2023年1月31日火曜日

恐怖の24時間:「エル・チャポ」の息子の拘束で生じた軍と麻薬カルテルの損失(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 2023年1月5日、収監中の麻薬王「エル・チャポ」ことホアキン・グスマンの息子オビディオ・グスマンがシナロア州で逮捕されたことにより、同州に暴力の波が巻き起こりました。逮捕の報復として、麻薬カルテルのメンバーが炎上する車で道路を封鎖したり、軍に攻撃を仕掛けたりしたのです。

 この銃撃戦ではクリアカン国際空港に駐機していた2機(1機は旅客機、もう1機は軍用機)が銃撃されたため、最終的に同空港の閉鎖にまで発展しました。

 2023年1月8日現在までに、少なくとも兵士10人、警察官1人、シナロア・カルテルの構成員と思われる19人が殺害されたと報じられています。[1]

 この流血事態は、メキシコ軍にカルテルのメンバーを制圧するために航空機やヘリコプターを用いた作戦の開始を招くという結果をもたらしました。[2] [3]

武力衝突が行われた場所を示す地図はここで見ることができます

  1. 以下の一覧では、この衝突で撃破、損傷または鹵獲された両陣営の装備を掲載しています。
  2. この一覧には、民生車及び道路を封鎖するために使われた(燃やされたものを含む)車両は掲載されていません。
  3. ただし、オビディオ・グスマンの邸宅で鹵獲された彼の車は含まれています。
  4. この一覧に掲載されているものについては、画像や映像などの視覚的証拠に基づいて撃破などが確認されたものだけを掲載しています。したがって、実際に生じた損失はここに記録された数より多い可能性が極めて高いでしょう。
  5. 各装備名をクリックすると、撃破や鹵獲などされた当該装備の画像が表示されます。


メキシコ軍 (6, このうち撃破: 2, 損傷: 4)

歩兵機動車 (3, このうち撃破: 1, 損傷: 2)

テクニカル (1, このうち撃破: 1)

航空機 (2, このうち損傷: 2)


シナロア・カルテル(41, このうち撃破: 15, 鹵獲: 26)

ガン・トラック (2, このうち鹵獲: 2)

テクニカル (3, こうのうち撃破: 1, 鹵獲: 2)

車両 (36, このうち撃破: 14, 鹵獲: 22)

  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。



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2023年1月28日土曜日

見つけにくい戦車ハンター:マリ軍の「9P133」自走式対戦車ミサイルシステム(短編記事)



著:トーマス・ナハトラブ in collaboration with ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 マリ軍は、ソ連から受け取った大量の装甲戦闘車両(AFV)を運用していました。
 
 同軍はT-54B戦車、PT-76水陸両用戦車、BTR-60装甲兵員輸送車(APC)を大量に導入したことに加えて、さらにいくつかの重装備も、より多く存在するAFVの影で運用されていました。これらのうちの1つが、BRDM-2偵察車の対戦車型である9P133「マリュートカ」です。

 9P133は、本来の銃塔の代わりに9M14「マリュートカ」対戦車ミサイル(ATGM)を6発搭載した昇降式発射機を備えています。初期型である9P122「マリュートカ」と比較すると9P133は光学機器が改良されており、より高性能な9M14P及び9M14P1ミサイルを発射することが可能で、使用するミサイルの種類に応じて最大で18発を搭載することができます。また、9P133は操縦手と発射要員からなる2名の乗員によって運用されます。

 ワルシャワ条約機構の加盟国や中東諸国で大量に運用されたこの車両は、後に9M111「ファゴット」9M113「コンクールス」ATGMを5発搭載した9P148「コンクールス」に取って代わられましたが、現在ではこれらの車両も一部の国を除いて世界中で現役を退いています。

 マリに9P133が引き渡された正確な時期は不明のままですが、SIPRIの武器移転データベースによると、マリ軍は1975年にソ連から20台のBRDM-2を受領しています。[1]

