2017年5月5日金曜日

拡大するイランの勢力圏:イラクにおけるイラン製T-72 (2)



著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

イラクにおけるイランの戦車の存在をはっきりとさせた、さらに多くの証拠写真が明らかとなった。
新しく公開された画像は、ティクリートの南にあるサーマッラーの町に到着する間に、ティクリート付近で目撃されたものと同じT-72Sと思われる戦車を写している。
イラクにおけるイラン製T-72S戦車の目撃例が初めて確認されてから、ちょうど1日後に新画像が届いた。

T-72Sはバドル軍団(注:イラクのシーア派政党、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)の軍事部門)のトップ:ハーディ・アル=アミーリーの側近であるカッセム・アル=アラジ(写真中央の人物)によって視察されている。
どこがイスラミック・ステートとの戦いでイラクを助けたのかと尋ねられたとき 、カッセム・アル=アラジ以前に「私たちはISISとの戦いにおいて、アメリカではなくイランからの支援を望んでいる」とした上で、イランについて「私たちの軍隊への支援に大きな役割を果たす」と述べた。
 
この支援には明らかにイランのT-72S戦車の譲渡も含まれており、少なくとも1台はバドル軍団の戦闘員から護衛されたイラク陸軍の戦車運搬車でサーマッラーに入った。


しかし、最初に信じられていたこととは反対に、戦車は、現在イラクで戦う、多くのシーア派民兵組織で最も影響力のあるカタイブ・ヒズボラやバドル軍団ではなく、イラク軍によって運用されている。バドル軍団内のカッセム・アル=アラジに近い情報筋は、「バドルには機械化部隊はない。 戦車はイラクのISF(イラク治安部隊)によって運用されているが、運用者はバドルの支持者かもしれない」と言った。

T-72Sは、イラクの古いT-72ウラルとT-72M1よりも先進的であるため、イラクの要員がイランでT-72Sの訓練を受けたことは妥当であると思われ、再び両国間の強い絆が示された。


Green lemon に感謝を申し上げます(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2015年3月13日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。     

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2017年4月10日月曜日

また一つの敗北: 主要な兵器集積所がイスラミック・ステートの手に落ちた


著 Stijn Mitzer と Joost Oliemans (編訳:ぐう・たらお)

シリア内戦における最大規模の武器の捕獲となったデリゾールのアイヤッシュ兵器庫を攻略してわずか1年あまりで、イスラミック・ステート(IS)は再びデリゾールの補給基地から捕獲された大量の弾薬を入手した。
今回の捕獲は、前述のアイヤッシュ兵器庫や第121連隊基地、第93旅団基地、マヒーン武器庫の攻略といった、膨大な量の武器や弾薬の所有者の交換という主要な事例のリストに加えられた。
マヒーンのほかは全てISの手に落ちた(注:マヒーンは政府軍に奪還された)。
これらのデポはそれぞれ、攻略者にかつての所有者に対して直ちに使用できる多様な兵器、車両と弾薬を提供し、シリアを制圧するべく戦う他の勢力に大打撃を与えた。

ISによって公開されたデリゾールに対する攻撃での戦闘員を映すプロパガンダ・ビデオが、今回のデポを攻略したことを公表する唯一の映像であった。
ビデオ「علىأبوابالملاحم - 叙事詩の扉(戦い)」では、2017年2月にISが成功した、政府側の支配地域を二つに分離することに奮闘する詳細な様子が映し出されている。
これは、空軍基地と第137旅団が現時点で完全に分離されていることを意味し、双方への供給をさらに複雑にすると共に空軍基地の脆弱性を大幅に増加させている。
脅威が増大するにもかかわらず、ISがどちらの基地も攻略することはありそうもないであろう。
最大300万発にわたる小火器の弾薬を含めた相当の数の弾薬を捕獲することで、ISは生存のための戦いを確実に延長できるようになるであろう。

下に捕獲した兵器や弾薬等の一覧があるが、これは捕獲された弾薬の推定量であり、実際の数はより多いと考えられている。
このうち、少なくとも652箱の内容は特定できなかった。
また、 小火器は少量の捕獲であったことから下の数には含まれていない。

弾薬:

- 3,320,600発の7.62x39, 7.62x54R, 12.7mm及び14.5mm弾

- 2,310発の85mm砲弾

- 693発の100mm砲弾

- 13発の125mm砲弾

- 120発の120mm砲弾

- 68発の122mmロケット弾

- 15個のTM-62対戦車地雷

車輌:

- 1両のT-72M1(TURMS-T)

