2023年6月17日土曜日

無残な結末:短命に終わったヨルダンの「CH-4B」UCAV飛行隊


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 無人戦闘航空機(UCAV)を運用する国が年々増加している中で、ヨルダンは保有する全UCAVを運用開始から約2年で退役させてしまったことは知られていません。

 この劇的な動きの原因にあったのは、同国の6機から成る中国製「CH-4B」武装ドローン飛行隊の性能でした。このUCAVは信頼性が低く、ほかのヨルダン空軍(RJAF)が有するアセットと互換性がなく、さらに(ジャミングなどの)厳しい電子戦環境下で運用できないことが明らかであったため、RJAFでほとんど運用されずに売りに出されてしまったのです。[1]

 ヨルダンは2016年に最初の「CH-4B」を導入し、6機はザルカ空軍基地H4ルワイシェッド空軍基地に分遣隊を置くアブドッラー2世空軍基地の第9飛行隊に配備されました。[2]

 当初、ヨルダンは(「CH-4B」を調達する以前に)イタリア製の武装型「ファルコ-EVO」に注目していましたが、最終的にその生産の実現が結実することはありませんでした。 また、アメリカはヨルダンに非武装型の「MQ-1 "プレデター"」や「プレデターXP」を提供する意思を示したものの、武装可能ないかなる種類のUAVの引き渡しについては拒否しました。[3]

 ほかにUCAVを獲得する機会(販売国)が全くなかったため、ヨルダンはその時点で武装ドローンを販売してくれる唯一の国:中国に目を向ける結果に至りました。

 2015年にイラクが導入した「CH-4B」と異なり、ヨルダンが得たタイプは1,500kmを超える距離での運用を可能にさせる衛星通信装置(SATCOM)が装備されていました。[1]

 また、UCAVと一緒に大量の「AR-1」空対地ミサイル(AGM)や「FT-9」誘導爆弾も調達されており、後者はヘッダー画像で「CH-4B」の主翼パイロンに取り付けられている姿を見ることができます。

 すでに2018年11月の時点でヨルダン空軍は「CH-4B」の性能に不満であり、退役を検討していることを露わにしました。結局、このUCAVは2019年前半に退役させられた後に売りに出されるという結果を迎えました。[1]

  当初は6機全てがヨルダンから多大な支援を受けているハリーファ・ハフタル将軍率いるリビア国民軍(LNA)に売却されたと報じられましたが、ドローンが迎えた本当の運命はいまだ謎に包まれています。[4] 

 もっとも現実的なシナリオとしては、(LNAと違って)すでに大規模な「CH-4B」飛行隊を運用しているサウジアラビアに売却された可能性が挙げられます。

 ヨルダンと同様に、サウジアラビアも「CH-4B」の運用で問題に直面したようです。伝えられるところによれば、よく出くわす問題として、修理や整備に関する資料が不足していたり、スペアパーツの在庫や発注システムが無いといったことが含まれています。[5]

 同型機を2015年に導入したイラクでも同じ結果であり、全20機のうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために、現在は格納庫で放置され続けているようです(注:2022年8月に最初の「CH-4B」が運用に復帰したと報じられました)。[6] [7]

 別の「CH-4B」ユーザーであるアルジェリアは、数か月のうちに3機を事故で失ってしまいました。[8]


 「CH-4B」が退役した後のRJAFは、偵察や標的の捜索・指示、さらには精密打撃用に有人機を使用する状態に逆戻りしています。

 現在のヨルダン軍で運用されている唯一のUAVは「シーベル」「S-100 "カムコプター"」VTOL型無人航空システム(UAS)であり、10機未満の数が現役にあると考えられています。[9]

 また、ヨルダンは2010年代前半から中盤にかけて導入した4機から成るイタリアの「セレックス(注:現在はレオナルド社)」製「ファルコ」UAV飛行隊も運用していました。ヨルダン軍の「ファルコ」は少なくとも2機がシリア南部での作戦中に撃墜され、残った2機も2017年後半から翌年前半にかけて密かに退役したと伝えられています。 [10] [2]

 「CH-4B」が行っていた精密打撃の任務は、2013年にUAEから贈与された6機の「AT-802U」によって引き継がれています。

 当初イエメンによって発注されていた4機の同型機も(内戦などの原因でキャンセルされた結果として)、2016年にRJAFが導入しました。

 10機の「AT-802U」は「ウェスカムMX15」前方監視型赤外線装置(FLIR)を装備しており、「AGM-114 "ヘルファイア"」AGMや「GBU-12」、「GBU-58」レーザー誘導爆弾で武装することが可能です。

  約10時間という長い滞空時間や装備された高度なセンサー類、そして最新の精密誘導兵器の運用能力を考慮すると、ヨルダンは結果的に「AT-802U」を運用した方がより都合が良いと判断したと断言することができるでしょう。

レーザー誘導爆弾を搭載しているヨルダン空軍の「AT-802U」

 ヨルダンが「CH-4B」の運用を続けるよりも処分することを好んだという事実=保有する中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを全廃したことは、この中国製UCAVが抱えていた問題を解決するには、あまりにも厳しすぎたことを示しているのかもしれません。

 中国製UCAVは多くの国々で実戦投入されていますが、特にリビア、ナイジェリア、イエメンにおける作戦では、常にその性能に不十分な点が多くあったようです。[5] [6] 

 かつて中国製UCAVを導入した数か国は近年になってトルコ製UCAV、特に「バイラクタルTB2」の調達に切り替えています。

 ヨルダン空軍はFLIR装置や精密誘導兵器を装備した数種類の航空機の導入によって「CH-4B」の退役で生じた空白を何とか補完してきましたが、この国がいつの日か再び武装ドローンの導入を試みることは決して考えられないことではないでしょう。

 「CH-4B」で大失敗した後にヨルダンがUCAVの導入で再び中国に目を向けることは起こりえそうになく、アメリカがこれまで武装ドローンを販売することに消極的だったことを踏まえると、UAEやトルコが新たなサプライヤーとなる可能性が考えられます。



[1] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[2] Jordan modernises https://www.keymilitary.com/article/jordan-modernises
[3] FORCE REPORT Royal Jordanian Air Force https://www.4aviation.nl/wp-content/uploads/2016/12/Jordan-feb16-AirForces-Monthly-PatrickRoegies-Marco-Dijkshoorn.pdf
[4] Jordanian UAVs apparently sold to Libya https://www.defenceweb.co.za/aerospace/unmanned-aerial-vehicles/jordanian-uavs-apparently-sold-to-libya/
[5] Chinese CH-4B Drones Keep Crashing In Algeria For Technical Fault https://www.globaldefensecorp.com/2021/03/11/chinese-ch-4b-drones-keep-crashing-in-algeria-for-technical-fault/
[6] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[7] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[8] Tracking Worldwide Losses Of Chinese-Made UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/tracking-worldwide-losses-of-chinese.html
[9] Royal Jordanian Air Force: Fit for the Fight https://aviationphotodigest.com/royal-jordanian-air-force/
[10] Drones Are Dropping Like Flies From the Sky Over Syria https://warisboring.com/drones-are-dropping-like-flies-from-the-sky-over-syria/

※  当記事は、2022年1月17日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
    のです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま   
  す。



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