著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
当記事は、2022年に本国版「Oryxブログ」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事です。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります(本国版の記事はリンク切れ)。
たしかに、機械化部隊の装備で装甲回収車ほど評価されていないものはないでしょう。
一般的には前線部隊の後方に展開し、何かが深刻な事態に陥ったときにしか目にしない装備ではあるものの、それでも機械化部隊の作戦が任務を達成させるためには不可欠な存在です。この事実は世界中の現代的な軍隊の装備に反映されており、保有兵器の中に相当数のARV(装甲回収車)や別種の装甲支援車両が含まれていることが多く見られます。
戦場における重要性の観点から、ARVのコンセプトは新たな問題と安全保障上の脅威に対応するために絶えず進化してきました。当初、冷戦時代にドイツの平原を機甲部隊で突破する際に、大量の装甲戦闘車両(AFV)の動きを維持するために考案されたARVですが、今日ではより少数の戦車を支援するために運用されています。
それにもかかわらず、展開が想定される地域の数が劇的に増加し、対戦車ミサイル(ATGM)の普及や即席爆発装置(IED)といった脅威と相まって、現代のARVに対する要求はこれまでになく高まっているのです。具体的に思い浮かぶ地域はアフガニスタンです。NATOの部隊は携帯式対戦車擲弾発射器(RPG)やIEDの脅威から自らを守るため、軽装甲と重装甲の車両を大量に使用しました。
近年でAFVが重要な役割を果たしているもう一つの紛争地域はシリアであり、トルコ軍はイドリブとアレッポの両県に展開しています。この地で、彼らはBMC「キルピ」や「ヴラン」耐地雷伏撃防護車両(MRAP)で頻繁に基地から出てパトロールを行っているのです。
MRAPが備える装甲と耐爆性能は、これまでも多くの兵士の命を救ってきました。しかし、MRAPがスタックするというあまりあり得ないシナリオが現実となった場合、危険から救い出すためにはより強力な車両が必要となります。
戦場における重要性の観点から、ARVのコンセプトは新たな問題と安全保障上の脅威に対応するために絶えず進化してきました。当初、冷戦時代にドイツの平原を機甲部隊で突破する際に、大量の装甲戦闘車両(AFV)の動きを維持するために考案されたARVですが、今日ではより少数の戦車を支援するために運用されています。
それにもかかわらず、展開が想定される地域の数が劇的に増加し、対戦車ミサイル(ATGM)の普及や即席爆発装置(IED)といった脅威と相まって、現代のARVに対する要求はこれまでになく高まっているのです。具体的に思い浮かぶ地域はアフガニスタンです。NATOの部隊は携帯式対戦車擲弾発射器(RPG)やIEDの脅威から自らを守るため、軽装甲と重装甲の車両を大量に使用しました。
近年でAFVが重要な役割を果たしているもう一つの紛争地域はシリアであり、トルコ軍はイドリブとアレッポの両県に展開しています。この地で、彼らはBMC「キルピ」や「ヴラン」耐地雷伏撃防護車両(MRAP)で頻繁に基地から出てパトロールを行っているのです。
MRAPが備える装甲と耐爆性能は、これまでも多くの兵士の命を救ってきました。しかし、MRAPがスタックするというあまりあり得ないシナリオが現実となった場合、危険から救い出すためにはより強力な車両が必要となります。
この役割のために、トルコ陸軍はアメリカ製の「M984」回収車もシリアに配備し、MRAPとの共同パトロールに参加させています。しかしながら、(非装甲である)「M984」の乗員は車内ではほぼ無防備な状態であったことから、シリアや他の紛争地帯をパトロールするMRAPに同行する装甲車両が緊急に必要とされました:それが今回取り上げるMPG社製「M4K」です。
「M4K」プロジェクトは、トルコ陸軍による装甲装輪回収車の切迫した要求に応えるため、国防産業庁(SSB)と(クレーン機構の設計を担当する)機械製造グループ(MPG)によって立ち上げられたものです。[1]
結果として誕生した車両は最大4人乗りで、最高時速は80kmを誇ります。装甲キャビンは小火器やIEDから上院を保護する防御力を備えているほか、同キャビンの上に搭載されたジャマーは、IEDが爆発する前に無力化することが可能です。
合計で29台の「M4K」がトルコ陸軍によって発注され、2020年1月にM4Kの資格試験が完了した後、その全てが同年の8月に納入されました。このことは、プロジェクトが緊急かつ迅速に成功を収めたことを物語っています。[2] [3]
「M4K」は、近い将来トルコ陸軍に就役する予定の(アナドールいすゞの防衛部門である)アナドール・ディフェンス製「セイト 8x8」戦車運搬車と構成部品の大部分が共通となっています。
もしトルコが「アルタイ」戦車用エンジンを独自で生産する上での困難を克服し、同戦車の量産を開始することができれば、この国はNATO諸国で最も進んだ戦車と戦車運搬車、そして装輪式ARVを手にすることになるでしょう。
