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2023年10月13日金曜日

UAE版「アルマータ」:「ゴールデンユニット」重歩兵戦闘車


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 重歩兵戦闘車(HIFV)のコンセプトは世界中の軍隊でほとんど成功を収めていません。

 HIFVの大火力と高い装甲防御力は都市部における戦闘で特に有効なものですが、そのとてつもない高価格とニッチな用途は大部分の軍隊にHIFVの導入を思いとどませるには十分なものでした。

 しかしながら、現在でも新たなHIFVが開発されています。ごく最近に登場した新型の一部として、ロシアの「T-15 "アルマータ"」とイスラエルの「ナメル(HIFV型)」、そして中国の「VT4」などが挙げられますが、これらの中で今までに実用化されたのは「ナメル」だけです。

 HIFVは戦車の車体をベースにするのが主流で、ウクライナではエンジンと砲塔の間に兵員区画を設けることができるように「T-72」戦車の車体を延長させるという選択すらしています。その開発でもたらされた「BMT-72」5名の兵士を搭乗させながら戦車として使用可能なものとなりました。また、中国の「ZTZ59」やヨルダンの「テムサ」、ウクライナの「バビロン」といった別の戦車ベースのものはオリジナルの砲塔を失ってしまいましたが、機関砲や対戦車ミサイル(ATGM)で再武装化を受けました。

 いずれのHIFVも火力支援車としてもの役割でも使用できる設計になっているため、これらは「BMP-55」のような重装甲兵員輸送車(HAPC)とは明確に別カテゴリーのAFVとして区別されます。

 HIFVというコンセプトに大きな関心を寄せているもう1つの国がアラブ首長国連邦(UAE)です。2000年代半ば、UAEは1990年代にロシアから導入した「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)を600台以上も運用していました。[1]

 これらのIFVは約400台のフランス製「ルクレール」戦車と共に運用されており、当時のUAEに中東地域全体で最も近代的で有能な機甲部隊をもたらしていました。ところが、UAEは自国の保有兵器に新たなタイプのAFVを導入することによって既存の戦力を向上させることを追求したのです。これが同国がHIFVを求める動機というわけです。

 UAEは既存のHIFVを海外から調達するのではなく、余剰となっている戦車の車体をHIFVに改造する独自のプロジェクトを立ち上げました。当時、UAEは1980年代前半から半ばにかけてイタリアから調達した約40台の「OF-40」をまだ保管したままだったのです。[1]

 「ルクレール」戦車がUAEに納入された後に「OF-40」は保管庫行きとなったものの、2003年のサダム・フセイン政権崩壊後、UAEの「ルクレール」戦車の保有数はすでに同国が必要とする数を上回っていたことから、「OF-40」を戦略予備兵器として維持する必要性がなくなったためにこの戦車をHIFVへ転換する道が開かれたのでした。

輸出向けの「OF-40」は商業面では残念な結果に終わったものの、その車体は最終的にリビアやイタリアで大量に運用されるようになったパルマリア自走榴弾砲に転用されました

 適したプラットフォームが見つかったため、UAEは2005年にベルギーの「サビエックス・インターナショナル(現OIPランドシステムズ)」社と1580万ドル(21億円)の契約を結んで「OF-40」をHIFVに改修しました。[2]

「サビエックス」社は、すでに東西各国で開発された広範囲にわたる種類の装甲戦闘車両(AFV)の改修やアップグレードの経験を有しており、その多くは現在も販売されています。MBTを歩兵も乗せることができる重装甲車両に改造するというプロジェクトは、同社にとって最も野心的な事業であったことは間違いないでしょう。

今でも「サビエックス(現OIPランドシステムズ)」社が売り込んでいる車両の一部で、左から「ゲパルト」自走対空砲、「M109A4BE」自走榴弾砲、「レオパルト1A5BE」戦車、「SK-105」軽戦車、「AMX-13」軽戦車、「M113」装甲兵員輸送車、「AIFV-B」装甲兵員輸送車

 完全に解体した後でHIFVとして時間をかけて再び組み立てるため、2005年に1台の「OF-40」戦車1両がベルギーの「サビエックス」社の工場へ運び込まれたものの、組み立て作業は2007年までかかりました。[2]

 同年、HIFVは砲塔が未搭載の状態でベルギーにて最初の一連の試験を実施しましたが、 試作型の開発が終了するまでには、さらに3年という年月が費やされました(砲塔はUAEに返還される際に搭載される予定でした)。

 UAEの砂漠で試験を実施するためにHIFVは同国に戻された後、HIFVの車体には「2A70」100mm低圧砲と「2A72」30mm機関砲、そして「PKT」7.62mm機関銃を装備する「BMP-3」IFVの砲塔が搭載されました。「2A70」低圧砲は「9M117 "バスチオン"」砲発車式対戦車ミサイルを含むさまざまな種類の砲弾を発射することができます。ただし、こうした高性能の砲弾はUIAEで導入されたわけではないようです。

 UAEが導入した「BMP-3」の砲塔には、フランスとベラルーシによって共同開発された
高度な「Namut 」サーマル式砲手用照準器が装備されています。そして、砲塔の前面に6本の発煙弾発射機が備え付けられていることは言うまでもない特徴でしょう(注:当然の装備のため)。

