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2023年11月23日木曜日

新たなる抑止力: パキスタンの「ファター」多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

2021年8月24日、パキスタンは新たに開発された「ファター-1」誘導式多連装ロケット砲(MRL)の発射実験に成功しました。[1]

 今回の試射(映像)は、2021年1月に実施された弾体の飛行試験の成功に続くものですが、現実的な状況下でその機能と精度を証明した今回の射撃は、このシステムが量産されてパキスタン軍に仲間入りする前の最終テストだったのかもしれません。

 「ファター-1」はこの種の兵器では初めてパキスタン軍に採用されたものであり、同軍の精密打撃能力を大幅に向上させるでしょう。これはパキスタン軍自身によっても再確認されており、「この兵器システムは、パキスタン陸軍に敵領土の奥深くにある目標との正確な交戦能力を与えるだろう」と言及されています。[2]

 「ファター-1」は140kmの射程距離で約30~50mのCEP(半数必中界)と推測されているため、誘導方式には慣性誘導とGPS誘導を採用している可能性があります。

 パキスタンと中国の緊密な軍事関係を考慮すると、このMRLの設計が中国由来と考えるのも無理はありません。それにもかかわらず、ロケット弾用のキャニスターと140kmという射程距離は現時点で市場に存在しているか開発中である既知の中国製システムとは一致していないことから、「ファター-1」はパキスタンの技術者によって(おそらく中国の協力を得て)開発された、「A-100」無誘導ロケット砲の発展型である可能性が十分に考えられます。

 パキスタンは通常または核弾頭を搭載できる弾道ミサイルや巡航ミサイルを数多く開発・導入してきましたが、「ファター-1」の開発は同国陸軍の通常戦力を強化するための理にかなった次の措置と言えます。敵の部隊や基地に集中砲火を浴びせるための無誘導型MRLシステムが大量に運用されている一方で、指揮所や要塞化された陣地のようなより小さな標的を狙うには、まったく異なるアプローチが必要となるからです。

 「ファター-1」の140kmという射程距離は、世界中で運用されている(大抵は最低でも200km以上の射程距離がある)同世代のMRLシステムをはるかに下回っていますが、それでもインドの誘導型MRLシステムの射程距離をはるかに上回っています。

 インド陸軍が現在運用している「ピナカ」MRLは、最大で75kmの射程距離を持つ誘導ロケット弾を発射する能力があります。このMRLでは最大射程距離が95km以上に達する発展型が開発中とも言われていますが、それでも「ファター-1」の射程距離には全く及びません。[3][4]

 一旦就役すれば、「ファター-1」はパキスタン陸軍の作戦上の柔軟性を高めることに貢献するでしょう。同国陸軍では大量の大口径の無誘導型MRLと短距離弾道ミサイル(SRBM)が運用されていますが、「ファター-1」は能力的に両システムの中間に位置しています。

 これまでパキスタン軍は長距離に位置する小さな標的を攻撃するために無誘導ロケット弾の一斉射撃や巡航ミサイル、そして弾道ミサイルに完全に依存していました。しかし、この方法では得られる効果が少なく、同時に非経済的であることを想像するのは難しいことではないでしょう。

パキスタンの「A-100」MRL。「ファター-1」には誘導装置が組み込まれているため、無誘導のMRLシステムよりもはるかに高い命中精度をもたらします。

「ハトフ-2(アブダリ)」のような戦術兵器システム・短距離弾道ミサイルは「ファター-1」に比べて弾頭重量が大きいものの、命中精度が低いのが特徴です。この2つのシステムがパキスタン陸軍に存在することで、作戦上の柔軟性が大幅に向上します。

 将来的に開発が見込まれるものとしては、「ファター」のロケット弾をU(C)AVが照準した標的に命中させることできる精密誘導弾に変えるためのレーザー誘導キットを導入することが考えられます。この種のキットはすでにトルコとアゼルバイジャンの「TRG-230」MRLに導入されており、UAVとMRLの両方の能力を大幅に向上させています。

 まさにこの種の(UAVによる)偵察と精密誘導弾の相乗効果がナゴルノ・カラバフ戦争でゲームチェンジャーとなったことを証明しており、アゼルバイジャン軍はアルメニアの標的に何が直撃するのか気づかれることなく攻撃することができたのです。


