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2024年3月3日日曜日

ドローン・パワー構築への道のり:トルクメニスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 当記事は、2022年10月17日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 中央アジアは、必ずしも武装ドローンの保有国として知られているわけではありません。  
 カザフスタンとキルギスは現時点で少数の無人戦闘航空機(UCAV)を運用しており、後者は2021年末に無人機戦の時代に突入したばかりです(注:2022年9月に初めて実戦投入されました)。[1]

 ウズベキスタンは2018年にアメリカから得た数機の「RQ-11 "レイヴン"」という形で控えめな無人航空偵察戦力を保有している一方で、 最新のトレンドに合わせて無人兵器を増強している中央アジアの国が一つだけ存在します:トルクメニスタンです。
 
 過去10年間で、トルクメニスタンは中国、トルコ、イスラエル、イタリア、ベラルーシから何種類ものU(C)AVを導入して無人航空戦力を増強してきました。同時に、同国はいくつかのベラルーシ製UAVの生産ラインの設置も試みてきたものの、これまでに組み立てられたタイプは用途や能力が限定的なものでした。[2] 

 それでも、こうしたUAVの製造で得た経験をベースにトルクメニスタンがいつかベラルーシや他国の大型UAVをライセンス生産することは大いにあり得るでしょう。しかし、00年代後半にはそのような野望はまだ遠い夢でした。なぜならば、トルクメニスタンはその時点でUAVをほとんど運用していなかったからです。事実、1991年の独立後にソ連から引き継いだ大量の「La-17」無人標的機が唯一の無人航空システムだったのです。

 初の実用的なUAVを得るためにトルクメニスタンはイスラエルに関心を向け、「エアロノーティクス・ディフェンス」社の「オービター2B」と「エルビット」社の「スカイラーク」をそれぞれ調達するに至りました。両機種は現在でも現役での運用が続けられています。

空中に射出されたトルクメニスタン軍の「オービター2B」

 2009年には入札でロシアの「ザラ・エアロ」社がイギリスやイスラエルの企業を出し抜いたようであり、トルクメニスタンが内務省の対テロ作戦用にロシアから多数の「421-12」UAVを導入する段階にあると報道されました。[3]

 しかし、トルクメニスタンで(ほかのUAVが定期的に目撃されているにもかかわらず)このタイプの目撃例は一度もないため、この調達が実際に行われたのかどうかは判然としません。 

 2010年代初頭になると、トルクメニスタンはより大型で滞空時間の長いUAVの需要を満たすことも模索し始めました。ただし、同国はそれらをイスラエルから調達するのではなく、イタリアの「セレックスES」社と契約して3機の「ファルコXN」の導入に行き着いたのです。[4]

 2011年に納入された3機は、同国のUAV運用における中心的な拠点と化した首都アシガバート近郊のアク・テペ・ベズメイン空軍基地に常駐しています。[5]

  最大14時間の滞空時間を誇る「ファルコ」は、ほかの中央アジア諸国より何年も早くトルクメニスタンに真の無人偵察戦力をもたらしました。


 2013年には、トルクメニスタンにベラルーシ製UAVの工場を建設するプロジェクトに両国が合意したという驚きの発表がありました。[2] 

 そして同年に「無人航空機センター」の建設が始まり、2015年8月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領(当時)によって同施設が開所され、その式典で大統領が同センターで組み立てられる予定のUAVの1機種である「ブセル-M」にサインをしました。

 トルクメニスタンでは「アスダ・アスマン(穏やかな空)」と呼称されている「ブセル-M」は、今は「ブセル-M40」UAVと「ブセル-MB2」UCAVと共に同センターで生産されていることが知られています。[6]

 ここでは「ブセル-MB1」徘徊兵器の製造も推測されていますが、依然としてその事実は確認されていません。

 このセンターが設立される前には国内に防衛産業が皆無だったことを踏まえると、トルクメニスタンでUAVの生産ラインが立ち上げたことは特筆すべき偉業と言えるでしょう。

  最初のUAVの生産は2016年後半に開始される予定であったものの、若干の遅れが出ているようです。[6] 

 同年にはベラルーシから「ブレヴェストニク-MB」UCAVの供給に関する交渉が行われていることも発表されており、この機体も同センターで生産される可能性が高いと思われましたが、同システムをめぐる契約は最終的に実現には至りませんでした。[7] 

