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2024年12月16日月曜日

姿を消した幻の野獣:シリア・アラブ航空の「ボーイング747SP」


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2016年8月5日に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 シリア・アラブ航空は内戦で荒廃したシリアでの運行を続けていますが、所属機の中でも由緒ある「ボーイング747SP」が同社が運行を続ける数少ない路線や目的地からぱったりと姿を消してしまいました。

 もともと、同航空は1976年に納入された「ボーイング747SP(超長距離用に開発されたボーイング747-100の短縮型)」を2機運航していたものの、アメリカの制裁措置で航空機がD整備を受けられなくなったため、2008年には2機とも事実上放置状態となり、結果としてシリア航空は32年間運航した「ボーイング747SP」の退役を余儀なくされたのです。

 ところが、アメリカとシリアの関係が一時的に修復されたことで「YK-AHA 「11月16日」」と「YK-AHB 「アラブの連帯」」のD整備に必要なスペアパーツの引き渡しが認められ、その後シリアはサウジアラビアのアルサラーム・エアクラフト社との間でD整備とプラット・アンド・ホイットニー製「JT9D-7」エンジンと着陸装置のオーバーホールの契約が結ばれました。

 両機は2010年12月16日にダマスカスで調印された契約に基づいて、2011年後半には再就役する予定だったようです。


 2011年4月、シリア航空の社長兼CEOは、オーバーホールの状況を確認するため(この時点では退役状態の)「ボーイング747」の整備を行っていたアルサラーム・エアクラフト社を訪問し、「アルサラームのチームと、納期を厳守するための彼らの努力に感謝する」と述べています。

 その時点でプロジェクトはまだ予定通り進んでいたようですが、両機ともにシリアに戻ることなく、今でもサウジアラビアのリヤドにあるアルサラーム社の施設に残されたままです。「ボーイング747SP」の整備中止の正確な理由はいまだ不明のままですが、アルサラーム社に今後の全作業を中止せざるを得なくなった主な要因である可能性が高いのは、シリアでの内戦勃発でアメリカがシリア政府に対する姿勢を再考したことでしょう。

 アメリカの新たなシリアへの姿勢の一つとして、2011年8月に当時のオバマ大統領によって署名された大統領令13582号が発効されたことが挙げられます。この大統領令には「直接または間接的に、アメリカから、あるいはアメリカ人による、シリアへのいかなるサービスの輸出、再輸出、販売、供給」の禁止が含まれていたのです。

 言うまでも無く、シリア航空の「ボーイング747SP」のオーバーホールにはアメリカ製の部品が必要であったことから、大統領令13582号はアルサラーム社が同機の整備を継続することを妨げるものであったわけです。

 D整備が未完了のままで頓挫した結果、塗装はほとんど剥がれ落ち、部品が欠落したことで「ボーイング747SP」はシリアに戻る見込みもなく、サウジアラビアで立ち往生し続けています。2013年になると、アルサラーム社の駐機場で埃をかぶっていた2機は同社の施設の片隅へ追いやられてしまいました。

 ボーイング機の喪失については、制裁の発動によりシリア航空のほとんどの路線が廃止されたことで部分的に相殺されたものの、この飛行機の不在はその後の数年間で大きく目立つものとなってしまったようです(注:路線縮小で喪失自体はあまり問題とならなくなったが、後で存在感の大きさに気づく人が出てきたということ)。


 14年間に僅か45機しか生産されなかった「ボーイング747SP」は、胴体が短くなったにもかかわらず747のクラシックな特徴を維持し、当時のどの旅客機よりも長い航続距離を誇ったことで知られる希少な名機です。その優れた航続距離と見た目のおかげで、この航空機はアラブの国家元首が選ぶ交通手段として人気を博しました。

 南アフリカ航空では、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代に自国の空域の飛行を禁止していた国々を回避するため、6機を活用したことが知られています。

 シリア・アラブ航空では、1970年代後半にニューヨークへの直行便を就航させることを見越して2機を導入しました。ところが、その計画が実現しなかったため、シリア航空は(ほぼ)短距離路線しか就航していない航空会社にもかかわらず世界でも最長の航続距離を誇る旅客機を保有することになったのです。
 
 超長距離路線が存在しないこと、機体の高い維持費、そして燃料消費量の多さから、「ボーイング747SP」はシリア航空が持つ小型機群の中でいつしか無用の長物のような存在と化してしまったのでした。シリア航空で現役時代の「ボーイング747SP」は、定期便で使用されていない間は小型機と一緒にヨーロッパや中東への路線で不定期に使用されていました。


 売却しても莫大な損失しか残らないせいか、最終的に「ボーイング747SP」は2008年まで使用され続けました。(予定された)最後のD整備の後でも、少なくともより現代的な航空機に更新されるまで、さらに数年間は運航されたことでしょう。

 ところが、運命はこれらの素晴らしい飛行機に対し、サウジアラビアの灼熱の駐機場に放置されたまま早すぎる最期を迎えることを求めたのです。

 追記:グーグルアースでは2023年4月の時点でも依然として2機の「ボーイング747SP」が放置されている状況が確認されています(座標: 24°57'49.82"N、 46°43'53.58"E)。アサド政権崩壊に伴ってこの機体が復帰すること自体は絶望的ですが、今後どのような運命を迎えるのか注目されます。

リヤドにおけるシリアの「ボーイング747SP」(左下と中央の2機)

