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2022年11月20日日曜日

不本意な軍事支援:ウクライナにおけるイラン起源の兵器(一覧)


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ロシア・ウクライナ戦争を観察するウォッチャーの大半がイラン製無人機ロシア軍でがデビューする可能性を待ち構えていると同様に、すでにイラン製及びイランが調達した武器が遅くとも2022年4月からウクライナの戦場で積極的に活用されていることを知る人は少なくありません(注:この記事のオリジナル版は9月3日に投稿されました)

 ただ、多くの人の予想とは異なり、これらの武器はロシア軍によって使用されるのではなく、ウクライナがロシア軍と戦うために投入されているのです。

 このような武器がウクライナに行き着いた経緯は、実際にウクライナにイランの武器が存在するという事実と同じくらい興味深いものと言えます。まず、それを知るにはイランのイエメンに対する武器取引とそれに対抗するための西側諸国の取り組みについて掘り下げることが必要でしょう。

 イラン(製)の武器に関する最初の目撃事例は2022年4月下旬にウクライナの都市であるクリヴィー・リフ近郊でのことであり、市民が地面に複数のプラスチック製ケースが不審な状態で埋まっているのを発見し、地元の警察に通報したことが発端となりました。[1]

 警察官がこのケースを掘り出した結果、これらはロシアの占領に備えたウクライナの「残置要員」による作戦のために準備された武器庫であることが判明したのです。

 この武器庫のケースには数種類の爆薬や弾薬のほか、"戦前"にウクライナで運用されていなかった中国製の「56-1式」自動歩槍10丁が含まれていました。ウクライナに小火器を供与しているいくつかの欧州諸国が「56式」の在庫を保有していることが知られているものの、淡褐色の木製部品と折りたたみ式のストックから、問題の銃はイランが過去数十年の間に中国から入手したものではなく、比較的最近に生産されたものであることを示していたのです。[2]

編訳者注:上記の事例で発見された「56-1式」については、
  1. 10丁と数が少ない
  2. イラン側の密輸船から押収された武器には対戦車兵器も含まれているが見当たらない
  3. 本体や弾倉に油紙が付着したまま(アメリカなどが押収した56-1式はビニールで包装されているが、中国の備蓄用56式はグリス漬けにして油紙巻きで保管するという違いがある)
  4. 中国の輸出用56式は新品かつ油紙巻きではないのが一般的
  5. 現地民に発見されて警察に押収された状況が不可解
などの状況を踏まえると、密輸船から押収・ウクライナへ供与されたものとは考えにくいという見方もあります。イランではない他国から入手したものが地下にストックされた可能性がありますが、問題は「誰が埋めたのか」です。ウクライナの機関・現地のレジスタンスやなのか、ロシアの工作員・親露派勢力なのか、あるいはブレッパーなのか...正体も入手先も依然とはっきりしていません。
 ただし、イギリスが訓練を実施しているウクライナ兵が持っている「56-1式」は特徴的に密輸船からの押収品を供与したものとみて差し支えないでしょう。(この注釈は
Apple Tea Arsenal氏の考察を踏まえて追加しました)。

「56-1式自動歩槍」を構えるウクライナ兵(2022年8月)

 中国から納入された「56-1」式のうち実際にイランの部隊で用いられているのは一部であり、大部分は将来起こるであろう地域紛争での使用や中東各地における代理勢力への供与のためにストックされています。


 後者については2015年のサウジアラビア主導のイエメン介入後に発生しました。その反発として、イランはフーシ派にあらゆる種類の兵器を供給し始め、こうした兵器には小火器から防空システム、巡航ミサイルや徘徊兵器、さらには弾道ミサイルまでもが含まれていました。[3]

 海上封鎖が実施されているにもかかわらず、こうした兵器がイエメンに届き続けているという事実は、イランが武器密輸に長けていることを示しています。

それでも、中東の海域を航行する西側の軍用艦艇によって武器の輸送が阻止されて押収されることも散見されます。[3]

 これらの押収で、アメリカ・イギリス・フランス・オーストラリアは1万丁以上の主に「56-1式」で占められたAKタイプのアサルトライフル、機関銃、狙撃銃、RPG、迫撃砲、対戦車ミサイル、さらには少数のイラン製防空システムや巡航ミサイルも保有するように至りました。[3]

 押収された防空システム(「サクル-1」地対空ミサイルシステム)は情報機関による広範な研究のために残されていることを疑う余地はないでしょうが、これらの西側諸国がイラン製またはイランが調達した各種兵器を保有し続け、他国へ供給するという選択に進む必要性は全くありませんでした。

 しかし、2022年2月にロシアによる軍事侵攻が開始されたことで、彼らの最終的な行き先がほぼ決まりした────ウクライナです。

アメリカ海軍の駆逐艦「ジェイソン・ダンハム」の活動によってイエメン行きのダウ船から押収されて山積みとなった「56式」自動歩槍(2018年10月)

 続いてウクライナにイランの武器が存在するのが確認されたのは2022年5月と7月のことであり、この際にはイラン製の「HM-19」82mm迫撃砲と「HM-16」重迫撃砲が郷土防衛軍(TDF)で使用されているのが目撃されています[4][5]。

 「HM-19」82mm迫撃砲は「HM-15」81mm迫撃砲の独自派生型であり、イランの代理勢力用として中東全域で一般的に用いられているソ連や中国の規格82mm迫撃砲弾を発射できるように特別に設計されたものです。

 「HM-16」120mm重迫撃砲はイスラエルのソルタム社製の「K6」をイランがコピーしたものですが、「HM-19」とは異なってソ連規格の120mm砲弾の代わりに西側規格の迫撃砲弾を使用するのが特徴です。

