2021年5月2日日曜日

タルフーナでの大災難: GNAへの完敗でハフタル将軍が別の拠点を失った


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ with MENA_ConflictCOIN_TR(編訳:Tarao Goo)

 2020年6月5日、リビアの国際的承認を受けた政府(GNA)に忠実な部隊がタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14カ月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。

 トリポリの中心部から南西に約60キロ離れた場所にあるタルフーナはリビア北西部でハフタル将軍が持つ最後の拠点であり、巨大な補給基地としての役割を持っていたため、LNAにとっては最も重要な拠点でもありました。

 タルフーナがGNAに攻略された直後に、LNAによる何年にもわたる占領がこの都市の住民にとってどのような意味を持っていたのかかが明らかとなりました。この都市は2015年4月から民兵(キャニヤット)の支配下にあり、2019年4月にハリーファ・ハフタル率いるLNAに忠誠を誓った彼らは地元住民に恐怖政治を敷いていたのです。

 2015年にキャニヤット民兵が初めて同市を奪取して以来、現地住民からは合計338人の行方不明事件が報告されており、その圧倒的大多数が2019年4月から2020年6月の期間に発生しました。[1] [2]これらの人々の大半の運命は、タルフーナとその周辺で約30の集団墓地が発見された後に解明されたのです(そのいくつかには女性や子供の遺体も含まれていました)。[1]
 悲惨なことに、今でも新しい集団墓地が発見され続けています。[3]

 タルフーナ周辺で発見された多数の集団墓地に最も注目が向けられたことは当然ですが、これはLNAの武器や装備が大規模な損失が大いに見過ごされたことを意味しています(注:集団墓地がクローズアップされた結果、遺棄された武器に注目が集まらなかったこと)。

 もちろん、リビア内戦では広範囲にわたる武器の捕獲が見られましたが、タルフーナが特に興味を引かせるのは、過去数年間に外国の支援者(ロシア、UAE、ヨルダン、フランス、エジプト)によってLNAに供給された非常に多くの種類の武器や装備が再び明らかになったためです。それらの中には、(この記事の後半で証明されるとおり)以前にはLNAに供給されていたことが知られていなかった種類の装備も含まれていました。



 以下に記した数字は捕獲された武器・弾薬に関する控え目な推定値です(実際の数字はもっと高いと考えられます)。
 少なくとも映像や画像に映し出された木箱のうちの454個については、その中身を確認することはできませんでした。資料として使用できる映像に記録されている量が少ないため、このリストに小火器は含まれていません。
 同様に、航空機やヘリコプターを含む遺棄された車両も含まれていません。


弾薬:

- 249 小火器用弾薬箱
- 139 重機関銃用弾薬箱
- 211 PG-9/15・OG-9/15 ammunition (BMP-1・SPG-9用)
- 2 RPG-32ロケット弾 (ナッシュシャブRPG用)
- 5 82mm砲弾
- 1 84mm砲弾 (カール・グスタフ無反動砲用)
- 3 106mm砲弾
- 32 100mm砲弾 (T-55戦車用)
- 8 07mm砲弾(63式放射砲用)
- 122 120mm砲弾
- 48 122mm砲弾 (D-30榴弾砲用)
- 177 122mmロケット弾(BM-21放射砲用)
- 18 152mm砲弾
- 35 詳細不明のロケット推進剤
- 6 MON-50 対人地雷
- 16 MON-100 対人地雷
- 18 OZM-72 対人地雷
- 12 TM-62 対戦車地雷
- 4 Type-72SP 対戦車地雷
- 4 TM-83 対戦車地雷
- 10 9M133「コルネット」対戦車ミサイル(ATGM)
- 3 FN-6 携帯式地対空ミサイル(MANPADS)


重装備:

- 3 ZPU-2 14.5mm対空機関砲
- 6 ZU-23 23mm対空機関砲
- 5 82-BM-37 82mm迫撃砲
- 2 M40 106mm無反動砲
- 2 D-30 122mm榴弾砲
- 1 北朝鮮製の122mm野砲
- 6 M-46 130mm野砲


車両:

