ラベル SDF の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル SDF の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年3月20日水曜日

デス・フロム・アバヴ: 「コノコ地区の戦い」で失われた装備(一覧)


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 この記事は、2023年6月13日に「Oryx」本国版(英語)で公開された記事を日本語にしたものです。

 "ハシャムの戦い"としても知られる「コノコ地区の戦い」は、アメリカ軍と(名目上は傭兵の)ロシア軍が一対一で戦った極めて稀な出来事だったと言えるでしょう。

 この戦いは、機甲・砲兵戦力に支援された約500人のシリア軍兵士とロシアのPMC「ワグネル」戦闘員が、デリゾール市近郊のコノコ・ガス田にあるシリア民主軍(SDF)とアメリカ軍特殊部隊の合同基地を攻撃したことで幕を開けました。

 ワグネル率いる部隊が進撃を進める中で、アメリカ軍は空爆と地上戦で反撃しました。アメリカ軍は交戦中にデリゾール駐在のロシア軍連絡将校と常に連絡を取り合っており、正規のロシア軍部隊が存在しないとの確証を得た後に初めて射撃を開始したと報じられています。[1]

 戦闘は3時間以上続き、結果的に約10人のワグネル戦闘員を含む最大100人のシリア政府系部隊の死者を出した一方で、アメリカ軍とSDFに損害は生じませんでした。

 2023年5月、ワグネル代表のエフゲニー・プリゴジン(故人)は、この戦闘で何が起こったかについて自身の見解を詳細に述べましたが、 これが「冷戦以降にロシアとアメリカの国民の間で発生した最初の死傷者を出した武力衝突」に関する興味深い洞察を示したことは間違いありません。[2]

  1. この一覧は、写真や映像によって証明可能な撃破または鹵獲された兵器類だけを掲載しています。したがって、実際に喪失した兵器類は、ここに記録されている数よりも多いことは間違いないでしょう。
  2. 各兵器類の名称に続く数字をクリックすると、破壊や鹵獲された当該兵器類の画像を見ることができます。

ワグネル / シリア軍 (11, このうち撃破: 11)

戦車 (3, このうち撃破: 3)

装甲戦闘車両 (2, このうち撃破: 2)

ガン・トラック(1, このうち撃破: 1)
  • 1 ウラル-4320(「AZP S-60」57mm対空機関砲搭載型): (1, 撃破)

牽引砲 (1, このうち撃破: 1)

車両 (4, このうち撃破: 4)


アメリカ合衆国 / シリア民主軍 (損失なし)

[1] Имена и фамилии погибших бойцов "ЧВК Вагнера" https://www.svoboda.org/a/29038004.html
[2] https://twitter.com/RonnieAdkins_/status/1668290978237808640



おすすめの記事


2021年7月9日金曜日

死に物狂いの怪物:YPGのシュトルム・パンツァー


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 おおよそ1918年頃から世界の大部分で歴史の片隅に追いやられていますが、YPGはいわゆる「シュトルム・パンツァー(突撃戦車)」:第二次世界大戦に登場した同名の戦車(注:ドイツ軍の「ブルムベア」)を思い起こさせる装甲強化型歩兵支援プラットフォームの積極的な運用者であり続けています。巨大で奇怪な見た目をしたこれらの車両は、シリア北部にあるYPGの支配地域から彼らを何度も追い払おうとしたイスラム国や自由シリア軍に対するYPGの抵抗を象徴し始めています。

 YPGの隊列にこのようなDIYの怪物たちが存在していることはよく知られていますが、運用されているシュトルム・パンツァーの種類を要約する試みはほとんど行われていません(結果として、この記事の完成が大幅に遅れてしまいました)。

 シリア内戦に関与した他の主要と比較すると、シリア民主軍(SDF)を構成する主要な勢力であるYPG(Yekîneyên Parastina Gel: 人民防衛隊)は装甲戦闘車両(AFV)をほとんど運用していません。結果として生じた戦力のギャップを補うために、YPGは(通常はクローラーローダー、ブルドーザーや大型トラックなどをベースにした)DIY装甲車の生産を積極的に始めました。

 最初のDIY装甲車は無限軌道の車体に箱状の構造物を搭載したもの –ほぼ移動式のトーチカのようなもの– で構成されていましたが、そのうちYPGはその設計にいくつかの進歩的な要素を取り入れていきました。最終的に完成した車両は数え切れないほど多くの点でその有効性が制限されていますが、実際には一定の状況で役立つことがあります。

 YPGの機甲戦に関する情報が明らかに著しく不足している結果として、シュトルム・パンツァーの戦闘効率についてはほとんど知られていません。前線から離れた位置にあるYPGの拠点で撮影されたプロパガンダ映像や写真には頻繁に登場しますが、作戦下でシュトルム・パンツァーが動いている映像はほとんど存在しないようです。2013年から2017年にかけてSDFに戦争をしかけたイスラム国(IS)でさえ、2015年にハサカ県でYPGの部隊が敗走した際に、損傷を受けて放棄された1台しか捕獲できなかったのです。


