2022年6月15日水曜日

孤立した中での創意工夫:沿ドニエストルの自家製「ハンヴィー」


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 トランスニストリア、正式には沿ドニエストルモルドバ共和国(PMR)は、この過去10年間で非常に面白いデザインの装甲戦闘車両(AFV)を次々と生み出してきました。

 1990年代初頭に独立を一方的に宣言して以来、この未承認国家は旧式化したソ連製兵器のストックを新型に置き換えることができないため、その代わりとして自国で開発した多数の車両で戦力のギャップを補おうと試みています。

 独自兵器の大部分は、全く新しい用途に適合させるために既存のAFVをベースに改造したものであり、この最も良い例を挙げるならば、ほぼ間違いなく自走対空砲型「MT-LB」「BTRG-127 "バンブルビー"」装甲兵員輸送車(APC)でしょう。後者はもともとソ連で「GMZ-3」地雷敷設車として開発されたものです 。[1]

 沿ドニエストルで登場した最新の独自兵器は、古いトラックの車体をベースにした四輪式の軽多用途車です。この車両は明らかにアメリカの「ハンヴィー」からインスピレーションを得ているように思われるため、(制式名称やより良い仮称が思いつかないことから)今後は「トランスヴィー」と呼称することにします

 「トランスヴィー」は、2022年2月に行われた特殊部隊のデモンストレーションで初めて目撃され、同車は自身のベースとなった四輪駆動の「GAZ-66」オフロード軍用トラックと一緒に登場しました。[2]

 この新型車両の性能は、メンテナンスのしやすさと戦場での頑丈さが評価されている1960年代の「GAZ-66」と同等であると思われます。

 生産性を容易にしたり、コストを最小限に抑えるため、沿ドニエストルの技術者たちは「GAZ-66」のコンポーネントを可能な限り多く取り入れることに努めたようです。面白いことに、そのコンポーネントには「GAZ-66」の車体だけでなくキャビン前部も含まれています(注:キャビンの天井や窓などがそのまま流用されているのです)。

 「GAZ-66」のキャビンは1台の「トランスヴィー」につき2つ使用されており、2つ目のキャビンは前部と反対方向にして溶接され、車両のフレームを形成しています(注:よく見ると前後のドア自体も「GAZ-66」そのままで観音開き式となっています)。

 「GAZ-66」は大量に現地部隊で用いられていますが、それらの少なくとも一部を、過去10年で商用トラックとしてロシアから輸入した「ウラル-4320」や「カマズ 6x6」トラックで更新することに成功しました。

 「トランスヴィー」について、見た目から判明した設計の特徴以外やこれまでの生産台数は一切わかっていません。しかし、「GAZ-66」トラックの数は沿ドニエストル軍の運用で必要とされる数を超過しているため、生産台数が初期ロットにとどまらず、いつか相当な数に達する可能性は決してあり得ないものではないでしょう。

 仮にさらなる生産がされる場合には、予備的な導入時に浮上した問題点を解決するために設計の修正が行われる可能性があるため、「トランスヴィー」の外観や特徴はまだ流動的である可能性を示しています(つまり現デザインが変更される可能性があること)。


「GAZ-66」4x4軽汎用トラック

 「トランスヴィー」は主に前線後方への人員や軽貨物の輸送任務用に設計されたものであり、車体後部に幌付きの貨物室を備えています。実際、2月の演習で「トランスヴィー」は特殊部隊の展開に使用されました。

 初期型の「ハンヴィー」同様に「トランスヴィー」も装甲防御力が無いことから、危険を回避するにはスピードと未舗装路における機動性に頼らざるを得ません。つまり、この車両は実質的な装甲なしで任務にうまく対処する必要があるわけですが、機銃手席の天井には 「PK(M)」7.62mm軽機関銃(LMG)が装備されています。


 すでに沿ドニエストル軍は、ありふれた「UAZ-469」やオフロード車である「ラーダ・ニーヴァ」さえもベースにした数多くの襲撃車の設計と改造の経験を有しています。

 これらの車両はこの未承認国家全域で簡単に入手可能であり、民間の車両として輸入することすら可能です。したがって、現地の部隊が攻撃的なものを含めた想像できる限りのあらゆる用途において、未だにこうした車両に依存していることは少しも驚くには値しません。

 商用車改造型襲撃車の大部分は1門の軽機関銃か重機関銃を装備していますが、驚くべきことに「9M111 "ファゴット"」対戦車ミサイルを装備した派生型さえも存在します。



 沿ドニエストルの自家製ハンビーは孤立している中で創意工夫を凝らした完璧な例、つまり、使えるものが本当に僅かしかないときに利用できるもので何とか間に合わせた例です。

 未承認国家という沿ドニエストルの立場は当面にわたって解決されそうにないため、この地域はより型破りな改造兵器の舞台となり続けることは間違いないでしょう。


[1] DIY On The Dniester: Russia’s Transnistrian SPAAG(s) https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/a-poor-mans-anti-aircraft-vehicle.html
[2] A Forgotten Army: Transnistria’s BTRG-127 ’Bumblebee’ APCs https://www.oryxspioenkop.com/2017/02/a-forgotten-army-transnistrias-btrg-127.html
[3] Праздник защитников Отечества https://youtu.be/c7UM1XS-_JQ

 ※  この記事は、2022年6月11日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。


おすすめの記事

1 件のコメント:

  1. このコメントはブログの管理者によって削除されました。

    返信削除