著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)
当記事は、2019年9月16日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。 当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
クルド人民防衛隊(YPG)は、シリア北部における紛争地域の至る所で、大規模な数のDIY式装甲戦闘車両(AFV)と装甲を強化したバトル・モンスターを運用していることでよく知られています。
過去数年間、幅広い種類のAFVや支援車両にこうした改修を施してきたYPGは、今ではこの記事で紹介する「BMB」と呼称される新型の装甲兵員輸送車(APC)を導入することで、自力で正真正銘の装甲車両を製造し始めています。
この「BMB」が初めて一般の目に晒されたのは、2台がシリア北部でのイスラム国に対する戦勝記念閲兵式の準備中によろよろとカーミシュリーを通って会場へと向かった2019年3月のことでした。
皮肉なことですが、2台という数はこれまでに製造された車両の傾向からそれほど離れていない可能性があることから、YPGのAFVプロジェクトがDIY的であることを示しています(注:既存の独自型AFVもワンオフ品的な要素が強かったため)。この理由と、公然と通常戦を展開できるテロ国家としてのイスラム国が敗北したため、「BMB」が実戦で活躍する機会は少しもありませんでした。
カーミシュリーにおける午後の走行で性能があまり見栄えしないものだったことはさておき、このAFVがYPGの機甲戦力不足に対する効果的な解決策なのか、それとも設計図のままにしておくのが最適な答えだったのか、詳細に検証する必要があります。もちろん、YPGの限られた資源と技術力を考慮するのは当然のことではあるものの、YPGの敵が戦場でこうした問題に一種の共感を抱くとは到底考えられません。
「BMB」自体の歴史と仕様について詳しく触れる前に、YPG(Yekîneyên Parastina Gel=人民防衛隊)の機甲戦力について熟考してみることは有意義なことです。
シリア内戦に関与する主要な他の勢力と比較すると、(それ自体がシリア民主軍を構成する主要派閥である)YPGは歴史的に見て最も機甲戦力に乏しい勢力です。この戦力ギャップを補うため、YPGはトラクターやトラックをベースにしたDIY式装甲車両の製造に非常に積極的に取り組んだのでした。
「本物の機甲戦力」について、YPGはシリア・アラブ陸軍(SyAA)が遺棄した装備やイスラム国から鹵獲したものに完全に依存しているのが現状です。「イスラム国」のような勢力がシリア軍の陣地から鹵獲した何百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を収集することに成功した一方、YPGはシリア軍との直接的戦闘を避けることが常だったため、たいていはスクラップのようなAFVでカバーせざるを得ませんでした。
こんな具合で、YPGは基地のあちこちに遺棄された「BTR-60」や「BRDM-2」といったAFVを複数台も手に入れたのです。しかし、現実的な代替案がないのであれば、これらの遺棄車両でさえ、YPGの下で新たな命を得るために修復されることになるのでした。
その反対側に位置したのがイスラム国です。彼らはシリア国内だけで200台以上の戦車と約70台のBMPを鹵獲・運用していただけでなく、シリア軍に次いで2番目に多くのAFVを運用しており、その装備の量と質、そして採り入れた戦術において、多くの国家の軍隊ですら凌駕していたのです。
イスラム国の台頭がシリアとイラクに与えた突如とした戦況の変化はこれに巻き込まれた人々には衝撃的なものであり、兵員や武器、そして(おそらくは)何よりも航空戦力の大量投入によってのみ抑え込むことができる代物でした。YPGがイスラム国に戦いを仕掛けることを可能にさせたのは後者であり、さらにシリア国内でアメリカ軍が運用する火砲や多連装ロケット砲(MRL)からの火力支援も受けました。
