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2024年1月13日土曜日

南アジアの稲妻:パキスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタンは1990年代後半から豊富なUAVの運用国であり続けています。

 2004年、パキスタン空軍(PAF)は「SATUMA( 偵察及び標的用無人航空機)」社「ジャスース(スパイ)Ⅱ"ブラボー+"」 を導入したことで、空軍がパキスタン軍内で最初にUAVの運用をした軍種となりました。

 PAFに続いて、パキスタン陸軍(PA)はすぐに「グローバル・インダストリアル&ディフェンス・ソリューションズ(GIDS)」社によって設計・開発された「ウカブ(鷲)P1」UAVを導入し、2007年には運用試験を始め、翌2008年に正式な運用に入りました。

 「GIDS」社は「ウカブP2」として知られている「ウカブP1」のさらなる能力向上型を開発し、同機は2010年にパキスタン海軍(PN)に採用されました。

 情報が極めて少ないパキスタンにおけるドイツ製「ルナ」UAVの物語は、2000年代にPAが主要戦術UAVとして「EMT(現ラインメタル)」社製「ルナX-2000」を調達した時点から始まりました。

 PNもこの機種に好印象を持ったようで、2010年ごろから独自の「ルナX-2000」採用計画に着手しましたが、この計画は(おそらく資金不足が原因で)先送りされたようで、その代わりに臨時の措置として国産の「ウカブP2」が採用されました。

 「ウカブP2」が現役から退いた2017年に、PNはついに「X-2000」より長い航続距離と能力が向上した高性能型である「ルナNG」を導入しました。

 まだ「ウカブP2」がPNで現役にあった2016年、長い滑走路なしで離陸可能な戦術UAVの需要は結果としてPNにアメリカから「スキャンイーグル」を導入するに至らせました。

 なぜならば、PNは2008年にオーストリアの「シーベル」社製「カムコプター S-100」のトライアルを実施したことがあったものの制式採用せず、海上での運用に適した無人機システムを長く探し求めていたからです。

 「ボーイング・インシツ」社製「スキャンイーグル」はカタパルトで射出され、スカイフック・システムで回収される仕組みとなっています。これらのシステムのコンパクトなサイズは、「スキャンイーグル」を海軍艦艇のヘリ甲板から運用させることを容易なものにさせていることを意味しています。


 パキスタンは国内に配備されたアメリカ軍の「MQ-1 "プレデター"」無人戦闘航空機(UCAV)によって、武装ドローンの破壊的な能力をダイレクトに目の当たりにしました。

 このUCAVの配備とその後の実戦投入は、PAに強烈な印象を与えたに違いなく、すぐにアメリカから武装ドローンの購入を試みました。特に意外なことでもないでしょうが、この努力が無駄に終わったことは今では周知のとおりです。

 アメリカからUCAVの導入を断られたPAは東の隣国に目を向け、中国製「CH-3A」UCAVの生産ライセンスを取得し、国内で生産された同機種は「ブラク(稲妻)」と呼称されるようになりました。より高性能な無人プラットフォームが登場しているにもかかわらず、「ブラク」は現在でもPAとPAFで現役の座に残り続けています。

 「ブラク」の設計からインスピレーションを受けて、「GIDS」社が設計した改良型が「シャパル-1」です。この無人機システムは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用として、2021年にPAFに採用されました。

 ただし、「シャパル-1」は2021年の共和制記念日における軍事パレードで初めて一般公開された、「シャパル-2」ISR用UAVに取って代わられることになるでしょう。

 この新型機については、その後の2021年半ばに実施されたPAFの演習に参加する姿が目撃されため、すでに運用段階に入ったことが確認されています。「シャパル-2」は主にISRの用途で使用されるものの、最近に発表された武装型はPAFで運用されている「ブラク」を補完したり、その後継機となる可能性が高いと思われます。

