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2023年12月20日水曜日

「マーチン139」から「クズルエルマ」まで」 :トルコ軍爆撃機の85年


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「İstikbal göklerdedir. Göklerini koruyamayan uluslar, yarınlarından asla emin olamazlar - 未来は空にあります。自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。(ムスタファ・ケマル・アタテュルク)」

 2022年12月14日、「バイラクタル・クズルエルマ」無人戦闘攻撃機がテキルダー・チョルル・アタチュルク空港で初フライトを実施しました。偶然にも、この85年前にはアメリカから購入した20機のマーチン「139WT」爆撃機の1号機がトルコ空軍に就役するために同じ空港に着陸しています。

 1937年にチョルルでアメリカから初の本格的な爆撃機が納入されてから85年後に同じ場所で初の国産無人戦闘機の試験飛行を行うまでに至ったトルコは、軍事大国として飛躍的な発展を遂げています。

 85年前と根本的に異なるもう一つの状況としては、トルコがアメリカから軍用機を調達する能力(というよりは能力の欠如)が挙げられます。何年にもわたって多くの西側諸国から事実上の武器禁輸措置を受けているトルコは、2019年にはロシアから「S-400」地対空ミサイルシステムの調達を決定したことを受け、F-35の国際共同プログラムからも追放されてしまったのです。

 トルコ空軍は旧式化した「F-4E "ターミネーター2020"」の後継機として最大100機の「F-35A」を、トルコ海軍は「TCG アナドル」強襲揚陸艦で使用するための「F-35B」の導入を計画していました。

 トルコのF-35国際共同プログラムからの除名と「F-16V」の調達に行き詰まっている状況は、2020年代から2030年代初頭にかけて(少なくともその10年の間に「TF-X」ステルス戦闘機が導入されるまで)トルコ空軍は自身の戦闘機よりはるかに最新で高性能な戦闘機を保有するギリシャ空軍に対抗せざるを得ないことを意味しています。

 しかし、このような環境下であるからこそトルコの兵器産業は栄えてきたことを見落としてはならないでしょう:つまり、今が全ての状況がトルコにとって不利になり、赤字を埋め合わせるために創意工夫が必要とされるというわけです。

 「バイラクタルTB2」「アクンジュ」の開発後、メーカーである「バイカル・テクノロジー」社は 「クズルエルマ」無人戦闘機を開発することを通じてトルコの航空戦力不足の解消に取り組もうとしています。

 同社は、「AI-25TLT」エンジンを1基搭載した亜音速型の「クズルエルマ-A1」と2種類の遷音速型:同エンジンを2基搭載した「クズルエルマ-A2」と「AI-322TF」を1基搭載した「クズルエルマ-B1」を製造する計画です。超音速型の「クズルエルマ-B2」は2基の「AI-322TF」が搭載されることになるでしょう。

 「クズルエルマ」は「バイラクタルTB3」と共に「アナドル」からの運用が可能であり、これまで艦載機として検討されていた「F-35B」を代替するシステムにもなり得ます。

 この新型無人機がその真価を発揮する前には何度かの反復作業を経る必要がありますが、その回を重ねるごとに、この新型UCAVが従来の航空アセットの能力を次第に再現していくことは間違いありません。少なくとも、ロシアから「S-400」の購入を決めた結果として、トルコが「F-35」国際共同プログラムから外されたことによるギャップを部分的に埋め合わせることができるでしょう。その真価には、射程275km以上の巡航ミサイルと(100km離れた目標を攻撃可能な)目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)の発射能力も含まれます。
 
「バイラクタル・クズルエルマ-A1」試作初号機

 1930年代のトルコは、現在と全く異なる安全保障上の問題に直面していました。つまり、拡張政策を唱えるファシスト・イタリアの台頭です。

 地中海で急速に近代化が進むイタリアの脅威に対抗するには十分な装備をもってなかったトルコ軍は、将来の脅威に対処できる現実的な抑止力を構築すべく、自国に航空機の販売を望んでいる意思があると確認されたあらゆる国から運用機を調達し始めたのです。

