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2024年4月7日日曜日

カダフィ大佐の遺産:イタリアから贈られた彼専用の高速列車


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

''エイブラハム・リンカーンは外部や他人の助けを借りずに無から自分自身を創り上げた男だ。彼と私にはある程度の共通点があるように思える。 (ムアンマル・カダフィ)''

 Oryxブログで鉄道を題材にした記事?そう、これはあなたの見間違いではありません。私たちはあなたが何を考えているか知っています:" 戦車や飛行機や船はどこへ行ったのですか?"と。実際のところ、(少なくとも一部の分野の)鉄道は非常に興味深いものです。

 例を挙げると、日本のリニア中央新幹線は時速603kmの世界新記録を持っています。1990年代にクライナ・セルビア人民共和国軍が使用した即席の装甲列車「クライナ急行」は、正真正銘の戦闘要塞のように見えました。

 まだ納得できませんか?それでは、厳密には未だにデンマークが所有しているカダフィ大佐専用のイタリア高速列車はどうでしょうか?

 興味が湧きましたか?それでは、今回はリビアのVIP用高速列車「IC4」の奇妙な物語に迫ってみましょう。

 この気動車両(DMU)がリビアにたどり着いた経緯は、極めて注目に値します:本質的には、カダフィに賄賂を贈ってリビアの鉄道プロジェクトにイタリア企業を選定させるという、当時のイタリア首相シルヴィオ・ベルルスコーニによる狡猾な策略の産物でした(仮にイタリア企業が選定されたら数十億ユーロの利益を得る可能性があっため)。

 ただし、一つだけ小さな問題がありました:カダフィに贈られた列車は一度もイタリアの所有物になったことがなかったのです。実際のところ、この列車はデンマークの国有鉄道会社であるDanske Statsbaner(DSB)向けに同国がイタリアのアンサルドブレダ社(現在の日立レール・イタリア)に発注した83両の車両の一部でした。

 当初は2003年に運行を開始する予定だったものの、最初の「IC4」は2007年後半から乗客を乗せた運行を開始しましたが、その数か月後、列車にいくつかの問題が発生したため、再び運行が停止に追い込まれてしまいました。この状況はこの先に起こるであろうことを暗示していたのかもしれません。計画の遅延と技術的な問題が積み重なり、アンサルドブレダ社は最終的に当初の契約額の半分である53億デンマーク・クローネ(1,140億円)を返金せざるを得なくなったのです。

 おそらく赤字を生む列車に苛立ったのかもしれません、アンサルドブレダ社はまだ生産ラインにあった「IC4」のうちの1編成を、2009年のカダフィ政権樹立40周年記念としてカダフィに寄贈する前にこっそりと豪華なVIP専用列車に改造したのです。

 ベルルスコーニはクーデター40周年の数日前にリビアを訪問していました―他の西側諸国首脳からは敬遠されていたにもかかわらず、です。彼はカダフィに真新しいピカピカに輝く専用の列車を案内したことに加え、(1911年から1943年まで続いた)イタリアによるリビア植民地化の賠償として35億ユーロの投資を約束しました。[1]


 伝えられるところによれば、デンマークは自分たちの列車がイタリアのどこかで放置されているのではなく、カダフィに寄贈され、現在はトリポリ郊外の廃線跡で埃をかぶっていることを把握するのに2013年までかかったとのことです。[2]

 しかし、この発見の結果がコペンハーゲンを悲嘆に暮れさせることはなかったと思われます。なぜならば、2020年7月までにDSBは2024年以降に全車両を段階的に引退させることを見越して、11両の「IC4」を売り出したからです。

 列車の真価は走る路線で決まるのですから、皮肉はここで止まることはありません。これもアンサルドブレダ社にとっては問題でした:トリポリに路線が存在していないからです。実際には、リビア全土で運行されている鉄道は1本もありません。