- 56 T-55A戦車
- 3 T-55E戦車
- 17 T-62戦車(1972年型)
- 1 T-62M戦車
- 2 T-62MV戦車

- 1 T-72「ウラル」戦車
- 2 T-72M1戦車
- 2 EE-9「カスカベル」装甲車
- 23 BMP-1歩兵戦闘車

- 3 TOPAS(OT-62) 装甲兵員輸送車
- 2 Ratel 歩兵戦闘車
- 1 2S1「グヴォズジーカ」122mm自走榴弾砲
- 3 2S3「アカーツィア」152mm自走榴弾砲
- 9 パルマリア155mm 自走榴弾砲
- 1 M109 155mm自走榴弾砲
- 1 63式 107mm多連装ロケット砲
- 4 BM-21 122mm多連装ロケット砲
- 2 北朝鮮製の122mm多連装ロケット砲(UAEによって122mmロケット弾を使用できるように改修)
- 1 ニムル歩兵機動車(IMV)
- 5 KADDB アル・ワフェイシュ(Al-Wahsh)IMV
- 3 MSPV パンテーラT6 IMV
- 1 MSPV パンテーラF9 IMV
- 4 ストレイト・グループ/KrAZ クーガーIMV
- 3 ストレイト・グループ/KrAZ スパルタンIMV
- 2 (武装・装甲化された)フロントローダー
- 88 テクニカル(約75%が破壊されているか修復不可な状態の損傷を受けた状態).
- 3 HMMWV
- 1 イヴェコ トラッカー380
- 2 カマズ製トラック
- 6 トラック


ヘリコプター:

- 1 Mi-35
- 1 A109E
- 3 AW139

 捕獲された小火器用の弾薬箱の中身を合計すると、目でカウントできる数をはるかに超過してしまいますが、体積で計算すると7.62x39mm弾が約16万4千発、7.62x54mm弾が約10万9千発に相当します(ただし、その両方が混在している可能性もあります)。


 捕獲された弾薬の大半は捕獲者によってすぐに持ち去られてしまいました。テクニカルの荷台は文字通り弾薬箱であふれていますが、おそらく最も心配なことは、ケースから出された迫撃砲弾と各種砲弾がむき出しで積まれていることでしょう。


 隠されていたMON-50、MON-100、OZM-72対人地雷やTM-62、TM-83対戦車地雷がタルフーナのあらゆる場所で発見されました。これらの全てが、ワグネルが使用するためにロシアによって持ち込まれたものと考えられており、まだLNAが支配していた頃のトリポリ周辺にワグネルが設置したことですぐに悪名高いものとなりました。

 戦略的な主要道路やロシア兵がいる基地の周囲をカバーするように地雷を埋めることは軍事的観点からすると道理にかなう行為ですが、ワグネルはトリポリ周辺から撤退する直前に、その郊外の至る所に大量の地雷を仕掛けることに行き着きました。

 これらの地雷の設置は、意図的にGNAの動きを鈍らせ、地雷の除去に多大なリソースを転用させることを余儀なくさせるための目的があったようですが、これとは別に明らかにより悪質な目的を持っていた地雷もありました。その中には間違いなくそれを掴んだ子どもを殺害することを狙ったテディベア型のIEDも含まれていたのです(注:地雷というよりブービー・トラップである)。


 約175発のBM-21多連装ロケット砲(MRL)用の122mmロケット弾が保管庫で発見されました。ロケット弾を木箱に入れて安全に収納しておくのではなく、全てのロケット弾が山積みにして棄てられていました:基本的な安全対策すら無視されていることは明らかです。


 今回GNAの手に渡った重装備:T-62MとT-62MVは、それぞれがリビアで初めて捕獲された型の戦車となります。

 T-62MとT-62MVは過去1年にロシアからLNAに引き渡されたものであり、リビア内戦が始まる以前には双方ともにリビア軍の兵器庫には存在していませんでした。ロシアによってリビアに持ち込まれた武器や装備の大部分はワグネルの使用を意図したものでしたが、T-62はLNAに即座に供給されました。

 下の画像ではGNA兵士がかなり風変わりな見た目の銃を手にしていますが、これもLNAから鹵獲した中国製のDHI-UAV-D-1000JHV2という対ドローン用銃です。[4]


