2020年9月29日火曜日

2020年ナゴルノ・カラバフ戦争:アルメニアとアゼルバイジャンが喪失した装備(一覧)


ステイン・ミッツアー in collaboration with Jakub Janovsky ,DanCOIN編訳:Tarao Goo ※編訳のみで損害評価に関する作業には全く関与していません)

オリジナル記事(英語)ではこの一覧が頻繁に更新されていますが、追加作業が本当に大変なため、日本語版の記事では数ヶ月に一度まとめての更新をしています。次回は2021年晩秋に更新予定です最終更新:2021年7月24日
いち早く最新の一覧を確認したい方は本家Oryx(英語版)の記事をご覧ください(こちらの最終更新は2021年10月5日です)。

 2020年9月27日早朝(注:欧州時間)に勃発したナゴルノ・カラバフの紛争地域上で勃発した武力衝突は11月10日に停戦となりましたが、アゼルバイジャン及びアルメニア側の双方に相当な人的・物的な損失をもたらしました。

 今回の再衝突は30年にわたるナゴルノ・カラバフ紛争の延長戦上にあるものであり、これによって引き起こされるであろう結果について、現時点では推測することしかできません。
物的損失に関する確かな情報が少ない一方で、噂が広く飛び交い、プロパガンダ目的の未確認情報や虚偽情報がたやすく繰り返されています。

 この記事では、両軍によって利用可能な映像資料を入念にチェックして、すべての立証可能な物的損失に関する分析を試みます。

 ナゴルノ・カラバフ紛争はアルメニアとアゼルバイジャン間で争われているナゴルノ・カラバフとその周辺の(自称アルツァフ共和国が支配しているが国際的にはアゼルバイジャンに属していると認められている)7地域の紛争地域を巡る民族・領土紛争です。

 ナゴルノ・カラバフの地位については、アルメニアとアゼルバイジャンがロシア帝国からの独立を宣言した1918年から争われています。1920年代初頭、アルメニア人が人口の多くを占めるナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国の自治州となりました。1988年、ナゴルノ・カラバフ自治州の議会はアルメニア・ソビエト社会主義共和国への加盟に賛成票を投じましたが、モスクワではその動きがほとんど支持されませんでした。

 1991年のソビエト連邦解体後には、エレバン(注:アルメニアの首都)の支援を受けたアルメニア人分離主義者がアゼルバイジャン少数民族の故郷であるナゴルノ・カラバフの大部分と隣接する7つのアゼルバイジャンの地区を掌握しました。これに続く紛争では 推定値で約2万5千人から3万人の人が死亡し、多くの人が故郷からの避難を余儀なくされました。紛争中には分離主義者はナゴルノ・カラバフ共和国の独立を宣言し、2017年2月には公式にアルツァフ共和国となりました。

 1994年からロシアの仲介による停戦協定が結ばれているにもかかわらず、停戦違反は一定の間隔で発生しており、その中でも2016年と2020年7月に発生した最も重大な武力衝突では数百人の兵士と民間人の死者がもたらされました。

 2020年7月から9月にかけてアゼルバイジャンはトルコ陸軍と空軍が参加した一連の軍事演習を実施しましたが、それがアゼルバイジャンの自己の戦力に対する認識を深め、この紛争を有利に終わらせようとする決意を強めたものと考えられます。

 アゼルバイジャン軍への軍事訓練や装備品への供給に加え、トルコはアゼルバイジャンへ無人機(おそらく電子戦装備も)の輸出も開始しています。[1]
「バイラクタルTB2」無人戦闘攻撃機(UCAV)がアルメニア軍の陣地上空で「MAM-L」誘導爆弾を投下して少なくとも3台の9K33「オーサ」3台の9K35「ストレラ-10」移動式地対空ミサイルシステムが破壊された時点で、多くのアルメニア兵はこの新たな「現実」に気づきました。これらのシステムはシリアやリビアにおけるロシア製「パーンツィリ-S1」と同様に、頭上を飛ぶ無人機の脅威に全く気づかず、対応できていなかったように見えます。そして、その全てが自らに何が起こったのか知ることなく破壊されてしまいました。

 トルコの無人機とそれを支援する電子戦システムの非常に効率的な使用は、その独断的な国際的役割と拡大する政治的軍事的な重要性をますます促進します(バイラクタル外交)。それは今やナゴルノ・カラバフ紛争にまで及んでおり、今回の戦闘の結果に影響を与えることは間違いないでしょう。

 ただし、その大成功は、「自国の技術がナゴルノ・カラバフ紛争に使用されているという主張を聞きつけた」カナダがトルコへの無人機技術の販売停止という結果をもたらしました。 [2] 

