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2023年10月21日土曜日

カダフィ大佐の遺産:死後から1年も残存し続けた大規模な砲兵戦力


著:シュタイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo

 2011年末の第一次リビア内戦の終結以降、親カダフィ派組織的による組織的な反乱の噂が絶えません。しかし、2012年から2014年に発生した数々の攻撃や自動車爆弾によるテロを除くと、組織化された抵抗運動が実際に起きることはありませんでした。

 その代わり、カダフィ大佐の次男であるセイフ・アルイスラム・カダフィは政治的手段によって(かつて父親が手にしていた)権力を奪回することを目指しており、2021年11月に同年12月に実施されるリビア大統領選挙の候補者として届け出ようとしたものの、拒否されてしまいました。ところが、この決定は1か月足らずで覆され、彼は2023年のある時点で実施される予定の選挙で大統領候補として復活することになったのです。[1][2]

 2012年8月にトリポリで起きた一連の自動車爆弾によるテロ攻撃がなければ、この状況は変わっていたかもしれません。この爆弾テロに関する捜査によって、当局はトリポリ近郊のタルフーナにある軍備保管施設を掌握している民兵組織にたどり着きました。[3]

 2011年の革命以降に彼らがこの施設を管理していることは、政府の樹立と反政府武装勢力の武装解除に追われていた当局には気づかれていなかったようです。

 この「カティーバ・アル・アウフィヤ(信者旅団)」と呼ばれる民兵組織は、反カダフィ勢力を装いながらずっとカダフィ体制への復帰を画策することに成功していました。実際、この民兵組織は内部で「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」と呼ばれていたのです ![3]

 この旅団が管理していた軍備保管施設は単なる倉庫ではなく、数百もの野砲や自走砲(SPG)、多連装ロケット砲(MRL)、さらには「スカッド」弾道ミサイル発射機でさえも保管されているという、この種の施設としてはアフリカ最大級のものでした。  

 自動車爆弾テロや2012年6月に起きたトリポリ国際空港の一時的な占拠さえなければ、この施設における「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」の活動は、クーデターを引き起こすのに必要な戦力を構築するのに十分過ぎるほどの間にわたって気付かれなかった可能性があります。なぜならば、この施設にアルジェリア・エジプト・モロッコに次ぐアフリカで4番目に規模の大きな砲兵装備が保管されていたからです!

 同施設にあったロケット砲の多くは(1990年代に外国企業が退去した後の)少なくとも20年間はほとんど整備されずに保管されていたものの、保管庫と布製カバーがその大部分を良好な状態で維持することを可能にしたようです。2011年のNATOが主導するリビア介入時に有志連合軍の航空機が同施設に属する46の保管庫のうち40を攻撃し、保管されていた大砲の一部が損傷を受けました。

 それでも「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」は既に多くの火砲を使用可能な状態に修復したほか、共食い整備用として他のシステムから予備部品を調達し、さらに多くの火砲を修理している段階までいっていたようです。

複合施設で遭遇した「スカッド」ミサイル発射機の1つ。車体のエンブレムは「砲とミサイルに指示を」と書かれており、1999年の革命30周年記念閲兵式のために特別に施されたものである。

 「タルフーナ複合施設」は、もともと1970年代後半か1980年代前半に軍用装備の保管・修理・整備施設として建設されたものです。

 1970年代、カダフィ大佐はリビアを「イスラムの兵器庫」にするために大規模な兵器の買い占めに乗り出しました。この野心的な取り組みの一環として、彼は自国の軍隊が必要とする量をはるかに超える量の軍備を調達したわけです。

 入手した兵器システムの多くはリビアに到着後すぐに保管庫に入れられ、一部は後に中東・南米・アフリカの友好国(もちろん北朝鮮にも)に寄贈されましたが、残りは最初に到着した保管庫から外に出ることはありませんでした。実際、2011年に反政府軍がソクナの巨大な戦車保管施設を制圧した際、部隊に支給すらされていない無数の「T-55」戦車・「MTU-55」架橋戦車・「BMP-1」歩兵戦闘車(IFV)・「BTR-60PB」装甲兵員輸送車(APC)に遭遇しています

