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2021年8月20日金曜日

翼のあるオリックス:カタールの「バイラクタルTB2」とその他の無人機導入計画



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 「バイカル・テクノロジー」社(以下、バイカル社と表記)の「バイラクタルTB2(以下、TB2と表記)」はリビア、ナゴルノ・カラバフ、シリアの空から国家や敵の攻勢の命運を決する役割を果たしたことで、非常に高い評価を得ています。TB2の着実な成功はこの世界に存在している他のいかなる種類の無人戦闘攻撃機(UCAV)で並ぶものがない程であり、大きな注目といくつかの国からの関心を集めています。

 かなりの数のTB2がウクライナやアゼルバイジャンに調達されたことは広く知られていますが、その一方でこのUAVを導入した最初の外国であるカタールが6機のTB2を運用していることは全く知られていません。

 アゼルバイジャンにとってTB2はアルメニアへの圧勝を最終的に保証した崇敬すべきアセットとなりましたが、カタールはUAVに関する運用・技術的な経験を積むという、より謙虚な初期目標のためにTB2を購入したようです。

 無人機の分野でカタールは近隣諸国に比べてやや後れを取っていましたが、「バイラクタルTB2」はこの国を無人機戦の時代へと推し進めるために指名されたシステムだったと思われます。しかし、その用途は単に無人機の運用経験を積むことをはるかに超えているため、偵察や攻撃アセットとしてのTB2の能力は大いに重宝されるでしょう。


 「バイラクタルTB2」の導入を決定する前に、カタールは長年にわたって必要としていたものに見合う欧米や中国のUAVを検討したと報じられています。[1]

 その後の(2020年初頭にシリアで実施された「春の盾作戦」に参加したことでTB2が世に知られるようになる約2年前の)2018年3月にドーハで開催された展示会「DIMDEX」で、カタールがTB2を6機、地上管制ステーションを3台、シミュレーターを1台発注することが公表されました。それらに加えて、バイカル社はカタール軍用にネットワーク・ベースのデータ追跡及びアーカイブ用ソフトウェアだけでなくUAVオペレーション・センターもセットアップしました。

 翌年に納入された後、TB2はRCS(偵察・監視センター)で運用に入りました。カタール国防省の一部であるRCSは、UAV部隊やセンサーベースのシステムを用いてカタールの国境を警備する任務を負っています。

カタールへの納入直前に撮影された6機の「バイラクタルTB2」と3台の地上管制ステーション

 就役後のTB2は、2020年3月にカタール軍と王室警護隊が例年実施している「アル・アドヒード」演習で初公開されました。公開された僅かなカットからは、いずれのTB2も兵装を搭載している姿を見ることはできませんでしたが、そのうちの1機が「MAM-L」誘導爆弾を使用して静止目標への精密爆撃を行ったことが暗示されています

 今年の「アル・アドヒード」演習の際には「バイラクタルTB2」が再び登場しましたが、今回はもっぱら偵察用途で使用されたようです。[2]

 これはカタールで運用されているトルコ製無人機が公開された最初の映像でしたが、実際にはTB2はカタールで2番目に就役したトルコ製無人機です。

 2012年3月には、カタールがTB2と同じバイカル・ディフェンス社が設計・製造した「バイラクタル・ガジュウ3 ミニUAV」の最初の輸出先になったことが公表されました。2011年にイスタンブールで開催された国際防衛産業フェア(IDEF)で署名された契約に基づいて合計で10機の「バイラクタル・ミニUAV」が納入されましたが、この機体はカタールではいまだに公開されていません。[3] [4]






 TB2がカタールで運用されている映像が希少であるにもかかわらず、6機全てがアル・シャマルと呼称されていると思われるカタール北部の地域に新しく建設された空軍基地を拠点にしていることが知られています。[5]
 
2018年に着工が開始されたこの基地は無人機の運用のために特別に建てられたようで、同じく近年に建てられた巨大な軍事施設に隣接しています。

 この基地を撮影した衛星画像は滑走路に隣接する「バイラクタルTB2」に関連する3台の地上管制ステーションを一貫して示しており、TB2の運用が進行中で非常に活発であることが確認されています。

