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2025年7月26日土曜日

シュート&スクート: アルメニアの軽量型多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年7月30日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 2020年ナゴルノ・カラバフ戦争において、アルメニア軍の砲兵部隊とロケット砲部隊ほど深刻な損失を被った兵科はなかったでしょう。彼らをカバーするはずだった防空網がドローンを無力化できなかったため、見渡しの良い陣地にある榴弾砲と多連装ロケット発射砲(MRL)が上空を飛行する「バイラクタルTB2」に完全に無防備な状態となり、(視覚的に確認できるものだけでも)152門の大砲と71基のMRLが破壊されてしまったからです。[1]

 アルメニア軍が放棄した後にアゼルバイジャン軍によって鹵獲された105門の大砲を加えると、アルメニアはこの戦争で砲兵戦力の大部分を喪失し、MRLに至っては保有数の約2/3に相当する損失を被りました。 [1]

 アルメニアの深刻な不足状態にあるMRLのストックについて、ロシアが代替品の供給を通じて部分的に補充した可能性はありますが、今後の紛争では2020年の戦争で発生した事態が繰り返されることは確実であり、とどまるところを知らないドローン戦の影響を少なくとも部分的に抑制させるためには、全く新しい戦術が必要不可欠です。

 このような戦術の転換を示す最初の兆候は、2021年6月下旬にアルメニアの道路で確認された新型MRLです。[2]

 トヨタ「ハイラックス」に搭載された8連装の122mm MRLから構成されるこの新型MRLシステムは、火力を犠牲とする代わりに機動性と小型化を重視したものであり、武装無人機に対する脆弱性を低減させる可能性があるでしょう。

 このようなMRL自体は特に目新しいものではありません。というのも、小型かつ機動性のある状態で遠方の目標を打撃する能力を持つMRLを自軍に装備させるために、他国も同様のシステムを採用しているからです。しかし、アルメニアがこのようなシステムへ関心を示したのは、大型MRLの弱点を実際に目撃した後だったようです。アルメニアのMRLの大半は、前線後方にある陣地から射撃任務中に標的とされました。これらの陣地は砲撃などに対しては十分な防護力を発揮しましたが、武装無人機に対しては完全に無防備でした。アルメニアの兵士が一部の「BM-21」を木の枝や葉で擬装し始めたものの、いざ隠れ家から出て射撃を開始すると目立ってしまい、最終的には逆に攻撃されてしまったのです。

アルメニア軍の「BM-21」:画像は「バイラクタルTB2」の「MAM-L」誘導爆弾が命中する直前の様子。

右側の茂みから出てきた擬装を施されたアルメニアの「BM-21」:木や茂みの下に退避していても、こうしたMRLが搭載する大型エンジンの熱放射は、上空を飛行する「バイラクタルTB2」に自身の位置を探知される可能性を大幅に上げた。

 2020年ナゴルノ・カラバフ戦争では「BM-21」が陣地に固定配置されていたのに対し、新型MRLはロケット弾を発射後、速やかに新たな射撃位置や再装填位置、あるいは上空を飛ぶドローンの探知から逃れるためのガレージや小さな建物に設けられた隠れ家に移動することができます。

 見通しの良い場所で発見された場合でも、そのコンパクトなサイズと熱放射量の少なさのおかげで、(特に発射装置を隠蔽する措置を講じれば)即座の探知を回避できる可能性があります。トヨタ「ハイラックス」の速度、優れたオフロード性能、コンパクトなサイズは、このような戦術に最適な存在と言えるでしょう。

 このような策は、敵がアルメニアの砲兵とMRLを無力化しようとする試みを著しく困難なものにさせるでしょう。各MRLが敵に発射できるロケット弾の数は「BM-21」に比べてはるかに少ないものの、トヨタ「ハイラックス」をベースにした新型MRLは無人機戦でもたらされる猛攻撃から生き残る個体が多いと見込めるため、より長く戦闘を継続できる可能性があります。こうした新戦術が、目標に対して大きな効果を発揮する可能性はあるものの、空中の脅威に対して極めて脆弱で非対称戦では間違いなく効果を失うだろう高コストな大規模な砲兵戦術の重要性を低下させるかもしれません。

