はじめに
今年9月3日に、私たちOryxが執筆した朝鮮人民軍に関する本「North Korea’s Armed Forces: On the path of Songun」の邦訳版「朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍」が発売されました。
この原書は構想・制作に約5,6年を要した北朝鮮の軍隊と装備を題材にした本ですが、当ブログの閲覧者を含む多くの方は、この本や著者について全く知らないと思われます。
そこで、今回は宣伝を兼ねてこの本や著者について紹介いたします。
著者はどのような人で何をしている人ですか
ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズはアムステルダムを拠点に活動するオランダ人軍事アナリスト・ブロガー・ジャーナリストで、紛争の詳細に関する研究や公開情報を分析するオープンソース・インテリジェンス(OSINT)への注力、そして時には無名の軍事史について調査し、人々と共有することに専念しています。
この2人の著者(以下Oryxと表記)は「Bellingcat」を代表とする調査報道のウェブサイトや軍事情報では著名な「Janes」に記事を寄稿した過去があり、今ではアメリカに拠点を置く北朝鮮専門のニュースサイトである「NK News」に記事を寄稿する一方で、2014年1月からOryxブログで北朝鮮・中東・アフリカ・東欧・中央アジア・未承認国家・テロ組織などに関する軍事・紛争をテーマにした独自の記事を投稿し続けています。
Oryxブログについては、2016年秋に日本語版(当Oryx-ジャパン)が、2020年秋にはトルコ語版(ツイッターアカウントのみ)が開設され、この種の媒体としては珍しい国際的な広がりを見せています。
Oryxの独自調査では客観的な分析を行い、他のメディアでは触れられそうにないストーリーを明らかにしています(より広い層の読者に迎合するためにテーマの詳細や正確さを犠牲にすることはありません)。
Oryxは特に現代の紛争に関する追跡調査に長けており、この数年では「イスラム国が鹵獲したイラク・シリア軍の兵器やリビア国民軍が外国から得た兵器の一覧」などの視覚的証拠に基づく紛争当事者の保有装備に関する調査や数のカウントが大きく注目されています。
もちろん、過去から現代に至る多くの紛争の経緯や知られざる一面、現代的な兵器やその現況について詳細に執筆した記事も多く存在しています(特にイスラム国が独自に設立した装甲戦闘車両用の工廠に関する記事は追跡調査能力が遺憾なく発揮されています)。
追跡調査によってOryxが世界的に大きく注目されたのは2020年のナゴルノ・カラバフ戦争であり、彼らは戦争が勃発したその日から当事国であるアルメニアとアゼルバイジャンが喪失した装備名・数とその原因について分析し、一覧にした画像付きリストを公開しました(この一覧は2021年8月時点でも更新されており、追跡調査の対象であり続けています)。
そのカウントした数や記事はSNSのみならず「CSIS」など著名なシンクタンクや「星条旗新聞」「ウォール・ストリート・ジャーナル」などのメディアに引用・取り上げられました。
最近ではタリバンによって喪失した旧アフガニスタン政府軍部隊の装備や航空機を一覧化したものが脚光を浴び、「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューズウィーク」で取り上げられています(後者ではステイン・ミッツアーがインタビューを受けました)。
現在では、ティグレ戦争で苦戦しているエチオピアが最近になってイランのUAVを導入したという事実を状況証拠などから指摘し、海外で話題となっています。そして対抗勢力であるティグレ防衛軍が保有する装備やエチオピア軍が喪失した航空機を視覚的証拠から明らかにし初めています。
これからのOryxブログは無人機にスポットライトを当てた記事が投稿される予定です。 また、数年前から工作船や日本人拉致事件を含む北朝鮮のスパイ活動をテーマにした本を制作中であり、北朝鮮の軍事的動向への注視も継続しています。
この本に掲載される情報は何ですか
- 北朝鮮の軍隊が保有する装備
- 北朝鮮が独自に改修・開発した装備
- 北朝鮮と外国の軍事協力
- その他、同軍隊に関する基本的な情報
- 組織形態や運用ドクトリンなど
この本は既存の書籍と何が違いますか
- 現時点で北朝鮮軍が保有する装備について、最新かつ正確な情報が掲載されています 今までも朝鮮人民軍やその兵器に注目した資料は存在しましたが、秘密主義に満ちた金正日時代に執筆されたものが大半であり、情報が不完全でした。また、北朝鮮の軍事に対する注目は核・弾道ミサイル・特殊部隊に集中され、通常兵器は旧式のソ連製や中国製が占めているということもあり、特に詳細に分析されたものは極めて限られていました。
- 北朝鮮が保有する独自型の兵器について詳細に分析して公開したは初めての本です (例えば、主力戦車を「T-62の改良型」と簡単に終わらせてはいません。細かな派生型も網羅しています。)