 25°45'52.26"N, 51°17'12.98"E

 技術評価・知識の獲得という役割に加えて、TB2の偵察・攻撃能力も間違いなく無視することはできません。カタールにとって、TB2のような安価なUCAVを大量に導入することは、敵対的な水域と化した際のペルシャ湾のパトロールに取り組む場合においてゲームチェンジャーとなる可能性があります。特に、イランが使用している高速攻撃艇やミサイル艇の群れは脅威となっていることから、機動性の高い「MAM-L」誘導爆弾は非常に適した対抗手段となるでしょう。

 手頃な価格で対空砲や携帯式地対空ミサイル(MANPADS)などの防空システムをその有効射程・射高からアウトレンジ攻撃できる「MAM-L」は、スウォーム攻撃に対する普遍的で費用対効果に優れた解決策であることを示しています。

 TB2の別の使い道としては、サウジアラビア主導によるイエメン介入におけるフーシ派の標的に対して実施された戦闘任務で投入される高速ジェット機を置き換えることも想定されます。大幅に少ないコストで運用され、敵領域の奥深くでパイロットを失うリスクもないことから、TB2は低い経済的・人道的コストで軍事的効果を最大化する小規模な介入(バイラクタル外交と呼ばれるドクトリン)におけるトルコの成功例の再現に活用することができます。




 しかし、カタールが関心を示した無人機は「バイラクタルTB2」だけではありません。2019年の独立記念日における軍事パレードでは、さらに2種類のUAV:テクストロン社「エアロゾンデ」「シャドーM2・ナイトワーデン」の存在が明らかになったからです。

 この軍事パレードでの展示からでは、両機種がすでにRCSで運用されているのか、それともカタールが購入する可能性がある無人機として選定されるためにトライアルを受けているものなのかは(当時は)不明でした。それ以来、防衛装備品の展示会でこれらが何度か目撃される機会がありましたが、最終的には2021年4月に、これらの無人機を製造する施設を建てるため、「バルザン・エアロノーティカル」社が米国サウスカロライナ州のチャールストンに注目していることが明らかにされました。[6]

 ※ 2022年3月にカタールで開催された武器展示会「DIMDEX」にて展示された、「ボー 
  イング」の関連会社「オーロラ・フライト・サイエンシズ社」が開発している「オリオ 
  ン(注:ロシアの同名のUCAVとは別物)」MALE型UCAVの機首には「ボーイング」と
  共に上記「バルザン・エアロノーティカル」社のロゴも描かれていました。このことは
  注目に値すべきものであることは言うまでもないでしょう。[10]

       
 
 カタールが導入を検討している3番目のUAVは、ドイツのライナー・シュテマ・ユーティリティ・エア・システムズ社がカタールの資金提供を受けて設計した「Q01」情報収集・警戒監視・偵察(ISR)プラットフォームです。
 
 「Q01」は2人の乗員による操縦か地上からUAVとして遠隔操作することで、1時間あたり僅か500ドルのコストで最大で48時間の監視飛行が可能であり、いかなる他の(有人)機を飛ばすよりも大幅に安価となっています。[7]

 また、この機体には胴体下のフェアリングにさまざまな種類の電子光学センサーや多目的監視レーダーを搭載する能力を有しています。

 2017年末までに17機の契約の調印が想定されていましたが、それ以降の続報は公開されていないため、このプロジェクトの現状は不明のままです(注:2022年3月にカタールで開催された武器展示会「DIMDEX」にて、「Q01」の改良型と思しき「Q02」が公開されました)。[11]

2019年12月にドーハで実施された軍事パレードで公開されたテクストロン製「エアロゾンデ(左)」 と「シャドーM2・ナイトワーデン (右) 」

ライナー・シュテマ「Q01」

 カタールにとって「バイラクタルTB2」や「アクンジュ」といった無人機技術への投資は、現時点では他の追随を許さない能力を湾岸地域に導入することを可能にするため、この点で隣国に対して明確な優位性をもたらします。ハードウェアを別としても、そのようなUAVの購入は他国に欠けている無人機運用の経験も提供してくれることに注目しなければなりません。

 実際、リビア、シリア、ナゴルノ・カラバフでの無人機の戦術と運用で得られた、中東各地で使用されている広範囲に及ぶ現代的なロシア製の防空システムにうまく対抗するための方法論を含む知識を共有することがあり得ます。