武装型「シャパル-2」は2発の誘導爆弾などが搭載可能

中国からの買い物

 2021年、PAは「ブラク」飛行隊を中国製の「CH-4B」UCAVで補完しました。

 その一方、PAFは2016年に「翼竜Ⅰ」UCAVの運用試験を行っていたことが知られていますが、その1機が墜落したことでメディアの注目を集めました。[2]

 しかし、PAFはさらなる「翼竜Ⅰ」を発注することはせずに代わりとして、より優れた打撃能力をもたらす、より重い「翼竜Ⅱ」UCAVを選択しました。その後、2021年にPAFの基地で最初の同型機が目撃されました。[1]

 PNは陸軍の先例に倣って「CH-4B」の採用に落ち着いたようで、大量の同型機が2021年後半にPNに引き渡されました。[1]

 PAFは、自軍で装備するための高高度長時間滞空(HALE)型UAV計画を推めていることが判明しています。

 PAFの傘下にある「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、「CH-4」や「翼竜Ⅰ」級の国産軽量中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを開発していることが知られており、2021年に政府やPAFの関係者がPACを訪問した際にその1機が目撃されています。[3]

 国立工学科学委員会(NESCOM)は、2021年にトルコ航空宇宙産業(TAI)と国内で「アンカ-S」UCAVの部品を製造する契約に調印しました。[4]

 また、国境警備で運用している既存の僅かなUAV飛行隊を補完するために、パキスタン内務省(MOI)も新しいUAVを購入することを望んでいますが、現時点ではどうなるか不透明です。

パキスタン陸軍 (PA)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機
  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも5機を導入しているが、追加発注がある模様)


パキスタン空軍(PAF)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機


パキスタン海軍(PN)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機

  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも4機が導入されたが、未確認)


[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] https://twitter.com/KhalilDewan/status/1465475715567169538
[3] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。



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2022年8月5日金曜日

知られざる艦艇の話:バングラデシュの「キャッスル」級哨戒艦



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2020年8月にベイルートで発生した壊滅的な大爆発の映像は、2.750トンの硝酸アンモニウムの保管に関する驚くべき無能と過失によって207人を死に至らせたことに加え、150億ドルを超える損害を生じさせたとして世界中に衝撃を与えました。

 また、この爆発事故によって、国連レバノン暫定軍の海上任務部隊の一員として地中海に派遣され、ベイルートに駐留(停泊)していたバングラデシュ海軍艦艇「BNS ビジョイ(上の画像)」も被災しました。近くにあった穀物倉庫が爆風の大半を受け止めたおかげで爆発による最も極度な影響から免れることはできましたが、それでも乗組員から21名の負傷者が生じ、「ビジョイ」自身も無事に帰国する前にトルコで修理を受けなければなかったのです。[1]

 「BNS ビジョイ(勝利)」は2011年初頭からバングラデシュ海軍で運用されている2隻の哨戒艦のうちの1隻です。両艦のキャリアは1980年代初頭のイギリスで始まり、「キャッスル」級哨戒艦として就役しました。

 この哨戒艦の主要な任務は、北海におけるパトロールと漁業保護の遂行にありました。また、この艦は緊急時の掃海作戦にも使用可能であり、最初から設けられてる兵員の収容スペースや広いヘリ甲板は、同艦をさらなる多数の補助任務にも完璧に適したものにしています。

 1982年のフォークランド戦争後、「キャッスル」級は3年ごとの交代制でフォークランド諸島の警戒任務に従事していました。

 これらは2000年代半ばまでに「リバー」級外洋哨戒艦「HMS クライド」に置き換えられることになり、「キャッスル」級の2隻は2005年と2007年にイギリス海軍から退役しました。

 当初、この2隻は2007年にパキスタン海上保安庁に売却される予定でしたが、取引が成立しなかったため、結果として2010年4月にバングラデシュ海軍へ売却されました。

 2010年5月以降、両艦は(イギリス北東部の)タインサイドにある「A&Pグループ タイン造船所」で大規模な改装を受けました。これにはエンジンのオーバーホール、新しいディーゼル発電機とデッキクレーンの搭載、乗組員の居住空間の徹底的なアップグレードが含まれており、一連の作業は2010年12月まで続きました。[2]

