃時に地上部隊へ継続的な支援を提供することができます。特にロシアの最新誘導兵装を装備した場合、これらの攻撃機はロシア空軍自身の対地攻撃能力も大幅に向上させるでしょう。そして、ほぼ全ての反政府勢力が保有する対空兵器の大部分に耐えることができるほど頑丈です。

 ロシア軍のシリア派遣はアサド政権が権力の座を維持し続けることを意味しており、彼抜きでの新(統一)政権への移行はほぼあり得ないと言っても過言ではありません。単なる軍事作戦のように見えますが、この派兵は反政府勢力をはるかに不利な条件で交渉のテーブルに復帰させるものです。この事実は、この動きに対する今のところ静かな国際的反応に反映されています。

[翻訳に際しての参考資料]
Latest imagery shows 28 Russian aircraft (12 Su-24s, 12 Su-25s and 4 Su-30s) on the ground at airbase in Syria https://theaviationist.com/2015/09/22/latest-imagery-unveils-12-su24s/

2025年9月21日日曜日

【復刻記事】ロシア空軍の介入か:シリアで最新鋭機が目撃された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月21日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリアでの戦闘に投入されたロシア軍人や装備の目撃情報が相次ぐ中、数多くのロシア軍機や装甲戦闘車両(AFV)の投入が確認されたこともあって、シリア内戦におけるロシアの役割は急激に高まりつつあります。

 ロシア軍基地として活用するためのフメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港の改築と同時に、シリア上空で「Su-30SM」や「Su-24M/M2」などの軍用機を護衛する「Il-76」輸送機または「Il-78」空中給油機(注:おそらく後者の方が可能性が高いと思われる)が目撃されました。これらと共に目撃された「An-124」戦略輸送機については、多種多様な兵器と一緒に、少なくとも2機の「Mi-17」と2機の「Mi-24/35」ヘリコプターを空輸したとも報じられています。

 この飛行場には約12機もの「Mi-14」と「Ka-28」対潜ヘリコプターが配備されていましたが、この数週間で撤収が確認されました。そして、敷地内での新ヘリパッドと誘導路の建設で規模が急速に拡大されるとともに、ロシア軍機と装備の受け入れに応じて反政府勢力の攻撃から基地を防護するための防御体制も整備されつつあります(注:対潜ヘリはシリア空軍所属機)。基地の拡大は今までも多くのメディアによって指摘されていたものの、9月19日になって初めて、(衛星画像によって)滑走路に無防備に駐機されたロシア軍戦闘機の存在と専用のシェルターがまだ建築されていないことが確認されました。

 この時に撮影された4機の「Su-30SM」戦闘機のほかに、インターネット上で公開された動画では9月19日と20日にそれぞれ「Il-78」を護衛する4機の「Su-24」戦闘爆撃機と、(おそらく)さらに4機の「Su-27/30」がホムス北部上空を同様の編隊を組んで飛行しているように見えます。この映像は、ロシア軍機がラタキア近郊のフメイミムに向かっていた可能性が高いことを示しています。これとは別個に推測できる事項は、ロシア機がカスピ海上空を飛行した後にイランとイラク上空を通過したというものです。この説はホムス上空で彼らがとったアプローチを説明してくれるものの、現在のイラク及びシリア上空で活動している大量の外国機を考慮すると、リスクの高い方法ではあります。それでも、フメイミムに展開した最初の「Su-30SM」4機がギリシャ領空を通過したことは判明しているため、展開には双方のルートが使われていることも考えられるでしょう。

 先の動画と、ロシア空軍のスホーイ戦闘機4機のシリア配備に関するアメリカ政府当局者のコメントは、これまでに少なくとロシア機が3回に分けてシリアに飛来したことを示唆しています:まずは 「Su-30SM」が4機、次に「Su-24M/M2」が4機、そして「Su-30SM」と思われる形式不明機が4機です。


 「Su-30SM」はこれまでSyAAFが使えなかった能力をもたらすほか、ロシア空軍はあらゆる攻撃や防御ミッションを細かくフォローすることができるようになります。

 探知・収集した情報を地上部隊に中継できることから、この新鋭機は空中指揮プラットフォームとしても機能します。広範囲にわたる種類の誘導・無誘導兵器を運用可能であることから、「Su-30SM」はシリアの戦場に適した非常に汎用性の高い航空機と言えるでしょう。 しかしながら、これらの戦闘機がロシア空軍で使用されている最新鋭の戦闘機の一部で、対地攻撃だけでなく空対空戦闘も可能であるという事実は、空軍が配備にこの戦闘機を選んだ別の理由を暗示している可能性があります。というのも、これらの戦闘機が初めて目撃される直前に、ロシアはシリア内戦に関するアメリカ側との最初の協議を終えたばかりだったからです。こうした高性能な最新鋭機のシリア配備が世界に強力なメッセージとなることは言うまでもありません。

