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2023年9月30日土曜日

苦境の打破と関係の強化:ギリシャによるウクライナへの軍事支援(一覧)


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

  1. 以下に列挙した一覧は、2022年からのロシアによるウクライナ侵攻を受けてギリシャがウクライナに供与した、あるいは提供を約束した軍事装備等の追跡調査を試みたものです。
  2. 一覧の項目は武器の種類ごとに分類されています(各装備名の前には原産国を示す国旗が表示されており、末尾には供与された月などが記載されています)。
  3. 引き渡された軍事装備の中には機密扱いのものもあるため、表示している数量はあくまでも最低限の数となっています。
  4. この一覧はさらなる軍事支援の表明や判明に伴って更新される予定です。
  5. * はドイツの循環的交換政策を通じて供与されたものを指します。
  6. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。

歩兵戦闘車 (40+)
  • 40 BMP-1A1* [2022年10月以降に引き渡し] (ドイツの循環的交換政策を通じてギリシャのストック品から供与)
  • 数量不明 BMP-1A1 [予定]

対戦車兵器 (815)

  • 815 RPG-18 [2022年2月以降に引き渡し]

小火器 (20,000)

  • 20,000 ''カラシニコフ銃'' [2022年2月以降に引き渡し]

弾薬
  • 数量不明 122mmロケット弾 [2022年2月以降に引き渡し]
  • 火砲用砲弾 [予定]
  • 小火器用弾薬 [同上]

訓練
  • ギリシャ軍将兵の派遣(ウクライナ特殊部隊の訓練用) [2022年/2023年]
  • ギリシャ軍将兵の派遣(ウクライナ軍の「レオパルト2」戦車乗員の訓練用) [同上]
  • ウクライナ軍飛行士への「F-16」戦闘機関連の訓練 [2023年/2024年]

医療支援
  • ギリシャでの負傷したウクライナ兵のリハビリテーション事業 [2023年]

※ この記事は2023年8月11日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。


おすすめの記事

2023年9月2日土曜日

エーゲ海のゲームチェンジャーへ?:「カラ・アトマジャ」地上発射型巡航ミサイル


著:シュタイン・ミッツアー 

 最近トルコが達成させようとしている非常に多くの軍事プロジェクトは、エーゲ海における軍事バランスを劇変させるほどであり、ギリシャがその質と量の差を縮めることを起こりえなくする可能性を秘めています。これらには、「バイラクタル・アクンジュ」「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘機、「TF-2000」級駆逐艦、独自開発の武装無人水上艇(AUSV)群、非大気依存推進システムを備えた「214型TN "レイス"」級AIP潜水艦6隻が含まれており、そして小型潜水艦の導入も見込まれています。

 これらの兵器システムについてはその全てが、すでにエーゲ海上空を定期的に哨戒している約200機から成るトルコのUCAV飛行隊を強固にするためのものと考えて差し支えないでしょう。

 ギリシャはまだ武装ドローンの実戦配備をしておらず、保有している中高度・長時間滞空(MALE)型UAVはイスラエルのメーカーからリース中である僅か4機の「ヘロンTP」だけしかありません(注:2022年7月に3機の「MQ-9B "シーガーディアン"」を導入することが公表されました)。[1]

 ギリシャ空軍が保有する戦闘機は2020年代から2030年代初頭にかけてトルコより最新のものになりますが、「ギリシャがエーゲ地方の航空優勢を掌握することになる」と頻繁に言われる主張については、現実にはほとんど根拠がないと思われます(注:ギリシャはフランスから「ラファール」を18機発注しており、すでに2022年1月には6機が引き渡されています。また、2020年には「F-35」の導入も検討していると報じられており、仮にこれが実現した場合はギリシャが制空権を握る可能性は十分にあり得ることに注意する必要があります)。

 (決して起こりえない)全面戦争が勃発した場合、ギリシャ空軍が運用する作戦機の大部分は、UCAVの欠如や(トルコよりは)小規模な攻撃ヘリ飛行隊、射程の短い砲兵戦力を補うため、空対地任務に専念せざるを得なくなるでしょう。その一方で、陸軍と海軍への火力支援をするために約150機のUCAVと約70機の攻撃ヘリを投入可能であることから、トルコ空軍は保有する「F-16」の大部分を防空作戦に集中させることができるはずです。

 UCAVのうち、「バイラクタル・アクンジュ」と「クズルエルマ」は、有人戦闘機の任務を代替する能力がいっそう高まっており、実質的に世界初のマルチロール無人戦闘機であると言えます。これらの能力には国産の巡航ミサイルやスタンドオフ兵器といったさまざまな種類の対地兵装を搭載可能なだけではなく、100kmも離れた目標に目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)を発射できることも含まれています。[2] [3]

 このことは、ギリシャが完全に無防備のまま手をこまねいているというわけではありません。なぜならば、ギリシャは「MIM-104 "パトリオット"」、「S-300PMU-1/SA-10」、「MIM-23 "ホーク"」、「クロタール-NG」「スカイガード」「9K33/SA-8 "オーサ "」「9K330 "トール-M1"」 地対空ミサイル(SAM)システムなどの広範囲にわたる防空ネットワークにより、エーゲ海上空で展開されるであろう敵の航空作戦に悪夢をもたらす態勢を整えているからです。

 ギリシャにとって不幸なことに、トルコのUCAV、「F-16」、そして将来に配備される「カーン」ステルス戦闘機に搭載される予定の対地兵装の大部分は、事実上ほとんどのギリシャの防空システムをアウトレンジできる能力を有しています。

 仮にUCAV飛行隊を除外したとしても、トルコにはギリシャのSAM陣地とシステムを無力化するために用いることができる、さらに数種類の対地兵器を保有しているのです。これには、「コラル」及び「レデト-II」電子戦システム、「J-600T "ユルドゥルム"」「ボラ(カーン)」短距離弾道ミサイル(SRBM)、そしてまもなく登場する「KARA Atmaca(カラ・アトマジャ)」地上発射型巡航ミサイル(GLCM)が含まれています。