 明らかに無人機を含む兵器を開発・製造するための(国内における)技術基盤の確立を目指しているカタールは、バイカル社との有利な取引を確保することでこの目標をさらに前進させることができます。[8]

 将来的には、この取引にはTB2だけでなく、「バイラクタル・ミニ」の新バージョンや「VTOL UAV」、「アクンジュ」、もうすぐ登場するバイカル社初のジェットエンジン搭載型UCAVも含まれるかもしれません(注:後者は2022年4月に「バイラクタル・クズルエルマ」として機体が公開されました)。

 ほぼ全てのクラスの無人機を生産しているバイカル社の知識と技術基盤、政治的中立性(?)と手頃な価格は、最新のUAV能力に常に押し寄せてくる需要を満たすための最も優位性のある選択肢の一つとなることは確実でしょう。

「バイラクタルTB2」の前で記念撮影をするカタール軍のガネム・ビン・シャヒーン・アル・ガネム参謀本部議長(左)と息子たちとバイカル社を自動車関連会社から今日の無人機技術の巨人に変えることに成功したオズデミル・バイラクタル氏(右)

 高まっている評判と魅力的な特色のおかげで、TB2はかつて中国製無人機を購入したいと思っていた、パキスタン、インドネシア、カザフスタン、トルクメニスタンやウズベキスタンといった多くの国で確実に検討されることになるでしょう。実際、ある中央アジアの国が現在のところTB2を購入する過程にあることを示唆する証拠があるため、同国がバイカル社の(知られているものでは)4番目の輸出先となります(2021年9月にはトルクメニスタンが、2022年3月にはパキスタンがTB2を導入したことが確認されています)。

 その一方で、ヨーロッパと北アフリカの市場はその関心の高まりから決して免れているわけではありません。ブルガリアとモロッコは、それぞれ6機と12機の「バイラクタルTB2」に関心を示していると報じられています(注:モロッコは2021年10月時点で導入した事実が確認されました)。

 世界中の国々が先進的で何よりも費用対効果の高い無人機の製造あるいは購入に苦労していることから、政治的な理由でTB2を購入できないほかの国々はバイカル社の発展を必ず関心を持って注目していくでしょう。

[1] Turkey's Baykar to export armed UAVs to Qatar military https://www.dailysabah.com/defense/2018/03/14/turkeys-baykar-to-export-armed-uavs-to-qatar-military
[2] これはTB2が演習で誘導爆弾を使用しなかったということではなく、そのような映像が公開されなかったということを意味します。
[3] Turkey sells mini drones to Qatar https://www.hurriyetdailynews.com/turkey-sells-mini-drones-to-qatar-15862
[4] Procurement: Turkey Exports UAVs https://www.strategypage.com/htmw/htproc/articles/20120319.aspx
[5] https://twitter.com/ameliairheart/status/1395043419999948801
[6] Spy drone-maker eyes Charleston airport on Johns Island for aircraft plant https://www.postandcourier.com/business/spy-drone-maker-eyes-charleston-airport-on-johns-island-for-new-aircraft-assembly-plant/article_8948a618-9f97-11eb-bfc8-a3fdf093506d.html
[7] Qatar backing new 'eye in the sky' https://www.arabianaerospace.aero/qatar-backing-new-eye-in-the-sky-.html
[8] Texas A&M at Qatar, Reconnaissance and Surveillance Center sign agreement to explore drone technology research and training https://www.qatar.tamu.edu/news-and-events/news/Texas-A-M-at-Qatar-Reconnaissance-and-Surveillance-Center-sign-agreement-to-explore-drone-technology-research-and-training
[9] Avrupa sıraya girdi! Yunanistan'dan Türkiye itirafı https://ekonomi.haber7.com/ekonomi/haber/3057811-avrupa-siraya-girdi-yunanistandan-turkiye-itirafi
[10] https://twitter.com/agneshelou27/status/1506907536548679686?s=20&t=bo3GaGYzQg9SH8WW-Sspig
[11] https://twitter.com/agneshelou27/status/1505803587225624577?s=20&t=JtIf0EdQ1erAMR9de8tV1g