 こうした兵器は1970年代にアメリカやイスラエルとの世界的な戦争に参加するために購入されたものの、その来るべき出番がやってくることはありませんでした。その代わりとして、カダフィ大佐による42年にわたる統治を終わらせようとする反政府軍に動員されてしまったのです。

 この複合施設に保管されているSPGやMRLの多くが最後に運転されたのは、1999年にトリポリで行われた革命30周年記念の閲兵式に参加した時でした。「アフリカ合衆国」の発足を目指す取り組みを強化するため、カダフィ大佐はリビアが壊滅的な打撃がもたらされた10年にわたる制裁の後でも依然として侮れない国であることを世界に示すべく、リビア軍が導入したほぼ全種類の兵器を紹介する壮大な閲兵式を組織しました。[3]

 ただし、これらの大部分はこの時点でも長期保管の状態にあったことから、閲兵式のためにわざわざ再稼働させる必要があったことは言うまでもないでしょう。

 自身の民衆に感銘を与えようとするカダフィ大佐の試みは、リビア空軍に引退した「Tu-22」爆撃機を再稼働させて閲兵式の会場上空を飛行するよう命じるまでに至りました。10年以上も飛行していなかったこともあって飛行中の機体は激しく振動しましたが、その酷さはトリポリのミティガ空軍基地に着陸後のパイロットは地面にキスをして本拠地であるジュフラ基地への再飛行を拒否するほどだったようです。その後、この「Tu-22」はミティガに放棄されてしまいました。[5]

 閲兵式に参加した火砲やMRLはタルフーナへ送り返されて即座に再び保管状態に入り、リビアの軍隊を実際よりも強く見せるという役目を終えました。

2011年の有志連合軍によって破壊される前のタルフーナ軍備保管複合施設:この施設は2016年から2017年にかけて撤去された

 「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は複合施設にある一部の火砲を複合施設への入り口をカバーする固定式バンカーに変えようと試みたにもかかわらず、彼らの守りは最終的に敗れ、その場にいた民兵の殺害や逮捕に至りました。[3]

 「タルフーナ複合施設」から強制的に退去させられた後の旅団は事実上消滅し、こうしてジャマーヒリーヤの時代に回帰するという彼らの夢に終止符が打たれたのです。

複合施設の正面入り口をガードしていた「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲と「ZU-23」を搭載したトヨタ製テクニカル
複合施設を防備していた「殉教者ムアンマル・カダフィ旅団」に用いられていたテクニカルと北朝鮮の「BM-11」120mm MRL
46棟の保管庫のうちの1棟で見つかった「パルマリア」155mm自走榴弾砲:保管庫の屋根が有志連合軍の空爆で崩落している点に注意
すでに保管庫の外へ移動されていた十数台以上の「パルマリア」:リビアで最も新しい(装軌式)自走砲として、これらのほぼ全てが「リビアの夜明け(後のGNA)」によってリビア国民軍(LNA)やイスラム国の戦いで再び使用されることになる


「2S1 "グヴォズジーカ"」122mm自走榴弾砲」:「2S1」は「パルマリア」と共に2011年のカダフィ政権軍で広く使用されていた唯一の自走砲だった

放置された4台の「2S3 "アカーツィヤ "」152mm自走砲:1990年代に大部分が退役した「2S3」は現在のリビアでも稀な存在となっている

「2S1」及び「2S3」中隊で用いられる「MT-LBu」指揮車両


チェコスロバキアの「SpGH "ダナ"」152mm自走榴弾砲 :これらは全てが1990年代に退役していた。理由は不明だが、リビアで最も高性能な自走砲であるにもかかわらず、どの勢力もDANAを運用可能な状態に戻そうとはしていない



チェコスロバキア製「RM-70」MRL:「DANA」と同様に1990年までにはほぼ全てが退役していた

 現役へ復帰させる試みはなされていませんが、「RM-70」のうち少なくとも1台はタルフーナでAPCに改造され、もう1台は即席のSAM/ロケット砲として使用されました。