 CIAが公開した機密情報によると、1985年までにマリに最大で128台のBRDM-2が引き渡されており、そのうちのいくつかは9P133であった可能性があります。[2]

 彼らの唯一知られている公に姿を現した機会は1991年3月のことであり、そのときには6台が大規模な軍事パレードに登場しました。この数は、マリにおける9P133の全保有数に相当すると思われます。[3]

 残念ながら、彼らの運用歴については1985年のブルキナファソとの国境紛争に参加したかどうかも含めて、これ以上は何も判明していません。

 9P133のキャリアは、治安情勢の変化と国防費の削減の渦中にマリ軍が重火器の大半を退役させた1990年代のどこかで終わったと考えられています。ニッチな役割を果たしていたことが、9P133を最初にスクラップされた車両の1つにして、マリで運用されていたこの把握し難い戦車ハンターのキャリアを終わらせたことは間違いないでしょう。



[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] THE SOVIET RESPONSE TO INSTABILITY IN WEST AFRICA https://www.cia.gov/readingroom/document/cia-rdp86t00591r000300440002-2
[3] "L'armée malienne sous Moussa Traoré : dernier défilé avant mars 1991" https://youtu.be/pHDTs-BA2XM?t=789

 ものです。


 

2023年1月21日土曜日

大公国からの大規模な贈り物:ルクセンブルクによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 もともと軍事力をほとんど持っていない国が、どうやってウクライナ軍に軍事支援をするのでしょうのか?ロシアがウクライナに侵攻を開始した直後の2月下旬に、ルクセンブルク大公国はそう自問したに違いありません。

 ベルギーが2022年11月になってもその答えを出せずに苦悩している一方、ルクセンブルク軍は素早く対応して、2022年2月28日にジープ「ラングラー」7台、「NLAW」対戦車ミサイル(ATGM)102発、軍用テント15セットを即座にウクライナへ寄贈しました。[1]

 すでにウクライナへ引き渡された追加の物的支援の中には、プリモコ「One 150」無人偵察機6機、「ハンヴィー」歩兵機動車(IMV)28台、「M2」12.7mm重機関銃20門、防弾チョッキ5,000着、ヘルメット5,000個、暗視ゴーグル470個、そして防毒マスク22,400個が含まれています。この数量はチェコやドイツといった国からウクライナに提供された大量の兵器や装備に比べると感銘を与えるような規模とは言えないと思えるかもしれませんが、ルクセンブルクの寄贈は自国が有するストックの大部分を占めています。この事実はゼレンスキー大統領が看過することなく2022年6月に「(ルクセンブルクの)国家の偉大さと気高さが直に感じられる」と述べて謝意を示しました。[2]

 実際、2022年11月現在までの時点でルクセンブルクはすでに防衛予算の約15%(約7,500万ユーロ:約106億円)分をウクライナへ寄付しているのです。[3]

 2022年11月、ルクセンブルク国防相は「ハンヴィー」IMV28台と「M2」12.7mm重機関銃20門の寄贈を発表し、さらに「ルクセンブルクは必要な限りウクライナを支援する」と表明しました。また、ルクセンブルクはソ連時代の弾薬の調達どころかウクライナの代わりに6機のUAVさえも購入しています。[4] [5]

 この国による今後の軍事支援が厳密にどのようなものになるのかは、依然として謎のままです。ルクセンブルク軍が保有している42台の「ハンヴィー」と48台の「ディンゴ」MRAPは2028年までに80台のGDELS-モワク「イーグルV」に更新される予定になっており、同軍が保管していた予備の「ハンヴィー」は2022年11月の28台を引き渡した後にゼロになったかもしれません。

 自国のストックから追加の軍事支援を提供するよりは、ルクセンブルクがウクライナ政府に他国からの武器を調達可能にさせるウクライナ安全保障強化基金に貢献したり、ウクライナの代わりにベルギーの防衛企業から兵器類を直に調達し続ける方が現実的に可能な方策と言えるでしょう。

 また、ルクセンブルク軍は15,000人のウクライナ兵を訓練する欧州連合の「ウクライナ支援のための軍事支援ミッション(EUMAM)」でも役割を果たす予定となっています。[6]