控えめな始まり

 初期のシュトルム・パンツァーは装輪式の車体をベースにしていることが多く、ダンプトラックがその理想的なベースであることが証明されています。
装輪式の車体は装軌式のものと比較すると未舗装地での機動性が低下することに関係があるかもしれませんが、装軌式ローダーは決してスピードを考慮して設計されていません。新たに追加された装甲版と相まった結果、装軌式大型モデルのいくつかは固い地表での走行のみに限定されているのが妥当なものと思われます。この状態は彼らの運用能力を深刻な制約にかけているため、オフロード性能の維持という面では装輪式のプラットフォームに優位性を与えています。

 下の画像は典型的に改造されたダンプトラックです。この車両には(敵の心に恐怖を植え付けるということを主張したい場合を別として)迷彩効果が皆無に近い、周りから目立つ豪華な塗装が施されています。無蓋式荷台には砂や建設廃材の代わりに、歩兵のシェルターとなり、両側に各3つある銃眼から彼らの小火器を射撃することができる装甲構造物が設置されています。また、荷台と同様に完全に金属板で覆われているキャビンの上部には、「DShK」12.7mm重機関銃(HMG)付きの装甲キューポラが設置されています。


 機動式バンカーのコンセプトは最初の装軌式シュトルム・パンツァーでも引き継がれました。明らかに第一次世界大戦のフランス戦線に展開したドイツの「A7V」重戦車を意図せずにオマージュしたこの車両は、前方に射撃可能な「KPV」14.5mm重機関銃に加えて、乗員が持つ小火器を外部に射撃できるようにした10個(!)もの銃眼を装備していました(下の画像)。

 これらの装備は車両にほぼ全方位射撃を可能にさせていますが、ここから射撃される小火器は、すでにシュトルム・パンツァーへのRPGの有効射撃圏内まで挑んできた敵に対してのみ有効です。軽装甲では小火器からの射撃や砲弾の破片しか防げないことから、RPGが命中した場合はほぼ確実に内部に壊滅的な損傷をもたらして乗員を殺傷してしまうため、結果としてシュトルム・パンツァーが沈黙してしまうことは避けられないでしょう。


 おそらくはまさにこの理由で、後に登場したシュトルムパンツァーはほとんどの場合はその前部に2基の砲塔を装備しており、より広い射撃範囲を実現させています。

 下の画像の車両はそのような設計思想をうまく実例で示しており、向かって左側の砲塔には「KPV」14.5mm重機関銃、その反対側の砲塔には12.7mm重機関銃を装備しているように見えます。さらに、(向かって左側の)砲塔の上部には、乗員が身を隠したまま別の武器を射撃できるようにするための防楯が装備されています。


 まるで過ぎ去った時代のような戦闘に入ると、3台のシュトルム・パンツァーが敵に接近するために前方へ「突撃」します(下の画像)。カメラに最も近い車両は上の画像と同じ個体のようであり、これはこれらの車両がプロパガンダ映像に頻繁に登場するにもかかわらず、こういった「モンスター」の生産は実際には極めて限られていたことを暗示しています。


 YPGの装甲車列は、後方に駐車している大型のシュトルム・パンツァーの尋常でない巨大さをはっきりと目立たせています(下の画像)。
隣に駐車されている汎用装甲車「MT-LB」のほぼ2倍の高さもあるシュトルム・パンツァーは、「MT-LB」や他の種類のAFVの能力を広げることはほとんどありません(注:シュトルム・パンツァーの存在がほかのAFVの助けになるようなことが無いということ)。

 必要に迫られて誕生したとはいえ、ほとんどのシュトルム・パンツァーの運用歴は驚くほど長く、YPG/SDFが耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)といったより適切な代替装備を容易に入手できるようになった後も長く運用され続けています。


 2015年にテル・タミル近郊でISに捕獲されたシュトルム・パンツァー(下の画像)。驚くべきことに、これがこの種の車両の唯一の損失記録です。そうはいっても、シュトルム・パンツァーの低損失率はそれらが少数しか生産されていないことと、主に十分な歩兵からの支援を受けることができる掃討作戦で活用するという控え目な展開にとどめられていたことからも説明することができます。
 
 世間一般に信じられていることとは逆に、シュトルム・パンツァーはISやFSAとの激しい戦闘で重装甲の突破車両として使用されたことは一度もありませんでした。


 上の捕獲された車両は、その設計の固有の弱点:機動性の低さも目立たせています。
おそらく速度は10km/hをはるかに下回り、ほとんどが舗装された道路での移動に限られるため、敵の集中砲火を受けているシュトルム・パンツァーが(とりわけ危険な場所から抜け出して後方へ横切る必要がある場合は)成功裏に退却するのは困難を極めます。このような状況下では車両を完全に放棄することが最良の選択肢となる可能性があり、大きな後部ドアと側面の脱出用ハッチがそのための十分な機会をもたらします。


 一部のシュトルム・パンツァーは重装甲工兵車(AEV)として使用するために排土板を維持し続けており、瓦礫やその他の障害物を取り除いて友軍部隊が前進を続けられるようにしました。ちなみに、排土板は敵と正面で対峙した際の追加装甲としても機能します。

