ラベル シリア内戦 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル シリア内戦 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年4月19日土曜日

【復刻記事】アサド政権への支援の規模が明らかに:ロシアの諜報施設「ツェントル-S」が制圧された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2014年10月6日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」と「ベリングキャット」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(注:Oryxでは削除されていますが、記録のためベリングキャットから翻訳しました)。

 2014年10月5日、自由シリア軍は、ロシアのオスナズGRU電子偵察局の特殊部隊オスナズとシリア情報機関の一つが共同で運用している「ツェントル-S(Центр С - المركز س)」SIGINT(信号情報収集)施設を占領しました(編訳者注:ここでリンクが張られていた動画はアカウント停止のため視聴不可)。 ハッラ近郊に位置するこの施設はシリア国内で活動する全ての反政府勢力の無線通信を傍受・解読する役目を担っていたため、アサド政権にとって極めて重要な施設でした。ここでロシアによって収集された情報が、一連の空爆による反政府勢力リーダーの殺害に(少なくとも)部分的に関係している可能性が高いと思われます。

 公開された動画の3:08では 、「5月31日に調査局から出された、テロ集団の全無線通信を盗聴・録音せよという命令は、第一センターの司令官ナズィル・ファッダ准将の署名入りだ。」と読み上げられています。

 この施設は最近になってシリアとイランに中東の状況認識を提供するため、ロシアによって改修・拡張されました。1月から2月中旬にかけて行われた改修後は、イスラエルとヨルダンの全域、そしてサウジアラビアの大部分をカバーしたと伝えられています[1]。

 報道によれば、この改修はイランの懸念に対する反応だったようです。この施設がシリア内戦に注力しすぎているため、イスラエルへの諜報活動がおろそかになっているというわけです。こうして新しい資機材と追加要員が基地に配備されたわけですが、鹵獲時には固定式かつ使い古されたようなアンテナ類しか残されていないなかったため[2][3]、より現代的な資機材とロシア人要員の撤収は数日から数週間前に行われたことは間違いないでしょう。

 この施設が正式に「ツェントル-S(SはシリアのSかスペシャルのSと思われる)」と命名されていたかどうかは不明ですが、ほかにもロシアとシリアのシギント施設が少なくとももう1か所あることが知られています。下の画像にあるのは、この「ツェントル-S2」という施設の開設10周年を記念した勲章です。


 「ツェントル-S」のロシア側運用者は、ロシア軍内の無線・電子諜報活動を担当していたGRUのオスナズでした。この部隊についてはあまり知られていませんが、ロゴを下の画像で見ることができます:それぞれ、「Части особого назначения(特殊任務部隊、つまりオスナズ)」と「Военная радиоэлектронная разведк(軍事電子情報収集)」と書かれています。



 占領された施設内の壁には、ロシアによる中東への関与をあらためて強調するさまざまな写真が掲示されていました。そこにはイスラエル軍の基地や部隊の配置が記された地図さえあったのです。ほかの写真には、この施設で働くロシア人要員の姿だけでなく、ロシア国防相顧問のリュボフ・コンドラチェフナ・クデーリナ氏の訪問も紹介されていました(注:クデリーナ氏は経済・財政担当の副国防相)。


「Совместная обработка информации российскими и сирийскими офицерами/معالجة مشتركة للمعلومات بين الضباط السوريين والروس( ロシアとシリアの将校による共同での情報処理/分析」と書かれている。

 下の画像は、「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」と書かれたコーナーを映したものです。赤い罫線で囲まれた6行の文字列には、歴代センター長の階級・氏名・在任期間が記されています。6人全員の階級は「Полковник(大佐)」のようすが、苗字は判読できません。

「Начальники Центра-С(ツェントル-S センター長)」

 下の画像には、「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)」と書かれていますが、彼女はKudelina L.K.です。ここでは名前をミスして表記したものと思われます。


「Визит советника МО РФ Куделиной Л.И. в Центр/زيارة مستشار وزارة الدفاع الروسية كوديلني لي للمركز"(ロシア連邦国防相顧問のクデーリナL.I.氏がセンターを訪問)

「Рабочий визит начальника ГУ МВС ВС РФ( ロシア連邦軍国際軍事協力総局長が訪問)」

 下の地図に記されている「情報源」は、電波の発信源を示しているようです。

「Объекты、и источники северного военного округа ВС Израиля(イスラエル軍北部軍の基地と情報源)」

「Карта радиоэлектронной обстановки (電波環境図)」

[1] http://www.washingtontimes.com/news/2012/feb/29/russia-upgrades-radar-station-syria-aid-iran/
[2] http://youtu.be/RiQWr4SfVx0 ※アカウント停止のため視聴不可
[3] http://youtu.be/pEYrbcWpjH8?t=4s