 「Su-30SM」より性能が劣る「Su-24M/M2」の配備については、シリア空軍も同じ機体(しかも全てが最近にロシアのルジェフでMK規格からM2規格にアップグレードされたもの)を運用していることを踏まえると、特に驚くようなことではありません。シリアで「Su-24M2」の運用を担う第819飛行隊は、シリア中部のT4基地を拠点にして11機を運用し続けています。予想され得るロシアの「Su-24M/M2」のT4展開はロジスティクス面での円滑化に役立つでしょうし、すでに利用可能な広大な基地を利用することになるので賢明な選択と言えるのではないでしょうか(編訳者注:結局はT4ではなくフメイミムに配備された)。

 シリアに展開する機体の量に左右されますが、ロシア・シリアの統合化された「Su-24」飛行隊は大規模な空爆によって地上の状況を迅速に変える能力を持っています。反政府勢力のあらゆる攻勢を阻止することもできるし、ロシアやアサド政権側の攻勢で彼らの防衛線が吹き飛ばされる可能性さえあるのです。

「Su-27」と表記されているが、カナード翼の存在で「Su-30SM」と識別できる

 飛行機以外の重装備も同時にシリアに空輸されていると報じられています。9月15日の衛星画像では、約26台の装甲兵員輸送車(APC)/歩兵戦闘車(IFV)、6台の戦車、4機のヘリコプター、大量のトラックやその他の装備が飛行場に点在しているのが確認されました。

 9月17日にノヴォシビルスクで撮影された写真には、2機の「Mi-24/35」攻撃ヘリコプターと少なくとも1機の「Mi-17」輸送ヘリコプターが「An-124(RA-82035)」輸送機に積み込まれている様子が写っています。その後、同機は18日にシリア上空でトラッキングされ、夕方に再びロシアのモズドクに着陸したことが確認されました。こうした状況や衛星画像は、現時点でロシア・シリアで大規模な空輸作戦が展開中であることを示唆しています。


26台のBTR系APCと6台の戦車が見える(ただし、BTR系はIFVである可能性がある)

 シリア内戦へのロシアの軍事的介入が強まるというニュースは、決して青天の霹靂ではありません: 7月下旬のロシア軍無人偵察機の撃墜から今月初めの(おそらくロシアが運用する)「パーンツィリ-S1」防空システムの納入に至るまでの相次ぐリポート全てが、アサド政権への支援が大幅に急増していることを証明しているからです。

 こうした流れから、ロシアが反政府勢力の攻勢でアサド政権が屈服することを許さないだろうことは明らかでしょう。そして、ロシアと反政府勢力の間で戦争がまだ始まっていないにもかかわらず、当面はアサドが権力の座を維持し続けるのが現実のようです。

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

  2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

おすすめの記事

2025年9月16日火曜日

【復刻記事】ロシア軍のシリア展開が確認:「R-166-0.5」通信車が目撃された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年9月16日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 ここ数日、ロシア軍がダイレクトにシリアへ軍事介入しているという事実を暴く証拠が急増しています。

最近納入されたロシア製UAVとロシアの「BTR-82A」歩兵戦闘車(IFV)が目撃されたことに加え、ロシア軍関係者と思われる人物がラタキア県でのアサド政権側の攻勢に参加したことを示す音声が、(これまで多くの人が考えていたレベルよりも)ロシアがシリア内戦に深く関与していることを証明したのです。

 シリアへ向かう多数のロシア軍揚陸艦が頻繁にボスポラス海峡を通過していることや、ロシア空軍の「An-124」戦略輸送機がラタキアに向けて少なくとも15回も飛行したことは、ロシアがアサド政権の支援でどの程度関与しているのかを物語っています。これらの艦艇や輸送機は、大量の車両や装備、兵員をシリアに送り込んできました。ロシア軍部隊を収容するため、フメイミム/バッシャール・アル・アサド国際空港はロシア軍基地となり、現時点で地上・航空戦力の展開を可能にするため改築中です。