 リビアに戦車を持ち込んだ国はロシアだけではないことは、エジプトが供給したT-55Eが証明しています(下の画像)。

 リビアはかつてアフリカで2番目に大きな戦車部隊を編成していましたが、2011年にはスペアパーツもない状態となって大部分の戦車が運用不能な状態となってしまいました。このことは、2000両以上の戦車を国内各地のデポに保管している国が最終的には他国からの供給に頼らなければならないという、かなり奇妙な状況をもたらしました。

 少なくとも3台のT-55Eがタルフーナ周辺で捕獲されましたが、そのいくらか前には4台目のT-55E(ドイツのAEG製赤外線ライト付き)もトリポリの郊外で捕獲されています。[5]


 リビアが1970年代から980年代の間に受け取った大量の戦車も捕獲されました。捕獲された戦車群の大部分はT-55とT-62で構成されていたものの、少なくとも3台のより現代的なT-72も含まれていました。

 これらの多くが捕獲された時点で稼働状態にあったとは考えにくく、一部はすでにリビア西部で運用されている別のLNAの戦車を維持するためのスペアパーツの供給源として活用されていたのかもしれません。


 タルフーナのすぐ南にあるAFVの保管・修理施設でさらに多くの戦車や他の種類のAFVと出くわしました。 

 この施設は1990年代以降に車両の廃棄場という地味な役割に格下げされていましたが、2019年にLNAがこの基地を引き継いだ後、彼らは自軍のAFV群の稼働状態を維持するために現存する施設を喜んで有効活用したようです。


 (真下の画像に写っている2台のチェコスロバキア製OT-62 TOPASを含む)ここで捕獲されたAFVの大半はしばらくの間は運用状態にはなかったと思われますが、捕獲者が運転して持ち去ったT-55Aについては極めてまれな例外だったようです。


 2台のブラジル製EE-9「カスカベル」装甲車も捕獲されました。

 これらは1970年代後半にEE-11「ウルツ」装甲兵員輸送車と一緒にリビアへ引き渡されたものであり、2000年代初頭のどこかで退役する前にはチャドとリビア間の紛争で活躍する姿が見られました。

 2011年以降、リビアを支配するべく戦う複数の勢力がいくつかのEE-9をなんとか復活させており、これらは(共食い整備用の)他の車両から得られたスペアパーツの供給がある限り、確実に運用され続けるでしょう。

 23台ものBMP-1も捕獲されましたが、その時点で稼働状態にあったのはその中のごく少数であり、ほとんどのBMP-1は再稼働させるためにオーバーホールやスペアパーツを必要としていたようです。

 スペアパーツの供給源として使用できそうな数を考慮すると、これらのBMPの一部を再稼働させることはGNAの能力の範囲内にあるはずです。

 捕獲された2台の南アフリカ製ラーテルAPC(1台はラーテル60で、もう1台はラーテル20のようです)は、2011年の革命の際にリビアの反政府勢力に引き渡されたものの一部と思われます。どちらも酷使された痕跡がありますが、注目すべきはパンクしたタイヤを問題としていないように見えることです。

 ラーテル60は砲塔に直撃弾を受けたようですが、その後も依然として支援用途で運用されていたかもしれません。


 GNAは6門のM-46 130mm野砲と2門のD-30 122mm榴弾砲を含む9門の牽引砲にも遭遇しています。これらは全てが正常に使用できる状態にあったようで、すぐに鹵獲者に回収されてしまいました。


 (少なくとも私たちにとっては)もっとも興味深い発見:1門の放棄された北朝鮮製の122mm野砲は明らかに相当前から使用できる状態ではありませんでした。この珍しい大砲は、かつての北朝鮮とリビアの親密な関係を思い出させてくれます。より詳しい情報は私たちの本「北朝鮮の軍隊」をご覧ください。


 1台のアメリカ製M109 155mm自走榴弾砲も発見されました。この自走榴弾砲がリビアに引き渡されたのはカダフィ政権が誕生する以前のことですが、同時期に引き渡されたされたM113 APCと違って、カダフィ大佐の軍隊はM109をほとんど使用しませんでした。