 その結果、トルコ空軍はポーランドからPZL「P.24」戦闘機を66機、アメリカからマーチン「139WT」爆撃機20機の導入を通じて増強されました。こうした軍用機の調達は(トルコ空軍に対する)ここ数年で最初の設備投資であり、最終的には、ヨーロッパで新たな世界大戦が近づくことが予想される情勢下で、より大規模な航空機の発注へと道を開けるものとなったのです。

 その数年前に、ムスタファ・ケマル・アタテュルク大統領がトルコ空軍に初めての爆撃機を調達するよう命じたため、慎重な検討を重ねた結果としてアメリカのマーチン「B-10」が選定されました。これを受けてトルコの代表団が現地へ派遣され、マーチン「139WT」と呼称されるようになったエンジンを改良したモデルを20機調達するに至りました。 [1]

 1937年9月に納入されたマーチン「139WT」は、チョルル基地を拠点とする第9航空大隊(Tayyare Taburu)の第55・56飛行隊(Tayyare Bölüğü)に配備されました。同爆撃機は引き渡されてから僅か2年で時代遅れと化したものの、第二次世界大戦中には黒海上空の偵察任務で広く活用されました。

 1944年にイギリス製ブリストル「ブレニム」及び「ボーフォート」に置き換えられた後のマーチン「139WT」は、1946年まで第二線機として活躍し続けたことが記録されています(その時点でも、残存する16機のうち12機が依然として稼働状態にありました)。[1]

テキルダー・チョルル・アタチュルクに並ぶマーチン「139WT」

 航空機の設計における進歩(とりわけエンジン開発の発展)のおかげで戦闘機や爆撃機のペイロードは機体のサイズ以上に大きな割合で増加してきましたが、このことはマーチン「139WT」や「クズルエルマ」の場合でも変わりません。

 1930年代のマーチン「139WT」は機内の爆弾倉に搭載可能な爆弾のペイロードが1,025kgである一方、「クズルエルマ-A1」は1,500kgで、さらに「クズルエルマ-B2」では推定3,000kgのペイロードを搭載可能となっているのです。

 搭載する兵装自体も、無誘導爆弾から巡航ミサイルやBVRAAMへと大きな進化を遂げています。
 

マーチン「139WT」が僅か1,025kgしか爆弾を搭載できない一方、「クズルエルマ-B2」はその3倍近い積載量を有することになるだろう

 1世紀近くにも及ぶ技術革新がもたらした違いこそあるにもかかわらず、現代のトルコ製UAVは、この国が爆撃機を運用し始めた際の機体が有していた一部のDNAを継承しています。

 「バイラクタル・アクンジュ」はマーティン「139WT」と同様に2基のエンジンを持つプロペラ機で、エンジンはより効率の良いターボプロップ式ですが、最高出力はほぼ同一です。また、外形寸法においても両機は驚くほど似ていますが、前者はその流線形の機体を活用して最大1,350kgという見事なペイロードも誇っているのです。
 


 マーチン「139WT」と「クズルエルマ」は、過去80年間で航空機の設計及び性能がどれだけ進化してきたかだけでなく、軍備の調達面でトルコが1930年代から2010年代までずっと他国に頼っていたのが2020年代にはほぼ全てを国内産業から調達を目指すことで、トルコがどのようにして安全保障上の課題を対処から発展してきたのかについて興味深い考察を可能にします。

 その目標の実現に向けたトルコの発展は猛烈なスピードで前進していますが、その流れは当然のことでしょう。なぜならば、トルコは世界中の国々と同様に、現代において次の言葉の重要性をますます悟っているためです:「...自分の空を守れない国々は、決して自身の未来を確信できないからです。」


[1] Martin 139-WT (B-10) http://www.tayyareci.com/digerucaklar/turkiye/1923ve50/martin139wt.asp

注:当記事は2023年1月7日に本国版「Oryx」(英語)に投稿されたものを翻訳した記事であり、意訳などで僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。


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2023年10月18日水曜日

翼を広げるシマハッカン:拡大するタイのUAV飛行隊


著:シュタイン・ミッツァー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 無人航空機(UAV)は、今や東南アジアにとって新しいものではありません。タイでは、すでに2001年の時点で陸軍がIAI「サーチャーMk. II」無人偵察機をイスラエルから調達して運用し続けているのです。

