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2022年6月25日土曜日

バルト諸国のバイラクタル:リトアニアが「バイラクタルTB2」の購入検討へ


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 リトアニア共和国は、ウクライナ軍向けのトルコ製無人戦闘航空機(UCAV)「バイラクタルTB2」の調達資金を集めるクラウドファンディングを成功させて世間の注目を浴びました。たった3日半の間に、人口僅か280万人のリトアニアを中心に国内外から約600万ユーロ(約8.5億円)の寄付が集まったのです。
 
 リトアニアのビリウス・セメシュカ副国防副相は、6月に(最終的に「バイカル・テクノロジー」社が無償供与を決めた)このTB2の納入に関連して同社を訪問した際に、リトアニア空軍向けのTB2 6機の購入についても協議したことを明らかにしました。[1]
 
 リトアニア空軍は最新の輸送機やヘリコプターを多数保有しているものの、武装可能な航空機については現時点で保有していません。その代わりとして、NATO諸国によるバルト三国の領空警備は、リトアニア・ラトビア・エストニアの各国上空とその近辺における即応警戒態勢(QRA)能力を提供します。しかし、これらの機体は純粋に防衛的な用途で運用されているため、バルト諸国が戦時下における航空支援を実施するためには新たな作戦機の配備を当てにしなければなりません。

 TB2のような比較的安価な武装ドローンを導入することは、リトアニア自身の打撃力を著しく向上させ、大砲の射程をはるかに超えた目標に直撃させることが可能となります。
 
 ラトビアの国防大臣が2021年5月に「バイカル」社からTB2を調達する意向を表明して以降、リトアニアが「バイラクタルTB2」に関心を示した2番目のバルト諸国です。[2]
 しかし、トルコ製UCAVのラトビアへの導入については、外国企業と締結した主要な防衛プロジェクトに地元の下請け業者を参加させよという同国からの要求によって遅れているようです。ラトビアよりもこれと言った防衛産業が少ないリトアニアでは、仮に同様の要求があったとしても同国空軍による導入に悪影響を及ぼしたり、遅れたりすることはないでしょう。 
 
 バルト諸国は互いに緊密に協力しながら軍事力を拡大することを切望しており、コストを削減しながら、情報共有と統合運用の強化によって能力を拡大できる可能性があるため、各国によるTB2システムの共同調達は決して考えられない選択肢ではありません。
 
 また、十分な数のTB2を導入することでバルト諸国は最小限の人員でNATOのミッションに参加し、索敵や空爆を行うことも可能になります。十分な数のTB2を調達することは、もしかするとラトビアに現地の整備施設を設立させることも可能と思われるため、価値ある投機と言えるでしょう。

現時点でリトアニアは小型のアメリカ製「スキャンイーグル(画像)」と「RQ-11 "レイヴン"」UAVシリーズを運用しています

 射程15km以上の「MAM-L/C」誘導爆弾や射程9kmの「ボゾク」空対地ミサイルを最大で4発搭載して敵の目標を攻撃できることに加えて、TB2を(車両などの目標に対して75km以上を誇る)EO/IRセンサーの検知距離能力や信号情報によって敵陣地や部隊の集結地点を検出することに用いさせることができます。

 これらの目標の打撃には、TB2自身ではなく大砲や重迫撃砲を用いることが可能です。現在、リトアニア軍は2015年からドイツから調達した中古の「PzH2000」自走榴弾砲(SPG)18台を保有しています。スペアパーツの供給源として(注:共食い整備の部品取り用として)さらに3台の同SPGが購入されました。
 
 「PzH2000」は機動性と長射程(35km、ロケットアシスト弾では67km)、そして目標に効果的な打撃を与えるための速い発射速度を兼ね備えています。同SPGにはMRSI(同時弾着射撃)を用いて敵と交戦する能力も有しています。これは最大で5発の砲弾を同時に着弾させる軌道を描かせるために自動装填装置が自動的に装薬を選択するものであり、その後に「PzH2000」が敵からの対砲兵射撃を避けるための迅速な移動を可能にさせます。

 

 これ以外にリトアニアで運用されている砲兵装備には、6km以上先の場所に砲弾を投射可能な「M113」装甲兵員輸送やベースのドイツ製「パンツァーメーザー」120mm自走迫撃砲(SPM)43台と(ほとんど予備兵器として保管していますが)射程が11kmと不足気味な第二次世界大戦時代の「M101」105mm榴弾砲54門があります。
 
