2020年11月29日日曜日

消耗との戦い: ダマスカスのAFV修理施設の中を覗いてみよう



著:ステイン・ミッツアー(編訳:Tarao Goo

この記事に掲載されている画像は、2017年1月にロシア人ジャーナリストがダマスカス郊外にある小さなAFV修理施設を訪れた際に撮影されたものです。
撮影時期は数年前のものですが – AFVのいくつかは戦闘による損傷で失われたであろう姿を撮影しています – それにもかかわらず、撮影された画像は私たちに小さなシリアの戦車工廠の内部作業に関する興味深い知見を与えてくれます。

紛争地における整備士の仕事は(通常ならば)比較的安全であることが保証されていますが、特にこの工場は、AFVの修理とジョバルからの反乱軍の侵入を阻止するための防御拠点の両方の役割を果たしているという点で、独特なものでした。事実、この施設は事実上の最前線からたった300メートル離れた場所(33°32'2"N 36°20'11"E) にあったのです!
施設で働く整備士にとっては幸いなことに、ジョバルの抵抗勢力の最後の孤立地帯が2018年3月に無力化されるまで、(施設が)彼らから奇襲を受けることはありませんでした。
その結果として、私たちがここで考察する画像は(まだ稼働している工廠を確認することができる)稀な例外となります(注:殆どは陥落した後に紹介されるため)。



下の画像では、悲惨なT-55(A)MVの残骸が大量のBMP-1用履帯の山の前で横たわっています。砲塔と車体にあるほぼ全てのコンタークト-1の爆発反応装甲(ERA)を含む、大半のコンポーネントが剥ぎ取られていることから、どうやらこのT-55は(おそらく戦闘中にある種の修復不可能な損傷を受けた後に、同じ型の戦車を運用し続けるための)ドナー車としての役目を終えたようです。
また、背景の屋根が崩れていることにも注目で、この施設の状態の悪さをはっきりと示しています。



綺麗な状態の3台のT-55Aが修理施設の外側で警備に就いています。これらの状態の良さは、先述のT-55やシリアで運用されている他のT-55と比較すると雲泥の差です。
これらの戦車は前線に向かう準備ができているように見えるかもしれませんが、衛星画像では同じ戦車が2015年から2018年初頭まで全く同じ場所に駐車されていたことを示していました。このことは、戦車が(反乱軍が維持している)ジョバルからの予想されうる攻撃から工廠とその周辺地域を防御することを任務とする常駐の部隊に所属していた可能性が高いことを示唆しています。


直近に着弾したロケット弾や砲弾の破片から保護するために、前照灯と赤外線サートライトと照準システムが全て土嚢でカバーされていることにも注目してください。背後の建物に見えるように、この施設は小火器や迫撃砲の攻撃を繰り返し受けているため、(もし何もしていなければ)戦車はカバーされていない電子/光学機器に深刻な損傷を受ける可能性があるのです。




次に私たちが見る2台のT-72は、彼らが果たす役割においてはそれほどの違いはありません。左は自力で動けないAFVを施設の至る所に引っ張っていく牽引車に改造されたT-72「ウラル」で、右は全てのコンタークト-1ERAを剥がされたシリア軍のT-72AVです。
このT-72AVは、(明らかにそれをより必要としている)前線で働く戦車のためにERAを取り外されて訓練部隊で運用されている可能性があります。



工廠の車両置き場は施設内の倉庫の一角で静かに埃を被っています。
(シリア軍が)老朽化したソ連製トラック群の大部分を放棄して、ロシアが供与したGAZやウラル、カマズ製トラックのみならず、より信頼性が高く燃費の良い市販車を使用することを選択したため、かつてシリア軍の車両置き場の主力を形成していたジル-131やジル-157、ウラル375のようなトラックは、今ではシリア各地にある基地の放棄された場所で朽ち果てています。



工廠のメイン・ホールでは、シリア軍のT-55(A)MVが徹底した整備を受けたエンジンを搭載されています。 興味深いことに、先に紹介した共食い整備に使用されたと思しきT-55(A)MVには少なくともERAの一部が残っていましたが、この戦車は完全に剥ぎ取られています。 
この姿は、同じ画像の左奥に見えるT-55(A)MVの砲塔とは著しく対照的です。そのT-55(A)MVでは、砲塔後部にERAを装着しているDIY的追加装甲の配置状況を見ることができます。