 2021年2月にベルディムハメドフ大統領が再び「UAVセンター」を視察した際に、おそらくより新しいシステムの生産に道を開くことになる同施設が生産能力を高めるための近代化が報じられました。[8]

グルバングル・ベルディムハメドフ大統領(当時)の横に展示されている、ライセンス生産された「ブセル-M40」及び「ブセル-MB2」UCAV

 2010年代半ばには、トルクメニスタンが中国から導入した計4種類のUAVの中で最初のものが納入されたことで、同国に無人機戦力は飛躍的に拡大するに至りました。

 これらの中国製無人機には、「CH-3A」や一風変わったジェット推進式の「WJ-600A/D」からなる同国初のUCAVも含まれていました。前者は射程10km程度の「AR-1」空対地ミサイル(AGM)を2発搭載可能であり、後者は射程20km以上の「CM-502KG」AGMを最大2発搭載することができるシステムです。

 中国から導入した他の2種類のUAVは「La-17」を更新する「S300」と「ASN-9」無人標的機であり、これらと市販されている多くのUAVによってトルクメニスタンにおける中国製ドローンの系譜が完成したのです。

「CH-3A」UCAV

「WJ-600A/D」UCAV

 一方で、トルクメニスタンはオーストリアから「DA-42MPP」有人偵察機を5機導入することによって偵察能力の拡充も図りました。

 これらについては、特に国境監視の任務用に導入したと思われます。トルクメニスタンは不安定なアフガニスタンと国境を804kmも接しているため、辺境における軍事的プレゼンスの向上に拍車をかけたのでしょう。

 その任務の直接的な結果のためか、「DA-42MPP」は同国で運用されている航空機の中で最もキャッチされにくい機種となっています。

 「DA-42MPP」は機首直下に前方監視型赤外線装置(FLIR)を搭載しているほか、13時間にも及ぶ飛行可能時間は同機を国境沿いの監視任務にも最適なものにしています。

 2021年9月に実施されたトルクメニスタン独立30周年記念の軍事パレードでは同国が保有する全ての「DA-42MPP」が編隊飛行を披露した

 過去に「CH-3A」と「WJ-600A/D」を導入したことで、トルクメニスタンは論理的に考えると中国のUCAVシリーズの次のシステム(「CH-4B」または「翼竜」シリーズ)の運用者となるはずでしたが、この国はより多くのUCAVを導入するためにトルコへ目を向けました。

 トルクメニスタン空軍が中国の「CH-3A」や「WJ-600A/D」UCAVの運用中に技術的な問題に出くわし、結果的にトルコから「バイラクタルTB2」をより費用対効果の高い代替機として調達したことも考えられなくもありません。
 
 トルクメニスタンのTB2には「ウェスカム」製 「MX-15D」や「アセルサン」製「CATS」ではなくドイツの「ヘンゾルト」社が製造した「アルゴス-II HDT」 EO/IR・FLIRシステムが装備されており、最大で4発の「MAM-L」または「MAM-C」誘導爆弾が搭載可能となっているようです。[11]

 また、同国のTB2は、機体上部に配置された対妨害装置と思われるデバイスや夜間運用のための2基目の尾部搭載カメラの搭載など、以前のバージョンと比べて多くの改良が加えられています。 


 トルクメニスタンは歴史的に中国やイタリアU(C)AVを首都アシガバート近郊にあるアク・テペ・ベズメイン空軍基地で運用してきましたが、「バイラクタルTB2」はUAVの運用を念頭に置いて新たに建設された空軍基地を拠点にするようです。 

 アシガバートの北に位置するこの小さな空軍基地は、2021年2月にグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領がこの地を訪れた際にはまだ建設中でした。

 「無人航空機センター」に隣接している同基地は(この類のものでは)この地域では初めてのものであり、トルクメニスタンがUAVとその効果的な運用に高い価値を置いていることを明確に示しています。

「UAVセンター」に隣接する空軍基地の完成予想図

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争後、トルクメニスタンは再び無人機部隊に全く新しい戦力の導入を試みました。[12]

 その結果は、イスラエルから「スカイストライカー」徘徊兵器の導入という形で明らかとなりました。これは2020年の戦争でアゼルバイジャンがアルメニア軍部隊や装甲車両、防御陣地に使用して大きな効果を発揮したことで知られている無人兵器の1つです。

