2026年4月25日土曜日

現代化への歩み寄り:セネガルの地域高速鉄道(TER)

TERの「コラディア・ポリバレント」:ナンバーから「B83500」系の車両と思われる。

著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2022年1月25日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 アフリカの各国では、効率的な公共交通機関の必要性に対する認識がますます高まってきています。2018年にはモロッコ初の高速鉄道が開通したほか、さらに4つのアフリカ諸国がモロッコの後を追う見通しです。

 2021年、セネガルは首都ダカールと新たな国際空港を結ぶことを目的とした通勤鉄道「地域高速鉄道:Train Express Régional(TER)」の運行を開始し、公共交通の効率化で飛躍的な進展を遂げました。TERでは、最高速度160km/hを誇る仏アルストム社製の最新型車両が使用されています。

 TER最大の目的は、国内の経済活動の大部分が集中している首都とセネガル国内の他地域とのアクセスを向上させることにあります。

 TERの工事は2016年後半に開始され、フランスのエクアンス社とタレス社のグループが電化関連及び信号設備を担当し、鉄道自体の建設はエファージュ社とトルコのヤピ・メルケジ社が結成した共同企業体によって行われました。ちなみに、ヤピ・メルケジ社は、ダカールの国際会議センターブレーズ・ジャーニュ国際空港など、セネガルで数多くの建設プロジェクトに携わってきた実績を有しています。[1]

 この鉄道路線は全長55kmで14の駅が配置されており、1日あたりの乗客数の見込みは11万5000人です(ダカール都市圏の人口は約400万人と推定)。TERの第1区間は2021年12月に開通していますが、ブレーズ・ジャーニュ国際空港へと繋がる第2区間の完成は2023年末の予定となっています。このプロジェクトの総費用は推定13億ドル(約1400億円)と見込まれているようです。[2]

 ティエスおよびンブールへの路線延伸工事については、早ければ2024年に着工される予定です(編訳者注:2026年現在で着工は開始されていない)。

人目を引くダカール駅は1914年に建設されたものの、長年にわたり放置されていました。TER開通のおかげで、再びダカール市のターミナル駅としての役割を担っています。

 ディアムニアディオという新興都市は、TERの恩恵を受けている都市の一つです。この都市の整備は、セネガル政府が推進する経済活性化計画(セネガル新興計画)において重要な役割を果たしています。

 ディアムニアディオ経済特区のねらいは、ダカールへの人口集中を緩和しつつ、全長32kmの新高速道路とバス高速輸送システム(BRT)、そしてTERを活用して、ダカールへの迅速なアクセスを提供することにあります。TERの片道料金は3ドルですが、セネガルの人口の半数が貧困ライン以下の生活を送っていることを考えると、多くの人々にとって依然として法外な価格設定と言えるでしょう。


 TERはセネガル初の電化路線であると同時に、同国初の標準軌路線(1435mm)という特徴を持っています。というのも、この国における既存の鉄道網は(当然ながら)軌間1メートルのメーターゲージを採用しているからです(編訳者注:フランス語圏のアフリカではメーターゲージを採用している鉄道が多い)。

 アルストム製の列車が最高時速160kmで走行できる2本のTER路線に加えて、同路線の隣接部には貨物列車用のメーターゲージ路線も敷設されていますが、さらに同路線をもう1本増設するスペースも残されています。このことは、セネガルが貨物輸送用に既存の貨物列車をそのまま活用できることを意味しています。つまり、わざわざ新しい標準軌の車両を購入する必要がないというわけです。

 左側には2本の標準軌路線が、右側には貨物列車用のメーターゲージ路線と2本目の貨物線路用のスペースが見える。

 セネガル向けの「コラディア・ポリバレント」は、アルストム社が設計・製造した電気・ディーゼル両用車両(EDMU)です。[4] この列車は4両編成で、1等車と2等車に分かれており、最大収容人数は約400名となっています。[5]

 EDMUには充実した空調システムが搭載されている点は大いに注目すべき特徴と言えます。
なぜならば、これはサハラ以南のアフリカにおけるあらゆる公共交通機関にとって不可欠な設備でありながら、旧式列車の大半には備わっていないものだったからです。

 また、「コラディア・ポリバレント」は(主に欧州で製造される新世代の列車に一般的に見られる規格の)低床構造 を採用したことで、特に身体の不自由な乗客にとって、車内への乗り降りがより容易なものとなっています。