 新たに公開されたロシアの「R-166-0.5」統合指揮通信車(HF/VHF通信車)がシリアの沿岸地方を走行する様子を撮影した画像によって、今やこの国におけるロシアの意図を疑う余地はほとんど消え失せてしまいました。

 「R-166-0.5」は長距離にわたって妨害に強い音声とデータ通信を提供する能力があり、ロシア軍がはるか内陸部で行動しながら、(沿岸部の一大拠点である)タルトゥースやラタキアにある自身の基地と通信することを可能にします。

 この車両がシリア兵に護衛されている様子が見えますが、彼らはおそらく国民防衛隊(NDF)の所属でしょう。ただし、これより注目すべきなのは、車両のハッチの近くに座っている兵士です。一見すると撮影されていることに気づいていないように見える彼は、ロシア軍で一般的なデジタルフローラ迷彩の戦闘服を着ていす。これは、私たちが本当に(シリア軍やPMCではなく)ロシア軍人を分析の対象に含めたことを改めて証明していると言えるエビデンスです。

 「R-166-0.5」の後部にある車両番号がダークオリーブ色の塗料で塗りつぶされたため、この車両が所属する旅団を特定することが不可能となっています。車両番号やその他の識別マークを隠すことはウクライナ紛争で一般的な慣行となりました。

後部右側の番号が塗りつぶされている:前方には護衛の車両が見える

 非公式なロシア陸軍の編制装備定数表(TOE)によると、旅団の通信大隊には合計8台の「R-166-0.5」が装備されているとのことです。したがって、「R-166-0.5」が目撃されたということは、最近になって旅団本部か少なくとも1個強化大隊(いわゆる大隊戦術群/BTG)が最近になってシリアに到着したことを意味しています。

 参考として、「R-166-0.5」の仕様の一部をロシア陸軍のファクトシートから抜粋しました(下の画像にある車両はロシア軍で運用されている個体です)。


通信距離
  • HF/短波, 静止時 (アンテナ展開時) – 1000 km
  • HF/短波, 移動時 – 250 km
  • UHF/超短波 , 静止時– 70 km
  • UHF/超短波, 移動時 – 25 km

周波数の帯域
  • HF – 1.5-29.99999 MHz
  • UHF – 30-107.975 MHz
ロシア軍の「R-166-0.5」(参考)

おすすめの記事

2025年8月29日金曜日

【復刻記事】予感から確信へ:シリア内戦でロシア軍の直接的な関与を示す新たな証拠が浮上


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年8月29日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。

 ラタキア県におけるアサド政権軍の攻勢は、今まで知られていなかったロシアによる内戦の関与を示す詳細な証拠を暴露し続けています。最近納入されたロシア製「BTR-82A」歩兵戦闘車(IFV)の目撃情報とは別に、新たに登場した資料はロシア軍が攻勢を指揮する上重要要な役割を担っていることを裏付けました。

 ラタキアでの攻勢を取材した国民防衛隊(NDF)のメディア部門からのニュース・リポートの動画から聞こえてきた断片的な音声は、シリアにおける「BTR-82A」の存在を初めて明らかにしたものであり、この地域で進行中であるアサド政権軍の作戦を支援するためにロシアの軍人がラタキアに派遣されたという以前の証言を裏付けるものでした。 シリア・アラブ陸軍(SyAA)と最近到着した共和国防衛隊と共に、NDFはラタキア北東部で以前に反政府勢力に制圧された領土の奪還を目的とした新たな攻勢を開始しました。仮にこの攻勢が成功した場合、今や危機に瀕している主要都市へのアサド政権の影響は大幅に向上し、反政府勢力に深刻な打撃を与えることになるでしょう。

 会話は「BTR-82A」の「2A72」30mm機関砲自動砲から出る轟音のために聞き取りにくいものの、火力支援を再開するよう呼びかけたり、ある時点では「Павлин, павлин, мы выходим(ピーコック、ピーコック、我々は撤退する)」(注:ピーコックはコールサインと思われる)を含む特定のフレーズを聞き取ることができます(残念ながら、動画のアカウントがYoutube運営に停止させられたために現在では視聴不可)。

 動画の2:03から2:30までの間に聞き取れる会話の内容を以下に記します。
  • 2:03: ''Давай!'' - 早く!
  • 2:06: ''Бросай!'' - 落とせ!
  • 2:10: "Ещё раз! Ещё давай!'' - もう一度! もう一度だ早く!
  • 2:30: "Павлин, павлин, мы выходим" - ピーコック, ピーコック, 我々は撤退する.