- 軍事マニアの間で長年にわたり議論の対象となっていた未確認情報を解決しています 北朝鮮がT-72戦車やMi-24ハインドを保有している、といった噂に対して明確な回答を記載した本はこの本が初めてです(逆に言えば噂に終止符を打ちました)。
- 今まで誰も知らなかった情報や既存の資料やインターネットでは決して得られない情報・画像が掲載されています(当然、ネットで検索しても出てこない情報で溢れています)
- 世界で初めてイラスト化された装備が多数あります
「『North Korea’s Armed Forces: On the path of Songun』は、北朝鮮ウォッチャーのインテリジェンス・コミュニティにおける混沌とした状況に秩序と一貫性をもたらすことを試みるだけではなく、今までに語られることが無かった兵器システムや近代化プログラムについての情報を大量に提供することによって、北朝鮮の脅威は殆ど存在しないという大いに蔓延している考え方が誤りであることを証明する本です。
北朝鮮の軍隊は朝鮮戦争における決定的ではない停戦から冷戦を通じて現代に至るまでの最も重要な出来事をマッピングしてきました。そして、(私たちは)大量の独自設計の兵器を調査することによって、朝鮮人民軍各軍の現状について特に重点を置きました。
この本では朝鮮人民軍の多くのプロジェクトや戦術が明らかにされるだけでなく、南北間の命を懸けた突発的な武力衝突と2010年の天安艦沈没や延坪島砲撃などの大惨事に関する今までに無い証拠に新たな光が投げ掛けられるでしょう。
さらに、朝鮮人民軍各軍の保有装備について最新かつ包括的なリストが含まれており、海軍および航空戦力の数的評価を提供します。
最近導入されたステルス・ミサイル艇、弾道ミサイル潜水艦や主力戦車の系譜から、ほとんど無視されてきた独自の航空機産業まで、事実上すべての独自の兵器システムが広範にわたって論じられています。
この独占的な本は、70以上の詳細な色つきのアートワークと徹底的な研究と分析を経て作られたさまざまな地図と同様に多くのユニークな画像付きで、その多くは今まで一般の人々には全く見ることがなかったものとなります。
この独占的な本は、70以上の詳細な色つきのアートワークと徹底的な研究と分析を経て作られたさまざまな地図と同様に多くのユニークな画像付きで、その多くは今まで一般の人々には全く見ることがなかったものとなります。
衛星映像の精査、北朝鮮の宣伝放送のチェックとアメリカ国防総省からの情報を慎重に調査することを通じて、朝鮮人民軍各軍の進歩を明らかにしました。
この本にはほぼ全ての「隠者王国(注:17~19世紀の朝鮮に付けられた名前と閉鎖的な北朝鮮を掛け合わせている)」に関する軍事的功績が含まれており、通常戦と非対称戦の両方における北朝鮮の能力の正確なイメージを提供します。
この本は特に北朝鮮の軍事力に関心を持っている人や、矛盾した主張とこの閉鎖的な国家についての現在のインテリジェンスを構成する誤った情報の『地雷原』によって提起された多くの疑問に対する答えを探す人のために書かれました。」
基本的な情報について(人名の敬称略)
この本は特に北朝鮮の軍事力に関心を持っている人や、矛盾した主張とこの閉鎖的な国家についての現在のインテリジェンスを構成する誤った情報の『地雷原』によって提起された多くの疑問に対する答えを探す人のために書かれました。」
基本的な情報について(人名の敬称略)
- 発売日:2021年9月3日(原書は2020年9月24日)
- 著者:ステイン・ミッツアー & ヨースト・オリーマンズ
- 日本語版監修:宮永忠将
- 翻訳:村西野安・平田光夫
- 編集:スケールアヴィエーション編集部
- 企画・編集:株式会社アートボックス
- デザイン:海老原剛志
- イラストレーター(兵士):Adam Hook
- イラストレーター(陸上装備):David Bocquelet
- イラストレーター(航空機):トム・クーパー
- イラストレーター(艦船):Anderson Subtil
- 言語:日本語
- サイズ:A4サイズ
- ページ数:240ページ
- 収録画像数(カラー):429枚
- 収録画像数(モノクロ):29枚
- 収録イラスト数:68点
- 価格:5200円(原書は6100円)
- 出版社:株式会社 大日本絵画(原書はイギリスのHelion&Company社)
いつも記事を参照させていただいております。早速書籍を購入させていただき、大変興味深く読ませていただきました。
返信削除書籍で一つ気になる点があるのですが、初版第1刷のP29にある「プルセ2」ATGMの記述について、誘導方式を「レーダー誘導」とし、対抗手段を「チャフ」としています。
いっぽう、こちらのブログの5/20付記事「ガザ紛争:ハマスが保有する北朝鮮の武器」では、「「火の鳥-2」はレーザー誘導方式を採用しています」と記述されています。さらなる改良型であろう「火の鳥-4M」がレーザー誘導式であることを考えると、単にレーダーとレーザーの誤植かとも思ったのですが、そうすると対抗手段がチャフと記載しているのが引っ掛かります。
お手数ですが、現時点で推測される正解の方式を教えていただけないでしょうか。