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2022年6月7日火曜日

ギリシャからの興味深い贈り物:ウクライナ軍の抵抗に対するギリシャの支援


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 これまでに、EUとNATOのほぼ全加盟国がロシア軍と戦うウクライナを支援するために、程度の差はあるものの軍事的な支援を行ってきています。

 スロバキアによる「S-300PMU」地対空ミサイル(SAM)システムの譲渡のほか米英による「ジャベリン」や「NLAW」対戦車ミサイル(ATGM)の供与が大いに注目されていますが、そのほかにも多くの国が独自のやり方で貢献していることは見落とされがちです。

 その国の1つが早くも2月27日にウクライナへの軍事支援を表明したギリシャです。その支援の内容は、「カラシニコフ」アサルトライフル2万丁、「RPG-18」使い捨て対戦車擲弾発射器815個、そして数が未公表の122mm無誘導ロケット弾で構成されていました。[1] 

 その直後に少なくとも飛行機2機分の積載量に相当する武器と弾薬がウクライナに送られ、今やロシア軍との戦闘に用いられているようです。[2]

 それ以来、ギリシャが追加の兵器に関する供給源の有力な候補として何度も言及されるようになったことはよく知られています。

 特筆すべきポイントとして、ギリシャはウクライナ軍が(現在供与されている大部分の西側諸国の兵器とは逆に)すでに使い慣れているソ連製の膨大な兵器群を運用していることが挙げられます。これらには「S-300PMU-1」、「9K331 "トール-M1"」、「9K33"オーサ"」SAMシステムに加え、多連装ロケット砲(MRL)、装甲戦闘車両(AFV)などが含まれます。

 この理由から、アメリカがただちに実戦投入可能なソ連製兵器の供給源としてギリシャに注目し、キプロスに対して「9K37M1 "ブーク-M1"」や「トール-M1」SAMシステムなどの供与を要請したことと同じ取り組みを行ったことは確実です。[3] 

 それにもかかわらず、4月初頭にギリシャ政府は「自国の防衛力を落とすようなことはしない」という理由でそのような兵器の供給を公式に拒否し、その後にウクライナへ追加の軍事装備を送る計画がないことを明らかにしました。[4] [5]

 「トール」や「ブーク」といった(西側諸国が供与したMANPADS)より長射程のSAMシステムを入手する手段がほかに全く存在しないウクライナにとってギリシャ政府の声明に失望したに違いありませんが、ギリシャからすると「オーサ」や「トール-M1」といった高度な兵器の供給がトルコに対する自国の態勢を著しく弱体化させる可能性があることにも注目すべきでしょう。

 各国がウクライナへのハイレベルな装備の供給を決定した場合、アメリカはそれに対する補償や実施国へのアメリカ製システムの一時的な配備を約束していますが、現在ギリシャで使われている兵器を相応しく代替できる西側製のシステムは僅かしか存在しません。

 資金不足のおかげでギリシャ軍は代替システムを調達できない可能性が高く、アメリカによるそれらの供与はトルコから激しい抗議を引き起こすことが予想されます。

 ギリシャは「トール」を運用している有一のNATO加盟国であることに加えて特に「S-300PMU-1」は同国にとって(少なくとも書類上は)最も貴重な防空戦力の1つです。この事情とポーランドとブルガリア、そしてルーマニアはいずれも相当な数の「9K332"オーサ"」を運用していることを考えると、これらの国々がより賢明な防空システムの調達先であることを示しています。

 ギリシャの「S-300PMU-1」は1990年代後半に発生したキプロスのミサイル危機の結果として同国から引き継いだものですが、ミサイル発射機などのシステムは一般的な「S-300」で見られる重装軌車両や「MAZ-543M」トラックに搭載されているのではなく、「KrAZ-260B」セミトレーラー車で牽引されているのが特徴です。

 したがって、「PMU-1」のレーダーシステムだけでも展開に最大で2時間を要する可能性があることで戦術的な機動性が著しく低下するため、システムの展開場所を地上発射型の対地兵器に指示可能なロシアのUAVにさらされるリスクが高くなってしまうのです。