 イラン製迫撃砲の存在が発覚してから遠くない2022年9月の初旬には、イラン製砲弾の初確認もされました。それは「D-30」榴弾砲用の「OF-462」122mm 砲弾であり、梱包されていた木箱の書面にに製造年月日が2022年と記載されていたのです。[6]

 2022年にイエメン向け「OF-462」122mm砲弾を含む武器密輸の摘発が報告されていませんが、そのような出来事が公表されていない可能性は考えられるでしょう。

 もう一つの仮説として、スーダンなどの第三国を経由してイランから砲弾を購入したというものが挙げられます。ウクライナのために第三国を利用して武器や弾薬を入手することは一般的に行われており、これまでにアゼルバイジャン・ブルガリア・パキスタン・スーダンから調達するに至っています。

 さらに数種類ものイラン製の武器やイランから密輸される途中で押収された武器が、ウクライナの手に渡った可能性があると思われます。こうした武器には、小火器・機関銃・RPG・迫撃砲、さらには対戦車ミサイル(ATGM)が加わるかもしれません。

 半世紀以上にわたる武器密輸の結果として数百発もの対戦車ミサイル(ATGM)が押収されていることを考えると、これらもウクライナの多様化する保有兵器として同国に行き着いた可能性は十分にあるでしょう。

 これらはイランから押収された武器の中では一般的な(それゆえに供与しやすい)ものですが、戦争の遂行に有益と判断されれば、より高度な種類の武器も使用可能となるかもしれません。

クリヴィー・リフ近郊の武器庫で発見・回収されたイランに起源を有する中国製「56-1」式自動歩槍(2022年4月下旬)

  1. 以下に列挙した一覧は、(準軍事組織を含む)ウクライナの軍で使用されているイラン製やイランから密輸途中に押収された兵器類の追跡調査を試みたものです。
  2. 括弧内の年はウクライナで最初に目撃された年であって、供与された年を意味しません。
  3. この一覧は新たな使用事例の判明に伴って更新される予定です。
  4. 各兵器類の名称をクリックすると、当該兵器類などの画像を見ることができます。
 

重迫撃砲

軽迫撃砲

小火器


弾薬

[1] https://twitter.com/UAWeapons/status/1518276818884866050
[2] https://twitter.com/UAWeapons/status/1518276827382431746
[3]  https://www.oryxspioenkop.com/2019/09/list-of-iranian-arms-and-equipment.html
[4] https://twitter.com/UAWeapons/status/1527691142023847938
[5] https://twitter.com/UAWeapons/status/1547332202161119233
[6] https://twitter.com/UAWeapons/status/1565798823703740416

ヘッダー画像:UAWeapons

※  当記事は、2022年9月3日に本国版「Oryx」(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ      ります。



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2022年6月7日火曜日

ギリシャからの興味深い贈り物:ウクライナ軍の抵抗に対するギリシャの支援


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 これまでに、EUとNATOのほぼ全加盟国がロシア軍と戦うウクライナを支援するために、程度の差はあるものの軍事的な支援を行ってきています。

 スロバキアによる「S-300PMU」地対空ミサイル(SAM)システムの譲渡のほか米英による「ジャベリン」や「NLAW」対戦車ミサイル(ATGM)の供与が大いに注目されていますが、そのほかにも多くの国が独自のやり方で貢献していることは見落とされがちです。

 その国の1つが早くも2月27日にウクライナへの軍事支援を表明したギリシャです。その支援の内容は、「カラシニコフ」アサルトライフル2万丁、「RPG-18」使い捨て対戦車擲弾発射器815個、そして数が未公表の122mm無誘導ロケット弾で構成されていました。[1] 

 その直後に少なくとも飛行機2機分の積載量に相当する武器と弾薬がウクライナに送られ、今やロシア軍との戦闘に用いられているようです。[2]

 それ以来、ギリシャが追加の兵器に関する供給源の有力な候補として何度も言及されるようになったことはよく知られています。

 特筆すべきポイントとして、ギリシャはウクライナ軍が(現在供与されている大部分の西側諸国の兵器とは逆に)すでに使い慣れているソ連製の膨大な兵器群を運用していることが挙げられます。これらには「S-300PMU-1」、「9K331 "トール-M1"」、「9K33"オーサ"」SAMシステムに加え、多連装ロケット砲(MRL)、装甲戦闘車両(AFV)などが含まれます。

 この理由から、アメリカがただちに実戦投入可能なソ連製兵器の供給源としてギリシャに注目し、キプロスに対して「9K37M1 "ブーク-M1"」や「トール-M1」SAMシステムなどの供与を要請したことと同じ取り組みを行ったことは確実です。[3] 

 それにもかかわらず、4月初頭にギリシャ政府は「自国の防衛力を落とすようなことはしない」という理由でそのような兵器の供給を公式に拒否し、その後にウクライナへ追加の軍事装備を送る計画がないことを明らかにしました。[4] [5]

 「トール」や「ブーク」といった(西側諸国が供与したMANPADS)より長射程のSAMシステムを入手する手段がほかに全く存在しないウクライナにとってギリシャ政府の声明に失望したに違いありませんが、ギリシャからすると「オーサ」や「トール-M1」といった高度な兵器の供給がトルコに対する自国の態勢を著しく弱体化させる可能性があることにも注目すべきでしょう。

 各国がウクライナへのハイレベルな装備の供給を決定した場合、アメリカはそれに対する補償や実施国へのアメリカ製システムの一時的な配備を約束していますが、現在ギリシャで使われている兵器を相応しく代替できる西側製のシステムは僅かしか存在しません。