 この国ではその後の数十年にわたって(主にイスラエルから)さらなる種類のドローンの導入が続き、結果的に現在の陸海空軍で運用される無人兵器の拡充をもたらしました。

 その一方で、この中には数を増やしつつある自国で開発されたUAVや中国からライセンスを得て生産された機種も含まれています。それらの中でも最大かつ最も高性能な機種が中国・北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発した「D-アイズ04」で、最終的には陸軍の旧式化した「サーチャーMk.II」の後継となる可能性があります。[1]

 また、タイは、同大学が開発したより大型の攻撃能力も有する無人偵察機「TYW-1」にも関心を示しているとみられています。

 中国との協力によって、タイはこれまでに自国軍用の「DTI-1/1G」誘導式多連装ロケット砲を含む数多くの高度な最新兵器をライセンス生産するなど、他国とは実現不可能な取引を行ってきました(注:つまり、今後もこの傾向が続くことが自然ということ)。

 サイズと航続距離の(ほぼ)全てのカテゴリーでかなりの数のUAVが運用されているにもかかわらず、タイ軍の保有兵器にはいまだに無人戦闘航空機(UCAV)が欠けています。

 2019年には、タイの防衛技術研究所 (DTi) が「U-1 "スカイ・スカウト"」の攻撃機型である「U-1M "スカイ・スカウト-X"」を発表しました。この小型UCAVは射程6kmのタレス製「FF-LMM」誘導爆弾を2発搭載された状態で登場しましたが、この爆弾が大部分のUCAVよりも低い高度で飛行する 「U-1M "スカイ・スカウト-X"」から投下された場合、実際の射程距離はやや短いものとなるでしょう。

 この機種が実際にタイ軍の陸海空のいずれかの軍種で運用されることになるのか否かは、現時点では明らかになっていません。

 2021年12月、タイ海軍が4機の中高度長時間滞空(MALE)型UAVの導入を検討していることが公表されました。これについてはイスラエルの「ヘロンTP」や「ヘルメス900」、中国の「翼竜II」UCAVが有力な候補とみられていたものの、結果として2022年7月に「ヘルメス900」9機の発注が発表されました。[2][3]

 2022年6月にタイ国防省の代表団が「バイカル・テクノロジー」社を訪問したことは、タイが同社の「バイラクタルTB3」に対しても具体的な関心を示している可能性があります。[4]

 TB3は当初から海上での任務を念頭に置いて設計されたUCAVであり、今では専用の艦載機を持たないタイ海軍の空母「チャクリ・ナルエベト」からの運用も可能という利点があります。2021年に同空母の全長175mを有する飛行甲板から小型のVTOL型UAVを運用する実験を行っているため、海軍が無人機を将来的な艦載システムと考えていると推測することは至って自然なことです。[5]

北京航空航天大学の「CY-9」をベースに開発された「D-アイズ04」

(各機体の名前をクリックするとタイで運用されている当該UAVの画像を見ることができます)


無人偵察機 - 運用中 または  発注済み


VTOL型無人偵察機 - 運用中


無人標的機- 運用中


無人偵察機 - 試作


無人戦闘航空機 - 試作


VTOL型無人偵察機 - 試作

 既存のイスラエル製UAVや(主に中国の北京航空航天大学との協力を通じて)現在の能力をさらに拡大する態勢を整えている自国の高度な技術基盤のおかげで、タイにおけるUAV戦力の将来は明るいと言えるでしょう。

 将来的な「ヘルメス900」やMALE型UCAV、そして中国製大型UCAVのライセンス生産機の導入は(場合によってトルコからのUCAVの導入と組み合わせると)、タイは東南アジアにおける無人機戦力のトップに立つという素晴らしい偉業を成し遂げることを可能にするかもしれません。

タイの代表団メンバーが「バイカル・テクノロジー」のハルク・バイラクタルCEOから「バイラクタル・アクンジュ」UCAVの模型を贈呈された際の記念撮影(2022年6月)

[1] Royal Thai Army developping D-Eyes 04 MALE UAV https://www.airrecognition.com/index.php/news/defense-aviation-news/2021/november/7852-royal-thai-army-developping-d-eyes-04-male-uav.html
[2] Thai Navy Seeking Long-Range Maritime Surveillance Drone https://www.thedefensepost.com/2021/12/30/thailand-maritime-surveillance-drone/
[3] Thailand to Buy Israeli-Made Hermes 900 Drones https://www.thedefensepost.com/2022/07/04/thailand-israel-hermes-drones/
[4] Royal Thai Embassy, Ankara https://www.facebook.com/rteankara/posts/pfbid02k
[5] Thai aircraft carrier tests VTOL drone MARCUS-B https://www.navalnews.com/naval-news/2022/01/thai-aircraft-carrier-tests-vtol-drone-marcus-b/

