2020年9月29日火曜日

2020年ナゴルノ・カラバフ戦争:アルメニアとアゼルバイジャンが喪失した装備(一覧)


 :ヤクブ・ヤノフスキ, ダン, シュタイン・ミッツアー, ヨースト・オリーマンズ と ケマル編訳:Tarao Goo)

 2020年9月27日早朝(注:欧州時間)に勃発したナゴルノ・カラバフの紛争地域上で勃発した武力衝突は11月10日に停戦となりましたが、アゼルバイジャン及びアルメニア側の双方に相当な人的・物的な損失をもたらしました。

 今回の再衝突は30年にわたるナゴルノ・カラバフ紛争の延長戦上にあるものであり、これによって引き起こされるであろう結果について、現時点(2020年9月)では推測することしかできません。物的損失に関する確かな情報が少ない一方で、噂が広く飛び交い、プロパガンダ目的の未確認情報や虚偽情報がたやすく繰り返されています。そこで、当記事では、両軍によって利用可能な映像資料を入念にチェックして、全ての立証可能な物的損失に関する分析を試みました。
  1. 日本語版での最終更新日:2024年9月26本国版は2022年中に最後の更新を実施
  2. 当一覧は、2020年9月27日に当ブログの本国版である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです(翻訳者は損失の精査には関与していません
  3. アルメニア・アゼルバイジャン双方の破壊されたり捕獲された車両の詳細なリストは以下で見ることができます。
  4.  このリストは写真や映像によって証明可能な撃破された車両や装備だけを紹介しています。したがって、破壊された装備の量は、ここに記録されているものよりも間違いなく多いと思われます(このリストでの「損傷」は一見して完全に破壊されたと確認できないものを含みます。つまり、明らかな全損状態以外は「損傷」としています。また、航空機類については撃墜を含めた損失を「墜落」としています)。
  5. 小火器・弾薬や遺棄車両、検問所のような非戦略的対象はこのリストには含まれていません。(小火器や弾薬などの)装備品の大規模な隠し場所の映像: (1) (2) (3) (4) (5) は、アルメニア軍が残したその備蓄量の大きさを示す良い指標となるでしょう。
  6. リストの簡素化と不必要な混乱を避けるため、アルメニアとアルツァフ共和国側の損失を一緒に紹介しています。
  7. アゼルバイジャンがデコイとして使用したAn-2輸送機はリストに含まれていますが、累積損失数からは除外されています(損失が前提となる使用のため)。
  8. 各装備名の後にある括弧内をクリックすると撃破・捕獲された各固体の画像を見ることができます)。
  9. リスト内の用語:TB2=バイラクタルTB2無人攻撃機、スパイクATGM=スパイク対戦車ミサイル、徘徊兵器=いわゆる誘導式の自爆ドローン
  10. 2024年の更新では本国版ブログに従って本戦争の経緯などを記した文章を削除しましたが、一番下で読むことができます。


アルメニア / アルツァフ共和国側の損失(1678, このうち撃破: 846, 損傷: 35, 放棄: 1, 鹵獲: 796)

戦車 (255, このうち撃破:146、損傷:6、鹵獲:103)

装甲戦闘車両(71、このうち撃破:23、損傷:1、鹵獲:47)

歩兵戦闘車 (82, このうち破壊: 32、捕獲:48)

装甲兵員輸送車(1,このうち撃破:1)

自走式対戦車ミサイルシステム(19,このうち撃破:4、鹵獲:15)

指揮通信車両類 (1, このうち鹵獲: 1)

工兵・支援車両 (5, このうち撃破: 1, 鹵獲: 4)

砲兵支援車両または装備類 (3, このうち撃破: 1, 鹵獲: 2)

牽引砲 (250, このうち破壊:138、損傷:10、捕獲:102)

自走砲 (29, このうち撃破: 21、鹵獲:8)

多連装ロケット砲 (84, このうち破壊: 75、放棄:1、鹵獲:8)

弾道ミサイルシステム(2、このうち撃破:2)

迫撃砲(59、このうち撃破:9、鹵獲:50)

対戦車ミサイル(119、このうち撃破:3、鹵獲:116、このうち19は発射機または照準器)※2022年秋をもって更新終了(損失数から除外)

携帯式地対空ミサイルシステム:MANPADS (6, 全てが鹵獲) ※同上

(自走式を含む)対空機関砲 (15, このうち撃破: 3, 鹵獲: 12)

地対空ミサイルシステム (39, このうち撃破: 34, 鹵獲: 5)

レーダー (18, このうち撃破: 14、鹵獲:4)

電子妨害・攪乱システム (3, このうち撃破: 3)

航空機 ・ヘリコプター(2, このうち墜落・撃墜: 2)

無人機 (5, このうち墜落・撃墜: 5)

トラック・ジープ・各種車両 (737, このうち撃破:331、損傷:18、鹵獲: 387)

デコイ(2, このうち撃破:2)

戦略的拠点 (22) ※2022年秋をもって更新終了(損失数から除外)


アゼルバイジャン側の損失(242, このうち撃破: 139, 損傷: 48, 放棄: 21, 鹵獲: 34)

戦車 (62, このうち撃破: 38, 損傷: 16, 放棄: 1, 鹵獲: 7, 鹵獲後に奪回: 1)

装甲戦闘車両 (9, このうち撃破: 2, 損傷: 1, 放棄: 6)


歩兵戦闘車 (73, このうち撃破: 51, 損傷: 7, 放棄: 10, 鹵獲: 5)

装甲兵員輸送車 (10, このうち 損傷: 1, 鹵獲: 9)