※  この記事は、2021年5月19日に本国版「Oryx」で投稿された記事を翻訳したもので
  す。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があり
  ます。


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2021年8月6日金曜日

生え始めたグッピーの牙:カタールの「BP-12A」短距離弾道ミサイル


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 カタールは2017年12月15日に行われた独立記念日の軍事パレードで中国の「BP-12A」短距離弾道ミサイル(SRBM)を披露し、敵味方を分け隔てなく驚かせました。

 パレードで初公開された「BP-12A」はカタールで運用されるこの種の兵器としては初めてのものですが、それにもかかわらず、カタールはこの地域で最後に弾道ミサイルを装備した国です。

 一部のシンクタンクのアナリストはこの「ドーハの非常に攻撃的な動き」を猛烈に非難していますが、カタールによるこのSRBMの導入は、実際にはより特別な意味合いを持った問題です。[1]

 その重要性とは逆に、過去10年間にカタールによって調達された多数の「レオパルド2A7」戦車、「PzH2000」自走榴弾砲やその他の高度な兵器の中で、この輸送起立発射機(TEL)の存在が簡単に見落とされた可能性があります(注:戦車などに注目が集められてTELが気づかれなかった可能性があるということ)。

 もともと、カタールは中東では最低限の軍事力しか持っていないほか、隣国の(カタールの面積の6.56%にすぎない)バーレーンでさえデータ上では強敵ということが示されていたことから、ドーハはそのギャップを埋めるため、2010年代初頭に大規模な武器の調達に乗り出しました。

 すぐに明らかになったように、このようなカタールの防衛観の劇的な変化は決して早すぎるものではありませんでした。

 2017年6月5日、UAE、サウジアラビア、バーレーンとエジプトは、カタールが湾岸協力会議(GCC)の諸国が容認する以上にイランとの緊密な関係を維持していることについて、国際「テロリズム」を支援し「地域を不安定にしている」と糾弾してドーハとの全ての外交・貿易関係を断絶し、カタールに封鎖を課してアラブ世界に衝撃を与えました。

 これらの措置は明らかにカタールを屈服させる意図によるものでしたが、ドーハにとって封鎖は最終的に嫌がらせ程度のものにしかならなかったようです。

       

 外交危機は、紛争の可能性が常に背後に迫っていること、そして政治的対立がすぐに武力紛争にエスカレートするのを防ぐためには、強力な軍事力が間違いなく最善の抑止力であることを思い出させてくれました。

 封鎖された直後、カタールは自国が実際に侵攻される脅威に直面したため、軍事力の増強を倍増しました。軍事力が飛躍的な成長を遂げていることを示しているため、近隣諸国に対する効果的な抑止力を創出するための努力は依然として非常に現実的なものになっています。

 カタールは、「ラファール」、「F-15QA」、「ユーロファイター "タイフーン"」、を含む現在市場に出回っているほぼ全ての西側戦闘機を購入しており、最近では「F-35」に真剣な関心を示している国として知られていますが、戦力強化の試みは単に空軍を強化するだけに留まってません。[2]

 中でも注目すべきは、ドーハがイタリアから多目的揚陸艦、コルベットや哨戒艇の導入を通じて海軍の全面的な刷新を図っていることでしょう。逆にあまり注目されていないのは、陸軍用にトルコのメーカーであるヌロル・マキナ社製の高い機動性と重武装を備えた装甲戦闘車両(注:「NMS」)を数百台導入したことです。

 しかし、カタールの空軍や海軍の能力は近隣諸国に単に遅れを取っているだけですが、陸軍の大部分は完全に時代遅れと言えます。最近の2010年代初頭でも、(起源が1960年代に遡る)フランス製のAMX-30戦車が依然としてカタール陸軍の機甲戦力を構成しており、砲兵部隊の状況は格段に悪いもので、AMX-30と同時代のオープントップ型の「Mk F3」155mm自走砲が依然として使用されていました。

 世界的な(軍事力の)発展を反映して、より強力なパンチ力を備えた現代的な長射程の砲兵システムの導入を追い求めることは明らかに望ましいものだったと言えます。


 カタールのSRBMを運用することへの関心は2017年の外交危機以前から存在しており、その種の兵器の導入を最初に試みたケースは、2012年にM142「HIMARS」多連装ロケット弾発射機7基とMGM-140「ATACMS(ブロックIA T2K)」 戦術弾道ミサイル60基を推定4億600万ドルで購入する許可を米国に要請した時点まで遡ることができます。[3]
 