 さらに2022年6月、リトアニアのアルビーダス・アヌシャウスカス国防大臣は、フランスから「カエサル」6x6型155mmSPG18台の購入を発表しました。[3] [4]
 
 偵察用ドローンとこうした砲兵システムの統合は、目標に対する効果を最大化させます。したがって、UCAVはすでにリトアニア軍が運用していたり、将来的に導入予定の兵器システムの戦力倍増装置としての機能も有しています。
 
リトアニア軍の「パンツァーメーザー」120mm自走迫撃砲。これらの射撃統制及び指揮通信システムは2015年にイスラエルの「エルビット」社によってアップグレードを受けました。[8]

リトアニアの 「M101」105mm榴弾砲は射程距離不足ですが、その弱点は予備役部隊が使用できる数(54門)で部分的に補完しています。

 2021年5月になると、バルト諸国が多連装ロケット砲(MRL)システムの共同調達によって、火力支援能力をさらに拡充させる計画を協議していることが明らかとなりました。しかし、この後にロシアがウクライナ周辺に兵力を増強、最終的に同国へ侵攻したことを受けて、リトアニアは計画していたMRLの調達を前倒しさせました。[6][7]
 
 現在、中古のアメリカ製「M270」MLRSがその最も有力な候補として考えられているようですが、おそらくより費用対効果が高く、TB2とうまく協調して任務を遂行できる適切な選択肢:最大で70kmの射程を有する「TRLG-230」もあります。
 
 このMRLは(通常のロケット弾に誘導キットを装着した)レーザー誘導式ロケット弾の発射も可能であり、TB2が指示した目標に命中させることができる利点があります。「TRLG-230」誘導ロケット弾の発射機はモジュール式なので、ロケット弾ポッドや発射管を交換するだけで122mmや300mmロケット弾の発射も可能です。
 
最大射程70kmを誇る「TRLG-230」誘導ロケット弾発射システム

 エストニアやラトビアとは異なり、リトアニアはノルウェー製の「NASAMS-3」という形で中距離地対空ミサイル(SAM)戦力を保有しています。エストニアは自国軍用に同システムを導入する構えであり、ラトビアも地上型防空システムについて同様の要求を掲げています。[8] 

 2020年に計2セットがリトアニアに納入されました。発射される「AIM-120C」ミサイルの射程は25km以上であるため、高空を飛ぶ目標との交戦が可能です。将来的に、これらのミサイルはより射程が短い赤外線誘導式の「AIM-9X」や、射程距離が約50kmまで延長されたレーダー誘導式の「AMRAAM-ER」で補完されるかもしれません。

 ロシア・ウクライナ戦争は、ロシア空軍が防空能力が充実化された空域での作戦を避ける傾向があることを示しました。そのため、戦域上空を飛ぶロシア機への抑止力として「NASAMS-3」を用いることで戦時におけるTB2の生存率を高めることができると思われます。

リトアニア軍の「NASAMS-3」自走発射機

 バルト諸国における軍事支出は西ヨーロッパの動向に注目が集中するおかげで頻繁に見過ごされがちですが、これらの国々は最近のロシアとNATO間の高まる緊張の中の最前線に位置し、見込まれるロシアからの侵略軍と最初に対峙することになることを忘れてはいけません。
 
 それに応じ、各国は平時における抑止力としても機能できる現実的な戦闘能力の構築に向けて、大きく前進し続けてきました。リトアニアの場合、それを実現するものとして膨大な数の戦闘装甲車両や最新の砲兵システム、そして高度な防空システムの導入が含まれています。
 
 そして、このリストに「バイラクタルTB2」が遠くないうちに追加されるかもしれません。これはリトアニアに全く新しい能力をもたらす兵器システムであることから、同国(そして残りのバルト諸国)の抑止力をよりいっそう確固たるものにするでしょう。


[1] Lithuania and Turkey sign agreement on Bayraktar drones purchase https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1708436/lithuania-and-turkey-sign-agreement-on-bayraktar-drones-purchase
[2] Business In The Baltics: Latvia Expresses Interest In The Bayraktar TB2 https://www.oryxspioenkop.com/2021/06/business-in-baltics-latvia-expresses.html
[8] Baltic Air Defence: Addressing a Critical Military Capability Gap https://icds.ee/en/baltic-air-defence-addressing-a-critical-military-capability-gap/