 (提案されたトリポリとチュニジアを結ぶ路線が完成するまでに)せめて列車を動かせるようにするため、「カダフィ急行」が往復可能な全長3kmの複線線路が敷設されました。提案された路線が2011年の革命前に完成していたらば、 カダフィがアンサルドブレダ社からさらに多くの列車を調達していたことは大いに考えられます。

 アンサルドブレダ社が低品質の列車を製造してきた実績を考慮すると、リビアはこの計画の失敗で実は危機を逃れたことになります。「IC4」の製造品質には多くの不十分な点があります – デンマークでは故障する傾向が非常に高いほどでした。

 同様の問題は「V250」(オランダ向けに製造された別タイプの高速列車)やアンサルドブレダ社が手掛けた他の鉄道プロジェクトにも及んでいることから、問題が設計にあることを明らかにしています。

 世界中の国家元首が利用する現代のVIP列車と比較すると、「カダフィ急行」はその現代風のデザインと最高時速200kmというスピードで際立っています。

 現在、ほとんどの国家元首は車で移動するには不便な距離を移動する場合は主に航空機やヘリコプターに依存しているため、VIP専用列車という概念は徐々に過去の遺物となりつつあります。日本だけが「IC4」と似たような列車を天皇のために運行していますが、最高速度は僅か130km/hしかありません。

 今でも現役で使用されている個人の専用列車で最も著名なものは間違いなく北朝鮮の金一族のものでしょう。この列車は外見や高速性よりも保護に重点を置いたものです。金王朝の全員が頻繁に鉄道を利用していますが、1976年に発生したヘリコプターの事故で飛行機恐怖症になったとされる金正日総書記(故人)は、遠方への移動ではもっぱら列車に頼っていました。安全上の懸念や旧式化した車両、そして一部の区間では時速40km以下しか出せないという北朝鮮の鉄道のお粗末な現状のおかげで、金専用列車は通常では時速60kmというカタツムリのような速度で運行されています。


 カダフィの「IC4」については、オリジナルのデンマーク製内装の少なくとも一部が彼と側近のためのVIPラウンジのために撤去されました。

 画像下のインテリアについては、カダフィとベルルスコーニの会談のために特別に設置されたものと思われます:ただし、列車がこの状態で普通に運行されていたならば、 ボルトで床に固定されていない調度品の全てが(列車が高速に達した後やブレーキを掛けた際に)車内のあちこちへ転がったでしょう。



「カダフィ急行」の別車両には、ソファが縦に向かい合うように設置されていました(下の画像)。一見すると快適に見えますが、実際には豪華なソファではなく小さな折りたたみ式の座席が使われています。これはデンマーク製ICEが持つインテリア・デザインの特徴でもありました。


 デンマークの「ICE」に欠けていたのは、トリポリ郊外にある3kmの線路の端まで移動する間、重要な戦略について議論するために不可欠な会議室でした(下の画像)。


 上述した特別車両以外の客車の内装はオリジナルのデザインから変更されていない状態であり、リビアの「IC4」の外観の鮮やかな色彩とは対照的なものとなっています。


 アンサルドブレダ社が「IC4」を改造してリビアに出荷した際の無計画さは、元のDSBの運転士の銘板とデンマーク語のステッカーが全てそのまま残されていたという事実からも読み取れます。もしカダフィがこの列車を積極的に利用していたならば、デンマーク語のマークが車内の至る場所に貼られていることを尋ねたかもしれません。

 その一方で、彼はすでにパスポートを読むことに側近を頼っていたため、単に気づくことはなかった可能性もあるでしょう。



 チュニジアとの国境までの鉄路建設を見越して、トリポリ近郊の約30kmの地面は2003年の時点でにすでに整地されていました。しかし、中国铁道建筑总公司による建設がやっと開始されるまでには、さらに6年もの歳月を要することになったのです。

 プロジェクト全体には54か月を要する予定だったものの、2011年の革命によって全ての工事はすぐに中止となり、カダフィが実際にこの列車を使う機会も消えてしまいました。[3]

 それでも、この路線の工事はすでに一部で進められており、特筆すべきものとしては、トリポリ中央駅となる予定だった場所の近くで長さ1km以上の地下トンネルが建設されたことが挙げられます。

