2018年9月23日日曜日

忘れられた軍隊: トランスニストリア(沿ドニエストル)の新型多連装ロケット砲



著:スタイン・ミッツァー、ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao goo

公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれるトランスニストリアは、1990年に沿ドニエストル・ソビエト社会主義共和国として独立を主張し、続く1992にモルドバから離脱して以来、隠れた存在であり続けている東ヨーロッパの分離独立国家だ。
沿ドニエストルはウクライナとモルドバの間に位置しており、現在のところ、いずれも自身が未承認国家であるアブハジア共和国、南オセチア共和国、アルツァフ共和国のみから承認されている。
1992年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの情勢は非常に複雑だ。この離脱国家はロシア連邦への加入を希望している一方で、わずかな生産物の輸出をモルドバに大いに依存し続けており、それが経済生産高となっている。

外界への透明性を高めるための小さな一歩を踏み出しているにもかかわらず、沿ドニエストルはハンマーと鎌をその国旗の中で使用し続けるソビエト社会主義共和国のままだ-さらにKGBを主要な治安機関として保持している。
ロシアは依然として沿ドニエストルでわずかな影響力を維持しており、国内で公式に平和維持活動を行っている。
その立場が本当の国家なのかという論争の的になっているにもかかわらず、沿ドニエストルは自らの陸軍、航空兵力、そして軍事産業と一体になった事実上の国家として機能している。
        
後者は過去20年以上にわたって沿ドニエストル軍で就役した、数多くの非常に興味深い設計の装備を製造してきた。
この軍事産業はトランスニストリア戦争の間に非常に機能し、モルドバ軍に対して使用するためのさまざまなDIY装甲戦闘車両(AFV)、多連装ロケット砲(MRLs)やその他の兵器を製造した。
停戦後に軍事産業は、1991年に設立されて以来旧ソ連製兵器のストックを置き換えることができなかった沿ドニエストル軍の運用状態を支える上で重要な役割を果たした。

これらの生産品の1つはありふれたBM-21と同じ122mmロケット弾を使用した新しい多連装ロケット砲だが、そのデザインは根本的に異なっている。
それは2016年に開催された国際軍事競技大会「コモンウェルス・ウォリアー2016」で最初に確認されており、このMRLは沿ドニエストルが過去に国内開発したMRLの大規模なアップグレード版だ(注:便宜上、この記事では新型のMRLについて、生産した工場に因んでPribor-2と呼称する。また、過去に開発したMRLも新型と区別するためPribor-1と呼称するが正式名称ではない)。
Pribor-1の20本の発射器チューブと比べると48本の122mm発射器チューブという見事な数を誇示している「Pribor-2」は、現地で改修されたAPC型GMZ-3が公表された後では沿ドニエストル軍に最も新しく加えられた装備だ。



沿ドニエストルは、地域内や海外への武器密売国として悪名が高い。
ソ連地上軍第14軍からの大量の武器と弾薬は、沿ドニエストルの地元住民によって引き継がれ、同地域に忠実であった第14軍の兵士と外国の義勇兵が、モルドバ政府によれば、依然としてモルドバの領土と主張していた沿ドニエストルに入ったとき、1992年に両者の間で紛争が生じた(注:多くの第14軍の兵士や外国の義勇兵が沿ドニエストル軍に加わった)。
紛失した大量の兵器や弾薬が確保された後、これらは新たに設立された沿ドニエストル共和国軍に引き継がれたか、在モルドバ共和国沿ドニエストル地域ロシア軍作戦集団の監督下でロシアに移送されて戻ったものの、沿ドニエストル由来の武器が限られた量ではあるが、依然として海外へ密輸されている。

ソ連が崩壊したとき、かつてソ連軍を構成していた人員や関連する兵器類の多くは、所在する地の新しく誕生した国に属することとなった。
このプロセスは、旧ソ連の外に駐留していた多くの民族的ロシア人の離脱(注・分離独立や脱走)によってしばしば問題となったが、これはモルドバが遭った唯一の問題ではなかった。
第14軍は実際にはウクライナ、モルドバ、そして分離独立国家であるトランスニストリア(沿ドニエストル)に属し、同軍の様々な部隊は、ウクライナ、モルドバ、ロシアのいずれかに属したり、新たに形成された沿ドニエストル共和国に合流した。
明らかに、これは非常に複雑で過敏なプロセスの下で行われたものである。