 2011年初頭にバングラデシュに到着した後、両艦は「BNS ダレシュワリ(同国を流れる川の名前)」と「BNS ビジョイ」として同国海軍に就役しました。[3]

       

 ほぼ間違いなく彼らのキャリアの中で最も興味深いものとして、新しい所有者の下で哨戒艦からミサイルコルベットに格上げされたことが挙げられます。

 バングラデシュで改修を受けた結果、「キャッスル」級は中国製の「C-704」対艦ミサイル4発とソ連の「AK-176」76mm砲の中国製コピー「H/PJ-26」で武装したイギリス起源の哨戒艦という世界でも類を見ない独特な艦となりました。

 40mm機関砲1門(後に30mm機関砲に換装)と小型艇に対する近接防御用の7.62mm汎用機関銃(GPG)数門だけを装備していたイギリスでの就役当時のものを考慮すると、これらの新たな艦載兵装は以前のものから著しく向上したことは一目瞭然でしょう。

 新たに搭載された兵装については、艦橋後部に設置された2門の有人式20mm機関砲と、対空・対水上レーダーと火器管制レーダーで一段と強化されています。

爆発に巻き込まれた「BNS ビジョイ」から下船して歩く負傷兵たち(2020年8月4日)

 1993年にモザンビークに初めて派遣されてi以降、バングラデシュ海軍は国連の平和維持活動に定期的に参加しています。約30年間で、バングラデシュ海軍の5,000人以上の人員が、アフリカ、中東、南米、アジアにおける国連ミッションを完遂しました。[4]

 2010年には、海軍はフリゲート「BNS オスマン」と哨戒艦「BNS マドゥマティ」の2隻を国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の一員として派遣しました。

 「BNS ビジョイ」は2020年8月4日に文字どおりに爆発に巻き込まれるまでの間、地中海のパトロール、海上阻止、対空監視、そしてレバノン海軍要員の訓練を任務としていましたが、被災後はコルベット「BNS ショングラム(056級コルベットの輸出型)」がその任務を引き継ぎました。[5]

爆発直後に撮影された「BNS ビジョイ」内部の状況

 広いヘリ甲板を備えているにもかかわらず格納庫が存在しないためか、「キャッスル」級にはイギリス海軍もバングラデシュ海軍も作戦配備の際に艦載ヘリコプターを配属させたことがありません。その代わり、ヘリ甲板は複合艇(RHIB)の格納場所や訓練・娯楽エリアを兼ねて使用されており、窮屈な船内に欠けながらも大いに必要とされるスペースを提供しています。

 将来的には、広大な甲板スペースをVTOL型UAV用に活用して「コルベット」の実質的な警戒範囲を大幅に拡大することが可能となるでしょう。この種のUAVはヘリコプターよりも運用コストが大幅に低いだけではなく、船内や甲板の空きスペースに置く専用の(コンテナなどの)小さな構造物に格納できるという付加価値も有しています。

消火訓練で放水中の「BNS ビジョイ」と「BNS ダレシュワリ」(2017年)

 バングラデシュ海軍は(改装された)中古艦艇の運用にかなり慣れている海軍として知られています。

 この2隻はかなりの艦齢にもかかわらず、地中海における国連のミッションへの派遣やバングラデシュの領海警備で、将来にわたってこの国の海軍で十分に役立つ見込みがあります。

 特に世界中のほかのコルベットと比較した場合、主に対空ミサイルや近接防御用火器(CIWS)といった現代的な武装面で乏しいかもしれませんが、現在進行中の大規模な軍の近代化・戦力向上事業「Forces Goal 2030」の後には上記の武装を導入した新型艦を目にする可能性があるでしょう。

 この事業で中国から「035」級潜水艦を導入したことを踏まえると、バングラデシュ海軍には期待すべき明るい未来が待っていることは間違いありません(注:「035」級はバングラデシュ初の潜水艦です)。