機甲戦力や対戦車ミサイル(ATGM)に関しては全く運用されなかったこともあり、YPGはイスラム国の車両や陣地を破壊するために有志連合軍の航空戦力を頼りにすることが常でした。このことは、イスラム国が運用するAFVがYPG軍に深刻な損害を与える前に撃破されることが頻繁にあったことを意味する一方、有志連合軍機が投下した爆弾などによって大半のAFVが完全に消滅して、その鹵獲やYPG軍での再使用を妨げることも意味しました。
さて、話題を今回のテーマの車両に戻しましょう。最も特徴なポイントは、「BMP-1」のトーションバー式サスペンションが再利用されている点であることは間違いありません。また、観察力の鋭い読者であれば、「BMB」に取り付けられているお馴染みの「BMP」シリーズの転輪とスプロケットにすでにお気づきのことでしょう。
「BMP-1」の「UTD-20」エンジンや履帯、ステアリングヨーク(ハンドルとステアリングギヤボックスをつなぐ継手部品)、油圧ショックアブソーバーも「BMB」に搭載されたものの、サスペンションが短くなったため、「BMP-1」とは異なる取り付け方法が必要となりました。
クルド人民防衛隊(YPG)は、シリア北部における紛争地域の至る所で、大規模な数のDIY式装甲戦闘車両(AFV)と装甲を強化したバトル・モンスターを運用していることでよく知られています。
過去数年間、幅広い種類のAFVや支援車両にこうした改修を施してきたYPGは、今ではこの記事で紹介する「BMB」と呼称される新型の装甲兵員輸送車(APC)を導入することで、自力で正真正銘の装甲車両を製造し始めています。
この「BMB」が初めて一般の目に晒されたのは、2台がシリア北部でのイスラム国に対する戦勝記念閲兵式の準備中によろよろとカーミシュリーを通って会場へと向かった2019年3月のことでした。
皮肉なことですが、2台という数はこれまでに製造された車両の傾向からそれほど離れていない可能性があることから、YPGのAFVプロジェクトがDIY的であることを示しています(注:既存の独自型AFVもワンオフ品的な要素が強かったため)。この理由と、公然と通常戦を展開できるテロ国家としてのイスラム国が敗北したため、「BMB」が実戦で活躍する機会は少しもありませんでした。
カーミシュリーにおける午後の走行で性能があまり見栄えしないものだったことはさておき、このAFVがYPGの機甲戦力不足に対する効果的な解決策なのか、それとも設計図のままにしておくのが最適な答えだったのか、詳細に検証する必要があります。もちろん、YPGの限られた資源と技術力を考慮するのは当然のことではあるものの、YPGの敵が戦場でこうした問題に一種の共感を抱くとは到底考えられません。
「BMB」自体の歴史と仕様について詳しく触れる前に、YPG(Yekîneyên Parastina Gel=人民防衛隊)の機甲戦力について熟考してみることは有意義なことです。
シリア内戦に関与する主要な他の勢力と比較すると、(それ自体がシリア民主軍を構成する主要派閥である)YPGは歴史的に見て最も機甲戦力に乏しい勢力です。この戦力ギャップを補うため、YPGはトラクターやトラックをベースにしたDIY式装甲車両の製造に非常に積極的に取り組んだのでした。
「本物の機甲戦力」について、YPGはシリア・アラブ陸軍(SyAA)が遺棄した装備やイスラム国から鹵獲したものに完全に依存しているのが現状です。「イスラム国」のような勢力がシリア軍の陣地から鹵獲した何百台もの戦車やその他のAFVを含む兵器群を収集することに成功した一方、YPGはシリア軍との直接的戦闘を避けることが常だったため、たいていはスクラップのようなAFVでカバーせざるを得ませんでした。
こんな具合で、YPGは基地のあちこちに遺棄された「BTR-60」や「BRDM-2」といったAFVを複数台も手に入れたのです。しかし、現実的な代替案がないのであれば、これらの遺棄車両でさえ、YPGの下で新たな命を得るために修復されることになるのでした。
その反対側に位置したのがイスラム国です。彼らはシリア国内だけで200台以上の戦車と約70台のBMPを鹵獲・運用していただけでなく、シリア軍に次いで2番目に多くのAFVを運用しており、その装備の量と質、そして採り入れた戦術において、多くの国家の軍隊ですら凌駕していたのです。