 のです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所が
 あります。



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2023年7月19日水曜日

新たなる道:サウジアラビアが「バイラクタル」導入へ


著:ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

※  当記事は、2022年9月2日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳
  などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。

 2022年からのロシア・ウクライナ戦争で「バイラクタルTB2」が効果的に使用されて人気を博したことを受け、「バイカル・テクノロジー(バイカル・テック)」社によって推進されたトルコの前例のない無人機の成功がますます高まることが予想されます。[1]

 サウジアラビア王国(KSA)はすでに膨大な数の中国やトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)を運用している一方で、「バイカル・テック」社の製品にも関心を示している国の一つです。[2]

 この国の無人機飛行隊について、現地で生産された数百機もの中国産UCAVで構成されていると報じられることもありますが、実際の構成や規模はほとんど分かっていません。判明しているのは、サウジアラビアのUCAVが2018年から隣国イエメンの反政府勢力であるフーシ派に対して集中的に投入されていることぐらいです。[3]

 アメリカからUCAVを調達できなかったため, サウジアラビア(KSA)はその調達に関して中国にその大半を依存してきました。このことは、KSAが2010年代半ばから後半にかけて「翼竜Ⅰ」「翼竜Ⅱ」「CH-4B」を大量に導入したことに表れています。これらの中国製UCAVは、2015年3月のサウジアラビア主導のイエメン介入開始以来、すでにイエメン上空に投入されている数種類の南アフリカやイタリア、ドイツ製無人偵察機を補完するものでした。[3]

 2019年になると、サウジアラビアはトルコの「レンタテク」社製「カライェル-SU」UCAVを導入し、保有するドローン兵器群をさらに増強しました。この同型機は「ハブーブ」のという名前で近いうちにKSA国内で生産される予定です。[4]

 現在、サウジアラビアは海外の企業や科学者たちと協力して、さらに数種類のUCAVを開発しています。それらの最初の1機である「サクル-1」は、南アフリカの「デネル・ダイナミクス」社によって開発された「バトルゥール」中高度長時間滞空(MALE)型UAVの設計をベースにしたものです。ちなみに、より小型の「スカイガード」が2017年に初めて発表された国産機でした。

 「サムーン」と呼称される7つのハードポイントを持つ大型の双発機のほかに、サウジアラビアは中国と契約を結んで、双発または三発機の「TB001」重UCAVを「アル・イカーブ-1」及び「アル・イカーブ-2」として開発しています。[5] [6]

 これらとは別にウクライナとUAVを共同設計・生産する計画もありましたが、ロシア・ウクライナ戦争のせいでキャンセルされたと思われます。[7]

「アル・イカーブ-1/2(TB001)」

 国産機を開発している間に、サウジアラビアと「中国航空宇宙科学技術公司(CASC)」がKSA国内に生産ラインと地区整備センターを設立して、最終的に今後10年間で約300機もの「CH-4B」を大量生産する可能性についての関する報道が2017年から飛び交っています(現在の統計を前提とした場合、これが実現するとKSAが世界最大のUCAV運用国となるでしょう)。[8]

 なお、このような合意が成立したのか、または計画されたのかすら不明であり、この記事を執筆している2022年9月時点では実現されていないようです。

 すでにKSAにはUCAV飛行隊が存在している上に今後数年間で国産のUCAVが就役する予定であることから、この国が 「バイラクタルTB2」や「アクンジュ」に興味を持つことは驚くべきことだと言う人がいる可能性はあるでしょう。

 もっとも、サウジアラビアがUCAVを複数のサプライヤーから入手する最初の国ではありません。実際、この国が有する3種類のUCAVでさえ3つの異なる中国企業が起源ということに注目するべきでしょう。

 武器の調達先を多様化させる傾向は大半の湾岸諸国の装備品にも反映されていますが、通常は武器禁輸が課された際の供給を確保するためです。そして、無人機の場合は、将来的な導入の検討における性能の比較を行う興味深い機会も提供してくれます。

