2022年11月20日日曜日

不本意な軍事支援:ウクライナにおけるイラン起源の兵器(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ロシア・ウクライナ戦争を観察するウォッチャーの大半がイラン製無人機ロシア軍でがデビューする可能性を待ち構えていると同様に、すでにイラン製及びイランが調達した武器が遅くとも2022年4月からウクライナの戦場で積極的に活用されていることを知る人は少なくありません(注:この記事のオリジナル版は9月3日に投稿されました)

 ただ、多くの人の予想とは異なり、これらの武器はロシア軍によって使用されるのではなく、ウクライナがロシア軍と戦うために投入されているのです。

 このような武器がウクライナに行き着いた経緯は、実際にウクライナにイランの武器が存在するという事実と同じくらい興味深いものと言えます。まず、それを知るにはイランのイエメンに対する武器取引とそれに対抗するための西側諸国の取り組みについて掘り下げることが必要でしょう。

 イラン(製)の武器に関する最初の目撃事例は2022年4月下旬にウクライナの都市であるクリヴィー・リフ近郊でのことであり、市民が地面に複数のプラスチック製ケースが不審な状態で埋まっているのを発見し、地元の警察に通報したことが発端となりました。[1]

 警察官がこのケースを掘り出した結果、これらはロシアの占領に備えたウクライナの「残置要員」による作戦のために準備された武器庫であることが判明したのです。

 この武器庫のケースには数種類の爆薬や弾薬のほか、"戦前"にウクライナで運用されていなかった中国製の「56-1式」自動歩槍10丁が含まれていました。ウクライナに小火器を供与しているいくつかの欧州諸国が「56式」の在庫を保有していることが知られているものの、淡褐色の木製部品と折りたたみ式のストックから、問題の銃はイランが過去数十年の間に中国から入手したものではなく、比較的最近に生産されたものであることを示していたのです。[2]

編訳者注:上記の事例で発見された「56-1式」については、
  1. 10丁と数が少ない
  2. イラン側の密輸船から押収された武器には対戦車兵器も含まれているが見当たらない
  3. 本体や弾倉に油紙が付着したまま(アメリカなどが押収した56-1式はビニールで包装されているが、中国の備蓄用56式はグリス漬けにして油紙巻きで保管するという違いがある)
  4. 中国の輸出用56式は新品かつ油紙巻きではないのが一般的
  5. 現地民に発見されて警察に押収された状況が不可解
などの状況を踏まえると、密輸船から押収・ウクライナへ供与されたものとは考えにくいという見方もあります。イランではない他国から入手したものが地下にストックされた可能性がありますが、問題は「誰が埋めたのか」です。ウクライナの機関・現地のレジスタンスやなのか、ロシアの工作員・親露派勢力なのか、あるいはブレッパーなのか...正体も入手先も依然とはっきりしていません。
 ただし、イギリスが訓練を実施しているウクライナ兵が持っている「56-1式」は特徴的に密輸船からの押収品を供与したものとみて差し支えないでしょう。(この注釈は
Apple Tea Arsenal氏の考察を踏まえて追加しました)。

「56-1式自動歩槍」を構えるウクライナ兵(2022年8月)

 中国から納入された「56-1」式のうち実際にイランの部隊で用いられているのは一部であり、大部分は将来起こるであろう地域紛争での使用や中東各地における代理勢力への供与のためにストックされています。


 後者については2015年のサウジアラビア主導のイエメン介入後に発生しました。その反発として、イランはフーシ派にあらゆる種類の兵器を供給し始め、こうした兵器には小火器から防空システム、巡航ミサイルや徘徊兵器、さらには弾道ミサイルまでもが含まれていました。[3]

 海上封鎖が実施されているにもかかわらず、こうした兵器がイエメンに届き続けているという事実は、イランが武器密輸に長けていることを示しています。

それでも、中東の海域を航行する西側の軍用艦艇によって武器の輸送が阻止されて押収されることも散見されます。[3]

 これらの押収で、アメリカ・イギリス・フランス・オーストラリアは1万丁以上の主に「56-1式」で占められたAKタイプのアサルトライフル、機関銃、狙撃銃、RPG、迫撃砲、対戦車ミサイル、さらには少数のイラン製防空システムや巡航ミサイルも保有するように至りました。[3]