イスラム国の台頭がシリアとイラクに与えた突如とした戦況の変化はこれに巻き込まれた人々には衝撃的なものであり、兵員や武器、そして(おそらくは)何よりも航空戦力の大量投入によってのみ抑え込むことができる代物でした。YPGがイスラム国に戦いを仕掛けることを可能にさせたのは後者であり、さらにシリア国内でアメリカ軍が運用する火砲や多連装ロケット砲(MRL)からの火力支援も受けました。
機甲戦力や対戦車ミサイル(ATGM)に関しては全く運用されなかったこともあり、YPGはイスラム国の車両や陣地を破壊するために有志連合軍の航空戦力を頼りにすることが常でした。このことは、イスラム国が運用するAFVがYPG軍に深刻な損害を与える前に撃破されることが頻繁にあったことを意味する一方、有志連合軍機が投下した爆弾などによって大半のAFVが完全に消滅して、その鹵獲やYPG軍での再使用を妨げることも意味しました。
さて、話題を今回のテーマの車両に戻しましょう。最も特徴なポイントは、「BMP-1」のトーションバー式サスペンションが再利用されている点であることは間違いありません。また、観察力の鋭い読者であれば、「BMB」に取り付けられているお馴染みの「BMP」シリーズの転輪とスプロケットにすでにお気づきのことでしょう。
「BMP-1」の「UTD-20」エンジンや履帯、ステアリングヨーク(ハンドルとステアリングギヤボックスをつなぐ継手部品)、油圧ショックアブソーバーも「BMB」に搭載されたものの、サスペンションが短くなったため、「BMP-1」とは異なる取り付け方法が必要となりました。
しかし、「BMP-1」との共通点はここまでです。後部のマッドガードや(燃料タンクを搭載している可能性がある)後部ドアは明らかに「BMP-1」からインスピレーションを得たものですが、上述の流用品以外の部分は独自製作した部品かヘッドライトのような既製品で構成されています。
結果として出来上がった車両は、「BMP」と「BTR/BRDM」の融合体と言い表すのが一番合っているものでした。最も最終的な形態の「BMB」はユーゴスラビアの「M-60」APCやジョージアの「ラジカ」IFV(そして、いくつかの謎めいたイランのAPC)と明確な類似性を示していますが、YPGが「BMB」のどの部分もこれらの設計をダイレクトにベースにしていないことはほぼ確実であるものの、確かにその最終形態に影響を与えたようです。
「BMB」の武装については、車内からライフルや軽機関銃を発射可能な銃眼5基に加え、1基の砲塔で構成されています。砲塔は「BTR-60」や「BRDM-2」に搭載されていたものを流用しているようですが、通常はこの砲塔に装備されている14.5mm機関砲を固定する銃架がありません。その代わり、「DShK」(または中国の派生型である「W85」)12.7mm重機関銃か「PK」7.62mm機関銃が、「BMB」の武装で最も可能性の高い候補にさせます(注:砲塔に火器を固定する架台が設けられていないため、上記の重火器を状況に応じて乗せ換えることが可能となるわけです)。
しかし、下の画像で示唆されているように、「BMB」の一部は「SPG-9」73mm無反動砲(RCL)1門で武装されていた可能性があります。このRCL自体は「BMP-1」の主武装である「2A28 "グロム"」低圧砲と同一に近い派生型です。
「BMB」が備える装甲の防御力については、小火器の銃弾や 小規模な砲弾・爆弾の破片から乗員を保護するには十分なものでしょう。重機関銃や対物ライフルが数多く登場する紛争では完全に不十分なように見えますが、より優れた「BMP-1」の装甲でさえ12.7mm弾や7.62mm徹甲弾に脆弱なことは過去の紛争で証明されています。
したがって、乗員の保護力の向上に寄与する可能性が低いため、「BMB」の装甲を追加して得られるような利点は僅かしかありません(注:つまり増加装甲を施しても意味がないというわけです)。
その代わり、「BMB」は敵からの砲撃を回避するために自身の速度とコンパクトさに依存しています。ただし、道路沿いに仕掛けられた即製爆発装置(IED)を避けるためのオフロード能力はこの車両の弱点です。