 ウクライナはすでにこのことを痛感していると思われます。なぜならば、ウクライナ軍は戦争の最初の数日間で(「S-300PT」 で使用される)「5P851A」セミトレーラー式発射機12基を失っているからです。[6]

現在はクレタ島に配備されているギリシャの「S-300PMU-1」SAMシステム

 最大2万丁にもなるAK型「カラシニコフ」アサルトライフルと815発の「RPG-18」、そして(「BM-21」または「RM-70」MRL用)122mm無誘導ロケット弾の供与は、先述の「S-300」のような重装備の供与に比べるとかなり見劣りしますが、ギリシャからの武器に注目すべき点がないとは言い切れません。

 例えば、ギリシャが2万丁のAK型アサルトライフルを保有するに至った経緯は少なからず皮肉的な要素が含まれているので興味深いものがあります。

 革命前のヤヌコビッチ政権下ではウクライナはいかがわしい武器取引から収益を上げることに熱心であり、その相手を全く選びませんでした。

 シエラレオネの国旗を掲げてウクライナのムィコラーイウ港からトルコに向かっていた貨物船「Nur-M」が実際にはシリアやリビア向けの兵器を積載しているという情報をギリシャ当局が得たとき、これらの国々における受取先が何者であったのかは判断できませんでした。おそらくこのことが、ある匿名のウクライナ当局者がこの取引をリークしたのは実はロシアだったと語ったとされる理由の一つなのでしょう。[7]

 AK型アサルトライフル2万丁を含む56個の武器が満載されたコンテナは、最近までギリシャに保管されたままでした。ウクライナがこれらの輸出を否認したことによって、最終的にこれらの武器は終わりの見えないMENA(中東及び北アフリカ)諸国の内戦で用いられる代わりにロシア軍に対して使用するために...たった10年前には不可能と思えたに違いない結果:ウクライナ自身に戻す理由を見出されたというわけです。

 ギリシャはさまざまな種類のロシア製防空システムに加えて、「BMP-1A1 "オスト"」歩兵戦闘車(IFV)、100門以上の「RM-70」122mm MRL、「9M111 "ファゴット"」及び「9M133 "コルネット"」ATGM、「ZU-23」対空機関砲 などの多岐にわたるソ連製兵器を保有しています。「コルネット」ATGM以外は旧東ドイツ軍のストック品から調達したものであるため、ギリシャがそれらをウクライナに供与するにはドイツの許可を得なければなりません。

 ウクライナはすでにポーランドとチェコから大量の「BMP-1」と共に別の数か国から数百台の装甲兵員輸送車を受け取っていることから、ドイツの許可が供与の最大の障害とはならないでしょう。しかし、ギリシャ国内の事情やすでにウクライナ側に他国が支援しているので、実際に供与することが不要と判断されるかもしれません。

ギリシャ軍の「RM-70」MRL:同国は1990年代半ばに158基の「RM-70」を20万5千発の122mmロケット弾と共に旧東ドイツのストック品から調達しました[9]

 ギリシャ政府がSAMシステムを含む追加兵器の供与しないと決定したことはウクライナにとって失望を与えたことに疑いの余地はありませんが、同時に状況の全体像を考慮すると全く驚くことではないのです。

 ギリシャは、アサルトライフル、RPG、無誘導ロケット弾の提供を通じて、すでにウクライナへ軍事支援をした国の長いリストに加わっています。ギリシャの支援が世間からの注目を浴びることはないでしょうが、他国と合わせてウクライナの大義に大きく貢献することになるでしょう。


[1] Greek role within NATO is upgraded https://www.ekathimerini.com/news/1179620/greek-role-within-nato-is-upgraded/
[2] Greece Sends Military Aid to Ukraine https://greekreporter.com/2022/02/27/greece-military-aid-ukraine/
[3] The US asks Cyprus to transfer its Russian made weapons to Ukraine https://knews.kathimerini.com.cy/en/news/the-us-asks-cyprus-to-transfer-its-russian-made-weapons-to-ukraine
[4] Greece formally rejects US proposal to supply Ukraine with additional Russian-made weapon systems https://www.aa.com.tr/en/russia-ukraine-war/greece-formally-rejects-us-proposal-to-supply-ukraine-with-additional-russian-made-weapon-systems/2557146
[5] Greece says no more weapons for Ukraine https://www.euractiv.com/section/politics/short_news/greece-says-no-more-weapons-for-ukraine/
[6] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html
[7] What weapons did Greece send to Ukraine, and where did it come from https://en.rua.gr/2022/03/02/what-weapons-did-greece-send-to-ukraine-and-where-did-it-come-from/
[8] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[9] BMP-1A1 Ost in Greek Service https://tanks-encyclopedia.com/bmp-1-greece/