 「バイラクタルTB2」はカナダ製の電子光学センサとレーザー照準技術を導入しているため、この措置は(少なくともトルコ製の代替品が投入可能になるまでの間)同機の更なる生産をしばらくは遅らせる可能性があります。現実には無人機記述の販売停止は代替となる国産無人機の研究と製造を加速させるという、(更に新しい兵器製造のカテゴリーにおいて)トルコの自給自足を促進させるだけであり、その目的の殆どを達成する可能性は僅かしかありません。


 アルメニア・アゼルバイジャン双方の破壊されたり捕獲された車両の詳細なリストは以下で見ることができます。このリストは追加の映像資料が入手可能になり次第、更新されます。

 このリストは写真や映像によって証明可能な撃破された車両や装備だけを紹介しています。したがって、破壊された装備の量は、ここに記録されているものよりも間違いなく多いと思われます(このリストでの「損傷」は一見して完全に破壊されたと確認できないものを含みます。つまり、明らかな全損状態以外は「損傷」としています。また、航空機については明確に撃墜や地上にて撃破された証拠がない機体を「墜落」としています)。
小火器・弾薬や遺棄車両、検問所のような非戦略的対象はこのリストには含まれていません。(小火器や弾薬などの)装備品の大規模な隠し場所の映像: (1) (2) (3) (4) (5) は、アルメニア軍が残したその備蓄量の大きさを示す良い指標となります。

※1 リストの簡素化と不必要な混乱を避けるため、アルメニアとアルツァフ共和国側の損失を一緒に紹介しています。
※2 各装備名の後にある括弧内をクリックすると撃破・捕獲された各固体の画像を見ることができます)。



アルメニア / アルツァフ共和国側の損失

戦車 (250, このうち破壊:144、損傷:5、捕獲:101)

装甲戦闘車両(76、このうち破壊:26、捕獲:50)


歩兵戦闘車 (80, このうち破壊: 33、捕獲:47)


自走式対戦車ミサイルシステム(17,このうち破壊:4、捕獲:13)


牽引砲 (231, このうち破壊:131、損傷:10、捕獲:90)

自走砲 (29, このうち破壊: 21、捕獲:8)


砲兵支援車両 (3, このうち破壊: 1、捕獲:2)


多連装ロケット砲 (78, このうち破壊: 71、捕獲:6、放棄:1)


弾道ミサイル(1、このうち破壊:1)


迫撃砲(54、このうち破壊:9、捕獲:45)


対戦車ミサイル(119、このうち破壊:3、捕獲:116だがこのうち19は発射機または照準器)


携帯式地対空ミサイルシステム:MANPADS (6, 全てが捕獲)


(自走式を含む)対空機関砲 (11, このうち破壊されたもの: 2, 捕獲: 9)


地対空ミサイルシステム (36, このうち破壊されたもの: 31、捕獲:5)


レーダー (17, このうち破壊: 13、捕獲:4)


電子妨害・攪乱システム (3, このうち破壊: 3)


航空機 ・ヘリコプター(2, このうち墜落または撃墜: 2)



無人航空機 (5, このうち墜落または撃墜: 5)


トラックやジープなどの車両 (657, このうち破壊:301、損傷:9、捕獲: 347)

デコイ (2, このうち破壊: 2)


戦略的拠点 (22)




アゼルバイジャン側の損失

戦車 (55, このうち破壊:32、損傷:18、放棄:1、捕獲:4、捕獲された後に奪回:1)


装甲戦闘車両 (23
, このうち破壊:6、損傷:2、放棄:7、捕獲:9) ※工兵車両を含む


歩兵戦闘車 (70, このうち破壊:45、損傷:6、放棄:10、捕獲:9)


多連装ロケット砲(2,このうち破壊:1、損傷:1)


迫撃砲 (1, このうち捕獲: 1)


航空機 (13, このうち撃墜: 13)


無人航空機 (26, このうち被撃墜または墜落: 22、捕獲:4)


トラックやジープなどの車両 (62, このうち破壊: 31、放棄:18、損傷:7、捕獲:6)
         
※オリジナル版(英語版)記事の執筆における特別協力:Hamid, Ilya.A, Blue Sauron, Lost Armour, Cyrano7, Dee_Jonesyboi, James Ford  Red Fox.





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【お知らせ】私たちOryx Blog著者による北朝鮮軍隊に関する本が発売中です!

朝鮮人民軍に関する本が以前から告知していた2020年9月24日に発売となりました(日本語版も2021年9月3日に発売されました)。
この本は発売決定・制作開始から6年と延期に延期を重ねた難産でしたが、遂に世に出すことにできました。
このブログ編訳者である私も資料提供やイラストのチェックなど微力ながら制作に携わっていましたので、無事に世に送り出せたことを心から喜んでおります。
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