 資金不足のおかげでギリシャ軍は代替システムを調達できない可能性が高く、アメリカによるそれらの供与はトルコから激しい抗議を引き起こすことが予想されます。

 ギリシャは「トール」を運用している有一のNATO加盟国であることに加えて特に「S-300PMU-1」は同国にとって(少なくとも書類上は)最も貴重な防空戦力の1つです。この事情とポーランドとブルガリア、そしてルーマニアはいずれも相当な数の「9K332"オーサ"」を運用していることを考えると、これらの国々がより賢明な防空システムの調達先であることを示しています。

 ギリシャの「S-300PMU-1」は1990年代後半に発生したキプロスのミサイル危機の結果として同国から引き継いだものですが、ミサイル発射機などのシステムは一般的な「S-300」で見られる重装軌車両や「MAZ-543M」トラックに搭載されているのではなく、「KrAZ-260B」セミトレーラー車で牽引されているのが特徴です。

 したがって、「PMU-1」のレーダーシステムだけでも展開に最大で2時間を要する可能性があることで戦術的な機動性が著しく低下するため、システムの展開場所を地上発射型の対地兵器に指示可能なロシアのUAVにさらされるリスクが高くなってしまうのです。

 ウクライナはすでにこのことを痛感していると思われます。なぜならば、ウクライナ軍は戦争の最初の数日間で(「S-300PT」 で使用される)「5P851A」セミトレーラー式発射機12基を失っているからです。[6]

現在はクレタ島に配備されているギリシャの「S-300PMU-1」SAMシステム

 最大2万丁にもなるAK型「カラシニコフ」アサルトライフルと815発の「RPG-18」、そして(「BM-21」または「RM-70」MRL用)122mm無誘導ロケット弾の供与は、先述の「S-300」のような重装備の供与に比べるとかなり見劣りしますが、ギリシャからの武器に注目すべき点がないとは言い切れません。

 例えば、ギリシャが2万丁のAK型アサルトライフルを保有するに至った経緯は少なからず皮肉的な要素が含まれているので興味深いものがあります。

 革命前のヤヌコビッチ政権下ではウクライナはいかがわしい武器取引から収益を上げることに熱心であり、その相手を全く選びませんでした。

 シエラレオネの国旗を掲げてウクライナのムィコラーイウ港からトルコに向かっていた貨物船「Nur-M」が実際にはシリアやリビア向けの兵器を積載しているという情報をギリシャ当局が得たとき、これらの国々における受取先が何者であったのかは判断できませんでした。おそらくこのことが、ある匿名のウクライナ当局者がこの取引をリークしたのは実はロシアだったと語ったとされる理由の一つなのでしょう。[7]

 AK型アサルトライフル2万丁を含む56個の武器が満載されたコンテナは、最近までギリシャに保管されたままでした。ウクライナがこれらの輸出を否認したことによって、最終的にこれらの武器は終わりの見えないMENA(中東及び北アフリカ)諸国の内戦で用いられる代わりにロシア軍に対して使用するために...たった10年前には不可能と思えたに違いない結果:ウクライナ自身に戻す理由を見出されたというわけです。

 ギリシャはさまざまな種類のロシア製防空システムに加えて、「BMP-1A1 "オスト"」歩兵戦闘車(IFV)、100門以上の「RM-70」122mm MRL、「9M111 "ファゴット"」及び「9M133 "コルネット"」ATGM、「ZU-23」対空機関砲 などの多岐にわたるソ連製兵器を保有しています。「コルネット」ATGM以外は旧東ドイツ軍のストック品から調達したものであるため、ギリシャがそれらをウクライナに供与するにはドイツの許可を得なければなりません。

 ウクライナはすでにポーランドとチェコから大量の「BMP-1」と共に別の数か国から数百台の装甲兵員輸送車を受け取っていることから、ドイツの許可が供与の最大の障害とはならないでしょう。しかし、ギリシャ国内の事情やすでにウクライナ側に他国が支援しているので、実際に供与することが不要と判断されるかもしれません。

ギリシャ軍の「RM-70」MRL:同国は1990年代半ばに158基の「RM-70」を20万5千発の122mmロケット弾と共に旧東ドイツのストック品から調達しました[9]

 ギリシャ政府がSAMシステムを含む追加兵器の供与しないと決定したことはウクライナにとって失望を与えたことに疑いの余地はありませんが、同時に状況の全体像を考慮すると全く驚くことではないのです。

 ギリシャは、アサルトライフル、RPG、無誘導ロケット弾の提供を通じて、すでにウクライナへ軍事支援をした国の長いリストに加わっています。ギリシャの支援が世間からの注目を浴びることはないでしょうが、他国と合わせてウクライナの大義に大きく貢献することになるでしょう。


[1] Greek role within NATO is upgraded https://www.ekathimerini.com/news/1179620/greek-role-within-nato-is-upgraded/
[2] Greece Sends Military Aid to Ukraine https://greekreporter.com/2022/02/27/greece-military-aid-ukraine/
[3] The US asks Cyprus to transfer its Russian made weapons to Ukraine https://knews.kathimerini.com.cy/en/news/the-us-asks-cyprus-to-transfer-its-russian-made-weapons-to-ukraine
[4] Greece formally rejects US proposal to supply Ukraine with additional Russian-made weapon systems https://www.aa.com.tr/en/russia-ukraine-war/greece-formally-rejects-us-proposal-to-supply-ukraine-with-additional-russian-made-weapon-systems/2557146
[5] Greece says no more weapons for Ukraine https://www.euractiv.com/section/politics/short_news/greece-says-no-more-weapons-for-ukraine/
[6] Attack On Europe: Documenting Ukrainian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/attack-on-europe-documenting-ukrainian.html
[7] What weapons did Greece send to Ukraine, and where did it come from https://en.rua.gr/2022/03/02/what-weapons-did-greece-send-to-ukraine-and-where-did-it-come-from/
[8] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[9] BMP-1A1 Ost in Greek Service https://tanks-encyclopedia.com/bmp-1-greece/

