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2024年3月24日日曜日

大空の巨人:リビアにおける「An-124」:輸送機


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 当記事は、2021年1月21日に本国版「Oryx」ブログ(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 リビア内戦は同国の民間航空にも壊滅的な打撃を与えており、2機の巨大な「An-124」輸送機も例外なく苦難を免れることはできませんでした。

 リビアの航空産業は2011年の革命時にほぼ休止状態となってしまい、武力衝突の停止後はリビアの航空会社が運航を再開するのに数か月から1年も要しました。中には二度と飛行機を飛ばさなかった会社もあったほどです。

 運行を再開することでリビアの民間航空は将来への新たな自信を得たものの、内戦の余波と政治的混乱は最終的にあらゆる楽観主義に終止符を打ち、やがてリビアの航空産業は存亡をかけて戦うことになりました。

 相対的な安定の見通しが立たないリビアを荒廃させる内戦が続く中、「An-124」には滅亡の危機が大きく迫っていました。当時のリビア国内にとどまっていた1機の「An-124」はどうにかして砲撃の被害を免れており、もう1機については、リビア政府が2009年からキーウのアントノフ社の施設での保管と定期整備の代金として同社に支払うべき120万ドル(約1.7億円)の支払いが不履行のままだった場合、2017年にウクライナによって競売にかけられる可能性に直面していたのです。

 その後、2019年にアントノフ社がサプライズの公表をし、国際的に承認されたリビア政府(GNA:国民合意政府)との間で「An-124」の1機を飛行可能な状態に戻す交渉が行われたことが明らかとなりました。[1]

 両者の合意に従って同機は近代化改修を受けると共に耐用年数が延長されることになっていました。しかし、それ以降の続報が全くないことから実際に合意に達したかさえも不明の状態となっています(編訳者補足:2023年5月の時点でリビアの駐ウクライナ臨時代理大使であるアデル・イッサ氏がアントノフ社に確認したところ、キーウで保管されている「An-124」の状態はロシア・ウクライナ戦争の影響を受けていおらず良好であるという回答を得たとのこと)。

 しかしながら、どんなことがあろうとリビアはまだ「An-124」を運用する意向を認めました。

 リビア政府はウクライナに保管されたままの「An-124」の運命をの掌握と最高入札者への競売を阻止することに成功したようですが、リビアの民間航空が衰えを知らない戦争の影響によって徐々に疲弊していく中で、地上での戦闘はすでに新たな犠牲者を生み出しています。

リビアでの運用

 もともと、リビアは2001年にリビア・アラブ・エア・カーゴ(LIBAC)のために2機の「An-124(5A-DKN "サブラタ" と 5A-DKL "スーサ")」を導入し、大型機を必要とする貨物の国際チャーター便にこれらの巨人機を投入し始めました。

 リビアはこれまで(特に)ロッカビー上空で発生したパンナム103便爆破事件を画策したことで国際的な制裁を受けた結果として外界からほぼ完全に孤立していたことに苦しんでいましたが、後にかつての宿敵との関係を正常化し始めたことで「An-124」は世界中に重量級の貨物を輸送するようになったわけです。

 2011年の革命勃発時の「サブラタ」はトリポリ国際空港(IAP)で反乱部隊に無傷で鹵獲され、「スーサ」はアントノフの施設で整備中でした。ちなみに、1992年に製造された「スーサ」は2001年12月にLIBACに引き渡される前にはウクライナ航空で使用されていました(1992年~1999年)。

 1994年に製造された "サブラタ" は2001年3月にリビアに引き渡される前に、タイタン・カーゴに代わって同機を運行していたトランス・チャーター航空(1996年~1999年)とヴォルガ・ドニエプル航空(1999年~2001年)によってロシアで運行されていました。[2] [3]



 「An-124」の(短い)運行期間中、リビアはフランスに拠点を置くリビア系企業FLATAM(Franco-Lybienne D'Affretement Et De Transport Arien Et Maritime:フランス-リビア海上・航空輸送用航空チャーター)を通じて、2機を貸し出していたことが知られています。

 FLATAMはリビア空軍の元ミラージュ・パイロットである実業家にして駐仏武官のジャラル・ディラが所有していました。彼は後にフランスの航空機グループ:ダッソー社の調達担当のロビイストとなりましたが、カダフィ政権崩壊前のリビアに「ラファール」戦闘機の売却を試みて失敗しました。[4]


 「An-124」のチャーター便は、リビア革命とそれに続く内戦がこの国の民間航空に大きな打撃を与える2011年2月まで続きました。

 2機とも2011年に破壊から免れることができましたが、LIBACには事業を再開するための構想と資金が欠けていたため、"サブラタ"はトリポリIAPに放置されたままとなり、"スーサ"は2009年から保管されていたウクライナ(キーウ)にあるアントノフ社の施設から回収されることはありませんでした。

 そして、リビアの航空会社による通常の運航が終焉を迎え、国内各地で戦闘が続いた結果、民間機の破壊がありふれた光景となったため、この国で就航していた「An-124」の将来は、ますます厳しいものになり始めたのです。

 それでも、LIBACの職員は緑色のジャマーヒリーヤ・グリーンの国旗を新しいリビア国旗に交換することを躊躇しなかったように見受けられます。


巨人の死

 2014年初頭からトリポリIAPの一角にある整備用エリアに移動せずに駐機していた "サブラタ" は、同年夏に空港の支配権をめぐって争っていた紛争当事者が近隣の施設を標的にして「An-124」の近くにあった複数の航空機を破壊した後も、本拠地に対する攻撃から奇跡的に生き残りました。破壊された航空機の中には、たった300mほどしか離れていない隣接するエリアに駐機していた4機以上の「Il-76」輸送機も含まれていたにもかかわらずです。

 「An-124」は破片による軽微な損傷で済んだものの、激しい衝突で旅客ターミナルは完全に破壊された結果、空港は閉鎖され、残っていた数便はトリポリ近郊のミティガ空港に振り向けられました。


 しかし、リビア全土を襲う見境のない無慈悲な猛攻撃から約8年間もなんとか逃れることに成功してきた「5A-DKN:サブラタ」ですが、その幸運は最終的に2019年6月22日に尽きてしまいました。トリポリIAPで砲弾の直撃を受け、その後の火災で破壊されたのです。

 くすぶっている巨人の残骸は、2011年のリビア革命の勃発とそれに続く巨人機の運航再開の困難さによって潰えた経歴の悲惨な結末の産物としか言いようがありません。



 「An-124」の破壊は、2機目がまだキーウにある国営のアントノフ社の施設に保管されたままで2018年と2019年にリビアに戻す計画が明らかに停止状態にある中で発生しました。[5] [6]

 興味深いことに、2018年と2019年の交渉はLIBACではなくリビア・ブルーバード航空と行われましたが、この事実はこの国で最古の貨物航空会社の運航がついに終焉を迎えたことを示しているかもしれません。

 キーウにあるリビアの「An-124」に関する問題の打開策は一見して見通しが立っておらず、保管料や整備費用が膨らみ続けているため、リビア側の自主的な売却か強制力のある裁判所からの命令によって所有権が放棄された場合の「5A-DKL」は、アントノフ社自身が保有する貨物航空会社や他の「An-124」を運航する会社にとって魅力的な機体となる可能性があるでしょう。


残る希望

 リビア政府が生き残った「An-124」を維持して活用するべき資産と判断するかどうかは、間違いなく財政状況と「An-124」のような大型貨物機に対する現実的な必要性に左右されるでしょう。

 ただ、トリポリとその周辺地域の治安がますます安定する状況下の今、リビア政府は少なくとも現存する「An-124」の運航を復活させ、国際貨物便への再投入を試みることが可能になっています。

 さらに、リビアは、現時点で自身を支援する意思を持つ数少ない国の一つ:トルコと手を組む可能性もあります。トルコはすでにウクライナと非常に親密な関係に恵まれており、最近ではいくつかのアントノフ社関連のプロジェクトについて、協力の可能性を協議しています。これらには「An-178」と「An-188」の生産だけでなく、1994年以来製造途中で放置されていた2機目の「An-225」の完成も含まれています(編訳者注:ご存じのとおり、ロシア・ウクライナ戦争でこれらのプロジェクトが前身する見通しは立っていません。ただし、ロシア軍によって「An-225」1号機が破壊されたため、未完の2号機を用いて再建する事業が進行中です。ただし、これにトルコが関与しているかは不明です)。[7] [8] [9]

 トルコの関与は、「An-124」の運命を最終的に確定させるだけでなく、同機を運航へ戻すための刺激と資金を実際にもたらす突破口となるのかもしれません。リビアに科された制裁措置が当面解除される可能性は依然として低いものの、 短期的には、かつてないほど親密な関係を享受している両国(リビアとトルコ)の間で物資や設備を空輸する可能性はあるでしょう。