 この自走砲が再び使用される姿が見られたのは2011年の革命後になってからであり、2016年10月に「(GNAの前身である)リビアの夜明け運動」がシルテでイスラム国と戦った際に使用されたケースも含まれています(注:前述のとおり、革命前の使用例は確認されていません)。

 リビアにおけるこれらの深遠な自走砲の運用歴については、こちらをご覧ください


 リビアでM109とほぼ同じくらい珍しいのがソ連の2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲で、1980年代前半に約50台がリビアに届きました。

 これらの全てが2011年の革命勃発前には保管状態にありましたが、おそらく、この小さな自走砲群の稼働状態を維持するためのスペアパーツが不足していたためだと思われます。それにもかかわらず、タルフーナでは少なくとも3台の稼働状態にあると思われる2S3がGNAに捕獲されました。


 リビアで最も多くある自走砲:イタリアのパルマリア 155mm自走榴弾砲がここでも登場したのは当然のことでしょう。この自走砲は9台がGNAに捕獲されました。

 2011年以後のリビアではパルマリアはその大多数が直射照準射撃で使用されており、特に知られているものでは、2016年に「リビアの夜明け運動」がシルテに籠城したイスラム国の戦闘員に対して使用した例があります。

 
 捕獲されたBM-21「グラード」多連装ロケット砲(MRL)がタルフーナの通りで並んでいます。トヨタのピックアップ・トラックに搭載された中国製の63式 107mm MRLも見えますが、吹き飛ばされたタイヤがLNAによる待避を妨げたようです。


 タルフーナで出くわした戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くのMRLに遭遇しました。これに搭載されているロケット弾ポッドは、トルコのロケットサン社がUAEに納入して強大なジョバリアMRLに搭載されたものと同じタイプです。

 UAEへの北朝鮮の武器納入に関する予備知識が無い限りは、このTELに使用されているトラックと発射台の仕組みはいっそう謎に包まれたものになるでしょう。砲台の機構については、1989年にUAEが入手した北朝鮮製240mmMRLに使用されていたものと容易に判別することができます。[7]

 このトラックも特筆すべきものであり、(ACP90とも呼ばれる)イタリアのイヴェコ260/330.3の装甲を強化した派生型です。

 240mmMRLはUAEで必要とする以上の装備だったため、この発射機はある時点で122mmロケット弾を発射できるように改修されたようです。このMRLは後にLNAで使用するためにリビアに送られましたが、タルフーナでいくつかのロケットポッドと一緒に2台の自走発射機が失われました。UAEで運用されている北朝鮮製武器に関する詳しい情報は私たちのこの記事で読むことができます


 もちろん、リビアでの戦いに関する記事については、少なくとも1台のパーンツィリ-S1がバイラクタルTB2の手で破壊されていることに言及しなければ完全なものとは言えません。
 この「ストローラー(注:おそらく以前に運用していたUAEのオペレーターによって名付けられたニックネームと思われる)」は、5月20日に巨大な倉庫で隠れているときに狙われました。[8]

 (パーンツィリが)そこに存在していることを示唆する機密情報をGNAが受け取ったのか、あるいはTB2によって以前に倉庫に入っていく姿がキャッチされて、その後に標的にされたのかは不明です。興味深いことに、LNAは著しく損傷したパーンツィリ-S1をそこから待避させようとしませんでした。甚大な損傷を受けたものの、この「ストローラー」は後にGNAによって回収されました。


 いくつかの歩兵機動車(IMV)もGNAの手に落ちており、その全てがここ数年でUAEがLNAに供給したものです。

 画像の上から順に紹介すると、ストレイト・グループ/KrAZ スパルタン、ストレイト・グループ/KrAZ クーガー、MSPV パンテーラT6、MSPV パンテーラT9となっています。
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 NAはこの種の装甲車のいくつかをDIY装甲を追加する改造を手がけており、大抵の場合は小火器による攻撃から守るためにホイールの周囲に追加装甲が施されています。しかし、タルフーナやその周辺で捕獲されたものに関しては、そのような改修を施されていませんでした。
 

 (少なくともリビアで)より目立つタイプの車両はLNAに大量のIMVが引き渡される前から存在しています。捕獲された3台のHMMMVは、2012年に米国が新生リビア軍に納入した約200台のパッケージに含まれていたものです。[9]