 理由は不明ですが、この調達は最終的に失敗に終わりました。それでもなおカタールが後に「BP-12A」を調達したのは、単にこの地域の現状を打破しようと試みたのではなく、長年にわたって必要としていたものことを実現したことを物語っています。

 (カタール以外での弾道弾の導入が)実現した事例を説明すると、まず、西の隣国であるバーレーンが2018年に110基のMGM-140「ATACMS」を調達したことであり、それらは2000年代初頭からすでに運用されている30基の同型ミサイルに追加されました(注:数が増強されたということ)。[4] [5] [6]

 南側では、サウジアラビアが中国の「DF-21」中距離弾道ミサイル(MRBM)の調達と(2022年に運用開始が予定されている)ウクライナの「フリム-2(グロム-2)」への融資を通じて、自国の弾道ミサイル戦力の強化で急速な進歩を遂げています。

 東側では、UAEは2013年から少なくとも224基の「MGM-140 "ATACMS"」を調達しましたが、射程が約500kmある北朝鮮の「火星-6」弾道ミサイルも運用し続けています。UAEで運用されている北朝鮮の兵器の詳細については、私たちのこの記事をご覧ください

 カタールの近隣諸国で弾道ミサイルを運用していない数少ない国の一つであるオマーンは、実際には2000年代後半に「ATACMS」の調達を熱心に推し進めていましたが、おそらく予算上の制約のために実際にその調達は行われませんでした。[9]

 カタールの全ての近隣諸国は数百発の弾道ミサイルを保有しており、その大部分が(それぞれの領土から発射された場合に)お互いを実際の標的とすることができる射程距離があるため、BP-12Aの導入がこの地域の軍事バランスを何ら変化を与えることにはなりません。

 ちなみに米国はこの見解に賛同しており、2012年にカタールが提案した 「ATACMS」の調達について以下のように述べています。
打診された売却案は、現在及び将来の脅威に対応するカタールの能力を向上させ、重要インフラのセキュリティの強化をもたらすものです。この装備と関連する支援の売却案が、この地域の基本的な軍事バランスを変えることはないでしょう。」[3]
 「BP-12A」の射程距離は実際にはよりも短く(280km vs 300km)、唯一の大きな違いは弾頭(480kg vs 230kg)であるため、「ATACMS」に当てはまることは「BP-12A」にも実質的に当てはまるはずです(注:両者は実質的に違いが少ないため、「BP-12A」の導入が大きく騒がれる事柄ではないということ)。

 「BP-12A」のカタログ上での射程距離はMTCR(ミサイル技術管理レジーム)によって課されている輸出規制ガイドラインの(上限である)射程距離300kmを多少超えているという噂がありますが、それが本当でも「BP-12A」に新たな能力が与えられるわけでもありませんし、サウジアラビアとUAEが運用している弾道ミサイルの射程距離よりも短いままです(注:射程距離が300km強でもミサイルがカタールからリヤドには届きません)。


 「BP-12A」の導入以前では、カタールの長距離砲兵部隊はエジプトの「サクル(下の画像)」とブラジルの「アストロスⅡ」多連装ロケット砲(MRL)で構成されていました。前者は北朝鮮の「BM-11」MRLをエジプトがコピーしたものであり、カタールが長期間にわたって運用してきた唯一の非西側諸国製の武器でした。

 最近では、カタールはロシアから導入した「AK-12」アサルトライフル、「ZPU-2」14.5mm高射機関銃、9M133「コルネット」対戦車ミサイル(ATGM)や9K338「イグラ-S」携帯式地対空ミサイル(MANPADS)、中国から入手した56式小銃、「M99」対物ライフルや「FN-6」MANPADS、そしてウクライナから購入した「スキフ」ATGMを含むさまざまな種類の非西側製の武器を運用しています。



 「BP-12A」は(トルコではB611M「ボラ」及び輸出型の「カーン」と共に「J-600T "ユルドゥルム"」としてライセンス生産されている)「B611」SRBMシリーズの発展型であり、2010年の珠海航空ショーで初めて公開されました。

