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2023年11月26日日曜日

コーカサスの風変わりなAFV:アルメニアの「BMP-1-ZU」


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 自国軍の戦闘力を向上させるというアルメニアの試みは、小型軽量な多連装ロケット砲から塹壕の安全な場所で発射可能な遠隔操作式の機関銃、さまざまな種類のドローン、さらには対戦車ミサイル(ATGM)の脅威から戦車を守る赤外線ダズラーまでのあらゆる装備の設計・生産という形で具現化されてきました。[1] [2]

 これらの大部分については、 アルメニア軍が何十年にもわたって激しい紛争で戦っていたにもかかわらず全く注意を向けられなかったという事実と生産数が少なかったという結果として、無名のままとなってしまっていました。

 アルメニアは自国軍の現代化と戦力を拡大するための独自の解決策を考え出すことに創意工夫を凝らしているものの、機甲部隊の強化には比較的僅かな努力と資源しか費やしていません。

 2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニアは44日間の戦闘で250台以上の戦車を失い、徘徊兵器・「スパイク」ATGM・UCAV(無人戦闘航空機)に直面した大規模な機甲戦の無益性が実証されましたが、それはアルメニアがこれまで力を入れてきた努力の結果だったとも言えるでしょう。[3]

 2020年の戦争でこうした戦略が大敗に終わってから 2 年以上も経過した現在でさえ、アルメニア軍は従来の作戦プランから全く脱却できていません。[3]

 実施された数少ない装甲戦闘車両(AFV)の能力向上プロジェクトの1つとして、「MT-LB」汎用装軌装甲車の大半にユーゴスラビア製の 「M55」20mm三連装対空機関砲、まれに「ZU-23」23mm対空機関砲、さらには「AZP S-60」57mm対空機関砲を搭載するという火力支援車への改修事業があります。

 その偏在性と現代の戦場では見当違いな存在だったため、対空機関砲を装備した「MT-LB」は2020年の戦争で少なくとも40台が失われました。この40台のうち、約12台が「バイラクタルTB2」に、2台が「スパイク-ER」ATGMに撃破され、残る26台が鹵獲されています(注:ナゴルノ・カラバフにおける対空戦闘での有効性は低かったとしても、対地攻撃で一定の効果を発揮することは世界各地の紛争で実証されています)。 [2]

 数多くのDIY的な近代化を試みる対象となったもう1種類のAFVが、おなじみの「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)です。航空機やヘリコプターから取り外したロケット弾ポッドや三連装の「9M14M "マリュートカ"」ATGM用発射機の搭載による「BMP-1」の戦闘能力を向上させる最初期の試みは、第一次ナゴルノ・カラバフ戦争(1991~1994年)で大いに活用され、1990年台後半か2000年代初頭のどこかの時点でアルメニアの技術者によってより複雑な近代化をもたらすことに至らせました。

 この記事で「BMP-1-ZU」と言及する改修型は、「ZU-23」と「ZSU-23」から取り外された2門の23mm機関砲を搭載するという改修を受けた多数の「BMP-1」を指します。

 イランとギリシャが 「BMP-1」の「2A28」73mm低圧砲を搭載した砲塔を装甲で覆われた「ZU-23」へと換装したのに対して、アルメニアの技術者は73mm砲の上へダイレクトに機関砲を搭載するという気の利いた方法を考案しましたが、砲の上にあるレールからのATGM発射能力を失うという唯一の代償も伴いました。

 この結果として生み出されたのが、IFVとレーダー未装備の自走対空砲(SPAAG)の機能を組み合わせた装甲戦闘車両でした。


 23mm機関砲はヘリコプターや低空飛行する航空機に対して一定の有効性を持つものの、2020年の戦争でアゼルバイジャンのUCAVや長距離ATGMを搭載した攻撃ヘリ、そして徘徊兵器の脅威に対処するには完全に不十分であることが判明したのが明らかとなっています。

 もちろん、「BMP-1-ZU」が改修されたのは、アルメニア軍にとっての空の脅威が無誘導爆弾や無誘導ロケット弾で武装した(「Su-25」などの)低空を飛行する航空機やヘリコプターしかなかった時代であることを覚えておくべきでしょう。

 また、23mm砲の仰角が低いため、「BMP-1-ZU」は(何とかして敵を射程内に入れた場合に)友軍への火力支援を実施するという副次的な役割も果たすことが可能となっています。

 IFVと対空自走砲を組み合わせるというアルメニアの解決策は素晴らしいものでしたが、「BMP-1」に対空機関砲を搭載するという単純な作業にしては、その運用方法が非常に面倒な解決策にもなってしまいました。なぜならば、砲塔内部から機関砲を操作する仕組みのため、砲手の作業負荷が大幅に増加してしまったからです。つまり、砲手は73mm低圧砲と「PKT」 7.62mm同軸機銃に加えて対空機関砲も操作する必要が生じたというわけです。

 機関砲弾は通常ならば「ZU-23」専用の40発入りの弾薬箱2個に収められているものですが、「BMP-1-ZU」では砲塔の周囲に沿って設けられたケースに入れられたベルトリンクから砲に装弾される方式になったため、弾詰まりが大幅に生じやすくなっています 。

 創意工夫の結果としてこの非常に巨大な車両が誕生したわけですが、その複雑さは堂々たるものである一方で驚くほど実用性に欠けるものでもありました。


 「BMP-1-ZU」は、(現在のアルメニアでアルツァフ共和国と呼ばれる)ナゴルノ・カラバフに配備されているアルメニア軍によって使用されていたようです。

 首都ステパナケルトで行われたアルツァフの戦勝記念パレードに参加する目的で、「BMP-1-ZU」は(アルメニア国旗に白い逆「く」の字状の模様が加わえられた)アルツァフの国旗と紋章で装飾されたことがありました。このマーキングはパレード後もしばらくの間は残っていましたが、2020年の戦争でアゼルバイジャンによって鹵獲された1台の「BMP-1-ZU」では消えている状況がはっきりと分かります(注:新たにデジタル・パターン状の迷彩塗装が施されるに伴って塗りつぶされたのかは不明)。

「BMP-1-ZU」は「ZSU-23」自走対空砲から取り外された2門の「2A7」23mm機関砲を搭載した派生型である

 アルメニアで依然として運用されている少数の火力増強型「BMP-1」は、ナゴルノ・カラバフをめぐる新たな紛争が機械化部隊による大規模な戦闘から成ると考えられていた過去を思い出させる存在として、今後も引き続いて運用される可能性が高いでしょう。

 この風変わりなAFVは次第に戦われる可能性が年々低くなった紛争のために考え出されたものですが、それでもアルメニアの技術者の創造力と海外から調達した装備に依存せずに独自の解決策を見出す能力を示しています。

 この種の創意工夫が、今後10年間におけるアルメニア軍の再建に重要な役割を果たすのではないでしょうか。


[1] Trench Warfare Revisited: Armenia’s Indigenous Remote-Controlled Armament https://www.oryxspioenkop.com/2021/03/trench-warfare-revisited-armenias.html
[2] Shoot-And-Scoot: Armenia Designs New Lightweight MRL https://www.oryxspioenkop.com/2021/07/shoot-and-scoot-armenia-designs-new.html
[3] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
  したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した