※  当記事は、2022年5月21日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。



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2022年5月7日土曜日

期待以上の応え:オランダがウクライナに供与する砲兵戦力とAFV


著:ステイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を開始する以前に、同国への多大な軍事支援を約束した最初のヨーロッパ諸国の1つがオランダです。この支援は、タレス製「スクワイア」地上監視レーダー2基、「AN/TPQ-36」対砲レーダー5基、「シーフォックス」自走式機雷処分用弾薬2セット、(対物)狙撃銃100丁とその弾薬3万発、ヘルメット3000個とボディアーマー2000着で構成されていました。[1]

 さらに、侵攻が始まった後には、「スティンガー」携帯式地対空ミサイルシステム50基とミサイル200発、「パンツァーファウスト3」個人携帯式対戦車砲50基とそのロケット弾400発を含む追加支援がすぐに発表されました。[2]

 ほどなくして、オランダの国防相は「作戦上の機密を保護するため、ウクライナへの武器引き渡しに関する詳細な情報をこれ以上は明かさない」旨を公表しました。[3]

 それでも、オランダ国防省は3月31日までに5000万ユーロ(約63億9500万円)以上の武器をウクライナに引き渡したと報告したことを踏まえると、ウクライナへの軍事支援の流れが妨げられることなく続いていることは確実と思われます。[4]

 カイサ・オロングレン国防相は「オランダが軍事支援を継続するにつれて、その量はさらに増加する」旨を述べ、すでにより多くの武器供与が計画中であることを示唆しました。

 オランダの歓迎すべき変化として、同国防相は「ウクライナにロシア軍を阻止するために必要な武器類を提供することについて、金銭は重要な検討課題ではない」とも明言したことが注目されます。[4]

 4月19日、オランダのマルク・ルッテ首相は、ウクライナに対して装甲戦闘車両(AFV)を含む重火器の供与も開始することを公表しました。[5]

 この件は、ルッテ首相とこれまで何度も自国への重火器の供与をヨーロッパ諸国に働きかけてきたゼレンスキー大統領との電話会談の結果として実現したものです。

 アメリカやいくつかの中欧諸国はこの働きかけに十分に応えたものの、スペイン、イタリア、ドイツといった国々はウクライナの窮状をほぼ無視しています。結果としてドイツはこの問題を外交政策的に大失敗させてしまい、ショルツ政権に対する圧力が高まってしまっていることは言うまでもありません。

 オランダは過去20年間に重装備の大部分を整理しており、「レオパルド2A6」戦車、「M270」MLRS、「ゲパルト」自走対空砲などの兵器は予算削減の影響で全てが売却などの処分を受けましたが、オランダ軍は依然として過去20年間に退役した装甲戦闘車両やその他の重火器類のかなりの数を維持し続けています。

 現時点でこれらの大半は国内に多く存在する軍用倉庫に保管されており、海外からの買い手を待ち続けている状態にあります。こうした兵器には、最大で500台の「YPR-765」装甲兵員輸送車や各種AFV、13門の「FH-70」155mm榴弾砲が含まれています。特に後者は2001年から保管状態にありますが、残念ながら今でも買い手が見つかっていません。[6]

 同様に、将来的に「YPR-765」の売却で得られる収益が(2012年以降現役で使用されていないこれらのAPCの)保管費用を上回る可能性はほとんど無きに等しいと思われます。したがって、こうしたデメリットが保管兵器をウクライナへ無償譲渡される道を開くことになるでしょう。

 しかし、自体は驚くべき方向に展開しました。オランダがウクライナにAFVだけでなく、最新で高性能を誇る「パンツァーハウビッツェ2000NL(PzH2000NL)」155m自走榴弾砲(SPG)も多数供与することを実際に検討していると報じられたのです。[7]