いくつかの画像にはYPGのAFV工房で組み立て中の「BMB」が写っており、このプロジェクトが実際に独自性を有したものであることを明確に示しています。AFVの製造としては若干型破りな方法ですが、シリア内戦に関与しているYPG以外のどの勢力も独自の装軌式AFV製造に成功していないことに注目しなければいけません。
シリア軍へのロシア製AFVの引渡しと敵対勢力によって鹵獲された数が膨大になったことで、彼らが独自にAFVを製造する必要性が低下したと主張する人もいるかもしれませんが、YPGには製造するための専門知識が実際にあることは明らかでしょう。
BMP-1のサスペンションの使用はYPG用の装軌式 APCを組み立てるためにおそらく唯一実行しうる方法ですが、オリジナルのエンジンを残しつつサスペンションが大幅に短縮したことで車両の安定性が大きく損なわれています。2008年ロシア・ジョージア戦争をチェックした人ならば、BMPの上に乗ったロシア兵が加速中や減速中に飛び跳ねる映像を覚えていることでしょう。
実際、閲兵式の映像でも目に付いたように「BMB」の安定性は非常に悪く、ブレーキや加速は乗員にとって不快なものとなるだけではありません。砲手や乗員の戦闘能力にも多大な悪影響を与える可能性があるのです。
突き詰めると、これは「BMB」の役割を平凡な速力の優れた「戦場のタクシー」か軽装甲の移動式トーチカに格下げするものです。ちなみに、YPGが保有するアメリカから供与されたMRAPの大部分は「BMB」よりはるかに優れた性能を発揮できます。
「BMB」の派生型(下の画像)は先に紹介した個体と酷似していますが、いくつかの大きな違いがあります。最も注目すべき点は、転輪を僅か4個しか備えていることです。これは、共食い用の部品から作られたDIY式APCのコンセプトをさらに一歩進めたものと言えます。さらに、「BTR/BRDM」にインスパイアされた密閉式砲塔は、より大型の火砲を搭載可能なキューポラ付きの無蓋式に変更されました。
この個体が存在する唯一の要因は「十分な数の転輪がなかった」可能性が高かったことが挙げられます。おそらく、製造に用いられた"ドナー"の「BMP-1」があまりにもひどく損傷していたために再利用できなかったのでしょう。
当然ながら、オリジナルの個体を悩ませていた問題は小型版にも引き継がれ、結果としてさらに悪化する可能性は高くなると思われます。
YPGのAFVの多くがシリア北部の乾燥した低木地帯に最適化された精巧な迷彩パターンを採用しているのに対し、「BMB」はシンプルな砂漠パターンを採用しています。
イスラム国が通常戦を遂行可能な勢力として再浮上する可能性は極めて低いことを踏まえると、このプロジェクトは、イスラム国ではなくシリア軍との武力衝突に備えてYPGが保有するAFVのストックを拡大するために意図されたものと考えるのが妥当でしょう。
下の画像の撮影時期は不明ですが、「BMB」の前面に設けられた2個のフックの一つはすでに破損しており、もう一つはひどく損傷しているように見えます。この結果の原因が何であれ、その "強度 "は牽引中の「BMB」の重量に耐えられず、実際に車体へ装備させるには無駄なものとなった可能性が高いと思われます。
これは車両全体の品質が低レベルと言っているのではありませんが、 (YPGにとって特に痛手となるだろう)AFVの喪失と回収の成功との差で最終的に功を奏する可能性がある重要な部分に、細心の注意が払われていることがよく分かります(注:回収が考慮されていなかった場合、フックは装着されなかったでしょう)。
注目すべき点は、「BMB」の運転手は車両を安定して走行させるのが非常に難しいということです。窓が小さく、運転席上のハッチを閉めた際に用いる視界確保用のペリスコープが設けられていないため、運転席の右側に大きな死角があることは言うまでもありません。
また、別の個体に装備された前面装甲板上の牽引装置にも注目してください。これは他のどの車両にも取り付けられていないようです。
「BMB」と車体と履帯の間に十分なスペースが設けられていませんが、これは小さな岩などが間に挟まってサスペンションを損傷したり履帯が転輪から外れる危険性があります。
内部を撮影した画像はコンポーネントが粗雑に溶接された状況をはっきり示しており、この車両のDIY性を強調しています。運転手はエンジンの真左に座り、(部品取り用の「BMP-1」から引き継いだ)ステアリングヨークを使って「BMB」の不安定なパフォーマンス特性をコントロールする構造です。