 「ファター-1」の導入は、パキスタンの従来型ロケット砲部隊の一部がすぐにインドの全MRLを高精度でアウトレンジできるようになることを意味します。このことは、この地域における通常戦力のバランスをすでにパキスタンの有利になるように著しく覆していますが、パキスタンは「ファター」シリーズの開発の継続を通じてその射程距離を伸ばすことでその地位をさらに固めることができるでしょう。

 実際、パキスタンでは少なくとも200km以上の射程距離を備えている可能性がある、新システムの開発がすでに本格化している兆候がいくつか存在しているようです。

 編訳者注:2023年7月下旬にイスタンブールで開催された武器展示会「IDEX2023」で、出展したメーカーのGIDS社が「ファター-1」と「ファター-2」を展示しました。前者については上述のスペックどおりですが、後者については詳細不明です。[5]


特別協力: ファルーク・バヒー氏

[1] https://twitter.com/OfficialDGISPR/status/1430132439859580929
[2] Pakistan conducts successful test of 'indigenously developed' Fatah-1 guided MLRS: ISPR https://www.dawn.com/news/1642376
[3] No request for the development of Extended range Pinaka MRLs https://idrw.org/no-request-for-the-development-of-extended-range-pinaka-mrls-sources/
[4] India tests enhanced version of rocket used by Pinaka MRL
[5]IDEF 2023: GIDS Pakistan Presents Various Equipment Including FATAH Guided Multi Launch Rocket System
https://www.armyrecognition.com/defense_news_august_2023_global_security_army_industry/idef_2023_gids_pakistan_presents_various_equipment_including_fatah_guided_multi_launch_rocket_system.html

※  当記事は、2021年9月8日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ 
    ります。



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2023年10月28日土曜日

戦友から敵へ:エチオピアの中国製「AR2」多連装ロケット砲

 著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ編訳:Tarao Goo

 2010年代は、エチオピア国防軍(ENDF)にとって大きな変動の時期でした。 

 この10年以内に、冷戦時代の老朽化した兵器は徐々に退役し(場合によってはアップグレードされ)、より近代的な装備に置き換えられていったのです。これは単に旧式のシステムをそのまま代替する場合もありましたが、ENDFは大口径の多連装ロケット砲、誘導ロケット弾、短距離弾道ミサイル(SRBM)の導入を通じて全く新しい戦力を導入しようと試みました。

 新たに導入した兵器のいくつかは、ENDFの近代化への取り組みを誇示するために報道や武器展示会で大きく取り上げられるものもありましたが、強力な運用保全(OPSEC)規則に沿って、意図的にスポットライトから外された兵器もありました。おそらく、それらは無防備な敵に火力を解き放つことができるその日までサプライズとして秘匿されていたのかもしれません。

 その兵器の一つが「AR2」300mm 多連装ロケット砲(MRL)であり、その多くは2010年代後半にエチオピアが中国から購入したものです。

 「M20」SRBM・「A200」誘導ロケットシステムと共に「AR2」を導入したことは、ENDFに近隣諸国がかき集めることができた同種装備よりも明確な優位性をもたらしました。

 サハラ以南のアフリカで大口径MRLの導入が確認されている国は、多数の北朝鮮製「M-1989」240mm MRLを運用しているアンゴラ、現在イラン製システムと中国の「WS-1B」及び「WS-2」MRLを運用しているスーダン、そして「AR2」の競合システムで同様の300mmロケット弾を使用する「A100」MRLを調達したタンザニアだけです。

 2010年代にエチオピアに到着した後、「AR2」はエリトリアとの不安定な国境の近くにあるENDFの北部コマンドに配属されました。 

 当時はまだ予測できませんでしたが、これはエチオピアの最高司令部がすぐに後悔することになる決定でした。なぜならば、2020年11月にティグレ州で武力衝突が勃発すると、「AR2」はこの地域に点在するENDFの基地を制圧し始めた分離主義勢力の軍隊によって即座に鹵獲されてしまったからです。また、(おそらく彼ら自身がティグレ人であったと思われる)部隊の指揮官が、「AR2」とそれを運用する兵士を連れて直接分離主義勢力に直接加わった可能性もあります。

