2022年11月5日土曜日

エーゲのAFV:ギリシャ軍の「M1117 "ガーディアン"」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ギリシャ軍は、老朽化した装甲戦闘車両やその他の装備の更新面で大きな困難に直面し続けています。

 特に2007年から2008年にかけての金融危機とその後の政府債務危機(いわゆる「ギリシャ危機」)の打撃を受け、ギリシャが多くの調達計画の中止や延期を余儀なくされたことは今でも多くの方の記憶に残っているでしょう。

 トルコとの緊張が高まった結果としてギリシャ軍は大幅な予算削減を免れることができましたが、財源不足は毎年恒例の独立記念パレードを行うために必要とする燃料を一般市民が負担しなければならないという奇妙な事態を招きました。
 
 ギリシャの財政状況はここ数年で多少改善されたとはいえ、軍は依然として保有する装備品全体が広範囲にわたって陳腐化していることに直面している状況に変化はありません。

 ギリシャは「RM-70」多連装ロケット砲(MRL)用に射程40kmのセルビア製「G2000」ロケット弾を購入したり、「レオパルト1A5」「レオパルト2A4」 戦車の改良を検討するなどして旧式化しつつある兵器に関する問題に対処しようと試みてきました。[1] [2] 

 しかし、ほかの種類の装備は寿命が近づいているか、21世紀の戦いで通用することができなくなっているため、置き換える必要があります。

 軍事装備の陳腐化とそれらを更新不能というギリシャを苦しめる悪影響を軽減するため、アメリカは同国に大量の軍事装備を寄贈し、ギリシャ軍がトルコ軍と同等の軍事力を維持できるように手助けしています。

 近年の支援には、70機の「OH-58D "カイオア・ウォリア"」武装偵察ヘリコプター、4隻の「Mark V」特殊任務艇、約500台の「M113」装甲兵員輸送車と「M-901 ITV」 対戦車ミサイル車、数百台のトラック、そして1200台の「M1117 "ガーディアン"」 装甲警備車(ASV)の譲渡が含まれています。

 実際には(より現代的な)IFVやAPC、MRAPの方が必要としているものの、ギリシャが(トルコとの紛争で予想される正規戦に特に適していない)「M1117」を選ぶ決断をしたのは、余剰兵器援助(EDA)プログラムを通じて無料で入手可能であり、ギリシャは輸送と検査費用として1億200万ドル(約145億円)を支払うだけでよかったという事実だけでも説明できるしょう。[4] 

 ちなみに、1200台の「M1117」の本来の購入価格は合計で約9億7,000万ドル(約1,376.5億円)でした。つまり、ギリシャは超格安で大量のASVを導入できるメリットがあるわけです。[4]

鉄路でギリシャに到着した「M1117」 ASVの第1陣(2021年11月)

 ギリシャにおける運用で、「M1117」は主に3名の乗員(操縦手、車長、機銃手)に加えて最大で3名の兵士を乗せる偵察車や歩兵機動車(IMV)として配備されるものと思われます。なぜならば、同国陸軍は現時点で大量の装甲「ハンヴィー(及びそのギリシャ独自の派生型)」を運用していますが、IMVとMRAPは著しく不足しているからです。[5] 

 「M1117」はこうしたAFVの役割を果たすようには設計されていませんが、戦車を除くギリシャのすべてのAFVよりも優れた防御力を備えているほか、(前述のとおり)少数の歩兵を輸送することも可能なため、上記の目的で運用されるのは必然的と言えるかもしれません。この最大の原因は、ギリシャ陸軍がAFVについて依然としてほぼ例外なく旧式と化した「M113」ベースの車両群に頼っていることによるものです。

 「M1117」の第1陣である44台は2021年11月にドイツにあるアメリカ軍の備蓄施設からギリシャに到着し、2022年初頭にはさらに数百台がアメリカ本土から船でギリシャに到着しましたが、船便で届けられたASVについては到着時にはまだ砂漠迷彩が施されていました。

