著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
おそらく、ロシアの対空砲兵部隊は見るからに強そうな「2K22 "ツングースカ"」及び「96K6 2パーンツィリ-S1"」自走対空砲システム(SPAAG)を大量に運用していることで広く知られています。ただ、少数の「ZSU-23 "シルカ"」も運用が続けられており、今回のロシアのウクライナ侵攻作戦で少なくとも4台が失われました。[1]
このカテゴリーにおける新型戦闘車両とそれらの近代化パッケージについては、「パーンツィリ」と「ツングースカ」の新バージョンを含めて今も開発され続けています。
したがって、ロシアの対空兵器に最も新しく加わったものが、実のところ未承認国家である沿ドニエストル(トランスニストリア)の「ロシア軍作戦集団(OGRF)」に配備されているDIY式自走対空砲ということは、なおさら滑稽に思えるかもしれません。
このDIY戦闘車両について、より正確には火力支援車と表現することができます。しかし、ロシアのテレビ局が駐沿ドニエストルOGRFの将校に行ったインタビューで、対空戦闘車両という明確に意図された役割の存在が確認されました。[2]
この新型自走対空砲は2門の「NSV」12.7mm重機関銃(HMG)を装備した改修型「BTR-70」の砲塔を標準的な「MT-LB」汎用軽装甲牽引車に搭載したものであり、OGRFと沿ドニエストル軍向けとして2020年初頭に少数が生産されたようです。[2]
同車両が装備する双連の12.7mm重機関銃は低空を飛行するヘリコプターに対してはある程度有効ですが、専用の対空照準器や暗視照準装置は備えられていないように見えます。
公式には沿ドニエストル・モルドバ共和国(PMR)と呼ばれるトランスニストリアは、1990年にソビエト社会主義共和国として独立を自称し、続く1992年にモルドバから武力的に離脱して以来ずっと陰に隠れた存在であり続けています。
同年に武力紛争が終結したにもかかわらず、沿ドニエストルの状況は依然として複雑なままです。この未承認国家はロシア連邦への加盟を望む一方で、経済生産の面ではモルドバへの僅かな商品の輸出に大きく依存し続けていることがそれを浮き彫りにしています。
本物の国家としての地位には疑問があるものの、沿ドニエストルは独自の陸軍や航空戦力、さらには自前の軍需産業まで有する事実上の国家として機能していることは注目に値します。
ロシアは今でも沿ドニエストルに限定的な兵力を駐留させ続けており、駐留部隊は公式には平和維持活動に従事しているとされています。1995年4月、沿ドニエストルの支配地域に駐留していた旧ソ連地上軍第14軍はOGRFとなり、その間にたった2個大隊にして僅か1500人以下の兵力に縮小されてしまいました。
一方はモルドバに、もう一方はウクライナに囲まれたOGRFは老朽化した車両群を更新できないままでいます。なぜならば、2014年にウクライナがロシアの軍用輸送機の自国領通過を禁止し、その1年後には以前にロシアに許可されていたそれらの条約を正式に破棄したからです。これは、OGRFが「BTR-60」装甲兵員輸送車(APC)、「BRDM-2」偵察車、「MT-LB」汎用軽装甲牽引車といった、ロシア本国ではほとんど退役したAFVに今後も依存し続けることを意味します。
沿ドニエストル軍も同様に少数の「MT-LB」を運用し続けており、ごく最近の例であれば2020年9月に「首都」ティラスポリの街中をパレードした様子が確認されています。[3]
しかし、大規模な数の「MT-LB」砲兵牽引車は運用上の必要性がほとんどなく、現在ではその大部分が保管庫で放置されているか、OGRFへ譲渡されているようです。また、DIY式自走対空砲に改修された「MT-LB」群はすでにOGRFが所有していたものであり、最近になって新用途に活用されたという可能性も考えられます。
沿ドニエストル軍とOGRFが実際に使用できるMT-LBの数は不明のままですが、より多くの車両を改修するには十分な数が存在する可能性は高いと思われます。
1992年のトランスニストリア戦争では砲兵用牽引車という本来の役割は余剰気味で、いくらかの「MT-LB」すでに両軍で即席の装甲戦闘車両として使用されており、大抵は兵員/貨物区画の直上に「ZPU-2」14.5mm対空機関砲や「ZU-23」23mm対空機関砲が搭載されていました。