 経緯がどうであれ、結果的にティグレ防衛軍(TDF)は大口径のMRL、誘導ロケット弾、少なくとも射程距離が280kmもある弾道ミサイルを突如として掌握することに成功したのです。 

 「AR2」はすぐに元の持ち主に対して使用され、今やエチオピア軍は調達したばかりのシステムの破壊力を実感する側となってしまいました。

 この最初の衝撃を克服した後、ENDFは鹵獲されたシステムを発見・破壊するために貴重なリソースを割く必要があり、現在までに少なくとも1台の「AR2」と再装填用のロケット弾を積載した輸送車が後にティグレ中部のテケズで奪還・破壊されました。[1]

 残った別のシステムの運命については、現時点でも不明のままです。

 「AR2」は中国人民解放軍陸軍で大量に運用されている「PHL-03」MRLの輸出仕様です。
ソ連の「BM-30 "スメルチ"」の設計に基づいているため、「PHL-03」と「AR2」はロシアのものと同じ構成を維持しており、300mmロケット弾用の12本の発射管を万山(ワンシャン)製「WS2400」8x8重量級トラックに搭載しています。

 ただし、中国のロケット弾はソ連のものよりも射程距離が大幅に伸びており(130km対70km)、「AR2」にはGPS/北斗/グロナスを取り入れたデジタル式射撃統制システムも組み込まれています。ジャミングを受けない場合、このような誘導方式はMRLの命中精度を大幅に向上させることが可能なため、対砲兵戦や高価値の標的への攻撃に使用できる可能性をもたらすという点で本質的に新たなパラダイムを切り開きます。

 今までのところ、エチオピアとモロッコだけが「AR2」の輸出先として知られています。

 各発射機にロケット弾がない状態が長引かないように、「AR2」には12発の再装填用ロケット弾を積載した、専用の「8x8 WS2400」ベース及び「10x8(または10x10)WS2500」トランスポーターを伴っています。 

 「AR2」が現代のシステムに比べて大きな欠点となっているのは、単にロケット弾ポッド全体を一度に交換するのではなく、各発射管にロケット弾を一本ずつ装填しなければならないということです。これについては、前者の方が装填速度がはるかに速く、敵に次の斉射するまでの時間を短縮できるからです。


  全く皮肉なことに、ENDFが過去10年間に備蓄してきた高度な兵器の大半がかつての持ち主である自身に向けられているため、たとえ彼らがこの紛争で優位に立ったとしても、再び(鹵獲された兵器の)代替装備を探すことを余儀なくされるでしょう。

 その間にも、死傷者が積み重なり続けて北部の地域の大半が混乱状態にあるため、エチオピアは苦しみ続けています。

「AR2」の前で中国人インストラクターと一緒に並ぶエチオピアの乗員(エチオピアにて)

 [1] https://twitter.com/MapEthiopia/status/1352325064973189123

※  当記事は、2021年9月3日に「Oryx」本国版に投稿されたものを翻訳したもので。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。 

2023年10月21日土曜日

カダフィ大佐の遺産:死後から1年も残存し続けた大規模な砲兵戦力


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2011年末の第一次リビア内戦の終結以降、親カダフィ派組織的による組織的な反乱の噂が絶えません。しかし、2012年から2014年に発生した数々の攻撃や自動車爆弾によるテロを除くと、組織化された抵抗運動が実際に起きることはありませんでした。

 その代わり、カダフィ大佐の次男であるセイフ・アルイスラム・カダフィは政治的手段によって(かつて父親が手にしていた)権力を奪回することを目指しており、2021年11月に同年12月に実施されるリビア大統領選挙の候補者として届け出ようとしたものの、拒否されてしまいました。ところが、この決定は1か月足らずで覆され、彼は2023年のある時点で実施される予定の選挙で大統領候補として復活することになったのです。[1][2]

 2012年8月にトリポリで起きた一連の自動車爆弾によるテロ攻撃がなければ、この状況は変わっていたかもしれません。この爆弾テロに関する捜査によって、当局はトリポリ近郊のタルフーナにある軍備保管施設を掌握している民兵組織にたどり着きました。[3]