※  当記事は、2022年5月21日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。



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2022年1月1日土曜日

【独占・長編記事】リビア国民軍への違法な武器移転に関する追跡調査(2014~)



著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

※LNA(リビア国民軍)に供与された武器や装備類を包括的にまとめた一覧は、この記事の下の方にあります

 2014年にリビアで内戦が再開されて以来、ゆっくりと燃え上がる中で時には驚くほど激しい展開を見せる紛争は、この国の将来を不確かなものにしています。なぜならば、この内戦では複数の陣営が主導権を争い、国際的な支援者は好ましい結果を得るために多額の資金を投じることを躊躇していないからです。

(2011年2月から課している)国連による武器禁輸措置は双方が武器や装備の入手を阻止することを目的としていますが、外国の支援者によって露骨かつ一貫して無視されてきました。

 最近(注:2020年3月)公表された国連安全保障理事会の専門家パネルによる報告書は、禁輸措置が発動されてからの違反行為を記録化することを目的としており、主に航空機による武器・装備の国際的な輸送の分析に焦点を当てています。[1]

 結果として得られた資料は入念かつ詳細に記されていますが、この調査手法の欠点の証しにもなっています。全体的に十分な画像分析がなされていないため、無数の兵器システムや弾薬の引き渡しを記録できず、ほかのものを誤認しているなどのミスが散見されるものとなってしまいました。したがって、その結論はUAE、ロシア、ヨルダン、そしてエジプトなどの常習犯を完全に無視して、地域の外国勢力としてトルコを犠牲にするという、ひどく的外れなものでした。

 当記事は、その内容に反論することではなく(ただし、簡潔な反論はこちらにあります)、前述の当事者による2014年以降のLNA(リビア国民軍)への武器移転の実際の包括的な概要を提示することによって、国連安保理の報告書の対比資料として機能することを目的としています。

 この紛争の背景を考えてみることは読者に当記事を読み進めるうえでの見識をもたらすでしょうから、最近の展開を取り上げる前にこの内戦の経緯から説明していきます。

 (投票率が僅か18%だった)2014年のリビア議会選挙の結果に続いた政治的な内紛の後、リビアは事実上、2つの陣営に分断されてしまいました。[2]

 リビア東部では、トブルクに代議院(HoR)が設置され、HoRに忠実であるリビア国民軍(LNA)の司令官としてハリーファ・ハフタル将軍が任命されました。後にLNAは、UAE、ロシア、ヨルダン、エジプト(そして度合いは低いがフランス)から大幅な軍事的支援を受けることになりました。

 一方のリビア西部では、国民議会のメンバーが首都トリポリで独自の政府を樹立し、後に「国民救済政府」と知られるようになりました。一般的に「リビアの夜明け」と呼ばれる国民救済政府は、最終的に2016年1月に設立された国民統一政府(GNA)に政権を譲渡し、2016年3月にトリポリで正式に発足しました。

 国連が承認したファイズ・アル・シラージュ首相率いるGNAがリビアの新たな統治機関として機能することになっていましたが、HoRは2017年3月にGNAの承認を撤回し、GNAを打倒して自らがリビア唯一の合法的な政府を樹立することを宣言しました。[3]

 LNAとは異なり、「リビアの夜明け」と後のGNAは2019年の夏にGNAのためにトルコが軍事介入するまで、世界中からの政治的な支援だけでやりくりしなければなりませんでした。

 リビアが2つの敵対する陣営に別れた直後から、UAEとエジプト、そしてヨルダンは、LNAに大量の兵器類、車両、さらにはいくらかの航空機の供給さえも密かに開始しました。また、LNAのためにUAEが運用する中国製「翼竜」無人戦闘航空機(UCAV)を含む、より高度な装備も秘密裏にリビア国内に運び込まれ始めました。

 この目的のために、リビア東部のアル・カディム空軍基地は大規模な整備と改装が行われ、新しい航空機用シェルターと駐機場、弾薬庫、兵舎を得るだけでなく、MIM-23「ホーク」地対空ミサイル(SAM)の配備による「防空の傘」の恩恵を受けました。

 それにもかかわらず、有能な地上部隊を実際に訓練すのではなくLNAに大量の装備を与えるというこの戦略は、現場ではほとんど成果を上げていません。

 2019年までどこの国からもいかなる本格的な軍事支援を受けていなかったGNAに圧力を強める機会は有り余るほどあったものの、結果としてこの機会は実質的に無駄に終わり、両陣営が(イスラム国などの)過激派組織との戦いに重点を置いていた間、双方のパワーバランスはほとんど変化なく維持されました。

 LNA側に突破口を切り開こうとする努力がなかったわけではありませんが、紛争の進展に伴い悪名高いロシアのPMC「ワグナー」を展開させることを含め、外からの関与がエスカレートしていったにもかかわらず、結局は突破口にたどり着きませんでした。

 それどころか、UAEは投資をしたおかげで、移民収容センターに対する悲惨な攻撃のみならず26人の非武装の士官候補生を殺害したドローン攻撃への関与を含む、紛争当事者を取り巻くよくある議論の罠に引っかかってしまいました。[4] [5]

