2021年8月20日金曜日

翼のあるオリックス:カタールの「バイラクタルTB2」とその他の無人機導入計画



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 「バイカル・テクノロジー」社(以下、バイカル社と表記)の「バイラクタルTB2(以下、TB2と表記)」はリビア、ナゴルノ・カラバフ、シリアの空から国家や敵の攻勢の命運を決する役割を果たしたことで、非常に高い評価を得ています。TB2の着実な成功はこの世界に存在している他のいかなる種類の無人戦闘攻撃機(UCAV)で並ぶものがない程であり、大きな注目といくつかの国からの関心を集めています。

 かなりの数のTB2がウクライナやアゼルバイジャンに調達されたことは広く知られていますが、その一方でこのUAVを導入した最初の外国であるカタールが6機のTB2を運用していることは全く知られていません。

 アゼルバイジャンにとってTB2はアルメニアへの圧勝を最終的に保証した崇敬すべきアセットとなりましたが、カタールはUAVに関する運用・技術的な経験を積むという、より謙虚な初期目標のためにTB2を購入したようです。

 無人機の分野でカタールは近隣諸国に比べてやや後れを取っていましたが、「バイラクタルTB2」はこの国を無人機戦の時代へと推し進めるために指名されたシステムだったと思われます。しかし、その用途は単に無人機の運用経験を積むことをはるかに超えているため、偵察や攻撃アセットとしてのTB2の能力は大いに重宝されるでしょう。


 「バイラクタルTB2」の導入を決定する前に、カタールは長年にわたって必要としていたものに見合う欧米や中国のUAVを検討したと報じられています。[1]

 その後の(2020年初頭にシリアで実施された「春の盾作戦」に参加したことでTB2が世に知られるようになる約2年前の)2018年3月にドーハで開催された展示会「DIMDEX」で、カタールがTB2を6機、地上管制ステーションを3台、シミュレーターを1台発注することが公表されました。それらに加えて、バイカル社はカタール軍用にネットワーク・ベースのデータ追跡及びアーカイブ用ソフトウェアだけでなくUAVオペレーション・センターもセットアップしました。

 翌年に納入された後、TB2はRCS(偵察・監視センター)で運用に入りました。カタール国防省の一部であるRCSは、UAV部隊やセンサーベースのシステムを用いてカタールの国境を警備する任務を負っています。

カタールへの納入直前に撮影された6機の「バイラクタルTB2」と3台の地上管制ステーション

 就役後のTB2は、2020年3月にカタール軍と王室警護隊が例年実施している「アル・アドヒード」演習で初公開されました。公開された僅かなカットからは、いずれのTB2も兵装を搭載している姿を見ることはできませんでしたが、そのうちの1機が「MAM-L」誘導爆弾を使用して静止目標への精密爆撃を行ったことが暗示されています

 今年の「アル・アドヒード」演習の際には「バイラクタルTB2」が再び登場しましたが、今回はもっぱら偵察用途で使用されたようです。[2]

 これはカタールで運用されているトルコ製無人機が公開された最初の映像でしたが、実際にはTB2はカタールで2番目に就役したトルコ製無人機です。

 2012年3月には、カタールがTB2と同じバイカル・ディフェンス社が設計・製造した「バイラクタル・ガジュウ3 ミニUAV」の最初の輸出先になったことが公表されました。2011年にイスタンブールで開催された国際防衛産業フェア(IDEF)で署名された契約に基づいて合計で10機の「バイラクタル・ミニUAV」が納入されましたが、この機体はカタールではいまだに公開されていません。[3] [4]






 TB2がカタールで運用されている映像が希少であるにもかかわらず、6機全てがアル・シャマルと呼称されていると思われるカタール北部の地域に新しく建設された空軍基地を拠点にしていることが知られています。[5]
 
2018年に着工が開始されたこの基地は無人機の運用のために特別に建てられたようで、同じく近年に建てられた巨大な軍事施設に隣接しています。

 この基地を撮影した衛星画像は滑走路に隣接する「バイラクタルTB2」に関連する3台の地上管制ステーションを一貫して示しており、TB2の運用が進行中で非常に活発であることが確認されています。