MRAP:耐地雷・伏撃防護車両 (13, このうち損傷: 9, 放棄: 4)

歩兵機動車 (17, このうち撃破: 6, 損傷: 4, 放棄: 5, 鹵獲: 2)

工兵・支援車両 (2, このうち損傷: 1, 放棄: 1)

多連装ロケット砲 (2, このうち撃破: 1, 損傷: 1)

迫撃砲 (1, このうち鹵獲: 1)

地対空ミサイルシステム (1, このうち損傷: 1)


航空機・ヘリコプター (2, このうち墜落: 2)

無人機 (4, このうち墜落: 4)

トラック・ジープ・各種車両 (46, このうち撃破: 34, 損傷: 8, 鹵獲: 4)

         
 この一覧の作成にあたり、Zloneversleep, Hamid, Ilya.A, Blue Sauron, Lost Armour, Cyrano7, Dee_Jonesyboi, James Ford , Red Fox の各氏に感謝を申し上げます。


おすすめの記事

【お知らせ】私たちOryx Blog著者による北朝鮮の軍隊に関する本が発売中です!

 私たちの朝鮮人民軍に関する本が以前から告知していた2020年9月24日に発売となり、読者から好評価をいただいています(日本語版も2021年9月3日に発売されました)。この本は発売決定・制作開始から6年と延期に延期を重ねた難産でしたが、遂に世に出すことにできました。

 このブログ編訳者である私も資料提供やイラストのチェックなど微力ながら制作に携わっていましたので、無事に世に送り出せたことを心から喜んでおります。この本の詳細については著者と協議して新たに開設した日本人向けの北朝鮮軍事情報をお知らせするブログに掲載しましたので、こちらをご覧ください

※ この本の改訂・軍種ごとに分冊化したものが2025年前半に発売予定です。


【参考】本国版ブログでのリスト(最終)更新時に削除された文章

 ナゴルノ・カラバフ紛争はアルメニアとアゼルバイジャン間で争われているナゴルノ・カラバフとその周辺の(いわゆるアルツァフ共和国が支配しているが国際的にはアゼルバイジャンに属していると認められている)7地域の紛争地域を巡る民族・領土紛争です。

 ナゴルノ・カラバフの地位については、アルメニアとアゼルバイジャンがロシア帝国からの独立を宣言した1918年から争われています。1920年代初頭、アルメニア人が人口の多くを占めるナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国の自治州となりました。1988年、ナゴルノ・カラバフ自治州の議会はアルメニア・ソビエト社会主義共和国への加盟に賛成票を投じましたが、モスクワではその動きがほとんど支持されませんでした。

 1991年のソビエト連邦解体後には、エレバン(注:アルメニアの首都)の支援を受けたアルメニア人分離主義者がアゼルバイジャン少数民族の故郷であるナゴルノ・カラバフの大部分と隣接する7つのアゼルバイジャンの地区を掌握しました。これに続く紛争では 推定値で約2万5千人から3万人の人が死亡し、多くの人が故郷からの避難を余儀なくされました。紛争中には分離主義者はナゴルノ・カラバフ共和国の独立を宣言し、2017年2月には公式にアルツァフ共和国となりました。

 1994年からロシアの仲介による停戦協定が結ばれているにもかかわらず、停戦違反は一定の間隔で発生しており、その中でも2016年と2020年7月に発生した最も重大な武力衝突では数百人の兵士と民間人の死者がもたらされました。

 2020年7月から9月にかけてアゼルバイジャンはトルコ陸軍と空軍が参加した一連の軍事演習を実施しましたが、それがアゼルバイジャンの自己の戦力に対する認識を深め、この紛争を有利に終わらせようとする決意を強めたものと考えられます。

 アゼルバイジャン軍への軍事訓練や装備品への供給に加え、トルコはアゼルバイジャンへ無人機(おそらく電子戦装備も)の輸出も開始しています。[1]

 「バイラクタルTB2」無人戦闘攻撃機(UCAV)がアルメニア軍の陣地上空で「MAM-L」誘導爆弾を投下して少なくとも3台の9K33「オーサ」3台の9K35「ストレラ-10」移動式地対空ミサイルシステムが破壊された時点で、多くのアルメニア兵はこの新たな「現実」に気づきました。これらのシステムはシリアやリビアにおけるロシア製「パーンツィリ-S1」と同様に、頭上を飛ぶ無人機の脅威に全く気づかず、対応できていなかったように見えます。そして、その全てが自らに何が起こったのか知ることなく破壊されてしまいました。

 トルコの無人機とそれを支援する電子戦システムの非常に効率的な使用は、その独断的な国際的役割と拡大する政治的軍事的な重要性をますます促進します(バイラクタル外交)。それは今やナゴルノ・カラバフ紛争にまで及んでおり、今回の戦闘の結果に影響を与えることは間違いないでしょう。

 ただし、その大成功は、「自国の技術がナゴルノ・カラバフ紛争に使用されているという主張を聞きつけた」カナダがトルコへの無人機技術の販売停止という結果をもたらしました。 [2] 

 「バイラクタルTB2」はカナダ製の電子光学センサとレーザー照準技術を導入しているため、この措置は(少なくともトルコ製の代替品が投入可能になるまでの間)同機の更なる生産をしばらくは遅らせる可能性があります。現実には無人機記述の販売停止は代替となる国産無人機の研究と製造を加速させるという、(更に新しい兵器製造のカテゴリーにおいて)トルコの自給自足を促進させるだけであり、その目的の殆どを達成する可能性は僅かしかありません(注:数年後にトルコは国産の電子光学センサをバイラクタルTB2などに搭載を始めました)。

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