 会話は少ししか聞こえませんが、どうやら「BTR-82A」の乗員に向けられたもののようで、この車両が実際にロシアの兵士によって運用されていることを示唆しています。しかし、(シリア介入に関する)ロシア軍空挺部隊トップの発言を受けて、8月4日にウラジーミル・プーチン大統領の報道官(ペスコフと思われる)にロシア兵のシリア派遣の話が提起された際、彼はシリア政府側からそのような要請がなされたことを否定しました。


 興味深いことに、ロシアが(地上部隊を通じて)シリア内戦に介入したことを示したのは、今回が初めてではありません。ニュースサイト「Souria Net」は8月12日、主にアラウィー派の住民が住む(ラタキアの東約30kmに位置する)スランファにロシア兵が派遣され、反政府勢力の進攻を阻止したと報じています。

 その結果として、親アサド政権の新聞「アル・ワタン(祖国)」は8月26日付で、ロシアが(ラタキア市から南へ25kmほど離れた)ラタキア県沿岸部のジャブラに新たな軍事基地を建設し、シリアにおけるプレゼンスを拡大しているという記事を掲載しました。この記事では、欧米とロシアによるシリア内戦への介入に関するさまざまな噂や陰謀論も言及されていました。その中には、先月にロシアから6機の「MiG-31」迎撃機が届けられたという、大々的に報じられたものの結局は嘘だった話や、ロシアが親アサド勢力に衛星画像を提供し始めたとされる話も含まれています。


 衛星画像の提供に関する証拠はこれまで見つかっていませんが、ロシアは内戦前と内戦中に「センターS」、「S-2」と(おそらく)「S-3」という情報収集施設を通じたSIGINTでシリア政府を支援していたことが知られています。「センターS」については、2014年10月5日に反政府勢力によって初めて制圧されたことを著者が当ブログとベリングキャットで取り上げました。

 この情報はシリア上空でロシア製ドローンの目撃が急増していることと同時に重なっているため、この数か月でロシアによる新たな情報収集ミッションが開始されたことをさらに示唆しています。

 以前にロシアの民間軍事会社がシリアで活動したことがあるという事実から、ロシア語で交わされた会話はロシア軍関係者によるものではない可能性があるという主張するに至る人がいるかもしれませんが、そのような民間企業が「BTR-82A」のような高度な兵器を運用する可能性は非常に低いことに留意すべきでしょう(編訳者注:この記事が執筆された当時はワグネルの存在がそれほどクローズアップされておらず、彼らが戦車を含むAFVを多用していたことも知られていなかったことに注意してください)。そして、ロシア政府は実際にシリアへの「民間企業」の派遣を禁じており、ロシア連邦保安庁(FSB)はいわゆるスラヴ軍団のトップをロシア帰国後に(2013年10月)拘束しました

 もちろん、シリアのメディアによる言及はこの国にロシア兵士がいるという説を補強するものであり、今回の映像での会話が民間軍事会社のメンバーによるものだという説の根拠をさらに覆すものと言えます。

 シリアへ関与しているという今回の証拠の件は、単発の出来事ではありません:大々的に報じられるようになったウクライナにおけるロシア軍関係者の活動や、長年にわたるアサド政権への衰えることのない(むしろ増加さえしている)支援は、たとえそれが公然と紛争にダイレクトに巻き込まれることを意味するとしても、ロシアが国外の利益を守ることに献身していることを証明するものと言えるでしょう。

 こうしたステルス介入が今や再び行われている可能性が高いという事実は、シリアの先行きに対する不確実性を増大させ、5年目を迎えようとしている戦争へのロシアによる大々的な介入の始まるを意味しているかもしれません。

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

 2025年現在の情報にアップデートした改訂・分冊版が発売されました(英語のみ)

おすすめの記事

2025年8月24日日曜日

【復刻記事】介入の予感:シリアでロシアの「BTR-82A」歩兵戦闘車が目撃された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2015年8月24日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。情報が古いですが、あえてそのままにしています。 

 シリア向けの軍用品の中に若干の「BTR-80」派生型がロシア黒海艦隊の揚陸艦「ニコライ・フィルチェンコフ」艦上で目撃されてから僅か数日後、より高度なロシア製兵器がシリアに渡ったことが明らかになりました。「BTR-82A」の目撃は、戦争で荒廃した国に対する全く知られていない一連の兵器供給では最も新しいものです。