 新型MRLと同様のシステムの評判の高さについては、リビア、シリア、イエメン、スーダンなどで大規模に使用されていることで既に証明されています。アルメニアに同種のシステムが登場したことは、この国が現時点で保有する限られた軍備を最大限活用しようとする過去の取り組みを考慮すれば予測可能だったかもしれません。

 しかしながら、この新型が実際に配備されるかどうかは依然として不明です。多くの他の有望な国産装備と同様に、新型MRLも資金不足に直面して試作段階で頓挫する可能性も否定できません。それでも、アルメニアが置かれた状況を考慮すれば、こうした兵器の生産は合理的な選択と言えます。こうした状況を踏まえると、MRLの探知と無力化という面での優位性を維持させるために、アゼルバイジャンが無人機技術への投資を拡大せざるを得なくなるという懸念が出てきますが、長い目で注視していく必要があることは言うまでもありません。

ArmHighTech-2022で展示された「SMLRS」

 編訳者による追記①:2022年にエレバンで開催された武器展示会「ArmHighTech-2022」では、この新型MRLが「SMRLS(小型多連装ロケット砲)」という名で展示されました。掲示物には、「BM-21」で使用するロケット弾を使用するもので、自動射撃管制システムや車体安定システム、無線システムを搭載しているとの説明がありました。この展示会は2022年以降開催されておらず、その他を調べても「SMRLS」が試作段階なのか軍に採用されたのかは不明のままとなっています。

 編訳者による追記②:2026年5月に実施された軍事パレードで、「SMRLS」が大量に登場しました。これをもって軍に正式採用されたことが確認されたわけですが、発射機の左横に(発射管ではない)詳細不明の棒が突き出ているなど変化が見られます。また、発射機を搭載している車両がインドのタタ製「Lapta」トラックに変更されました。2020年の戦争前から始まっていたインドとの軍事協力の深化の象徴と言えるでしょう。


左端の物体はアンテナにも見える

2025年に改訂・分冊版が発売予定です(英語版)


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2024年8月25日日曜日

かつての夢をもう一度:タイの「DTI-1」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 当記事は2023年1月13日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事であり、意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 1990年代半ばから後半は、タイ王国軍にとって「黄金の10年」を迎えようとしていた時期でした。18機の「F-16A」戦闘機の導入はタイ空軍をこの地域における軍事航空分野の先頭へと押し出し、陸軍は「M60A3」戦車「M109A5」155mm自走榴弾砲が追加されることによって増強されたのです。

 この黄金期で最もその恩恵を受けたのはタイ海軍であり、東南アジア初にして唯一の空母である「チャクリ・ナルエベト」を導入するに至ったことはよく知られています。6機の「AV-8S "マタドール"」艦上攻撃機と4機の「S-70B "シーホーク"」対潜ヘリコプターを搭載したこの空母は、18機の「A-7E "コルセア"」攻撃機と3機の「P-3T」対潜哨戒機、そして中国から調達した新型補給艦と6隻のフリゲートとともに、タイ海軍を今後数年間にわたってこの地域で最強の海軍に変えるはずでした。

 しかし、1997年のアジア通貨危機によって生じた大規模な通貨下落はタイが新たに導入した戦力に近隣諸国が対抗できる状態でなくなったことを意味したほか、タイ自身も財源不足で新たな装備の維持や更新に苦労することにさせてしまったのです。こうした状況のため、納入から2年後の時点で、9機の「AV-8S」のうち稼働状態にあったのは僅か1機だけとなってしまいました。
 