 それゆえに、長続きしてしまった戦争の不幸な犠牲者である謎めいた巨人には、まだ希望が残されているのです。


[1] ANTONOV Company will begin works on renewal of Libyan Ruslan https://antonov.com/en/article/dp-antonov-rozpochne-roboti-z-vidnovlennya-liviyskogo-ruslana
[2] https://www.planespotters.net/airframe/antonov-an-124-5a-dkl-libyan-air-cargo/e01w96
[3] https://www.planespotters.net/airframe/antonov-an-124-5a-dkn-libyan-air-cargo/ekdg16
[4] https://www.facebook.com/LibyanPosts/posts/libya-the-real-negotiators-of-the-haftar-sarraj-paris-agreementthe-key-part-of-t/1492605287449867/
[5] Libya's giant Antonov could soon fly home to Tripoli https://www.africaintelligence.com/north-africa_business/2018/11/08/libya-s-giant-antonov-could-soon-fly-home-to-tripoli,108331371-art
[6] Libya tracks file of Antonov under 7-year maintenance in Ukraine https://www.libyaobserver.ly/inbrief/libya-tracks-file-antonov-under-7-year-maintenance-ukraine
[7] Ukraine: Aviation firm Antonov aims to work with Turkey https://www.aa.com.tr/en/economy/ukraine-aviation-firm-antonov-aims-to-work-with-turkey/1965437
[8] ANTONOV Presents its Advanced Programs in Turkey https://www.defenceturkey.com/en/content/antonov-presents-its-advanced-programs-in-turkey-3002
[9] Turkey interested in completing An-225 Mriya – Dpty PM https://en.interfax.com.ua/news/general/698799.html


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2024年2月23日金曜日

脅威の共通と努力の不平等: ベルギーによるNATO防衛の「ただ乗り」的手法


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

※  この翻訳元の記事は、2023年9月20日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 防衛費が相対的に少ないため、ベルギーは往々にしてNATOの厄介者とみなされる傾向があります。この国の他のNATO加盟国や自国の安全保障に対する「ただ乗り」的手法については、2014年に当時のエリオ・ディルポ首相が2024年までに国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てる意向を表明したことに加え、8年後の2022年にもアレクサンダー・デ・クロー首相が同じ意向を宣言したものの、その達成時期が2035年と11年遅れとなったという事実がよく物語っていると言えるでしょう。[1]

 ロシア・ウクライナ戦争が続く最中でさえ、ベルギーにおける2023年の防衛予算は2022年比で僅か0.01%増しかないGDPの1.19%にとどまっているのです。実際、この国の防衛費の対GDP比はNATO内でルクセンブルクに次いで2番目に低いものとなっています。[2][3]

 ベルギーは防衛予算が相対的に少ないだけではなく、戦力の面でも投資に対する見返りが驚くほど僅かな恩恵しかもたらされていません。この投資と見返りの大きな差については、ベルギーの防衛費をデンマークなどの他国と比較すると一目瞭然です。ベルギーの人口はデンマークの2倍で防衛費も1.5倍近くあるにもかかわらず、後者の方がより充実して装備された軍を有しています。[4]

 さらに悪いことに、ベルギーは(相互運用性を向上させるための)近隣諸国との地上部隊の統合化には全く取り組んでいません。フランスの装甲戦闘車両を大量に調達しているにもかかわらず、フランス軍との部隊統合に関する具体的な計画が欠落していることは注目に値します。これとは反対にオランダは自国の陸軍をドイツ陸軍と完全に統合しており、これは両軍が保有する装備が同一ではないにもかかわらず達成された偉業と言っても過言ではありません。

 ベルギー軍を苦しめている重要な課題は、とりわけ自国内における軍への認識不足が挙げられます。長い年月をかけて、ベルギー軍は若者の教育機関としての役割を担うようになり、防衛費を地域の産業へ流すルートとしての役割を果たすようになってしまいました。

 国防というベルギー軍の主要任務から焦点をそらすという現在進行形の傾向は、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相を筆頭とする現ベルギー政府によってさらに悪化しつつあります。最近の例としては、防衛プロジェクトに予定されていた1億ユーロ(約158億円)をベルギー人宇宙飛行士を宇宙へ送り出すために欧州宇宙機関(ESA)に転用したり、ベルギーがいまだに「F-35」初号機の納入を待っているという状況にもかかわらず、フランスとスペインの将来戦闘航空システム(FCAS)における潜在的な協力に3億6,000万ユーロ(約570億円)を投資した決定が含まれています。[5]

 現在のベルギーが抱える防空戦力の欠如を考慮すると、こうした投資はより不可解なものとなります。ベルギーには旧式あるいは有効性を欠いた防空システムはありません...そもそも地上ベースの防空システム自体が存在しなくなってしまったです。このおかげで、ベルギーはルクセンブルクと(軍隊を保有していない)アイスランドと並ぶ、防空システムを持たないNATO加盟国の3か国となってしまいました。

 この異例の状況は長年にわたるお粗末な戦略的判断と予算不足の産物であり、ベルギー軍は少数の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)を運用する余裕すらないほどまで蝕まれてしまいました。MANPADSが退役させられた2017年以降、陸軍は地上ベースの防空システムを保有していない状態に陥ったままです。

 最近になってベルギー国防省は防空戦力の再建プランを公表しましたが、この計画の実現は最低でも2030年までかかるでしょう。[6]

MANPADSは比較的安価であるために世界中のほぼ全ての国に配備されているが、ベルギー陸軍にとってMANPADSを継続的に運用することはコストが高すぎることが判明し、2017年に後継の導入なしで退役させることに至った:2023年にはこれらのシステムが1個小隊に装備され、同部隊が2030年までの暫定的な防空能力を提供する予定だ。[7]

 2022年2月に明らかとなったベルギーの防衛構想は、「STAR(安全保障、技術、野心、復活)」計画として具現化されました。この戦略的な青写真は、戦力強化のために102億ユーロ(約1.6兆円)を投資し、2030年までに防衛予算をGDPの1.54%へ引き上げることを骨子としています。[8]

 公約したにせよ、上記の約束を具体的な投資に結びつけるには切迫感が欠けているように思えます。特筆すべきは、重砲を保有していないNATO加盟国4か国に含まれるベルギーが地上部隊への火力支援として現在14門のフランスの「LG1」105mm牽引式榴弾砲に依存していることでしょう(ベルギー以外で重砲を保有していないのはアルバニア、ルクセンブルク、アイスランドの3か国)。

 これらを更新するため、2022年に「カエサル」トラック搭載式砲兵システム(自走砲)9門をフランスに発注しました。ただし、ベルギーはすでに生産されている「カエサル」の派生型を導入するのではなく、まだ開発段階にある「カエサル "6x6"」を選択したのです。その結果として、この国は最初のシステムの引き渡しを受けるために2027年まで待たなければならなくなってしまいました。[9]

 これと比較すると、デンマークが2023年3月にイスラエルから19門の「ATMOS 2000」自走砲を調達してから最初のシステムが納入されるまでの期間は、たった5か月でした。[10]

 ロシアのウクライナ侵攻に触発されたことは一目瞭然ですが、後でベルギーは「カエサル "6x6" NG」自走砲の将来的な調達数を9門から28門に引き上げました。ただし、ベルギー政府はまだ19門を追加調達するための資金を計上していないため、契約は結ばれていません。[11]

 「カエサル "6x6" NG」を(将来的に)28門導入することは、とりわけベルギーの基準からすれば著しい戦力強化のように思えますが、28両の装輪式SPGを導入したところでベルギーがNATO加盟国内で最も弱い砲兵戦力を持つ一国としての立場には変化をもたらすことはないでしょう。

 全「カエサル」部隊の運用可能状態への移行と乗員が訓練を受けるのに必要な期間を考慮すると、(戦力化には)おそらく2030年代前半までかかる可能性が高いと思われます。28門の装輪式自走砲という質素な導入に端を発した訓練と戦力化に至るプロセスは、実に10年以上にも及ぶものになると思われます。

 これも比較してみると、ポーランドは韓国に「K9」自走砲24門を発注して6か月余りで成功裏に納入を終えました。[12]

ベルギーは砲兵戦力を強化することになったものの、それでもNATO加盟国の中では最も脆弱な砲兵戦力を持つ一国のままだ:画像は「カエサル "6x6" NG」で、9門が発注された。

 軍事力の強化を追い求めるベルギー陸軍は、数多くの試練に直面しています。まず、数十年にも及び予算不足の結果に対処する必要がありますが、こうした結果を是正する責務を負った官庁は、そうしたことに心から関心を示しているようには見えません。

 次に、ベルギーは過去数十年の間に下された数々の理解しがたい調達の結果に今なお苦心しています。その中でも、陸軍の「ピラーニャIIC DF90」火力支援車の導入は特筆すべき事例です。

 フラホート元国防相の在任中(1999年〜2007年)に調達された「ピラーニャIIC DF90」は、老朽化した「レオパルド1A5BE」戦車の後継装備です。この調達プロセスについては、当初から奇妙な点がありました。最も顕著だったのは、フラホートが他のNATO加盟国では採用されていない90mm砲をこのAFVの主砲に選択したことです。

 戦車や強度がある構造物のような標的に対する砲の有効性(またはその欠如)についても懸念が浮上したことに加えて、90mm砲を製造できる工場はたった1つしかなく、必要な弾薬の需要を満たす工場も同様に1つしかないことも判明しました。この状況を受け、ベルギー財務省は2005年に2度にわたって調達の承認を取り消しました。[12]

 それにもかかわらず、最終的にフラホートの思い通りとなり、2006年に「ピラーニャIIC DF90」40台の発注に成功したのでした。

 2007年12月にフラホートの後任としてピーター・デクレム(現2025年大阪・関西万博のベルギー政府代表)が国防相に就任した時点で18台はすでに契約済みとなっていたものの、彼は残りの22台の発注を即座にキャンセルしました。[13]

 同時期に、ベルギー陸軍はこの「ピラーニャ」を少なくとも20年間は運用する必要があることを悟り、買い手側として深い後悔の念に襲われたようです。この後、陸軍はより適切な代替装備を望みながら、すでに受領済みの18台を売りに出しました。[13]