この「RM-70」のドアに施されたインシグニアには「勝利か死か」の文字が書かれている

「RM-70」は40発分の発射管を装備しており、さらに40発の122mmロケット弾を再装填用として搭載することができた。

北朝鮮の「BM-11」MRL:リビアの「BM-11」のほとんどはポリサリオ戦線やスーダンなどの他国軍へ寄贈されたものの、リビアでも数台が運用され続けている。

2台の「BM-11」の隣には中国製「63式」100mm MRL(ありふれた「63式」107mm MRLと混同しないように注意)が停まっている(画像の左):興味深いことに、中央の「BM-11」は給水車に改造されている

牽引される「M-46」野砲の背後には、中国製の「63式」130mm MRLが破壊された保管庫の外に投棄されている:「63式」はリビアで非常に不評であり、使用された機会は極めて限られたものだったが、「ムアンマル・カダフィ殉教者旅団」は、そのうちの数基を修復しようと試みた


見渡す限り「M-46」130mm野砲が並んでいる:この射程距離は「D-30」122mm榴弾砲より圧倒的に凌駕していたものの(27km対15km)、リビア軍は1990年代を通して「M-46」と北朝鮮の152mm野砲の両方を保管していた


数台の「スカッド」移動式発射機(ミサイルなし)もこの施設に存在していた

1969年のカダフィによるクーデター直前に、リビア軍は少数の「M109」155mm自走榴弾砲をアメリカから引き渡された:これらも46棟ある保管庫の1棟で遭遇した


リビア政府軍に持ち去られる戦利品たち:タルフーナ複合施設の発見と占領はカダフィ支持者が抱いたクーデターへの希望に終止符を打ったが、それは撮影された兵器たちの本格的な運用の始まりを告げたに過ぎなかった - 実際、その大半は今日まで使われ続けている。

[1] Libya election commission says Saif Gaddafi ineligible to run
[2] Libyan court reinstates Saif Gaddafi as presidential candidate https://www.aljazeera.com/news/2021/12/2/libya-court-reinstates-gaddafis-son-as-presidential-candidate
[3] Libya seizes tanks from pro-Gaddafi militia https://www.bbc.com/news/world-africa-19364536
[4] LIBYA. Military parade https://youtu.be/TIGehN-6JgU

※  当記事は、2023年1月3日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したもの
  です。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があ
  ります。



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2023年7月1日土曜日

複雑な内戦の象徴:リビア内戦の両陣営で使われている謎の多連装ロケット砲


※  当記事は、2021年12月14日に「Oryx」本国版(英語)に投稿された記事を翻訳したものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所があります。


著: ステイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

 2020年6月初旬、リビアの国民合意政府(GNA)に忠実な部隊が戦略上重要な都市であるタルフーナを占領し、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14か月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[1]

 市内に散乱していた戦利品を取捨選択する過程で、GNAはこの時点で全く知られていなかった多くの多連装ロケット砲(MRL)に遭遇しました(下の画像)。

 タルフーナはリビア西部におけるLNAの大規模な補給地として機能しており、彼らがアラブ首長国連邦(UAE)からかなりの軍事支援を受けていたため、この地でも両者のつながりを簡単に構築することができました。それゆえに、謎のMRLについても起源を容易に特定することができたのです。[2]

 MRLのロケット弾ポッド自体は容易に特定することができました。それらはトルコのロケットサン社がUAEに納入した、巨大な「ジョバリア防衛システム(重多連装ロケット砲)」に搭載されているものと同じロケット弾ポッドだったからです。

 ただし、トラックとロケット弾ポッドを搭載する架台を特定することは、北朝鮮によるUAEへの武器輸出に関する予備知識がない限りは困難を極めます。実際、この架台については、1989年にUAEが購入した北朝鮮製240mm MRL「M-1989」で使用されていたものであることが容易に特定できました。[3]