特別協力: PFC_JokerMark Anthony(敬称略)

改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版)

おすすめの記事

2025年4月13日日曜日

【復刻記事】鋼鉄の野獣: シリア軍のT-55戦車


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 この記事は、2014年11月27日に「Oryx」本国版(英語)とベリングキャットで公開された記事を日本語にしたものです。10年前の記事ですので当然ながら現在と状況が大きく異なっていたり、情報が誤っている可能性があります(本国版ブログは情報が古くなったとして削除)。ただし、その内容な大いに参考となるために邦訳化しました。

 (この記事の執筆時点で)約4年に及ぶ内戦は、シリアの戦車部隊とその運用方法に影響を与え続けています。今や、彼らはシリア各地に点在しており、数多くの友軍に火力支援を提供しているのです。

 この新シリーズでは、シリア軍が運用する鋼鉄の野獣にスポットライトを当てます。

 シリア国内でアサド政権の戦車を実際に運用しているのは誰なのか、やや曖昧なままです:多くの人はシリア国内における全ての戦闘任務をシリア・アラブ軍(SAA)が担い続けていると考えていますが、SAAはその人員と装備の多くを国民防衛隊(NDF)やその他の民兵組織に移管しています。

 しかしながら、シリア軍は依然として多数の旅団とシリア各地に点在する無数の駐屯地を維持しています。つまり、そこで発見された戦車は、その全てがシリア軍の指揮下に置かれたものというわけです。

 戦車部隊で運用される戦車は大きく3種類に分類することができます:「T-55」と「T-62」、そして「T-72」です。さらに2種類:「T-54」と「PT-76」もかつてシリアで運用されていたものの、現存する「T-54」の大部分はレバノンに寄贈され、その他は保管状態にあります。今のところ、前者は多くが現役に戻されつつありますが、後者はこの10年間でスクラップにされたと考えられています。

 内戦が勃発する前のシリアは約5,000台の戦車を保有していたと推測されています:内訳としては、「T-54/55」が2,000台、「T-62」が1,000台、「T-72」が1,500台です。しかし、この数字はかなり歪められています:2010年代初頭でシリアが実際に運用していた戦車は2,500台に近いものであり、その内訳は「T-55」が約1,200台で「T-62」が約500台、「T-72」が約700台でした。もちろん、2,500台の戦車が同時に稼働していたわけではありません。「T-55」や「T-62」の大半は予備兵器扱いや保管状態にありました。

 2,500台の戦車のうち、1,000台以上が内戦で失われました。その大多数は「T-55」ですが、残存する戦車の多さがこうした損失をカバーしています。

 2014年末の時点で、シリア軍は推定700台の「T-55」が作戦能力を維持している一方で、この国を支配するべく戦っている多くの勢力も、さまざまな種類の「T-55」を運用し続けています。その中でも特筆すべき運用者はイスラム国です:彼らは第93旅団で数十台を鹵獲して、この戦車の主要なユーザーとなったのです。同旅団が保有していた戦車のほとんどは、後にイスラム国によるコバニへの攻勢に投入されました。


 シリアでの「T-55」は4種類に分けることができます:標準的なスタイルの「T-55A」、北朝鮮が改修した「T-55」、「T-55AM」、そして「T-55MV」です。これらのうち最も多く運用されているタイプは「T-55A」で、北朝鮮の改良型、「T-55MV」と「T-55AM」がそれに続きます。

 「T-55A」と北朝鮮の改修型はその大部分がNDFでも運用されている姿を目撃されていますが、「T-55AM」と「T-55MV」の運用はSAAだけです。

 北朝鮮の改修型は同国で設計されたレーザー測距儀(LRF)を搭載しているほか、一部は発煙弾発射機や「KPV」14.5mm機関砲さえ装備しています。シリア軍の「T-54/55」には、少なくとも2種類の北朝鮮製LRFが搭載されていることが判明しています。

 これらの戦車の改修は1973年の第四次中東戦争で得た戦訓に基づいたものであり、ソ連による「T-55」の改修:シリア軍の一部が受けた「T-55AM」規格への引き上げよりも安価な代替案として、1970年代初頭から80年代にかけて実施されたものです。

北朝鮮製LRFを装備した「T-55」(イスラム国が鹵獲したもの)

 「T-55AM」規格への改修には、「KTD-2」LRFとサイドスカート、発煙弾発射機の搭載が含まれていたものの、砲塔と車体前部への「BDD」追加装甲の装着については予算の制約から省略されてしまいました。下の画像は、ダラア県で活動する反政府軍:グラバー・ハッラーン大隊が運用するT-55AMです。