 サウジアラビアがTB2や「アクンジュ」に関心を持った背景には、前者の素晴らしい実績と後者の斬新な性能が大きく関係していると思われます。中国製UCAVもリビアやイエメンで頻繁に実戦投入されていますが、ヨルダンでは「CH-4B」を導入してから2年も経たないうち全機を売りに出すなど、性能に不十分な点が多くあります。 [9]

 同型機はイラクでも良い結果を残せず、全20機のうち8機は僅か数年の間に墜落し、残りの12機はスペアパーツが不足しているために現在は地上で駐機され続けているようです(注:2022年8月には運用が再開されました)。 [10] [11]  

 サウジアラビアの場合は、過去4年で最低でも12機の「CH-4B」をイエメンで失ったことが視覚的証拠に基づいて確認されています。

サウジアラビアの「CH-4B」UCAV:胴体や翼に国籍を示すラウンデルが表示されていない点に注目

 おそらくは中国製UCAVの稼働率や運用実績が乏しいためか、サウジアラビアはすでに少なくとも2017年からUCAVの調達先としてトルコに目を向けるようになっています。

 当初は「トルコ航空宇宙産業(TAI)」「アンカ」UCAVに関心を寄せていましたが、最終的にKSAは2010年代後半に「ヴェステル(注:軍事部門はその後「レンタテク」に社名を変更)」社と数量不明の「カライェル-SU」について契約を結びました。[13] [4]

 これらはほぼ瞬時にイエメンでの作戦に投入され、現時点で4機が失われたことが視覚的に確認されるまでに至っています。[3]

 「イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ」社による「カライェル-SU」の国内生産はCOVID-19の影響を受けて1年半遅れたものの、2022年半ばに開始される予定です。その生産は「レンタテク」が重要なコンポーネントを供給し、サウジアラビアで組み立てられる方式となっています。[4]
 
サウジアラビアにおける「カライェル-SU "ハブーブ"」:同機は「MAM-C/L」やほかの小型爆弾を搭載可能なハードポイントを4つ備えています

 「カライェル-SU」の国内生産は、「サクル-1」プロジェクトにとって"とどめの一撃"となるかもしれません。

 少なくとも2012年からアメリカに拠点を置く「UAVOS」社と「キング・アブドルアジーズ科学技術都市(KACST)」で共同開発が進められてきた「サクル-1」は数多くの修正がなされ、2020年に公開された最新型の「サクル-1C」までプロジェクトが進んでいます。しかし、これらはどれも実用化されておらず、より小型の「サクル-2」と「サクル-4」も実機の生産までには至っていません。[14]

 最大で48時間という目を見張るような滞空時間を誇りますが、「サクル-1」は兵装搭載用のハードポイントを2つしか備えていないため、UCAVとしての有用性は著しく制限されたものとなります(注:「CH-4B」や「TB2」のハードポイントは4つ)。

 「イントラ」社が現在開発中である「サムーン」が「サクル-1」の代わりにサウジアラビア初の量産型国産UCAV となるのか、あるいは(既存のサウジアラビアの防衛プロジェクトの大部分と同様に)開発サイクルの長期化や内部からの反対、最終的に中止という事態に直面することになるのかは、まだ分かりません。[15]

南アフリカの「バトルゥール」MALE型UAVをベースに開発された「サクル-1」

今後登場する「サムーン(1/2サイズのモデル」:このモックアップの主翼に中国製の「ブルーアロー7」と「TL-2」対地攻撃ミサイルが搭載されていることに注目

 中国の「腾盾」が開発した巨大な「TB001」は、主翼下部に設けられた4つのハードポイントに、さまざまな誘導爆弾や空対地ミサイル(AGM)、対艦ミサイル、巡航ミサイルで武装することが可能です。

 「アル・イカーブ-1」は三基のエンジンを備えた異例の三発機であることが特徴であり、「アル・イカーブ-2」はその双発機型です。

 「TB001」については2019年に契約が発表されたものの、その開発は長引いており、 サウジアラビアが自国の防衛面での需要を満たすために、このプロジェクトを依然として積極的に推進しているかどうかは今でも不明のままとなっています。[5]