 また、ロケット弾の発射機構を搭載していたトラックも注目に値するものでした。なぜならば、それは(「ACP90」とも呼ばれる)イタリアの「イヴェコ260/330.3」の装甲が強化された派生型だったからです。このトラックは北朝鮮で運用されていませんが、この事実は長くにわたって重火器を搭載するための適切な大型トラック産業を欠いていた同国が、外国から輸入した車両を活用することで(需要に)しばしば間に合わせていたことを意味します。

 このケースでは北朝鮮は専用のトラックを納入しなかったようであり、おそらくはUAE自身でMRLを搭載するのに適したプラットフォームの(それ専用に)改修を支援したものと考えられます。


 北朝鮮がどの程度のMRLをUAEに引き渡したのか、同様にUAEがそれをLNAに供与したのかが不明であることから、今でもUAE軍に多くの北朝鮮製MRLが存在する可能性があることは確実でしょう。

 しかし、今や北朝鮮の独特な240mmロケット弾をアメリカからの制裁を受けることなく入手できなくなったことは、おそらくUAEがどこかの時点で彼らから導入した全てのMRLをトルコ製122mmロケット弾を発射できるように改修し、その後にいくつかがリビアに輸送されてLNAで使用された可能性が高いことを意味しています。

 少なくとも2基のMRLは数個のロケット弾ポッドと一緒に、新しい所有者:LNAによってタルフーナで放棄されました。

LNAによって遺棄されたロケットサン社製122mmロケット弾ポッド(タルフーナにて)

 240mm MRLは北朝鮮で大量に導入され、後にイラン、ミャンマー、アンゴラへの輸出でも商業的な成功を収めました。

 北朝鮮に導入された時点では、これが既存のMRLの中で最も射程距離が長い重MRLであり、90kgの弾頭を最大で43km離れた目標に向けて発射することが可能でした。

 UAEが導入した派生型では、トラックは12本の発射管を備えています。つまり、4台のトラックからは目標に対して48発のロケット弾の集中砲火を浴びせることができることを意味しています。

UAE軍の演習でロケット弾を発射する北朝鮮製240mm MRL

 前述のとおり。素晴らしい能力があるにもかかわらず、UAEにおけるこのユニークな大口径MRLのキャリアが極めて短いものだったことが判明しています。

 UAEが同時期に調達した170mm自走砲「M-1989 "コクサン(または主体砲)"」と同様に、240mm MRLはすでに1990年代後半から2000年代前半の間に現役を退いて保管状態に入り、おそらく現在もUAEのどこかの倉庫で生き残っているものと思われます。[4]

 彼らの退役はUAEにおける大口径MRLの運用が(当面は)終了したことを意味していますが、それでもなお、ロケット弾で標的に徹底的な集中砲火を浴びせるという概念はUAE軍首脳部の心を響かせたことには違いありません。同国の新たなMRL戦力を導入する試みでは、トルコのロケットサン社と共同で世界最大のMRLシステムを設計することになりました。

 「ジョバリア重多連装ロケット砲」として知られているこのシステムは基本的に20発の122mmロケット弾入りロケット弾ポッドを12個を装備したものであり、合計で240発(300mmロケット弾の場合は16発)の122mmロケット弾を搭載する、搭載可能弾数の面では世界最大のMRLです(注:107mmまたは300mmロケット弾ポッドも搭載可能)。

 (状況証拠から察するに)UAEが調達したロケット弾ポッドの数は「ジョバリア」で使用するために必要な数をはるかに上回っていたことは間違いなく、それらが最終的に北朝鮮製MRLの再武装に使われたと推測できます。[5]
 UAEが供与したMRLがリビアにどの程度残っているかは不明ですが、依然として使用されっていることだけは確実です。なぜならば、タルフーナで少なくとも2基のMRLがGNA部隊に鹵獲された約1年半後にそのうちの1基がGNAの首都であるトリポリの近郊で再び目撃されたからです(下の画像)。[6]

 そこではトルコから供与された「T-122 "サカリヤ" 」MRL用のロケット弾ポッドを搭載して運用され続けていますが、皮肉なことに、「T-122」にはUAEのMRLを再武装させたロケットサン社製の同じ122mmロケット弾ポッドが使用されています(注:「ジョバリア」と「T-122」のロケット弾ポッドが共通しているということ)。[7]