 「T-55MV」はシリア国内で使用されている「T-55」の中で最も近代的なものであり、その戦闘能力はシリアの「T-72」を上回るとさえ言えるかもしれません。「T-55」のMV規格への改修については、1997年に200台がウクライナによって実施されました。[1]

 シリアの「T-55AM」とは逆に、「T-55MV」は新型エンジンの搭載や対戦車ロケット弾(RPG)に対して装甲の防御力を強化する爆発反応装甲(ERA)ブロックの装備などで全面的に改修されました。

 シリアの「T-55MV」は、主砲である100mm砲から発射可能な「9M117M "バスチオン"」砲発射式対戦車ミサイルも装備しています。これまでシリアで「9M117M」が使用されていることは知られていませんでしたが、反政府勢力がクネイトラ県のテル・アフマル近郊で約10発を鹵獲したことで判明したのです。

 クネイトラは昔から「T-55MV」戦車隊の拠点であり、戦争になれば同ミサイルはイスラエルの戦車にとって厄介な奇襲の道具となったことでしょう。これらのミサイルは高価なため、各戦車は数発しか搭載していません。ミサイルの大多数は将来的にイスラエルの機甲部隊に使用される可能性があることから、ゴラン高原沿いのテル・アフマルのような弾薬集積地点に備蓄されたままです。


 一部の「T-55MV」はLRFの上に奇妙な装置を搭載しています。おそらく、この装置はある種のカメラとして機能すると思われます。というのも同様の装置がウクライナによって改修された「BMP-1」でも見られたからです。ただし、決定的な証拠は車内を映した映像でしか得られないので断定はできません。


 すでに共和国防衛隊の「T-72」で見られたものと同様に、「RPG」に対する防御力を向上させるため、「T-55」にも土嚢で防御力を向上させたスラット装甲が少しずつ導入されています。こうした装甲を装備した「T-55」を下の画像で見ることができます。ちなみに、改修された「T-55」の大半は砲塔の周囲にスラット装甲を施されただけでした。


 NDFは「T-55」を安全な距離から反政府勢力の拠点を攻撃するという積極的な用途で運用し続けている一方で、シリア軍は「T-55」のほとんどを固定式のトーチカとして使用しているため、敵が持つ対戦車ミサイルの格好の餌食となっています。

 シリアにおける戦車の損失の大部分は、地方の守備隊や検問所を強化するという(ほとんど)無駄な試みによる必然的な結果によるものです。


 「T-55」の数があまりにも多いため、シリア軍とNDFには兵士の火力支援に提供する戦車が不足するという差し迫った恐れはありません。

 シリアの戦車部隊にとって最大の脅威は悲惨な燃料不足です。入手可能な燃料のほとんどは、共和国防衛隊やスクーア・アル・サハラ(デザート・ファルコン)といった部隊で使われているからです。燃料不足はすでに戦車運搬車(トレーラー)の広範囲にわたる使用を強いています。なぜならば、戦車が自力で配備地まで走行するための十分な燃料が不足しているからです。この状況は、デリゾール周辺の油田が奪還されない限り改善されることはないでしょう。

2024年12月16日月曜日

姿を消した幻の野獣:シリア・アラブ航空の「ボーイング747SP」


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2016年8月5日に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリア・アラブ航空は内戦で荒廃したシリアでの運行を続けていますが、所属機の中でも由緒ある「ボーイング747SP」が同社が運行を続ける数少ない路線や目的地からぱったりと姿を消してしまいました。

 もともと、同航空は1976年に納入された「ボーイング747SP(超長距離用に開発されたボーイング747-100の短縮型)」を2機運航していたものの、アメリカの制裁措置で航空機がD整備を受けられなくなったため、2008年には2機とも事実上放置状態となり、結果としてシリア航空は32年間運航した「ボーイング747SP」の退役を余儀なくされたのです。

 ところが、アメリカとシリアの関係が一時的に修復されたことで「YK-AHA 「11月16日」」と「YK-AHB 「アラブの連帯」」のD整備に必要なスペアパーツの引き渡しが認められ、その後シリアはサウジアラビアのアルサラーム・エアクラフト社との間でD整備とプラット・アンド・ホイットニー製「JT9D-7」エンジンと着陸装置のオーバーホールの契約が結ばれました。

 両機は2010年12月16日にダマスカスで調印された契約に基づいて、2011年後半には再就役する予定だったようです。


 2011年4月、シリア航空の社長兼CEOは、オーバーホールの状況を確認するため(この時点では退役状態の)「ボーイング747」の整備を行っていたアルサラーム・エアクラフト社を訪問し、「アルサラームのチームと、納期を厳守するための彼らの努力に感謝する」と述べています。