特別協力: Rahbar Al Haq (敬称略)

[1] Beirut blast-damaged BNS Bijoy returns home https://www.dhakatribune.com/bangladesh/2020/10/25/beirut-blast-damaged-bns-bijoy-returns-home
[2] A&P Tyne wins massive refit https://www.thenorthernecho.co.uk/news/8119098.p-tyne-wins-massive-refit/
[3] Bangladesh Secures 2 Used British OPVs https://www.defenseindustrydaily.com/Bangladesh-Secures-2-Used-British-OPVs-06369/
[4] Role of Bangladesh navy in UN peacekeeping mission https://m.theindependentbd.com/printversion/details/201462
[5] Bangladesh Navy corvette BNS Shongram en route to help in Lebanon https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/2020/august/8858-bangladesh-navy-corvette-bns-shongram-en-route-to-help-in-lebanon.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。




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2022年3月19日土曜日

大いなる嵐:パキスタンが「バイラクタルTB2」の導入に関心を示す


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 (当記事の執筆時点である2021年10月現在で)少なくとも世界中の7カ国で運用が開始されている中、最近ではさらに数カ国が「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)を導入するべくトルコと交渉段階にあると考えられています。[1]

 これらの国の1つが、今や国産の「ブラク」ドローンに支えられた中国の無人戦闘航空機(UCAV)飛行隊を運用しているパキスタンと云われていました(注:パキスタン空軍が2022年3月11日にTB2と「アクンジュ」などが撮影された動画が公開しましたので、すでに導入されたことが判明しました)。[2]

 これらの機種に加え、同国は現時点で数種類の国産UCAVの開発中です。少なくともこの中の1機種については、「アンカ」 U(C)AVを開発した「トルコ航空宇宙産業(TAI)」との協力を通じてトルコの技術を取り入れることを目標とした開発が進められています。 [3]

 すでにUCAV飛行隊が存在しており、今後10年の間にいくつかの国産UCAVが就役する見込みであるため、同国のTB2への関心について異論を示す人がいるかもしれません。

 とはいえ、パキスタンは多くの異なる供給源からUCAVを入手しようと試みる世界で最初の国ではありません。なぜならば、今の時点でナイジェリアは(国産機が開発中であると同時に)中国とUAE製の武装ドローンを運用しており、サウジアラビアも中国とトルコのUCAVを運用しているだけでなく、「サクル」という国産機も開発中だからです。

 パキスタンが「バイラクタルTB2」に興味を示す動機の背景には、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビアでの素晴らしい運用実績が大きく関係していると思われます。

 中国製UCAVもリビアやイエメンで頻繁に実戦投入されていますが、ヨルダンでは「CH-4B」を導入してから2年も経たないうち全機を売りに出すなど、性能に不十分な点が多くあります。[4]

 同型機はイラクでも同じ結果を辿っており、全20機のうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために、現在は格納庫で放置され続けているようです。

 
 サウジアラビア、カザフスタン、ナイジェリア、UAE)といった中国製UCAVを運用している国でも、同様に「翼竜Ⅰ」「翼竜Ⅱ」「CH-3」と「CH-4」シリーズの運用で問題に直面したようです。[7] 

 よく遭遇する問題として、修理や整備に関する資料が不足していたり、スペアパーツの在庫や発注システムが無いといったことが含まれていると云われています。[7]

 ただし、ヨルダンとイラクとは逆に、UAEやサウジアラビアには、スペアパーツの調達やアフターサービスの量を増やすか、単純に(損失などで)運用から外れたドローンの代替機としてより多くのドローンを調達することによって、どんなときでもUCAV飛行隊の大部分の機体を運用し続けるための膨大な資金があります。
 
 お金で解決できる可能性がほとんど無いのは彼らのUAV運用における根本的な欠点であり、「バイラクタル外交」と比較した場合、地上では成果を全くもたらしていません。

 パキスタンが現在保有するUCAVの戦力は、国内の一部で活動している武装勢力に必要とされる精密攻撃には十分であるとは思われますが、インドとの従来型の戦争に直面した場合には完全に不十分なものです。