「M4K」が備える主要な車両の回収装置は巨大なクレーンであるため、動けなくなった車両などを溝や泥から傾けて引き上げるだけでなく、AFVの砲塔やエンジンといった大型車両の部品を交換することも可能です。また、このARVには、回収作業用の油圧式ウィンチを2基(前部と後部に1基ずつ)、牽引装置、車両を安定させるためのアウトリガと駐鋤も装備されています。[4]
「M4K」の車体は不整地での機動性に優れていることから、救助のために駆り出されて苦労する旧式のARVと同じ運命をたどらずに済むことが期待されています。
2021年4月、「M4K」をベースとした33台の装輪式ARVを納入するため、トルコ軍がMPGと3,850万ドル(約59億円)の契約を結んだことが発表されました。この新型車両については、「M4K」よりも軽装甲であり、キャビン上部のリモートウェポンステーションはオプションとなる予定です。[7] [8]
トルコ陸軍におけるARV運用の長い歴史は、どこにでもある「M4 "シャーマン"」戦車の車体をベースにした「M74」に始まります。1960年代後半から西ドイツから大量に調達された「M74」は、長きにわたってトルコで運用される唯一のARVでした。[9]
ところが、1980年代と1990年代にアメリカとドイツから余剰となった大量の戦車が引き渡されたことで、トルコはさらに数種類のARV(「ベルゲパンツァー2」や「M88A1」)を保有するに至ったのです。
1990年代には、「M107」及び「M110」自走砲 のシャーシをベースにした「M578」軽回収車も導入されました。そして、2000年代には、アメリカの「M984」回収車と国産の「M48T5」ARVが登場したのです。
これらのARVに共通しているのは、(「M984」以外は)装軌式のプラットフォームをベースにしているものの、小火器やIEDに対する防御力が低いことでしょう(ただし、戦車ベースのものに関しては相当の防御力があることは言うまでもない)。
近年における各国の軍隊は、大型で重量級のAFV を保有する一方で、装輪式の歩兵戦闘車(IFV) や装甲兵員輸送車(APC)、軽戦術車両を大量に導入する傾向にあります。前者のサイズと重量は誇張しがたいものがあり(例えば、イギリスの「エイジャックス」偵察車の重量は38トンで、更新対象の「シミター」や「セイバー」よりも約30トンも重い)、それらを現地で回収するためには完全に斬新な方法が必要となることは容易に想像できます。
反対に、軽戦術用車両はスピードと機動性を重視した運用がなされるため、IEDや待ち伏せ攻撃だらけの地域で使用される口径が多く見られます。以上のことから、現代のARVは、彼らに追随可能な機動性と同等の防御力を備えることが必須の条件なのです。
「M4K」の装甲キャビンは、NATOのSTANAG 4569レベルに沿ってセカント社によって設計されました。これによって、キャビンはレベル2までの銃弾(7.62×39mmAPI弾)及びレベル2aまでの地雷(車体の下で6kgの爆風を生じさせるもの)に対する防御力を備えています。[10]
「M4K」の装甲防御力はMRAPより低いものの、シリアや同様の紛争地域における最前線ではない場所での行動には十分なものです。
回収任務中に待ち伏せや攻撃を撃退できるよう、「M4K」の屋根にはアセルサン製「サープ」リモート・ウェポン・ステーション(RWS)が装備されています。作戦上の必要性に応じて、40mm自動擲弾銃や12.7mm重機関銃、あるいは7.62mm軽機関銃の装備が可能となっている点が同RWSの特徴です。
ルーフのIEDジャマー、CBRN防護装置、そして車体上部の右側に装備された6基の発煙弾発射機が加わることで、過酷な状況下における生存性がさらに向上し、「M4K」は間違いなくこのクラスで最高の防御力を備えた車両となったと言えるでしょう。
MPG「M4K」は、軍事工学の中でも慢性的に過小評価されているこの分野における数少ない魅力的な新装備の一つであり、トルコの国内外での作戦に役立つことは間違いありません。このARVの開発は実戦配備から得られた教訓を踏まえて継続されているため、近い将来に軽量化された新型が大量に配備されることでしょう。
装輪式AFVを運用する国の数は世界中で増加しており、トルコで生産されたものも多く含まれて言います。したがって、MPG「M4K」も初の輸出先が見つかる日は、そう遠いことではないのかもしれません。
[1] Another Vehicle Contributed by SECANT Enters the Inventory https://www.savunmahaber.com/en/another-vehicle-contributed-by-secant-enters-the-inventory/
[2] https://twitter.com/SavunmaSanayii/status/1292385227977961472?s=20
[3] Delivery of M4K Recovery vehicles to Turkish Forces Complete https://www.defenseworld.net/news/27615/Delivery_of_M4K_Recovery_vehicles_to_Turkish_Forces_Complete
[4] IDEF 2019: Multi-purpose armoured recovery crane for the Turkish Armed Forces https://youtu.be/C4vVLneX7vA