 結果的にUAEとロシアによる共同の取り組みは、LNAの旗の下に集まった寄せ集めの民兵たちがトリポリで勝利を収めるために必要となる適切な量と種類の支援を提供することに失敗しました。

 高度なロシアの防空システムでカバーされた下でロシアの砲撃支援を受け、UAEが運用するドローンが支援するロシアから供与された戦車などで構成される部隊は全てがUAEとロシアによって運用されています。理論上は見応えのある素晴らしい部隊ですが、実際には彼らが支援するLNAの兵士たちと同じくらいしか効果を発揮することができませんでした。

 非常に不規則で訓練を受けていないLNA兵士の根本的な欠点に対処しなかったことで、これらの乗数的戦力増強効果(フォースマルチプライヤー)の作用は大して影響を与えずに平凡に終わった結果は、イエメンにおけるUAEの一貫した戦略の欠如を反映したものと言えるでしょう(注:イエメンでの失敗を繰り返しているということ)。

 2019年夏に突如としてトルコがGNAのために介入した際には「バイラクタル外交」の効果でトリポリと西リビアの情勢はすぐに好転し、LNAはリビア西部における2大拠点であるアル・ワティーヤタルフーナを喪失しました。

 この新たな現実に直面したLNAの外国の支援者は、リビアの権力の座の確保が目の前にあったところから、突如としてLNAの支配地域に対するGNAの進撃を阻止するために奮闘しなければならなくなったのです(注:実際にタルフーナからトリポリまでは僅か60キロメートル程度しか離れていません)。

 UAEの次の行動方針が一体どのようなものになるのかは、すでにLNAがリビア西部から撤退した直後に明らかとなっていました。

左から:ハフタル将軍(LNA)、ムハンマド皇太子(UAE)、シシ大統領(エジプト)

 自分が知る最もベストな手法に固執するアブダビは、戦闘におけるLNAの無能さを補うために、PMCに紛争をさらにアウトソーシングする方法を模索し始めました。

 紛争における傭兵の度合いを増やすための土台は、2019年にLNAがトリポリ進軍に失敗した時点ですでに構築されていました。当時はロシアのワグネルの関与が著しく増加していたため、UAEは別の勢力に突破口を求め始めました。

 UAEの求めはエリック・プリンスに頼ることに至り、彼はクリスティアン・デュラントを介して2つの作戦を提案しましたが、いずれも最終的には実現しませんでした。 [6]

 ほかの傭兵にはチャド人、シリア人、スーダン人などの戦闘員が含まれていましたが、彼らの一部は「UAEで警備員として働かないか」という嘘の勧誘に引っかかり、結局その意に反してリビアに送り込まれてしまった人たちです。[7]

 こうして集められた傭兵たちは当然のことながら烏合の衆であり、UAEが求めていた攻勢の突破口を開くことができるどころか、単に防御陣地を維持するのに使えるだけという有様になるのは一目瞭然でした。

 リビアでの戦争をアウトソーシングできる勢力がほとんど存在しないことから、UAEは選択を迫られました。ワグネルへの支援を大幅に増やすことができますが、そうすることによってアメリカの最も信頼できる同盟国の1つとしての特恵的な立場を危険にさらされたり、場合によっては制裁を課されるという脅威に直面する可能性すらありました。あるいは、トリポリ攻勢の失敗を口実にしてリビアへの関与を徐々に縮小し、戦場ではなく交渉の席で打開策を実らせることができたかもしれません。

 アブダビは「行動する意思がないか、あるいは行動できない」アメリカ政府の態度に対する自信からか、大胆にも第1の選択に進んでワグネルへの支援を倍増させました。つまり、アメリカやNATOとの協調に専念してきたUAEの外交政策を大きく転換した動きの1つとして、アブダビは静かにロシアと提携を結んだということです。そうすることで、この動きは本質的にロシアに対してNATO諸国の南側に軍事拠点を築く自由を与えることを意味しました。

 その最初の影響については、UAEは残存していた自身の「パーンツィリ-S1」防空システムをLNAに(その後にワグネルにも)引き渡し、リビア東部のアル・カディム空軍基地をロシアのSu-24戦闘攻撃機に開放したことで、ほぼすぐに目立つものとなりました (ロシアは2019年11月に自軍の「パーンツィリ-S1」を使用してトリポリ付近を飛行する2機のMQ-9「リーパー」UAVを撃墜したことがあります。このうちの1機はイタリア軍機で、もう1機はアメリカ軍機でした)。[8]

 UAEがワグネルのリビア展開に直接的に資金を提供しているかどうかという質問が頻繁にありますが、そもそもUAEがリビアへ介入したことが彼らの展開をもたらしたので、全く関係ありません。

 もちろん、ワグネルへの高度なSAMシステムの引き渡しとリビアにおけるUAEの空軍基地へのSu-24の配備は、広大な地政学的ゲームにおけるいくつかの新たな動きがあることを完全に暗示しています。リビアは北アフリカにおけるUAEの野心のターニングポイントとなっているのです。

 興味深いことに、この一連の出来事は西欧やアメリカではほとんど無視されてきたようです。実際、トルコがロシアの「S-400」SAMシステムの導入を決定して厳しく罰せられた一方で、UAEがNATO諸国南側の玄関先である場所へ事実上のロシア軍を配備させ、装備を与え、資金を提供したことについては、今のところ何の結果も発生していません。それどころか、最近の事例ではUAEは2020年11月にF-35ステルス戦闘機を50機購入することにゴーサインが与えられたのです。