 「カラ・アトマジャ」は「アトマジャ」対艦ミサイル(AShM)の対地攻撃で、2021年8月に初公開されました。同ミサイルはトルコ陸軍が高精度のGLCMを要求したことに応えた「ロケットサン」社によって開発されたものであり、280km以上の射程距離を誇ります。

 したがって「カラ・アトマジャ」は世界で最も射程の短い地対地巡航ミサイルということになりますが、それでもトルコ沿岸の陣地から発射された場合、ギリシャの防空陣地の大部分を攻撃するには十分な距離です。

 このミサイルは対艦型と同様に技術的には潜水艦からの発射も可能ですが、すでにトルコは潜水艦用に特化した1000km以上の射程を持つ「ゲズギン」対地巡航ミサイル(LACM)を開発中です。[4]

トルコ沿岸から発射された場合の「カラ・アトマジャ」の射程距離を地図上の赤い円で示しています。

 「カラ・アトマジャ」は250kgのHE弾頭を搭載して少なくとも280kmの射程距離を有していることから、敵後方に位置する司令部やレーダー基地、SAMサイトを標的にするのに最適な巡航ミサイルと言うことができるでしょう。[5]

 慣性誘導だけではなく衛星誘導方式なども取り入れているため、このGLCMは誘導式ロケット弾やSRBMよりも高い精度や効果を誇っていますが、これは主に、ミサイルが終末段階で標的を正確に識別・変更し、高い精度で命中できるようにする赤外線画像誘導(IIR)シーカーの搭載によって実現される予定です。[5]

 また、地形に沿って飛行し、被観測性が低いという巡航ミサイル特有の特徴があることは、「カラ・アトマジャ」を迎撃を困難なミサイルにもさせています。

 「ボラ」のようなSRBMは、飛行軌道が高いために「MIM-104 "パトリオット"」といったSAMによる迎撃を受けやすいものとなっていることは湾岸戦争で十分に知られている一方で、「カラ・アトマジャ」は地形に沿って飛行するため、迎撃が極めて難しい標的となるでしょう。

 長距離に位置する目標に命中する以前の段階で探知を避けるため、山々の周囲や渓谷を飛行する特性を考慮すると、エーゲ海と周辺の地形もこのミサイルに有利に働くでしょう。

「カラ・アトマジャ」GLCM(左)と「アトマジャ」AShM(右)のモックアップ。この時点で前者のモックアップにIIRシーカーが装着されていないことに注意してください。

 2025年に「カラ・アトマジャ」が導入されることにより、トルコ陸軍は初の巡航ミサイルを保有することになるでしょう。[6] 

 この巡航ミサイルの自走式発射台(TEL)はモジュール式であり、同じTELから「TRLG-122」及び「TRLG-230」レーザー誘導式ロケット弾や「TRG-300」GPS/INS誘導式ロケット弾を発射することも可能となっています(注:「カラ・アトマジャ」は「ロケットサン」社のモジュラー式長距離砲兵システムに組み込まれているということ)。

 「TRG-300」は中国の「WS-1B」自走ロケット砲システムをベースにした誘導式ロケット弾であり、現在は2025年に「カラ・アトマジャ」が引き継ぐであろう任務の一部を担っています。

 「TRG-300」と比較した場合、「カラ・アトマジャ」は射程距離が大幅に長いものとなっていることに加えて(120+km:280+km)、弾頭もより重いものを搭載し(250kg:190kgまたは105kg)、IIRシーカーの搭載によってより高い命中精度を誇るという際立った特徴を有しています。

 「TRG-300」はすでにアゼルバイジャン、バングラデシュ、UAEで商業的成功を収めているため、「カラ・アトマジャ」が海外の市場で同様の成功を収める可能性についても起こりえないわけではないようです。

 この巡航ミサイルの280kmという射程距離は、トルコからすればミサイル技術管理レジーム(MTCR)などの軍備管理に関連する条約を尊重しつつ、同時に「カラ・アトマジャ」を売り込むには十分に短いものとなっています。

 潜在的な海外の顧客にはアゼルバイジャン、カタール、ウクライナ、モロッコ、UAE、インドネシアが含まれており、その全てがすでに誘導式ロケット弾システムを運用していたり、巡航ミサイルやSRBMで武装した隣国が存在している国々です。この点を考慮すると、「カラ・アトマジャ」は輸出に成功するトルコ初の巡航ミサイルとなるかもしれません。


 「カラ・アトマジャ」がトルコ軍で運用される最後の長距離ミサイルシステムになると考える人は、後でそれが大間違いと知ることになるかもしれません。なぜならば、国産の「ゲズギン」巡航ミサイルの導入により、トルコ軍の水上艦や潜水艦が長距離の戦略目標を打撃することが可能になるからです。

 「カラ・アトマジャ」GLCMと「ゲズギン」LACMの導入や「ボラ」SRBMのさらなる開発を通じて、トルコはやがてエーゲ海周辺とそれ以外の地域で使用するためのゲームチェンジャーとなるさまざまな兵器システムを保有することになるでしょう。

 トルコのUCAVの成功に盲点を突かれたことによって、エーゲ海の現状を激変させて地中海における軍事バランスをリセットすることになる、数多くの軍事プロジェクト群が無視されがちです。

 その度重なる新兵器の開発が続くトルコの動きは、現在のギリシャがトルコと比較すると軍事的な発展が著しく遅れているだけではなく、軍事力を増強するためのトルコによる取り組みはギリシャが追いつくことが考えられないほどに凌駕し続けていることを示しています。

