著:ステイン・ミッツァー(編訳:Tarao goo)
トランスニストリア、公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれているこの国は、1990年に沿ドニエストル・ソビエト社会主義共和国として独立を主張して続く1992年にモルドバから離脱して以来、隠れた存在であり続けている東ヨーロッパの分離独立国家です。
1992年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの情勢は非常に複雑です。この離脱国家は(平和維持活動で軍隊を残留し続けている)ロシア連邦への加入を希望している一方で、わずかな生産物の輸出をモルドバに大いに依存し続けており、それが経済産出量となっているためです。それにもかかわらず、沿ドニエストルは独自の陸軍だけでなく空軍すら保有する事実上の国家として機能しています。
注目すべき発展は沿ドニエストル独自の軍需産業で見ることができます。そこではモルドバ内戦中に非常に活発的となり、モルドバ軍に対して使用する装甲兵員輸送車(APC)や複数の多連装ロケット弾発射機(MRL)を含むさまざまなDIY兵器を生産していました。停戦後、この軍需産業はこれまでに旧ソ連製兵器のストックを置き換えることができなかった沿ドニエストル軍の運用状況を維持する上で重要な役割を果たそうとしました。
この状況を改善するために国内で多くの動きがありましたが、程なくして沿ドニエストルは少なくとも(その時点で)軍が使用できる装甲戦闘車両(AFV)の寄せ集めを埋め合わせるために独自のAFVの製造を始めました。私達は既に以前の記事で「BTRG-127 'バンブルビー'APC」と「プリボール-2」多連装ロケット砲を取り上げていますが、今回紹介する車両はその珍しさと可愛らしい姿でそれらの一群に歓迎すべき追加となります。
滅多にお目にかかれないソ連のGT-MU軽多目的装甲車がベースである「小さなタンクバスター」は、小さくて軽快なプラットホーム車両とSPG-9 73mm無反動砲(RCL)を組み合わせたものです。そして、この組み合わせは不用心な敵に対する待ち伏せや車両や要塞化された構造物、集結した敵歩兵に対する火力支援任務に理想的に適した移動プラットホームを形成します。
2018年11月にT-64BV戦車や対戦車砲、重迫撃砲と共に火力演習に参加した状況から、少なくとも3台が運用状態にあることが確認されています。
今日の世界ではGT-MUが登場することは極めて珍しいので、このキャッチしにくい車両の存在自体を知る人は殆どいません。
それにもかかわらず、同車はSPR-1移動式電波妨害システムを含むいくつかの高度に特化された派生型のプラットホームとしても使われました。SPR-1は電波妨害によって迫撃砲や野砲から発射された砲弾の近接信管を電波妨害によって無力化するシステムで、ソ連、チェコスロバキア、ハンガリー、シリア、東ドイツで運用されましたが、東ドイツではたった2台だけしか入手していません。小火器や砲弾の破片から上手く防護されているため(注:装甲自体は同じため)、同車は偽装網がかぶせられていると通常のGT-MUと判別が難しくなり得ることでその悪名をとどろかせています。
GT-MUがどのようにして沿ドニエストルの手に入ったのかは過去にこの地域に駐留していたソ連地上軍第14軍の装備編成から知ることができます。ソ連崩壊後、軍を形成していた多くの兵員と装備は駐留していた地に新しくできた国家に属するようになりました。沿ドニエストルが支配地にある武器貯蔵庫を掌握した時点で歩兵戦闘車両や(自走式を含む)野砲は殆ど残されていませんでしたが、大量の特殊車両を引き継ぐことができました。
このような経緯で沿ドニエストル軍は突然として明確な用途が定まっていない大量のGT-MUの所有者となったのです。しかし、GT-MUは当初から多目的プラットホームとして設計されていたため、沿ドニエストルは同車のいくつかを砲兵・MRL部隊の指揮観測車に転換し、残りを砲兵の牽引車や今では即席の対戦車車両として採用しています。
結果として得られた車両は沿ドニエストルの軍需産業によって大量生産された他のDIY装備群よりは間違いなく革新的ではありませんが、「タンクバスター」の武装は同国のもっともらしい唯一の宿敵が運用しているAFVに対処するには十分でしょう。
その理由は簡単で、(数年前に戦車を退役させた)モルドバ軍が実戦に招集できるAFVはSPG-9の73mm HEAT弾に対する防御力が貧弱な軽装甲車両:BMD-1 IFVしかないからです。
「小さなタンクバスター」の上部に取り付けられたSPG-9は同砲の両側にある2つのハッチから一名の乗員が操作をします。もちろん、装填も可能です。実際のところ、妥当な射撃速度を持続させるために車内の兵員用区画から操作する装填装置が必要になります。
「小さなタンクバスター」の上部に取り付けられたSPG-9は同砲の両側にある2つのハッチから一名の乗員が操作をします。もちろん、装填も可能です。実際のところ、妥当な射撃速度を持続させるために車内の兵員用区画から操作する装填装置が必要になります。
確かにこの対戦車型GT-MUは現代の対戦車車両よりも性能は劣っています。それにもかかわらず「可能性を秘めた小さなタンクバスター」は全くコストをかけずに沿ドニエストル軍の火力を増強する面白い試みであり、自称「共和国」が分離独立国家しての地位を存続させるために必要な措置の一環と言えるでしょう。
※ この記事は、2020年1月24日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
※ この記事は、2020年1月24日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なったり、割愛してい