3枚名の画像: Aviafan

2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です

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2024年12月8日日曜日

たった3日間の「特別軍事作戦」で :2024年シリア北部における反政府勢力の攻勢とシリア軍の崩壊


著:Elmustek in collaboration with ヤクブ・ヤノフスキ と Buschlaid(編訳:Tarao Goo)

 2024 年 11 月 27 日深夜にシリア・アラブ軍(SyAA)とその協力関係にある部隊の拠点に対して開始されたシリアの反政府勢力による攻勢は、イドリブとアレッポ両県における政府の拠点を崩壊させ、政府軍を駆逐し、反政府勢力がアレッポ市や複数の町、そして無数の村を含む広大な領土の掌握をもたらしました。

 現時点で反政府勢力がどこまで進撃できるかは不明ですが、この記事を執筆している時点で、彼らはすでにハマ市まで迫っています(編訳者注:12月8日時点でハマは制圧され、ホムスの陥落が近い状況です。

 この大規模な反政府軍の進撃のおかげで、政権側は信じられないような物的損失を受けています。失われた装備のほぼ全てが破壊されることなく鹵獲されたため、政権側とその同盟者(ロシア、イラン、ヒズボラなど)にとっては、その損失が余計に深刻なものとなっていることは容易に想像できます。なぜならば、それらの装備がかつての所有者である自分たちに向けて使われることが避けられない可能性が高いからです。

 今回の大攻勢は、シリア・アラブ陸軍(SAA)が敵対勢力へ武器・弾薬を与える最大のサプライヤーであるという事例を再び示しています。 ただし、今回の(SAAの)アレッポとイドリブ両県からの撤退によってもたらされた鹵獲装備や弾薬の量は前例がありません。

 驚くべきは兵器の量だけではありません。反政府勢力が鹵獲した兵器には、戦闘機や長射程の多連装ロケット砲(MRLS)、さらには地対空ミサイルシステムなど、(たとえ鹵獲した兵器の一部しか運用できないとしても)強力で高度な兵器の全てが含まれているのです。

 反政府勢力からすると鹵獲したの高度な兵器の使用は困難を極めることが予想されますが、仮に彼らがその一部でも稼働させることに成功した場合、これはシリア軍とその協力関係にある部隊にとっては深刻な問題となるでしょう。

  1. 当一覧は、2024年12月8日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(編訳者は一覧の精査には関与していません)。
  2. この一覧には、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際にシリアの反政府勢力が破壊や鹵獲などした兵器類は、ここに記録されている数よりも間違いなく多いでしょう。
  3. トラックやジープ類の損失は後日に追加する可能性があります。
  4. シリア軍側の損失を記録する人びとの正気を保つため、ライフルなどの小火器や弾薬はこの一覧には含まれません。
  5. この一覧は、各種情報を精査して確実と判断したものだけを掲載しています。したがって、後で誤りや重複が判明したものは適宜修正されます。
  6. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。
  7. この一覧については、資料として使用可能な映像や動画等が追加され次第、更新されます。
 注1:この一覧は、(少なくとも現時点では)2024年12月5日にハマが陥落した時点か、それ以前に判明した装備の損失だけをリストアップしています。後の出来事次第では一覧は後に追加されていくかもしれませんが、仮に現体制が崩壊した場合、シリア軍が保有していたものを文字通り全てここにリストアップする意味と必要性はなくなるでしょう。

 注2:12月8日にアサド政権が崩壊したため、当一覧が更新されるかは不透明な状況となりました。

損失数 - 434(内訳: 撃破: 10, 損傷: 1, 鹵獲:423)

戦車 (156, このうち 撃破: 5, 損傷: 1, 鹵獲: 150)


装甲戦闘車両 (12, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 12)


歩兵戦闘車 (71, このうち 撃破: 2, 鹵獲: 69)


装甲兵員輸送車 (9, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 9)


歩兵機動車 (5, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 5)

工兵・支援車輌等 (20, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 20)


砲兵支援車両または装備類 (1, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 1)
  • 1 9T452弾薬輸送車兼装填車 (BM-27 "ウラガン" MRL用): (1, 鹵獲)


牽引砲 (53, このうち 撃破: 1, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 52)


自走砲 (25, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 25)


多連装ロケット砲 (28, このうち 撃破: 0, 損傷: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 28)


対空砲 (21, このうち 撃破: 1, 損傷: 0, 鹵獲: 20)


自走対空砲 (16, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 16)


地対空ミサイルシステム (4, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 4)


レーダー (3, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 3)
  • 1 SNR-125 "ロー・ブロー” 射撃管制レーダー : (1, 鹵獲)
  • 1 48Ya6-K1 "ポッドレット" Sバンド低高度対空捜索レーダー: (1, 鹵獲)
  • 1 形式不明のレーダーステーション: (1, 鹵獲)


電子戦システム (0, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 0)
  • 0 :


航空機 (7, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 7)


ヘリコプター (2, このうち 撃破: 1, 放棄: 0, 鹵獲: 1)


無人偵察機 (1, このうち 撃破: 0, 放棄: 0, 鹵獲: 1)


 Supecial Thanks: Calibre Obscura, Dan, MrRevinsky, QalaatAlMudiq, C4H10FO2P, Mintel World, Asia Intel, JohnSevenTwoC'est Carré (敬称略)

改訂・分冊版が2025年前半に発売予定です

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