著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
この記事は、2015年7月21日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。今回の記事で取り上げた「オルラン-10」の派生型は2022年に「オルラン-20 "カルトグラフ"」と判明しましたが、記事では表記を変更していません。
2015年7月20日にカッサブ近郊のルベイセリ村とラタキア県のジスル・アッシュグール近郊にあるアラフィットに墜落した2機の無人機の画像は、ロシアが政権側に最先端の無人航空機 (UAV)を供与したか、ロシアがシリア上空で小型無人機による偵察に乗り出したことを明らかにしました。後者が事実であると判明した場合、それはダルアー県のアル・ハラ近郊にある「ツェントル-S:Центр С 」SIGINT(通信傍受)施設が自由シリア軍に捕獲された後に世界に知られるようになった、政権側に反乱軍の位置と戦力に関する最新の情報を提供するというロシアの大規模な諜報計画の一部である可能性があります。
ルベイセリの近くで墜落したUAVは以前にウクライナで目撃されたタイプとほぼ同じで「オルラン-10」無人偵察機の無名の派生型であると考えられており、少なくとも1機は2014年5月にウクライナの領土に墜落したことが確認されています。同無人機の基本型もウクライナ上空で見られ、他の数種類の派生型も墜落後に回収されました。今回、シリアでもウクライナで目撃された「オルラン-10」の新しい派生型が初めて発見されたわけですが、その技術的な詳細は不明のままです。
このタイプのUAVの導入とそれに続く墜落はそれ自体で注目に値しますが、偶然にもこの直後に最近導入された別のタイプのUAVが約40km離れた地点で墜落しました。
新たに発見された2種類目のUAVはロシア製の「エレロン-3SV」無人偵察機で、機体の出火により損傷を受けてアル=ヌスラ戦線(注:現タハリール・アル=シャーム)が支配するアラフィットの町の近くに墜落しました。出火があったにもかかわらず、機体の損傷は比較的軽微に見えます。
2種類のロシア製無人機の突然の登場はロシアからシリア政府への支援の程度を示しており、おそらくはイドリブ県を反政府勢力に奪われ、タドムル(パルミラ)が過去数か月の間にイスラミック・ステートの戦闘員に包囲された結果と言えるでしょう。実際、既に多くの親アサド主義者によって、最近の敗北がロシアとイランの政権支援の新たな章の始まりを告げるだろうという主張がなされています。
2種類のロシア製無人機の突然の登場はロシアからシリア政府への支援の程度を示しており、おそらくはイドリブ県を反政府勢力に奪われ、タドムル(パルミラ)が過去数か月の間にイスラミック・ステートの戦闘員に包囲された結果と言えるでしょう。実際、既に多くの親アサド主義者によって、最近の敗北がロシアとイランの政権支援の新たな章の始まりを告げるだろうという主張がなされています。
この新しいシリアの無人機プログラムにロシアが関与する範囲には議論の余地があります。シリア軍や情報機関の一員がこれらの無人機を操縦していると主張することも可能ですが、これらのUAVを運用する際のロシアの関与を無視するべきではありません。
何よりもまず、アサド政権が完全に新しく高価な2種類のプラットフォームを取得したことを信じがたい点が挙げられます。何故ならば、それらを運用して入手したデータを地上部隊の有益な情報に処理するための広範囲に及ぶ訓練を必要とする上、彼らは既に(現時点でシリアに存在している)イランが供与して運用中である「モハジェル」や(「スキャン・イーグル」のコピーである)「ヤセール」、「シャヘド-129」をほとんど努力せずにラタキア県へ展開させることができるからです。
次に、シリアの諜報分野へのロシアの関与は2014年にこの事実の証拠となったツェントル-Sが突然発見されたにもかかわらず、大いに過小評価され続けていた点が挙げられます(注:実態はかなりの関与があったと判断できるため)。
三番目に、ロシア軍のために2010年以降に製造されたUAVが両方ともウクライナ以外に使用されたという事実は、UAVの分野における最新の技術の一部を晒すことになるため、それらがシリアへ迅速に輸出されたということを全く意味しません。
ツェントル-Sは主に中東とイスラエルの状況認識をシリアとイランに提供するためにロシアのOsnaz/GRU電子偵察局とイラン・シリアの情報機関によって共同で運用されていた施設ですが、革命と内線が勃発した直後からシリアの国内事情に次第に焦点を当て始めたようです。
ツェントル-Sはシリア国内の反政府勢力からの無線通信の記録と解読を担当し、シリア陸軍(SyAA)に反政府軍の戦力と次の攻撃に関する最新情報を、シリア空軍(SyAAF)には 反政府勢力の会議に関する情報を提供しました。結果として、この施設がSyAAFによる空爆による一連の反政府勢力の指導者の殺害を少なくとも部分的に担当したわけです。当然ながら、これらによる自由シリア軍の戦闘員の損失は政権側に敵への大打撃として貢献しました。
したがって、どちらにしてもシリアで最近配備された「オルラン-10」と「エレロン-3SV」の運用にはロシア人が一方的に関わっている可能性が非常に高いと思われます。イラン主導のケースとは対照的に、ロシアの資機材と専門家によるUAV部隊の設立は最近のイドリブ県喪失後になってアサド政権側に提案された可能性があります。この状況がさらに進展すれば、政権の心臓部であるラタキアへの脅威が真に差し迫ったものとなってしまうからです。
「オルラン-10」の新しい派生型には胴体に12台のカメラがセットして搭載されているので、ウクライナで墜落した機体と同じであることが分かります。これらのカメラを使用すると、同無人機は戦場の3Dマップを作成して敵の動きや拠点に関する詳細な情報を提供することができます。
また、この無人機に搭載されている装備は任務に応じて変更することができると考えられています(例えば暗視装置を追加するなど)。
カメラ・レンズを覆うカバーはシリアのルベイセリ近郊の機体では吹き飛ばされていましたが、ウクライナで回収された機体のものはまだ無傷のままでした(注:下の画像)。
墜落した「エレロン-3SV」の内部には、民生用のオリンパス製のカメラが搭載されていました。
ロシア兵が操縦しているかどうかにかかわらず、少数の「オルラン-10」と「エレロン-3SV」の存在は、既に運用されている無人機に加えて非常に優れた戦力となり得ます。これはラタキア県だけでなく、(投入された場合は)他の地域でも同じことが言えるでしょう。
カメラ・レンズを覆うカバーはシリアのルベイセリ近郊の機体では吹き飛ばされていましたが、ウクライナで回収された機体のものはまだ無傷のままでした(注:下の画像)。
墜落した「エレロン-3SV」の内部には、民生用のオリンパス製のカメラが搭載されていました。
ロシア兵が操縦しているかどうかにかかわらず、少数の「オルラン-10」と「エレロン-3SV」の存在は、既に運用されている無人機に加えて非常に優れた戦力となり得ます。これはラタキア県だけでなく、(投入された場合は)他の地域でも同じことが言えるでしょう。
増加し続ける犠牲者の数と化学兵器を含む禁止兵器の見境のない使用は、ロシアが小火器から戦車、多連装ロケット発射機、SyAAFの戦闘機爆撃機のスペアパーツ、そして現在はUAVさえ提供するのに何の妨げにもなっていないことは明らかです。
特別協力:Green lemon.
特別協力:Green lemon.