 程なくして「マタドール」は後継機を待つ余裕もないまま退役することを余儀なくされ、「チャクリ・ナルベト」は専用の艦載機を持たない空母となりました(この悲惨な状況は今日まで続いています)。「A-7E」や「P-3T」も同じ運命を辿り、誰もが認める地域大国になろうというタイの挑戦は長く続くことなく終わりを迎えたのでした。

 ここ最近になって、タイは近隣諸国を凌駕するような戦力の拡大を図るために必要な財源を得ましたが、他の分野では単に地域内のライバルに追いついたにすぎません。実際、タイは1930年代に東南アジアで初めて潜水艦を運用した後、中国から「S26T」級攻撃型潜水艦1隻という形で潜水艦戦力を(再)導入する(東南アジアで)ほぼ最後の国なのです。[1]

 タイ軍で著しく発展の歩みを見せたものには長距離砲兵戦力があります。これは2011年にタイの国防技術研究所(DTI)と中国との間で、大口径ロケット砲の研究と(最終的には)国内でライセンス生産を実施する契約を締結したことによる賜物です。[2]

 この締結の対象は「WS-1B(最大射程:180km)」「WS-32(最大射程:140km)」の2種類であり、タイではそれぞれが「DTI-1」と「DTI-1G(注:Gは誘導を意味する)」と命名されました。また、DTIは中国の122mmロケット砲の生産とさらなる開発に関するライセンス契約も締結し、これは「DTI-2」としてトラック「85式装甲兵員輸送車」に搭載されています

 フランスの「カエサル」155mm自走榴弾砲と一緒に、ローカライズされた(タイでは「M758」ATMGと呼称されている)イスラエルの「ATMOS 2000」自走榴弾砲と「スピアー」120mm迫撃砲の調達、そして中国の「BL904A」対砲探知レーダーの導入によって、タイは今後数年間にわたって地域における砲兵戦力の優位を確保できるでしょう。[3] [4] [5]

「DTI-1」を搭載する「6x6」型ボルボ製トラックには、小火器の射撃や砲弾の破片から乗員を保護する装甲キャビンが設けられている

 「DTI-1(WS-1B)」は1990年台初頭に登場した「WS-1」をベースに開発された302mm戦術ロケット砲システムです。各ロケット弾には4つの固定翼があり、150kgの弾頭を最大180km圏内の標的に投射することができます。「WS-1B」は中国人民解放軍地上軍(PLAGF)に対して最初の実演が行われたものの、彼らはこのシステムに関心を示すことはありませんでした。

 同システムが最初に成功したのは1996年のことでした。このとき、トルコがアメリカから「MGM-140 "ATACMS"」の生産ライセンスの売却を拒否された後に「WS-1B」を「TRG-300 "カシルガ"」としてライセンス生産する協定を締結したのです。

 ちなみに、「WS-1B」は2000年代により高性能な「WS-2」と共にスーダンにも輸出されました。

 その後、トルコの「ロケットサン」社はGPS/INS誘導を備えた「WS-1B(ブロックII及びブロックIII)」を開発しましたが、その代償として(ブロックIIIでは)射程距離と弾頭重量が犠牲となりました。[6]

 150kmの射程を誇るタイの「DTI-1G」には、中国の北斗衛星測位システムとリンクした誘導装置がインテグレートされており、これによって同システムは最大140kmの射程距離で40m未満の半数必中界(CEP)の実現が可能となっています。[8]

 「DTI-1G」の発射機には、アメリカの「MIM-104 "パトリオット" 」地対空ミサイルシステムのものに酷似した計4本の箱型キャニスターが縦横2列に搭載されています。これとは対照的に、「DTI-1」のロケット弾は蓋が備えられていない4本の巨大な発射管に格納されています。

 当初、タイは「DTI-1G」を6基(1個大隊分)と「DTI-1」を2基製造する予定だったものの、計画の遅延でDTIは結局は3基の「DTI-1G」を製造しただけであり、今は最終的にタイ陸軍が相当な数を導入することになるだろう新型モジュラー式発射機の開発完了を待っています。[8]