 2014年以降、各勢力は自己が保有する限られた数の運用可能なHMMMVを最大限に活用することを試み、中にはEE-9装甲車から取り外した90mm砲でアップグレードしたことさえありました。[10]


 タルフーナの周辺では、(実際にはもっと多いと思われますが)最低でも9台のトラックが放棄されたか破壊された状態で発見されており、その中にはロシアがLNAに引き渡した1台のカマズ 6x6 トラックが含まれています。

 また、2台のフロントローダー(1台は装甲板付き)も捕獲されました。2枚目の写真では、カマズ製トラックのすぐ後ろに損傷したヨルダンのKADDB アル・ワフェイシュIMVがいることにも注意してください。


 GNA軍がタルフーナに向かう途中でアブー・アイシャとその地方空港に到達した際には、彼らはかつてこの場所で行われていた全く知られていない航空活動の名残だけでなく、この地域から撤退する直前のLNAによって(間違いなくGNAによる捕獲を防ぐために)燃やされた数十台の車両にも遭遇しました。

 しかし、焼け焦げた残骸をよく調べてみると、ほとんどのテクニカルは燃やされる以前からすでに(大きな)損傷があったことが明らかとなりました。このことから、この格納庫は戦場で損傷した車両の保管場所として使われていた可能性があります。


 多くの人に知られていませんが、アブー・アイシャ空港(通称ファム・モルガ)は、かつてリビア・イタリア先進技術会社(LIATEC)という前途有望な航空産業の舞台でした。
 LIATECはリビア国内におけるA109とAW139ヘリコプターの生産組み立てラインとメンテナンスセンターを立ち上げるためにイタリアとリビアの合弁事業で設立された会社です。[11]

 この施設は2010年4月にオープンしたものの、2011年の革命前にごく少数のヘリコプターがここで組み立てられただけであり、革命に続く国内の不安定化が国産航空産業の有望な原動力となるはずだったこの事業に終止符を打ちました。


 LNAは格納庫にあった車両をGNAに捕獲されることを防ぐために燃やしたようですが、その隣にある別の格納庫にあったMi-24V/Mi-35攻撃ヘリコプターは完全に無傷の状態で残されていました。

 この約2週間前にワティーヤ空軍基地で無傷で捕獲されたMi-24Vと同様に、この機体も技術的問題がLNAの支配下にある空軍基地への飛行を妨げたようです。

 
 この時点でGNA部隊はMi-35をトリポリかミスラタの空軍基地に移動させ、そこで機体を修理して(装備がひどく枯渇している)GNA空軍に運用を押しつけるか、あるいはこのヘリコプターを車の後ろに繋いでドライブするか、という「困難な」選択に直面しました。結果として、GNAの戦闘員たちは喜んで2番目の選択肢を選んだようです。

 彼らの運転技術はその常識の欠落と見合うレベルだったため、ヘリコプターを木に衝突させるまでに長い時間はかかりませんでした(この衝突で右側のスタブ・ウイングの一部が脱落してしまいました)。

 損傷したヘリコプターは後にトリポリのミティガ空軍基地に移送されましたが、その途中でまた衝突事故に遭いました...この時の相手は橋でした


 かつてアブー・アイシャで行われていた作業のホコリにまみれた痕跡:2011年の革命が勃発した時点では、ここには完成した2機のAW139(1機はリビア空軍機でもう1機はリビア内務省所属機)と組み立て中だった1機のAW139がありました。しかし、革命後はLIATECのけるこれ以上の作業は全てストップしてしまいました。

 また、(LIATECで組み立てられたもう一つの機種である)A109Eも1機が空港の敷地内で廃棄された状態で発見されました。

 ヘリコプター以外でこの空港に残存する保有機リストを占めていたのは10機の航空機(うち7機が農薬散布機)でした。


 2020年6月6日には、GNA軍はバニワリドの支配権も得ました。これは、LNAが放棄したこの街を無血でGNA側に移行させることに長老評議会が合意したためです。

 この地方空港はリビア西部のLNA部隊に物資や装備を輸送するために使われていましたが、バイラクタルTB2がリビアの戦場に投入されたおかげでワティーヤ空軍基地での飛行作戦がほぼ不可能になった後は、ここの重要性が必然的に高まりました。[12] [13]