 ベルギー陸軍にとって残念なことに売り込みは関心を持つ顧客を引き寄せることに失敗したことから、自軍の部隊に最低限の火力支援を提供するため、最終的に18台を受け入れざるを得なくなったのでした。

 まだ「ピラーニャIIC DF90」の話には続きがあります。この話が以上で終わったと思い込んでいた人は驚くのではないでしょうか。

 90mm砲の性能に関して提起された懸念は、対戦車用の砲弾を使用した場合の能力不足にありました。こうした砲弾が入手可能になったとき、なんと「ピラーニャIIC DF90」はそれを発射できないことが判明したのです。この問題に対処するための10年にわたる苦闘の末、2019年にベルギー陸軍はこれ以上解決策を試す価値はないとの結論を下しました。[13]

 現在でも、「ピラーニャIIC DF90」は対戦車能力を有していない状態のままです。この悲劇がもたらした財政的影響は相当なものであり、車両の調達費だけで7,000万ユーロ(約111億円)、さらに弾薬に500万ユーロ(約7.9億円)を超える費用が費やされました...おまけに、砲弾の一部は対象となるピラーニャの90mm砲自体と互換性がなかったことをここに記しておきます。

 近年、32台の「ピラーニャIIC DF30」に各2基の「スパイク-MR」対戦車ミサイルを装備させることを通じて対戦車能力の不足を軽減する試みが部分的に実施されました。しかしながら、この措置はベルギー陸軍の火力支援能力の不足を是正するには依然として不十分のままです。

「ピラーニャIIC DF90」は、過去数十年にわたってベルギー軍が調達した中でも多くの物議を醸した装備だ。

 この "ピラーニャ・サーガ" は独立した一つの事件ではありません:むしろ、1980年代以来のベルギーにおける防衛調達を悩ませてきた特有の決定と腐敗で構成された長い歴史の中の一章に過ぎないのです。

 歴史的に見ると、ベルギーにおける防衛調達は、政党が防衛企業からの賄賂を通して資金を捻出するための手段とみなされていました。この問題に対処するため、ベルギーでは1990年代に、政党が(防衛)企業から賄賂を受け取ることを阻止する目的で、選挙の結果に基づいて政府が政党に補助金を交付するという法律が施行されました。[14]

 過去の汚職スキャンダルに巻き込まれた政治家の多くが裁かれることがなかったのは、汚職の程度があまりにも広範囲にまん延していたためであり、政権与党が汚職の調査を実施すれば、必然的に自陣営内における防衛関連の汚職も摘発されることになってしまうからです。[14]

 汚職のおかげで主要な防衛関連の契約は頻繁に多額の賄賂を喜んで提供する企業に与えられ、その結果として、ベルギー軍は標準以下の装備で妥協せざるを得なくなった事例がもたらされました。こういった汚職のスキャンダルはほとんど過去の遺物となったものの、ベルギー政府には、装備の質に基づくのではなく、政治的な便宜の獲得や近隣諸国と融和するために装備を調達する傾向が根強く残っているように見受けられます。

 この現象は大半のヨーロッパ諸国で一般的なものですが、ベルギーの調達活動におけるその割合は著しく高いようです。これら全ての要因の集大成が「大砲の射程距離よりも短い」と一部で評されている長期調達戦略を生み出し、その結果として生じた調達決定における数々の失敗は「百科事典サイズの失策事例集」と評されています。[14]

 大きな失策の一つとしては、2019年に3,100万ユーロ(約49億円)をかけて実施された、「パンドゥール」情報・監視・目標捕捉及び偵察(ISTAR)車38台に対するSLEP/ELU(就役期間延長プログラム/寿命延長アップグレード)があります。この事例では、アップグレード完了後に、内部の追加装備と装甲によって、5人の乗員のうち4人が身長1.70メートル以上あると運用できないことが判明しました。[15]

  「パンドゥール」38台の乗員が同AFVと装備された偵察機器を操作するために特別な訓練を受けていたことを考えると、彼らと(男性の平均身長が1.81メートルのこの国で)身長が1.70メートル以下の約150人の新兵と入れ替えることは当然ながら不可能な仕事であり、特に人手不足が深刻な時代には余計に無理な話です。

 驚くべきことに、(この状況にもかかわらず)これがベルギー軍によって提示された解決策となったのでした。[15]

 また、アップグレード後にブレーキシステムにさらなる問題が浮上しました。2007年にベルギー軍の「パンドゥール」がブレーキの問題でレバノンの渓谷に転落し、3人の兵士が死亡してしまったので、これは特に悲劇的なものだったと言えます。[15]

 軍が最終的にどのような方法でこの問題を解決したのかについて、正確なことはまだわかっていません。

 もっとも、SLEP/ELUを実施した企業は「パンドゥール」を運用可能な状態に戻すために何度も調整を行う必要があったと推測されます...このシナリオはベルギー国防省のより適切な監督が行き届いていれば防げたかもしれません。

SLEP/ELUを受けた「パンドゥール」の運転席:内部の改修によって、身長1.70メートル以上の乗員5人のうち4人が支障なく車両を操作することが不可能となった。これは画像でも一目瞭然であり、運転手の脚部がステアリングホイールに押しつけられている。

 間違いなく最も重大な戦略面と調達面での失策は、ベルギーが陸軍から重火器を排除するという決断を下したことでしょう。これによって2008年には最後の「M109」自走榴弾砲(SPG)が、2014年には「レオパルド1」戦車が退役させられたのです。この決定は2000年代半ばのフラホート国防相の在任中に下されたものであり、その主な動機は「装輪式AFVの方が装軌式AFVよりも運用コストが安い」という財政的な都合によるものでした。ところが、ベルギー政府はこの計画を適切に処理するために必要な資金を確保さえしなかったのです。
 
 一方で、大急ぎで装軌式AFVの退役を進めて64台の「M109」自走榴弾砲を改修した直後に段階的に退役させるという途方もない予算の無駄遣いをしました。他方で、ベルギーは装輪式装甲車に更新するための投資を渋っているため、今でも装軌式装甲回収車と自走架橋柱の運用を続けています。

 AFVの装軌式から装輪式への完全移行については、この計画が構想されてからほぼ25年後の2030年代初頭まで実現しないと予想されているのです!

 2000年代初頭まで、ベルギーは「AIFV-B-C25」歩兵戦闘車(IFV)及び 「AIFV」装甲兵員輸送車(APC)、「M109A4BE」自走榴弾砲を装備する2個機械化旅団によって支援された「レオパルド1A5BE」戦車隊を運用していました。さらに、「CV(R)T」(装軌式装甲偵察車型及びAPC型)を装備する部隊もありました。

 2000年代初頭になると「CV(R)T」が最初に退役し、続いて「AIFV」のIFV型とAPC型も「ピラーニャIIC」に更新されました。その後、「M109A4BE」自走榴弾砲は高価な近代化改修を受けたばかりであったにもかかわらず、(後継のとなる新装備が未導入の状態で)退役に追いやられてしまいました。

(前述のとおり) 「ピラーニャIIC DF90」は発注した40台のうち18台しか配備されなかったほか、対戦車能力も欠いていたため、結局のところ「レオパルド1A5BE」戦車は2014年まで運用されたのでした。

 デンマーク、オランダ、フランスなどの諸国が、保有兵器の中で装輪式AFVの比率を高めながらも少数の装軌式AFVを維持している現状とは対照的に、ベルギーが全装軌式AFVを装輪式AFVに更新するという試みは間違いなく杜撰であり、おまけに実行もお粗末なものだったと言えるでしょう。

64台の「M109」が完全に改修・アップグレードされた後、フラホート国防相はベルギーの防衛企業であるFTS社に(予備部品を含めて)これらを1台1.5万ユーロ(約235万円)という破格の低価格で売り払ってしまった。

 現在の陸軍に残存している機甲戦力は、大規模な1個中型旅団に集中配備されている装輪式AFVの寄せ集めしかありません。その規模にもかかわらず、この旅団は防空戦力が皆無である上に、射程が僅か14kmの105mm牽引式榴弾砲14門のみに火力支援を依存しているのです。装輪式車両の保有状況は装軌式が中核を占めていた時代より改善されたとは口が裂けても言い難く、意図した役割に適したとは言えない数々の種類の車両の寄せ集めとなっています。

 2017年、後継装備を求めるベルギーはフランスの「スコーピオン計画」に参加し、60台の「EBRC "ジャグア"」装輪式偵察車と382台の「VBMR "グリフォン"」装輪式APCを発注するに至りました。それら自体は非常に高性能な車両ではありますが、実際に旅団の火力を強化することには少しも貢献しません(それでも、システム・ネットワーク面で大幅な改善をもたらしますが)。

 NATOでは重武装・重装甲の装軌式AFVの需要が高まっており、ウクライナでは装輪式AFVに対する優位性が改めて証明されたにもかかわらず、ベルギーはアイスランドとルクセンブルクと並んで装軌式AFVを運用しないNATO加盟国の一つになることが決まっています。繰り返しになりますが、アイスランドは軍隊を保有しておらず、ルクセンブルクは人口が30万人強しかいない国です。

 おそらく世間一般に信じられているのとは逆に、装軌式AFVの再導入については、それ自体を有効なものにするために必ずしも大量の数を必要とはしません。デンマークの場合を例に挙げると、現時点で44台の「レオパルド2A7」戦車、同じく44台の「CV9035DK」IFV、そして約20台の装軌式の支援車両を運用しています。