タイ独自の「DTI-1」移動式発射機 

提示されたタイの「DTI-1G」大隊の編成図

 「DTI-1」と「DTI-1G」の発射機は、どちらも市販のトラックに搭載されています。

 当初、「DTI-1」と専用の移動式再装填システムは非装甲のボルボ「6x6」型をベースにしていたものの、後に前者は小火器の射撃や砲弾の破片から乗員を守るためにキャビンが装甲化されました。

 「DTI-1G」用の車体は「8x8」大型トラックのイヴェコ製「トラッカー440」をベースにしたものですが、当初から装甲キャビンが設けられています。ただし、「DTI-1」と「DTI-1G」用の再装填車両はいずれも装甲キャビンが設けられていません。

 2022年、DTIは122mm無誘導ロケット弾と「DTI-1(G)」の両方の発射が可能な「タトラ815-7」をベースにした新たな「6x6」型移動式発射機を披露しました。[9]



 この国が最後に武器を取ったのは2008年の国境におけるカンボジアとの小規模な武力衝突であり、その後、この問題は国際司法裁判所を通じて解決されました。

 しかし、カンボジアとの間には未解決の国境紛争がいくらか残っており、両国が満足できる完全な国境の画定は未だに行われていません。再発する可能性は極めて低いものの、次にあるかもしれないカンボジアとの武力紛争は、新型ロケット砲が投入される可能性が最も高いシナリオです。

 カンボジア軍は大量の122mm多連装ロケット砲(MRL)を保有しているほか、近年には中国から「AR2」 300mm MRLを6基導入しました。[12]

 130km超の射程距離を誇る「AR2」はタイの「DTI-1」とほぼ同じ射程距離16発の300mmロケット弾を発射できる上に、はるかに重い弾頭を搭載しています(280kg vs 150kg)。こうした能力の向上は、新千年紀の軍事的な様相を変えたロケット砲の進歩を示す実例と言えるでしょう。

カンボジア軍の「AR2」300mm MRL

 タイはアメリカ製兵器の古くからの顧客であるにもかかわらず、防衛上の必要性から次第に中国へ目を向けるようになってきており、近年に導入された中国製兵器には、「VT4」戦車と「VN16」水陸両用戦車、「VN1」歩兵戦闘車、「S-26T」攻撃型潜水艦、「071E」級揚陸艦、そして「CY-9」及び「BZK005」MALE型U(C)AVが含まれています。

 中国との協力は、これまでタイに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式MRLを含む多くの高度な兵器システムを同時にライセンス生産することを可能にさせました。こうした契約は他国との間では実現不可能だったでしょう。

 中国の寛大さが、かつて抱かれていた東南アジアの"虎"になるというタイの野望の少なくとも一部を復活させ、その地位を維持するという、今度こそより現実的な見通しを可能にしたことは言うまでもありません。

「DTI-1(G)」及び122mmロケット弾の双方を発射可能な新型のモジュラー式移動発射機

[1] History of Royal Thai Submarines in World War Two http://www.combinedfleet.com/Royal%20Thai%20Submarines.htm
[2] Army of Thailand could purchase WS-1B and WS-32 MLRS rocket launcher systems from China https://www.armyrecognition.com/march_2014_global_defense_security_news_uk/army_of_thailand_could_purchase_ws-1b_and_ws-32_mlrs_rocket_launcher_systems_from_china_3103145.html
[3] Thailand inducts Chinese artillery radar https://www.shephardmedia.com/news/digital-battlespace/thailand-inducts-chinese-radar/
[4] Thailand Unveils New 155 mm Truck Mounted Howitzer https://defence-blog.com/thailand-unveils-new-155-mm-truck-mounted-howitzer/
[5] Royal Thai Army Producing Its Artillery https://www.asianmilitaryreview.com/2022/10/royal-thai-army-producing-its-artillery/
[6] TRG-300 GUIDED MISSILE https://www.roketsan.com.tr/uploads/docs/kataloglar/ENG/1628728014_trg-300.pdf
[7] WS-32 https://www.cndefense.com/tgaws/WS-32.html
[8] สทป. ดำเนินการทดสอบสมรรถนะและทดสอบทางยุทธวิธีต้นแบบรถฐานยิงจรวดหลายลำกล้องอเนกประสงค์ ณ สนามทดสอบ ศป. จ.ลพบุรี https://www.facebook.com/dtithailand/posts/pfbid022
[9] https://twitter.com/BuschModelar/status/1530870779977646083