 トルクメニスタンは「バイラクタルTB2」と「スカイストライカー」の導入を通じて、44日間の戦争で決定的となったアゼルバイジャンが持つ無人機の攻撃能力を忠実に再現しようとしているようです。また、トルクメニスタン海軍のコルベット「デニズ・ハン」で運用される「スキャンイーグル2」無人偵察機も導入することで、増強されつつある戦力がさらに拡大しました。

発射台に載せられたトルクメニスタン軍の「スカイストライカー」徘徊兵器

コルベット「デニズ・ハン」に搭載されている「スキャンイーグル2」

 ここではトルクメニスタンが保有する全UAVの一覧を紹介します(各機体名をクリックすると、トルクメニスタンで運用中の当該UAVの画像を見ることができます)。※記事はまだ下に続きます。


無人偵察機

無人戦闘航空機

徘徊兵器
  • エルビット「スカイストライカー」 [2021]
  •  国家統一企業「ベラルーシ国立科学アカデミー・多目的無人システム科学・生産センター」「ブセル-MB1」 (複数の情報源で言及されるも、未確認)

垂直離着陸型無人機

 トルクメニスタンは敵の無人機が自国に対して使用される可能性があるという脅威について、それらの運用を無力化または妨害することを目的とした数種類の攻撃型およびパッシブ型の対UAVシステムの導入によって対処することを模索しています。これには携帯式の対ドローン銃から長射程の地対空ミサイル(SAM)システム、さらには高度な妨害システムまでの、あらゆるものが含まれているようです。

 トルクメニスタン軍は膨大な数の現代的なSAMシステムを運用しています。[13]

  いくつかの対UAVシステムは「無人航空機センター」で製造されており、これまでに内務省やほかの政府庁舎に設置されています。[8]


「UAVセンター」で展示されている各種の対ドローン・レーダーや電子光学装置

 また、トルクメニスタンの電子戦(EW)戦力には、多数の(ドイツの)「ローデ・シュワルツ」社製通信妨害システムも含まれています。この非常に高度なシステムは、特定のドローンとそのオペレーター間の通信をキャッチして妨害することが可能です。

 このトラックベースのシステムは、通常の無線通信システムと最新の周波数ホッピング方式のシステムの両方を高いホッピングレートで妨害することを可能にする、広帯域の検出器と励磁器を組み合わせたものです。 [14] 


 中国やトルコのUCAVやイスラエルの徘徊兵器の導入により、トルクメニスタンはこの地域における無人機大国となりました。カザフスタンは中国の「翼竜Ⅰ」を4機運用し、最近ではトルコから「トルコ航空通産業(TAI)」製「アンカ」を3機調達しましたが、その地位が動くことはなさそうです。

 トルクメニスタンが頻繁に新しい武器や装備に投資してきたことを踏まえると、軍がどんな敵に対しても優位を確保できるようにするために無人機の戦力をさらに向上させることが考えられます。この国の無人機飛行隊への将来的な追加装備には、イスラエルの「ヘルメス900」「ベイラクタル・アクンジュ」のようなUCAVが含まれる可能性があります。

 このようなタイプのUCAVを導入するならば、監視、シギント、妨害及びEW関連装備、スタンドオフ兵器の運用能力など、現在保有する有人機にない能力を空軍にもたらすことができるのです。