 2010年に砂漠での試験に合格後、「サビエックス」社の試作車両は後にUAEの残りの「OF-40」をHIFVに改造する際のサンプルとして活用される予定でした。開発期間中に「ゴールデンユニット」という名称が付与されたこのHIFVは、UAEがストックしていた「OF-40」から最大で約40台を組み立て可能と思われます。

 理由は不明ですが、より多くのを改造する作業は開始されないまま、この野心的なプロジェクトはおそらく現在もUAE軍の倉庫のどこかに残っていると思われる試作車両だけを残して終わってしまいました。[2]

UAEで「BMP-3」の砲塔が搭載された「ゴールデンユニット」

 ここからは「ゴールデンユニット」自体について記します。
 
 改造の過程で兵員用区画を設けるため、「OF-40」の車体は前後を逆にされてエンジンを車体前部に配置し、後部に4人の兵員を搭乗させることが可能な十分なスペースを確保しました。

 車体は大幅に手直しされましたが、オリジナルの830馬力の出力を誇る「MB838 CaM500」エンジンはそのまま変更されませんでした。新たに追加された装甲と「BMP-3」の砲塔をプラスした重量(合計約45トン)でも、このエンジンがHIFV用の動力源として十分なものと考えられたのかもしれません。[2]

 車体の装甲は全溶接鋼で構成されており、その性能は(NATOの防弾規格である)STANAG4569のレベル5を達成したとされています 。[2]

 新しい内部の装甲隔壁はHIFVの側面に空間装甲をもたらし、これは前部にも取り付けられました。その結果として、装甲防御能力は「OF-40」戦車や「BMP-3」IFVよりも大幅に上回るものとなりました。

ベルギーで試験中の「ゴールデンユニット」試作型:エンジンを前部に配置した結果、操縦手の位置が車体前方から遠ざかっていることに注目

 「ゴールデンユニット」の乗員は、車体の操縦手、そして砲塔に座する砲手と車長の3人でです。

(「BMP-3」で最大7人の兵員が搭乗可能なことと比較して)兵員用区画はたった4人の兵員を搭乗させるスペースしかなく、後部ランプまたは車体右側に設けられた緊急用ハッチを使ってHIFVに乗降する仕様となっています。

 特筆すべきこととして、操縦手の視界を向上させるために車両の前後にビデオカメラが設置されています。そうしなければ、カメラの設定と映像データの出力に失敗した場合と同様に状況認識が厳しくなって操縦が困難になるためです。

「ゴールデンユニット」の後部を写したこの画像は、兵員用区画のペリスコープと車体の前後に装備された操縦手用のカメラの存在をはっきりと示している

HIFVの内部については、「BMP-3」の砲塔が搭載される前の時点で広々としているように見える

 2000年代前半にロシアの「カクタス」爆発反応装甲(ERA)キットが発表された後、UAEは既存のIFV群の防御力を大幅に向上させる機会を与えられました。このERAキットは砲塔や車体前面と側面に取り付けるERAブロックで構成されており、対戦車擲弾(RPG)やATGMに対する防御力の向上をもたらします。[3]

 UAEは「BMP-3」用「カクタス」キットの顧客として頻繁に伝えられることがありますが、UAEが実際に同キットを入手したことを示す証拠はありません。

 UAEは「カクタス」キットを調達する代わりに、砲塔前面を除く車体全体を覆う軽量のスラットアーマーを装着することで、既存の「BMP-3」の防御力を向上させようとしました。
後に、この装甲強化型「BMP-3」は2015年のサウジアラビアが主導するイエメン介入時に同国南部に投入されました。優れた戦術と訓練により、UAEの機甲部隊は作戦中に僅か2台の「BMP-3」が撃破される程度の損失を被るだけで済みました。[4]

イエメンでの軍事作戦中に撮影されたUAE軍のスラットアーマー付き「BMP-3」

 「ゴールデンユニット」HIFVの見事な装甲防御能力と火力は、結果としてUAE軍により多くの「OF-40」戦車をHIFVに改造することを納得させるには十分なものではなかったようです。

 それがビジョンの変化によるものか、それとも別の理由によるものかは不明ですが、単純に5年間という開発期間の間にUAEがこのプロジェクトに対する関心を失っただけなのかもしれません。

 それにもかかわらず、武器展示会の「IDEX-2019」では副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下(兼ドバイ首長)が中国の「VT4」HIFVの模型を視察したことは、このような車両がいつか実用化されることへの関心がUAEにまだ残っていることを示唆していると思われます。

UAE副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が中国の「VT4」HIFVを視察する様子

 現在、UAEは装軌式HIFVではなく、同国が必要とする条件を満たすように改良されたトルコのオトカ製「アルマ 8x8」の派生型である「ラブダン 8x8」装輪式IFVを相当な規模で軍に配備することを検討しています。

 「ラブダン 8x8」の車体は、装甲兵員輸送車や自走迫撃砲、そして装甲回収車など多岐にわたる用途にも使用できるという、「ゴールデンユニット」では考えられなかったほどの柔軟性を備えていることが特徴的です。

 驚くには値しないかもしれませんが、このIFVも「BMP-3」の砲塔を搭載しているため、遠くないうちに世界で最も重武装装輪式IFVがUAEにもたらされることになるでしょう。
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