 2011年の革命以降に彼らがこの施設を管理していることは、政府の樹立と反政府武装勢力の武装解除に追われていた当局には気づかれていなかったようです。

 この「カティーバ・アル・アウフィヤ(信者旅団)」と呼ばれる民兵組織は、反カダフィ勢力を装いながらずっとカダフィ体制への復帰を画策することに成功していました。実際、この民兵組織は内部で「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」と呼ばれていたのです ![3]

 この旅団が管理していた軍備保管施設は単なる倉庫ではなく、数百もの野砲や自走砲(SPG)、多連装ロケット砲(MRL)、さらには「スカッド」弾道ミサイル発射機でさえも保管されているという、この種の施設としてはアフリカ最大級のものでした。  

 自動車爆弾テロや2012年6月に起きたトリポリ国際空港の一時的な占拠さえなければ、この施設における「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」の活動は、クーデターを引き起こすのに必要な戦力を構築するのに十分過ぎるほどの間にわたって気付かれなかった可能性があります。なぜならば、この施設にアルジェリア・エジプト・モロッコに次ぐアフリカで4番目に規模の大きな砲兵装備が保管されていたからです!

 同施設にあったロケット砲の多くは(1990年代に外国企業が退去した後の)少なくとも20年間はほとんど整備されずに保管されていたものの、保管庫と布製カバーがその大部分を良好な状態で維持することを可能にしたようです。2011年のNATOが主導するリビア介入時に有志連合軍の航空機が同施設に属する46の保管庫のうち40を攻撃し、保管されていた大砲の一部が損傷を受けました。

 それでも「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」は既に多くの火砲を使用可能な状態に修復したほか、共食い整備用として他のシステムから予備部品を調達し、さらに多くの火砲を修理している段階までいっていたようです。

複合施設で遭遇した「スカッド」ミサイル発射機の1つ。車体のエンブレムは「砲とミサイルに指示を」と書かれており、1999年の革命30周年記念閲兵式のために特別に施されたものである。

 「タルフーナ複合施設」は、もともと1970年代後半か1980年代前半に軍用装備の保管・修理・整備施設として建設されたものです。

 1970年代、カダフィ大佐はリビアを「イスラムの兵器庫」にするために大規模な兵器の買い占めに乗り出しました。この野心的な取り組みの一環として、彼は自国の軍隊が必要とする量をはるかに超える量の軍備を調達したわけです。

 入手した兵器システムの多くはリビアに到着後すぐに保管庫に入れられ、一部は後に中東・南米・アフリカの友好国(もちろん北朝鮮にも)に寄贈されましたが、残りは最初に到着した保管庫から外に出ることはありませんでした。実際、2011年に反政府軍がソクナの巨大な戦車保管施設を制圧した際、部隊に支給すらされていない無数の「T-55」戦車・「MTU-55」架橋戦車・「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)・「BTR-60PB」装甲兵員輸送車(APC)に遭遇しています

 こうした兵器は1970年代にアメリカやイスラエルとの世界的な戦争に参加するために購入されたものの、その来るべき出番がやってくることはありませんでした。その代わりとして、カダフィ大佐による42年にわたる統治を終わらせようとする反政府軍に動員されてしまったのです。

 この複合施設に保管されているSPGやMRLの多くが最後に運転されたのは、1999年にトリポリで行われた革命30周年記念の閲兵式に参加した時でした。「アフリカ合衆国」の発足を目指す取り組みを強化するため、カダフィ大佐はリビアが壊滅的な打撃がもたらされた10年にわたる制裁の後でも依然として侮れない国であることを世界に示すべく、リビア軍が導入したほぼ全種類の兵器を紹介する壮大な閲兵式を組織しました。[3]

 ただし、これらの大部分はこの時点でも長期保管の状態にあったことから、閲兵式のためにわざわざ再稼働させる必要があったことは言うまでもないでしょう。

 自身の民衆に感銘を与えようとするカダフィ大佐の試みは、リビア空軍に引退した「Tu-22」爆撃機を再稼働させて閲兵式の会場上空を飛行するよう命じるまでに至りました。10年以上も飛行していなかったこともあって飛行中の機体は激しく振動しましたが、その酷さはトリポリのミティガ空軍基地に着陸後のパイロットは地面にキスをして本拠地であるジュフラ基地への再飛行を拒否するほどだったようです。その後、この「Tu-22」はミティガに放棄されてしまいました。[5]