 その時点でプロジェクトはまだ予定通り進んでいたようですが、両機ともにシリアに戻ることなく、今でもサウジアラビアのリヤドにあるアルサラーム社の施設に残されたままです。「ボーイング747SP」の整備中止の正確な理由はいまだ不明のままですが、アルサラーム社に今後の全作業を中止せざるを得なくなった主な要因である可能性が高いのは、シリアでの内戦勃発でアメリカがシリア政府に対する姿勢を再考したことでしょう。

 アメリカの新たなシリアへの姿勢の一つとして、2011年8月に当時のオバマ大統領によって署名された大統領令13582号が発効されたことが挙げられます。この大統領令には「直接または間接的に、アメリカから、あるいはアメリカ人による、シリアへのいかなるサービスの輸出、再輸出、販売、供給」の禁止が含まれていたのです。

 言うまでも無く、シリア航空の「ボーイング747SP」のオーバーホールにはアメリカ製の部品が必要であったことから、大統領令13582号はアルサラーム社が同機の整備を継続することを妨げるものであったわけです。

 D整備が未完了のままで頓挫した結果、塗装はほとんど剥がれ落ち、部品が欠落したことで「ボーイング747SP」はシリアに戻る見込みもなく、サウジアラビアで立ち往生し続けています。2013年になると、アルサラーム社の駐機場で埃をかぶっていた2機は同社の施設の片隅へ追いやられてしまいました。

 ボーイング機の喪失については、制裁の発動によりシリア航空のほとんどの路線が廃止されたことで部分的に相殺されたものの、この飛行機の不在はその後の数年間で大きく目立つものとなってしまったようです(注:路線縮小で喪失自体はあまり問題とならなくなったが、後で存在感の大きさに気づく人が出てきたということ)。


 14年間に僅か45機しか生産されなかった「ボーイング747SP」は、胴体が短くなったにもかかわらず747のクラシックな特徴を維持し、当時のどの旅客機よりも長い航続距離を誇ったことで知られる希少な名機です。その優れた航続距離と見た目のおかげで、この航空機はアラブの国家元首が選ぶ交通手段として人気を博しました。

 南アフリカ航空では、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代に自国の空域の飛行を禁止していた国々を回避するため、6機を活用したことが知られています。

 シリア・アラブ航空では、1970年代後半にニューヨークへの直行便を就航させることを見越して2機を導入しました。ところが、その計画が実現しなかったため、シリア航空は(ほぼ)短距離路線しか就航していない航空会社にもかかわらず世界でも最長の航続距離を誇る旅客機を保有することになったのです。
 
 超長距離路線が存在しないこと、機体の高い維持費、そして燃料消費量の多さから、「ボーイング747SP」はシリア航空が持つ小型機群の中でいつしか無用の長物のような存在と化してしまったのでした。シリア航空で現役時代の「ボーイング747SP」は、定期便で使用されていない間は小型機と一緒にヨーロッパや中東への路線で不定期に使用されていました。


 売却しても莫大な損失しか残らないせいか、最終的に「ボーイング747SP」は2008年まで使用され続けました。(予定された)最後のD整備の後でも、少なくともより現代的な航空機に更新されるまで、さらに数年間は運航されたことでしょう。

 ところが、運命はこれらの素晴らしい飛行機に対し、サウジアラビアの灼熱の駐機場に放置されたまま早すぎる最期を迎えることを求めたのです。

 追記:グーグルアースでは2023年4月の時点でも依然として2機の「ボーイング747SP」が放置されている状況が確認されています(座標: 24°57'49.82"N、 46°43'53.58"E)。アサド政権崩壊に伴ってこの機体が復帰すること自体は絶望的ですが、今後どのような運命を迎えるのか注目されます。

リヤドにおけるシリアの「ボーイング747SP」(左下と中央の2機)

3枚名の画像: Aviafan

2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です

おすすめの記事

2024年12月8日日曜日

たった3日間の「特別軍事作戦」で :2024年シリア北部における反政府勢力の攻勢とシリア軍の崩壊


著:Elmustek in collaboration with ヤクブ・ヤノフスキ と Buschlaid(編訳:Tarao Goo)

 2024 年 11 月 27 日深夜にシリア・アラブ軍(SyAA)とその協力関係にある部隊の拠点に対して開始されたシリアの反政府勢力による攻勢は、イドリブとアレッポ両県における政府の拠点を崩壊させ、政府軍を駆逐し、反政府勢力がアレッポ市や複数の町、そして無数の村を含む広大な領土の掌握をもたらしました。