「ゲズギン」SLCMによって、射程1000km圏内に存在するあらゆる地上目標がトルコ海軍の潜水艦や大型水上艦の照準に入ることになるでしょう。

[1] Israel will lease IAI Heron UAV's to Greece https://www.iai.co.il/israel-will-lease-iai-heron-to-greece
[2] Endless Possibilities - The Bayraktar Akıncı’s Multi-Role Weapons Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/endless-possibilities-bayraktar-akncs.html
[3] Deadly Advanced: A Complete Overview Of Turkish Designed Air-Launched Munitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/01/deadly-advanced-complete-overview-of.html
[4] Turkey one step closer to develop indigenous cruise missile https://navalpost.com/turkey-one-step-closer-to-develop-indigenous-cruise-missile/
[5] KARA ATMACA Surface-To-Surface Cruise Missile https://www.roketsan.com.tr/en/products/kara-atmaca-surface-surface-cruise-missile
[6] Karadan Karaya Seyir Füzesi Projesi’nde (Kara ATMACA) İmzalar Atıldı https://www.savunmasanayist.com/karadan-karaya-seyir-fuzesi-projesinde-kara-atmaca-imzalar-atildi/

※  この翻訳元の記事は、2022年1月27日にOryx本国版(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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2022年12月11日日曜日

プレミア価格の対潜哨戒機:ギリシャが「MQ-9B "シーガーディアン"」UAVを調達する


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 政府が引き起こした債務危機のために長年にわたって装備の新規調達を延期せざるを得なかったギリシャ空軍は、ここ近年で相次ぐ新たな装備の導入という恩恵を受けています。

 2018年、「ロッキード・マーティン」社はギリシャが運用している84機の「F-16C/D(ブロック52+)」を最新の「F-16V(ブロック70/72) "バイパー"」規格にアップグレードする契約を結び、その2年後には、ギリシャ政府によるフランスから18機の「ダッソー」製「ラファール」戦闘機を「SCALP」巡航ミサイルと「AM39 "エグゾゼ"」対艦ミサイルから成る高度な兵装パッケージとセットした発注が続きました(2021年にさらに6機が発注)。[1]

 そして2022年6月、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は政府が2020年代後半に納入予定となっている「F-35」20機の購入要請をアメリカに打診したことを公表するまでに至りました。[2]

 ギリシャ空軍の復活はそれらだけにとどまらず、10機の「M-346」新型ジェット練習機の調達や、28機を運用中の「AH-64A/D」攻撃ヘリコプターを射程25kmの「スパイク-NLOS」対戦車ミサイル(ATGM)を発射できるように改修することも現在進められています。[3] 

 さらに、ギリシャはイスラエルの防衛企業「IAI」から(2020年代半ばのリース期間終了後に購入するオプション付きで)「ヘロンTP」無人航空機(UAV)の海上監視型を4機リースし、念願の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの獲得を目指していました 。ところが、その後の2022年7月上旬に、ギリシャがアメリカから洋上監視に特化された「MQ-9B "シーガーディアン"」3機を4億ドル(約547億円)という驚異的な価格で調達することが発表されたのでした。[4][5]

 こうした新兵器の導入案は、近年エーゲ海におけるギリシャの島々の非軍事化を要求している隣国:トルコとの緊張が高まる中で、ギリシャ軍の能力をさらに増強することを目的とした大規模な調達計画の一部です。[6] 

 「シーガーディアン」はギリシャ軍に斬新な戦力をもたらすことになりますが、その価格は機体に付随する高度なレーダーやセンサーシステムを考慮しても法外なものと言わざるを得ません。価格の急騰が実際に搭載されているセンサー群に原因があることを示す証拠として、2015年にオランダが「MQ-9(ブロック5)」を3億3900万ドル(約464億円)で発注したことが挙げられます。[7]

 オランダへの売却案には無人戦闘航空機(UCAV)4機、地上管制ステーション4基、エンジン6基、「ゼネラルアトミクス」社製の海上広域捜索機能を備えた「リンクス」合成開口レーダー、照準システムなどが含まれていたものの、兵装は別とされました。この契約は結果として2020年まで延期され、今度は「リンクス」合成開口レーダーなしで、それを含む場合よりも2億1600万ドル(約295億円)も安い僅か1億2300万ドル(約168億円)で締結されたのです! [7]

 さらに比較すると、イギリスは2020年7月に「MQ-9B "スカイガーディアン"」3機と地上管制ステーション3基を総額で8200万ドル(約112億円)で調達しています。[8]


 「MQ-9B "シーガーディアン"」は定評のある「MQ-9B "リーパー"」UCAVの海上監視型で、もともと(最終的に「ノースロップ・グラマン」社の「RQ-4N/MQ-4C」が選ばれた)アメリカ海軍の広域海洋監視(BAMS)計画のために売り込んだコンセプトから生まれました。

 艦艇を含む水上目標や潜望鏡を探知可能な合成開口レーダーと対潜戦(ASW)用のソノブイ・ポッドを搭載できることが「シーガーディアン」最大のセールスポイントです。

 また、対潜魚雷や自衛用の「AIM-9 "サイドワインダー"」空対空ミサイル(AAM)の搭載及び運用能力の付与を含む将来的な改良だけにとどまらず、今では空母から運用するために翼を折りたたたみ式にしたタイプさえも検討されており、システムの将来性が拡大しつつあります。
 
「シーガーディアン」は、ギリシャが保有している「P-3B "オライオン"」洋上哨戒機や「AB-212」及び「S-70/B-6 "エジエンホーク"」対潜ヘリコプターで構成されているASW飛行隊を補完することになるでしょう。

 トルコの潜水艦の戦力が向上していることを踏まえ、ギリシャはASW用アセットの追加導入に大規模な投資を行い続けてきました。2016年にギリシャ海軍は5機の「P-3B "オライオン"」のオーバーホールと改修をする契約を結んでおり、2023年に完了する予定です。[9] 