沿ドニエストル側は支配した領域に存在する武器保管庫ほとんどを引き継いだときに大量の高度な特殊車輌を受け継いだ一方で、IFVと自走砲はわずかな数しか保有し続けることができなかった。
実際、この地域に存在していたいくらかの2S1「グヴォズジーカ」122mm自走榴弾砲と2S3「アカーツィア」152mm自走榴弾砲(これらはロシアへ移送された可能性が極めて高い)のほか、沿ドニエストル軍の兵器保有リストに自走砲は無い。
その代わり、間接射撃の火力支援には武器庫にある牽引式対空砲・対戦車砲と122mm多連装ロケット砲(Pribor-1:下の画像)に依存している。
比較すると、モルドバはBM-27/220mm MRLとのBM-21/122mm MRL2A36「ギアツィント-B 152mm野砲、2S9「ノナ」120mm自走迫撃砲を大量に運用し続けている。
将来のモルドバとの紛争ではアウトレンジで打ち負かされてしまうことは必至と見られているが、沿ドニエストルはモルドバとの数的・技術的に不利な点を相殺する他の方法を検討している。



(沿ドニエストルは)1992年の戦争中には火力を増強するための「Alazan」として知られている粗雑な型のMRLの設計と製造を始めており、
沿ドニエストルの盛況している軍事産業は1990年代に他の型のMRL(の開発)を試みたが、特に成功したようには見えず、沿ドニエストル軍に配備されることはなかった。

沿ドニエストルの場合、最初の成功実話はZiL-131トラックとBM-21と似たような働きをする、独自の起立式発射システムを組み合わせたPribor-1という形で登場した。
しかし、最大の違いは1回の斉射で車両が発射できるロケット弾の総数が、BM-21の40発からPribor-1のわずか20発まで50%が低下したことだ。
実際の理由は不明のままだが、1台のBM-21を単純にカニバライジングして2台のPribor-1にすることで、保有リストのMRLの数を増加させようとする沿ドニエストル軍による試みだった可能性がある(注:性能を犠牲にしても発射車両を単純に増加させるために、BM-21をバラして半分の性能の車両2台にした可能性があるということ)。
しかし、Pribor-1は一般的なBM-21とは事実上すべての面で異なっているため、この説は今日では信じがたいと考えられている。
おそらく、沿ドニエストルが第14軍から数千発の122mmロケット弾を引き継いだが、それらを発射するMRLを引き継がなかったため、その後に発射器チューブ自体を入手したか、製造した可能性が高い。

Pribor-1の20基の発射器チューブとは対照的に、Pribor-2は1回の斉射で少なくとも48発の122mmロケット弾を発射することができる。
BM-21からのPribor-1への明らかなダウングレードを考慮すると、沿ドニエストルは実際に独自の発射器チューブの製造が可能なことを暗示しているかもしれない。
商用のKAMAZ-43114またはそれに近い派生型のトラックをベースにして、Pribor-2は他のMRLのデザインと比較すると、発射器を後ろ向きに搭載し、122mmロケット弾発射器チューブの12発x4という興味深い配置をしているという点で際立っている。
沿ドニエストルにおける現在使用可能なPribor-2の数は不明のままだが、継続的な生産は、最終的には(Pribor-2の)拡充や旧式で能力が劣っているPribor-1を置き換えることを可能にするかもしれない。



新型のMRLを導入して拡充することは別として、沿ドニエストルはMRLが対砲兵射撃の役割を担うことを可能にするべく、敵軍、特に砲兵の探知能力を向上させるための措置も講じている。
とりわけ、沿ドニエストルはいくつかの商用のDJI FC40ファントムを購入し、
さらに沿ドニエストル軍がPribor-1及びPribor-2 MRLの標的を特定する手助けとなる独自の無人機プログラムを始動した。
また、沿ドニエストル軍はいくつかの戦場監視レーダーも運用している。
その中には比較的現代的なCredo-M1携帯型戦場監視レーダーが含まれており、約30km離れたAFVや10km圏内の人員の移動を探知できる。