 ラタキア攻勢の映像では、以前にラタキア北東部で失った領土の奪還を目的とした攻勢に、少なくとも1台の「BTR-82A」歩兵戦闘車(IFV)が参加している様子が見られました。この攻勢は、国家防衛隊(NDF)、シリア・アラブ軍(SyAA)、共和国防衛隊が共同で実施したもので、後者は最近になってシリア沿岸部に大規模に投入したことが把握されています。共和国防衛隊は、「T-72」や「BMP-2」、「2S3 "アカーツィヤ"」122mm自走榴弾砲とともに、2015年6月中旬にラタキアに到着しました。同部隊への「BTR-82」の引渡しも同時期に行われたと考えられます。

 シリアは2013年末から2014年初めにかけて、化学兵器の廃棄に関する合意の下でロシアから少数の「BTR-80」を受け取ったことが知られています。ちなみに、化学兵器の輸送と警備を任務とした車両は1台もロシアに返却されていません。前述の合意の下で引渡された「BTR-80」については、その全てがマーキングが施されていないオリーブドラブに塗装されました。映像の「BTR-82A」は迷彩塗装が施されている上に「111」の番号が付与されています。これは、すでに長い年月にわたって使用されているシリアの軍用車両に見られる識別用のマーキングとは全く異なるのです。


 から地中海に向かうロシア海軍の揚陸艦によって、シリアへの装備の引渡しが定期的に行われています。つい3日前の8月20日には、ロシア海軍の艦船ニコライ・フィルチェンコフが甲板にトラックや装甲車を積んでイスタンブールを通過したばかりです。

 甲板上に車両が存在することは注目に値します。なぜならば、装備品類は今まで貨物室に積載されていたために外から見ることができなかったからです。この状況は、シリアに送られる車両の規模が貨物室に収まらないほど大きかったことを示唆している可能性が高いと思われます。


 長砲身の「2A72」30mm機関砲のおかげで、「KPVT」14.5mm重機関銃を装備した一般的な「BTR-80」と「BTR-82A」の区別は容易です。しかし、同じ機関砲を装備した旧型の「BTR-80A」との区別は困難を極めます。

 両者の主な違いは、BTR-82の砲塔には「TPN-3」昼夜兼用砲手用照準器ではなく「TKN-4GA-02」 が搭載されていることです。2 つ目の識別ポイントは、下の画像でも分かるように排気口の形状です。

BTR-82A

BTR-80A

 最近のシリアに対する「BTR-82」の引渡しは、シリア政府(アサド政権)を支援するというロシアの強い関与を思い起こさせるものであり、将来的にはほかの車両や兵器が納入される可能性が高いことを示唆しています。アサド大統領の政権維持に対するロシアの関与は非常に過小評価され続けていますが、実際は誰もが予想していたよりも大きなものである可能性を否定できません。

2025年7月11日金曜日

【復刻記事】影から姿を現す:シリアで「BM-30 "スメルチ"」の存在が確認された



著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年12月27日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」とベリングキャットで公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 新たに入手した画像によって、シリアで悪名高い「BM-30 "スメルチ"」多連装ロケット砲(MRL)の存在がついに明らかとなりました。その「9M55K」300mmロケット弾は、ハマ北方のカフル・ジタAl-Tahで使用されたことが記録されているものの、発射機の画像はまだ確認されていなかったのです。発射機の登場を長く待たなければいけなかった理由としては、「ブーク-M2」や「パーンツィリ S-1」、「BM-30」といった高度な兵器の位置が特定されることを避けるため、その近くでの撮影が禁止されたことに関係していると思われます。

 シリアは内戦中にベラルーシか(より可能性が高いと思われる)ロシアから数台の「BM-30」を調達し、2014年初めに納入されたことが確認されています。その数か月後、「UR-77 "メテオリット"」地雷除去車がダマスカスのジョバルに出現したことで、ロシアがアサドにあらゆる兵器を供給する意志があることが改めて強調されました。

 内戦前からシリアで長く運用されている「BM-27 "ウラガン"」に見られるように、「BM-30」も同じような緑色の塗装が施されています。こうしたカラーリングはハマーに見られるような緑豊かな地域に最適です。