 こうした小規模なAFV群の有用性に疑問を抱く人もいるかもしれませんが、これによって中型旅団を大型旅団に改編させることが可能となり、戦争中に他のNATO加盟国の支援に依存する必要なしに、より幅広い目標に対処する能力を向上することができるのです。

 それでも、ベルギーが装軌式AFVを導入する可能性は極めて低いままです。その主な理由は、ベルギーの国防計画に染み付いた優柔不断さとビジョンの欠如、そしてベルギー政府によって計上される予算の不足にあります。実際、戦略と調達における意思決定のペースは非常に鈍く、ベルギーはまるでロシアによるウクライナ侵攻がなかったかのように装備を整えている印象を与えています。

「EBRC "ジャグア"」装甲偵察車(左)と「VBMR "グリフォン"」装甲兵員輸送車(右)は、ベルギー陸軍の中核AFVとなる予定だ。

 ベルギー陸軍は中型旅団に加えて、特殊作戦連隊も保有しています。ところが、ベルギー陸軍もSTAR計画の双方はNATOの東側(注:ロシア)に重点を置くよりも、アフリカでの紛争に関連する通常任務のためにこれらの部隊を訓練し、装備することを想定しているのです。

 その具体例としては、すでに運用されている7機の輸送機を増強するための、特殊部隊の任務に特化した輸送機と大型輸送ヘリコプター各8機の調達計画が挙げられます。[8]

 このような能力の保有は有益なことである一方で、防空システムを保有していない国の特殊作戦に仕立てられた部隊が、現在のNATOが優先しているニーズに合致しているかどうかは疑問視せざるを得ません。最大8機の「CH-47」大型輸送ヘリコプターを導入することは説得力のある話ですが、さらに同数の輸送機を導入するとなると、ベルギーは装軌式AFVや多連装ロケット砲が不足しているのに(VIP機を除いて)4種類もの輸送機を保有することになってしまいます。

 このような事例は、ベルギー国防総省が現在進行形のグローバルな動きに追いつくのに苦労しており、最優先事項とNATOが必要とする事柄との大きなズレに直面していることを示しているようです。

 実際、現在のドゥドンデ国防相のリーダーシップは誤った最優先事項との関わりを深めつつあります。ベルギーがまだ19台の「カエサル」155mm自走榴弾砲の追加契約を結んでおらず、防空能力を欠き、財政上の制約から弾薬不足に苦しんでいる一方で、デドンデ国防相はフランスとスペインの将来戦闘航空システム(FCAS)への3.6億ユーロ(約5,750億円)の投資を僅か2週間で押し通すことに成功したのです。[16]

 2000年代初頭にF-35計画への不参加を選択したベルギーは、自国企業が計画で得ることができるはずだった利益を取り逃がしてしまいました。これもまた、フラホート前国防相の近視眼的な判断によるものだったと言えます。

 こうした事情を踏まえると、早い段階からFCAS計画に参加することは合理的であるように見えますが、FCAS自体は2040年代以降にフランスの「ラファール」とスペインの「タイフーン」の後継機として開発されるものであるにもかかわらず、現在のベルギーは(結局導入を決めた)「F-35」が2060年代まで運用されることを想定していることを見落としてはいけません。

 ベルギーが最も基礎的な軍備への投資すら渋っていることを考慮すると、FCASを調達する可能性と2040年代に2つの異なるタイプの戦闘機を運用することは極めて現実離れしたものであるため、(FCAS計画の参加は)完全に無用と言えます。つまり、ベルギーがFCAS計画に産業面で関与することによって本当に利益を得るのであれば、有用な出資と言えるでしょう。

 フランスの企業は、ベルギーが2018年に「ラファール」ではなく「F-35」を選択したことに対して今でも恨みを抱いています。NATOの核共有制度の一環としてベルギーのクライネ=ブローゲル空軍基地に約20発ほど配備されている「B61」核爆弾の搭載が不可能だったこともあり、「ラファール」が有力候補だったにもかかわらず、実質的に選ばれる余地はありませんでした。

 FCAS計画を主導する仏ダッソー社のCEOは、同計画におけるベルギーの産業面での協力の可能性に言及する際、曖昧さの余地を残すことなく次のように述べました:"私は、この計画にさらなる「F-35」保有国を加えることを理解できません。「F-35」を選んだ人たちのために、どうして私の工場や設計事務所に彼らの場所を作らなければならないのでしょうか?人々は、私たちがすぐにベルギー企業へ仕事を与えることができると口にしています...ノン、仮にそれが私に課されるのであれば、私は戦うでしょう。今日、ベルギー人に仕事を与える理由が私には理解できないのです。'' [17]

 結局のところ、ベルギーは調達する見込みどころか産業面での(大幅な)参加も得られないかもしれない戦闘機計画に参加するために、3億6,000万ユーロ(約570億円)を割り当てたのです。

ベルギーは2060年代まで運用が計画されている34機の「F-35」の初号機の納入に先立って、2040年代以降に運用予定の第2のステルス戦闘機計画への参加をすでに公約している。

 これらの投資を特に不可解なものにしているのは、近い将来に戦争が勃発した際に、ベルギーの兵士たちが、防空戦力や十分な弾薬のみならず14kmという絶望的に短い射程距離を超えた位置にいる地上目標と交戦する手段すら存在しないという自軍の装備の不十分さに直面するであろうという現実です。

 それにもかかわらず、この現状がベルギーの兵士に適切な装備を与えるという役目を担っているドゥドンデ国防相に、(おそらく)ベルギー経済の活性化とベルギー人宇宙飛行士の宇宙飛行に防衛費から4億6000万ユーロ(約730億円)という莫大な金額を流用することを止めることはありませんでした。

 こうしたベルギー兵の福利に対する明らかな関心の欠如については、深刻に懸念すべきものとしか言いようがありません。

 同様に懸念されるのは、ベルギー国内において、こうした事実...とりわけ自国の兵士たちが自衛のための最も基本的な装備すら無いまま武力紛争に突入するという見通し...に対する国民の激しい反発が目に見えてこないことです。もし国家が兵士の扱いで評価されるのであれば、ベルギーは恥じて顔を下に向けるべきでしょう。

 必要不可欠な軍備の欠如に加えて、ベルギー軍は深刻な人員不足に直面しています。この問題は必要不可欠な軍事力の不足という問題と並んで徴兵制の廃止や保留を図った西欧諸国に影響を及ぼしており、ベルギーは現役兵の40%近くが2020年代初頭に定年を迎えるという別の課題に直面しています。[18]

 より多くの人材を集めるための努力は、こうした人手不足に対処することにまだ成功していません。2023年9月には、パイロットと特殊部隊の採用基準を引き下げたほどです。[19]

 こうした人手不足の問題に対処することは、ベルギーにとって最優先事項です。それゆえに、ドゥドンデ国防相がベルギー陸軍に教育機関としての役割を与えたことは実に不可解なと言えます。[20]

 2023年、ドゥドンデは軍に対して、チームワークとスポーツに重点を置いた6か月のプログラムに失業中の若者200人を第一グループとして参加させるよう命じました。このメンバーは軍事訓練を受けるどころか、軍の一員になることもありません:単に軍から教育だけを受けることになるのです。

 ドゥドンデによると、"若く、未熟で、資格を持たない人々に就職市場へ参加する機会を提供するのが軍の社会的役割" とのことです。これについては、まさに軍の役割ではないという主張も成り立つでしょう。それどころか、他のNATO諸国と比較した場合における人手不足と戦力ギャップという背景を考慮すると、 ベルギー陸軍の任務に教育機関としての役割を組み込もうとするドゥドンデの試みが根本的に誤っていると断定せざるを得ません。


 防衛の責務から逃れようとしているベルギーは、NATOを極度にむしばんでいます。大多数のNATO加盟国はGDPの2%を防衛費に充てるよう努力していますが、ベルギーはこのスケジュールを2035年まで故意に引き延ばしているように見えるのです。

 この国は2020年代後半までにウクライナが安定した状態に戻ることを見込んでいるようです。おそらく、このような状況になれば、ベルギーが2%の公約を履行しなくても何とか許容されるのではないかと期待しているのでしょう。

 ベルギーをNATOから追放するための議論を展開することは可能ですが、そのような結果がもたらされることは非現実的であり、同盟にとっても最善の利益とはなりません。とはいえ、ベルギーがNATOからの自主的な脱退を選択することに利点を見いだせるかどうかは、検討する価値があります。

 ベルギーが自国の経済と人口に相応しい戦力の提供を怠ることで(意図せずとも)NATOの弱体化を着実に試みていることや、そして2%という基準を満たすことに渋っていることを踏まえると、この国の外交・防衛政策がもはやNATOの政策と足並みをそろえていないことが次第に明らかとなっています。

 NATOの本部がベルギーにあることを考えると、なぜ彼らがベルギーに対してより強い圧力をかけないのかと疑問に思う人がいるかもしれません。何よりもまず、ベルギーは協定を結ぶのが非常に困難な国です。なぜならば、この国には政府が1つではなく6つもあるからです(注:ベルギーには連邦政府が1つ、地方政府が5つがある)。

 第二に、ほかの国々がまだ2%の基準を達成していない限り、そうでない一国を批判したり、対策を講じたりする可能性はありません(注:ベルギーだけを特別に非難することはできないということです)。

 第三に、ベルギーが代替の利かないニッチな能力を提示することで戦力不足の深刻さを重要視されにくいという、巧妙なアプローチを採用していると疑う理由もあります。この一例として、ベルギーは将来的に2隻のフリゲートに弾道弾迎撃ミサイルの装備を熱望しています。[21]