 TERの開通に先立ち、セネガルは1987年にダカールとティエスを結ぶ通勤鉄道「Petit train de banlieue (PTB) 」の運行を開始しました。PTBは現在も運行されており、2010年代初頭にインドから導入した空調付きディーゼル気動車(DMU)が使用されています(編訳者注:PTBは2016年には廃止されたとのこと)。[6]

 新型の「コラディア・ポリヴァレント」EDMUに比べれば快適性はかなり劣るものの、それでも、これらの気動車(DMU)は今なおセネガルで最も近代的な列車の一つであり続けています。これは、この国が公共交通分野で成し遂げた進歩を明確に示している事例と言えるでしょう。

 ちなみに、セネガルでは首都ダカールにバス高速輸送システム(BRT)を導入する計画も立てられています。これは、首都の混雑した道路でスペースを奪い合い、大気汚染の源となっている小型バスに取って代わるものです。 [7]


 セネガルでは今でもよく見かける機関車牽引列車:PTBが運用しているDMUと同様に、これらの客車もインドから導入されたものだ。

 「地域高速鉄道(TER)」はセネガルをアフリカにおける公共交通の最先端に押し上げ、首都ダカールとその広大な郊外地域は今後数十年にわたる発展に向けて準備を整えています。TERの線路が通る場所には、新たな都市が次々と誕生していくことは、決してあり得ない話ではないでしょう。

 今後の延伸計画により、国内のさらに広範な地域をカバーする見込みのTERは、交通渋滞の緩和や大気汚染の削減を図りながら、セネガルの(経済的)成長を促進する上で極めて重要なアセットとなり得ます。他のアフリカ諸国の大半が同様の成果を望めるようになるのは、数年あるいは数十年先のことではないでしょうか。


 編訳者による補足:TERの第2区間( ダカール~ブレーズ・ディアニュ国際空港)は2025年12月にシステム統合試験が完了し、早ければ2026年前半に運行が開始される予定だ。[8]

[1] Senegal launches first stage of express railway line https://www.aa.com.tr/en/africa/senegal-launches-first-stage-of-express-railway-line/1364720
[2] Senegal's new commuter train makes first journey from capital Dakar https://www.reuters.com/markets/commodities/senegals-new-commuter-train-makes-first-journey-capital-dakar-2021-12-27/
[3] Senegal's new commuter train makes inaugural journey from Dakar https://youtu.be/nILd4I8Ec_0
[4] Alstom celebrates Coradia Polyvalent’s first journey in Senegal with APIX https://www.alstom.com/press-releases-news/2019/1/alstom-celebrates-coradia-polyvalents-first-journey-senegal-apix
[5] Alstom begins shipping Coradia Polyvalent regional trains for Senegal https://www.alstom.com/press-releases-news/2018/10/alstom-begins-shipping-coradia-polyvalent-regional-trains-senegal
[6] In a first, RCF to roll out AC metre gauge DMU for export http://archive.indianexpress.com/news/in-a-first-rcf-to-roll-out-ac-metre-gauge-dmu-for-export/768935/
[7] Senegal wants to introduce electric buses for public transport in the capital by 2025 https://www.africalogisticsmagazine.com/?q=en/content/senegal-wants-introduce-electric-buses-public-transport-capital-2025
※ 以下は編訳に際して参考とした資料である。
[8] TER Phase 2: Dakar–airport line completes system integration tests
https://railmarket.com/news/passenger-rail/44730-ter-phase-2-dakar-airport-line-completes-system-integration-tests?region=eu
[9] DAKAR https://www.urbanrail.net/af/dakar/dakar.htm
[10] 西アフリカ最大規模の経済特区整備計画が進むセネガル https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/aaefae0aaf919060.html
[11] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート 要約版 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375358.pdf
[12] アフリカ地域 在来鉄道を活用した都市交通改善に係る 情報収集・確認調査 ファイナルレポート https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12375366.pdf


 お知らせ2025年7月に上記本の改訂・分冊版である「The Armed Forces of North Korea Volume 1: Part 1: Korean People's Army Ground Forces Organisation, Strategy and Infantry」が発売されました。残りの巻も完成次第発売される予定です(記載情報は2025年現在のものにアップデート済み)。
 お知らせ2:2025年10月に「Volume 1: Part 2(陸軍AFV)」が発売されました。 
 
お知らせ3:2025年12月に「Volume 2(空軍)」が発売されました。
 お知らせ4:2026年2月に「Volume 3(海軍) 」が発売されました


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