 IL-76のような大型輸送機の運用に適応させるため、バニワリドの滑走路は2020年初頭から半ばにかけて3000メートルに延長されました。LNAにとっては不幸なことに、滑走路が完成してからわずか1ヶ月後にリビア西部からの撤退を余儀なくされたたため、滑走路を少しも活用できなかったようです。

 滑走路が完成した直後にリビア西部からの撤退が突然始まったため、ワグネルにとって滑走路の延長作業の完了は絶好のタイミングでした。ほとんどの傭兵はセブハや中央リビアのアル・ジュフラに向けて延々と車列を組んで退却していきましたが、ほかの傭兵は重装備とともにバニワリドに押し寄せてリビア西部から飛行機で脱出していったからです。

 この中には、UAEがワグネルに提供した数台のパーンツィリ-S1とその支援車両も含まれていました。[14]


 バニワリドには11機のチェコスロバキア製 L-410多目的機も残されていました(注:これらは1983年に二機渡された19機の一部です)。[15]

 スペアパーツが尽きてバニワリドに放棄される前には、これらの機体は軽輸送機や高等訓練機として使用されていました。

 砂漠の環境のような乾燥した気候での駐機は機体を腐食から保護することに役立ちましたが、2003年にリビアへの武器禁輸措置が解除された後も、この飛行隊を復活させる試みは何も行われませんでした。


 約80台の戦車を含む125台のAFVと多数の航空機やヘリコプターがGNAに捕獲されたことで、タルフーナ攻略の重要性は「LNAの重要な戦略拠点が失われたこと」よりも「大規模な武器の捕獲」にあったと誤解されやすいかもしれません。

 現実には、捕獲された装備の大半は、それらを単なる射撃訓練の標的に追いやっている新しい戦闘方法「バイラクタル外交」が開拓されている紛争でさらに役立つために修理やスペアパーツを必要としています。

 GNAのLNA支配地域への前身を阻止するために初めて守勢に入ることを余儀なくされたこともあり、リビア全土の統治するというハフタル将軍の狙いがこれまで以上に遠のいたように見えます。

 実際、紛争の次の犠牲者は別のパーンツィリ-S1や戦略的拠点の喪失ではなく、ハリーファ・ハフタル自身である可能性もあります。

 何十億ドルもの資金、最先端の兵器システム、人材をリビアに投入してきたLNAの国外支援者たちは、ついにその投資に対する真の成果を見せることを彼らに要求するかもしれません。

    この記事の作成に協力した Monitoring 氏に感謝を申し上げます。

[1] New mass graves in Libya’s Tarhuna demand accountability https://reliefweb.int/report/libya/new-mass-graves-libya-s-tarhuna-demand-accountability
[2] Libya: Militia Terrorized Town, Leaving Mass Graves https://www.hrw.org/news/2021/01/07/libya-militia-terrorized-town-leaving-mass-graves
[3] 4 bodies exhumed from new mass grave in Libya’s Tarhuna https://www.aa.com.tr/en/middle-east/4-bodies-exhumed-from-new-mass-grave-in-libya-s-tarhuna/2104277
[4] https://www.dahuasecurity.com/asset/upload/uploads/soft/20181122/DHI-UAV-D-1000JHV2-datasheet.pdf
[5] https://twitter.com/egyptdefreview/status/1265754498879893506
[7] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[8] https://twitter.com/Acemal71/status/1268978594996531201
[9] Libyan army has taken delivery of 200 HMMWV Humvees from United States 3007131 https://www.armyrecognition.com/july_2013_news_defence_security_industry_military/libyan_army_has_taken_delivery_of_200_hmmwv_humvees_from_united_states_3007131.html
[10] https://i.postimg.cc/QMfftBhv/D3j-Wl-YIXs-AAWINX.jpg
[11] Finmeccanica and AgustaWestland JV in Libya; EUR 80 million Contract Signed for Ten A109 Power Helicopters http://www.defense-aerospace.com/article-view/release/65905/libya-buys-10-agusta-109s,-forms-jvc-(jan-18).html
[12] https://twitter.com/markito0171/status/1119659732141264896
[13] https://twitter.com/TvFebruary/status/1146855987145584641
[14] https://twitter.com/aldin_ww/status/1265755271579734016
[15] Libyan Air Wars Part 2 1985-1986 https://www.helion.co.uk/military-history-books/libyan-air-wars-part-2-1985-1986.php