 つまり、パキスタンが「TB2」に興味を持った理由は、最新の地対空ミサイル(SAM)システムや電子妨害・欺瞞(EW)システムとの戦いで何度も勝利を収めたことにあるのかもしれません。

 同じSAM・EWシステムの多くがインドでも運用されているため、TB2が継続的なソフトウェアのアップグレードを通じて絶え間ない能力向上が図られ、前述のような戦果を享受してきたことは、パキスタン当局に大きな関心を生じさせたはずです。

 したがって、パキスタンがTB2を導入する可能性については、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンが得た成功を再現するための試みと解釈することができます。

 アゼルバイジャンと同様に、パキスタンも全長3.323kmにわたるインドとの国境に沿いに配備された大規模なインド軍機械化部隊と対峙しており、インド軍は戦車だけでも約4,000台を擁しているだけでなく、さらに数千台にも及ぶAFVも一緒に運用しています。

 2020年ナゴルノ・カラバフ戦争では、アルメニアの戦車部隊の多くがTB2や(同機によって目標が指示されることが多かった)「スパイク」対戦車ミサイル(ATGM)と徘徊兵器の手によって壊滅し、さらに100台の「T-72」戦車がアルメニアの乗員によって戦場で放棄されました。[8]

 戦いの規模は違うかもしれませんが、地球上で相当数の国がこの非常に重要な戦争から教訓を各自の先述に取り入れようと試みていると思ってもいいでしょう。

「バイカル・テクノロジー」社の「ハルク・バイラクタル」CEOから「バイラクタルTB2」の模型を受け取るパキスタンの「ナディーム・ラザー」統合参謀本部議長

 パキスタン軍はナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンの軍事的な突破口を切り開くことを可能にしたいくつかの重要な戦力、特に長射程型ATGM、誘導式ロケット弾、徘徊兵器を欠いているものの、現在ではこれらの欠点の大半を改善する試みが進められています。

 その1例が「ファター」シリーズ誘導式多連装ロケット砲(MRL)の開発です。

 このシリーズの最初のものは今後数年で運用が開始される予定となっており、その暁には、パキスタン軍は最大140kmの射程距離内の標的に対する精密なロケット弾攻撃を行うことが可能となるでしょう。また、最大で200kmの射程距離を持つ能力向上型も開発中にあると思われています。[9] 

 これらの誘導式MRLは、パキスタン陸軍の長距離精密打撃能力の向上に大いに貢献するでしょう。

 戦時における作戦シナリオとしては、「バイラクタルTB2」がシギントや(車両などの目標に対して75km以上あるとみられる)EO/IRセンサーの驚異的な能力によって敵の陣地や部隊の集結地点を検知し、その情報を受けた「ファター」誘導式MRLがそれらを攻撃する、というものが想定されます。


 運用状態にある長距離誘導式ロケット砲についてパキスタン軍では依然として不足していますが、それは大規模な弾道ミサイルと巡航ミサイル戦力で部分的に相殺されています。

 パキスタンは、今までに(射程面での)あらゆるカテゴリーの弾道ミサイルや巡航ミサイルを設計・開発したり、使用してきました。

 とはいうものの、それらの中でも巡航ミサイルだけが、アゼルバイジャンの兵器システム:特にイスラエルの「ロラ」弾道ミサイルやトルコの「TRLG-230」誘導式ロケット弾と同程度の命中精度を有する可能性が高いと思われます。

 ただし、この分野におけるパキスタン軍の戦力をさらに発展させることを目的とした同国の将来的な投資が行われる可能性は極めて高く、実際はすでに行われているのかもしれません。

 現在の開発状況がどんな状態にあろうと、こういった長距離兵器システムは、その潜在能力を最大限に活用するためにはUAVなどのアセットによる偵察に左右されることになるでしょう。