 25°45'52.26"N, 51°17'12.98"E

 技術評価・知識の獲得という役割に加えて、TB2の偵察・攻撃能力も間違いなく無視することはできません。カタールにとって、TB2のような安価なUCAVを大量に導入することは、敵対的な水域と化した際のペルシャ湾のパトロールに取り組む場合においてゲームチェンジャーとなる可能性があります。特に、イランが使用している高速攻撃艇やミサイル艇の群れは脅威となっていることから、機動性の高い「MAM-L」誘導爆弾は非常に適した対抗手段となるでしょう。

 手頃な価格で対空砲や携帯式地対空ミサイル(MANPADS)などの防空システムをその有効射程・射高からアウトレンジ攻撃できる「MAM-L」は、スウォーム攻撃に対する普遍的で費用対効果に優れた解決策であることを示しています。

 TB2の別の使い道としては、サウジアラビア主導によるイエメン介入におけるフーシ派の標的に対して実施された戦闘任務で投入される高速ジェット機を置き換えることも想定されます。大幅に少ないコストで運用され、敵領域の奥深くでパイロットを失うリスクもないことから、TB2は低い経済的・人道的コストで軍事的効果を最大化する小規模な介入(バイラクタル外交と呼ばれるドクトリン)におけるトルコの成功例の再現に活用することができます。




 しかし、カタールが関心を示した無人機は「バイラクタルTB2」だけではありません。2019年の独立記念日における軍事パレードでは、さらに2種類のUAV:テクストロン社「エアロゾンデ」「シャドーM2・ナイトワーデン」の存在が明らかになったからです。

 この軍事パレードでの展示からでは、両機種がすでにRCSで運用されているのか、それともカタールが購入する可能性がある無人機として選定されるためにトライアルを受けているものなのかは(当時は)不明でした。それ以来、防衛装備品の展示会でこれらが何度か目撃される機会がありましたが、最終的には2021年4月に、これらの無人機を製造する施設を建てるため、「バルザン・エアロノーティカル」社が米国サウスカロライナ州のチャールストンに注目していることが明らかにされました。[6]

 ※ 2022年3月にカタールで開催された武器展示会「DIMDEX」にて展示された、「ボー 
  イング」の関連会社「オーロラ・フライト・サイエンシズ社」が開発している「オリオ 
  ン(注:ロシアの同名のUCAVとは別物)」MALE型UCAVの機首には「ボーイング」と
  共に上記「バルザン・エアロノーティカル」社のロゴも描かれていました。このことは
  注目に値すべきものであることは言うまでもないでしょう。[10]

       
 
 カタールが導入を検討している3番目のUAVは、ドイツのライナー・シュテマ・ユーティリティ・エア・システムズ社がカタールの資金提供を受けて設計した「Q01」情報収集・警戒監視・偵察(ISR)プラットフォームです。
 
 「Q01」は2人の乗員による操縦か地上からUAVとして遠隔操作することで、1時間あたり僅か500ドルのコストで最大で48時間の監視飛行が可能であり、いかなる他の(有人)機を飛ばすよりも大幅に安価となっています。[7]

 また、この機体には胴体下のフェアリングにさまざまな種類の電子光学センサーや多目的監視レーダーを搭載する能力を有しています。

 2017年末までに17機の契約の調印が想定されていましたが、それ以降の続報は公開されていないため、このプロジェクトの現状は不明のままです(注:2022年3月にカタールで開催された武器展示会「DIMDEX」にて、「Q01」の改良型と思しき「Q02」が公開されました)。[11]

2019年12月にドーハで実施された軍事パレードで公開されたテクストロン製「エアロゾンデ(左)」 と「シャドーM2・ナイトワーデン (右) 」

ライナー・シュテマ「Q01」

 カタールにとって「バイラクタルTB2」や「アクンジュ」といった無人機技術への投資は、現時点では他の追随を許さない能力を湾岸地域に導入することを可能にするため、この点で隣国に対して明確な優位性をもたらします。ハードウェアを別としても、そのようなUAVの購入は他国に欠けている無人機運用の経験も提供してくれることに注目しなければなりません。

 実際、リビア、シリア、ナゴルノ・カラバフでの無人機の戦術と運用で得られた、中東各地で使用されている広範囲に及ぶ現代的なロシア製の防空システムにうまく対抗するための方法論を含む知識を共有することがあり得ます。