※  この記事は、2021年3月15日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳した 
  ものです。意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所がありま
    す。



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2021年4月28日水曜日

珍しい晴れ舞台:カタールが「AK-12」アサルトライフルを披露した

著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 自国の防衛力や近年に入手した軍事装備を誇示することについて、湾岸諸国のほとんどは一般的には控えめです。UAEとサウジアラビアが北朝鮮や中国から弾道ミサイルを入手したことが高度な機密で取り囲まれているのは十分に予想されましたが、湾岸地域ではこの機密レベルが大砲や小火器といった通常兵器にも頻繁に適用されています。

 カタールの場合、その状況は少し異なります。 毎年恒例の独立記念日に実施される軍事パレードではほとんどの武器が公開されていますが、演習やほかの行事などでは驚くほど僅かな装備しか公開されていないからです。

 同様に、カタールがロシアの「AK-12」アサルトライフルを入手したこともほとんど報じられていないままであり、今までのところは軍事パレード以外でその存在を示す画像などは存在しないようです。

 その見つけにくさは別として、「AK-12」の導入はこれまでにほぼ西側諸国から供給された武器だけに依存してきた湾岸諸国に届くロシア製の武器の流れが増加している証しとなります。カタールは2017年に連続生産に入ったばかりの新型アサルトライフルについて最初に確認された輸出先です。

 カタールがロシア製の兵器に関心を持っていることが初めて明らかになったのは、お互いの代表がドーハとモスクワで会談した際にロシアとの軍事技術協力に関する一連の協定に署名した2016年と2017年のことです。[1] [2] [3]

 これらの協定が厳密に何を含んでいたのかは(当時は)まだ不明でしたが、カタールでロシアの武器が初めて視認されたのはそれからすでに1年後の2018年12月のことです。それは、同年の独立記念日のパレードで数百もの「AK-12」がドーハ・コーニッシュ(海沿いの遊歩道)を行進するカタールの兵士たちの手にある光景を目撃された時でした。

 その数ヶ月前の2018年7月に、ロシア特使はカタールとロシアが小火器と対戦車ミサイル(ATGM)の取引を契約したという報道を追認しており、その取引には大量の「AK-12」や「9M133 "コルネット"」ATGM、そして「9K338 "イグラ-S"(SA-16)」携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)さえも含まれていました。[4]

 ドーハが関心を示したもう1つのロシアの兵器は「S-400」地対空ミサイル(SAM)ですが、実際にカタールが入手する可能性は(トルコのように)米国による制裁を受ける恐れがあるために極めて低いと思われます。[4]


新たな友好関係の構築

 カタールは伝統的にフランスや(その後には)アメリカから武器や装備を購入する顧客でしたが、2017年から2021年まで続いた外交危機でその調達先の多様化に取り組み、今ではロシアも彼らへの武器供給源に含まれています。

 これはシリア内戦の間にドーハとモスクワの関係を著しく緊張させていた2010年代初頭からの顕著な変化でした。この点では、カタールがロシアとの関係を強化していることが武器の入手という事実で明白に見受けられます。

 現在、カタールとロシアはシリア紛争の政治的解決を実現するための共同した試みで連携して取り組んでいますが、これは外交的に競争の激しいこの地球の片隅で国際関係がいかに迅速に変化するかを示しています。


慣れ親しんだ姿と斬新な特徴

 5.45×39mm口径の「AK-12」は、(旧イズマッシュ社として知られている)「カラシニコフ・コンツェルン」が設計・製造した極めて人気の高いアサルトライフルシリーズの最新モデルです。

 この新型アサルトライフルは「AK-47」の登場から約70年後に生産を開始されており、初代AKの設計思想と形状はこの新型でも容易に尊重されていることがわかります。それにもかかわらず、(置き換えられる対象の)AK-74Mと比較するとAK-12はほぼ全ての面で改良されています。中でも注目すべきものとして、AK-12は命中精度を向上させるフリーフローティングバレル(注:銃身とハンドガードが接触していないので銃身に負荷がかからない)、ピカティニー・レールを備えたモジュラーデザインや過去のAKシリーズに比べて改善された人間工学を踏まえたデザインを備えていることが挙げられます。