 同型のロケット弾ポットがさまざまな経路を経て内戦の両陣営で使用されることになったという事実は、現代の地政学が気まぐれな性格を持っていることを証明しています(注: LNA側は「UAEが北朝鮮から調達したMRLにトルコ製ロケット弾ポッドを搭載、その後に供与されたものを使用」、GNA側は「LNAから鹵獲したものにトルコから供与されたロケット弾ポッドを使用」)

トリポリ近郊で目撃された北朝鮮MRL(「T-122」用ロケット弾ポッド搭載型)

 トルコ製のロケット弾ポッドを搭載した北朝鮮のMRLがリビアへ送られ、トルコが支援する部隊に対して使用されたという実に奇妙な話はこれで終わりです。

 しばらく外交的に対立関係にあったトルコとUAEは数十年にわたる文化・軍事・経済的な協力を継続し、関係の正常化と回復を図ろうとしているため、将来的にトルコ製兵器が北朝鮮製MRLの運用者に使用されることは起こりえないでしょう。

 2021年11月下旬、トルコのエルドアン大統領とUAEの事実上の統治者であるアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子がアンカラで会談し、両国は技術やエネルギー分野などへの数十億ドルの投資に関する協力覚書に調印しました。[8]

 おそらく遠くない将来にトルコの兵器産業は再びUAEの重要なサプライヤーとなり、UAEの北朝鮮製MRLのケースと同様に高度な兵器類を提供するようになるでしょう。



[1] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html
[2] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[3] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[4] Inconvenient arms: North Korean weapons in the Middle East https://www.oryxspioenkop.com/2020/11/inconvenient-arms-north-korean-weapons.html
[5] SIPRI Trade Registers https://armstrade.sipri.org/armstrade/page/trade_register.php
[6] https://twitter.com/Oded121351/status/1427514232749404180
[7] https://twitter.com/Oded121351/status/1333049882299539460
[8] Turkey, UAE sign investment accords worth billions of dollars https://www.reuters.com/world/middle-east/turkey-hopes-uae-investment-deals-during-ankara-talks-2021-11-24/





おすすめの記事

2022年5月3日火曜日

無人機による航空阻止:リビアにおける「バイラクタルTB2」UCAV



著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)

 「バイラクタルTB2」無人戦闘航空機(UCAV)は、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争において、アゼルバイジャンがアルメニアに勝利するために極めて重要な役割を果たしたことでよく知られています。

  歴史上、1つの兵器システムだけで勝利した戦争はありませんでしたが、TB2なしでアゼルバイジャンがめざましい勝利を得ることができなかっただろうことに疑う余地はないでしょう。

 あまり知られていないのは、2019年から2020年にかけて国際的に承認されたリビア政府(GNA)を救い、UAEやエジプト、そしてロシアから多大なる支援を受けた「リビア国民軍(LNA)」のハリーファ・ハフタル将軍による敵対的な乗っ取りを阻止したTB2の功績です。[1]

 リビアにおけるTB2の取り組みが認知に欠けているのは、特にシリアやナゴルノ・カラバフでの空爆の映像が公開された数と比べた場合に、少しもTB2による空爆の模様が公開されていないことに原因があると思われます。

 もう1つの要因としては、メディアが6年以上続いたこの内戦にほとんど注目しなかったことも挙げられるでしょう。

 とはいえ、「バイラクタルTB2」は、UAEとロシアがリビアに配備したロシア製防空システム「パーンツィリS-1」のかなりの数を撃破したことで知名度を上げました。伝えられるところによれば、「パーンツィリS-1」は少なくとも15台がTB2によって撃破され、そのうち9台は72時間以内に喪失したとのことです。現時点で、報じられている15台の損失のうち9台は視覚的な証拠によって確認できています。[2] 

 LNAの作戦機もTB2の空爆を受ける側となり、リビア西部と中部の空軍基地に駐機していた貨物機と戦闘爆撃機がそれぞれ3機ずつ破壊されました。その結果として、前述の空軍基地から実施されるLNAの継続的な航空作戦は著しく危険なものとなり、主要なアル・ワティーヤ空軍基地での活動さえも停止に追い込まれてしまいました。[3] 