 それでも、この出来事はアメリカが同盟国への対応に一貫性があるかどうかについて深刻な疑問を投げかけています。

        

 UAEは「行動する意思がないか、あるいは行動できない」アメリカ政府の態度に自信を抱いていましたが、2020年12月にユセフ・アル・オタイバ駐米大使によってなされた数々のコメントによって、その自信がさらに強調されました。[9]

 UAEによるリビアの関与についてアメリカ上院議員から批判を受けて、同大使は明らかに虚偽の発言をしましたのです。以下の発言には、(客観的に見ても)信じられないほど利口としか言いようのない風評を否定することも含まれていました。
 
 2021年の時点で、UAEは米露双方の作戦機を同時に自国の空軍基地に配備させている世界で唯一の国です。Su-24とMiG-29は公式にはワグネルが運用していることになっていますが、彼らがロシア軍の非公式な部隊として機能していることは今や公然の秘密です。

 これは装備だけを見ても明らかなことです。なぜならば、(ロシアが引き渡した)MiG-29、Su-24、「パーンツィリ-S1」などの高度な装備をリビア国内で現実的に運用できる陣営がほかに存在しないからです。もちろん、ロシア空軍の「IL-76」や「Tu-154」がLNAの空軍基地にほぼ定期的に離発着している事実だけでも、事実上ロシア政府の関与があることを強く示唆しているはずです。



 引き渡された武器や装備の大部分は最終的にLNAの手に渡ったものが目撃されたり、GNAに鹵獲された後に撮影されることになるのが常です。ただし、UAEは幅広い国々から武器を調達する傾向があるため、結果としてLNAやイエメンの傀儡部隊に使用させるための武器の入手に関する情報が長い間にわたって安定的に流れています。

 著者が入手した情報のいくつかには秘匿すべき情報源から得たものがありますが、空港のグランドスタッフが武器や弾薬を満載してUAEに向かう輸送機や内部を撮影したというようなシンプルなものもあります。

 これらの航空機の貨物の大多数にはUAE軍では使用されていない兵器類の弾薬が含まれているため、最終的にはほとんど全ての弾薬がリビアやイエメンで使用されていると考えても差し支えないでしょう(注:下の画像の貨物にはUAE行きのT-55用戦車砲弾と記載されていますが、当然ながらUAEはT-55を運用していません)。

 この慣行は、その過程においていくつかの西欧諸国も関与させています。なぜならば、制裁措置が課されているリビアやイエメンに行き着くことが明らかな兵器類が自国の港や空港を経由して運ばれていくにもかかわらず、その行き先を調査することには驚くほど全く関心を示していないようだからです。

行き先:アブダビ、積載物:T-55用100mm榴弾、数:20発

 別の事例では、リビアに供給された弾薬の木箱に記載された文字を消す消すことについて、UAEが無能すぎたか、あるいは単に無頓着だったことを示しました。[10]

 UAEが関与した痕跡が(一見して)絵筆で容易に塗り隠すことができたという事実は、同国のリビアにおける冒険的行為に対する考えの甘さを物語っています。

 ペイントで隠された貨物の詳細項目ほど自身が「違法な武器取引き」であることを認めるものはありませんが、少なくともUAEに僅かな程度の「もっともらしい否認」をもたらしてくれることは間違いないでしょう。



 同様に無能だったのは、リビア内戦の成り行きを激変させるためにエリック・プリンスによって考え出された数々の企てでした。

 2007年に17人の民間人を殺害した「ニソール広場の虐殺」を含むイラクで深刻な人権侵害を犯したことでその悪名を世に知らしめたPMC「ブラックウォーター(現在はアカデミに改称)」社の創設者であるエリック・プリンスの取り組みには、UAEのビン・ザイード・ムハンマド皇太子の支援によって支援された、構想が不十分に練られていない民間軍事事業を立ちあげることが含まれていました。[11]

 このような事業プロジェクトの1つから「オーパス」が誕生し、プリンスの同僚であるデュラントと彼が経営する「ランカスター6」社によって担当されました。

 プロジェクト「オーパス」はUAEが探し求めていたリビアで突破口を開くためのものでしたが、その中身は非現実的で壮大なものでした。これは空中機動作戦を中心とした小規模な傭兵部隊を要するものであったため、結果としてデュラントは南アフリカからAS332L「シュペルピューマ」輸送ヘリを3機、ヨルダンからMD530FFを6機、AH-1F「コブラ」攻撃ヘリを3機購入することに行き着きました。[11]

 しかし、AH-1とMD530の取引については国連の制裁(そして米国の法律)を履行するつもりの厄介なヨルダンによって最終的に失敗に終わり、GNAの支援者による武器輸送を追跡する任務を負った海上部隊など、ありとあらゆる支援作戦を含んだワイルドな計画は阻止されてしまいました。[11]

 当時、こうした貨物(や積載した船)は一般的にトルコ海軍のフリゲートに守られており、彼らは軽機関銃程度の武装しかないRHIB(複合艇)で対決するつもりでしたが、この計画の段階ではその事実はごまかされました(注:デュラントが当初からこの不都合な事実を知っていていたのか、単に無知だったのかは不明です)。

 おそらくさらに衝撃的だったのは、デュラントがハフタル将軍に彼らのチームが殺害を申し出た10人のリビア人のリストを提示したことでしょう。リストにはヨーロッパの市民やリビアに住んでいない人々が含まれていました。しかも親ハフタル派である数人の人物さえもリストに載っていたという事実は、デュラントの取り組みがいかに情報不足で見当違いであったのかを示しています。[12]