 これによってリビアは高速鉄道と地下トンネルの路線の両方を持つ世界唯一の国となりましたが、実際の鉄道輸送は行われていません(注:新幹線は上野駅のホーム及び付近の路線が地下にあるため、厳密にはリビアが世界唯一というわけではありません)。

全長3kmの線路

未完成のまま放置された駅

地下トンネルの一部(現在はほとんど砂で覆われている)

 これまで設計された列車の中で最も美しいと言うには議論の余地がありますが、その流麗なデザインは下の画像で堪能することができます。車体にある文章は次のとおり: قطار الحياة - 「生命の列車」と الجماهيرية الليبية الشعبية الاشتراكية العظمى - 「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国」。



 2013年3月にデンマークのコメディアンがこの列車を訪れた際に「デンマーク国民からの贈り物」としてデンマーク女王(当時)であるマルグレーテ2世のポスターをリビアの当局者に手渡しましたが、これは実質的に列車がリビアに正式に引き渡されたことを意味する出来事と言えるでしょう。

 その後数年間で風雨と破壊行為の両方が列車の外装と内装に大損害をもたらすことになりましたが、線路自体にも被害が及んだほか、鋼鉄製であった線路の大部分が撤去されてしまいました。



 すでにカダフィが専用のジャグジーさえ設けられた自家用「A340」を含む膨大なVIP用航空機を利用することができたことを踏まえると、豪華な列車を適切に利用できないことに少しも苦に思わなかったでしょう。

 最終的に列車の基本的な利用を可能にするのに十分な線路が敷設されていたならば、デンマークが突き止めたものと同じ問題が運行会社を悩ませることになったかもしれません。

ただし、それ以前に1編成の列車がしか与えられていないこと、そしてリビアでこれらの列車を運行した経験が皆無だったという事実だけでも、おそらくそれ自体が問題を引き起こしていたと思われます。

 振り返ってみると、この試練全体は、カダフィにイタリアの列車と将来的に登場する鉄道用の設備を購入させるための巨額な賄賂にすぎませんでした。

 2011年の革命以降、リビアは何度か鉄道プロジェクトの再開を試みてきました。こうした試みはまだどれも成功していませんが、仮に成功した場合でも寄贈されたこの「IC4」がその一部に加わることはないでしょう。現在、この列車はあまりにも常軌を脱した物語ではなく、実用性の考慮が贅沢さや夢物語に取って代わられた過去の時代の象徴として、その役割をうまく果たしています。

 より現実的な性格での新たな投資は、リビアで急速に影響力を強めているトルコからの援助によって成立するかもしれません。

 結果的に、カダフィの列車は一国の願望を乗せて終点に到着したのでしたーーー。


[1] Berlusconi and Gaddafi launch Libya motorway project https://www.france24.com/en/20090831-berlusconi-gaddafi-launch-libya-motorway-project-
[2] DSB: Vi aner intet om Gadaffi-tog https://ekstrabladet.dk/underholdning/filmogtv/tv/article4737291.ece
[3] Contract placed for next stage of Libyan network https://www.railwaygazette.com/news/contract-placed-for-next-stage-of-libyan-network/33725.article

※ この記事は、2021年2月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


2024年1月13日土曜日

南アジアの稲妻:パキスタンのUAV飛行隊(一覧)


著:ファルーク・バヒー in collaboration with シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 パキスタンは1990年代後半から豊富なUAVの運用国であり続けています。

 2004年、パキスタン空軍(PAF)は「SATUMA( 偵察及び標的用無人航空機)」社「ジャスース(スパイ)Ⅱ"ブラボー+"」 を導入したことで、空軍がパキスタン軍内で最初にUAVの運用をした軍種となりました。

 PAFに続いて、パキスタン陸軍(PA)はすぐに「グローバル・インダストリアル&ディフェンス・ソリューションズ(GIDS)」社によって設計・開発された「ウカブ(鷲)P1」UAVを導入し、2007年には運用試験を始め、翌2008年に正式な運用に入りました。