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2024年7月26日金曜日

トルコからの新しい風:バングラデシュ軍の「TRG-300」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2022年10月19日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 バングラデシュは1億6,800万人以上の人口を誇る世界で8番目に人口の多い国であることは見過ごされがちと言っても過言ではありません 。この国の軍隊は225,000人もの兵力を有しており、彼らは世界各地で平和維持活動にも頻繁に派遣されるものの、長射程の兵器や現代的な戦闘機が著しく不足しています。

 2009年に始動した軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」は、隣国のミャンマーがすでに軍事力の大幅な飛躍的発展を遂げつつあることから、こうした新しい戦力の導入を目指したものです。

 「Forces Goal 2030」の一環として、バングラデシュ陸軍は、「WS-22」122mm多連装ロケット砲49基、セルビア製「ノーラ"B-52"」152mm自走榴弾砲(SPG)36台、中国製「SLC-2」対砲レーダー、標的獲得用としてスロベニア製「C4EYE」戦術偵察UAV36機の購入を通じて砲兵戦力の火力向上に重点を置いています。

 2021年、バングラデシュはこれまでの中で最も強力な兵器システムである最大射程約120kmの「TRG-300 "カスルガ(別名:タイガー)"」MRLを受領しました。ちなみに、「WS-22」MRLの射程は約45kmです。

 合計で18基の「TRG-300」MRLは、ダッカ近郊のシャバール駐屯地を拠点とするバングラデシュ陸軍の第51MRLS連隊に配備されました。同連隊は「WS-22」122mm MRLも運用しており、こちらは40発の122mmロケット弾を発射可能な状態であるほかに、さらに40発の予備弾をトラックに搭載していることが特徴です。「WS-22」用122mmロケット弾は慣性誘導を採用しているため、半数必中界(CEP)が約30mと通常の「グラート」122mm MRLが使用するロケット弾より精度が高いものとなっています。

 (厳密な起源は中国にありますが)トルコの「TRG-300」は4発の300mmロケット弾を120km(105kg弾頭)または90km(190kg弾頭)先まで発射することが可能で、そのCEPは10m未満です。

 「TRG-300」は、この国がトルコから調達した初の軍用装備ではありません。現在、バングラデシュ陸軍は2000年代から2010年代にかけて導入した「オトカ」社の「コブラI」及び「コブラII」歩兵機動車(IMV)を運用しています(これらは数多くの平和維持活動に投入されてきました)。

 また、バングラデシュでは、救急搬送車としてルーマニア・トルコが共同開発した「RN-94」APCも9台を運用しています。[1]

 現時点で「STM」社の案がバングラデシュの将来フリゲート計画における最有力候補となっていることを考慮すると、バングラデシュへの武器や装備の供給元としてトルコのシェアは拡大する傾向にあるようです。

 実際、バングラデシュがトルコの「バイラクタルTB2」UCAVや「ヒサール-O」地対空ミサイルシステムにも関心を寄せていると云われていることが、その傾向を裏付けしています。[2] [3]