 現時点で反政府勢力がどこまで進撃できるかは不明ですが、この記事を執筆している時点で、彼らはすでにハマ市まで迫っています(編訳者注:12月8日時点でハマは制圧され、ホムスの陥落が近い状況です。

 この大規模な反政府軍の進撃のおかげで、政権側は信じられないような物的損失を受けています。失われた装備のほぼ全てが破壊されることなく鹵獲されたため、政権側とその同盟者(ロシア、イラン、ヒズボラなど)にとっては、その損失が余計に深刻なものとなっていることは容易に想像できます。なぜならば、それらの装備がかつての所有者である自分たちに向けて使われることが避けられない可能性が高いからです。

 今回の大攻勢は、シリア・アラブ陸軍(SAA)が敵対勢力へ武器・弾薬を与える最大のサプライヤーであるという事例を再び示しています。 ただし、今回の(SAAの)アレッポとイドリブ両県からの撤退によってもたらされた鹵獲装備や弾薬の量は前例がありません。

 驚くべきは兵器の量だけではありません。反政府勢力が鹵獲した兵器には、戦闘機や長射程の多連装ロケット砲(MRLS)、さらには地対空ミサイルシステムなど、(たとえ鹵獲した兵器の一部しか運用できないとしても)強力で高度な兵器の全てが含まれているのです。

 反政府勢力からすると鹵獲したの高度な兵器の使用は困難を極めることが予想されますが、仮に彼らがその一部でも稼働させることに成功した場合、これはシリア軍とその協力関係にある部隊にとっては深刻な問題となるでしょう。

  1. 当一覧は、2024年12月8日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(編訳者は一覧の精査には関与していません)。
  2. この一覧には、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際にシリアの反政府勢力が破壊や鹵獲などした兵器類は、ここに記録されている数よりも間違いなく多いでしょう。
  3. トラックやジープ類の損失は後日に追加する可能性があります。
  4. シリア軍側の損失を記録する人びとの正気を保つため、ライフルなどの小火器や弾薬はこの一覧には含まれません。
  5. この一覧は、各種情報を精査して確実と判断したものだけを掲載しています。したがって、後で誤りや重複が判明したものは適宜修正されます。
  6. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。
  7. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
 注1:この一覧は、(少なくとも現時点では)2024年12月5日にハマが陥落した時点か、それ以前に判明した装備の損失だけをリストアップしています。後の出来事次第では一覧は後に追加されていくかもしれませんが、仮に現体制が崩壊した場合、シリア軍が保有していたものを文字通り全てここにリストアップする意味と必要性はなくなるでしょう。

 注2:12月8日にアサド政権が崩壊したため、当一覧が更新されるかは不透明な状況となりました。

損失数 - 434(内訳: 撃破: 10, 損傷: 1, 鹵獲:423)

戦車 (156, このうち 撃破: 5, 損傷: 1, 鹵獲: 150)


装甲戦闘車両 (12, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 12)


歩兵戦闘車 (71, このうち 撃破: 2, 鹵獲: 69)


装甲兵員輸送車 (9, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 9)


歩兵機動車 (5, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 5)

工兵・支援車輌等 (20, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 20)


砲兵支援車両または装備類 (1, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 1)
  • 1 9T452弾薬輸送車兼装填車 (BM-27 "ウラガン" MRL用): (1, 鹵獲)


牽引砲 (53, このうち 撃破: 1, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 52)


自走砲 (25, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 25)


多連装ロケット砲 (28, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 28)


対空砲 (21, このうち 撃破: 1, 損傷: 0, 鹵獲: 20)


自走対空砲 (16, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 16)


地対空ミサイルシステム (4, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 4)


レーダー (3, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 3)
  • 1 SNR-125 "ロー・ブロー” 射撃管制レーダー : (1, 鹵獲)
  • 1 48Ya6-K1 "ポッドレット" Sバンド低高度対空捜索レーダー: (1, 鹵獲)
  • 1 形式不明のレーダーステーション: (1, 鹵獲)


電子戦システム (0, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 0)
  • 0 :


航空機 (7, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 7)


ヘリコプター (2, このうち 撃破: 1, 放棄: 0, 鹵獲: 1)


無人偵察機 (1, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 1)


 Supecial Thanks: Calibre Obscura, Dan, MrRevinsky, QalaatAlMudiq, C4H10FO2P, Mintel World, Asia Intel, JohnSevenTwoC'est Carré (敬称略)

改訂・分冊版が2025年前半に発売予定です

おすすめの記事