 「GIDS」社は「ウカブP2」として知られている「ウカブP1」のさらなる能力向上型を開発し、同機は2010年にパキスタン海軍(PN)に採用されました。

 情報が極めて少ないパキスタンにおけるドイツ製「ルナ」UAVの物語は、2000年代にPAが主要戦術UAVとして「EMT(現ラインメタル)」社製「ルナX-2000」を調達した時点から始まりました。

 PNもこの機種に好印象を持ったようで、2010年ごろから独自の「ルナX-2000」採用計画に着手しましたが、この計画は(おそらく資金不足が原因で)先送りされたようで、その代わりに臨時の措置として国産の「ウカブP2」が採用されました。

 「ウカブP2」が現役から退いた2017年に、PNはついに「X-2000」より長い航続距離と能力が向上した高性能型である「ルナNG」を導入しました。

 まだ「ウカブP2」がPNで現役にあった2016年、長い滑走路なしで離陸可能な戦術UAVの需要は結果としてPNにアメリカから「スキャンイーグル」を導入するに至らせました。

 なぜならば、PNは2008年にオーストリアの「シーベル」社製「カムコプター S-100」のトライアルを実施したことがあったものの制式採用せず、海上での運用に適した無人機システムを長く探し求めていたからです。

 「ボーイング・インシツ」社製「スキャンイーグル」はカタパルトで射出され、スカイフック・システムで回収される仕組みとなっています。これらのシステムのコンパクトなサイズは、「スキャンイーグル」を海軍艦艇のヘリ甲板から運用させることを容易なものにさせていることを意味しています。


 パキスタンは国内に配備されたアメリカ軍の「MQ-1 "プレデター"」無人戦闘航空機(UCAV)によって、武装ドローンの破壊的な能力をダイレクトに目の当たりにしました。

 このUCAVの配備とその後の実戦投入は、PAに強烈な印象を与えたに違いなく、すぐにアメリカから武装ドローンの購入を試みました。特に意外なことでもないでしょうが、この努力が無駄に終わったことは今では周知のとおりです。

 アメリカからUCAVの導入を断られたPAは東の隣国に目を向け、中国製「CH-3A」UCAVの生産ライセンスを取得し、国内で生産された同機種は「ブラク(稲妻)」と呼称されるようになりました。より高性能な無人プラットフォームが登場しているにもかかわらず、「ブラク」は現在でもPAとPAFで現役の座に残り続けています。

 「ブラク」の設計からインスピレーションを受けて、「GIDS」社が設計した改良型が「シャパル-1」です。この無人機システムは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用として、2021年にPAFに採用されました。

 ただし、「シャパル-1」は2021年の共和制記念日における軍事パレードで初めて一般公開された、「シャパル-2」ISR用UAVに取って代わられることになるでしょう。

 この新型機については、その後の2021年半ばに実施されたPAFの演習に参加する姿が目撃されため、すでに運用段階に入ったことが確認されています。「シャパル-2」は主にISRの用途で使用されるものの、最近に発表された武装型はPAFで運用されている「ブラク」を補完したり、その後継機となる可能性が高いと思われます。

武装型「シャパル-2」は2発の誘導爆弾などが搭載可能

中国からの買い物

 2021年、PAは「ブラク」飛行隊を中国製の「CH-4B」UCAVで補完しました。

 その一方、PAFは2016年に「翼竜Ⅰ」UCAVの運用試験を行っていたことが知られていますが、その1機が墜落したことでメディアの注目を集めました。[2]

 しかし、PAFはさらなる「翼竜Ⅰ」を発注することはせずに代わりとして、より優れた打撃能力をもたらす、より重い「翼竜Ⅱ」UCAVを選択しました。その後、2021年にPAFの基地で最初の同型機が目撃されました。[1]

 PNは陸軍の先例に倣って「CH-4B」の採用に落ち着いたようで、大量の同型機が2021年後半にPNに引き渡されました。[1]