 現時点でMANPADSすら欠いているベルギーにとって、これはあまりにも野心的に思えるかもしれませんが、この国は僅かな数のミサイルを調達するだけで高度な能力を獲得することができ、それによって他のほとんどの加盟国が有していない能力をNATOに提示することができるわけです。

ベルギーが宇宙空間で弾道ミサイルを迎撃する能力を保有したいと切望していることは、特にこの国が陸軍を6年間も防空戦力なしに放置していた状況を考えれば非常に驚異的である。

 ベルギーのNATO防衛に関する「ただ乗り」的手法は、ほかの国々にも影響を及ぼしています。オランダとベルギーの海軍は緊密な協力関係にあり、統一された指揮の下で活動していますが、それは艦艇の共同調達にまで及んでいます。
 
 2010年代には、ベルギーが掃海艦の更新プロジェクトを監督して、オランダが「M」級フリゲートの更新計画を担当することが決定されました。この選択は本来オランダが望んだものではなく、防衛資器材機関内の人員不足のために必要となったものでした。その後、ベルギーが入札業者を選んだ結果、(オランダ海軍での試験で不調を発揮した)機雷除去関連装置を含めた全産業部門の参画がフランスかベルギー企業に移ることになってしまいました。[22]

 しかし、それだけではありません。オランダが主導する「M」級フリゲートの更新計画では両国が2隻ずつのフリゲートの調達を要求されていましたが、ベルギーが初期費用超過後に計画用の予算増額を嫌がったため、規模を縮小せざるを得なかったのです。この状況はオランダ海軍が好むよりも小型の設計案を提示するに至りましたが、ベルギーにとってはこれでもコストが高すぎることが判明したため、1隻だけをフル装備にして、もう1隻は後日装備(FFBNW)とする計画にせざるを得なくなりました。[23]

 最終的に、オランダは艦の設計を元の(より大きな)仕様に戻すことを選択しました。ところが、ベルギー政府は同時期に軍事費を増額したものの、フリゲートのために追加予算を割り当てることを拒否したのです。[23]

 2023年6月、計画変更に伴うコスト上昇を相殺してフリゲートの更新計画を進めるため、オランダはベルギー企業に3億5,500万ユーロ(約563億円)を投資する決定を下しました。[24] もう割り勘はしません。

オランダの新型対潜フリゲート:ベルギー海軍が「M」級フリゲート2隻の後継として同数を取得する予定だ。

 ベルギーの基本的な義務の不履行については、ウクライナへの軍事支援にも及んでいます。支援不足を秘匿しようとするベルギーは永久に続くかのような言い訳を並べ立て、さらには真っ赤な嘘すらつくという手段に訴えてきました。この恥ずべきショーの大部分は2022年8月に投稿した記事で紹介しましたが、それ以降に起こった出来事の一部を再検討することは有意義なものと言えます。[25]

 以前に先述の記事で紹介したとおり、ベルギーは2000年代(と1990年代)にほぼ全ての重火器を段階的に退役させました。これらは一部が外国のバイヤーに売却されたものの、ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻した時点で、大半はベルギーの倉庫に保管されたままでした。ただし、これらの倉庫はベルギー陸軍ではなく、民間の防衛企業のものです。

 ほかの多くの国とは異なり、ベルギーは妥当なバイヤーが見つかるまでの保管費用の負担を避けるため、退役した装備をほぼスクラップ同然の価値で迅速に防衛企業へ売却したのです。

 2008年に完全にリファビッシュと改修を終えた「M109」SPGを、ベルギー政府は「フランダース・テクニカル・サプライ(FTS)」社に1台15,000ユーロ(約240万円)という破格の値段で売却しました。 「M109」は潜在的なバイヤーへのアピールを高める目的で回収が施されたわけですが、1台あたり僅か15,000ユーロで売却されたことは私たちをさらに混乱させます。[26][27]

 2022年4月にベルギー政府が(2016年にインドネシアに売却されずに残った)28台の「M109」の一部を買い戻そうとした際、「FTS」社は1台につき、政府が数年前に売却した価格の10倍以上の販売価格を提示したとのことです。[26]

 売却時からコスト面で大きく後退したとはいえ、15万ドルという価格であれば、これらは非常に安価と言えます。

 2022年5月にベルギー政府が「FTS」社と「M109」の価格について最終交渉を試みたところ、同社からすでに別の相手に売却されたと告げられましたが、後にイギリスが介入して、ベルギーに提示された同じ価格で自走砲を購入したことが判明したのです。[26]

 ウクライナ軍が「M109A4BE」のような砲兵戦力を緊急に要していたことを考慮すると、売却時の10倍という法外な対価を支払うのを嫌ったと言う(完全な自業自得の)理由で契約を結ばなかったベルギー政府の危機感の欠如は、実に情けないとしか言いようがありません。

 おそらくさらに不名誉だったのは、リュディヴィーヌ・ドゥドンデ国防相の反応である。彼は、"取引は決裂したものの、最も肝心なことは今やウクライナがベルギーの「M109」を得たことです "と言い張ったのです。[28]

 ベルギー政府にとって幸運だったのは、30台以上の「レオパルド1A5BE」戦車とウクライナが大いに必要としている38台の「ゲパルト」自走対空砲、そしてベルギーの(民間)防衛企業の倉庫で未だに保管されている多数の「AIFV」や「M113」APCを獲得することで償う機会を得たことでしょう。

 今さら驚くことではないかもしれませんが、ベルギーは一度スクラップ同然で売却した装備に現在の市場価格を支払う意志がないとして、これらの買取を断固として拒否しています。価格の上昇は法外に思えるかもしれませんが、基本的に、これらの防衛企業はこれらの装備について、何年も、ときには何十年にもわたって保管・維持することで生じる追加費用を含めた時価に基づいて価格設定しているのです。

 それ以来、この装備の大部分は別のNATO諸国、特に(自身の責任を果たすために力を入れている)イギリスによって購入されました。

 ベルギーは最終的にウクライナ向けに40台の「M113」を調達したわけですが、これはオランダとルクセンブルグとの共同で購入したものにすぎず、総額は僅か1,200万ユーロ(約19億円)でした。しかも、ベルギーはこれらの車両を自国企業から調達したのではありません:イタリア企業から購入したのです。[29]

 防衛企業からの装備品調達を断固として拒否する実態を隠そうとしたベルギー国防省は、装備品の買い戻しができない理由を説明するため、真っ赤な嘘をつくという手段に訴えました。

 その特筆すべき事例が、ベルギーの防衛企業である「OIPランド・システムズ」社が所有している38台の「ゲパルト」自走対空砲(SPAAG)です。[30]

 これらが依然として (ウクライナのために)調達されていないのはなぜかというジャーナリストの質問に対して、国防省の報道官は、ベルギーは運用状態に戻すために全力を尽くしたものの、結果的に成功しなかったのだと回答しました。[30]

 この報道官は記者の調査能力を過小評価していたようですが、記者はすぐに「ゲパルト」を所有する企業に連絡を取って説明を求めました。この質問に対して、「OIP」社はそれらを運用状態に戻すことに何も支障がないことを明言しました:ベルギーは「ゲパルト」1台あたり200万ユーロ(約3.2億円)という市場価格の支払いに応じることを嫌ったというのです。[30]

 こうした事例は、ベルギー国防省が装備の不買を決定した理由について、真摯な説明をするよりも(むしろ)嘘をつくことを選択したという印象を裏付けたと言えるでしょう。ジャーナリストたちが所有者である企業説明を求めて嘘を暴く可能性を無視したことは、ベルギー国防省の広報部門が未熟でプロ意識に著しく欠けていることを示しています。

ベルギー「OIP」社の施設に保管されている数十台もの「レオパルド1A5BE」戦車、「ベルゲパンツァー2」装甲回収車、「レオパルド1」ベースの操縦手訓練車、「AIFV-B-C25 IFV」、「M113」APC:ベルギー国防省は実に残念がりながら、これらの購入を拒否した。最終的に30台の「レオパルド1A5BE」がドイツに、数量不明なるも「AIFV-B-C25」 IFVも詳細不明の第三者によって調達された。

OIP社の倉庫にある旧ベルギー軍の「ゲパルトB2/B2L」: これらは1台につき約200万ユーロで再び運用できるようになるものであり、すでにウクライナに配備されている「ゲパルト」より性能が高くないにせよ、ロシアのヘリコプターに対抗する効果的な手段として機能するシステムを同国に提供することができる。[31]

 この状態については、ベルギーが国内および海外の防衛企業からの装備品の調達を控えていることを暗に意味するものではありません。2023年9月には、ベルギー国防省がウクライナ用にドイツから8発(!)の「RIM-7」艦対空ミサイル(1発の価格は7,000ユーロ:約111万円)を調達するというプレスリリースを公表しています。[32]

 同じ頃、デンマークは、2022年2月以来すでにウクライナに提供されている15億ユーロ(約2,380億円)相当の軍事支援に加えて、2023年と2024年にかけて24億5,000万ユーロ(約3,890億円)相当の新たな軍事支援を発表しました。デンマークによるウクライナへの軍事支援には、すでに85台の戦車と54台のAPC、24台のSPGが含まれているほか、間もなく19機の「F-16」戦闘機も加わる予定です。[33] [34] 

 これに対して、ベルギーによるウクライナへの軍事支援は3億ユーロ(約476億円)弱相当にもかかわらず、同国政府はウクライナへの軍事支援について、"ウクライナ軍を支援するためにできることは全部やった" と説明しています。[35]

