著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ
過去20年間にわたって軍に何百億ドルもの投資を行ったにもかかわらず、不思議なことに、今のベネズエラには一連の投資を行う前よりも著しく弱体化した軍隊が残されています。この見事な "偉業"が達成された要素には、極めて特異な調達決定がもたらした結果だけではなく、1990年代後半のベネズエラ軍が南米で(事実上)最も強力な軍隊の一つだったことも含まれています。
この国は、長年にわたってアメリカ、フランス、イスラエルなどから近代的な装備を調達してきたものの、2006年にウゴ・チャベス大統領の政策が原因となってアメリカがベネズエラに武器禁輸措置を取ったため、武器調達先はこれらの国々からロシア、中国、イランに置き換えられました。
2006年以前のベネズエラは西側諸国から高度な装備を調達することができましたが、同年以降は、防衛上のニーズを満たすため、または(もはや西側諸国から容易に入手不可能となった予備部品の不足で)運用できなくなった装備を置き換えるため、新たな調達先としてロシアに目を向けることになったのです。
興味深いことに、ベネズエラは即座にロシアから旧式の「T-72B1」戦車と「S-125」地対空ミサイル(SAM)システムを大量に調達するに至りました。その後に「ブーク-M2」や「S-300V」等のより先進的なシステムも導入されましたが、ある程度の調達した兵器システムについては、その能力が確実に置き換え対象よりも低かったことは注目に値するでしょう。
唐突なサポート停止で置き換えが必要になったシステムの一つが、2005年にイスラエルから新品で調達した同国製の「バラク1 ADAMS」SAMシステムです。(1基につき8セルを備えた)3基の「バラク1」発射機は、ベネズエラ空軍とは別の組織である防空作戦コマンド(CODA:Comando de Operaciones de Defensa Aérea)に配備されていたフランスの「ローランド-2 」SAMシステムを更新するために導入されたものであり、戦争やクーデターの際に航空攻撃を受ける可能性がある空軍基地やその他の重要施設の防衛を任務としていました。
1992年11月に発生したクーデター未遂事件では、ベネズエラ空軍の一部が戦闘機や攻撃機で体制側の空軍基地を攻撃するなどの極めて重要な役割を果たしたため、空軍基地防衛の重要性はベネズエラ軍にとっては火を見るより明らかなことだったのです。
1992年11月のクーデター未遂事件では、政府軍の「F-16」からの機銃掃射で反乱軍の「OV-10 "ブロンコ"」が撃墜された:この劇的な瞬間の映像はこの画像をクリックすると視聴できる |
12kmの射程距離を誇る「バラクー1」高機動防空システム(ADAMS)は、低空飛行する敵機やヘリコプターに対する拠点防空に最適化されたものです。8発のミサイルを搭載する小型の牽引式発射システムについては、トラック搭載型も設計されましたが、商業的な成功を収めることはありませんでした。
このミサイルはキャニスターから垂直に発射される、いわゆるVLS方式を採用しています。上述のとおり、地上発射型についてはベネズエラが唯一のカスタマーという結果で終わった一方で、艦載型はチリ、インド、イスラエルの海軍に採用され、各国でその能力が高く評価されています。
機能と運用面で地上運用型の「バラク-1」に最も近い他国の同等品としては、ロシアの「9K330 "トール"」が挙げられます。
「バラク-1」のミサイル・キャニスターが8セル備えた垂直発射機に装填される状況 |
CODAにおける運用で、「バラク-1は」、オットーメララ製「40/L70」レーダー誘導型40mm機関砲と「フライキャッチャーMk.1/2」火器管制レーダーの組み合わせと「ローランド-2」SAMシステムで構成される「ガーディアン」防空システムを更新しました。
CODAに加えて、かつてのベネズエラ陸軍はボフォース40mm対空機関と 「AMX13 S533」、「AMX-13M51 "ラファーガ」自走対空砲から成る独自の防空戦力を保有していましたが2010 年代の変わり目に退役して以来、今のベネズエラ軍は自走対空砲を保有していません。
その代わり、ロシアから入手した「S-125 "ペチョーラ-2M」、「ブーク-M2」、「S-300V」SAMシステムを運用しています。
ベネズエラとイスラエルの外交関係が緊張した結果、メーカーであるIAIとラファエルからのサポートが途絶えたため、「バラク-1」はすぐに運用継続が困難になってしまいました。
この状況は、アメリカがイスラエル政府に対してベネズエラとの(自国由来の技術を含む)軍事面における契約を全面的に解消させ、今後はいかなるイスラエルの軍事技術も売却しないよう要請したことでさらに悪化したようです。
これらの要因が組み合わさった結果、ベネズエラにおける「バラク-1」運用史は異常に短い形で終焉を迎えました。というのも、相当な費用を投じて導入された「バラク-1」は、たった数年間使用されただけで退役したからです。
結果として、CODAは高度な防空システムを「トール」や「パーンツィリ」のような現代的なロシアのシステムに更新するのではなく、ロシアから調達した「ZU-23」対空機関砲で間に合わせる必要に迫られてしまいました。この機関砲は現在でも空軍基地防衛の主要な装備であり続けています。
ベネズエラの「ローランド-2」:「バラク-1」と同様に発射機は牽引式である |
CODAで運用されていたオットーメララ「40/L70 "ダルド"」40mm対空機関砲:同型の砲塔を装備した艦艇を世界中で目にすることができるだろう |
2010年代初頭には石油の供給と引き換えに中国との軍事協定が締結されたものの、ベネズエラが「バラク-1」のようなシステムを導入する余裕があった時代はとうの昔に過ぎ去ってしまいました。
近年では、ベネズエラは過去数十年間に退役した装備のオーバーホールを行うことで戦力の強化に努めています。これまでに、「AMX-13」と「AMX-30」戦車、キャデラック・ゲージ「コマンドウ」装甲車、イスラエルの「LAR-160」 多連装ロケット砲(MRL)といった、過去に放棄された兵器類が復活を遂げました。しかしながら、ベネズエラはこのMRLシステムを本来の用途に用いるのではなく、「LAR-160」の(「AMX-13」戦車がベースの)車体を地雷除去車として再利用したり、さらには「M40A1」106mm無反動砲を6門搭載した装甲戦闘車両の車体として活用したのでした。
「バラク-1」が再生兵器の候補に選ばれる可能性は極めて低いでしょう。 まだイランに提供されていないのであれば、このSAMシステムは間違いなく放棄された倉庫で分厚い埃に埋もれて生き残っていることでしょう。そして、その姿を見る人にベネズエラがまだ南米で強大な軍隊の一つに数えられていた時代を思い出させる役割を果たし続けているのかもしれません。
「バラク-1」が最初で最後に公開された2006年の独立195周年の閲兵式の一コマ |
特別協力:FAV-Club
※ この記事は、2023年3月25日に「Oryx」本国版(英語版)に投稿された記事を翻訳し
たものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。