 PAFは、自軍で装備するための高高度長時間滞空(HALE)型UAV計画を推めていることが判明しています。

 PAFの傘下にある「パキスタン航空工業複合体(PAC)」は、「CH-4」や「翼竜Ⅰ」級の国産軽量中高度・長時間滞空(MALE)型UAVを開発していることが知られており、2021年に政府やPAFの関係者がPACを訪問した際にその1機が目撃されています。[3]

 国立工学科学委員会(NESCOM)は、2021年にトルコ航空宇宙産業(TAI)と国内で「アンカ-S」UCAVの部品を製造する契約に調印しました。[4]

 また、国境警備で運用している既存の僅かなUAV飛行隊を補完するために、パキスタン内務省(MOI)も新しいUAVを購入することを望んでいますが、現時点ではどうなるか不透明です。

パキスタン陸軍 (PA)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機
  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも5機を導入しているが、追加発注がある模様)


パキスタン空軍(PAF)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機


パキスタン海軍(PN)の保有機

無人偵察機

無人戦闘航空機

  • CASC「CH-4B」 [2021] (少なくとも4機が導入されたが、未確認)


[1] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[2] https://twitter.com/KhalilDewan/status/1465475715567169538
[3] Lifting The Veil - Pakistan’s Chinese UCAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/lifting-veil-pakistans-chinese-ucavs.html

※  この翻訳元の記事は、2022年1月5日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。



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2023年10月13日金曜日

UAE版「アルマータ」:「ゴールデンユニット」重歩兵戦闘車


著:シュタイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 重歩兵戦闘車(HIFV)のコンセプトは世界中の軍隊でほとんど成功を収めていません。

 HIFVの大火力と高い装甲防御力は都市部における戦闘で特に有効なものですが、そのとてつもない高価格とニッチな用途は大部分の軍隊にHIFVの導入を思いとどませるには十分なものでした。

 しかしながら、現在でも新たなHIFVが開発されています。ごく最近に登場した新型の一部として、ロシアの「T-15 "アルマータ"」とイスラエルの「ナメル(HIFV型)」、そして中国の「VT4」などが挙げられますが、これらの中で今までに実用化されたのは「ナメル」だけです。

 HIFVは戦車の車体をベースにするのが主流で、ウクライナではエンジンと砲塔の間に兵員区画を設けることができるように「T-72」戦車の車体を延長させるという選択すらしています。その開発でもたらされた「BMT-72」5名の兵士を搭乗させながら戦車として使用可能なものとなりました。また、中国の「ZTZ59」やヨルダンの「テムサ」、ウクライナの「バビロン」といった別の戦車ベースのものはオリジナルの砲塔を失ってしまいましたが、機関砲や対戦車ミサイル(ATGM)で再武装化を受けました。

 いずれのHIFVも火力支援車としてもの役割でも使用できる設計になっているため、これらは「BMP-55」のような重装甲兵員輸送車(HAPC)とは明確に別カテゴリーのAFVとして区別されます。

 HIFVというコンセプトに大きな関心を寄せているもう1つの国がアラブ首長国連邦(UAE)です。2000年代半ば、UAEは1990年代にロシアから導入した「BMP-3」歩兵戦闘車(IFV)を600台以上も運用していました。[1]

 これらのIFVは約400台のフランス製「ルクレール」戦車と共に運用されており、当時のUAEに中東地域全体で最も近代的で有能な機甲部隊をもたらしていました。ところが、UAEは自国の保有兵器に新たなタイプのAFVを導入することによって既存の戦力を向上させることを追求したのです。これが同国がHIFVを求める動機というわけです。

 UAEは既存のHIFVを海外から調達するのではなく、余剰となっている戦車の車体をHIFVに改造する独自のプロジェクトを立ち上げました。当時、UAEは1980年代前半から半ばにかけてイタリアから調達した約40台の「OF-40」をまだ保管したままだったのです。[1]

