著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
この記事は、2014年12月27日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」とベリングキャットで公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
新たに入手した画像によって、シリアで悪名高い「BM-30 "スメルチ"」多連装ロケット砲(MRL)の存在がついに明らかとなりました。その「9M55K」300mmロケット弾は、ハマ北方のカフル・ジタと Al-Tahで使用されたことが記録されているものの、発射機の画像はまだ確認されていなかったのです。発射機の登場を長く待たなければいけなかった理由としては、「ブーク-M2」や「パーンツィリ S-1」、「BM-30」といった高度な兵器の位置が特定されることを避けるため、その近くでの撮影が禁止されたことに関係していると思われます。
シリアは内戦中にベラルーシか(より可能性が高いと思われる)ロシアから数台の「BM-30」を調達し、2014年初めに納入されたことが確認されています。その数か月後、「UR-77 "メテオリット"」地雷除去車がダマスカスのジョバルに出現したことで、ロシアがアサドにあらゆる兵器を供給する意志があることが改めて強調されました。
内戦前からシリアで長く運用されている「BM-27 "ウラガン"」に見られるように、「BM-30」も同じような緑色の塗装が施されています。こうしたカラーリングはハマーに見られるような緑豊かな地域に最適です。
これらの「BM-30」をダマスカスに投入するの合理的だと思われるかもしれませんが、反政府勢力の進撃を阻止するため、全「BM-30」がハマー近郊に配備されています。ハマーはアサドにとって戦略的に重要な場所です。これは何も戦略的な位置にあるという理由だけではありません。空軍基地があるほか、南部には地下ミサイル施設もあるからです。
ダマスカスには多数の「BM-27 "ウラガン"」やIRAM(Improvised Rocket-Assisted Munition or Mortar:急造ロケット推進弾・迫撃砲)も配備されており、戦闘の多くは共和国防衛隊の拠点であるカシオン山から近距離で行われているほか、砲兵部隊も定期的に投入されているため、この地における「BM-30」の必要性が低いことも理由に入るでしょう。
ハマーとその周辺における全戦闘はシリア軍と国民防衛隊(NDF)、その他の民兵組織によって行われているため、シリアの「BM-30」は共和国防衛隊ではなくシリア軍の管轄下にあります。下の画像は、Al-Tahで「BM-30」が発射した「9M55K」ロケット弾の残骸です。
「9M55K」は「BM-30」から発射できるロケット弾の一種に過ぎませんが、野外に晒された歩兵に対して絶大な威力を発揮するために今でも好んで使用されています。ちなみに、このロケット弾には72個の「9N235」対人クラスター子弾が搭載されています。
作戦がシリア全土で展開されるにつれ、「BM-30」はしばらく仕事に困ることないため、シリア内の別の地域に投入される可能性が十分に考えられます。このMRLの引渡しはロシアがアサド政権を支援していることを改めて示すものであり、両国の関係は時間とともに強まってきています。シリアに最近納入された「BM-30」や「UR-77」、その他の兵器は、今後の展開の兆しなのかもしれません。
【編訳者による補足】この記事が執筆された10年後の2024年12月にアサド政権が崩壊したことは周知のとおりです。この間にシリアの「BM-30」がキャッチされる機会がありませんでしたが、崩壊前日の12月4日の時点でアレッポのアル・サフィラとその郊外で放棄された個体が2台確認されました。[1]
こうした発射機の損傷状況が修復可能なレベルか否かは判然とせず、ほかに存在するかもしれない個体を含めて新シリア軍が運用するのかは不明です。
[1] https://x.com/clashreport/status/1864188921598402660
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アル・サフィラでシリア軍が遺棄した「BM-30」 |
[1] https://x.com/clashreport/status/1864188921598402660
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改訂・分冊版が2025年に発売予定です(英語版) |
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