 その3年後、海軍は旧式化した「AB-212」を更新するために7機の「MH-60R "シーホーク"」を調達する契約も交わされましたが、どうやら「MR-60R」導入の必要性が極めて高かったらしく、当初はアメリカ海軍向けであった機体がそのままギリシャに引き渡されました。[10]

ギリシャ海軍に引き渡された最初の「MH-60R」(2021年12月)

 プラットフォーム機としての洋上監視能力を披露するため、メーカーの「GA-ASI(ゼネラルアトミクス・エアロノーティカルシステムズ)」は2019年12月にギリシャのラリサ空軍基地から「MQ-9 "ガーディアン"」を用いた一連の実証飛行を終えています。[11] 

 この飛行はギリシャ空軍と沿岸警備隊によって後援されたものであり、NATO諸国の軍人や議員たちの前で披露されました。[11] 

 現状を踏まえると、これらの実証飛行で示した性能は、その驚異的な高価格を大目に見るようにギリシャに納得させるには十分なほど見応えのあるものだったようです。 


 多種多様なセンサーシステムの搭載やソノブイの運用能力を持つ「シーガーディアン」は近い将来に対潜魚雷や「サイドワインダー」AAMを搭載することが可能となりますが、UCAVではないことから地上目標に対する使用には向いていません。

 その代わり、UCAVとしての任務については「MQ-9B(ブロック5)」または(イギリスで「プロテクター」という名称が付与された)「MQ-9B "スカイガーディアン"」によって遂行されることになっています。同機は最大で18発のMBDA「ブリムストーン2」空対地ミサイル、または12発の同ミサイルと2発の「ペイブウェイ IV」GPS/INS/レーザー誘導爆弾(各230kg)を搭載可能という素晴らしい兵装のペイロードを有した機体です。

 ただし、近い将来にギリシャがこのUCAVや他機種を導入するかどうかはまだ分かっていません。

「GA-ASI」社の「MQ-9 "ガーディアン"」実証機とギリシャ空軍の「F-16C(ブロック52+)」

 3機の「MQ-9B "シーガーディアン"」の導入は、ギリシャ軍にとって新しい時代を形成する最も重要な指標の1つとなることは言うまでもありません。

 高度なセンサーシステムを用いることによって遠く離れた場所にいる敵の位置を特定したり、エーゲ海における濁った海域に潜む潜水艦の探知など、この新型機は国土の広さの割に他国よりも多くの海岸線を持つギリシャに長年欠けていた力をもたらすることになるでしょう。

 ASWという任務上、確かに「シーガーディアン」は敵からの攻撃に対して脆弱です。しかし、いかなるASW機も該当すると特徴のため、致命的な弱点ではありませんし、この機体が装備している強力なセンサー群と見事な(無人)飛行特性は多く存在するほかの選択肢よりも適していると主張することができます。

 ただし、ギリシャ軍が老朽化した装備の近代化と更新の困難に直面している現在、こうした斬新な戦力の導入が多額の代償を伴うことは否定できません(注:つまり「シーガーディアン」などの導入でほかの装備の更新などに遅れが生じるデメリットがもたらされるということ)。


[1] MBDA awarded two contracts by Greece for naval and aircraft weaponry https://www.mbda-systems.com/press-releases/mbda-awarded-two-contracts-by-greece-for-naval-and-aircraft-weaponry/
[2] Greece formally requests to buy F-35 fighter jets from US https://apnews.com/article/nato-middle-east-turkey-e984784e39df527ba58731b51092995b
[3] Σοκ στην Άγκυρα: Έρχονται και «κλειδώνουν» το Αιγαίο τα «φονικά» Ισραηλινά SPIKE NLOS - Εφιάλτης για την Τουρκία - Ανίκητη «ασπίδα» σε Έβρο και νησιά https://newpost.gr/amyna/615c7dcc8fd4386408a451f8/sok-stin-agkyra-erhontai-kai-kleidonoyn-to-aigaio-ta-fonika-israilina-spike-nlos-efialtis-gia-tin-toyrkia-anikiti-aspida-se-evro-kai-nisia
[4] Greek armed forces to get new missiles, upgrade systems https://www.ekathimerini.com/news/1169287/greek-armed-forces-to-get-new-missiles-upgrade-systems/
[5] Greece to purchase SeaGuardian MQ-9B UAV amid tensions with Turkey https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2022/july/11887-greece-to-purchase-seaguardian-mq-9b-uav-amid-tensions-with-turkey.html
[6] Stop militarising Aegean islands, Turkey’s Erdogan tells Greece https://www.aljazeera.com/news/2022/6/9/stop-demilitarising-aegean-islands-turkeys-erdogan-tells-greece
[7] General Atomics awarded $123 million Netherlands MQ-9 Reaper drone contract https://www.thedefensepost.com/2019/03/22/netherlands-general-atomics-mq-9-reaper-drone-123-million/
[8] UK signs for first three Protector UAVs https://www.janes.com/defence-news/industry-headlines/latest/uk-signs-for-first-three-protector-uavs
[9] Greece Takes Delivery of First Upgraded P-3B Orion https://dsm.forecastinternational.com/wordpress/2019/05/20/greece-takes-delivery-of-first-upgraded-p-3b-orion/
[10] First MH-60R for Greece https://www.scramble.nl/military-news/first-mh-60r-for-greece
[11] GA-ASI Concludes Successful Series of MQ-9 Demonstrations in Greece https://www.ga.com/ga-asi-concludes-successful-series-of-mq-9-demonstrations-in-greece

※  当記事は、2022年8月19日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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2022年11月5日土曜日

エーゲのAFV:ギリシャ軍の「M1117 "ガーディアン"」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ギリシャ軍は、老朽化した装甲戦闘車両やその他の装備の更新面で大きな困難に直面し続けています。

 特に2007年から2008年にかけての金融危機とその後の政府債務危機(いわゆる「ギリシャ危機」)の打撃を受け、ギリシャが多くの調達計画の中止や延期を余儀なくされたことは今でも多くの方の記憶に残っているでしょう。