 これらの「BM-30」をダマスカスに投入するの合理的だと思われるかもしれませんが、反政府勢力の進撃を阻止するため、全「BM-30」がハマー近郊に配備されています。ハマーはアサドにとって戦略的に重要な場所です。これは何も戦略的な位置にあるという理由だけではありません。空軍基地があるほか、南部には地下ミサイル施設もあるからです。

 ダマスカスには多数の「BM-27 "ウラガン"」やIRAM(Improvised Rocket-Assisted Munition or Mortar:急造ロケット推進弾・迫撃砲)も配備されており、戦闘の多くは共和国防衛隊の拠点であるカシオン山から近距離で行われているほか、砲兵部隊も定期的に投入されているため、この地における「BM-30」の必要性が低いことも理由に入るでしょう。

 ハマーとその周辺における全戦闘はシリア軍と国民防衛隊(NDF)、その他の民兵組織によって行われているため、シリアの「BM-30」は共和国防衛隊ではなくシリア軍の管轄下にあります。下の画像は、Al-Tahで「BM-30」が発射した「9M55K」ロケット弾の残骸です。


 「9M55K」は「BM-30」から発射できるロケット弾の一種に過ぎませんが、野外に晒された歩兵に対して絶大な威力を発揮するために今でも好んで使用されています。ちなみに、このロケット弾には72個の「9N235」対人クラスター子弾が搭載されています。


 作戦がシリア全土で展開されるにつれ、「BM-30」はしばらく仕事に困ることないため、シリア内の別の地域に投入される可能性が十分に考えられます。このMRLの引渡しはロシアがアサド政権を支援していることを改めて示すものであり、両国の関係は時間とともに強まってきています。シリアに最近納入された「BM-30」や「UR-77」、その他の兵器は、今後の展開の兆しなのかもしれません。

【編訳者による補足】この記事が執筆された10年後の2024年12月にアサド政権が崩壊したことは周知のとおりです。この間にシリアの「BM-30」がキャッチされる機会がありませんでしたが、崩壊前日の12月4日の時点でアレッポのアル・サフィラとその郊外で放棄された個体が2台確認されました。[1]

 こうした発射機の損傷状況が修復可能なレベルか否かは判然とせず、ほかに存在するかもしれない個体を含めて新シリア軍が運用するのかは不明です。

アル・サフィラでシリア軍が遺棄した「BM-30」

[1] https://x.com/clashreport/status/1864188921598402660

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

2025年7月6日日曜日

【復刻記事】鋼鉄の野獣: シリア軍のT-62戦車


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年11月27日に「Oryx」本国版(英語)とベリングキャットで公開された記事を日本語にしたものです。10年前の記事ですので当然ながら現在と状況が大きく異なっていたり、情報が誤っている可能性があります(本国版ブログは情報が古くなったとして削除)。ただし、その内容な大いに参考となるために邦訳化しました。 

 登場当時の「T-62」戦車は技術的な奇跡の産物と考えられていました。なぜならば、最先端の115mm滑腔砲を搭載していたからです。しかし、この戦車は「T-55」から多くの問題を受け継いだだけでなく、さらに多くの新たな問題も生み出してしまいました。

 NATOが恐れていた115mm砲については、「T-55」の100mm砲で新型の砲弾が使用可能になったため、冗長なものとなってしまいました。この理由と毎分僅か4発という受け入れがたい発射速度が合わさって、「T-62」は同時代の戦車の中で「厄介者」となったのです。

 実際、ブルガリアを除くワルシャワ条約機構加盟国は「T-62」を導入せず、より多くの「T-55」を調達する道を選びました。

 それでも、この戦車は中東や北アフリカのソ連勢力圏内にある国々に広く輸出されています(注:2010年代後半においてもシリアやリビアへ供与された)。エジプトとシリアは実戦で「T-62」のテストを試みており、その後1973年の第四次中東戦争で投入したものの、期待に応える結果を得ることはできませんでした。

 1960年代の終わりから70年代にかけて、シリアは最大で800台の「T-62」を入手したと推測されています。このうち500台弱が依然として現役か予備兵器扱い、あるいは保管状態にあります。

 1962年に形式不明の戦車の追加バッチが納入されたとされていますが、結局その情報は誤ったものであり、実際は「T-55A」戦車のバッチでした。また、リビアから供給された「T-72」戦車に関する情報もありますが、独自には確認できていません。