トルコのエミネ・エルドアン大統領夫人が「ロケットサン」社を訪問した際に「TRG-300」を視察した:後ろに「ボラ」弾道ミサイルシステムの試作型があることに注目

 バングラデシュは、「TRG-300」の搭載車両としてロシアの「カマズ-65224」6×6型トラックを採用しています。

 「TRG-300」の自走発射機はモジュール式であることから、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで同じ発射機で122mmや230mmの(誘導式を含む)ロケット弾の発射に使用することも可能です。これによって、このシステムの運用に関する柔軟性が大幅に向上する効果がもたらされます。また、「TRLG-122/230」誘導式ロケット弾は、レーザー目標指示装置を搭載したUAVが指定した目標に命中させることが可能という利点も有しています。

 つまり、ドローンとの相乗効果が「TRG-300」によって既に与えられている能力を大幅に拡大してくれるだけではなく、このMRLは新たな自走発射機の調達を必要とせずにバングラデシュの戦力をさらに向上させる費用対効果の優れた兵器システムとなり得るのです。

 バングラデシュ以外の「TRG-300」運用国としては、トルコとアゼルバイジャン、そしてUAEが確認されています。アゼルバイジャンとUAEは武力紛争で同MRLを投入しており、前者は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で「TRG-230」誘導式MRLと共にアルメニアの強固に防御された陣地や敵陣奥深くにいる標的に対して使用し、後者はサウジアラビア主導のイエメン介入時に展開させました。

 アゼルバイジャンの「TRG-300」は搭載車両としてバングラデシュと同じようにロシア製「カマズ-63502」8×8型トラックを採用しています。しかし、UAEは「TRG-300」を最大で16発も搭載できる巨大な「ジョバリア」MRLシステムにインテグレートするという、全く別の手法を選択したことは特筆に値するとしか言いようがありません。

国内に到着した直後に撮影されたバングラデシュ軍の「TRG-300」MRL

 「TRG-300」の導入は、バングラデシュが軍の長距離砲兵戦力を構築するための第一歩を踏み出したことを象徴しています。

「TRLG-122」や「TRLG-230」用の発射機を追加調達することなく使用可能にしている 「TRG-300」のモジュラー方式が自身を予算内で実現可能な範囲を多様化する最適な選択肢にさせていることを見過ごすわけにはいきません。

 軍事作戦中におけるUAVとの潜在的な相乗効果は、十分い機能する軍隊にとって最も重要である偵察能力を導入することができると同時に、低コストで誘導式MRLが持つ能力をさらに引き出すことができる可能性を秘めています。

 もし、2個目の「TRG-300」連隊(18基分)創設という不確かな噂が本当ならば、「Forces Goal 2030」達成に関するバングラデシュ軍の見通しは急速に良い方向へ向かってることになることは確かだと言えるでしょう。

バングラデシュが調達したのと同じ6x6型モジュラー式自走発射機に「TRLG-122(左)」と「TRLG-230(右)」ロケット弾ポッドが搭載されている

[1] APCs For Export: The Nurol Ejder 6x6 In Georgia https://www.oryxspioenkop.com/2021/04/the-nurol-ejder-6x6-turkeys-first.html
[2] Bangladesh to buy Turkey's Bayraktar TB2 combat drone https://www.middleeasteye.net/news/bayraktar-bangladesh-buy-drones
[3] Bangladeş'in Hisar-O+ ile ilgilendiği iddia edildi https://www.savunmatr.com/savunma-sanayii/banglades-in-hisar-o-ile-ilgilendigi-iddia-edildi-h15926.html

2024年1月27日土曜日

抑止力の目覚め:近年におけるルーマニアの兵器調達リスト


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 ルーマニアは東欧のNATO加盟国で2番目に大きな軍隊を保有しているにもかかわらず、装備の大部分は冷戦時代のもので占められています。