 「ルクレール」戦車がUAEに納入された後に「OF-40」は保管庫行きとなったものの、2003年のサダム・フセイン政権崩壊後、UAEの「ルクレール」戦車の保有数はすでに同国が必要とする数を上回っていたことから、「OF-40」を戦略予備兵器として維持する必要性がなくなったためにこの戦車をHIFVへ転換する道が開かれたのでした。

輸出向けの「OF-40」は商業面では残念な結果に終わったものの、その車体は最終的にリビアやイタリアで大量に運用されるようになったパルマリア自走榴弾砲に転用されました

 適したプラットフォームが見つかったため、UAEは2005年にベルギーの「サビエックス・インターナショナル(現OIPランドシステムズ)」社と1580万ドル(21億円)の契約を結んで「OF-40」をHIFVに改修しました。[2]

「サビエックス」社は、すでに東西各国で開発された広範囲にわたる種類の装甲戦闘車両(AFV)の改修やアップグレードの経験を有しており、その多くは現在も販売されています。MBTを歩兵も乗せることができる重装甲車両に改造するというプロジェクトは、同社にとって最も野心的な事業であったことは間違いないでしょう。

今でも「サビエックス(現OIPランドシステムズ)」社が売り込んでいる車両の一部で、左から「ゲパルト」自走対空砲、「M109A4BE」自走榴弾砲、「レオパルト1A5BE」戦車、「SK-105」軽戦車、「AMX-13」軽戦車、「M113」装甲兵員輸送車、「AIFV-B」装甲兵員輸送車

 完全に解体した後でHIFVとして時間をかけて再び組み立てるため、2005年に1台の「OF-40」戦車1両がベルギーの「サビエックス」社の工場へ運び込まれたものの、組み立て作業は2007年までかかりました。[2]

 同年、HIFVは砲塔が未搭載の状態でベルギーにて最初の一連の試験を実施しましたが、 試作型の開発が終了するまでには、さらに3年という年月が費やされました(砲塔はUAEに返還される際に搭載される予定でした)。

 UAEの砂漠で試験を実施するためにHIFVは同国に戻された後、HIFVの車体には「2A70」100mm低圧砲と「2A72」30mm機関砲、そして「PKT」7.62mm機関銃を装備する「BMP-3」IFVの砲塔が搭載されました。「2A70」低圧砲は「9M117 "バスチオン"」砲発車式対戦車ミサイルを含むさまざまな種類の砲弾を発射することができます。ただし、こうした高性能の砲弾はUIAEで導入されたわけではないようです。

 UAEが導入した「BMP-3」の砲塔には、フランスとベラルーシによって共同開発された
高度な「Namut 」サーマル式砲手用照準器が装備されています。そして、砲塔の前面に6本の発煙弾発射機が備え付けられていることは言うまでもない特徴でしょう(注:当然の装備のため)。

 2010年に砂漠での試験に合格後、「サビエックス」社の試作車両は後にUAEの残りの「OF-40」をHIFVに改造する際のサンプルとして活用される予定でした。開発期間中に「ゴールデンユニット」という名称が付与されたこのHIFVは、UAEがストックしていた「OF-40」から最大で約40台を組み立て可能と思われます。

 理由は不明ですが、より多くのを改造する作業は開始されないまま、この野心的なプロジェクトはおそらく現在もUAE軍の倉庫のどこかに残っていると思われる試作車両だけを残して終わってしまいました。[2]

UAEで「BMP-3」の砲塔が搭載された「ゴールデンユニット」

 ここからは「ゴールデンユニット」自体について記します。
 
 改造の過程で兵員用区画を設けるため、「OF-40」の車体は前後を逆にされてエンジンを車体前部に配置し、後部に4人の兵員を搭乗させることが可能な十分なスペースを確保しました。

 車体は大幅に手直しされましたが、オリジナルの830馬力の出力を誇る「MB838 CaM500」エンジンはそのまま変更されませんでした。新たに追加された装甲と「BMP-3」の砲塔をプラスした重量(合計約45トン)でも、このエンジンがHIFV用の動力源として十分なものと考えられたのかもしれません。[2]