「バイラクタル・アクンジュ」UCAV

[1] Turkish Drones Are Conquering Central Asia: The Bayraktar TB2 Arrives To Kyrgyzstan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkish-drones-are-conquering-central.html
[2] Belarus To Manufacture Drones In Turkmenistan https://eurasianet.org/belarus-to-manufacture-drones-in-turkmenistan
[3] Zala Aero To Deliver UAVs To Ministry of Internal Affairs of Turkmenistan https://www.shephardmedia.com/news/uv-online/zala-aero-to-deliver-uavs-to-ministry-of/
[4] Berdimuhamedow’s Birds Of Prey: The Italian Falco XN UAV In Turkmenistan https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/Berdimuhamedow-birds-of-prey-italian.html
[5] L’export armato italiano ai regimi dell’ex URSS Intervista a Giorgio Beretta https://www.rainews.it/dl/rainews/articoli/L-export-armato-italiano-ai-regimi-dell-ex-URSS-Intervista-a-Giorgio-Beretta-b0a850b2-32fd-457e-b715-9f43da2b047e.html?refresh_ce
[6] Президент Бердымухамедов осмотрел центр по производству беспилотников https://www.hronikatm.com/2021/02/uav-production/
[7] Белоруссия начала поставку беспилотников в Туркменистан https://www.hronikatm.com/2016/07/belorussiya-nachala-postavku-bespilotnikov-v-turkmenistan/
[8] The President of Turkmenistan inspects the activity of the Center of unmanned aerial vehicles https://tdh.gov.tm/en/post/26063/president-turkmenistan-inspects-activity-center-unmanned-aerial-vehicles
[9] The Last Of Many - Turkmenistan’s CH-3A UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/the-last-of-many-turkmenistans-ch-3a.html
[10] Turkmenistan’s Freak UCAV: The WJ-600A/D https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/turkmenistans-freak-ucav-wj-600ad.html
[11] Turkmenistan Parades Newly-Acquired Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/turkmenistan-parades-newly-acquired.html
[12] Replicating Success: Turkmenistan’s Arsenal Of Israeli SkyStriker Loitering Munitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/replicating-success-turkmenistans.html
[13] Including the FD-2000, KS-1A, FM-90, Pechora-2M and the S-125-2BM.
[14] Electronic Warfare https://www.rohde-schwarz.com/fi/solutions/aerospace-defense-security/defense/signal-intelligence-electronic-warfare/electronic-warfare/electronic-warfare-overview_233140.html

2023年11月6日月曜日

衰退した近代化の象徴:ベネズエラにおけるイスラエル製「バラク-1」地対空ミサイルシステム


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 過去20年間にわたって軍に何百億ドルもの投資を行ったにもかかわらず、不思議なことに、今のベネズエラには一連の投資を行う前よりも著しく弱体化した軍隊が残されています。この見事な "偉業"が達成された要素には、極めて特異な調達決定がもたらした結果だけではなく、1990年代後半のベネズエラ軍が南米で(事実上)最も強力な軍隊の一つだったことも含まれています。

 この国は、長年にわたってアメリカ、フランス、イスラエルなどから近代的な装備を調達してきたものの、2006年にウゴ・チャベス大統領の政策が原因となってアメリカがベネズエラに武器禁輸措置を取ったため、武器調達先はこれらの国々からロシア、中国、イランに置き換えられました。
 
 2006年以前のベネズエラは西側諸国から高度な装備を調達することができましたが、同年以降は、防衛上のニーズを満たすため、または(もはや西側諸国から容易に入手不可能となった予備部品の不足で)運用できなくなった装備を置き換えるため、新たな調達先としてロシアに目を向けることになったのです。

 興味深いことに、ベネズエラは即座にロシアから旧式の「T-72B1」戦車と「S-125」地対空ミサイル(SAM)システムを大量に調達するに至りました。その後に「ブーク-M2」や「S-300V」等のより先進的なシステムも導入されましたが、ある程度の調達した兵器システムについては、その能力が確実に置き換え対象よりも低かったことは注目に値するでしょう。
 
 唐突なサポート停止で置き換えが必要になったシステムの一つが、2005年にイスラエルから新品で調達した同国製の「バラク1 ADAMS」SAMシステムです。(1基につき8セルを備えた)3基の「バラク1」発射機は、ベネズエラ空軍とは別の組織である防空作戦コマンド(CODA:Comando de Operaciones de Defensa Aérea)に配備されていたフランスの「ローランド-2 」SAMシステムを更新するために導入されたものであり、戦争やクーデターの際に航空攻撃を受ける可能性がある空軍基地やその他の重要施設の防衛を任務としていました。

 1992年11月に発生したクーデター未遂事件では、ベネズエラ空軍の一部が戦闘機や攻撃機で体制側の空軍基地を攻撃するなどの極めて重要な役割を果たしたため、空軍基地防衛の重要性はベネズエラ軍にとっては火を見るより明らかなことだったのです。

1992年11月のクーデター未遂事件では、政府軍の「F-16」からの機銃掃射で反乱軍の「OV-10 "ブロンコ"」が撃墜された:この劇的な瞬間の映像はこの画像をクリックすると視聴できる