 このシステムの自走式発射機である「WS2400」トラックの車体には、「BP-12A」を2発か「SY-400」地対地ミサイルを8発、あるいは「BP-12A」1発と「SY-400」4発を組み合わせて搭載することができます(注:「BP-12A」のキャニスターには1発、「SY-400」の場合は4発が入っているため)。480kgのHE弾頭を搭載した「BP-12A」は最低でも280km以上の射程距離があるため、敵後方に位置する指揮所や集結した兵員を狙うのに完璧に適しています。[7]

 カタール陸軍で運用されているのが確認されたのは「BP-12A」のみですが、(まだカタールが導入していない場合は)将来的に推定射程距離200kmの「SY-400」地対地ミサイルをこのシステムに円滑に統合することが可能です。

 慣性誘導だけでなく衛星誘導方式も取り入れているため、半数必中界(CEP)がおそらく50m以下である「BP-12A」は前者しか使用していない旧式のシステムよりも有効性の向上を誇っています。また、各発射機がミサイルなしの状態で長時間を過ごすことがないように、TELには2発の再装填用ミサイルを積載した、専用の(同様に「WS2400」がベースである)ミサイル運搬車が伴われています。

 現時点ではカタールが唯一の「BP-12A」の運用国として知られていますが、「M20」SRBM「A200」誘導ロケット弾を使用する(同じ中国の)競合相手はベラルーシ(「ポロネズ」という呼称で、後にアゼルバイジャンに輸出されました)とエチオピアで採用されており、最近では2020年のティグレ紛争でティグレ分離主義勢力とエチオピア軍との戦いでの使用が確認されました。[8]


 カタールが「BP-12A」SRBMを導入したことは(特にあなたがUAEが出資したシンクタンクで働いているのであれば)ドーハの攻撃的な動きと誇大的に評価されやすく、サウジアラビア、UAE、バーレーンの首都に脅威を突きつけて、この地域を軍拡競争へと駆り立てるでしょう(注:UAEは反カタールのため、「BP-12A」の導入をサウジなどを狙うためのものだとしてプロパガンダ的な主張をするということです)。

 もう少し広い視点で見ると、「BP-12A」の導入はこの地域全体で徐々に高まる武器拡散の流れと一致したものであり、地域内の別の国(カタール)が周囲との競争条件の平等化を試みるに至ったものと捉えることができます。

 政治的な忠誠心が急速に変化する可能性があって軍事バランスがこれまで以上に何とかして自力でやっていこうとする捕食者側に傾く地域の鮫が出没する海では、これらの弾道ミサイルが強力な抑止力をもたらすという事実は当然ながら快く歓迎されるでしょう。

 関係が修復された今では問題となっているミサイルが近隣諸国のいずれかに怒りに任せて発射されることはないかもしれませんが、「BP-12A」の保有はかつては無防備だったグッピーが突然牙を生やしたということを今後も簡単に思い出させてくれるものになるはずです。


[1] Why is Qatar showing off its new short-range Chinese ballistic missile? https://english.alarabiya.net/en/News/gulf/2017/12/20/Qatar-showcases-offensive-ballistic-missiles-targeting-neighbors
[2] Exclusive: Qatar makes formal request for F-35 jets - sources https://www.reuters.com/article/us-qatar-israel-jets-exclusive-idUSKBN26S37Q
[3] Qatar--HIMARS, ATACMS, and GMLRS https://www.dsca.mil/press-media/major-arms-sales/qatar-himars-atacms-and-gmlrs
[4] Bahrain – M31 Guided Multiple Launch Rocket System (GMLRS) Unitary and Army Tactical Mission System (ATACMS) T2K Unitary Missile https://www.dsca.mil/press-media/major-arms-sales/bahrain-m31-guided-multiple-launch-rocket-system-gmlrs-unitary-and
[5] Proposed ATACMS Sale to Bahrain Announced https://www.armscontrol.org/act/2000-10/news-briefs/proposed-atacms-sale-bahrain-announced
[6] Bahrain Purchases Lockheed Martin's ATACMS Missiles https://web.archive.org/web/20120112011513/http://www.lockheedmartin.com/news/press_releases/2000/BahrainPurchasesLockheedMartinSATAC.html
[7] Qatar Displays Chinese Missile https://www.armscontrol.org/act/2018-03/news-briefs/qatar-displays-chinese-missile
[8] https://twitter.com/imp_navigator/status/1347413795463946240
[9] SCENESETTER FOR U.S.-OMAN JOINT MILITARY COMMISSION https://wikileaks.org/plusd/cables/09MUSCAT273_a.html
         
