著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
※ この記事は2016年3月3日に「Oryx」ブログ本国版に投稿されたものを翻訳したものです。意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
イラクのウィラヤット・ニーナワー(ニネヴェ県)におけるイスラム国(IS)のメディア部門によって2016年初春にリリースされた画像は、(ウィラヤット・ニーナワー防空大隊に属する)アル・ファールク小隊のトラックに車載された「D-30」122mm榴弾砲がモスル上空でのSIGINT任務に使用された米軍の「(E)P-3」哨戒機に対して射撃する様子を示しました。
この種の火砲は通常は地上の目標のみに対として使用されるものであるため、対空砲への転用は大いに注目に値すると共に、有志連合軍の圧倒的な航空戦力に対抗する手段をISが深刻に欠いている事実を浮き彫りにしています。
ISの支配下にある最大の都市モスル及びその周辺で撮影された画像には、ソビエト伝来の「D-30」122mm榴弾砲を搭載するように改修されたアメリカ製「ナビスター・インターナショナル7000」シリーズと「M35」トラックが映し出されていました。
「M35」ベースのものは強化シェルターに格納されているように見えますが、標的の候補となる敵機が現れたときにだけ外へ動かされるようになっっています。さらに、トラックにはスタビライザ-と砲身をより低い位置に固定することができるトラベリングロックが装備されています(注:前者が射撃時の反動対策で、後者が移動時に砲身の先端が橋やトンネルに接触することを避けるためのもの)。
他の画像ではアル・ファールク大隊が保有する「ZPU-2」14.5mm機関砲 、「ZU-23-2」 23mm機関砲、「65式」37mm機関砲と「AZP S-60 」57mm機関砲を含む一般的な対空装備が見られ、これらの全てが様々な種類のトラックに搭載されていました。
これらの飛行機はモスル上空において情報収集と電子戦に使用されており、イラク領土におけるISの連携した作戦能力に深刻な妨害を与えています。低速で飛行する「(E)P-3」はしばしば都市の上空で円を描いて飛行しており、ISが目障りな存在と考えたことは間違いないないでしょう。
通常、彼らは「F-15」のような高速で飛行する航空機を見ているものの、当然ながら榴弾砲でそれらを撃墜することはできないことを知っています。しかし、遅く飛ぶ「(E)P-3」は下から見上げるとを極端に遅く見えるため、彼らは榴弾砲を用いて撃墜する好機があると考えたことは想像に難しくありません。
強力な火砲自体には航空機が運用される高度に到達する能力があるにもかかわらず、使用する榴弾が各種類の対空用信管を欠いているという事実は、ISが敵機を無力化するためには目標へ直撃弾を与えなければならないことを意味します。もちろん、こうした奇跡を達成することはほぼ不可能な偉業であることは明らかです。
もちろん、これらの事例では航空機の損害や軽微な損害さえも報告されていません。なぜなら、大概はそのような(時限信管を欠如した)火砲の使用は、標的の完全な破壊か完全な失敗のいずれかの結果しかもたらさないからです。
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