2022年6月4日土曜日

類稀なる偉業:リトアニアのジャーナリストが呼びかけたウクライナ用「バイラクタルTB2」調達クラウドファンディングの成功を受けてバイカル社がTB2を寄贈した


著:ヨースト・オリーマンズ と ステイン・ミッツアー (編訳:Tarao Goo

 ロシアによるウクライナへの侵略が始まってから100日が経過しました。

 目的は達成されるどころか投入された軍隊は反撃に遭い、攻め込まれた国は荒廃し、破壊の規模が絶えずエスカレートしていることから、この自称「特別軍事作戦」は決して戦うべきではなかった戦争 – ウクライナのみならず、ロシアどころかヨーロッパ全体の将来をも決する戦争にますます深入りする様相を呈しています。

 ロシア軍は今や自身が戦争の全く新たな局面に入ったことを悟っています。その局面でロシアの目標がはるかに限定的で現実的な性格を帯びてきたので運命を左右するサイコロが振り直されたわけですが、現代的な兵器のストックが枯渇する一方で、ウクライナはNATO諸国から供給されたより高度な兵器を投入し始めています。[1]

 20世紀に戦力を蓄えた最大級の侵略軍=ロシア軍に直面したウクライナの軍人と市民の驚異的な強靱力は称賛に値するものですが、継続的な抵抗のため、ウクライナは資金や軍事面で同盟国による支援にますます依存するようになってきています。

 しかし、民間の分野でもウクライナの窮状に対する支援は相当なものであり、外国人義勇兵や寄付、さらにはクラウドファンディングで得た装備品も提供などが、ウクライナの作戦に多大な影響を与えています。

 このような取り組みに、つい先日にあった現代戦で初となる異例の出来事を追加することができます:クラウドファンディングによって無人戦闘航空機(UCAV)が一国へ寄贈されることになったのです。

 5月25日、リトアニアのジャーナリストであるアンドリウス・タピナス氏が主催したキャンペーンで、トルコ製UCAV:「バイラクタルTB2」を購入できるように500万ユーロ(約7億円)を集めるべくリトアニア国民に支援を募りました。

 驚くべきことに、この目標額は早くも5月30日に到達し、その後も世界中から寄付が寄せられて最終的には590万15207ユーロ(約8.3億円)に達しました。これは目標とする兵器システムを購入するには十分な金額であり、資金にも余裕が生じました。[2] 

 しかし、TB2を製造するトルコの大手ハイテク企業「バイカル・テクノロジー」社との契約の場で、同社はこのUCAVをリトアニアに無償で譲渡することを公表し、同時に集まった資金をウクライナへの人道支援に充てるべきだと提案しました。

 後に、タピナス氏自身は440万ユーロ(約6.2億円)がウクライナへの人道支援・防衛あるいは復興プロジェクトに使われ、残りの150万ユーロ(約2.1億円)はTB2用の兵装に充てられることが決定されたことを公表しました。[3]

リトアニアのTB2と一緒に記念撮影をする同国のビリウス・セメシュカ副国防副相(中央)と「バイカル・テクノロジー」社のハルク・バイラクタルCEO(左)とセルチュク・バイラクタルCTO(右)

 TB2は、同機が実質的に戦場を支配した一連の武力紛争の過程を経て、現在販売されている戦闘システムの中で最も費用対効果の高いシステムの1つとして高い評価を得てきました。[4] 

 ただし、「バイラクタルTB2」はシリア、リビア、ナゴルノ・カラバフの上空で紛争の流れを本質的に変える能力を発揮しましたが、現代の大規模紛争におけるその性能はこれまで実証されておらず、論争の対象となっていました。[5] [6] [7] 

 トルコは今次戦争以前からウクライナの最も強力な支援国の1つであり、ウクライナ空軍と海軍に約18機のTB2システムを納入していたため、大国との大規模戦における同機の評価はすぐに一変しました。[8] [9] 

 TB2の威力と卓越した能力はロシアによる侵攻後も継続して発揮され、同機をウクライナの抵抗の象徴へと至らせました。ここ数週間だけでも、TB2はロシアやベラルーシ領のみならず有名なスネーク島とその付近で果敢な襲撃を何度も行っています。