 提案された協定の下では、オランダが(6〜8台と思われる)「PzH2000」を供与し、ドイツが自国かポーランドでこの自走砲を使用できるようにウクライナ兵を訓練すると共に必要な砲弾を提供することになっています。

 「PzH2000」は各国からこれまでにウクライナに供与された地上展開型火力支援アセットの中で最も高性能なものであり、その供与はウクライナへの支援に対する本気度を明確に示すものとなります。

 ウクライナの友好国がこれまで供与した兵器の多くは旧式化した兵器か余剰となったストックであるため、この自走砲の供与は、オランダを高度なレベルの支援を約束する意思がある極めて少数の国に昇格させることになるでしょう。

オランダ陸軍の「PzH2000」自走榴弾砲(砲身基部の砲口速度レーダーに注目)

 「PzH2000」はこの地球上で最も高性能な自走榴弾砲の1つであり、生存性・機動性・長射程・高い発射速度といった性能と目標に最大限の効果をもたらす多様な最新型の砲弾を兼ね備えています。

 この自走砲の高度な性能にはMRSI(同時弾着射撃)を用いた攻撃が可能なことが含まれており、これを行う場合、搭載されている自動装填装置は最大で5発の砲弾が同時に弾着するような軌道を描くように適切な装薬を自動で選択する仕組みとなっています。そのような任務をサポートするため、発射された各砲弾の速度を測定して正確な修正射撃を行うことも可能な砲口速度レーダーを砲身基部に備えていることも特徴です。

 精密な誘導打撃を可能にする(この自走砲が使用できる)誘導砲弾は存在するものの、ウクライナがそのような特殊な砲弾を受け取れるかどうかは不明です。しかし、供与予定であるオランダの対砲レーダーが「PzH2000」の有効性に多大な貢献をしてくれるかもしれません。

 「PzH2000」は頑丈なAFVですが、すでに何度もウクライナの砲兵陣地や隠れ家を狙っているロシア軍の(武装)ドローンから守るために、行動時には地対空ミサイルシステムの支援を得ることが理想的といえます(注:航空戦力が優勢な敵を相手にする場合はエアカバーが必須であることは言うまでもないでしょう)。
 
 オランダは陸軍で運用していた「M109」自走榴弾砲を更新するために2002年に合計で57台の「PzH2000」を調達しましたが、予算削減が公表された2003年になると、オランダ陸軍には「PzH2000」が39台しか配備されないことが取り決められました。 配備されないことになった残りの18台は、高額のキャンセル料を払う代わりに、製造されてからすぐに売りに出されてしまいました。[8] 

 その翌年、オランダ陸軍は予算削減のせいでさらに24門の「M270」MLRSシステムも退役させなければなりませんでした。

 2007年と2011年の2回にわたる予算削減によって、オランダ陸軍はそれぞれ12台と6台の「PzH2000」を退役させられてしまい、最終的には現役の自走榴弾砲はわずか18台まで減少し、さらに数台が訓練用の車両として用いられるにまで至ったのです。[8]

 しかし、2014に発生したロシアのクリミア占領とドンバス戦争によってもたらされたヨーロッパにおける安全保障の激変は、多くのヨーロッパ諸国に防衛政策の見直しを余儀なくさせました。この状況はオランダでも同様であり、政府はオランダ軍の能力を低下させた20年間にわたる予算削減政策を覆そうと試みています。

 その変化をもたらすために必要な資金がまだ確保されていないにもかかわらず、すでにオランダ国防省は売りに出していた「PzH2000」を中古市場から引き上げています(注:もはやこれらの自走砲を売りに出す余裕が無くなったということ)。[9] 

 ドンバス戦争で砲兵戦力が重要な役割を果たしたことから、今やオランダ陸軍が「PzH2000」を再び重要なアセットとみなすと同時に、多連装ロケット砲の復活も検討していることは大して驚くことではありません。