 多くの欠陥に悩まされていた「AK-12」の試作型を未だに知っている人もいるかもしれませんが、それは(最終的に現行のAK-12となった)よりベーシックな設計の「AK-400」が選ばれたことで放棄されました。ビデオゲームで試作型がほぼ独占的に登場したこともあり、銃器に詳しくない多くのオブザーバーにとって「AK-12」という呼称は未だにこの初期モデルを指していますし、これからもそのままでしょう。

 カタールに加えてアルメニアも「AK-12」の潜在的な顧客と推測されており、国内に生産ラインを設置する可能性すらあると見込まれています。[5]

 その一方で、現時点でアルメニアはライセンス生産された「AK-103」を軍に装備させている過程にあるため、「AK-12」の大規模な導入と国内生産は実現しそうにないようです。


 実際にカタールが購入した数は不明ですが、「AK-12」がカタール軍全体で制式化されないことはほぼ確実です。これは2018年にイタリアと「ARX160」と「ARX200」アサルトライフルを国内で生産することの協定を結んだことと同様に、カタールが主要な制式化された小銃を持たずに各部隊がFN製「FNC」、「M4」や「M16」を使用しているという事実に関係があります。[6]

 「ARX160」は湾岸地域で大きな成功を収めており、隣国のバーレーンでは主力の小銃として採用されています。

 「ARX-160」や「AK-12」に加えて、さらに数種類の現代的なアサルトライフルも(特殊部隊を中心に)カタール軍に配備されてることを見落としてはならないでしょう。


 パレードの映像だけを見ると、「AK-12」の大部分がカタール特殊作戦コマンド(Q-SOC)に配備されたように見えますが、おそらくカタール王室警護隊にも同様に配備されているかもしれません。このアサルトライフルは特殊部隊のみに限定して使用される可能性があり、その場合は水中や砂や埃の多い環境での頑強性と信頼性が特に重視されるはずです。

   
 ロシアから「AK-12」を購入したことは注目に値しますが、それは必ずしもカタールが持つ(武器の顧客としての)忠誠心の大規模な変化の始まりを意味するものではありません(注:武器供給国を西側からロシアに移行を意味しないということ)。

 それどころか、カタールは今後も武器調達の多様化を継続していくと思われます。これは他の供給国からのさらなる武器購入がある可能性を意味しており、その結果としてNATO諸国製の武器とロシアや中国から購入した武器が一緒に運用されることになる可能性があります。

 カタールは(特にバルザン・ホールディングスを通じて)自国の防衛産業の拡大を目指しており、「ARX160」や「ARX200」と同様に、こうした兵器の少なくとも一部は国内で製造されるか(部品を輸入して)組み立てられることになるはずです。

 この国にとって、このような武器調達に関する方策は自国の軍事力を高めるだけでなく、国家の独立性を高める手段としても魅力的なものになるでしょう – そして、「AK-12」が多様化した武器調達の最後の一例にはならないことも確実です。


[1] Qatar, Russia sign military cooperation deal https://www.aa.com.tr/en/middle-east/qatar-russia-sign-military-cooperation-deal/642129
[2] Qatar looking for defence cooperation with Russia https://www.qatar-tribune.com/news-details/id/82421
[3] Qatar, Russia sign agreements on air defense, supplies https://www.reuters.com/article/us-russia-qatar-military-idUSKBN1CV11E
[4] Russia and Qatar discuss S-400 missile systems deal TASS https://www.reuters.com/article/us-russia-qatar-arms-idUSKBN1KB0F0
[5] Armenia will be the first country to purchase AK-12 assault rifles https://arminfo.info/full_news.php?id=54485&lang=3
[6] Qatar to receive first locally produced ARX rifles in 2019 https://defence-blog.com/news/army/qatar-to-receive-first-locally-produced-arx-rifles-in-2019.html
 
※  当記事は、2021年4月13日に本国版「Oryx」に投稿されたものを翻訳した記事です。
   当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があ
  ります。