※  当記事は、2021年3月6日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。
 

2021年4月28日水曜日

珍しい晴れ舞台:カタールが「AK-12」アサルトライフルを披露した

著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 自国の防衛力や近年に入手した軍事装備を誇示することについて、湾岸諸国のほとんどは一般的には控えめです。UAEとサウジアラビアが北朝鮮や中国から弾道ミサイルを入手したことが高度な機密で取り囲まれているのは十分に予想されましたが、湾岸地域ではこの機密レベルが大砲や小火器といった通常兵器にも頻繁に適用されています。

 カタールの場合、その状況は少し異なります。 毎年恒例の独立記念日に実施される軍事パレードではほとんどの武器が公開されていますが、演習やほかの行事などでは驚くほど僅かな装備しか公開されていないからです。

 同様に、カタールがロシアの「AK-12」アサルトライフルを入手したこともほとんど報じられていないままであり、今までのところは軍事パレード以外でその存在を示す画像などは存在しないようです。

 その見つけにくさは別として、「AK-12」の導入はこれまでにほぼ西側諸国から供給された武器だけに依存してきた湾岸諸国に届くロシア製の武器の流れが増加している証しとなります。カタールは2017年に連続生産に入ったばかりの新型アサルトライフルについて最初に確認された輸出先です。

 カタールがロシア製の兵器に関心を持っていることが初めて明らかになったのは、お互いの代表がドーハとモスクワで会談した際にロシアとの軍事技術協力に関する一連の協定に署名した2016年と2017年のことです。[1] [2] [3]

 これらの協定が厳密に何を含んでいたのかは(当時は)まだ不明でしたが、カタールでロシアの武器が初めて視認されたのはそれからすでに1年後の2018年12月のことです。それは、同年の独立記念日のパレードで数百もの「AK-12」がドーハ・コーニッシュ(海沿いの遊歩道)を行進するカタールの兵士たちの手にある光景を目撃された時でした。

 その数ヶ月前の2018年7月に、ロシア特使はカタールとロシアが小火器と対戦車ミサイル(ATGM)の取引を契約したという報道を追認しており、その取引には大量の「AK-12」や「9M133 "コルネット"」ATGM、そして「9K338 "イグラ-S"(SA-16)」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)さえも含まれていました。[4]

 ドーハが関心を示したもう1つのロシアの兵器は「S-400」地対空ミサイル(SAM)ですが、実際にカタールが入手する可能性は(トルコのように)米国による制裁を受ける恐れがあるために極めて低いと思われます。[4]


新たな友好関係の構築

 カタールは伝統的にフランスや(その後には)アメリカから武器や装備を購入する顧客でしたが、2017年から2021年まで続いた外交危機でその調達先の多様化に取り組み、今ではロシアも彼らへの武器供給源に含まれています。

 これはシリア内戦の間にドーハとモスクワの関係を著しく緊張させていた2010年代初頭からの顕著な変化でした。この点では、カタールがロシアとの関係を強化していることが武器の入手という事実で明白に見受けられます。

 現在、カタールとロシアはシリア紛争の政治的解決を実現するための共同した試みで連携して取り組んでいますが、これは外交的に競争の激しいこの地球の片隅で国際関係がいかに迅速に変化するかを示しています。


慣れ親しんだ姿と斬新な特徴

 5.45×39mm口径の「AK-12」は、(旧イズマッシュ社として知られている)「カラシニコフ・コンツェルン」が設計・製造した極めて人気の高いアサルトライフルシリーズの最新モデルです。