 閲兵式に参加した火砲やMRLはタルフーナへ送り返されて即座に再び保管状態に入り、リビアの軍隊を実際よりも強く見せるという役目を終えました。

2011年の有志連合軍によって破壊される前のタルフーナ軍備保管複合施設:この施設は2016年から2017年にかけて撤去された

 「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は複合施設にある一部の火砲を複合施設への入り口をカバーする固定式バンカーに変えようと試みたにもかかわらず、彼らの守りは最終的に敗れ、その場にいた民兵の殺害や逮捕に至りました。[3]

 「タルフーナ複合施設」から強制的に退去させられた後の旅団は事実上消滅し、こうしてジャマーヒリーヤの時代に回帰するという彼らの夢に終止符が打たれたのです。

複合施設の正面入り口をガードしていた「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲と「ZU-23」を搭載したトヨタ製テクニカル
複合施設を防備していた「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」に用いられていたテクニカルと北朝鮮の「BM-11」120mm MRL
46棟の保管庫のうちの1棟で見つかった「パルマリア」155mm自走榴弾砲:保管庫の屋根が有志連合軍の空爆で崩落している点に注意
すでに保管庫の外へ移動されていた十数台以上の「パルマリア」:リビアで最も新しい(装軌式)自走砲として、これらのほぼ全てが「リビアの夜明け(後のGNA)」によってリビア国民軍(LNA)やイスラム国の戦いで再び使用されることになる


「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲」:「2S1」は「パルマリア」と共に2011年のカダフィ政権軍で広く使用されていた唯一の自走砲だった

放置された4台の「2S3 "アカーツィヤ "」152mm自走砲:1990年代に大部分が退役した「2S3」は現在のリビアでも稀な存在となっている

「2S1」及び「2S3」中隊で用いられる「MT-LBu」指揮車両


チェコスロバキアの「SpGH "ダナ"」152mm自走榴弾砲 :これらは全てが1990年代に退役していた。理由は不明だが、リビアで最も高性能な自走砲であるにもかかわらず、どの勢力もDANAを運用可能な状態に戻そうとはしていない



チェコスロバキア製「RM-70」MRL:「DANA」と同様に1990年までにはほぼ全てが退役していた

 現役へ復帰させる試みはなされていませんが、「RM-70」のうち少なくとも1台はタルフーナでAPCに改造され、もう1台は即席のSAM/ロケット砲として使用されました。

この「RM-70」のドアに施されたインシグニアには「勝利か死か」の文字が書かれている

「RM-70」は40発分の発射管を装備しており、さらに40発の122mmロケット弾を再装填用として搭載することができた。

北朝鮮の「BM-11」MRL:リビアの「BM-11」のほとんどはポリサリオ戦線やスーダンなどの他国軍へ寄贈されたものの、リビアでも数台が運用され続けている。

2台の「BM-11」の隣には中国製「63式」100mm MRL(ありふれた「63式」107mm MRLと混同しないように注意)が停まっている(画像の左):興味深いことに、中央の「BM-11」は給水車に改造されている

牽引される「M-46」野砲の背後には、中国製の「63式」130mm MRLが破壊された保管庫の外に投棄されている:「63式」はリビアで非常に不評であり、使用された機会は極めて限られたものだったが、「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は、そのうちの数基を修復しようと試みた


見渡す限り「M-46」130mm野砲が並んでいる:この射程距離は「D-30」122mm榴弾砲より圧倒的に凌駕していたものの(27km対15km)、リビア軍は1990年代を通して「M-46」と北朝鮮の152mm野砲の両方を保管していた


数台の「スカッド」移動式発射機(ミサイルなし)もこの施設に存在していた

1969年のカダフィによるクーデター直前に、リビア軍は少数の「M109」155mm自走榴弾砲をアメリカから引き渡された:これらも46棟ある保管庫の1棟で遭遇した


リビア政府軍に持ち去られる戦利品たち:タルフーナ複合施設の発見と占領はカダフィ支持者が抱いたクーデターへの希望に終止符を打ったが、それは撮影された兵器たちの本格的な運用の始まりを告げたに過ぎなかった - 実際、その大半は今日まで使われ続けている。