 下の車両は非武装でしたが(ただし、両側面に2つの銃眼を装備しています)、別の車両では発生し得る敵敗残兵から攻撃を払いのけるために機銃を装備した砲塔が搭載されていました。


 これらのAEV型シュトルム・パンツァーの1台は、2017年8月にラッカでISのクアッドコプター・ドローンから投下された簡易爆弾の直撃によって、装甲化された上部構造に詳細不明の損傷を受けました。面白いことに、この映像をリリースしたISのメディア部門はこの車両をBMP(歩兵戦闘車)と誤認しています(注:下の画像の字幕に注目してください)。


 大型の設計に加えてYPGはいくつかの小型モデルを組み立て、いくつかの設計を経た後で、最終的には最も高性能なシュトルム・パンツァーが作り上げられました(下の画像)。

 この高性能型はシリーズの最初の型とはほとんど関連性がなく、状況把握能力を向上させるためのカメラ・システムを搭載していますが、双連の機銃が正面に固定して装備されています。これは、標的に照準を合わせるために自らの車体そのものを動かさなければならないことを意味しており、結果的におそらくは命中精度がひどく不正確で扱いにくいものになっていると思われます(注:スウェーデンのStrv.103「Sタンク」と似たようなものと考えると理解しやすいかもしれません)。

 この車両に関するもう一つの興味深い特徴は、車体の左側に4発の無誘導ロケット弾発射管を備えた固定式発射機が取り付けられていることです。



 YPGのために、このコンセプトは短時間でより有用なデザインへと進化しました。このモデルは砲塔に「54式」12.7mmHMG(どこにでもあるソ連製「DShK」の中国版)を搭載し、合計で7つの銃眼を装備しています。弱点としては、車両のサイズが小さく、乗員がエンジンに近いところに配置されることから、シリアの高温で乾燥しがちな気候での運用は悪夢のような状態となる可能性があります。
 また、車体の右後方にある小さなドアにも注意してください。このドアは乗員が車内に出入りするための2つの出入り口のうちの1つです。



 (Soendilと名付けられた)この第2バージョンは明らかに上の車両と同じデザインを軸に組み立てられていますが、(機関銃手の防御力が低下する一方で状況認識能力が大きく向上する)オープントップ式の砲塔やその他の僅かな違いがあります(下の画像)。

 この車両は2016年にSDFがシリア北部をイスラム国の影響下から解放し始めた際に市街戦で監視任務と制圧射撃を実施した、戦闘中に目撃された数少ないシュトルム・パンツァーの1台でもあります。



 さらに同じデザインの別バージョンでは、北朝鮮の「323」APCを連装させる大型の砲塔を特徴としています(下の画像)。YPGによって製造された初期のDIY AFVでも見た目が同じような砲塔がすでに見られていたため、これに関する実際の原点は風変わりなものではありません。

 この新たな砲塔では搭載武装が1丁の機関銃ではなく2丁に増強されており、運用上の要件や持ち合わせの武器に応じて武装を入れ替えることができます。(下の)2枚目の画像では砲塔の武装が「KPV」14.5mmHMGと「PK」7.62mm汎用機関銃で構成されていますが、3枚目の画像の車両には2門のKPVが搭載されています。




 究極のシュトルム・パンツァーのデザインは、最も本格的なAFVに近いものになっています。「BMP-1」の砲塔と車体前面のボールマウント式銃架に「W85」12.7mmHMGを装備しており、ある程度の状況認識能力を維持しつつ十分な装甲と重武装の両方を備えています。

 また、車体全周には成形炸薬弾頭が直撃した際の効果を低減させるためにスラット・アーマーが追加されており、小火器や砲弾の破片以上のものからの防御を試みています。しかし、この追加装甲と車体との間隔の狭さは実際にその効果が発揮される可能性が低いことを示しています(注:スラット・アーマーが車体とほぼ密着しているため、成形炸薬弾頭の威力の低減に全く意味をなさないということです)。

 以前のモデルを上回る優れた火力と機動性は、このシュトルム・パンツァーが実際に火力支援車両としての価値がある可能性を意味しており、長年にわたる段階的な設計改善の恩恵がはっきりと示されています。

 アメリカから供与されたMRAPというより優れた代替手段がすぐに利用できるようになっても、完全に死に物狂いの中で生み出されたYPGのシュトルム・パンツァーは、終わりなきシリア内戦の信じられないほど過酷な状況で当初考えられたよりもはるかに長く運用されています。

 MRAPを使えるもかかわらずシュトルム・パンツァーを運用し続ける頑固さの理由は彼らのプロパガンダ的価値やYPGの技術陣の作業を維持しておく必要があるということにすぎませんが、信頼できるデータが無いため、私(著者)はYPGのシュトルム・パンツァーを健在させ続けているのは、彼らの純粋な反発の精神にあると信じることにします。

 ※  この記事は、2021年6月7日に本国版「Oryx」に投稿された記事を翻訳したもので
   す。当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があり
   ます。