著:シュタイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo)
この記事は、2022年2月2日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
数発の魚雷を装備して素早い機動性を誇るこれらの深海の狩人たちは、その小型さゆえに侮ることはできません。2010年、北朝鮮の潜水艇が韓国海軍の浦項級コルベット「天安」を撃沈した事件は、この種の潜水艇がもたらす脅威を改めて示すものだったと言えます。
「天安」のアクティブ・ソナーは前日からその海域に潜伏していた北朝鮮の潜水艇を探知できなかったため、逆に潜水艇が警戒を怠っていた標的に対して533mm魚雷1発を発射・命中させたのです。この悲劇を引き起こした潜水艇は誰にも気づかれることなく北の暗い海へと姿を消し、小型潜水艦の威力を痛感させる悲劇的な出来事にしたのでした。
今日、小型潜水艦の設計や運用を続けている国は世界的に見てもごく少数です。通常の攻撃型潜水艦に比べ、設計が比較的容易で調達コストも低いものの、航続距離が短い上に軽武装の場合が多いことから、ほとんどの海洋国家にとってその導入は理にかなった選択とは言えません。
小型潜水艦(潜水艇)の配備に適した海洋・地理を備えた国のみが、その運用に関心を示しているのが現状です。そうした国にはインドネシア、イランや北朝鮮などが含まれており、後者の2か国は多数の小型潜水艦を運用していることはよく知られています。その他に思い浮かぶのは、エーゲ海をめぐる紛争に巻き込まれているトルコとギリシャです。
エーゲ海には潜水艦にとって天然の隠れ家となる島々が点在しているため、この海域は「サブマリナーの楽園」と呼ぶにふさわしいものとなっています。トルコ海軍がエーゲ海に小型潜水艦隊を配備すれば、ギリシャによる対潜戦(ASW)は著しく困難になり、エーゲ海と地中海の一部は、かつてないほど危険な海域と化すでしょう。
この理屈はギリシャ海軍にも当てはまります。この国は現在、ドイツからさらに「214型」潜水艦を購入する資金が不足しているため、より安価な選択肢として、40年以上使用している「209型」潜水艦の一部を小型の潜水艦に置き換えることを検討している可能性があるからです。
トルコの小型潜水艦の設計開発も、国際市場で成功を収めるための絶好のポジションにあるようです。すでにトルコのUCAVやAUSVの成功によって実証されているように、トルコの防衛企業は、さらなる市場への参入と制覇を見据えているのです。[1] [2]
AUSV市場と同様に、トルコの造船所が小型潜水艦を海外に売り込む場合、入札競争に直面する可能性は比較的低いと思われます。現時点で小型潜水艦を輸出している国は北朝鮮と中国のみですが、北朝鮮は兵器の供給源としては、(ごく一部の国を除けば)世界の国々から除外されてしまいます。中国はこれまで、自国の潜水艦の海外販売においてほとんど成果を上げていません。これらの状況を踏まえると、トルコが近い将来に小型潜水艦市場で独占的な地位を確立する可能性も決してあり得ない話ではないわけです。[3]
| Artwork by HI Sutton. |
トルコが有する2種の小型潜水艦(案)には、両タイプとも小型潜水艦に分類される一方で直接の競合関係にはないという、さらなる利点があります。STM社が開発した「STM500」は、攻撃型潜水艦の多くの能力を低コストで実現しており、その点が高く評価された結果、すでに最初の海外顧客を獲得しました。そして、ディアサン造船所が開発した「L Sub 33」は、ミゼット潜水艦に近いという違った特性を備えているのです。[4]
トルコによるエーゲ海への小型潜水艦配備が「ゲームチェンジャー」になると主張する意見もあるようですが、むしろ「マーケットチェンジャー」と表現する方が適切だと言えるのではないでしょうか。これまで現代的な潜水艦を購入する資金がなかった国々も、今や世界的な影響力を拡大しつつある政治的中立国であるトルコから、手頃な価格でそれらを購入できるようになったからです。
この「現代的な(小型)潜水艦」には「STM500」や「L Sub 33」だけでなく、非大気依存推進(AIP)システムを搭載した全長60メートルの国産攻撃型潜水艦「TS1700」も含まれる予定となっています。この設計自体はドイツ・トルコ共同開発の「214TN型」潜水艦が持つ多くの特徴を備えており、現在韓国とドイツが輸出向けに売り込んでいる「209型」及び「214型」の直接的な競合相手として位置づけられています。[5]
今やトルコが、大型攻撃型潜水艦、異なるクラスの小型潜水艦2種に加え、浸透作戦用の超小型潜水艦を輸出できるようになったという事実は、ドイツやフランス、韓国といった国々の不利益と引き換えに、潜水艦市場に大きな波紋を呼ぶ可能性があるでしょう。
今後10年以内にトルコ製潜水艦を導入する可能性のある国には、インドネシア、ウクライナ、パキスタン、カタール、トルクメニスタン、フィリピンなどが挙げられます。
かつては調達コストが安いという理由で中古潜水艦を購入せざるを得なかった国々でさえ、今では新造艦を調達できるようになりました。なぜならば、前述の新型艦がようやく財政的に手の届く範囲に来たからです。こうした国には、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、コロンビア、ペルー、エクアドル、チリなどが含まれます。
ほんの数年前まではトルコがドイツの潜水艦に依存していたにもかかわらず、現在ではトルコ製の潜水艦が欧州の数か国の海軍で使用されるという構想は、決して荒唐無稽な話ではなくなっているのです。
![]() |
| STM500の決定デザイン |
STM社の「STM500」は、現在販売されている小型潜水艦の中で最も先進的な設計であり、AIPシステム、(計8発の魚雷を搭載可能な)4基の魚雷発射管、射程220km前後の「アトマジャ」対艦巡航ミサイル、機雷敷設能力、そして自律型無人潜水機(AUV)や特殊部隊を展開する能力といった大型攻撃型潜水艦が持つ多くの性能も備えています。[6]
運用については、国産設計の海軍戦闘管理システムによって制御されます。18人の乗組員で、(AIPシステムを使用すれば)最大4000海里(7,408キロメートル)の航続距離と最大30日間の作戦活動が可能です。これは、ドイツの「212型」のような大型攻撃型潜水艦の約半分に相当します。