 トルコとの緊張が高まった結果としてギリシャ軍は大幅な予算削減を免れることができましたが、財源不足は毎年恒例の独立記念パレードを行うために必要とする燃料を一般市民が負担しなければならないという奇妙な事態を招きました。
 
 ギリシャの財政状況はここ数年で多少改善されたとはいえ、軍は依然として保有する装備品全体が広範囲にわたって陳腐化していることに直面している状況に変化はありません。

 ギリシャは「RM-70」多連装ロケット砲(MRL)用に射程40kmのセルビア製「G2000」ロケット弾を購入したり、「レオパルト1A5」「レオパルト2A4」 戦車の改良を検討するなどして旧式化しつつある兵器に関する問題に対処しようと試みてきました。[1] [2] 

 しかし、ほかの種類の装備は寿命が近づいているか、21世紀の戦いで通用することができなくなっているため、置き換える必要があります。

 軍事装備の陳腐化とそれらを更新不能というギリシャを苦しめる悪影響を軽減するため、アメリカは同国に大量の軍事装備を寄贈し、ギリシャ軍がトルコ軍と同等の軍事力を維持できるように手助けしています。

 近年の支援には、70機の「OH-58D "カイオア・ウォリア"」武装偵察ヘリコプター、4隻の「Mark V」特殊任務艇、約500台の「M113」装甲兵員輸送車と「M-901 ITV」 対戦車ミサイル車、数百台のトラック、そして1200台の「M1117 "ガーディアン"」 装甲警備車(ASV)の譲渡が含まれています。

 実際には(より現代的な)IFVやAPC、MRAPの方が必要としているものの、ギリシャが(トルコとの紛争で予想される正規戦に特に適していない)「M1117」を選ぶ決断をしたのは、余剰兵器援助(EDA)プログラムを通じて無料で入手可能であり、ギリシャは輸送と検査費用として1億200万ドル(約145億円)を支払うだけでよかったという事実だけでも説明できるしょう。[4] 

 ちなみに、1200台の「M1117」の本来の購入価格は合計で約9億7,000万ドル(約1,376.5億円)でした。つまり、ギリシャは超格安で大量のASVを導入できるメリットがあるわけです。[4]

鉄路でギリシャに到着した「M1117」 ASVの第1陣(2021年11月)

 ギリシャにおける運用で、「M1117」は主に3名の乗員(操縦手、車長、機銃手)に加えて最大で3名の兵士を乗せる偵察車や歩兵機動車(IMV)として配備されるものと思われます。なぜならば、同国陸軍は現時点で大量の装甲「ハンヴィー(及びそのギリシャ独自の派生型)」を運用していますが、IMVとMRAPは著しく不足しているからです。[5] 

 「M1117」はこうしたAFVの役割を果たすようには設計されていませんが、戦車を除くギリシャのすべてのAFVよりも優れた防御力を備えているほか、(前述のとおり)少数の歩兵を輸送することも可能なため、上記の目的で運用されるのは必然的と言えるかもしれません。この最大の原因は、ギリシャ陸軍がAFVについて依然としてほぼ例外なく旧式と化した「M113」ベースの車両群に頼っていることによるものです。

 「M1117」の第1陣である44台は2021年11月にドイツにあるアメリカ軍の備蓄施設からギリシャに到着し、2022年初頭にはさらに数百台がアメリカ本土から船でギリシャに到着しましたが、船便で届けられたASVについては到着時にはまだ砂漠迷彩が施されていました。

 残りの「M1117」は2022年中下旬から2023年中にギリシャに届けられる見込みであり、同年中に納入が完了する予定です。[5]

 ギリシャに到着した各車両は、正式にギリシャ陸軍に加わる前に再塗装と整備を受けることになっています。

聖水で祝福を受けるギリシャ軍の「M1117」:こうした儀式は正教会の国では一般的な慣習となっています。

 1990年代にアメリカ陸軍憲兵隊の専用車両として「V-100/150」シリーズの装甲車をベースに開発された「M1117」は、予算の都合で2002年にプロジェクトが終了する前の1999年に運用が開始されました。

 2003年のイラク戦争以降、「M1117」計画に新たな勢いが与えられました。というのも、「ハンヴィー」が敵の銃撃や道端の即席爆発装置(IED)に非常に脆弱であることが判明したためです。それ以来、このASVは大量生産され、瞬く間に世界中の世界中のいくつかの軍隊の保有装備となったのでした。

 輸送部隊の護衛や後方地域での警戒といった任務に対応するために「M1117」の武装は歩兵や軽装甲車両との戦闘に最適化されたものであり、「Mk 19」40mm自動擲弾銃と「M2」12.7mm重機関銃付きの小型(有人)砲塔を備えています。

 これに加えて、砲塔の右側面にあるピントルマウントには、敵兵や低空飛行するヘリコプターに対して用いるために「FN MAG」「MG3」 7.62mm汎用機関銃を装備することが可能となっています。

 それに比べ、ギリシャの「M113」APCは装甲化されたキューポラに「M2」重機関銃1門だけしか装備されていません。
 
 「M1117」の装甲防御力は、小火器・IED・小型地雷から乗員を保護するのに十分なものであり、傾斜した装甲はRPGに対してもある程度の効果をもたらすと思われます(注:ただし、RPGに対して文字どおりの最小限度の防御力しか有していないことは言うまでもありません)。

 仮に「M1117」が待ち伏せ攻撃や自己の対処能力を超える状況に遭った場合、101km/hという最高速度によって危険な状況から素早く離脱することができます。また、操縦性とスピードが大幅に低下するものの、ASVは4本のタイヤがパンクしても走り続けることも可能です。