 明らかに無人機を含む兵器を開発・製造するための(国内における)技術基盤の確立を目指しているカタールは、バイカル社との有利な取引を確保することでこの目標をさらに前進させることができます。[8]

 将来的には、この取引にはTB2だけでなく、「バイラクタル・ミニ」の新バージョンや「VTOL UAV」、「アクンジュ」、もうすぐ登場するバイカル社初のジェットエンジン搭載型UCAVも含まれるかもしれません(注:後者は2022年4月に「バイラクタル・クズルエルマ」として機体が公開されました)。

 ほぼ全てのクラスの無人機を生産しているバイカル社の知識と技術基盤、政治的中立性(?)と手頃な価格は、最新のUAV能力に常に押し寄せてくる需要を満たすための最も優位性のある選択肢の一つとなることは確実でしょう。

「バイラクタルTB2」の前で記念撮影をするカタール軍のガネム・ビン・シャヒーン・アル・ガネム参謀本部議長(左)と息子たちとバイカル社を自動車関連会社から今日の無人機技術の巨人に変えることに成功したオズデミル・バイラクタル氏(右)

 高まっている評判と魅力的な特色のおかげで、TB2はかつて中国製無人機を購入したいと思っていた、パキスタン、インドネシア、カザフスタン、トルクメニスタンやウズベキスタンといった多くの国で確実に検討されることになるでしょう。実際、ある中央アジアの国が現在のところTB2を購入する過程にあることを示唆する証拠があるため、同国がバイカル社の(知られているものでは)4番目の輸出先となります(2021年9月にはトルクメニスタンが、2022年3月にはパキスタンがTB2を導入したことが確認されています)。

 その一方で、ヨーロッパと北アフリカの市場はその関心の高まりから決して免れているわけではありません。ブルガリアとモロッコは、それぞれ6機と12機の「バイラクタルTB2」に関心を示していると報じられています(注:モロッコは2021年10月時点で導入した事実が確認されました)。

 世界中の国々が先進的で何よりも費用対効果の高い無人機の製造あるいは購入に苦労していることから、政治的な理由でTB2を購入できないほかの国々はバイカル社の発展を必ず関心を持って注目していくでしょう。

[1] Turkey's Baykar to export armed UAVs to Qatar military https://www.dailysabah.com/defense/2018/03/14/turkeys-baykar-to-export-armed-uavs-to-qatar-military
[2] これはTB2が演習で誘導爆弾を使用しなかったということではなく、そのような映像が公開されなかったということを意味します。
[3] Turkey sells mini drones to Qatar https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-sells-mini-drones-to-qatar-15862
[4] Procurement: Turkey Exports UAVs https://www.strategypage.com/htmw/htproc/articles/20120319.aspx
[5] https://twitter.com/ameliairheart/status/1395043419999948801
[6] Spy drone-maker eyes Charleston airport on Johns Island for aircraft plant https://www.postandcourier.com/business/spy-drone-maker-eyes-charleston-airport-on-johns-island-for-new-aircraft-assembly-plant/article_8948a618-9f97-11eb-bfc8-a3fdf093506d.html
[7] Qatar backing new 'eye in the sky' https://www.arabianaerospace.aero/qatar-backing-new-eye-in-the-sky-.html
[8] Texas A&M at Qatar, Reconnaissance and Surveillance Center sign agreement to explore drone technology research and training https://www.qatar.tamu.edu/news-and-events/news/Texas-A-M-at-Qatar-Reconnaissance-and-Surveillance-Center-sign-agreement-to-explore-drone-technology-research-and-training
[9] Avrupa sıraya girdi! Yunanistan'dan Türkiye itirafı https://ekonomi.haber7.com/ekonomi/haber/3057811-avrupa-siraya-girdi-yunanistandan-turkiye-itirafi
[10] https://twitter.com/agneshelou27/status/1506907536548679686?s=20&t=bo3GaGYzQg9SH8WW-Sspig
[11] https://twitter.com/agneshelou27/status/1505803587225624577?s=20&t=JtIf0EdQ1erAMR9de8tV1g

※  この記事は、2021年5月19日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
  す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
  ます。


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