すでにSTMは、潜水艦の設計・建造・改修の分野で豊富な実績を有しています。現在、同社はトルコ海軍向けに214TN型「レイース」級潜水艦を建造しているほか、同海軍が保有する旧式の「209型」の改修も手掛けているのです。[7]
同社の事業は、トルコ海軍の潜水艦だけでなく、パキスタン海軍の「アゴスタ90B」級潜水艦も対象としています。2016年、STMはパキスタン海軍が保有する「アゴスタ90B」級潜水艦2隻の近代化改修契約を3億5000万ドルで獲得しました。皮肉なことに、40年以上前にこれらの艦を建造したフランス企業を差し置いて落札したのでした。[8]
「STM500」の設計はすでに完了しており、2022年に最初の1隻が建造される予定です。発注元は非公開ですが、ウクライナ、とりわけパキスタンが有力な候補とみられています(編訳者注:2026年に完成予定で発注国はいまだ公表されていない)。[4]
トルコ海軍が小型潜水艦の導入を検討しているか否かは現時点では判然としません。海軍の潜水艦隊は現在、計6隻の「214TN」級潜水艦のうち、最初の1隻の引き渡しを受けている最中です(編訳者注:2026年現在で2隻が就役、1隻が艤装中である)。
これらが就役した後、トルコは完全国産の攻撃型潜水艦「MILDEN」級の建造に着手する予定です。また、将来を見据えてエーゲ海での運用を目的として数隻の小型潜水艦を導入し、地中海での作成に従事する「214TN」級の負担軽減を図る可能性があります(編訳者注:「MILDEN」級の建造は2025年1月に開始された)。
| MILDEN級 |
| MILDEN級潜水艦(IDEF2025にて撮影) |
ディアサン社が設計した小型潜水艦は、スウェーデンの「A26」級潜水艦を彷彿とさせる独特の艦首が特徴的です。「L Sub 33」は、ナイジェリアやトルクメニスタンにおける数多くの水上戦闘艦で既に大きな成功を収めているディアサン造船所が設計した初の潜水艦であることも記しておきます。[9] [10]
これらの国は「L Sub 33」の潜在的な顧客でもあり、トルクメニスタンによる潜水艦の導入は、この10年以内に実現する可能性が高いでしょう。実際、「L Sub 33」が、トルクメニスタン海軍が求める小型潜水艦の要件を満たすために特別に設計されたものである可能性も、決して非現実的だとは言い切れません。
この小型潜水艦の全長は33.6メートルで、「STM500」よりもかなり小型となっています。
AIPシステムは搭載していないものの、この艦は隠密性の高い浸透任務に適した設計となっており、1600海里(2963.2キロメートル)という航続距離と水中スラスターがその強力な武器となります。小型であることに伴い、搭載兵装は533mm魚雷2発と沈底機雷6発のみです。[11]
「L Sub 33」の乗員は6~8名で、さらに8名の特殊部隊を乗せることが可能で。特殊部隊員は魚雷発射管の下にある潜水準備室を通じて潜水艦への出入りを行うようです。こうした能力を備える「L Sub 33」は、本質的に「ハンター・キラー型潜水艦」と「浸透型潜水艦」の機能を一つに融合させた設計となっています。
ディアサン社が手掛けたもう1つの小型潜水艦の設計案は、「多目的SEAL潜水艦」の仮称で呼ばれており、フロッグマンや特殊部隊を敵の海域の奥深くに潜入させることを目的に特別に設計されたものです。
この小型潜水艦の全長は33.6メートルで、「STM500」よりもかなり小型となっています。
AIPシステムは搭載していないものの、この艦は隠密性の高い浸透任務に適した設計となっており、1600海里(2963.2キロメートル)という航続距離と水中スラスターがその強力な武器となります。小型であることに伴い、搭載兵装は533mm魚雷2発と沈底機雷6発のみです。[11]
「L Sub 33」の乗員は6~8名で、さらに8名の特殊部隊を乗せることが可能で。特殊部隊員は魚雷発射管の下にある潜水準備室を通じて潜水艦への出入りを行うようです。こうした能力を備える「L Sub 33」は、本質的に「ハンター・キラー型潜水艦」と「浸透型潜水艦」の機能を一つに融合させた設計となっています。
![]() |
| L Sub 33の最終デザイン |
ディアサン社が手掛けたもう1つの小型潜水艦の設計案は、「多目的SEAL潜水艦」の仮称で呼ばれており、フロッグマンや特殊部隊を敵の海域の奥深くに潜入させることを目的に特別に設計されたものです。
全長19.2メートルのこの流線型の船は航続距離が約100海里(185.2キロメートル)あり、2名の乗員に加え、8名のフロッグマンや特殊部隊員を乗せることが可能です。[11]
ディアサンの他の艦艇設計と同様に「多目的SEAL潜水艦」も輸出専用に設計されたものと思われますが、将来的には、トルコ海軍が求める特殊部隊とその装備を輸送するためのステルス性のある輸送艇としての要件を満たす可能性も否定できません。
ちなみに、ディアサン社はこれら2種類の小型潜水艦に加え、600kgのペイロードと50海里(92.6キロメートル)の航続距離を持つ全長6.5メートルのAUVも開発しています。[11]
小型潜水艦 - ハンターキラー
小型潜水艦 - 浸透・潜入作戦用
[1] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[2] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[3] CSIC_MS200 http://www.hisutton.com/CSIC_MS200.html
[4] https://twitter.com/TayfunOzberk/status/1460217754670313481
[5] Submarine TS1700 https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/submarine-ts1700
[6] IDEF 2021: Turkish industry unveils three new submarine designs https://www.navalnews.com/naval-news/2021/08/idef-2021-turkish-industry-unveils-three-new-submarine-designs/