  ウクライナに対するベルギーの支援は著しく不足している一方、この国による突出した貢献は間もなく納入される1億1100万ユーロ(約176億円)相当の「FN MAG」汎用機関銃であり、この寄贈については、2022年2月以降に提供されたベルギーの軍事支援の半分近くに相当します。ただし、これには重要な補足事項があります:オランダが運用する「ASWF」級フリゲート計画のコスト高騰による3億5500万ユーロ(約564億円)の補償パッケージの一部として、この寄贈に関する全コストがオランダによって負担されるということです。[24] 

 ベルギーが6つの異なる政府によって治められており、それが意思決定を妨げているのだという意見もあるかもしれません。しかし、ベルギーがさまざまな防衛企業と交渉して、ドイツから1発7,000ユーロのミサイルを購入することに良心の呵責を感じないという事実は、この問題が主に必要とされる資金の配分をベルギーが渋っていることに関連しています。

 ベルギーが豊富に持つべき資金について: ベルギーは他国にはない資産を保有しています。というのも、ブリュッセルのユーロクリア銀行に蓄えられているロシアの資産から利息を徴収しているのです。2022年だけで、ベルギーは同銀行のロシア資産から8億2,100万ユーロ(約1,300億円)もの利息を得ました。[36] 

ベルギーによるウクライナへの最大の軍事支援は、オランダが全額出資した「FN MAG」汎用機関銃である。

 ベルギーがウクライナに「F-16」を供与できない背景にある理由について言及すると、当初、国防省は十分な量の「F-35」が納入されるまでは自国の作戦上の必要性から「F-16」が不可欠であると主張し、自国が同型機をもはや必要としなくなる時には完全にボロボロになっているからだと述べました。[36]

 それに加えて、ミシェル・ホフマン参謀長によれば、ベルギーはウクライナに追加的な軍事支援を提供する前に、弾薬とインフラ面における自国の不備に対処することを優先する必要があるとのことです。[37]

 ベルギーの防衛予算とウクライナに割り当てられた資金が実際には別の財源であるという本質的な違いは別として、 弾薬とインフラの不備を認めることは、ベルギー人宇宙飛行士とFCAS計画に4億6,000万ユーロ(約730億円)への投資を、許しがたいは言わないまでも一層ややこしいものにしています。

 ミシェル・ホフマンの主張から2週間足らずで浮上した調査は、ベルギーが実際にウクライナへ「F-16」を供与できる可能性があることを示唆していますが、ベルギー国防省由来の嘘とペテンの一貫したパターンを考えれば、驚くべきことではないのかもしれません。[38]

 実際、これら全ての物語に一貫するテーマは、ベルギーがウクライナへの軍事支援で期待されるレベルに達していないだけでなく、解決策を模索せずに言い訳に訴えているように見えます。

 アメリカに発注した「F-35」の迅速な引き渡しを求めたり、(オランダがすでに送った全装備品に対して行っているように)8,000時間を超えた「F-16」がウクライナに到着した時点でベルギーは責任を負わないという条件で送ったり、あるいは「F-16」を予備部品や技術的用途の資機材、あるいは囮として提供するなどの選択肢を探ったりする代わりに、ベルギーはウクライナを支援できるような解決策を追求することに気乗りしないようです。

 2022年にウクライナがオランダに「YPR-765」APCの供与を要望したとき、オランダ陸軍はこの旧式化したAPCの戦場における有用性を思い描くことに苦労しました。それでもウクライナは関心を示し、結果的に196台が寄贈されました。[39]

 興味深いことに、ベルギーはウクライナが必要としているものについて、ウクライナ自身よりも強い確信を抱いているようです。もしウクライナが旧式の「F-16」の渇望を表明しするならば、これらの戦闘機がウクライナにとって全く役にも立たないとベルギーの誰が断言できるというのでしょうか?問題の根本的な動機は、ベルギーが戦闘機の供与に消極的だという姿勢にあるようです。

 上述した全ての事実を考慮すると、ウクライナに提供する意思のある支援の範囲を明確にして国民に明確に伝えることは、ベルギーにとって極めて重要だと思われます。ハンガリーがNATO加盟国でありながらウクライナに軍事支援を提供しないことを非難する人もいるかもしれませんが、少なくともウクライナに対するハンガリーの立場は明確なものになっています。その一方で、ベルギーはウクライナへの全面的な指示を伝達したように見えますが、実際の支援は不十分です。

 ベルギー国防省はウクライナに特定の種類の装備を提供しないことについて質問された際に嘘に訴え出るのではなく、コスト上の判断なのか、紛争激化を懸念してのものなのかという本当の理由を明確にすることで、より健全な決断を下すことができるでしょう。

 2023年3月、オランダ国総省は6機の「CH-47」輸送ヘリコプターをウクライナに寄贈せずに民間企業へ売却することを決定したと発表しました。この発表では、この選択の背景となった理由も国防省によって説明されています。[39]

 一部には不評を買うかもしれない説明をすることは、総じて(特に政府にとっては)嘘に頼るよりも賢明な行動なのです。

ベルギー空軍のF-16:ウクライナはベルギーから運用可能な機体か、あるいは予備部品の供給源として受領するのかどうかは未だに不明である。

 ベルギーの国防上の失敗を指摘するのは簡単なことですが、使える資金が少ないことと、ベルギー国防省及び意思決定に内在すると思しき欠点の両方を考慮に入れて、いくつかの解決策を提案することが公平というものでしょう。

 ベルギー陸軍が装軌式AFVを再導入することは極めて実現性が低いため、戦車や装軌式の歩兵戦闘車の復活を示すことは単なる希望的観測にすぎません。それでも、ベルギーの中型旅団にとって、戦時に他のNATO加盟国に頼ることなく自律的に行動する能力を持つことは必要不可欠です。

 したがって、現時点でベルギー陸軍が保有していない多様な兵器システムの導入が必要となります。これに含まれるのは、SPAAGとSAMシステム、MLRSのような長距離砲兵戦力です。これは、デンマークやオランダのような国の取り組みと一致しています。両国は、戦時に旅団が他のNATO諸国の軍から独立して機能することを可能にするため、MLRSや移動式SAMシステム、そしてSPAAGといったシステムを調達しているのです。

 強力なレベルの相互運用性を確保し、費用効率を維持するために、オランダやフランス、ドイツといった国々との緊密な協力関係を追求することも可能です。ベルギー陸軍にフランス製のAFVや火砲が圧倒的に多いことは、フランス陸軍と深く統合できる絶好の見込みがあることを意味します、そのため、この可能性については、徹底的に検討・活用するべきでしょう。

 ベルギーが歴史的に海洋国家でなかったことや、現在保有する艦艇の乗員に関する既存の課題(人材不足)を踏まえると、ベルギー海軍のいかなる形態での拡大も非現実的かつ不必要と思われます。この国が現時点で不足している海上能力を必要とする場合には、より広範囲な海上能力を有するオランダ海軍との協力を求めることが可能です。

 ベルギーは合計で34機の「F-35」を受領する予定であり、これらは2つの空軍基地(フランス語圏の基地とオランダ語圏の基地)に配備されることになっています。各基地には17機の「F-35」が割り当てられますが、双方には追加の機体用の十分なスペースもあります。空中発射巡航ミサイルや対レーダーミサイルといったスタンドオフ兵器と組み合わせた場合、ベルギーには既存の兵器システムの能力を大幅に増強する機会が与えられることになるでしょう。この増強については、完全に新しい兵器システムを導入するのではなく、既存のシステムの量を増やすか、新たな兵装を導入したりすることによって達成できます。

 ベルギー空軍は4機の「MQ-9B"スカイガーディアン"」中高度長時間滞空(MALE)型UAVも受領する予定です。これらの無人機に武装させる可能性はあるものの、現時点でベルギー政府は無人攻撃機の運用に反対しています。とはいえ、これらの無人偵察機に兵装を搭載させるならば、通常は有人戦闘機によって実施される海外展開を無人機に引き受けさせることができます。結果として、より多くの「F-35」を別の任務へ投入することが可能となるのです。

  1. 以下に列挙した一覧は、現在または将来的にベルギー陸空軍によって調達される兵器類のリスト化を試みたものです。
  2. この一覧は重火器に焦点を当てたものであるため、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルシステム、小火器、軽迫撃砲、トラック、レーダー、弾薬は掲載されていません。



陸軍 - Belgian Land Component

装甲偵察車 (将来的な数量:60)
  • 60 EBRC "ジャグア" [2025年以降に納入] (18台の「ピラーニャIII DF90」 装甲戦闘車と32台の「ピラーニャIII DF30」歩兵戦闘車を更新するもの)

装甲兵員輸送車 (将来的な数量:382)
  • 382 VBMR "グリフォン" [2025年以降に納入] (135台の「ピラーニャIII」装甲兵員輸送車と218台の「ディンゴ2」歩兵機動車を更新するもの)

歩兵機動車 (将来的な数量:322)

火砲 (将来的な数量:28 自走砲 , 12 自走迫撃砲)

防空システム
  • C-UAS/C-RAM(対無人機・対砲弾類) & 近距離防空 (VSHORAD) システム [調達を検討]
  • 短距離地対空ミサイル(SAM)システム [調達を検討]
  • 長距離地対空ミサイル(SAM)システム [調達を検討]


空軍 - Belgian Air Component

戦闘機 (将来的な数量:34)

MALE型無人偵察機 (将来的な数量:4)

輸送機&空中給油機 (将来的な数量:2 輸送機 , 最大15 輸送機)