[5] Steadfast Defender-21 Tatbikatında 8×8 kurtarıcı araç M4K boy gösterdi https://www.defenceturk.net/steadfast-defender-21-tatbikatinda-turk-ispanyol-italyan-ortak-egitimi
[6] https://twitter.com/SpainNATO/status/1399292914157731841
[7] TSK, 8×8 M4K Tedarikine Devam Ediyor https://www.defenceturk.net/tsk-8x8-m4k-tedarikine-devam-ediyor
[8] https://twitter.com/TyrannosurusRex/status/1447825102494740484
[9] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[10] Another Vehicle Contributed by SECANT Enters the Inventory https://www.savunmahaber.com/en/another-vehicle-contributed-by-secant-enters-the-inventory/
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「M4K」プロジェクトは、トルコ陸軍による装甲装輪回収車の切迫した要求に応えるため、国防産業庁(SSB)と(クレーン機構の設計を担当する)機械製造グループ(MPG)によって立ち上げられたものです。[1]
結果として誕生した車両は最大4人乗りで、最高時速は80kmを誇ります。装甲キャビンは小火器やIEDから上院を保護する防御力を備えているほか、同キャビンの上に搭載されたジャマーは、IEDが爆発する前に無力化することが可能です。
合計で29台の「M4K」がトルコ陸軍によって発注され、2020年1月にM4Kの資格試験が完了した後、その全てが同年の8月に納入されました。このことは、プロジェクトが緊急かつ迅速に成功を収めたことを物語っています。[2] [3]
「M4K」は、近い将来トルコ陸軍に就役する予定の(アナドールいすゞの防衛部門である)アナドール・ディフェンス製「セイト 8x8」戦車運搬車と構成部品の大部分が共通となっています。
もしトルコが「アルタイ」戦車用エンジンを独自で生産する上での困難を克服し、同戦車の量産を開始することができれば、この国はNATO諸国で最も進んだ戦車と戦車運搬車、そして装輪式ARVを手にすることになるでしょう。
アナドール・ディフェンス製「セイト 8x8」戦車運搬車 |
「M4K」が備える主要な車両の回収装置は巨大なクレーンであるため、動けなくなった車両などを溝や泥から傾けて引き上げるだけでなく、AFVの砲塔やエンジンといった大型車両の部品を交換することも可能です。また、このARVには、回収作業用の油圧式ウィンチを2基(前部と後部に1基ずつ)、牽引装置、車両を安定させるためのアウトリガと駐鋤も装備されています。[4]
「M4K」の車体は不整地での機動性に優れていることから、救助のために駆り出されて苦労する旧式のARVと同じ運命をたどらずに済むことが期待されています。
「M4K」の能力については、2021年5月にルーマニアで行われたNATO主導の「ステッドファスト・ディフェンダー2021」演習において、初めて国際的な場でテストされました。同演習で、「M4K」は他の装輪式ARVでは回収できなかった味方車両の回収任務に参加しています。[5][6]
2021年4月、「M4K」をベースとした33台の装輪式ARVを納入するため、トルコ軍がMPGと3,850万ドル(約59億円)の契約を結んだことが発表されました。この新型車両については、「M4K」よりも軽装甲であり、キャビン上部のリモートウェポンステーションはオプションとなる予定です。[7] [8]
「M4K」が "損傷した"「ヴラン」MRAPを吊り上げて運搬車の荷台に置いている:車体後部の牽引装置と安定装置(アウトリガと駐鋤)にも注目 |
トルコ陸軍におけるARV運用の長い歴史は、どこにでもある「M4 "シャーマン"」戦車の車体をベースにした「M74」に始まります。1960年代後半から西ドイツから大量に調達された「M74」は、長きにわたってトルコで運用される唯一のARVでした。[9]
ところが、1980年代と1990年代にアメリカとドイツから余剰となった大量の戦車が引き渡されたことで、トルコはさらに数種類のARV(「ベルゲパンツァー2」や「M88A1」)を保有するに至ったのです。
1990年代には、「M107」及び「M110」自走砲 のシャーシをベースにした「M578」軽回収車も導入されました。そして、2000年代には、アメリカの「M984」回収車と国産の「M48T5」ARVが登場したのです。
これらのARVに共通しているのは、(「M984」以外は)装軌式のプラットフォームをベースにしているものの、小火器やIEDに対する防御力が低いことでしょう(ただし、戦車ベースのものに関しては相当の防御力があることは言うまでもない)。
1976年1月2日、オーバーシーズ・ナショナル・エアウェイズが運航していた「DC-10」がイスタンブールのイェシルキョイ空港(現アタテュルク国際空港)に不時着した:画像は機体が「M74」ARVによって現場から牽引される際の一コマ |