また、窓も銃眼も一直線上に位置していないように見えることにも注目です。これは非常にDIY的なものに見えるものの、特に問題はなさそうように見えます。
内部の全体的な様相はベーシックと表現するにふさわしく、各種の装置や部品がただでさえ窮屈な車内のスペースをさらに狭くしています。
確認された3台の「BMB」のうち少なくとも2台に砲塔が追加されたことより、歩兵輸送能力がさらに低下してしまいました。というのも、通常ならば乗員の1人が使うスペースを砲手(機銃手)が占領してしまうためです。結果として、兵員区画の大きさは4、5人の兵士が座るには十分だと思われますが、乗員の快適性を犠牲にすれば、この数を増やすことも可能でしょう。
予想されていたとおり、「BMB」には「BMP-1」には存在する歩兵区画を縦に二分する主燃料タンクが設けられていません。つまり、モデルとなった車両と比較すると行動半径が著しく狭まっている可能性が高いと思われます。
砲塔の軽または重機関銃に加えて、「BMB」の火力は5つの銃眼(基本型では左側面に3基、右側面に2基)によってさらに強化されています。この原始的な銃眼はハンドルで開閉可能であり、どうやら独自設計のようです。(左側面に3つ:うち1つは運転席用、右側面に2つ設け得られた)5つの防弾窓も車両に完備されています。
「BMB」に設けられたもう一つの興味深い特徴は、車内全体に発泡体が入った内張が施されたことです。不安定な車両に乗車中のクルーに対する快適性を向上させることは確かであるものの、敵の射撃を受けた際に火災の危険が生じるリスクもあります。
これらの画像が撮影された時点では(まだ)存在していませんが、兵員区画に取っ手やシートベルトを追加すれば、兵士が車内で跳ね回る事態を十分に防止できるでしょう。DIY式AFVにシートベルトを装備するのは珍しい選択のように思えるでしょうが、AFVにこうした安全装置を備えるするのはYPGが初めてではありません。実際、(イスラム国戦闘員である)アブ・ハジャールとその仲間たちが乗った装甲強化型「M1114 "ハンヴィー"」には、乗員の安全性を高めるために、このような安全装置がいくつか装備されていました。
「BMB」は確かに独自でAPCを製造するという興味深い試みではあるものの、その設計に内在する欠点は戦場に投入された際に大きな制限要因となる可能性が高いでしょう。
しかしながら、乏しいAFVのストックを増やす機会が極めて少ないため、こうしたDIY式APCの製造はYPG自身のためにやらなければならないことです。したがって、「BMB」が将来のプロジェクトを立案するための貴重な経験を開発者たちに提供することは間違いありません。
事実、このAPCの重要性はその性能にあるのではなく、むしろYPGによって(しかも)限られた資源で独自に製作された点にあります。YPGの独創性のおかげで、近い将来、シリア北部からさらに多くのDIY式兵器のプロジェクトが生まれることは確実でしょう。
この記事の終わりに、画像と追加情報を提供してくれたWoofers氏に感謝を申し上げます。
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「BMB」の武装については、車内からライフルや軽機関銃を発射可能な銃眼5基に加え、1基の砲塔で構成されています。砲塔は「BTR-60」や「BRDM-2」に搭載されていたものを流用しているようですが、通常はこの砲塔に装備されている14.5mm機関砲を固定する銃架がありません。その代わり、「DShK」(または中国の派生型である「W85」)12.7mm重機関銃か「PK」7.62mm機関銃が、「BMB」の武装で最も可能性の高い候補にさせます(注:砲塔に火器を固定する架台が設けられていないため、上記の重火器を状況に応じて乗せ換えることが可能となるわけです)。
しかし、下の画像で示唆されているように、「BMB」の一部は「SPG-9」73mm無反動砲(RCL)1門で武装されていた可能性があります。このRCL自体は「BMP-1」の主武装である「2A28 "グロム"」低圧砲と同一に近い派生型です。