 車体の装甲は全溶接鋼で構成されており、その性能は(NATOの防弾規格である)STANAG4569のレベル5を達成したとされています 。[2]

 新しい内部の装甲隔壁はHIFVの側面に空間装甲をもたらし、これは前部にも取り付けられました。その結果として、装甲防御能力は「OF-40」戦車や「BMP-3」IFVよりも大幅に上回るものとなりました。

ベルギーで試験中の「ゴールデンユニット」試作型:エンジンを前部に配置した結果、操縦手の位置が車体前方から遠ざかっていることに注目

 「ゴールデンユニット」の乗員は、車体の操縦手、そして砲塔に座する砲手と車長の3人でです。

(「BMP-3」で最大7人の兵員が搭乗可能なことと比較して)兵員用区画はたった4人の兵員を搭乗させるスペースしかなく、後部ランプまたは車体右側に設けられた緊急用ハッチを使ってHIFVに乗降する仕様となっています。

 特筆すべきこととして、操縦手の視界を向上させるために車両の前後にビデオカメラが設置されています。そうしなければ、カメラの設定と映像データの出力に失敗した場合と同様に状況認識が厳しくなって操縦が困難になるためです。

「ゴールデンユニット」の後部を写したこの画像は、兵員用区画のペリスコープと車体の前後に装備された操縦手用のカメラの存在をはっきりと示している

HIFVの内部については、「BMP-3」の砲塔が搭載される前の時点で広々としているように見える

 2000年代前半にロシアの「カクタス」爆発反応装甲(ERA)キットが発表された後、UAEは既存のIFV群の防御力を大幅に向上させる機会を与えられました。このERAキットは砲塔や車体前面と側面に取り付けるERAブロックで構成されており、対戦車擲弾(RPG)やATGMに対する防御力の向上をもたらします。[3]

 UAEは「BMP-3」用「カクタス」キットの顧客として頻繁に伝えられることがありますが、UAEが実際に同キットを入手したことを示す証拠はありません。

 UAEは「カクタス」キットを調達する代わりに、砲塔前面を除く車体全体を覆う軽量のスラットアーマーを装着することで、既存の「BMP-3」の防御力を向上させようとしました。
後に、この装甲強化型「BMP-3」は2015年のサウジアラビアが主導するイエメン介入時に同国南部に投入されました。優れた戦術と訓練により、UAEの機甲部隊は作戦中に僅か2台の「BMP-3」が撃破される程度の損失を被るだけで済みました。[4]

イエメンでの軍事作戦中に撮影されたUAE軍のスラットアーマー付き「BMP-3」

 「ゴールデンユニット」HIFVの見事な装甲防御能力と火力は、結果としてUAE軍により多くの「OF-40」戦車をHIFVに改造することを納得させるには十分なものではなかったようです。

 それがビジョンの変化によるものか、それとも別の理由によるものかは不明ですが、単純に5年間という開発期間の間にUAEがこのプロジェクトに対する関心を失っただけなのかもしれません。

 それにもかかわらず、武器展示会の「IDEX-2019」では副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下(兼ドバイ首長)が中国の「VT4」HIFVの模型を視察したことは、このような車両がいつか実用化されることへの関心がUAEにまだ残っていることを示唆していると思われます。

UAE副大統領兼首相兼国防相のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下が中国の「VT4」HIFVを視察する様子

 現在、UAEは装軌式HIFVではなく、同国が必要とする条件を満たすように改良されたトルコのオトカ製「アルマ 8x8」の派生型である「ラブダン 8x8」装輪式IFVを相当な規模で軍に配備することを検討しています。

 「ラブダン 8x8」の車体は、装甲兵員輸送車や自走迫撃砲、そして装甲回収車など多岐にわたる用途にも使用できるという、「ゴールデンユニット」では考えられなかったほどの柔軟性を備えていることが特徴的です。

 驚くには値しないかもしれませんが、このIFVも「BMP-3」の砲塔を搭載しているため、遠くないうちに世界で最も重武装装輪式IFVがUAEにもたらされることになるでしょう。
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