2025年7月26日土曜日

シュート&スクート: アルメニアの軽量型多連装ロケット砲


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 この記事は、2021年7月30日に本ブログのオリジナル(本国版)である「Oryx-Blog(英語)」で公開された記事を翻訳したものです。 意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。

 2020年ナゴルノ・カラバフ戦争において、アルメニア軍の砲兵部隊とロケット砲部隊ほど深刻な損失を被った兵科はなかったでしょう。彼らをカバーするはずだった防空網がドローンを無力化できなかったため、見渡しの良い陣地にある榴弾砲と多連装ロケット発射砲(MRL)が上空を飛行する「バイラクタルTB2」に完全に無防備な状態となり、(視覚的に確認できるものだけでも)152門の大砲と71基のMRLが破壊されてしまったからです。[1]

 アルメニア軍が放棄した後にアゼルバイジャン軍によって鹵獲された105門の大砲を加えると、アルメニアはこの戦争で砲兵戦力の大部分を喪失し、MRLに至っては保有数の約2/3に相当する損失を被りました。 [1]

 アルメニアの深刻な不足状態にあるMRLのストックについて、ロシアが代替品の供給を通じて部分的に補充した可能性はありますが、今後の紛争では2020年の戦争で発生した事態が繰り返されることは確実であり、とどまるところを知らないドローン戦の影響を少なくとも部分的に抑制させるためには、全く新しい戦術が必要不可欠です。

 このような戦術の転換を示す最初の兆候は、2021年6月下旬にアルメニアの道路で確認された新型MRLです。[2]

 トヨタ「ハイラックス」に搭載された8連装の122mm MRLから構成されるこの新型MRLシステムは、火力を犠牲とする代わりに機動性と小型化を重視したものであり、武装無人機に対する脆弱性を低減させる可能性があるでしょう。

 このようなMRL自体は特に目新しいものではありません。というのも、小型かつ機動性のある状態で遠方の目標を打撃する能力を持つMRLを自軍に装備させるために、他国も同様のシステムを採用しているからです。しかし、アルメニアがこのようなシステムへ関心を示したのは、大型MRLの弱点を実際に目撃した後だったようです。アルメニアのMRLの大半は、前線後方にある陣地から射撃任務中に標的とされました。これらの陣地は砲撃などに対しては十分な防護力を発揮しましたが、武装無人機に対しては完全に無防備でした。アルメニアの兵士が一部の「BM-21」を木の枝や葉で擬装し始めたものの、いざ隠れ家から出て射撃を開始すると目立ってしまい、最終的には逆に攻撃されてしまったのです。

アルメニア軍の「BM-21」:画像は「バイラクタルTB2」の「MAM-L」誘導爆弾が命中する直前の様子。

右側の茂みから出てきた擬装を施されたアルメニアの「BM-21」:木や茂みの下に退避していても、こうしたMRLが搭載する大型エンジンの熱放射は、上空を飛行する「バイラクタルTB2」に自身の位置を探知される可能性を大幅に上げた。

 2020年ナゴルノ・カラバフ戦争では「BM-21」が陣地に固定配置されていたのに対し、新型MRLはロケット弾を発射後、速やかに新たな射撃位置や再装填位置、あるいは上空を飛ぶドローンの探知から逃れるためのガレージや小さな建物に設けられた隠れ家に移動することができます。

 見通しの良い場所で発見された場合でも、そのコンパクトなサイズと熱放射量の少なさのおかげで、(特に発射装置を隠蔽する措置を講じれば)即座の探知を回避できる可能性があります。トヨタ「ハイラックス」の速度、優れたオフロード性能、コンパクトなサイズは、このような戦術に最適な存在と言えるでしょう。

 このような策は、敵がアルメニアの砲兵とMRLを無力化しようとする試みを著しく困難なものにさせるでしょう。各MRLが敵に発射できるロケット弾の数は「BM-21」に比べてはるかに少ないものの、トヨタ「ハイラックス」をベースにした新型MRLは無人機戦でもたらされる猛攻撃から生き残る個体が多いと見込めるため、より長く戦闘を継続できる可能性があります。こうした新戦術が、目標に対して大きな効果を発揮する可能性はあるものの、空中の脅威に対して極めて脆弱で非対称戦では間違いなく効果を失うだろう高コストな大規模な砲兵戦術の重要性を低下させるかもしれません。

 新型MRLと同様のシステムの評判の高さについては、リビア、シリア、イエメン、スーダンなどで大規模に使用されていることで既に証明されています。アルメニアに同種のシステムが登場したことは、この国が現時点で保有する限られた軍備を最大限活用しようとする過去の取り組みを考慮すれば予測可能だったかもしれません。

 しかしながら、この新型が実際に配備されるかどうかは依然として不明です。多くの他の有望な国産装備と同様に、新型MRLも資金不足に直面して試作段階で頓挫する可能性も否定できません。それでも、アルメニアが置かれた状況を考慮すれば、こうした兵器の生産は合理的な選択と言えます。こうした状況を踏まえると、MRLの探知と無力化という面での優位性を維持させるために、アゼルバイジャンが無人機技術への投資を拡大せざるを得なくなるという懸念が出てきますが、長い目で注視していく必要があることは言うまでもありません。

ArmHighTech-2022で展示された「SMLRS」

 編訳者による追記:2022年にエレバンで開催された武器展示会「ArmHighTech-2022」では、この新型MRLが「SMRLS(小型多連装ロケット砲)」という名で展示されました。掲示物には、「BM-21」で使用するロケット弾を使用するもので、自動射撃管制システムや車体安定システム、無線システムを搭載しているとの説明がありました。この展示会は2022年以降開催されておらず、その他を調べても「SMRLS」が試作段階なのか軍に採用されたのかは不明のままとなっています。

[1] The Fight For Nagorno-Karabakh: Documenting Losses On The Sides Of Armenia And Azerbaijan https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/the-fight-for-nagorno-karabakh.html
[2] https://twitter.com/Caucasuswar/status/1408446699358543874
[3] https://missilery.info/gallery/variant-boevoy-mashiny-rszo-dlya-rs-kalibra-122-mm-armeniyaRecommended Articles:

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