練習機

ヘリコプター(将来的な数量 15 汎用ヘリコプター , 12+ 輸送ヘリコプター , 5 対潜ヘリコプター , 4 捜索救難ヘリコプター)


海軍 - Belgian Naval Component

フリゲート (将来的な数量:2)
  • 2 対潜フリゲート (ASWF) [2030年以降に引き渡し] (A ballistic missile defence capability is currently considered. Will replace 2 M-class frigates)

哨戒艇 (将来的な数量:3)

掃海艦 (将来的な数量:6)
  • 6 「シティ」級掃海艦 [2024年から2029年にかけて引き渡し] (「トリパルタイト」級機雷掃討艇5隻を更新するもの)

当記事の着想を提供してくれたカスパー・グーセンス氏とStoonbrace氏、そして(記事の内容に大きく貢献した)彼らのベルギーの防衛に関する貴重な先行研究に感謝を申し上げます。

[1] https://twitter.com/Stoonbrace/status/1538488541226868737
[2] Defensiebudget stijgt met amper 0,01 procent: België wordt ‘paria binnen de NAVO’ https://www.n-va.be/nieuws/defensiebudget-stijgt-met-amper-001-procent-belgie-wordt-paria-binnen-de-navo
[3] Slechts zeven NAVO-landen geven 2 procent uit aan defensie, België bengelt onderaan https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/03/21/zeven-navo-landen-geven-gevraagde-2-procent-uit-aan-defensie-be/
[4] For Queen & NATO: Listing Denmark’s Recent Weapons Purchases https://www.oryxspioenkop.com/2023/06/for-queen-nato-listing-denmarks-recent.html
[5] Hoe creatief omspringen met 235 miljoen euro België haar astronaut opleverde https://businessam.be/hoe-creatief-omspringen-met-185-miljoen-euro-belgie-haar-astronaut-geeft/
[6] België koopt Mistral-raketten en stapt als observator in SCAF-project voor nieuwe gevechtsvliegtuigen https://www.demorgen.be/snelnieuws/belgie-koopt-mistral-raketten-en-stapt-als-observator-in-scaf-project-voor-nieuwe-gevechtsvliegtuigen~b83f4c10/
[7] De Kamer van Volksvertegenwoordigers - Schriftelijke vraag en antwoord nr 55-517 : Aankoop luchtafweersystemen. - NAVO-integratie. https://www.stradalex.com/nl/sl_src_publ_div_be_chambre/document/SVbkv_55-b090-1200-0517-2021202215959
[8] De heropbouw van Defensie gaat verder met het STAR-plan https://dedonder.belgium.be/nl/de-heropbouw-van-defensie-gaat-verder-met-het-star-plan
[9] Belgische en Franse ministers van Defensie tekenen CaMo 2 en de aankoop van negen CAESAR NewGeneration https://beldefnews.mil.be/belgische-en-franse-ministers-van-defensie-tekenen-camo-2-en-de-aankoop-van-negen-caesar-newgeneration/
[10] Denmark receives first ATMOS SPHs and PULS MRLs https://www.janes.com/defence-news/news-detail/denmark-receives-first-atmos-sphs-and-puls-mrls
[11] Belgische artillerie krijgt 19 bijkomende Caesar-kanonnen https://www.nieuwsblad.be/cnt/dmf20220630_93440627
[12] A 21st Century Powerhouse: Listing Poland’s Recent Arms Acquisitions https://www.oryxspioenkop.com/2022/11/a-21st-century-powerhouse-listing.html
[13] Tientallen miljoenen gekost, maar Belgische pantservoertuigen kunnen niet vuren https://www.demorgen.be/nieuws/tientallen-miljoenen-gekost-maar-belgische-pantservoertuigen-kunnen-niet-vuren~b64c7613/
[14] ‘De langetermijnvisie bij legeraankopen is korter dan het schootsveld van een kanon’
https://www.knack.be/nieuws/de-langetermijnvisie-bij-legeraankopen-is-korter-dan-het-schootsveld-van-een-kanon/
[15] De Pandur RECCE. Het ongewenste kind van het RECCE 2001 debacle. https://www.belgianmilitaryinterests.be/de-pandur-recce-het-ongewenste-kind-van-het-recce-2001-debacle/
[16] C’est officiel : la Belgique se positionne pour intégrer le Scaf https://www.lalibre.be/belgique/politique-belge/2023/06/16/cest-officiel-la-belgique-se-positionne-pour-integrer-le-scaf-
[17] Belgium flirts with joining FCAS fighter program https://www.defensenews.com/air/2023/06/16/belgium-flirts-with-joining-fcas-fighter-program/
[18] Leger loopt leeg: komende vijf jaar gaat bijna helft van alle Belgische militairen met pensioen https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2019/07/17/bijna-helft-leger-zwaait-af-komende-vijf-jaar-leger-loopt-leeg/
[19] Voortaan ook gevechtspiloten met bril of lenzen: Defensie versoepelt aanwervingsregels om vacatures te vullen https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/06/defensie-zoekt-ruim-4-000-nieuwe-militairen-en-ander-personeel-i/
[20] 300.000 jongeren hebben geen werk: vrijwillige legerdienst moet hen aan een job helpen https://www.nieuwsblad.be/cnt/dmf20230527_96674900
[21] België investeert in raketschild en (het leggen van) zeemijnen https://marineschepen.nl/nieuws/Belgie-investeert-in-raketschild-en-zeemijnen-130522.html
[22] Information gathered through discussions with members of the Dutch Navy.
[23] 'Waarschijnlijk' meer geld voor nieuwe Nederlands-Belgische fregatten - Belgische Defensieminister https://marineschepen.nl/nieuws/Waarschijnlijk-meer-geld-voor-Belgische-fregatten-070722.html
[24] Nederlands-Belgische samenwerking bij Anti Submarine Warfare fregatten https://www.defensie.nl/actueel/nieuws/2023/06/22/nederlands-belgische-samenwerking-bij-anti-submarine-warfare-fregatten
[25] A Show Of Shame - Belgian Weapons Deliveries To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/08/a-show-of-shame-belgian-weapons.html
[26] Belgium will not send howitzers to Ukraine due to unreasonable prices https://www.brusselstimes.com/231363/belgium-will-not-send-howitzers-to-ukraine-due-to-unreasonable-prices[27] Former Belgian army M109A4BE 155mm howitzers purchased by UK now deployed in Ukraine https://www.armyrecognition.com/defense_news_january_2023_global_security_army_industry/former_belgian_army_m109a4be_155_howitzers_purchased_by_uk_are_now_deployed_in_ukraine.html
[28] La Défense n'a pu récupérer ses anciens obusiers, qui semblent bien partis vers l'Ukraine https://www.dhnet.be/actu/belgique/2022/06/01/la-defense-na-pu-recuperer-ses-anciens-obusiers-qui-semblent-bien-partis-vers-lukraine
[29] Entre revalorisation en formation, John Cockerill mobilisé pour soutenir l’Ukraine https://www.forcesoperations.com/entre-revalorisation-en-formation-john-cockerill-mobilise-pour-soutenir-lukraine/
[30] België is erg fors met woorden, niet met daden in de Oekraïense oorlog https://businessam.be/belgie-is-erg-fors-met-woorden-niet-met-daden-in-de-oekraiense-oorlog/
[31] https://twitter.com/gepardtatze/status/1689658735247949824
[32] Belgium to Deliver Eight Sea Sparrow Surface-to-Air Missiles to Ukraine https://www.thedefensepost.com/2023/09/07/belgium-ukraine-sea-sparrow/
[33] Danish support for Ukraine https://um.dk/en/foreign-policy/danish-support-for-ukraine
[34] Denmark Reporting For Duty: Danish Military Support To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2023/05/denmark-reporting-for-duty-danish.html
[35] Belgische steun voor Oekraïne: een overzicht https://diplomatie.belgium.be/nl/beleid/beleidsthemas/uitgelicht/belgische-steun-voor-oekraine-een-overzicht
[36] https://twitter.com/kaspergoossens/status/1704965545982853175
[37] Chef Defensie Michel Hofman: "Ondenkbaar dat we onze F-16's leveren aan Oekraïne" https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/07/stafchef-defensie-michel-hofman-over-f-16-s/
[38] België is wél in staat om F-16's naar Oekraïne te sturen, in tegenstelling tot wat Defensie beweert https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2023/09/19/belgie-kan-wel-degelijk-f-16s-naar-oekraine-sturen-als-het-dat/
[39] Information gathered through discussions with members of the Dutch Army.
[40] Verouderde Chinook-transporthelikopters in de verkoop https://www.defensie.nl/actueel/nieuws/2023/03/09/verouderde-chinook-transporthelikopters-in-de-verkoop


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2023年10月13日金曜日

UAE版「アルマータ」:「ゴールデンユニット」重歩兵戦闘車


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 重歩兵戦闘車(HIFV)のコンセプトは世界中の軍隊でほとんど成功を収めていません。

 HIFVの大火力と高い装甲防御力は都市部における戦闘で特に有効なものですが、そのとてつもない高価格とニッチな用途は大部分の軍隊にHIFVの導入を思いとどませるには十分なものでした。

 しかしながら、現在でも新たなHIFVが開発されています。ごく最近に登場した新型の一部として、ロシアの「T-15 "アルマータ"」とイスラエルの「ナメル(HIFV型)」、そして中国の「VT4」などが挙げられますが、これらの中で今までに実用化されたのは「ナメル」だけです。