 「T-62」の "1967年型"と"1972年型"の両モデルがシリアに納入されました。このうち後者がシリア陸軍で最も運用された型です。この型は空中からの脅威に対する防御力を高め、地上目標への使用も可能にする大口径の「DShK」12.7mm機関銃を装備しています:"1967年型"にはこうした対空用の機関銃はありません。


 「T-62」は1982年のレバノン戦争にも投入されました。ところが、シリア軍の戦車は第四次中東戦争よりも活躍したにもかかわらず、イスラエル軍の歩兵や戦車、そしてヘリコプターによる攻撃の結果、約200台もの「T-62」戦車が失われました。

 この戦争では「RPG-7」や「RPG-18」、「9K111 "ファゴット"」「ミラン」対戦車ミサイルで武装した遊撃対戦車部隊の方がはるかに活躍したことが知られています。ベイルートとその周辺で活動する彼らは、狭い路地で攻撃を実施して圧倒的な優位に立ったのでした。

 興味深いことに、シリア軍が保有していた「T-62 "1967年型"」の1台が南アフリカ国防軍に配備されていることが明らかとなっています。同軍はすでに仮想敵(OPFOR)訓練用としてだけでなく、アンゴラで将来起こりうるこれらの戦車との衝突に備えて評価するために「T-55」の部隊を運用しているのです。


 シリア軍の「T-55」とは対照的に、「T-62」は戦闘能力を向上させるための大幅な近代化改修を受けていません。その代わり、90年代には一部の「T-62」が保管庫送りにされています。現役で残っていた「T-62戦車」については、被占領地であるゴラン高原から遠く離れた場所に配備され、主に予備部隊によって運用されていました。

 少数の「T-62」戦車には、風力センサーを搭載するという小規模な改修が実施されました。本来ならば将来実施されるかもしれない近代化計画の試作車両として用いられる可能性が高かったものの、改修された戦車の数が極めて少なかったこともあり、同計画が開始されることはなかったようです。

 少なくともこの1台がシリア内戦で反政府軍に鹵獲されたことが確認されています。下の画像の改修型「T-62」には、「بشار(バッシャール)」と「منحبك يا بشار(我らはバッシャールを愛す)」の文字がペイントされています。


 シリア内戦は、シリア軍における「T-62」戦車の3度目の実戦投入でした。その大部分はシリア・アラブ陸軍に配備されていますが、ある程度は民兵組織である国民防衛隊(NDF)スクーア・アル・サハラ(デザート・ファルコン)にも配備されています。

 なお、残りの一部は戦略予備として保管状態のままです。 これは、シリア政府がいつでも数百台の戦車を投入することで戦闘による損失を埋め合わせができることを意味しています。もちろん、この状況はシリア・アラブ軍にとって有益なものとなっています。というのも、シリア軍が保有する戦車の数は減少し続けているからです(注:上述のとおり損失の埋め合わせに困らないため)。

 2台の「T-62」がタブカ市で活躍しました。残存した航空機やヘリコプターが空軍基地から脱出できるよう、滑走路の周囲を長時間にわたって防御したのです。

 他の「T-62」は砂漠地帯でスクーア・アル・サハラの攻撃部隊に参加しましたが、これらの戦車がこの部隊の指揮下にあったのか、それともシリア軍の管理下にあったのかは定かではありません(注:スクーア・アル・サハラはシリア軍の支援を受ける民兵組織だったため)。


 少数の「T-62」は僅かながらも防御力の向上が図られました。こうした改良は、一般的に戦車の運用者がどれだけの労力とリソースを投入したかによって度合いが左右されます。つまり、改良と一口で言ってもレベルはピンからキリまであるということです。例えば、単に土嚢で覆うという策(下の2番目の画像)から装甲版の追加といった大幅な改良まで、全く異なる改良がなされる場合があるわけです。

 このような応急的な改良は通常のロケット擲弾(RPG)に対して多少は役に立つ可能性があるものの、「T-62」をシリアの戦場に蔓延する非常に変わりやすい対戦車戦をめぐる情勢に持ちこたえる助けにはなりそうもありません。


 それでも、内戦によってシリアにおける鋼鉄の野獣が徐々に減少し、すぐに使用できる戦車の数も少なくなっているため、「T-62」戦車が今後の極めて過酷な戦いで非常に重要な役割を果たす可能性は高いと思われます。