 しかし、適切な装備が欠けていることが「オーパス」を中止させるには至りませんでした。2019年半ばに傭兵部隊がベンガジに到着した後、デュラントらはヨルダンのAH-1やMD530の代替機として南アフリカから調達した3機のヘリコプターを加えることに成功しました。そのヘリコプターは非武装のSA341「ガゼル」であり、ガンシップとして使用するためにはリビアで改造する必要がありましたが、仮にそうしても攻撃能力はAH-1やMD530が持つごく僅かな程度しかありませんでした(注:実際に改造されたかは不明)。

 傭兵たちが持ってきたのが、ハフタル将軍が8000万ドル(約91億円)を支払って調達を約束された9機の攻撃ヘリではなく3機の非武装ヘリであることを知った将軍は激怒して彼らを脅しました。[11]

 結局、傭兵たちはリビアに到着後から僅か数日で2隻の複合艇に乗ってマルタに逃亡してしまいました。皮肉にも、彼らが使用した複合艇はGNA支配下のリビアに海上封鎖を課すために活用を想定していたはずのものでした。

 このようにして、その厚かましさと潜在的意義において、計画案の傲慢さと愚かさだけが超越した事件は終わりを告げたのです。

 クリスティアン・デュラントはその後、「私たちは制裁に違反していません:私たちは軍事的なサービスを提供していません。私たちは銃も扱っておらず、傭兵でもないのです」と主張する声明を発表しましたが、私たち著者はデュラントが2019年3月にジョージアの「トビリシ航空機製造(TAM)」からSu-25攻撃機を獲得するための入札を含む、軍用機の調達をさらに数回試みたことを示す情報や写真を入手しています。[13]

 もちろん、国際的に承認されているリビア政府を転覆させようとした彼の役割を立証するには、すでにいくつかの調査報告書で提示されている証拠で十分ですが、行った先々で証拠を残していく彼の傾向は国連の調査官が彼の不法行為の全貌を明らかにするのに必ず役立つに違いありません。

 有罪となった場合、デュラントは祖国のオーストラリアで海外への渡航禁止令、全資産の凍結、そして最大で10年の懲役刑を受ける可能性があります。

 最終的にSu-25の調達は実現しませんでしたが、これらの全機が紛争地帯に行き着くことに疑いの余地がないことを考慮すると、仮に実現して持ち込まれた場合は複数の制裁措置に違反することになったでしょう。

2019年3月、ジョージアのトビリシにあるTAM社の工場ホールの一角で同社のCEOヴァジャ・トルディア氏(左)と握手を交わすクリスティアン・デュラント氏(右)。

 エリック・プリンスとクリスティアン・デュラントがリビア内戦の推移に与えた影響はハリーファ・ハフタル将軍の血圧を一時的に急上昇させた程度に過ぎなかったようですが、ほかの国々はLNAの軍事組織としての無能さを補うために、(増え続けていく)装備類の供与を始めました。

これらの供与品は、陸(エジプト経由)・海・空を通ってリビアに届きました。空輸では、UAEとロシアの両国が主にチャーターしたIL-76とロシア空軍のIL-76、UAE空軍のC-17A「グローブマスターIII」輸送機を用いて航空輸送を維持しました。多くの便は、リビアとの国境近くにあるエジプト西部のシディ・バラニ空軍基地やリビアのアル・カディム空軍基地に着陸しました。
  1. 供給された武器、車両、弾薬、装備品に関する包括的なリストは以下のとおりです。
  2. このリストには、LNAに大量に供給された「(装甲強化型)トヨタ・ピックアップ」トラックや、リビアに装備類を引き渡すために用いられても通常はリビアで使用されていない輸送機は含まれていません。
  3. 供与されたAFVは追跡調査が容易ですが、弾薬のような物品の場合はそれを突き止めることが困難であるため、このリストには少数しか掲載されていません。
  4. 各装備類の名称の後に記された年号はそれらが最初にリビアで視認された年です。しかし、多くの場合はそれが実際に実際に供与された年を意味しません。
  5. 装備類がLNA以外の勢力で運用されている場合は、実際の運用者を太字で追記しています。
  6. 各装備類のサプライヤーについては、各項目の左端にある小さな旗で示しています(右の凡例を参照)。ただし、プロジェクト「オーパス」の過程で得た(または失敗した)ものについては、担当した「ランカスター6」社の所在地であるUAEの旗を使用しています。
  7. 出所が不明な装備類については、サプライヤーを示す旗はクエスチョンマークのもので表示されています。
  8. 各装備名をクリックすると、リビアで使用されている当該装備の画像が表示されます。


戦車


装甲戦闘車両
  • BRDM-2 [2017] [UAEがウクライナから調達]


装甲兵員輸送車


耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)


歩兵機動車


迫撃砲(自走式を含む)


牽引砲


多連装ロケット砲


対戦車ミサイル


対空砲


地対空ミサイルシステム
  • S-125(SA-3) [2020] (UAEがベラルーシから調達)
  • 「パーンツィリ-S1」 [2019] (当初はUAEがLNAのために運用していたが、現在はLNAとワグネルが運用)
  • MIM-23「ホーク」 [2019] (リビア東部のアル・カディム空軍基地の防空用としてUAEが2019年後半に配備 )
  • MIM-104「パトリオット」 [2020] (リビア東部のアル・カディム空軍基地の防空用としてUAEが2020年1月に配備したが、アメリカの圧力を受けて撤収)
  • 「パーンツィリ-S1M」 [2019] (ワグネルが運用しており、2019年11月にアメリカ軍とイタリア軍のMQ-9「リ-パー」UAV2機を撃墜 )