[7] Turkish Navy Type 209-1200 AY Class Submarine Modernization Project https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/turkish-navy-type-209-1200-ay-class-submarine-modernization-project
[8] Despite French Sanctions, Turkey Making Progress in Pak's Agosta 90B Sub Upgrade https://www.defenseworld.net/news/26416/Despite_French_Sanctions__Turkey_Making_Progress_in_Pak_s_Agosta_90B_Sub_Upgrade
[9] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[10] Bigger Business: Turkey Unveils F142 Frigate Design https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/bigger-business-turkey-unveils-f142.html
[11] L Sub 33 http://www.dearsan.com/pdfler/DEARSAN%2033m%20LSUB.pdf
おすすめの記事
ディアサンの他の艦艇設計と同様に「多目的SEAL潜水艦」も輸出専用に設計されたものと思われますが、将来的には、トルコ海軍が求める特殊部隊とその装備を輸送するためのステルス性のある輸送艇としての要件を満たす可能性も否定できません。
ちなみに、ディアサン社はこれら2種類の小型潜水艦に加え、600kgのペイロードと50海里(92.6キロメートル)の航続距離を持つ全長6.5メートルのAUVも開発しています。[11]
| 多目的SEAL潜水艦 |
小型潜水艦 - ハンターキラー
STM500 [STM] (6発の「アクヤ」533mm魚雷、「アトマジャ」AShMs または 機雷で武装可 )
L SUB 33 [ディアサン] (2発の「アクヤ」533mm魚雷 または 6発の沈底機雷で武装可)
小型潜水艦 - 浸透・潜入作戦用
多目的SEAL潜水艦 [ディアサン] (8名のフロッグマンを収容可能)
| L SUB 33の透視図(初期デザイン) |
[1] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[2] The Market Leader: Turkey’s Indigenous Unmanned Surface Vessels (USVs) https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-market-leader-turkeys-indigenous.html
[3] CSIC_MS200 http://www.hisutton.com/CSIC_MS200.html
[4] https://twitter.com/TayfunOzberk/status/1460217754670313481
[5] Submarine TS1700 https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/submarine-ts1700
[6] IDEF 2021: Turkish industry unveils three new submarine designs https://www.navalnews.com/naval-news/2021/08/idef-2021-turkish-industry-unveils-three-new-submarine-designs/
[7] Turkish Navy Type 209-1200 AY Class Submarine Modernization Project https://www.stm.com.tr/en/our-solutions/naval-engineering/turkish-navy-type-209-1200-ay-class-submarine-modernization-project
[8] Despite French Sanctions, Turkey Making Progress in Pak's Agosta 90B Sub Upgrade https://www.defenseworld.net/news/26416/Despite_French_Sanctions__Turkey_Making_Progress_in_Pak_s_Agosta_90B_Sub_Upgrade
[9] Maritime Success: Nigeria Orders Turkish OPV 76s https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/maritime-success-nigeria-orders-turkish.html
[10] Bigger Business: Turkey Unveils F142 Frigate Design https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/bigger-business-turkey-unveils-f142.html
[11] L Sub 33 http://www.dearsan.com/pdfler/DEARSAN%2033m%20LSUB.pdf
お知らせ:2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました
お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました








