2022年4月5日火曜日

国家の命運:ウクライナの窮状と期待されるトルコの支援


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo)

 まだ始まってから日が浅いばかりですが、衝撃的なほど残虐なプーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻は、歴史的に悲劇に苦しめられたこの国を再び暗黒時代へ後戻りさせました(注:この記事は3月8日に公開されたものです)。

 必死に生存権を確保しようとしているウクライナを非常に強大な軍事力が三方向からウクライナを包囲しながら市民生活を少しも配慮することなくあらゆる目標に砲爆撃を加えており、ウラジーミル・プーチン大統領はこの国をロシアに実質的に取り込む意図を繰り返しほのめかしています。

 このような状況や過酷な見通しのもとでは、ウクライナの人々が絶望し、見捨てられたと感じるのは無理もないでしょう。

 しかし、この数週間でウクライナ人たちは全く逆のことを示しました。数的に優勢な侵略軍を前にした彼らの立ち直る力と意志の強さは、(これは推測ですが)モスクワにいる侵略の立役者だけでなく、多くの人々を驚かせたのです。

 同様に驚くべきことは、事前の準備、戦場の選択、さらには必要となる戦闘の種類という観点から見れば理想的に戦うことができたはずの戦争で、ロシア軍の不手際と準備不足が判明したことです。ウクライナの人々の並外れた忍耐力とロシア軍の失態の両方がHD画質で記録やアップロードをされて、過去に発生したどの武力衝突よりも瞬時にリンクされた世界に何百万回も再生されました。

 (特にウクライナの農民が著名になりましたが)急速に脚光を浴びるようになった抵抗を象徴するアイコンの中には、過去10年間にあった多くの紛争で猛威を振るった兵器が存在します:それがトルコの「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)です。[1]

 ほとんどのアナリストは、ウクライナが有する20機程度のTB2が戦争の初期段階ですら生き残ることができないと疑っていました。つまり、リビアシリアナゴルノ・カラバフなどの紛争で得た成功の再現はおろか、TB2のほとんどが地上で撃破され、残存機も離陸直後に撃墜されると予想されていたわけです。[2] [3] [4]

 とりわけ、過去の成功についてはTB2が投入された武力衝突が低強度紛争だったことでけではなく、作戦地域で活動してる統合防空システム(IADS)が不十分であったことの結果と説明されることが通例になっていますが、実際にはこれらの戦争全般でロシアの最新の防空システムの大半が運用され、2020年におけるアルメニアの戦域は世界で最も密集した防空ネットワークの1つであったことに留意する必要があります。[5]

 ウクライナの空を飛ぶTB2が健在で、ロシアの防空兵器と補給線に見事な勝利を収めている映像がリークや公開され始めると、この論法が誤りであることがすぐに明らかとなりました。

 そして、おそらく思いがけないことに、ウクライナ国民と海外のウクライナ支持者たちの両方がこの無人機の下で結集し、TB2は強気に出過ぎたと思われる侵略者への反抗のシンボルとなったのです。

 動物の名前の由来となったり口コミ動画に使われたり、さらには独自のテーマソングを作られて披露されたりと、TB2は「バイラクタル」として誰もが知っている言葉となりました。[6] [7] [8] [9]

 すでにロシア国防省は戦争前にウクライナが保有していた数を上回るTB2を撃墜や撃破をしたと主張していますが、実際には、この記事の執筆時点では1機も撃墜の証拠が公表されていません(注:4月3日時点で3機の墜落が確認されています)。

 TB2の最近の快挙を綿密に追跡し続けている人たちにとって、今次戦争での成功もそれほど不思議なものではありません。なぜならば、電子妨害となりすまし攻撃に対する耐性、(単に小さなサイズが要因でもたらされた)レーダー断面積の小ささ、そして(おそらく最も重要なこととして)遠距離からピンポイント攻撃可能な能力を組み合わせたことは、防空システムにとって探知と迎撃が最も難しい目標の1つとなることを意味しているからです。

 一方、「バイラクタルTB2」を開発した「バイカル・テクノロジー」社は、困窮にあるウクライナへより多くのUCAVを送ることに同意し、すでに第一陣が目的地に到着しています。[10]

 ウクライナの国家存続に対する明らかな脅威と、以前から続くトルコとウクライナの防衛企業の密接な協力関係を考慮すれば、TB2がさらに納入されると聞いて驚く人は少ないはずです(注:例としては「バイカル・テクノロジー」社とウクライナの国営武器輸出企業「ウクルスペツエクスポルト」との間で合弁企業「ブラックシー・シールド」を設立しており、さまざまな分野での軍事技術面での協力関係を構築しています。)。

 もちろん、引き渡す国が活発な戦闘地帯となった今、トルコの支援には明らかに政治的要素があると思われます。

 それにもかかわらず、最も強力なアセットの1つであるUCAVに大いに注目を集めないようにするため、ウクライナ国防省はTB2に関する公表を最小限に抑制し続けています。実際、今次戦争におけるTB2に関する既存のコンテンツは公式に発表される前に全てがオンライン上でリークされていたことから、ウクライナ軍がこのUCAVを実戦投入していながら、その運用を意図的に秘匿していることがさらに確認されたのです。

リークされた数少ない「バイラクタルTB2」による攻撃映像の1つに、ウクライナ戦線に必要な燃料を積んだロシアの補給列車を攻撃するシーンがあります。この攻撃はクリミア半島で行われたものですが、驚くべきことにロシア自慢の「S-400」中長距離SAMシステムの射程圏内でもあったのです。

 NATO加盟国になりたいというウクライナの強い願望とすでに加盟国であるトルコという立場が完全に違うにせよ、現時点で運用可能な最新鋭のUCAVの一部を送ることによって、トルコは過去数年で急速に発展した二国間関係を称賛しているようにみえます。

 したがって、トルコがロシアによる旧ソ連加盟国への一方的な侵略の際に態度を決定したことは、ほかの地政学的な大国からの怒りを買うリスクがあっても自国の権益を守る覚悟ができていること示すものと言う言うことができます。そうすることで自由なヨーロッパへの攻撃を打倒することに役立っているという事実が、偶然ながらもその決断をNATOの同盟国からの評判を良くさせ、その結果として、過去数週間でトルコに関するほとんどの西側諸国のナラティブに劇的な変化をもたらすに至りました。

 魅力的な「バイラクタルTB2」の活躍やその追加納入が国際報道で注目されているにもかかわらず、現時点におけるトルコの取り組みは、そのUCAVの能力のほんの一部に過ぎないのです(注:トルコはウクライナ・ロシア両国の停戦協議を仲介したり、その交渉舞台を提供するなど、外交面で積極的に関与していることは言うまでもありません)。

 極めて重要なことですが、「バイラクタルTB2」はリビアやナゴルノ・カラバフの活躍で紛争当事国の運命を決定づけることに成功したものの、トルコの「バイカル・テクノロジー」社が送り出した最新のハードウェアではありません。[11] 

 ウクライナにおける非情な戦争の第2週目が終わった今、ウクライナの窮状を支援する動機は高まるばかりであり、将来は友邦のトルコからの武器供与が増えるかもしれません(注:4月現在では、トルコからではなく、西側諸国からの多大な武器支援が始まっていることは周知のとおりです)。

 特に、「TRLG-230」誘導式多連装ロケット砲や「バイラクタル・アクンジュ」UCAVといった長距離精密誘導兵器システムは、ウクライナの田舎にある広々とした幹線道路で格好の標的にされた長い装甲車列が特徴になりつつある今次戦争では、確実に破壊的な存在となる可能性があります。

 UCAVが一旦標的を指定してしまえば、彼らは敵の防空システムの射程圏内に入ることなく無制限に大損害を与えることができるため、レーザー誘導砲弾・ロケット弾は実質的にTB2や「アクンジュ」が持つ兵装運用能力を拡張するものです。それゆえに、TB2や「アクンジュ」といったUCAVとレーザー誘導式ロケット弾である「TRLG-230」の相乗効果は抜群であると断言できます。

 ロシアによる侵略が危機的段階にあると思われますが、まさにこの種の兵器が再び国家の運命に影響を与えるかもしれません。

[1] A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/a-monument-of-victory-bayraktar-tb2.html
[2] An Unmanned Interdictor: Bayraktar TB2s Over Libya https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/an-unmanned-interdictor-bayraktar-tb2s.html
[3] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[4] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[5] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.htm
[6] https://twitter.com/MFA_Ukraine/status/1499647643978452994
[7] https://twitter.com/KyivIndependent/status/1499747524684488706
[8] https://9gag.com/gag/adgByjd
[9] https://twitter.com/clashreport/status/1498692841526251526
[10] Ukraine receives more armed drones from Turkey during Russia crisis https://www.thenationalnews.com/world/2022/03/06/ukraine-receives-more-armed-drones-from-turkey-during-russia-crisis/
[11] Arsenal of the Future: The Akıncı And Its Loadout https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/arsenal-of-future-aknc-and-its-loadout.html

 たものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇 
 所があります。


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