 残りの「M1117」は2022年中下旬から2023年中にギリシャに届けられる見込みであり、同年中に納入が完了する予定です。[5]

 ギリシャに到着した各車両は、正式にギリシャ陸軍に加わる前に再塗装と整備を受けることになっています。

聖水で祝福を受けるギリシャ軍の「M1117」:こうした儀式は正教会の国では一般的な慣習となっています。

 1990年代にアメリカ陸軍憲兵隊の専用車両として「V-100/150」シリーズの装甲車をベースに開発された「M1117」は、予算の都合で2002年にプロジェクトが終了する前の1999年に運用が開始されました。

 2003年のイラク戦争以降、「M1117」計画に新たな勢いが与えられました。というのも、「ハンヴィー」が敵の銃撃や道端の即席爆発装置(IED)に非常に脆弱であることが判明したためです。それ以来、このASVは大量生産され、瞬く間に世界中の世界中のいくつかの軍隊の保有装備となったのでした。

 輸送部隊の護衛や後方地域での警戒といった任務に対応するために「M1117」の武装は歩兵や軽装甲車両との戦闘に最適化されたものであり、「Mk 19」40mm自動擲弾銃と「M2」12.7mm重機関銃付きの小型(有人)砲塔を備えています。

 これに加えて、砲塔の右側面にあるピントルマウントには、敵兵や低空飛行するヘリコプターに対して用いるために「FN MAG」「MG3」 7.62mm汎用機関銃を装備することが可能となっています。

 それに比べ、ギリシャの「M113」APCは装甲化されたキューポラに「M2」重機関銃1門だけしか装備されていません。
 
 「M1117」の装甲防御力は、小火器・IED・小型地雷から乗員を保護するのに十分なものであり、傾斜した装甲はRPGに対してもある程度の効果をもたらすと思われます(注:ただし、RPGに対して文字どおりの最小限度の防御力しか有していないことは言うまでもありません)。

 仮に「M1117」が待ち伏せ攻撃や自己の対処能力を超える状況に遭った場合、101km/hという最高速度によって危険な状況から素早く離脱することができます。また、操縦性とスピードが大幅に低下するものの、ASVは4本のタイヤがパンクしても走り続けることも可能です。

 ちなみに、「M1117」にはAFVでは必須とも言える発煙弾発射機が全く装備されていません。


 アメリカが気前の良い措置を講じていなかったら、「M1117」はギリシャ陸軍の兵器に入る可能性はなかったと言えるでしょう。

 ギリシャが必要とする要件に特に適合しているAFVではありませんが、「M1117」は他のAFVを調達するための十分な資金が確保されるまでの間、陸軍に少なくともある程度の猶予をもたらしてくれるに違いありません。


[1] Greek army buys Serbian missiles https://greekcitytimes.com/2021/07/16/greek-army-buys-serbian-missiles/
[2] KMW to possibly modernize Greek Army Leopard 1A5 and Leopard 2A4 MBTs to Leopard 2A7 standard https://www.armyrecognition.com/defense_news_april_2022_global_security_army_industry/rheinmetall_to_possibly_modernize_greek_army_leopard_1a5_and_leopard_2a4_mbts_to_leopard_2a7_standard.html
[3] Greece welcomes its first batch of surplus M1117s https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/greece-welcomes-its-first-batch-of-surplus-m1117s/
[4] Army receives first delivery of M1117 armored security vehicles https://www.ekathimerini.com/news/1172965/army-receives-first-delivery-of-m1117-armored-security-vehicles/
[5] Αποτρεπτική ασπίδα στις πολεμικές απειλές του Ερντογάν: Εξοπλίζονται σαν «αστακοί» και θωρακίζουν Έβρο και νησιά τα Μ-1117 Guardian https://newpost.gr/amyna/621292cb9ae2132c2d04009c/apotreptiki-aspida-stis-polemikes-apeiles-toy-erntogan-exoplizontai-san-astakoi-kai-thorakizoyn-evro-kai-nisia-ta-m-1117-guardian

※  当記事は、2022年7月11日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。


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