 戦争の勃発はさらなるUCAVを迅速に納入することを最優先なものとし、トルコは3月に16機以上のTB2と「バイラクタル・ミニ」を送って再び重装備の納入で主導権を握ることになったのです。[10] 

 TB2の実質的なコストは500万ユーロという価格よりもいくらか高くなる可能性がありますが、さらなる納入のための真のボトルネックとなるのはほぼ間違いなく生産量の増強と思われます。

 TB2はUCAV市場で今までで(おそらく)最大の成功を収めており、少なくとも20の国がこのシステムを運用または購入したことが確認されています。[11] 

 これが戦争勃発時における「バイカル」社の迅速な対応の背景にあると思われ、自社の在庫か多くの輸出先から流用されたであろう製品を大量に供給したのでしょう。

 このことは、今後の納入については同型機を運用する国が譲渡する(自国の納入を遅らせる)意思を持っているか、「バイカル社」の非常に速い製造スピードに左右されることも意味しています。

 より多くの「バイラクタルTB2」UCAVがヨーロッパの防衛に多く携わることは確実です。
ちょうど昨年にリトアニアの隣国であるラトビアもTB2に関心を示しており、ポーランドとアルバニアの双方がTB2を調達するための予算を計上し、前者は今年後半に24機のうちの最初の1機を受領する予定となっています。[11] [12] 

 さらに、クラウドファンディングで購入されるTB2の納入を協議するためのトルコへの代表団を率いたリトアニアのビリウス・セメシュカ副国防副相は、(6機のTB2で構成される)システムを導入する可能性も協議されたと述べました。[13] 

 このことは、特に見込まれるラトビアのTB2調達と連動して、この地域におけるロシアの侵略に対するバルト諸国の抑止力が形成されることを意味するかもしれません。
 
 ウクライナにもたらされた被害や現代で最も破滅的な戦争の1つを継続するコストを踏まえると、590万ユーロはバケツの僅か一滴にすぎないかもしれません。しかし、今回の取り組みには、戦いに投入されゆく単なる1機の戦闘システムの以上の価値があることを忘れてはいけないでしょう。

 これは、それ自体が無関心で残酷に見える世界でむき出しの侵略に対して人々が団結し、より良い方向へ変化をもたらす能力がまだあることを示しているのです。どちらかというと、今回の出来事はウクライナが孤立した存在ではないことを再び示していると言えるのではないでしょうか。


[1] Answering The Call: Heavy Weaponry Supplied To Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/answering-call-heavy-weaponry-supplied.html
[2] https://twitter.com/AndriusTapinas/status/1531575225552355328
[3] https://twitter.com/AndriusTapinas/status/1532313492073619457
[4] A Monument Of Victory: The Bayraktar TB2 Kill List https://www.oryxspioenkop.com/2021/12/a-monument-of-victory-bayraktar-tb2.html
[5] The Idlib Turkey Shoot: The Destruction and Capture of Vehicles and Equipment by Turkish and Rebel Forces https://www.oryxspioenkop.com/2020/02/the-idlib-turkey-shoot-destruction-and.html
[6] An Unmanned Interdictor: Bayraktar TB2s Over Libya https://www.oryxspioenkop.com/2021/11/an-unmanned-interdictor-bayraktar-tb2s.html
[7] The Conqueror of Karabakh: The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/the-conqueror-of-karabakh-bayraktar-tb2.html
[8] The Fate Of Nations: Turkish Support To Ukraine’s Plight https://www.oryxspioenkop.com/2022/03/the-fate-of-nations-turkish-support-to.html
[9] Defending Ukraine - Listing Russian Military Equipment Destroyed By Bayraktar TB2s https://www.oryxspioenkop.com/2022/02/defending-ukraine-listing-russian-army.html
[10] New Bayraktar UAVs Spotted In Ukraine https://www.oryxspioenkop.com/2022/04/new-bayraktar-uavs-spotted-in-ukraine.html
[11] An International Export Success: Global Demand For The Bayraktar TB2 Reaches All Time High https://www.oryxspioenkop.com/2021/09/an-international-export-success-global.html
[12] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.html
[13] Lithuania and Turkey sign agreement on Bayraktar drones purchase https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1708436/lithuania-and-turkey-sign-agreement-on-bayraktar-drones-purchase

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所 
 があります。



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