非常に薄い装甲しか備わってなかったことから、これらの簡易AFVは1992年の戦争で多用されたRPG(対戦車擲弾発射機)や対戦車砲の恰好の餌食となってしまったものの、ベンデルなどでの市街戦では有効活用されました。
おそらく1992年の戦争で得た有用な経験の結果として、沿ドニエストルの軍隊はAFVの数を強化するため、その約20年後に再び各種AFVのプラットフォームとして「MT-LB」に目を向けたのかもしれません。
「MT-LB」は今や外付けの対空砲が備え付けられているのではなく、2門の「NSV」12.7mm機関銃を装備した専用の銃塔が搭載されています。
双連の重機関銃塔に加え、この改修型「MT-LB」は通常型と同様に、車体側面と後部に合計4基の銃眼、車体前部に1門の「PKT」7.62mm軽機関銃を装備した小型銃塔が備えられていることも特徴です。このAFVは小火器による射撃や爆発の破片に耐えうる防御力も有しています(注:ただし、必要最低限のレベルの装甲であることは先述のとおりです)。
DIY式自走対空砲の銃塔は有効射界を広げるために文字どおり塔に搭載され、その結果として「MT-LB」の投影面積が大幅に増加したことは一目瞭然でしょう。
銃塔は現地で設計されたものと思われますが、その見た目はロシアの「Muromteplovoz」社が「BTR」や「MT-LB」系統のAFVに搭載するために開発した「BTR-80」ベースの「MA9」銃塔に酷似しています。
「MA9」も12.7mm重機関銃を2門装備していますが、重機関銃自体は「NSV」よりも新しい「コルド」です。ロシアやウクライナの軍隊では「BRDM-2」や「BTR」の銃塔を搭載した同様の火力向上型「MT-LB」を運用しており、ウクライナの戦場でも活躍する姿が目撃されています。[5] [6]
沿ドニエストルDIY式銃塔は「KPV」14.5mm重機関銃と7.62mm軽機関銃を装備した「BTR-70」の銃塔をベースに改修を加えたものです。 |
ロシアの「Muromteplovoz」社が「BTR-80」の銃塔をベースに開発した「MA9」はまだ販売実績がありません。 |
銃塔と(一部車両に)泥よけを追加したことを除けば、基本的には設計自体に全く変更が加えられていないように見えます。車体後部の油圧式ドーザーブレード用のアクチュエーターはそのまま残されているため、改修前と同様に「MT-LB」本来の目的である多目的用途で使用可能です。
当分の間、沿ドニエストル軍もOGRFも旧式AFVのストックを置き換える新しい装備を手に入れることができないため、この未承認国家は今後もDIY兵器の温床となり続けるかもしれません。
少なくとも8台の「GMZ-3」地雷敷設車の「BTRG-127 "バンブルビー"」APCへの設計と改造、そして「プリボール-2」多連装ロケット砲の生産は、沿ドニエストルの技術者が(おそらくロシアの援助を受けて)国産の代替品をある程度提供するのに確実に手際が良いことを示しています。
[1] Attack On Europe: Documenting Russian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-equipment.html
[2] https://youtu.be/_asTzuOXVks
[3] The Victory Day Parade That Everyone Forgot https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/transnistria-shows-off-military.html
[4] Башенная установка МА9 https://muromteplovoz.ru/product/mil_cs_ma9.php
[5] https://twitter.com/LostWeapons/status/1272104995383472128
[6] https://twitter.com/oryxspioenkop/status/1500263763064336384
この記事の作成にあたり、Ilya.A.氏に感謝を申し上げます。
※ この記事は、2022年6月7日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
ます。
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