沿ドニエストルの規模・地位・経済にとって、新型のMRLを導入することは確かに見事な偉業であり、あらゆる手段を最大限に活用するという明確なケースの提示を意味している。
この件について、沿ドニエストルは独自の軍事産業の製品で、ごく僅かな観衆:外国人ウォッチャーを驚かせ続けるに違いない。
おそらくより重要なことは、沿ドニエストルは「共和国」が分離独立国家としての地位を維持するために必要な手段である武器と装備の生産において、更に自立してきていることを示している。

 ※ この翻訳元の記事は、2018年9月9日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。  

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読者の皆様へ

この1年間にブログ(オリジナル/英語版)の新しい記事が無いことに気付いたと思います。
何故かと言うと私たちが北朝鮮軍に関する本「The Armed Forces of North Korea, on the path of Songun」を完成させることに全力を尽くし、それがOryx Blogの記事を書くために通常費やされるべき時間の大部分を奪ったからです。
今月から定期的な投稿が再会される見込みです。
私たちは皆さんの辛抱強さに感謝すると共に、何年にもわたった北朝鮮とその軍隊に関する広範な研究の集大成を遂に発表することを楽しみにしています。
                                
                            スタイン・ミッツァー、ヨースト・オリーマンズ

「『North Korea’s Armed Forces: On the path of Songun』は、北朝鮮ウォッチャーのインテリジェンス・コミュニティにおける混沌とした状況に秩序と一貫性をもたらすことを試みるだけではなく、今までに語られることが無かった兵器システムや近代化プログラムについての情報を大量に提供することによって、北朝鮮の脅威がほとんどないという大いに同調された人々の姿勢が誤りであることを証明するものです。

北朝鮮の軍隊は朝鮮戦争における決定的では無い停戦から冷戦を通じて現代に至るまでの最も重要な出来事をマッピングしてきました。そして、(私たちは)大量の独自設計の兵器を調査することによって、朝鮮人民軍各軍の現状について特に重点を置きました。
この本の過程では朝鮮人民軍の多くのプロジェクトや戦術が明らかにされるだけでなく、
南北間の命懸けの突発的な紛争と2010年の天安艦沈没や延坪島砲撃などの大惨事に関する今までに無い証拠に新たな光を投げ掛けるでしょう。
さらに、朝鮮人民軍各軍の保有装備について最新かつ包括的なリストが含まれており、海軍および航空戦力の数的評価を提供します。
最近導入されたステルス・ミサイル艇、弾道ミサイル潜水艦や主力戦車の系譜から、ほとんど無視されてきた独自の航空機産業まで、事実上すべての独自の兵器システムが広範にわたって議論されています。

この独占的な本は、70以上の詳細な色つきのアートワークと徹底的な研究と分析を経て作られたさまざまな地図と同様に約170のユニークな画像付きで、その多くは今まで一般の人々には全く見ることがなかったものです。
衛星映像の精査、北朝鮮の宣伝放送の観察とアメリカ国防総省からの情報を慎重に調査することを通じて、朝鮮人民軍各軍の進歩を明らかにしました。
この本にはほぼ全ての「隠者王国(注:17~19世紀の朝鮮に付けられた名前と閉鎖的な北朝鮮を掛け合わせている)」に関する軍事的功績が含まれており、通常戦と非対称戦の両方における北朝鮮の能力の正確なイメージを提供します。
この本は特に北朝鮮の軍事力に関心を持っている人や、矛盾した主張とこの閉鎖的な国家についての現在のインテリジェンスを構成する誤った情報の「地雷原」によって提起された多くの疑問に対する答えを探す人のために書かれたものです。」

※:この本については編訳者も助言やアートワークのチェックなどで製作に一部関与しています。アートワークの担当者は以下のとおりです。ご期待ください(名前をクリックすると代表的な作品を見ることができます)。
  1. 朝鮮人民軍兵士:Adam Hook
  2. 車両及び陸上装備:David Bocquelet氏 
  3. 航空機:Tom Cooper氏(著作の一部は日本でも話題になりました) 
  4. 艦船:Anderson Subtil
本の作業はアートワークの完成をもって終了し、最終チェックを経た後に出版となります。具体的な時期は未定ですが、判明次第いち早くお知らせします。また、この本については著者の意向により、日本語版が計画されています。乞うご期待下さい。

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