「BMB」が備える装甲の防御力については、小火器の銃弾や 小規模な砲弾・爆弾の破片から乗員を保護するには十分なものでしょう。重機関銃や対物ライフルが数多く登場する紛争では完全に不十分なように見えますが、より優れた「BMP-1」の装甲でさえ12.7mm弾や7.62mm徹甲弾に脆弱なことは過去の紛争で証明されています。
したがって、乗員の保護力の向上に寄与する可能性が低いため、「BMB」の装甲を追加して得られるような利点は僅かしかありません(注:つまり増加装甲を施しても意味がないというわけです)。
その代わり、「BMB」は敵からの砲撃を回避するために自身の速度とコンパクトさに依存しています。ただし、道路沿いに仕掛けられた即製爆発装置(IED)を避けるためのオフロード能力はこの車両の弱点です。
いくつかの画像にはYPGのAFV工房で組み立て中の「BMB」が写っており、このプロジェクトが実際に独自性を有したものであることを明確に示しています。AFVの製造としては若干型破りな方法ですが、シリア内戦に関与しているYPG以外のどの勢力も独自の装軌式AFV製造に成功していないことに注目しなければいけません。
シリア軍へのロシア製AFVの引渡しと敵対勢力によって鹵獲された数が膨大になったことで、彼らが独自にAFVを製造する必要性が低下したと主張する人もいるかもしれませんが、YPGには製造するための専門知識が実際にあることは明らかでしょう。
BMP-1のサスペンションの使用はYPG用の装軌式 APCを組み立てるためにおそらく唯一実行しうる方法ですが、オリジナルのエンジンを残しつつサスペンションが大幅に短縮したことで車両の安定性が大きく損なわれています。2008年ロシア・ジョージア戦争をチェックした人ならば、BMPの上に乗ったロシア兵が加速中や減速中に飛び跳ねる映像を覚えていることでしょう。
実際、閲兵式の映像でも目に付いたように「BMB」の安定性は非常に悪く、ブレーキや加速は乗員にとって不快なものとなるだけではありません。砲手や乗員の戦闘能力にも多大な悪影響を与える可能性があるのです。
突き詰めると、これは「BMB」の役割を平凡な速力の優れた「戦場のタクシー」か軽装甲の移動式トーチカに格下げするものです。ちなみに、YPGが保有するアメリカから供与されたMRAPの大部分は「BMB」よりはるかに優れた性能を発揮できます。
前面装甲板上の牽引装置に注目 |
「BMB」の派生型(下の画像)は先に紹介した個体と酷似していますが、いくつかの大きな違いがあります。最も注目すべき点は、転輪を僅か4個しか備えていることです。これは、共食い用の部品から作られたDIY式APCのコンセプトをさらに一歩進めたものと言えます。さらに、「BTR/BRDM」にインスパイアされた密閉式砲塔は、より大型の火砲を搭載可能なキューポラ付きの無蓋式に変更されました。
この個体が存在する唯一の要因は「十分な数の転輪がなかった」可能性が高かったことが挙げられます。おそらく、製造に用いられた"ドナー"の「BMP-1」があまりにもひどく損傷していたために再利用できなかったのでしょう。
当然ながら、オリジナルの個体を悩ませていた問題は小型版にも引き継がれ、結果としてさらに悪化する可能性は高くなると思われます。
YPGのAFVの多くがシリア北部の乾燥した低木地帯に最適化された精巧な迷彩パターンを採用しているのに対し、「BMB」はシンプルな砂漠パターンを採用しています。
イスラム国が通常戦を遂行可能な勢力として再浮上する可能性は極めて低いことを踏まえると、このプロジェクトは、イスラム国ではなくシリア軍との武力衝突に備えてYPGが保有するAFVのストックを拡大するために意図されたものと考えるのが妥当でしょう。
下の画像の撮影時期は不明ですが、「BMB」の前面に設けられた2個のフックの一つはすでに破損しており、もう一つはひどく損傷しているように見えます。この結果の原因が何であれ、その "強度 "は牽引中の「BMB」の重量に耐えられず、実際に車体へ装備させるには無駄なものとなった可能性が高いと思われます。
これは車両全体の品質が低レベルと言っているのではありませんが、 (YPGにとって特に痛手となるだろう)AFVの喪失と回収の成功との差で最終的に功を奏する可能性がある重要な部分に、細心の注意が払われていることがよく分かります(注:回収が考慮されていなかった場合、フックは装着されなかったでしょう)。