 押収された防空システム(「サクル-1」地対空ミサイルシステム)は情報機関による広範な研究のために残されていることを疑う余地はないでしょうが、これらの西側諸国がイラン製またはイランが調達した各種兵器を保有し続け、他国へ供給するという選択に進む必要性は全くありませんでした。

 しかし、2022年2月にロシアによる軍事侵攻が開始されたことで、彼らの最終的な行き先がほぼ決まりした────ウクライナです。

アメリカ海軍の駆逐艦「ジェイソン・ダンハム」の活動によってイエメン行きのダウ船から押収されて山積みとなった「56式」自動歩槍(2018年10月)

 続いてウクライナにイランの武器が存在するのが確認されたのは2022年5月と7月のことであり、この際にはイラン製の「HM-19」82mm迫撃砲と「HM-16」重迫撃砲が郷土防衛軍(TDF)で使用されているのが目撃されています[4][5]。

 「HM-19」82mm迫撃砲は「HM-15」81mm迫撃砲の独自派生型であり、イランの代理勢力用として中東全域で一般的に用いられているソ連や中国の規格82mm迫撃砲弾を発射できるように特別に設計されたものです。

 「HM-16」120mm重迫撃砲はイスラエルのソルタム社製の「K6」をイランがコピーしたものですが、「HM-19」とは異なってソ連規格の120mm砲弾の代わりに西側規格の迫撃砲弾を使用するのが特徴です。

 イラン製迫撃砲の存在が発覚してから遠くない2022年9月の初旬には、イラン製砲弾の初確認もされました。それは「D-30」榴弾砲用の「OF-462」122mm 砲弾であり、梱包されていた木箱の書面にに製造年月日が2022年と記載されていたのです。[6]

 2022年にイエメン向け「OF-462」122mm砲弾を含む武器密輸の摘発が報告されていませんが、そのような出来事が公表されていない可能性は考えられるでしょう。

 もう一つの仮説として、スーダンなどの第三国を経由してイランから砲弾を購入したというものが挙げられます。ウクライナのために第三国を利用して武器や弾薬を入手することは一般的に行われており、これまでにアゼルバイジャン・ブルガリア・パキスタン・スーダンから調達するに至っています。

 さらに数種類ものイラン製の武器やイランから密輸される途中で押収された武器が、ウクライナの手に渡った可能性があると思われます。こうした武器には、小火器・機関銃・RPG・迫撃砲、さらには対戦車ミサイル(ATGM)が加わるかもしれません。

 半世紀以上にわたる武器密輸の結果として数百発もの対戦車ミサイル(ATGM)が押収されていることを考えると、これらもウクライナの多様化する保有兵器として同国に行き着いた可能性は十分にあるでしょう。

 これらはイランから押収された武器の中では一般的な(それゆえに供与しやすい)ものですが、戦争の遂行に有益と判断されれば、より高度な種類の武器も使用可能となるかもしれません。

クリヴィー・リフ近郊の武器庫で発見・回収されたイランに起源を有する中国製「56-1」式自動歩槍(2022年4月下旬)

  1. 以下に列挙した一覧は、(準軍事組織を含む)ウクライナの軍で使用されているイラン製やイランから密輸途中に押収された兵器類の追跡調査を試みたものです。
  2. 括弧内の年はウクライナで最初に目撃された年であって、供与された年を意味しません。
  3. この一覧は新たな使用事例の判明に伴って更新される予定です。
  4. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。
 

重迫撃砲

軽迫撃砲

小火器


弾薬

[1] https://twitter.com/UAWeapons/status/1518276818884866050
[2] https://twitter.com/UAWeapons/status/1518276827382431746
[3]  https://www.oryxspioenkop.com/2019/09/list-of-iranian-arms-and-equipment.html
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1527691142023847938
[5] https://twitter.com/UAWeapons/status/1547332202161119233
[6] https://twitter.com/UAWeapons/status/1565798823703740416

ヘッダー画像:UAWeapons

※  当記事は、2022年9月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ      ります。



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