 ウクライナのために多大な貢献を果たすことについて、大きな国や軍隊を持つことを条件としているわけではないことをルクセンブルクが証明していることは言うまでもありません。
 
ルクセンブルク唯一の「A400M」輸送機が寄贈する軍用装備をポーランドまで輸送し、そこからウクライナに引き渡された

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の最中にルクセンブルクがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されています)。
  3. 一部の武器供与については機密扱いであるため、寄贈された武器などの数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

無人偵察機

対戦車ミサイル
  • 102 NLAW [2022年3月]

歩兵機動車

車両

小火器
  • 20 ブローニング「M2」12.7mm重機関銃 [2022年11月] (「ハンヴィー」用)

弾薬
  • 600 122mmロケット弾(「BM-21 "グラート"」用) [2022年9月から10月の間に引き渡し] (第三国から調達後にウクライナへ引き渡し)
  •  12,500 RPG-7用擲弾 [2022年4月] (同上)
  •  20,000 12.7mm機関銃弾 [2022年3月]

被服類
  •  5,000 防弾チョッキ [2022年5月] (国際市場から調達)
  •  5,000 ヘルメット [同上] (同上)
  •  22,400 エイヴォン・プロテクション「C50」防毒マスク [2022年4月から6月の間に引き渡し] (44,800個のフィルターと共に引き渡し) (メーカーから直に調達)

その他の装備品類

  • 470 暗視ゴーグル 2022年8月]
  • 50 「Satcube Ku」ポータブル型 ブロードバンド衛星端末とiDirect「iQ 200」モデム(定額の衛星通信サービス付き)[2022年7月から10月間に引き渡し] (メーカーから直に調達)
  • 15 軍用テント [2022年3月]
  • 358 防水・防寒寝袋 [2022年9月]
  • 18 発電機 [2022年11月]
  • 6 携帯式軍用ヒーター [2022年9月]
  • 10 スタンドライト [2022年11月]
  • 800 レーション (MRE) [2022年9月]
  • 30 防水・防寒3Dスキャナー [2022年11月] (ロシアの戦争犯罪の捜査で使用)

特別協力: CalibreObscura氏(サブタイトルを提案)

[1] Luxembourg to send anti-tank weapons, jeeps to Ukraine, defence minister says https://web.archive.org/web/20220307070451/https://www.reuters.com/world/luxembourg-send-anti-tank-weapons-jeeps-ukraine-defence-minister-says-2022-02-28/
[2] Luxembourg commits 15% of its defense budget to support Ukraine: Zelensky https://edition.cnn.com/europe/live-news/russia-ukraine-war-news-06-22-22/h_131fd28221e6461e63694bbdb21ac8ff
[3] https://twitter.com/Defense_lu/status/1598610977364115462
[4] https://twitter.com/Francois_Bausch/status/1594639091064258560
[5] https://i.postimg.cc/cCh9SsTQ/image.jpg
[6] https://twitter.com/Francois_Bausch/status/1594604144358457345

※  当記事は、2022年11月23日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。

2023年1月15日日曜日

実際はどの程度?:NATOがウクライナに供与した兵器と損失数

撃破された「M777」155mm榴弾砲

 著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 2022年のロシア・ウクライナ戦争は、ロシア軍に影響を及ぼす諸問題と、1990年代から2000年代初頭にかけての長い衰退期の後に2010年代におけるロシアの軍備増強が茶番劇じみていたことを露わにしました。

 戦線の全体で主導権を喪失し、現時点ではその流れを変えることができない状況で戦線を安定させるために残されたロシアの希望は、ロシアにとって有利な条件でウクライナを交渉のテーブルに座らせるために行う将来的なイランの徘徊兵器及び弾道ミサイルの大量使用か総動員の発動しかありません。

 それらが最終的に戦争の行方にどのような影響を及ぼすにせよ、ロシアの指導部が自国の能力を完全に過大評価し、それと同時にウクライナ人の祖国防衛の決意をひどく過小評価していたことは間違いないでしょう。