レーダー・電子妨害装置


無人航空機


ヘリコプター


戦闘機・攻撃機


ISR(情報収集・警戒監視・偵察)機
  • PC-6 ISR [2019] (偵察・情報収集用としてランカスター6が運用 )


輸送機・VIP専用機


艦艇


トラック・ジープ、各種車両


小火器


弾薬類


その他の装備品など


入手過程にある装備類


入手に失敗した装備類

 これらは確かに理論上では見応えのあるリストですが、掲載されているどの兵器もLNAとその支援国が切実に探し求めていた突破口を切り開くことには成功しませんでした。

 GNAがシルトの手前で進撃を止めた後に戦線のバランスは急速に膠着状態に逆戻りしましたが、リビアの内戦をおそらくもっとも特徴づけているこの状態が紛争の政治的解決を実現するための新たな呼びかけに至らせることになったのです。

 双方による協調した取り組みは、2021年3月16日にGNAが暫定国民統一政府(GNU)に正式に政権を譲渡したことで結実しました。そして、長年の内戦を終結させ、2021年12月に予定されている選挙を実施するための複雑なプロセスが開始されました。

 しかし、国内に多く存在する勢力は過去数年間に築き上げた権力や影響力の放棄を嫌っていると思われます。それに加えて、依然として外国がこの根付いた紛争に深く関与していることから、GNUがリビアに安定を回復する上でどれほどの成功を収めることになるのかは現時点では不明です。また、リビアの紛争当事者に対する国際的な支援の意味合いは、すでにリビア内戦の範囲をはるかに超越したものと化しています。

 トランプ政権時代の政策を急速に覆そうとするバイデン政権が誕生したことで、この紛争における外国の当事者は、過去の自身の行動による結果のために、新たな政治的エスカレーションのリスクを冒すことになるでしょう(注:バイデン政権がリビア介入でUAEに制裁を課す可能性すらあるということ)。

 UAEにとって、これまでに何度もアメリカ軍と衝突したことのあるワグネルを公然と支援していることが今や明るみとなったという事実は、自身がアメリカに対して強く出過ぎてしまったことを意味しているかもしれません(注:ワグネルとアメリカ軍の戦闘については、特に2018年のシリアにおける「カシャムの戦い」が有名)。

 伝統的な同盟国にして現在も地域で最も影響力のある国家からの恩恵を失うことは、劇的な結果をもたらす可能性があります。少なくとも、それにはバイデン大統領が就任する数時間前に確保した50機のF-35の調達への悪影響が含まれることは誰でも容易に想像できるはずです。

 今のところ、UAEはリビアでの冒険的行動に費やすコストを価値あるものと見なしている可能性があります。しかし、現在の地政学的情勢は予測不可能で不安定なものであることから、単なる金銭的コスト以上のものが危機に瀕するという現実にUAEはすぐに直面することになるかもしれません。

[1] Letter dated 8 March 2021 from the Panel of Experts on Libya established pursuant to resolution 1973 (2011) addressed to the President of the Security Council https://undocs.org/Home/Mobile?FinalSymbol=S%2F2021%2F229&Language=E&DeviceType=Mobile
[2] Libyans mourn rights activist amid turmoil https://www.aljazeera.com/news/2014/6/26/libyans-mourn-rights-activist-amid-turmoil
[3] Libya’s eastern parliament quits UN peace deal with Tripoli https://english.alarabiya.net/News/north-africa/2017/03/08/Libya-s-eastern-parliament-quits-UN-peace-deal-with-Tripoli
[4] Libya migrant attack: UN investigators suspect foreign jet bombed centre https://www.bbc.com/news/world-africa-50302602
[5] UAE implicated in lethal drone strike in Libya https://www.bbc.com/news/world-africa-53917791
[6] The fighter pilot, the mercenary boss, and the warlord: a modern Libyan war story | Four Corners https://youtu.be/yVc7cHG0ATs
[7] Recruited as Security Guards in the UAE, Deceived into Working in Conflict-Ridden Libya Instead https://www.hrw.org/news/2020/11/01/recruited-security-guards-uae-deceived-working-conflict-ridden-libya-instead
[8] Lead Inspector General for East Africa And North And West Africa Counterterrorism Operations I Quarterly Report to the United States Congress | July 1, 2020 - September 30, 2020 https://www.dodig.mil/Reports/Lead-Inspector-General-Reports/Article/2427451/lead-inspector-general-for-east-africa-and-north-and-west-africa-counterterrori/ (page 40)
[9] https://twitter.com/UAEEmbassyUS/status/1334547777293078528
[10] Chinese GP6 guided artillery projectiles in Libya https://armamentresearch.com/chinese-gp6-guided-artillery-projectiles-in-libya/
[11] Erik Prince and the Failed Plot to Arm a Warlord in Libya https://theintercept.com/2021/02/26/erik-prince-jordan-libya-weapons-opus/
[12] Mission Implausible: The Harebrained (Alleged) Erik Prince-linked Operation in Libya https://libyamatters.substack.com/p/mission-implausible-the-harebrained?r=e0mx3
[13] The fighter pilot, the mercenary boss, and the warlord: a modern Libyan war story | Four Corners https://youtu.be/yVc7cHG0ATs?t=2446
[14] 緊張高まるリビア紛争Ⅰ-トルコ、ロシアの軍事介入(翻訳における参考資料)

特別協力: Calibre Obscura(敬称略)

※  当記事は、2021年3月23日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したも
 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。