 TB2によってもたらされる、さらにもう1つの緊密な相乗効果の可能性としては、パキスタン空軍の「ミラージュ」、「JF-17」、「F-16」多目的戦闘機から成る飛行隊との連携が挙げられます。

 アゼルバイジャンが地上戦で勝利を制したため、2020年ナゴルノ・カラバフ戦争における有人機の実戦投入についてはほとんど忘れ去られていますが、同国の空軍は「Su-25」対地攻撃機で精密誘導爆弾でアルメニアのバンカーや塹壕を空爆し、戦争でも重要な役割を果たしました(注:アルメニア空軍も少数ながら同型機による決死的な攻撃を実施したことも忘れてならないことは言うまでもありません)。

 これらの標的の多くはTB2によって発見・目標として指示されたものであることから、事実上、このドローンは自身が搭載する爆弾を使い果たした後でも間接的に攻撃に関与し続けることができました。

主翼のパイロンに国産のレーザー誘導爆弾を搭載したパキスタン空軍の「JF-17」

 パキスタン陸軍が保有する戦力の中で、意外にも依然として欠けている兵器の1種が長射程の対戦車ミサイル(ATGM)システムです。

 現在のパキスタンは「コルネット-E」「バクタル・シカン」を運用しています(注:後者は1980年代に運用が開始された中国製「HJ-8」を90年代に国内でコピーしたもの)。その本来の役割では有用な「バクタル・シカン」ですが、アゼルバイジャン全軍で使用されている「スパイク」ATGMとは格が違います。なぜならば、「スパイク-ER II」の射程距離が10kmに対して、「バクタル・シカン」の場合は僅か4kmしかないからです。

 長射程型ATGMの調達はパキスタンの地上戦能力を向上させるのに大いに貢献するでしょうが、(近いうちにトルコか中国から導入される陸軍の次期攻撃ヘリコプター用の)空中発射型も同様に効果を発揮するかもしれません(注:パキスタンが保有する4機の「Mi-35M」は「9M120/AT-9 "アタカ "」ATGMを使用しています)。

 徘徊兵器もパキスタン軍には存在しない別種の兵器システムです。

 現在、隣国のイランとインドは数種類の徘徊兵器を運用しており、前者はその拡散と中東全域での使用に関与しています(例:イエメンのフーシ派やイラクのPMUの「ドローン」)。

 ごく最近では2021年9月に、インド陸軍は(国内で生産する)イスラエル製徘徊兵器「スカイストライカー」100機と、5kgまたは10kgの弾頭を搭載する独自開発の「スウォームドローン・ユニット」100機の供給に関する2つの契約に調印しています。[10] 

 これらは、すでにインドで運用されている「IAI」社製の徘徊兵器「ハロップ」を補完し、この分野で同国がパキスタンに対して現在持っている優位性をさらに高めるでしょう。
 

争いの空域

 パキスタンによるUCAV作戦に対抗するのは、インドの国内各地に配備されている地対空ミサイル(SAM)と電子戦(EW)システムであり、そのほとんどはパキスタンとの国境付近に集中しています。

 インドはイスラエル製「バラク8」や「スパイダーSR」のような最新型SAMの調達に多額の投資を行い、現在では多くの国産SAMの設計の最終段階にありますが、今のインド軍が保有している防空システムの大部分は、依然として「9K33/SA-8 "オーサ "」「9K35/SA-13 "ストレラ-10 "」「9K22 "ツングースカ "」などの旧式と化したシステムで占められています。
 
 これらを含む多くのソ連製防空システムは「バイラクタルTB2」との戦いで完敗し、「トール-M2」「パーンツィリ-S1」のような最新のSAMでさえも同じような最後を迎えました。

 インドのEW能力は、やや未知数です。とはいえ、それらがナゴルノ・カラバフ上空でTB2に対抗したロシアの最新EWシステムよりも性能がはるかに良いと示唆する根拠はほとんどありません。[11]