腾盾「TB001」

 「TB001(アル・イカーブ-1/2)」と比較すると、「バイラクタル・アクンジュ」は非常に成熟した概念的に先進的な兵器システムであり、これまでの量産型には未だに統合されていない多くの技術も導入されています。特に顕著なものとしては、射程275km以上の巡航ミサイルや射程150km以上の対艦ミサイル、さらには100km離れた目標に向けた空対空ミサイル(AAM)を発射できるなど、UCAVとしては斬新な能力を有することが挙げられます。

 これらの兵装を搭載するため、「アクンジュ」にはハードポイントが主翼に最大で8個と胴体下部に1個、つまり合計で9個のハードポイントが備えられています。後者については、「HGK-84」及び「NEB-84(T)」誘導爆弾や「SOM」シリーズの巡航ミサイルといった、このUCAVに搭載できる最重量級の兵装を搭載することが可能です。

 こうした兵装を搭載可能なことが「アクンジュ」を世界初の量産型マルチロール無人作戦機に変えたほか、 兵装を誘導キットと共にトルコから調達できることも、アメリカがサウジアラビアに爆弾の販売を停止する恐れがある現在では高く評価されると思われます。
 
「バイラクタル・アクンジュ」と各種兵装:同UCAVは画像のような兵装を搭載するために主翼下に9個と胴体下部に1個のハードポイントを備えている

 「アクンジュ」は現時点で有人戦闘機によって実施されている任務の一部を引き継ぐことができます。その一方で、サウジアラビアが「バイラクタルTB2」を導入することも魅力的な選択肢となるかもしれません。小型かつ(非常に)戦闘で実績のあるプラットフォームとして、TB2はすでにサウジアラビアで運用されているUCAVと同様の役割を果たせますが、それらよりも格段に高い生存率と有効性のレベルを有しているからです。

 中国のUCAVは(特にイエメン上空での作戦で)やや墜落する傾向が見られましたが、TB2はこの点で優れた記録を持っており、紛争の行方を著しく変える能力があることは十分に実証されています。

2018年以降にサウジアラビアがイエメン上空で失ったことが視覚的に確認されたUCAV(21)

命中弾を受けて墜落するサウジアラビアの「翼竜I」 UCAV(イエメンのサアダ県上空にて2019年4月19日)

 イエメン上空を飛行する無人機にとっての最大の脅威は、(イエメンの反政府勢力である)フーシ派が少なくとも2019年から投入している(2022年秋まで「358」として知られていた)「サクル」という一種のイラン製地対空ミサイル(SAM)です。

 「サクル」は単段式の固体推進剤を用いたブースターによって高度8.000~12.000mに到達してからマイクロジェット推進に切り替わります。このエンジンのおかげでミサイルは赤外線シーカーとレーザー近接信管で攻撃する前に(標的となる)無人機やヘリコプターに追いつくのに十分な低速でしばらく徘徊が可能となるのです。[16]

 イエメンへの密輸を容易にするためか、「サクル」は多数の部品に分解可能という特徴を有しています。

押収された「サクル(358)」徘徊型地対空ミサイルシステム

 「サクル」はUCAVによる作戦を脅かすことができるフーシ派唯一のSAMではありません。

 TB2と「アクンジュ」は携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の標的にできないほどの高度を飛行しますが、フーシ派は2015年にイエメン空軍から接収したSAMと空対空ミサイル(AAM)のストックを最大限に活用しようと試みてきました。[17]

 ほとんどのSAMシステムと関連するレーダーシステムはサウジアラビア主導の有志連合軍によって破壊されましたが、その後も一定の「2K12 "クーブ"(NATOコード: SA-6 "ゲイフル")」SAMシステムと関連する「1S91」 ミサイル誘導レーダー車はまだ運用されており、過去数年間で数機のUCAVを撃墜することに関与しています。

 また、フーシ派は(ピックアップ)トラックに発射レールを搭載して、イエメンでストックされたままの「R-73E」及び「R-27ET」赤外線誘導式空対空ミサイルを即席のSAMに転用することも試みました。両ミサイルを用いた作戦については、アメリカ製のフリアーシステムズ「ウルトラ8500」 赤外線前方監視システム(FLIR)を組み合わせることで急速な進歩を遂げました。[18]