注目すべき点は、「BMB」の運転手は車両を安定して走行させるのが非常に難しいということです。窓が小さく、運転席上のハッチを閉めた際に用いる視界確保用のペリスコープが設けられていないため、運転席の右側に大きな死角があることは言うまでもありません。
また、別の個体に装備された前面装甲板上の牽引装置にも注目してください。これは他のどの車両にも取り付けられていないようです。
「BMB」と車体と履帯の間に十分なスペースが設けられていませんが、これは小さな岩などが間に挟まってサスペンションを損傷したり履帯が転輪から外れる危険性があります。
内部を撮影した画像はコンポーネントが粗雑に溶接された状況をはっきり示しており、この車両のDIY性を強調しています。運転手はエンジンの真左に座り、(部品取り用の「BMP-1」から引き継いだ)ステアリングヨークを使って「BMB」の不安定なパフォーマンス特性をコントロールする構造です。
また、窓も銃眼も一直線上に位置していないように見えることにも注目です。これは非常にDIY的なものに見えるものの、特に問題はなさそうように見えます。
内部の全体的な様相はベーシックと表現するにふさわしく、各種の装置や部品がただでさえ窮屈な車内のスペースをさらに狭くしています。
確認された3台の「BMB」のうち少なくとも2台に砲塔が追加されたことより、歩兵輸送能力がさらに低下してしまいました。というのも、通常ならば乗員の1人が使うスペースを砲手(機銃手)が占領してしまうためです。結果として、兵員区画の大きさは4、5人の兵士が座るには十分だと思われますが、乗員の快適性を犠牲にすれば、この数を増やすことも可能でしょう。
予想されていたとおり、「BMB」には「BMP-1」には存在する歩兵区画を縦に二分する主燃料タンクが設けられていません。つまり、モデルとなった車両と比較すると行動半径が著しく狭まっている可能性が高いと思われます。
砲塔の軽または重機関銃に加えて、「BMB」の火力は5つの銃眼(基本型では左側面に3基、右側面に2基)によってさらに強化されています。この原始的な銃眼はハンドルで開閉可能であり、どうやら独自設計のようです。(左側面に3つ:うち1つは運転席用、右側面に2つ設け得られた)5つの防弾窓も車両に完備されています。
「BMB」に設けられたもう一つの興味深い特徴は、車内全体に発泡体が入った内張が施されたことです。不安定な車両に乗車中のクルーに対する快適性を向上させることは確かであるものの、敵の射撃を受けた際に火災の危険が生じるリスクもあります。
これらの画像が撮影された時点では(まだ)存在していませんが、兵員区画に取っ手やシートベルトを追加すれば、兵士が車内で跳ね回る事態を十分に防止できるでしょう。DIY式AFVにシートベルトを装備するのは珍しい選択のように思えるでしょうが、AFVにこうした安全装置を備えるするのはYPGが初めてではありません。実際、(イスラム国戦闘員である)アブ・ハジャールとその仲間たちが乗った装甲強化型「M1114 "ハンヴィー"」には、乗員の安全性を高めるために、このような安全装置がいくつか装備されていました。
「BMB」は確かに独自でAPCを製造するという興味深い試みではあるものの、その設計に内在する欠点は戦場に投入された際に大きな制限要因となる可能性が高いでしょう。
しかしながら、乏しいAFVのストックを増やす機会が極めて少ないため、こうしたDIY式APCの製造はYPG自身のためにやらなければならないことです。したがって、「BMB」が将来のプロジェクトを立案するための貴重な経験を開発者たちに提供することは間違いありません。
事実、このAPCの重要性はその性能にあるのではなく、むしろYPGによって(しかも)限られた資源で独自に製作された点にあります。YPGの独創性のおかげで、近い将来、シリア北部からさらに多くのDIY式兵器のプロジェクトが生まれることは確実でしょう。
この記事の終わりに、画像と追加情報を提供してくれたWoofers氏に感謝を申し上げます。
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