 12kmの射程距離を誇る「バラクー1」高機動防空システム(ADAMS)は、低空飛行する敵機やヘリコプターに対する拠点防空に最適化されたものです。8発のミサイルを搭載する小型の牽引式発射システムについては、トラック搭載型も設計されましたが、商業的な成功を収めることはありませんでした。

 このミサイルはキャニスターから垂直に発射される、いわゆるVLS方式を採用しています。上述のとおり、地上発射型についてはベネズエラが唯一のカスタマーという結果で終わった一方で、艦載型はチリ、インド、イスラエルの海軍に採用され、各国でその能力が高く評価されています。

 機能と運用面で地上運用型の「バラク-1」に最も近い他国の同等品としては、ロシアの「9K330 "トール"」が挙げられます。

「バラク-1」のミサイル・キャニスターが8セル備えた垂直発射機に装填される状況

 CODAにおける運用で、「バラク-1は」、オットーメララ製「40/L70」レーダー誘導型40mm機関砲と「フライキャッチャーMk.1/2」火器管制レーダーの組み合わせと「ローランド-2」SAMシステムで構成される「ガーディアン」防空システムを更新しました。

 CODAに加えて、かつてのベネズエラ陸軍はボフォース40mm対空機関と 「AMX13 S533」「AMX-13M51 "ラファーガ」自走対空砲から成る独自の防空戦力を保有していましたが2010 年代の変わり目に退役して以来、今のベネズエラ軍は自走対空砲を保有していません。

 その代わり、ロシアから入手した「S-125 "ペチョーラ-2M」、「ブーク-M2」、「S-300V」SAMシステムを運用しています。


 ベネズエラとイスラエルの外交関係が緊張した結果、メーカーであるIAIとラファエルからのサポートが途絶えたため、「バラク-1」はすぐに運用継続が困難になってしまいました。

 この状況は、アメリカがイスラエル政府に対してベネズエラとの(自国由来の技術を含む)軍事面における契約を全面的に解消させ、今後はいかなるイスラエルの軍事技術も売却しないよう要請したことでさらに悪化したようです。

 これらの要因が組み合わさった結果、ベネズエラにおける「バラク-1」運用史は異常に短い形で終焉を迎えました。というのも、相当な費用を投じて導入された「バラク-1」は、たった数年間使用されただけで退役したからです。

 結果として、CODAは高度な防空システムを「トール」や「パーンツィリ」のような現代的なロシアのシステムに更新するのではなく、ロシアから調達した「ZU-23」対空機関砲で間に合わせる必要に迫られてしまいました。この機関砲は現在でも空軍基地防衛の主要な装備であり続けています。

ベネズエラの「ローランド-2」:「バラク-1」と同様に発射機は牽引式である

CODAで運用されていたオットーメララ「40/L70 "ダルド"」40mm対空機関砲:同型の砲塔を装備した艦艇を世界中で目にすることができるだろう

 2010年代初頭には石油の供給と引き換えに中国との軍事協定が締結されたものの、ベネズエラが「バラク-1」のようなシステムを導入する余裕があった時代はとうの昔に過ぎ去ってしまいました。

 近年では、ベネズエラは過去数十年間に退役した装備のオーバーホールを行うことで戦力の強化に努めています。これまでに、「AMX-13」と「AMX-30」戦車、キャデラック・ゲージ「コマンドウ」装甲車、イスラエルの「LAR-160」 多連装ロケット砲(MRL)といった、過去に放棄された兵器類が復活を遂げました。しかしながら、ベネズエラはこのMRLシステムを本来の用途に用いるのではなく、「LAR-160」の(「AMX-13」戦車がベースの)車体を地雷除去車として再利用したり、さらには「M40A1」106mm無反動砲を6門搭載した装甲戦闘車両の車体として活用したのでした。

 「バラク-1」が再生兵器の候補に選ばれる可能性は極めて低いでしょう。 まだイランに提供されていないのであれば、このSAMシステムは間違いなく放棄された倉庫で分厚い埃に埋もれて生き残っていることでしょう。そして、その姿を見る人にベネズエラがまだ南米で強大な軍隊の一つに数えられていた時代を思い出させる役割を果たし続けているのかもしれません。

「バラク-1」が最初で最後に公開された2006年の独立195周年の閲兵式の一コマ

特別協力:FAV-Club

    たものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。