- 3両のT-72M1

- 1両のAMB-S

- 1両のタトラ148

- 1両のUAZ-469

- 5台の自動車

小火器用弾薬ケースのそれぞれの正確な中身を査定することは不可能であるが、その総量は7.62x39mm弾の約332万発分か、それよりわずかに少量の12.7mm弾や14.5mm弾といった、より大きな口径の弾薬のものに相当すると思われる。
弾種には関係なく、まさにとてつもない量の小火器用弾薬が実際に捕獲された。








莫大な量の85mmUBR-365P 徹甲弾も武器庫で発見された。
確かに印象的な光景ではあるが、これらの弾薬はISにとって完全に役に立たない。
D-44 85mm対戦車砲は現在のところ、シリア軍が保有する兵器の中でこの砲弾を発射することができる唯一の砲であるが、今日の戦場ではごく少数だけが運用されている。
実際、D-44は非常に稀な存在であり、ISはこの対戦車砲を現時点でたった1門だけ保有しているとみられている。











別の2つの部屋には、少なくとも693発の100mm戦車砲弾が保管されていた。
ここでは、これらの砲弾を使用するT-55戦車が少ししか運用されていないことから、この量はデリゾールにおけるISの需要をはるかに上回っている。
したがって、これらの少なくとも一部はラッカに移送され、さらに他地域のISの部隊へ分配される可能性が極めて高い。




「2015年5月5日」と記載されたイランの弾薬箱の存在は、その日付がデリゾール包囲の直前にさかのぼる点で注目に値する。
これらの枠箱はシリア空軍のIl-76の1機に搭載された可能性が高く、同機は、これらの航空機が飛行場に着陸することがまだ可能であったときに頻繁にデリゾールを訪れていた。
この「訪問」は、ISが滑走路の南東側に極めて接近したために不可能となっており、これは耐爆型航空機用掩体に駐機中の2機のL-39が破壊されたことによって、痛々しいほど明らかになった事実である。 













弾薬の大部分は、トラックや車に迅速に積み込まれ、シリア各地に点在するISの部隊に配分された可能性が高い。
これらの備蓄を事前に標的とすることは、この事態が発生することを防ぐことができるであろうし、ストックを補充し続けるISの能力も制限することができる。
それにもかかわらず、そのようなオペレーションがシリア空軍またはロシア空軍のいずれかによって何度も繰り返し実施されたということはなく、この内戦では、空軍と政府軍側の兵士によるこのようなデポの迅速な退避や妨害の欠如と相まって、結果的に対立勢力にとって大きな恩恵をもたらすことがあった。












ISはまた、デリゾール市内の政府勢力に向けられた二つの空中投下物資を捕獲したが、そのうちの一つはISが到着する前に、すでに中身が空になっていたと思われる。
しかし、捕獲されたデポのうちの一つで、これらの枠箱からの弾薬と後で出会う可能性が非常に高い(注:既に運ばれた弾薬が、占領されたデポに貯蔵されている可能性が高いということ)。
以下の画像の二つのパレットを含むいくつかの空中投下物資は、今までに知られている限り、ISの支配地域に着陸した後は最終的に彼らの手に落ちた。

決して理想的な状態ではないが、空中投下は2015年5月にデリゾールが完全に包囲された後、その状況下で物資を都市とその住民に供給するための唯一の方法である。
国連とロシア空軍は共にデリゾールでの政府の支配地区に住む、飢えた人々への人道的援助物資の投下に積極的に参加しているが、シリア空軍のIl-76は主に都市で孤立して残り続ける政府軍に兵器、弾薬、そして燃料を供給することを目的として活動している。









大量の弾薬を捕獲することに加えて、今回のデポ攻略はISに4台のT-72M1をもたらし、彼らが現在デリゾール周辺で運用しているT-72部隊の規模を倍以上にした。
この鹵獲した兵器には、イタリアのTURMS-T(Tank Universal Reconfiguration Modular System T-series)射撃管制装置を装備した一台のT-72M1も含まれていた。
つまり、 これがISに捕獲された最初のT-72 TURMS-Tということになる。
興味深いことに、これらのT-72M1のうち2台は、TPN-1-49砲手用サイトの周りに保護カバーを備えている。
この改修は、シリアの疲弊したT-72部隊に残っている車輌に徐々に適用されている。






1台のチェコスロバキア製AMB-S多目的装甲車(注:BWP-1 AMB-S装甲救急車) も捕獲されており、これは、アイヤッシュ兵器庫の近くで捕獲された2台のBREM-2装甲回収車と同様にVBIED(Vehicle Borne IED/車両運搬式即席爆発装置)として使用される可能性が高い。