 ナゴルノ・カラバフで一連のEWシステムと対峙したドローンの生存性については、TB2が電波妨害(ECM)システムを搭載していることに加えて、おそらく「コラル」といった同盟国(トルコ)のEWシステムによって支援もされていたことを示している可能性があります。

 「バイカル」社の「ハルク・バイラクタル」CEOは、ロシア製EWシステムがTB2の運用を妨害する能力を持っていないことが実証されたと述べました:「ロシアの電子戦システムはたとえ1時間でもバイラクタルTB2の作戦を妨害することはできないでしょう。そして、トルコの無人機は常に空中にとどまることができるでしょう。」 [12]

パキスタンの防衛産業との協力
 
 パキスタンの「国立工学科学委員会(NESCOM)」「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、いずれもUAVの設計・製造に携わっています。

 トルコとのドローン技術での協力や、(おそらく見込みがありそうな)パキスタンでのTB2の生産でさえも、初期段階にあるパキスタンのUAV産業を真に効果的なレベルにまで引き上げるのに役立つ貴重な知見を提供するでしょう。

 「バイカル」社との契約は、国内でデポレベルのメンテナンスや再組み立てを行うための整備施設の設立に至る可能性もあります。

 さらに、TB2のモジュールシステムは、導入国独自の装備を機体にインテグレートすることも可能にさせています。特にパキスタンの場合、これには独自設計の兵装やレーダーが含まれるかもしれません。


 上記のような要素と、低コスト、高い有効性、優れたアフターサービスの組み合わせが、国際的な成功の方程式であることがすぐに証明されています。

 さらに、それらと実証された戦闘能力と迅速な増産ができることの組み合わせが、実質的にTB2を「大いなる嵐」にし、このカテゴリーのUCAVの世界市場を乗っ取る態勢にあり、その過程でさらに多く広まりつつあるドローン戦の時代の到来を告げています。

 「バイラクタルTB2」はUCAVが従来型の戦争で全く役に立たないという概念への挑戦に成功したことと、対反乱作戦での有効性もよく知られていることが相まったおかげで、近い将来により多くの国が同機の導入に関心を持つようになるに違いありません。

 まさに、これらの偉業こそがパキスタンにとってTB2を魅力的な可能性を秘めたUCAVにしていると思われます。おそらく、遠くないうちにTB2がパキスタンの空を飛び、この国が拡大を続ける世界中のTB2運用国のリストに追加されることになるでしょう(前述のとおり、この記事が翻訳され、公開を待つ間にパキスタンがTB2と「アクンジュ」を導入したことが明らかとなりました)。


[1] Turkey In Talks With 10 Nations Including Pakistan To Sell Its Most-Powerful Drone – Bayraktar TB2 UCAV? https://eurasiantimes.com/turkey-in-talks-with-10-nations-including-pakistan-to-sell-its-most-powerful-drone-bayraktar-tb2-ucav/
[2] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html
[3] IDEF 2021: Pakistan's NESCOM to manufacture parts for Anka UAV https://www.janes.com/defence-news/news-detail/idef-2021-pakistans-nescom-to-manufacture-parts-for-anka-uav
[4] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[5] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[6] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[7] Questions raised about China’s armed drones https://www.gsn-online.com/article/questions-raised-about-chinas-armed-drones
[8] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[9] Guided Deterrence: Pakistan’s Fatah MRLs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/guided-deterrence-pakistans-fatah-mrl.html
[10] Indian Army orders locally produced loitering munitions https://www.janes.com/defence-news/news-detail/indian-army-orders-locally-produced-loitering-munitions
[11] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.html
[12] Russian Electronic Warfare Systems Cannot Beat Bayraktar UAVs: Baykar https://www.defenseworld.net/news/29086/Russian_Electronic_Warfare_Systems_Cannot_Beat_Bayraktar_UAVs__Baykar

※  当記事は、2021年10月6日に本家Oryxブログ(英語版)に投稿された記事を翻訳した
  ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
  があります。



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