[1] Libya election commission says Saif Gaddafi ineligible to run
[2] Libyan court reinstates Saif Gaddafi as presidential candidate https://www.aljazeera.com/news/2021/12/2/libya-court-reinstates-gaddafis-son-as-presidential-candidate
[3] Libya seizes tanks from pro-Gaddafi militia https://www.bbc.com/news/world-africa-19364536
[4] LIBYA. Military parade https://youtu.be/TIGehN-6JgU

※  当記事は、2023年1月3日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
  ります。



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2023年10月4日水曜日

現代の戦時急造兵器:シリアの「シャムス」多連装ロケット砲

著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ

 シリア・アラブ陸軍の機甲師団は、追加装甲でアップグレードされた数種類の戦車やほかの装甲戦闘車両(AFV)を運用していることでよく知られています。

 さまざまなAFVや支援車両に施した後、第1機甲師団(第1AD)は2016年に新型の多連装ロケット砲(MRL)を導入することで、その保有兵器のストックをもう一度拡充しました。このMRLは、アラビア語で太陽を意味する「シャムス」として広く知られています。そのニックネームは、ロシア軍がシリアに展開していた際に配備されたTOS-1A 「Solntsepyok」が「太陽」と呼ばれていたことに由来すると考えられています。

 この車両は、ダマスカスの戦域全体でAFVに施された高度で専門的なアップグレードの傾向を引き継いでいます。

 このようなアップグレードされた車両の最初のものは2014年末に登場し、この時には少なくとも2台の装甲が強化された(イタリアのTURMS-T火器管制システムを装備した)T-72M1が、ジョバルに配備された直後に破壊された姿が公開されました。しかし、この事態が第4ADに計画の推進を阻むことはなく、その後の数年間で数種類の装甲強化型AFVが戦場で目撃されるようになったのです。

 「シャムス」は、2発か5発の大口径ロケット弾を発射する機構とGAZ製SadkoトラックまたはBMP-1歩兵戦闘車(IFV)の車体を組み合わせた自走式MRLシステムです。

 このMRLに使用するロケット弾は標準的なロケット弾により大きな弾頭を組み合わせた評判の高い「ボルケーノ」型であり、2013年のアル・クサイルでの戦いの際に、直撃すれば住宅区画を完全に破壊できる威力があることで広く知られるようになりました。 

 シリアの軍需産業は同時期にこの「ボルケーノ」を大量生産し始め、即座にシリアにおけるほぼ全ての戦線で使用され始めました。

 BMP-1をベースにした「シャムス」はかなりの数の画像が撮影されていますが、実際に改修されたBMPはたった1台だけしかありません。よりすぐに使用できるプラットフォームとしてGAZ製「Sadko」トラックがあり、数台が自走発射機として改修されました。 

 このGAZ製「Sodko」をベースにしたものには2種類のモデルが存在します。1つは発射機を搭載するために特別に改修されたもので、もう1つは無改造のトラックの後部に発射機を搭載したものです。

それ以外の車両は改修されなかったと考えられており、「シャムス」はその後すぐに、より多用途性がある「ゴラン」MRLに取って代わられました。

 BMPとGAZ製「Sadko」をベースにした「シャムス」はその両方が、スラットアーマーを装備した「T-72 TURMS-T」ロシアから供与されたBTR-70M装甲兵員輸送車(APC)を含む、いくつかの注目すべきAFVを運用している第1師団に所属しています。



 シリアでは現在3種類の「ボルケーノ」が生産されていると考えられており、さらにそれぞれいくつかの派生型に分かれています。

 最も広く使用されている「ボルケーノ」用ロケット弾は107mmと122mm弾をベースにしたものですが、220mm弾ベースのものも存在します。シリアでは107mmと122mm(グラート)ロケット弾が非常に一般的なものであることに加えて、220mmロケット弾もシリア国内で製造されていることが知られているため、これらのロケット弾を「ボルケーノ」に改造することは比較的容易です。

 「シャムス」は2種類の122mmロケット弾をベースにした「ボルケーノ」を使用しており、どちらも大重量の300mm弾頭を備えています。「シャムス」MRLから「ボルケーノ」が発射される様子はここで観ることができます