 幸いなことに、製造直後に売りに出された「PzH2000」の買い手が見つかることは一度もありませんでした。
 
 防衛政策見直しの第1段階として、2007年に段階的に退役させた12台の「PzH2000」を保管庫から出して大規模なオーバーホールを実施しました。このうち6台はオランダ陸軍に再就役して合計で24台のSPGが運用されることになり、残りの6台はすでに運用中であった「PzH2000」を置き換えました(注:置き換えられた側の「PzH2000」は保管状態に移行しました)。[10]

 2026年以降、57台ある「PzH2000」のうち25台が寿命中途近代化改修(MLU)を受けることになっていますが、軍への追加資金が投入可能になれば、この数が増える可能性はあり得ない話ではないと思われます。[11]

 この観点から考えると、少なくとも6台の「PzH2000」がオランダ軍のストックからウクライナに供与されることに対して、ドイツはさらに多くの同型自走榴弾砲を保管していることは、明らかに不可思議に思えます。

 ウクライナに供与されることで生じるオランダの「PzH2000」の不足分は、供与された数だけドイツによって補填される可能性があります。 ウクライナに対する重火器の供与に関するドイツの消極性をオランダが実質的に「PzH2000」を供与することでカバーしていると考えれば、その推測は理にかなっているように思えます。


 おそらくそれほど高度なものではないでしょうが、ウクライナに供与される予定のAFVが「PzH2000」より数多くあることは確実かもしれません。

 ウクライナに供給されるAFVの種類は明らかにされていませんが、 2012年に退役した後もいまだに約500台が保管されているはずの「YPR-765」シリーズであることはほぼ間違いないようです。[12] [13]

 その供与されるグレードについては、7.62mm軽機関銃または12.7mm重機関銃を1門装備したAPC(装甲兵員輸送車)型である可能性が高いと思われます。なぜならば、25mm機関砲を装備したIFV(歩兵戦闘車)型の「YPR-765」 は、すでにその大部分がエジプトとヨルダンに売却済みだからです。

 確かにIFV型より性能は劣りますが、APC型は比較的シンプルな構造であるため、訓練やメンテナンス、ロジスティクス面で心配する必要はほとんどありません。実際、トルコは同じような理由で、軍事作戦の際にシリアやリビア側の部隊に自国の「ACV-AAPC(「YPR-765」 APCの亜種)」を多数供与しています。

 イギリスが「FV103 "スパルタン"」、アメリカが200台の「M113」 APCをそれぞれウクライナへ供与するのと同様に、「YPR-765」APC型は本質的に「戦場のタクシー」です。つまり、装甲防御力よりも良好な機動性と小型化に重点を置き、戦場の往来で歩兵を安全に輸送するためのAFVというわけです。

 オランダの「YPR-765」は「FV103」や「M113」に比べて装甲防御力が僅かに強化されていることに加え、車体後部両側面に大きな収納バスケットが設けられていたり、機関銃手を保護する装甲キューポラも装備しています。

 イギリスから供与される「マスティフ」「ウルフハウンド」といったMRAPと「ハスキー」歩兵機動車に対する上述の装軌式APCの主な長所として、荒れ地やぬかるみを走破できる能力が挙げられます。この能力は、(ウクライナでは「ベズドリージャ」と呼ばれる)「ラスプティツァ」という泥沼状態が容赦なく発生することで悪名高いウクライナ東部の大地できっと役立つことでしょう(注:後日、「YPR-765」がウクライナへ供与されたことが確認されました)。

保管状態にあるオランダの「YPR-765」APC

 これまでのところ、供与で話題となっている砲兵戦力は「PzH2000」だけが関係しているように見えますが、「FH-70」155mm牽引式榴弾砲もストックされているその全量が譲渡されることは間違いないでしょう。

 もともと、この榴弾砲は旧式となった「M114」155mm榴弾砲の改修中にオランダの砲兵戦力を維持するため、1990年に15門を一気に導入されたたものです。これらは2001年まで運用された後に保管状態を経て売りに出されましたが、その当時ですでに比較的古い設計の牽引砲であったこともあって買い手が見つかることはありませんでした。

 「FH-70」は欧米諸国が用いる全ての155mm砲弾を発射可能であり、(砲弾の種類によるものの)24km~30kmの射程と(搭載されたエンジンによって時速20kmで自ら移動可能という)機動性は、現在のウクライナで運用されているほとんどの牽引砲よりも格段に優れています。