 しかしながら、地上から発射した場合の射程距離が短くなってしまうため、その有効性は本質的に限定的なものとなっています。

 フーシ派は地対空用の「R-77」アクティブ・レーダー誘導式AAMも展示したこと過去がありますが、これには少なくとも1組の「MiG-29SM」戦闘機のファザトロン製「N019MP」レーダーと関連火器管制システムを改造する必要があったことから、実際には実現不可能だったようです。これは技術的な問題のためか、それとも有志連合軍の爆撃で全ての「MiG-29SM」が「N019MP」レーダーと一緒に破壊されたためなのかは分かっていません。

トラックベースの発射機から発射される「R-27ET」赤外線誘導式AAM 

今ではトラックに搭載された「2K12 (フーシ派側の名称:ファター1) 」SAMシステム:この構成は機動性と有志連合軍機からの秘匿を容易にしている 

 イランの大規模な支援は、フーシ派が巡航ミサイルや弾道ミサイルに加えて多種多様な徘徊兵器を入手するという結果も招きました。これらの徘徊兵器については、イスラム革命防衛隊またはイラン軍で既に使用されているものやレバノン・イエメン・イラク・パレスチナにおける代理勢力で使用するために特別に設計されたもので構成されています。

 こうした無人機の小型さは世界最新鋭の防空システムを用いても探知・撃墜を困難にしています。そのため、サウジアラビアは定期的に「F-15」戦闘機を配備し、徘徊兵器が王国の奥深くに位置する目標へ到達する前にその脅威に対処しなければならないのです。

 それゆえに、アメリカ製の「AIM-9 "サイドワインダー"」や「AIM-120 "アムラーム"」(AAM)で小型の徘徊兵器と戦うためのコストが法外と言われても当然ではないのでしょうか。2021年末にサウジアラビアが枯渇したストックを補充するために280発の「AIM-120」を発注した際、6億5千万ドル(約837億円)、つまり1発あたり230万ドル(約2.9億円)以上も支払わなければいけませんでした。[19]

 「F-15SA」戦闘機の飛行コストは1時間あたり約2万9千ドル(約373万円)を要することから、1万ドル(約128万円)にも満たない価値の徘徊兵器1発を撃墜するために、サウジアラビアは推定250万ドル(約3.2億円)を負担することになってしまうのです(初弾に発射したミサイルが目標を外れた場合は500万ドル=約6.4億円に増えます)。[20]

 これに対し、「バイラクタルTB2」UCAV1台の輸出価格はおよそ500万ドル(約6.4億円)と推定されています。一般的にTB2は迎撃任務とは無縁ですが、近いうちに射程8km以上を誇る「ロケットサン」「スングル」赤外線画像誘導式MANPADSを搭載可能となりますし、1時間あたり飛行コストは僅か925ドル(約12万円)相当となることも注目すべき点でしょう。[21]

 「パトリオット」のような防空システムを使う場合、迎撃コストはさらに悪化してしまいます。2017年には約1,000ドル(約13万円)の小型クアッドコプターの撃墜に成功したことで、王立サウジ防空軍は約300万ドル(約3.8億円)の損失を被ったことがありました。[20]

 「アクンジュ」自体を非常に強固な防空アセットとして使用可能という事実については、トルコ国産の「ボズドアン」赤外線画像誘導式AAMやアクティブレーダー・シーカーを用いて自身を目標に向けて誘導する「ゴクドアン」目視外射程AAM(BVRAAM)などのAAMを搭載できるという能力を活用することで実現されることになります。

 「アクンジュ」のAESAレーダーは、最大で100km圏内にいる低速飛行中の固定翼機や無人機、ヘリコプターを撃墜するために、目標を自律的に見つけ出して交戦することを可能にさせます。

 特にKSAが直面しがちな脅威(徘徊兵器)への対処では「F-15SA」の能力と重複しているため、「アクンジュ」は各段に安価で便利な代替手段として選択されるかもしれません。

イエメンのフーシ派によって展示された「ワーエド(左上)」, 「シハブ(右上)」,「サマド-3(左下)」,「カセフ-2K(右下)」徘徊兵器 

 サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として2030年までに防衛支出額の少なくとも50%を現地調達に充てることを目指しており、防衛企業が兵器類の現地生産ラインを構築するための刺激材料となっています。