 HIFVは戦車の車体をベースにするのが主流で、ウクライナではエンジンと砲塔の間に兵員区画を設けることができるように「T-72」戦車の車体を延長させるという選択すらしています。その開発でもたらされた「BMT-72」5名の兵士を搭乗させながら戦車として使用可能なものとなりました。また、中国の「ZTZ59」やヨルダンの「テムサ」、ウクライナの「バビロン」といった別の戦車ベースのものはオリジナルの砲塔を失ってしまいましたが、機関砲や対戦車ミサイル(ATGM)で再武装化を受けました。

 いずれのHIFVも火力支援車としてもの役割でも使用できる設計になっているため、これらは「BMP-55」のような重装甲兵員輸送車(HAPC)とは明確に別カテゴリーのAFVとして区別されます。

 HIFVというコンセプトに大きな関心を寄せているもう1つの国がアラブ首長国連邦(UAE)です。2000年代半ば、UAEは1990年代にロシアから導入した「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)を600台以上も運用していました。[1]

 これらのIFVは約400台のフランス製「ルクレール」戦車と共に運用されており、当時のUAEに中東地域全体で最も近代的で有能な機甲部隊をもたらしていました。ところが、UAEは自国の保有兵器に新たなタイプのAFVを導入することによって既存の戦力を向上させることを追求したのです。これが同国がHIFVを求める動機というわけです。

 UAEは既存のHIFVを海外から調達するのではなく、余剰となっている戦車の車体をHIFVに改造する独自のプロジェクトを立ち上げました。当時、UAEは1980年代前半から半ばにかけてイタリアから調達した約40台の「OF-40」をまだ保管したままだったのです。[1]

 「ルクレール」戦車がUAEに納入された後に「OF-40」は保管庫行きとなったものの、2003年のサダム・フセイン政権崩壊後、UAEの「ルクレール」戦車の保有数はすでに同国が必要とする数を上回っていたことから、「OF-40」を戦略予備兵器として維持する必要性がなくなったためにこの戦車をHIFVへ転換する道が開かれたのでした。

輸出向けの「OF-40」は商業面では残念な結果に終わったものの、その車体は最終的にリビアやイタリアで大量に運用されるようになったパルマリア自走榴弾砲に転用されました

 適したプラットフォームが見つかったため、UAEは2005年にベルギーの「サビエックス・インターナショナル(現OIPランドシステムズ)」社と1580万ドル(21億円)の契約を結んで「OF-40」をHIFVに改修しました。[2]

「サビエックス」社は、すでに東西各国で開発された広範囲にわたる種類の装甲戦闘車両(AFV)の改修やアップグレードの経験を有しており、その多くは現在も販売されています。MBTを歩兵も乗せることができる重装甲車両に改造するというプロジェクトは、同社にとって最も野心的な事業であったことは間違いないでしょう。

今でも「サビエックス(現OIPランドシステムズ)」社が売り込んでいる車両の一部で、左から「ゲパルト」自走対空砲、「M109A4BE」自走榴弾砲、「レオパルト1A5BE」戦車、「SK-105」軽戦車、「AMX-13」軽戦車、「M113」装甲兵員輸送車、「AIFV-B」装甲兵員輸送車

 完全に解体した後でHIFVとして時間をかけて再び組み立てるため、2005年に1台の「OF-40」戦車1両がベルギーの「サビエックス」社の工場へ運び込まれたものの、組み立て作業は2007年までかかりました。[2]

 同年、HIFVは砲塔が未搭載の状態でベルギーにて最初の一連の試験を実施しましたが、 試作型の開発が終了するまでには、さらに3年という年月が費やされました(砲塔はUAEに返還される際に搭載される予定でした)。

 UAEの砂漠で試験を実施するためにHIFVは同国に戻された後、HIFVの車体には「2A70」100mm低圧砲と「2A72」30mm機関砲、そして「PKT」7.62mm機関銃を装備する「BMP-3」IFVの砲塔が搭載されました。「2A70」低圧砲は「9M117 "バスチオン"」砲発車式対戦車ミサイルを含むさまざまな種類の砲弾を発射することができます。ただし、こうした高性能の砲弾はUIAEで導入されたわけではないようです。

 UAEが導入した「BMP-3」の砲塔には、フランスとベラルーシによって共同開発された
高度な「Namut 」サーマル式砲手用照準器が装備されています。そして、砲塔の前面に6本の発煙弾発射機が備え付けられていることは言うまでもない特徴でしょう(注:当然の装備のため)。

 2010年に砂漠での試験に合格後、「サビエックス」社の試作車両は後にUAEの残りの「OF-40」をHIFVに改造する際のサンプルとして活用される予定でした。開発期間中に「ゴールデンユニット」という名称が付与されたこのHIFVは、UAEがストックしていた「OF-40」から最大で約40台を組み立て可能と思われます。

 理由は不明ですが、より多くのを改造する作業は開始されないまま、この野心的なプロジェクトはおそらく現在もUAE軍の倉庫のどこかに残っていると思われる試作車両だけを残して終わってしまいました。[2]

UAEで「BMP-3」の砲塔が搭載された「ゴールデンユニット」

 ここからは「ゴールデンユニット」自体について記します。
 
 改造の過程で兵員用区画を設けるため、「OF-40」の車体は前後を逆にされてエンジンを車体前部に配置し、後部に4人の兵員を搭乗させることが可能な十分なスペースを確保しました。

 車体は大幅に手直しされましたが、オリジナルの830馬力の出力を誇る「MB838 CaM500」エンジンはそのまま変更されませんでした。新たに追加された装甲と「BMP-3」の砲塔をプラスした重量(合計約45トン)でも、このエンジンがHIFV用の動力源として十分なものと考えられたのかもしれません。[2]

 車体の装甲は全溶接鋼で構成されており、その性能は(NATOの防弾規格である)STANAG4569のレベル5を達成したとされています 。[2]

 新しい内部の装甲隔壁はHIFVの側面に空間装甲をもたらし、これは前部にも取り付けられました。その結果として、装甲防御能力は「OF-40」戦車や「BMP-3」IFVよりも大幅に上回るものとなりました。

ベルギーで試験中の「ゴールデンユニット」試作型:エンジンを前部に配置した結果、操縦手の位置が車体前方から遠ざかっていることに注目

 「ゴールデンユニット」の乗員は、車体の操縦手、そして砲塔に座する砲手と車長の3人でです。

(「BMP-3」で最大7人の兵員が搭乗可能なことと比較して)兵員用区画はたった4人の兵員を搭乗させるスペースしかなく、後部ランプまたは車体右側に設けられた緊急用ハッチを使ってHIFVに乗降する仕様となっています。

 特筆すべきこととして、操縦手の視界を向上させるために車両の前後にビデオカメラが設置されています。そうしなければ、カメラの設定と映像データの出力に失敗した場合と同様に状況認識が厳しくなって操縦が困難になるためです。

「ゴールデンユニット」の後部を写したこの画像は、兵員用区画のペリスコープと車体の前後に装備された操縦手用のカメラの存在をはっきりと示している

HIFVの内部については、「BMP-3」の砲塔が搭載される前の時点で広々としているように見える

 2000年代前半にロシアの「カクタス」爆発反応装甲(ERA)キットが発表された後、UAEは既存のIFV群の防御力を大幅に向上させる機会を与えられました。このERAキットは砲塔や車体前面と側面に取り付けるERAブロックで構成されており、対戦車擲弾(RPG)やATGMに対する防御力の向上をもたらします。[3]

 UAEは「BMP-3」用「カクタス」キットの顧客として頻繁に伝えられることがありますが、UAEが実際に同キットを入手したことを示す証拠はありません。

 UAEは「カクタス」キットを調達する代わりに、砲塔前面を除く車体全体を覆う軽量のスラットアーマーを装着することで、既存の「BMP-3」の防御力を向上させようとしました。
後に、この装甲強化型「BMP-3」は2015年のサウジアラビアが主導するイエメン介入時に同国南部に投入されました。優れた戦術と訓練により、UAEの機甲部隊は作戦中に僅か2台の「BMP-3」が撃破される程度の損失を被るだけで済みました。[4]

イエメンでの軍事作戦中に撮影されたUAE軍のスラットアーマー付き「BMP-3」

 「ゴールデンユニット」HIFVの見事な装甲防御能力と火力は、結果としてUAE軍により多くの「OF-40」戦車をHIFVに改造することを納得させるには十分なものではなかったようです。

 それがビジョンの変化によるものか、それとも別の理由によるものかは不明ですが、単純に5年間という開発期間の間にUAEがこのプロジェクトに対する関心を失っただけなのかもしれません。

 それにもかかわらず、武器展示会の「IDEX-2019」では副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下(兼ドバイ首長)が中国の「VT4」HIFVの模型を視察したことは、このような車両がいつか実用化されることへの関心がUAEにまだ残っていることを示唆していると思われます。

UAE副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が中国の「VT4」HIFVを視察する様子

 現在、UAEは装軌式HIFVではなく、同国が必要とする条件を満たすように改良されたトルコのオトカ製「アルマ 8x8」の派生型である「ラブダン 8x8」装輪式IFVを相当な規模で軍に配備することを検討しています。

 「ラブダン 8x8」の車体は、装甲兵員輸送車や自走迫撃砲、そして装甲回収車など多岐にわたる用途にも使用できるという、「ゴールデンユニット」では考えられなかったほどの柔軟性を備えていることが特徴的です。

 驚くには値しないかもしれませんが、このIFVも「BMP-3」の砲塔を搭載しているため、遠くないうちに世界で最も重武装装輪式IFVがUAEにもたらされることになるでしょう。
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