近年における各国の軍隊は、大型で重量級のAFV を保有する一方で、装輪式の歩兵戦闘車(IFV) や装甲兵員輸送車(APC)、軽戦術車両を大量に導入する傾向にあります。前者のサイズと重量は誇張しがたいものがあり(例えば、イギリスの「エイジャックス」偵察車の重量は38トンで、更新対象の「シミター」や「セイバー」よりも約30トンも重い)、それらを現地で回収するためには完全に斬新な方法が必要となることは容易に想像できます。
反対に、軽戦術用車両はスピードと機動性を重視した運用がなされるため、IEDや待ち伏せ攻撃だらけの地域で使用される口径が多く見られます。以上のことから、現代のARVは、彼らに追随可能な機動性と同等の防御力を備えることが必須の条件なのです。
「M4K」ARVがBMC「キルピ」MRAPを牽引する様子 |
「M4K」の装甲キャビンは、NATOのSTANAG 4569レベルに沿ってセカント社によって設計されました。これによって、キャビンはレベル2までの銃弾(7.62×39mmAPI弾)及びレベル2aまでの地雷(車体の下で6kgの爆風を生じさせるもの)に対する防御力を備えています。[10]
「M4K」の装甲防御力はMRAPより低いものの、シリアや同様の紛争地域における最前線ではない場所での行動には十分なものです。
回収任務中に待ち伏せや攻撃を撃退できるよう、「M4K」の屋根にはアセルサン製「サープ」リモート・ウェポン・ステーション(RWS)が装備されています。作戦上の必要性に応じて、40mm自動擲弾銃や12.7mm重機関銃、あるいは7.62mm軽機関銃の装備が可能となっている点が同RWSの特徴です。
ルーフのIEDジャマー、CBRN防護装置、そして車体上部の右側に装備された6基の発煙弾発射機が加わることで、過酷な状況下における生存性がさらに向上し、「M4K」は間違いなくこのクラスで最高の防御力を備えた車両となったと言えるでしょう。
MPG「M4K」は、軍事工学の中でも慢性的に過小評価されているこの分野における数少ない魅力的な新装備の一つであり、トルコの国内外での作戦に役立つことは間違いありません。このARVの開発は実戦配備から得られた教訓を踏まえて継続されているため、近い将来に軽量化された新型が大量に配備されることでしょう。
装輪式AFVを運用する国の数は世界中で増加しており、トルコで生産されたものも多く含まれて言います。したがって、MPG「M4K」も初の輸出先が見つかる日は、そう遠いことではないのかもしれません。
[1] Another Vehicle Contributed by SECANT Enters the Inventory https://www.savunmahaber.com/en/another-vehicle-contributed-by-secant-enters-the-inventory/
[2] https://twitter.com/SavunmaSanayii/status/1292385227977961472?s=20
[3] Delivery of M4K Recovery vehicles to Turkish Forces Complete https://www.defenseworld.net/news/27615/Delivery_of_M4K_Recovery_vehicles_to_Turkish_Forces_Complete
[4] IDEF 2019: Multi-purpose armoured recovery crane for the Turkish Armed Forces https://youtu.be/C4vVLneX7vA
[5] Steadfast Defender-21 Tatbikatında 8×8 kurtarıcı araç M4K boy gösterdi https://www.defenceturk.net/steadfast-defender-21-tatbikatinda-turk-ispanyol-italyan-ortak-egitimi
[6] https://twitter.com/SpainNATO/status/1399292914157731841
[7] TSK, 8×8 M4K Tedarikine Devam Ediyor https://www.defenceturk.net/tsk-8x8-m4k-tedarikine-devam-ediyor
[8] https://twitter.com/TyrannosurusRex/status/1447825102494740484
[9] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[10] Another Vehicle Contributed by SECANT Enters the Inventory https://www.savunmahaber.com/en/another-vehicle-contributed-by-secant-enters-the-inventory/
2025年前半に改訂・分冊版が発売予定です |
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