二枚目の画像の戦車後部にあるマーキングから、かつてはこの戦車が第5機械化師団に所属していたことを示していますが、 整備を必要として工廠に入った時には、実際には別の部隊で運用されていたとしても不自然なことではありません。




下の画像では1台のBMP-1がデポレベルの整備(分解やオーバーホールなどを含む高度な整備)を受けていますが、兵員席を撤去しても車内がいかに窮屈なのかがはっきりと分かります。このように内部空間が狭いため、BMP-1の設計者が燃料タンクをどこに配置するか巧妙な解決策を工面しなければならなかったのは、驚くようなことではないのかもしれません。
BMPの中に乗っていた歩兵にとっては残念なことに、燃料タンクは兵員席と後部ドアの間の区画に配置されました(注:後部ドアが副燃料タンクを兼ねている)。
歩兵を運ぶことができるAPCとIFVは需要が高く、BMP-1の頑丈さは長期間にわたる整備の怠慢や戦場での酷使を可能にしていますので、シリアで運用されているBMP-1のデポレベルの整備は珍しいものに違いありません。




下の画像では、(上の画像の車体から取り出したと思われる)T-55(A)MVの砲塔が内部の整備を受けています。
高度な火器管制システムを備え、一部には独自の赤外線映像装置も装備されていることから、T-55(A)MVはシリアで運用されている初期型のT-72(T-72 「ウラル」、T-72M、T-72M1)よりも強力な相手であると言えます。

また、この戦車は(少なくともより高度なT-72Bの派生型とT-90S(シリアのサービスで9M119 スヴィーリ/レフレークス GLATGMを装備している)が引き渡される2015年までは)9M117M砲発射式対戦車ミサイル(GLATGM)の搭載が確認された、シリアで運用されている唯一の戦車でもあります。

T-55(A)MVのもう一つの特徴は、砲塔、車体とサイドスカートの広範囲にわたってコンタークト-1 ERAが装着されていることです。運用中にある同型戦車の大半は現在でもその原型をとどめていますが、この戦車はERAを全て別のやり方で再装着されています。 このDIY的なERAの配置は確かにオリジナルのものよりも高水準ではないように見えますが、それはおそらくERAがもたらす防御力にあまり影響を与えることはないでしょう(注:配置が少し違ったとしても防御力に変化がないということ)。
この画像では、砲塔のすぐ後ろの壁にT-72の転輪が並べられていることにも注目です。



放棄された施設の一角ではタイヤとトラックのエンジンの山が埃を被っており、そのほとんどが二度と使用されないことを示唆しています(下の画像)。



下の画像では、ボロボロのT-72AVが(既に車体から脱落してしまっている)コンタークト-1ERA付きのサイドスカートを保持するために使用されていた部分に(整備兵の)注目を受けています。
酷使のため、多くのT-72AVはすぐにサイドスカートなしの状態になってしまいました(実際、これは共和国防衛隊の戦車兵が持つ一般的な不満の一つでした)。たいていはRPGの一撃でサイドスカートが脱落し、車体側面が(更なる)敵のRPG攻撃に対して危険なほどに晒されてしまったのです。
この戦車には砲塔の防御力の簡易的な向上策として、スラットアーマーとして機能すると同時にスペースに土嚢や他の物を入れて防御力をさらに高めることができる、溶接した金属棒で作られた鉄カゴを取り付けられています。



下の画像では、300馬力を誇るBMP-1のUTD-20エンジンが整備を受けています。
シリアの機甲部隊は 2012年以降の継続的な戦闘に従事しており、極めて重要な修理を受ける時間がほとんどないため、それが戦場での高い故障率をもたらしています。実際、車両や装備の定期的な整備はシリア内戦や大半の紛争において見過ごされてきた要素であることが証明されています。いかなる高度な装備にも当てはまりますが、コンポーネントは定期的に点検、テスト、修理または交換されなければなりません。
これらの事実を考慮すると、ロシアがT-62M(V)や BRM-1(K)のような旧式装備を供与したことは、戦闘効率を維持するために定期的な整備が必要な(しかもマンパワーも消耗する)より高度な装備を引き渡すよりは賢明なものといえます。



近い将来、ハマー県にあるシリア軍の主要な戦車・大砲の修理工場をカバーする記事を投稿する予定ですのでご期待ください!



全ての画像はスプートニクのMikhail Voskresensky氏のご厚意によって掲載されました。


 ※  この翻訳元の記事は、2020年11月23日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
   により、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。

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