この記事はMENA_Conflictと共同して執筆されました(原文)。

 ※ この翻訳元の記事は、2017年3月27日に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。   

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2017年3月29日水曜日

DIYに走るイスラミック・ステート: D-30 122mm榴弾砲が対空砲として使用された


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 ※ この記事は2016年3月3日に「Oryx」ブログ本国版に投稿されたものを翻訳したものです。意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
 
 イラクのウィラヤット・ニーナワー(ニネヴェ県)におけるイスラム国(IS)のメディア部門によって2016年初春にリリースされた画像は、(ウィラヤット・ニーナワー防空大隊に属する)アル・ファールク小隊のトラックに車載された「D-30」122mm榴弾砲がモスル上空でのSIGINT任務に使用された米軍の「(E)P-3」哨戒機に対して射撃する様子を示しました。

 この種の火砲は通常は地上の目標のみに対として使用されるものであるため、対空砲への転用は大いに注目に値すると共に、有志連合軍の圧倒的な航空戦力に対抗する手段をISが深刻に欠いている事実を浮き彫りにしています。

 ISの支配下にある最大の都市モスル及びその周辺で撮影された画像には、ソビエト伝来の「D-30」122mm榴弾砲を搭載するように改修されたアメリカ製「ナビスター・インターナショナル7000」シリーズと「M35」トラックが映し出されていました。

 「M35」ベースのものは強化シェルターに格納されているように見えますが、標的の候補となる敵機が現れたときにだけ外へ動かされるようになっっています。さらに、トラックにはスタビライザ-と砲身をより低い位置に固定することができるトラベリングロックが装備されています(注:前者が射撃時の反動対策で、後者が移動時に砲身の先端が橋やトンネルに接触することを避けるためのもの)。

 他の画像ではアル・ファールク大隊が保有する「ZPU-2」14.5mm機関砲 、「ZU-23-2」 23mm機関砲、「65式」37mm機関砲と「AZP S-60 」57mm機関砲を含む一般的な対空装備が見られ、これらの全てが様々な種類のトラックに搭載されていました。   


 また、画像にはトラックに搭載された榴弾砲によって発射されたものの、狙った目標:米軍の「(E)P-3 "オライオン"」を外した2発の砲弾が写り込んでいます(注:下の2枚)。

 これらの飛行機はモスル上空において情報収集と電子戦に使用されており、イラク領土におけるISの連携した作戦能力に深刻な妨害を与えています。低速で飛行する「(E)P-3」はしばしば都市の上空で円を描いて飛行しており、ISが目障りな存在と考えたことは間違いないないでしょう。

 通常、彼らは「F-15」のような高速で飛行する航空機を見ているものの、当然ながら榴弾砲でそれらを撃墜することはできないことを知っています。しかし、遅く飛ぶ「(E)P-3」は下から見上げるとを極端に遅く見えるため、彼らは榴弾砲を用いて撃墜する好機があると考えたことは想像に難しくありません。

 強力な火砲自体には航空機が運用される高度に到達する能力があるにもかかわらず、使用する榴弾が各種類の対空用信管を欠いているという事実は、ISが敵機を無力化するためには目標へ直撃弾を与えなければならないことを意味します。もちろん、こうした奇跡を達成することはほぼ不可能な偉業であることは明らかです。



 したがって、この試みは時間と弾薬の無駄であるように見えるかもしれませんが、このような戦術をISが最初に用いたのではありません。実際、ムジャヒディン(聖戦士)がソ連のアフガニスタン侵攻でソ連のヘリコプターに対して迫撃砲とRPGを使用し、イラン・イラク戦争中にイランの砲兵が低空飛行するイラクのヘリコプターを標的としていたことはよく知られています。

 もちろん、これらの事例では航空機の損害や軽微な損害さえも報告されていません。なぜなら、大概はそのような(時限信管を欠如した)火砲の使用は、標的の完全な破壊か完全な失敗のいずれかの結果しかもたらさないからです。



 戦闘地域の上空で運用される空軍によってISの兵器の大部分がすぐに標的にされているという事実を考慮すると、彼らは間違いなく現在のシリアとイラクで戦う依然として最も独創的な武装勢力です。

 ISは低速飛行する敵機を撃墜しようと必死に試みたましが、それはコストを問わないで戦いを続けるためにリソースを捧げる彼らの意欲をもう一度証明するものであると言えます。


 今後の記事では、これまでに全く報告されてこなかったISが戦闘能力を向上させるために実施したDIYプロジェクトについて明らかにしていくでしょう(注:こちらでは不定期で過去のものを編訳する予定です)。