2025年4月19日土曜日

【復刻記事】アサド政権への支援の規模が明らかに:ロシアの諜報施設「ツェントル-S」が制圧された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年10月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」と「ベリングキャット」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(注:Oryxでは削除されていますが、記録のためベリングキャットから翻訳しました)。

 2014年10月5日、自由シリア軍は、ロシアのオスナズGRU電子偵察局の特殊部隊オスナズとシリア情報機関の一つが共同で運用している「ツェントル-S(Центр С - المركز س)」SIGINT(信号情報収集)施設を占領しました(編訳者注:ここでリンクが張られていた動画はアカウント停止のため視聴不可)。 ハッラ近郊に位置するこの施設はシリア国内で活動する全ての反政府勢力の無線通信を傍受・解読する役目を担っていたため、アサド政権にとって極めて重要な施設でした。ここでロシアによって収集された情報が、一連の空爆による反政府勢力リーダーの殺害に(少なくとも)部分的に関係している可能性が高いと思われます。

 公開された動画の3:08では 、「5月31日に調査局から出された、テロ集団の全無線通信を盗聴・録音せよという命令は、第一センターの司令官ナズィル・ファッダ准将の署名入りだ。」と読み上げられています。

 この施設は最近になってシリアとイランに中東の状況認識を提供するため、ロシアによって改修・拡張されました。1月から2月中旬にかけて行われた改修後は、イスラエルとヨルダンの全域、そしてサウジアラビアの大部分をカバーしたと伝えられています[1]。

 報道によれば、この改修はイランの懸念に対する反応だったようです。この施設がシリア内戦に注力しすぎているため、イスラエルへの諜報活動がおろそかになっているというわけです。こうして新しい資機材と追加要員が基地に配備されたわけですが、鹵獲時には固定式かつ使い古されたようなアンテナ類しか残されていないなかったため[2][3]、より現代的な資機材とロシア人要員の撤収は数日から数週間前に行われたことは間違いないでしょう。

 この施設が正式に「ツェントル-S(SはシリアのSかスペシャルのSと思われる)」と命名されていたかどうかは不明ですが、ほかにもロシアとシリアのシギント施設が少なくとももう1か所あることが知られています。下の画像にあるのは、この「ツェントル-S2」という施設の開設10周年を記念した勲章です。


 「ツェントル-S」のロシア側運用者は、ロシア軍内の無線・電子諜報活動を担当していたGRUのオスナズでした。この部隊についてはあまり知られていませんが、ロゴを下の画像で見ることができます:それぞれ、「Части особого назначения(特殊任務部隊、つまりオスナズ)」と「Военная радиоэлектронная разведк(軍事電子情報収集)」と書かれています。



 占領された施設内の壁には、ロシアによる中東への関与をあらためて強調するさまざまな写真が掲示されていました。そこにはイスラエル軍の基地や部隊の配置が記された地図さえあったのです。ほかの写真には、この施設で働くロシア人要員の姿だけでなく、ロシア国防相顧問のリュボフ・コンドラチェフナ・クデーリナ氏の訪問も紹介されていました(注:クデリーナ氏は経済・財政担当の副国防相)。


「Совместная обработка информации российскими и сирийскими офицерами/معالجة مشتركة للمعلومات بين الضباط السوريين والروس( ロシアとシリアの将校による共同での情報処理/分析」と書かれている。

 下の画像は、「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」と書かれたコーナーを映したものです。赤い罫線で囲まれた6行の文字列には、歴代センター長の階級・氏名・在任期間が記されています。6人全員の階級は「Полковник(大佐)」のようすが、苗字は判読できません。

「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」

 下の画像には、「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)」と書かれていますが、彼女はKudelina L.K.です。ここでは名前をミスして表記したものと思われます。


「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)

「Рабочий визит начальника ГУ МВС ВС РФ( ロシア連邦軍国際軍事協力総局長が訪問)」

 下の地図に記されている「情報源」は、電波の発信源を示しているようです。

「Объекты、и источники северного военного округа ВС Израиля(イスラエル軍北部軍の基地と情報源)」

「Карта радиоэлектронной обстановки (電波環境図)」

[1] http://www.washingtontimes.com/news/2012/feb/29/russia-upgrades-radar-station-syria-aid-iran/
[2] http://youtu.be/RiQWr4SfVx0 ※アカウント停止のため視聴不可
[3] http://youtu.be/pEYrbcWpjH8?t=4s

特別協力: PFC_JokerMark Anthony(敬称略)

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

おすすめの記事