 この新型アサルトライフルは「AK-47」の登場から約70年後に生産を開始されており、初代AKの設計思想と形状はこの新型でも容易に尊重されていることがわかります。それにもかかわらず、(置き換えられる対象の)AK-74Mと比較するとAK-12はほぼ全ての面で改良されています。中でも注目すべきものとして、AK-12は命中精度を向上させるフリーフローティングバレル(注:銃身とハンドガードが接触していないので銃身に負荷がかからない)、ピカティニー・レールを備えたモジュラーデザインや過去のAKシリーズに比べて改善された人間工学を踏まえたデザインを備えていることが挙げられます。

 多くの欠陥に悩まされていた「AK-12」の試作型を未だに知っている人もいるかもしれませんが、それは(最終的に現行のAK-12となった)よりベーシックな設計の「AK-400」が選ばれたことで放棄されました。ビデオゲームで試作型がほぼ独占的に登場したこともあり、銃器に詳しくない多くのオブザーバーにとって「AK-12」という呼称は未だにこの初期モデルを指していますし、これからもそのままでしょう。

 カタールに加えてアルメニアも「AK-12」の潜在的な顧客と推測されており、国内に生産ラインを設置する可能性すらあると見込まれています。[5]

 その一方で、現時点でアルメニアはライセンス生産された「AK-103」を軍に装備させている過程にあるため、「AK-12」の大規模な導入と国内生産は実現しそうにないようです。


 実際にカタールが購入した数は不明ですが、「AK-12」がカタール軍全体で制式化されないことはほぼ確実です。これは2018年にイタリアと「ARX160」と「ARX200」アサルトライフルを国内で生産することの協定を結んだことと同様に、カタールが主要な制式化された小銃を持たずに各部隊がFN製「FNC」、「M4」や「M16」を使用しているという事実に関係があります。[6]

 「ARX160」は湾岸地域で大きな成功を収めており、隣国のバーレーンでは主力の小銃として採用されています。

 「ARX-160」や「AK-12」に加えて、さらに数種類の現代的なアサルトライフルも(特殊部隊を中心に)カタール軍に配備されてることを見落としてはならないでしょう。


 パレードの映像だけを見ると、「AK-12」の大部分がカタール特殊作戦コマンド(Q-SOC)に配備されたように見えますが、おそらくカタール王室警護隊にも同様に配備されているかもしれません。このアサルトライフルは特殊部隊のみに限定して使用される可能性があり、その場合は水中や砂や埃の多い環境での頑強性と信頼性が特に重視されるはずです。

   
 ロシアから「AK-12」を購入したことは注目に値しますが、それは必ずしもカタールが持つ(武器の顧客としての)忠誠心の大規模な変化の始まりを意味するものではありません(注:武器供給国を西側からロシアに移行を意味しないということ)。

 それどころか、カタールは今後も武器調達の多様化を継続していくと思われます。これは他の供給国からのさらなる武器購入がある可能性を意味しており、その結果としてNATO諸国製の武器とロシアや中国から購入した武器が一緒に運用されることになる可能性があります。

 カタールは(特にバルザン・ホールディングスを通じて)自国の防衛産業の拡大を目指しており、「ARX160」や「ARX200」と同様に、こうした兵器の少なくとも一部は国内で製造されるか(部品を輸入して)組み立てられることになるはずです。

 この国にとって、このような武器調達に関する方策は自国の軍事力を高めるだけでなく、国家の独立性を高める手段としても魅力的なものになるでしょう – そして、「AK-12」が多様化した武器調達の最後の一例にはならないことも確実です。


[1] Qatar, Russia sign military cooperation deal https://www.aa.com.tr/en/middle-east/qatar-russia-sign-military-cooperation-deal/642129
[2] Qatar looking for defence cooperation with Russia https://www.qatar-tribune.com/news-details/id/82421
[3] Qatar, Russia sign agreements on air defense, supplies https://www.reuters.com/article/us-russia-qatar-military-idUSKBN1CV11E
[4] Russia and Qatar discuss S-400 missile systems deal TASS https://www.reuters.com/article/us-russia-qatar-arms-idUSKBN1KB0F0
[5] Armenia will be the first country to purchase AK-12 assault rifles https://arminfo.info/full_news.php?id=54485&lang=3
[6] Qatar to receive first locally produced ARX rifles in 2019 https://defence-blog.com/news/army/qatar-to-receive-first-locally-produced-arx-rifles-in-2019.html
 
※  当記事は、2021年4月13日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。