 ちなみに、「M1117」にはAFVでは必須とも言える発煙弾発射機が全く装備されていません。


 アメリカが気前の良い措置を講じていなかったら、「M1117」はギリシャ陸軍の兵器に入る可能性はなかったと言えるでしょう。

 ギリシャが必要とする要件に特に適合しているAFVではありませんが、「M1117」は他のAFVを調達するための十分な資金が確保されるまでの間、陸軍に少なくともある程度の猶予をもたらしてくれるに違いありません。


[1] Greek army buys Serbian missiles https://greekcitytimes.com/2021/07/16/greek-army-buys-serbian-missiles/
[2] KMW to possibly modernize Greek Army Leopard 1A5 and Leopard 2A4 MBTs to Leopard 2A7 standard https://www.armyrecognition.com/defense_news_april_2022_global_security_army_industry/rheinmetall_to_possibly_modernize_greek_army_leopard_1a5_and_leopard_2a4_mbts_to_leopard_2a7_standard.html
[3] Greece welcomes its first batch of surplus M1117s https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/greece-welcomes-its-first-batch-of-surplus-m1117s/
[4] Army receives first delivery of M1117 armored security vehicles https://www.ekathimerini.com/news/1172965/army-receives-first-delivery-of-m1117-armored-security-vehicles/
[5] Αποτρεπτική ασπίδα στις πολεμικές απειλές του Ερντογάν: Εξοπλίζονται σαν «αστακοί» και θωρακίζουν Έβρο και νησιά τα Μ-1117 Guardian https://newpost.gr/amyna/621292cb9ae2132c2d04009c/apotreptiki-aspida-stis-polemikes-apeiles-toy-erntogan-exoplizontai-san-astakoi-kai-thorakizoyn-evro-kai-nisia-ta-m-1117-guardian

※  当記事は、2022年7月11日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した
  箇所があります。


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2022年10月12日水曜日

失敗と見なされるも称賛に値すべき:ドイツの「交換」政策


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ドイツはウクライナに大量の兵器を供与することに加え、「Ringtausch(循環的交換)」と呼ばれるプログラムで他国がウクライナに重火器を送るように仕向けようとも試みています。この政策は、各国が自国でストックしている戦車や歩兵戦闘車(IFV)をウクライナに供与する代わりに、ドイツ軍の同種兵器を無償で受け取ることができるという仕組みです。

 当初は見込みのある政策でしたが、ほとんどの国がソ連時代の兵器をベルリンが現時点で提供可能(あるいは提供したい)ものより多くの最新兵器で置き換えることを望んでいるため、「Ringtausch」はほとんど期待に応えることができませんでした。
 
 この「擬似的な交換システム」が正確に何を伴うものなのかが、「Ringtausch」政策が比較的成功していない最大の理由でした。

  ドイツはチェコとスロバキアとポーランドに対して、「T-72」戦車をウクライナへ送る代わりに「レオパルト2A4」戦車を供与することを申し入れました。しかし、確かに「交換」でウクライナへ送った主力戦車(MBT)よりは優れているものの、ポーランドは戦車大隊用の装備として期待していた44台のMBTの代わりに、わずか20台の「レオパルド2A4」(そして不思議なことに100台の「レオパルド1A5」)を供与されるだけで終わってしまいました。

 ドイツは2023年4月に最初の「レオパルド2A4」を月にたった1台のペースで供与を始め、同年10月からは月3台に増加することになっています。ポーランドとの交渉はこの記事を執筆している時点(2022年9月)ではまだ継続中ですが、すでに250台以上のMBTをウクライナへ供与しているワルシャワの不満が大きいことを疑う余地はありません。[1][3]
 
 チェコに14台の「レオパルド2A4」と1台の「ビュッフェル」装甲回収車(ARV)を供給する合意については、同国がウクライナに数量不明の「T-72M1」を供与してから約4ヶ月後の2022年8月29日に成立したばかりです。[4] [5]

 これらの「T-72」は予備のストックから供与されたものであったことを踏まえると、「Ringtausch」政策は(供与で)失われた戦力を前もってダイレクトに補うことを目的とした計画というよりも、むしろ供与を報奨するプログラムとして正確に表現されるべきものなのかもしれません。

 同様に、スロバキアは予備のストックである30台の「BVP-1」IFVをウクライナに供与することと引き換えに15台の「レオパルト2A4」と砲弾・訓練・兵站パッケージを受け取ることになっているため、同国にとってはこれが実に素晴らしい取引としか表現できないでしょう。
[6]

「レオパルト2A4」戦車(左)と「T-72M1」戦車(右)

 「Ringtausch」政策には相当な批判が浴びせられていますが、 ドイツは(現時点で)代替となる(西側製の)兵器を提供することで、ソ連時代の兵器をウクライナへ供与するよう積極的に他国に働きかけている唯一のヨーロッパの国であることに言及しておく必要があるでしょう。

 イギリスとフランスも戦車・IFV・自走砲の膨大なストックを保有していますが、今までのところ、ウクライナ軍での使用に適した重火器と引き換えに、これらを東欧諸国(あるいは世界各国)に供与することを控えています。

 ちなみに、ギリシャも「Ringtausch」計画に思い切って参加しています。ただし、ウクライナを助けるという名目で老朽化したIFV群を無償での交換を試みとようという思惑があると見られています。ギリシャは1992年にドイツから「BMP-1A1」を1台あたり5万ドイツマルク(2021年では約4万ユーロ:約575万円)で導入しました。

 東ドイツ軍で30年間使用された後にギリシャ軍でさらに30年間も酷使された「BMP-1A」について、ギリシャ政府は(ウクライナへ渡すものと)同数のドイツ製「マルダー」IFVとの代替を求めたのです。[7]

 しかし、今後の「Ringtausch」に基づいた取引は現時点で実現する可能性は極めて低いでしょう。

 スロベニアとの「マルダー」IFVと「フクス」装甲兵員輸送車(APC)の「Ringtausch」については、同国が2021年に発注した45台の「ボクサー」IFVの納入を早めるために見送られてしまったことからも明かです(その後の2022年9月にスロベニアは「ボクサー」導入をキャンセルしました)。[8][9]