 2010年代初頭から数多くの(部分的な)国産UCAVプロジェクトが登場しているにもかかわらず、これらが最終的にサウジアラビア軍が求める要件と重要を満たすという確証については、まだ少しも得られていません。

 中国製ドローンの高い消耗率と、(おそらく)基本的な整備上の問題にさえ悩まされていることから、サウジアラビア当局が最近公表した高い人気と実績を誇る「バイラクタルTB2」と「アクンジュ」の導入へ関心を示したことについては、一部の人が予想したほどあり得ない動きではないのです。

 TB2と「アクンジュ」はサウジアラビアで開発されたものではありませんが、ドローン技術に関する「バイカル・テック」との協力や、おそらく現地での同社製品の生産は、この王国における新興の無人機産業を実質的に有効なレベルまで引き上げるのに役立つであろう貴重な知識をもたらすことになるでしょう。

 「バイカル・テック」との契約は、デポレベルの整備を行うための現地における整備工場の設立につながる可能性もあります。

 このような動きは、無から本格的なドローン産業を素早く作り上げようと試みるよりも、自国の防衛上のニーズを自給自足するための現実的な道筋を整えてくれることになるかもしれません。

 

[1] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[2] Saudi GAMI, Baykar and Bayraktar drones https://www.tacticalreport.com/news/article/59638-saudi-gami-baykar-and-bayraktar-drones
[3] List Of Coalition UAV Losses During The Yemeni Civil War https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/coalition-uav-losses-during-yemeni.html
[4] Saudi Arabia’s Intra Pushes Ahead with Drone Programs https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2022-03-14/saudi-arabias-intra-pushes-ahead-drone-programs
[5] Sino-Saudi heavy unmanned aerial vehicle https://vpk.name/en/487652_sino-saudi-heavy-unmanned-aerial-vehicle.html
[6] https://twitter.com/inter_marium/status/1099657284911841280
[7] It is possible that this joint venture had already effectively ended before the Russian invasion of Ukraine in February 2022.
[8] Saudi Arabia https://drones.rusi.org/countries/saudi-arabia/
[9] Jordan Sells Off Chinese UAVs https://www.uasvision.com/2019/06/06/jordan-sells-off-chinese-uavs/
[10] OPERATION INHERENT RESOLVE LEAD INSPECTOR GENERAL REPORT TO THE UNITED STATES CONGRESS https://media.defense.gov/2021/May/04/2002633829/-1/-1/1/LEAD%20INSPECTOR%20GENERAL%20FOR%20OPERATION%20INHERENT%20RESOLVE.PDF
[11] Iraq’s Air Force Is At A Crossroads https://www.forbes.com/sites/pauliddon/2021/05/11/iraqs-air-force-is-at-a-crossroads
[12] Tracking Worldwide Losses Of Chinese-Made UAVs https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/tracking-worldwide-losses-of-chinese.html
[13] Saudis in talks with TAI to buy six Anka turkish drones https://www.defensenews.com/digital-show-dailies/2017/11/17/saudis-in-talks-with-tai-to-buy-six-anka-turkish-drones/
[14] https://i.postimg.cc/W4My3cMX/18933-2.jpg
[15] Intra’s Samoom: the future Saudi Armed Forces MALE unmanned air system https://www.edrmagazine.eu/intras-samoom-the-future-saudi-armed-forces-male-unmanned-air-system
[16] 358 vs. Scan Eagle – Anti-Drone Action https://militarymatters.online/defense-news/358-vs-scan-eagle-anti-drone-action/
[17] Houthi Drone and Missile Handbook https://www.oryxspioenkop.com/2019/09/houthi-drone-and-missile-handbook.html
[18] https://twitter.com/Mansourtalk/status/950462857052909570
[19] New Saudi Missile Order Reveals The High Cost Of Asymmetric Drone War https://www.forbes.com/sites/davidhambling/2021/11/11/new-missile-order-reveals-true-cost-of-assymnetric-drone-war/?sh=6c90f63116f2
[20] How much cheaper is the F-15EX compared to the F-35? https://www.sandboxx.us/blog/how-much-cheaper-is-the-f-15ex-compared-to-the-f-35/
[21] https://twitter.com/TyrannosurusRex/status/1421416463718563846