 興味深いことに、「シャムス」で使用されている2種類の「ボルケーノ」の1つには、通常の弾頭より強力な爆発力をもたらすために空気中の酸素を利用し、閉じ込められた空間での使用に最適なサーモバリック弾頭(350kgというとてつもない重量だと伝えられています)を搭載していると評されています 。[1]

 もう1種類は250kgの通常弾頭(元の122mmロケット弾では約65kg)を使用したもので、装備されている短いロケットブースターによってサーモバリック弾頭型と識別することが可能です。「ボルケーノ」の射程距離はサーモバリック型では3.4キロメートル、従来型では1.5キロメートルとのことです。


 「シャムス」は戦時下に適応した完璧なケースであり、(改修されなければ)平凡だったAFVを現在の戦場で遭遇するタイプの戦闘に完全に適応した、強力なプラットフォームに変えました。

 シリア軍がこういった効果的な戦力増強をさらに行うかどうかはその意欲とリソース次第ですが、そのような試みにおける柔軟性が軍事プランに反映されるのであれば、その決定は最終的にシリア軍の再建に大きな影響を与える可能性があるでしょう。

  [1] @WithinSyria氏との個人的な会話

特別協力: Morant Mathieu(敬称略)

※  当記事は、2021年10月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したも      のです。意訳などにより、僅かに意味や言い回しを変更した箇所があります。

おすすめの記事

2023年9月22日金曜日

地獄を呼ぶMRL:アルメニアのランド・マットレス


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 アルメニアの兵器産業は1990年代半ばに創設されましたが、その詳細と開発した兵器については全く知られていません。その後の数十年でいくつかの見込みのあるプロジェクトが発表されたにもかかわらず、アルメニア軍からの資金援助や関心を引き出すことができなかったため、設計案の大半は青写真のままで終わるか(実際に製造されても)試作品の域を超えて開発が進むことはありませんでした。

 それでも、最終的に日の目を見ることになった多くのプロジェクトは、このような兵器産業がある程度存続していることを思い出させてくれる役割を果たしています。

 そのようなプロジェクトの1つが、その異様な見た目のおかげで映画「マッドマックス」の世界からそのまま飛び出してきたような装軌式のランド・マットレス(多連装ロケット砲:MRL)です。この人目を引くシステムは、味方の地上部隊の前進を妨げる可能性があるものを文字通りそのエリアから一掃するために設計されたと考えられています。そのため、同システムには27本のロケット弾用の発射管が装備されており、火力支援で効果的に使用することが可能です。

 ただし、このシステムは高度な誘導方式や高い命中精度を用いるのではなく、大量のロケット弾と重量級の弾頭によって敵がいるエリア全体を包括的に火力を浴びせるという典型的な無誘導型MRLとなっています。

 残念なことに、このシステムの運用履歴や使用されているロケット弾、そしてアルメニアの防衛産業によって最終的に生産された数については全く知られていません。

 しかし、発射システムと使用するロケット弾の種類の双方の設計は比較的スタンダードなものである可能性があります。ロケット弾自体の直径は約200mmであり、通常の弾頭を搭載して数キロメートルの射程距離で効果的に使用できる能力があると思われます。もちろん、射程距離を伸ばすことは可能なはずですが、おそらくロケット弾の命中精度をさらに低下させてしまうでしょう。

 外見的な類似性から、このMRLとロシアの「TOS-1(A)」重火炎放射システムをすぐに比較する人がいるかもしれませんが、MRLは完全に異なるカテゴリーに属しています。

 最も注目すべき点として、「TOS-1」がサーモバリック弾頭のロケット弾を発射するのに対し、アルメニアのシステムのロケット弾は通常弾頭を搭載している可能性が高く、発射機の構造も比較的DIY的ということがあります。

 アルメニアとアゼルバイジャンの双方が2020年のナゴルノ・カラバフ戦争で「TOS-1(A)」を投入して活躍しましたが、アルメニアは1台を失ったことが確認されており、(視覚的に確認されていないものの)アゼルバイジャンはさらに数台を失ったと伝えられています。[1]

        

 しかし、この「ランド・マットレス」プロジェクトを成功させるには、ロケット弾の設計・製造以上のものが必要とされました。課題の1つは、27本ものロケット弾用の発射管を(安全に)搭載できる十分な大きさの車両を見つけることでした。