 今になって思えば、「Ringtausch」という概念は、それ自体が内在する矛盾ゆえに最初から破滅的なものだったのかもしれません。

 ウクライナの窮状を支援するために装甲戦闘車両を手放す意思と能力のある国は、ひと握りの高価な代替品を約束されなくても通常はそう動いたでしょう。その一方で、実際に兵器を手放す前に代替となる戦力が必要な国々は法外に高価な代替品が必要とするため、もはやこの政策全体が割に合わなくなるのです。

 それでも、この政策に対するドイツの取り組みは全く何もしないよりは確かに好ましいものであり、ウクライナへの重火器を供与することへの拒否が焦点となっているものの、その問題に対する実行可能な解決策を見出そうと一所懸命考えて答えを出したことを示しています。

  1. 以下に列挙した一覧は「Ringtausch」政策で交換に成功した武器類を追跡調査することを試みたものです。
  2. この一覧は成立した取引のみを含みものであり、今後にさらなる取引が判明した際に更新される予定です。

チェコ
  • 14 レオパルト2A4 戦車(数量不明のT-72M1戦車と"交換")
  • 1 ビュッフェル 装甲回収車(同上)


ギリシャ
  • 40 マルダー 歩兵戦闘車(同数のBMP-1A1歩兵戦闘車と"交換")


スロバキア
  • 15 レオパルト2A4 戦車(30台のBMP-1歩兵戦闘車と"交換")



スロベニア
  • 45 MAN製「KAT1」高機動戦術トラック[通常型40台と給水または給油型5台] (28台のM-55S戦車と"交換")


[1] https://twitter.com/AlexLuck9/status/1550957034794655744
[2] Ringtausch Fuer Ukraine: Polen Will Mehr Deutsche Panzer https://www.faz.net/agenturmeldungen/dpa/ringtausch-fuer-ukraine-polen-will-mehr-deutsche-panzer-18194752.html
[3] A European Powerhouse: Polish Military Aid To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/a-european-powerhouse-polish-military.html
[4] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1564254848308355073
[5] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[6] https://twitter.com/BMVg_Bundeswehr/status/1562054032474226688
[7] BMP-1A1 Ost in Greek Service https://tanks-encyclopedia.com/bmp-1-greece/
[8] Slovenia and Germany Expedite Delivery of BVP M-80 to Ukraine https://en.defence-ua.com/news/slovenia_and_germany_expedite_delivery_of_bvp_m_80_to_ukraine-3558.html
[9] Slovenia will leave the Boxer programme https://www.shephardmedia.com/news/landwarfareintl/slovenia-leaves-the-boxer-programme/

※  当記事は、2022年9月6日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
    ります。


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  • ファクトシート:ドイツによるウクライナへの軍事支援(一覧)

2022年6月7日火曜日

ギリシャからの興味深い贈り物:ウクライナ軍の抵抗に対するギリシャの支援


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 これまでに、EUとNATOのほぼ全加盟国がロシア軍と戦うウクライナを支援するために、程度の差はあるものの軍事的な支援を行ってきています。

 スロバキアによる「S-300PMU」地対空ミサイル(SAM)システムの譲渡のほか米英による「ジャベリン」や「NLAW」対戦車ミサイル(ATGM)の供与が大いに注目されていますが、そのほかにも多くの国が独自のやり方で貢献していることは見落とされがちです。

 その国の1つが早くも2月27日にウクライナへの軍事支援を表明したギリシャです。その支援の内容は、「カラシニコフ」アサルトライフル2万丁、「RPG-18」使い捨て対戦車擲弾発射器815個、そして数が未公表の122mm無誘導ロケット弾で構成されていました。[1] 

 その直後に少なくとも飛行機2機分の積載量に相当する武器と弾薬がウクライナに送られ、今やロシア軍との戦闘に用いられているようです。[2]

 それ以来、ギリシャが追加の兵器に関する供給源の有力な候補として何度も言及されるようになったことはよく知られています。

 特筆すべきポイントとして、ギリシャはウクライナ軍が(現在供与されている大部分の西側諸国の兵器とは逆に)すでに使い慣れているソ連製の膨大な兵器群を運用していることが挙げられます。これらには「S-300PMU-1」、「9K331 "トール-M1"」、「9K33"オーサ"」SAMシステムに加え、多連装ロケット砲(MRL)、装甲戦闘車両(AFV)などが含まれます。

 この理由から、アメリカがただちに実戦投入可能なソ連製兵器の供給源としてギリシャに注目し、キプロスに対して「9K37M1 "ブーク-M1"」や「トール-M1」SAMシステムなどの供与を要請したことと同じ取り組みを行ったことは確実です。[3] 

 それにもかかわらず、4月初頭にギリシャ政府は「自国の防衛力を落とすようなことはしない」という理由でそのような兵器の供給を公式に拒否し、その後にウクライナへ追加の軍事装備を送る計画がないことを明らかにしました。[4] [5]

 「トール」や「ブーク」といった(西側諸国が供与したMANPADS)より長射程のSAMシステムを入手する手段がほかに全く存在しないウクライナにとってギリシャ政府の声明に失望したに違いありませんが、ギリシャからすると「オーサ」や「トール-M1」といった高度な兵器の供給がトルコに対する自国の態勢を著しく弱体化させる可能性があることにも注目すべきでしょう。

 各国がウクライナへのハイレベルな装備の供給を決定した場合、アメリカはそれに対する補償や実施国へのアメリカ製システムの一時的な配備を約束していますが、現在ギリシャで使われている兵器を相応しく代替できる西側製のシステムは僅かしか存在しません。