 ただし、2014年のロシアによるクリミア占領を受けて、ルーマニアは軍事力の近代化を図るためのプロジェクトを数多く実施してきました。今までに調達した中で最も重要な装備としては、ポルトガルとノルウェーからの「F-16」戦闘機を49機、アメリカからの「パトリオット」地対空ミサイルシステムを7個中隊分と「M142 "ハイマース"」54台 、「M1A2」戦車54台、そしてイスラエルからの「ウォッチキーパーX」UCAVが挙げられます。

 これらの契約の一部には技術オフセット条項が含まれており、ルーマニア企業が下請け業者や部品サプライヤーとして不可欠な役割を果たすことを確実にするでしょう。 

 ルーマニア軍の近代化は、交渉の長期化と納期スケジュールの遅延を特徴とする大きな課題に直面しています。海軍用に計画された重要な装備の一部には4隻のコルベットがあり、ナバル・グループが率いるフランスとルーマニアの企業連合体が2019年に契約を勝ち取りました。ところが、3年も経過したにもかかわらず、ルーマニアとナバル・グループとの合意は未締結のままです。

 こうした障害を克服して装備の調達先を多様化するため、ルーマニアはポーランドに習って韓国などの他国との協力を模索しており、現在では韓国との間でさまざまな種類の高度な兵器システムの調達を確保するための交渉が進行中です。

 2023年4月、ルーマニアのクラウス・ヨハニス大統領はルーマニア軍の著しい発展を発表し、2023年から始まる「加速する近代化」プランのフェーズについて明らかにしました。この近代化フェーズは、ルーマニアのGDPの2.5%に相当する60億ユーロ(約9,540円)という巨額の予算によって支えられる予定です。

 特筆すべきは、この予算配分がNATOによって義務付けられている2%の基準を上回っていることでしょう。これは、ルーマニアが同盟の防衛基準に沿って軍事力を強化する取り組みに一層力を入れていることを示しています。 

  1. 以下に列挙した一覧は、ルーマニア陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、指揮車両、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。
  3. 「将来的な数量」は、すでに運用されている同種装備と将来に調達される装備の両方を含めたものを示しています。
  4. 中期近代化改修(MLU)については、当該兵器の運用能力の向上に寄与する場合にのみ掲載してます。
  5. この一覧は新しい兵器類の調達が報じられた場合に更新される予定です。


陸軍 - Forțele Terestre Române

戦車 (将来的な数量: 326)

歩兵戦闘車 (将来的な数量: ~600)

水陸両用強襲輸送車 (将来的な数量: 21)

特殊車両
  • 80 モワク「ピラーニャV」の派生型 (指揮車, CBRN偵察車, 回収車,救急搬送車) [納入中]

歩兵機動車・戦術車

火砲・多連装ロケット砲 (将来的な数量: 26 自走迫撃砲, ~200 自走砲, 100+ 多連装ロケット砲)

防空システム(将来的な数量: 3個中隊 と 大量の発射機)

無人戦闘航空機 (将来的な数量: 18)


空軍 - Forțele Aeriene Române

戦闘機 (将来的な数量: 48)
  • 32 F-16A [ 2023年以降に納入] (既存の「F-16A」17機を補完するもの)
  • 48 F-35A [調達を検討] (最終的に「F-16A」を更新するもの)

無人戦闘航空機(将来的な数量: 21)

防空システム (将来的な数量: 4 「パトリオット」中隊 と 8 「ホーク」中隊)



海軍 - Forțele Navale Române

コルベット(将来的な数量: 4)
  • 4 コルベットの導入計画 [調達を検討]

ミサイル艇 (F将来的な数量: 3)
  • 3 「プロジェクト 1241.RE "タランタル"」級の中期近代化改修(対艦巡航ミサイル,三次元レーダー, 戦闘管理システムが対象) [2020年代半ばから後半までに完了]

潜水艦 (将来的な数量: 2)

掃海艇 (将来的な数量: ~7)

沿岸防衛ミサイルシステム (将来的な数量: 2個中隊)