 訓練と砲弾は(どちらも「FH-70」を運用中である)エストニアかイタリアによって提供することが可能なため、各国でこの榴弾砲の供与に関する詳細な事項を調整することができるでしょう。

 これらの榴弾砲を供与することについて、 オランダ軍の戦力を損なうことない上に実質的にコストがかからないという事実は確かに喜ばしいことであることには違いないでしょう。

オランダが保管中である13門の「FH-70」155mm牽引式榴弾砲はウクライナへ譲渡可能と思われます

 多くのNATO諸国がウクライナからの重火器提供の呼びかけに応えてきましたが、オランダはその呼びかけをはるかに上回る貢献をしたと言えます。

 そうすることで最も高性能なシステムの一部を供与しただけではなく、隣国の優柔不断さもカバーして、少なくともNATOという同盟におけるドイツ政府の面子を立てることを可能にしたのです。

 したがって、上述のとおりにオランダが供与で生じた「PzH2000」の損失分をドイツから見返りに補填されたとしても、あまり驚くような事柄ではありません。

 ウクライナにとって、「PzH2000」は(特にオランダの対砲レーダーと組み合わせた場合)これまで供与を受けた中で最も高性能な地上配備型の火力支援アセットとなります

 アメリカとカナダの「M777」牽引式榴弾砲、ポーランドとチェコのソ連製自走榴弾砲と多連装ロケット砲、フランスの「カエサル」トラック搭載式砲兵システム、オランダの「PzH2000」、そしておそらく近いうちにベルギーの「M109A4BE」が供与されることで、ウクライナは地球上で最もユニークな砲兵戦力を急速に構築しつつあります。これが、ロシアの好戦性に対するウクライナの主権を支持するNATO加盟国の決意を示していることは誰の目から見ても明らかでしょう。
 
偽装を施された「YPR-765」(「M2」重機関銃にも注目)

[1] Ukraine conflict: Netherlands to supply weapon locating radars to Ukraine https://www.janes.com/defence-news/ukraine-conflict-netherlands-to-supply-weapon-locating-radars-to-ukraine/
[2] Dutch to supply anti-tank, air defence rockets to Ukraine https://www.reuters.com/world/europe/dutch-deliver-200-air-defence-rockets-ukraine-govt-letter-2022-02-26/
[3] Ollongren wil niets kwijt over verdere levering wapens Oekraïne https://www.leidschdagblad.nl/cnt/dmf20220303_37634896
[4] The Netherlands has already supplied over 50 million euros worth of weapons to Ukraine https://nltimes.nl/2022/03/31/netherlands-already-supplied-50-million-euros-worth-weapons-ukraine
[5] https://twitter.com/MinPres/status/1516393082148773892
[6] Defensie verkoopt overtollig materieel https://www.rd.nl/artikel/501829-defensie-verkoopt-overtollig-materieel
[7] Ukraine conflict: European countries supply Kyiv with more weapons https://www.janes.com/defence-news/weapons-headlines/latest/ukraine-conflict-european-countries-supply-kyiv-with-more-weapons
[8] Materieelprojecten Nr. 99 BRIEF VAN DE MINISTER VAN DEFENSIE. Aan de Voorzitter van de Tweede Kamer der Staten-Generaal Den Haag, 17 april 2012 https://zoek.officielebekendmakingen.nl/kst-27830-99.html
[9] Vuursteun Commando https://www.defensie.nl/organisatie/landmacht/eenheden/oocl/vuursteun-commando
[10] https://www.facebook.com/matlogco/posts/2240037096053772
[11] Pantserhouwitser 2000NL https://www.defensie.nl/onderwerpen/materieel/voertuigen/pantserhouwitser-2000nl-pzh2000
[12] Materieelprojectenoverzicht - Prinsjesdag 2013 https://zoek.officielebekendmakingen.nl/blg-251575.pdf
[13] YPR-pantserrupsvoertuig https://www.defensie.nl/onderwerpen/materieel/voertuigen/ypr-pantserrupsvoertuigen

※  当記事は、2022年4月25日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
  のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
  あります。


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