 資金不足のおかげでギリシャ軍は代替システムを調達できない可能性が高く、アメリカによるそれらの供与はトルコから激しい抗議を引き起こすことが予想されます。

 ギリシャは「トール」を運用している有一のNATO加盟国であることに加えて特に「S-300PMU-1」は同国にとって(少なくとも書類上は)最も貴重な防空戦力の1つです。この事情とポーランドとブルガリア、そしてルーマニアはいずれも相当な数の「9K332"オーサ"」を運用していることを考えると、これらの国々がより賢明な防空システムの調達先であることを示しています。

 ギリシャの「S-300PMU-1」は1990年代後半に発生したキプロスのミサイル危機の結果として同国から引き継いだものですが、ミサイル発射機などのシステムは一般的な「S-300」で見られる重装軌車両や「MAZ-543M」トラックに搭載されているのではなく、「KrAZ-260B」セミトレーラー車で牽引されているのが特徴です。

 したがって、「PMU-1」のレーダーシステムだけでも展開に最大で2時間を要する可能性があることで戦術的な機動性が著しく低下するため、システムの展開場所を地上発射型の対地兵器に指示可能なロシアのUAVにさらされるリスクが高くなってしまうのです。

 ウクライナはすでにこのことを痛感していると思われます。なぜならば、ウクライナ軍は戦争の最初の数日間で(「S-300PT」 で使用される)「5P851A」セミトレーラー式発射機12基を失っているからです。[6]

現在はクレタ島に配備されているギリシャの「S-300PMU-1」SAMシステム

 最大2万丁にもなるAK型「カラシニコフ」アサルトライフルと815発の「RPG-18」、そして(「BM-21」または「RM-70」MRL用)122mm無誘導ロケット弾の供与は、先述の「S-300」のような重装備の供与に比べるとかなり見劣りしますが、ギリシャからの武器に注目すべき点がないとは言い切れません。

 例えば、ギリシャが2万丁のAK型アサルトライフルを保有するに至った経緯は少なからず皮肉的な要素が含まれているので興味深いものがあります。

 革命前のヤヌコビッチ政権下ではウクライナはいかがわしい武器取引から収益を上げることに熱心であり、その相手を全く選びませんでした。

 シエラレオネの国旗を掲げてウクライナのムィコラーイウ港からトルコに向かっていた貨物船「Nur-M」が実際にはシリアやリビア向けの兵器を積載しているという情報をギリシャ当局が得たとき、これらの国々における受取先が何者であったのかは判断できませんでした。おそらくこのことが、ある匿名のウクライナ当局者がこの取引をリークしたのは実はロシアだったと語ったとされる理由の一つなのでしょう。[7]

 AK型アサルトライフル2万丁を含む56個の武器が満載されたコンテナは、最近までギリシャに保管されたままでした。ウクライナがこれらの輸出を否認したことによって、最終的にこれらの武器は終わりの見えないMENA(中東及び北アフリカ)諸国の内戦で用いられる代わりにロシア軍に対して使用するために...たった10年前には不可能と思えたに違いない結果:ウクライナ自身に戻す理由を見出されたというわけです。

 ギリシャはさまざまな種類のロシア製防空システムに加えて、「BMP-1A1 "オスト"」歩兵戦闘車(IFV)、100門以上の「RM-70」122mm MRL、「9M111 "ファゴット"」及び「9M133 "コルネット"」ATGM、「ZU-23」対空機関砲 などの多岐にわたるソ連製兵器を保有しています。「コルネット」ATGM以外は旧東ドイツ軍のストック品から調達したものであるため、ギリシャがそれらをウクライナに供与するにはドイツの許可を得なければなりません。

 ウクライナはすでにポーランドとチェコから大量の「BMP-1」と共に別の数か国から数百台の装甲兵員輸送車を受け取っていることから、ドイツの許可が供与の最大の障害とはならないでしょう。しかし、ギリシャ国内の事情やすでにウクライナ側に他国が支援しているので、実際に供与することが不要と判断されるかもしれません。

ギリシャ軍の「RM-70」MRL:同国は1990年代半ばに158基の「RM-70」を20万5千発の122mmロケット弾と共に旧東ドイツのストック品から調達しました[9]

 ギリシャ政府がSAMシステムを含む追加兵器の供与しないと決定したことはウクライナにとって失望を与えたことに疑いの余地はありませんが、同時に状況の全体像を考慮すると全く驚くことではないのです。

 ギリシャは、アサルトライフル、RPG、無誘導ロケット弾の提供を通じて、すでにウクライナへ軍事支援をした国の長いリストに加わっています。ギリシャの支援が世間からの注目を浴びることはないでしょうが、他国と合わせてウクライナの大義に大きく貢献することになるでしょう。


[1] Greek role within NATO is upgraded https://www.ekathimerini.com/news/1179620/greek-role-within-nato-is-upgraded/
[2] Greece Sends Military Aid to Ukraine https://greekreporter.com/2022/02/27/greece-military-aid-ukraine/
[3] The US asks Cyprus to transfer its Russian made weapons to Ukraine https://knews.kathimerini.com.cy/en/news/the-us-asks-cyprus-to-transfer-its-russian-made-weapons-to-ukraine
[4] Greece formally rejects US proposal to supply Ukraine with additional Russian-made weapon systems https://www.aa.com.tr/en/russia-ukraine-war/greece-formally-rejects-us-proposal-to-supply-ukraine-with-additional-russian-made-weapon-systems/2557146
[5] Greece says no more weapons for Ukraine https://www.euractiv.com/section/politics/short_news/greece-says-no-more-weapons-for-ukraine/
[6] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html
[7] What weapons did Greece send to Ukraine, and where did it come from https://en.rua.gr/2022/03/02/what-weapons-did-greece-send-to-ukraine-and-where-did-it-come-from/
[8] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[9] BMP-1A1 Ost in Greek Service https://tanks-encyclopedia.com/bmp-1-greece/

※  当記事は、2022年5月21日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。



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