 想像し得るほぼ全ての種類の武装を西側諸国から安定的に供給され、これらの新しい兵器システムを戦場で適切に投入するための十分な戦闘経験を持ったウクライナ軍は、間違いなく2月24日以来最強の状態にあると言えます。[1]

 対照的に、ロシア軍はウクライナで士気どころか強いというイメージさえも失ってしまいました。軍の能力を国内の人々に納得させるため、ロシア国防省はウクライナにおける戦闘実績で醜悪な誇張をしたり、身繕いのために真っ赤な嘘をつく必要に追い込まれました。

 例としては、(主張された時点で)ウクライナに納入された16基の「HIMARS」のうち20基を破壊・鹵獲したとされるものや、ウクライナに納入された約50機の「バイラクタルTB2」のうち(メーカーの「バイカル・テクノロジー」社がこれまで450機しか製造していないにもかかわらず)1,000機を撃墜したと報じたものが挙げられます。[2]

 一方、ロシアはほとんどの戦線で劣勢に立たされており、ウクライナの「HIMARS」及び「M270 "MLRS"」や西側諸国から供与された榴弾砲類の運用面での最大の脅威は、ロシアの対砲兵射撃や徘徊兵器による破壊ではなく、継続的な運用に伴う弾薬不足と砲身摩耗のようです(注:2022年11月ころから徘徊兵器による被害が増加する傾向にある)。

 ウクライナに供与された約160門の「M777」155mm牽引式榴弾砲のうち、撃破されたことが視覚的に確認されたのは28門です。[3]

 また、ロシアは20基の「HIMARS」を撃破したと主張しているものの、その1基でも撃破を裏付ける証拠を提示したことはありません。

 (この記事を執筆した2022年10月下旬の時点で)実際にロシア軍の手によって損害を被っているのは、主に旧ソ連製の戦車や西側諸国製のAPCの提供を受け、ヘルソン奪還の先頭に立っているウクライナの機械化部隊だけなのです。


  1. この記事は、視覚的証拠に基づいて確認された西側諸国が出所の重装備の損失とその特定のカテゴリーで引き渡された供与兵器の総量をリストアップすることを試みたものです。
  2. この一覧には、画像または映像による証拠で確認できる破壊された車両および兵器類のみを掲載しています。したがって、実際に撃破された車両・重火器の量はここに記録されている数よりも多いと思われます。
  3. 損傷した兵器類や対戦車ミサイル(ATGM)、携帯式対空ミサイルシステム(MANPADS)、トラックはこのリストに含まれていません。
  4. この一覧は、2022年2月24日以降にウクライナへ引き渡されたされた兵器類のみを対象としています。
  5. 2月24日以前と以降に納入されたものを区別するために、各国固有の車種や迷彩パターン、製造番号などの特徴を活用しています。
  6. 以下の項目は兵器の種類ごとに分類されており、国旗は供与した国を示しています。
  7. この統計については、新たな損失が確認され次第に更新していく予定です。
  8. 各兵器の名称の後に示されている数字をクリックすると、破壊または鹵獲された当該兵器の画像などが表示されます。


戦車: 約410台供与 - 40台の損失を確認



歩兵戦闘車:約250台供与 - 5台の損失を確認

 

装甲兵員輸送車: 約1,100台供与 - 45台の損失を確認



MRAP: 約925台供与 - 36台の損失を確認 

 

歩兵機動車: 約1,540台供与 - 45台の損失を確認

 

牽引砲: 約300門供与 - 34門の損失を確認

 

自走砲: 約220台供与 - 18台の損失を確認



対空砲:少量が供与 - 1門の損失を確認


無人航空機: 約415機供与 - 22機の損失を確認


[1] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[2] Lost In Lies: Keeping Track Of Russian Propaganda Claims https://www.oryxspioenkop.com/2022/10/lost-in-lies-keeping-track-of-russian.html
[3] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html

※  当記事は、2022年10月29日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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