 アルメニアのエンジニアはその解決策を「GM-123」シャーシに見出したようです。なぜならば、同国の2K11「クルーグ(NATO呼称:SA-4 'ガネフ')」地対空ミサイル(SAM)システムの大半が退役した後、このシステムに用いられていた多数の同シャーシを転用することができたからです。

 2K11の巨大な「9M8」ミサイルを撤去することで、シャーシ上にロケット弾発射機の搭載に使用できる十分なスペースができました。どうやら、 MRLへの転用後も「クルーグ」のエレクター機構はそのまま維持されたようです。もちろん、もともとはミサイルをほぼ垂直に発射するように設計されたものだったため、その仰角範囲は確かにMRLシステムとして使用するにも十分なものでした。

退役した2K11「クルーグ」(ステパナケルト郊外にて)

 いくつかの2K11「クルーグ」SAMは辛抱強く現役に残り続けて2020年のナゴルノ・カラバフ戦争に参加しましたが、同じく依然として公式に現役にあった2K12「クーブ」と同様に、2K11も戦争中は基本的にアゼルバイジャン軍による「射撃の練習台」として使われてしまいました。

 アルメニアは少なくとも2つの老朽化したこれらのSAMサイトを維持していましたが、戦争中に使おうとしませんでした。それでもアゼルバイジャンからの攻撃を避けることはできず、結果として2K11の発射機1台と1S32「パット・ハンド」レーダー1基が破壊されました。[1]


 ナゴルノ・カルバフ戦争中に保有する重火器の約半分を失ってしまったため、アルメニア軍は少なくとも以前の戦力の一部を再建するために自国の軍需産業に協力を求めるだけでなく、徘徊兵器のような緊急に必要とされる新しい戦力を導入することになるでしょう。

 とはいえ、ナゴルノ・カラバフの大半を喪失したため、大規模な常備軍を運用する理由も一緒に失われてしまいました。

 それでも、2021年6月に新しいタイプの軽量型MRLが目撃されたことは、新しいプロジェクトが確実に進行していることを示しています。[2]

 軽量型MRLプロジェクトとそれに続く別のプロジェクトは、ここで取り上げた彼らの大先輩よりも大きな影響を与えることになる可能性があります。そして、これらのシステムのレガシーは独自のMRLを設計するための最初の本格的な試みの1つとして受け継がれていくでしょう。


特別協力: Magomedov Mukhtar

【日本語版編訳者による追記】
 画像を確認するとMRLが複数台存在することが確認でき、各車両がヘッダー画像とは異なるカラフルな迷彩が施されていることが分かりました(車両ごとにナンバーが割り振られており、最も数が大きいものは「7」であったことから、少なくとも7台は存在していたことを意味する)。
 驚くべきことに一部の車両はロケット弾が発射管から飛び出た状態で放棄されていました。これは燃焼剤の不具合によるものか戦闘で撃破されたものかは不明ですが、少なくともこれらが戦闘に投入されていたことを示す証拠と言えるでしょう。
 ちなみに、ロケット弾には161.5mmとの文字が記載されていますが、これが口径だった場合はアルメニア自身でロケット弾を製造していたことが推し量れます。

ナンバー「05」は無傷に見える:右奥の個体は損傷か発射による噴煙で発射機が黒ずんでいる

ナンバー「05」を後ろ見た様子:弾薬が装填されているが一部が空であることは、2023年の戦闘で使用された可能性を示唆している

ナンバー「06」と「07」:ロケット弾が装填されておらず、車体後方に噴煙の後が見えないので実戦には投入されていないかもしれない(ただし塗装が綺麗なので、囮ではなく実戦用の装備として屋内で保管されていたことは確実だろう)

発射中にロケット弾が停止している:撃破か燃焼不良によるものかは不明だが、このMRLの口径と弾頭重量を明らかにする貴重なショットである

このMRL専用のロケット弾保管庫:使用期限や状態が怪しいものはあるが、このMRLを戦力として数に入れていたことだけは確実のようだ(入り口のカモフラージュネットがそれを示している)

[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] https://twitter.com/Caucasuswar/status/1408446699358543874
[4] https://x.com/wwwmodgovaz/status/1718949463060848648?s=20

※  当記事は、2021年11月13日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した
 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。


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