 事実上、アル・ワティーヤは2019年の夏から「バイラクタルTB2」によってロックダウンされていたのです。

 貨物機が地上で積載物を降ろすことが危険となったことは、最終的にLNAに物資のほとんどを陸路での輸送を余儀なくさせ、トリポリの部隊に物資を供給し続けることが極めて困難なものとなってしまいました。

 

 LNAにとってさらに悪いことに、「バイラクタルTB2」がリビア西部を通ってトリポリに向かう補給部隊の車列に放たれ、「パーンツィリS-1」に護衛されていても、彼らが頭上を飛ぶTB2の格好の餌食になったことが実証されました。

 実際、単に「パーンツィリS-1」が存在するだけで補給部隊が標的となる可能性が高まったように思われます。この防空システムは頭上の敵機(TB2)と交戦することは不可能同然であることに加え、GNAにその位置を特定するのに十分な通信・電波信号の情報をもたらしたからです。 

 ほかのケースでは、移動中に補給部隊の車列を護衛していた兵士がセルフィーしていたこともありましたが、これも作戦上の安全性に有益だったはずがなかったことは言うまでもないでしょう。[4]

 地上では、トルコはトリポリのGNA部隊を再編して同市の郊外を効果的に防衛できるようにし、最終的にはLNAに戦いを仕掛けることを可能にしました。

 UAEができなかったことですが、トルコは単に武器や装備を提供するだけでなく現地部隊の訓練も開始しました。この方法はかなりの効果をもたらし、今では対戦車ミサイル(ATGM)や対物ライフルで武装し、支援射撃や無人機の支援を受けたGNA軍は、今や通り道を敢然とLNAのキルゾーンに変えることができるようになりました。

 ハリーファ・ハフタル将軍たちが実際に敗北を喫したのは2020年6月でしたが、2019年5月にトルコの最初の支援が到着した時点で彼の運命が決したと言えます。

2020年7月、アル・ジュフラ空軍基地上空で「バイラクタルTB2」から投下された「MAM」誘導爆弾の直撃を受けた2機の「IL-76」貨物機の残骸。

 TB2によるドローン攻撃は、2019年から2020年半ばまで、LNA軍に大きな被害を加え続けました。

 同期間に、トルコ海軍の「G」級フリゲートもリビア領海内に展開していました。「G」級フリゲートが装備している「SM-1MR」艦対空ミサイルの射程距離の長さは、「ACV-30 "コルクート "」35mm自走対空砲(SPAAG)の配備と同様に、地上のGNA部隊にさらなる「防空の傘」を提供しました。

 「バイラクタルTB2」は対空砲が届かない高さを飛行するだけでこのような兵器からの攻撃を避けることができますが、「翼竜II」といった中国製UCAVはTB2よりもはるかに低い高度で運用されています(注:実用最大高度が低いためにトルコが配備した防空システムの有効射程から逃れられないということ)。

 「MIM-23 "ホーク "」SAM部隊と「GDF-003B」35mm 高射機関砲の配備と相まって、リビア西部における  UAEによる「翼竜Ⅰ」及び「翼竜Ⅱ」ドローンの運用が効果的に封じ込められました。

 2020年4月末頃にGNAがLNAをトリポリ直近から押し返すことに成功したことで、リビア西部からの混乱した撤退をもたらし、トリポリを占領して自称リビア大統領に就任するというハフタル将軍の長年の夢が絶たれたのです。

  それからまもなくして、 GNA軍は5月18日にアル・ワティーヤ基地を占領しました。[3]

 1か月も経たないうちの2020年6月5日、戦略的要衝に位置する(LNAの巨大な補給基地として機能していた)タルフーナの都市が占領され、リビア国民軍(LNA)が首都トリポリの攻略を目指して約14カ月も展開してきた攻勢が正式に終了したことを世に知らしめました。[5]

 1年足らずで「バイラクタルTB2」はLNA軍を追い出した一方で14機が撃墜されましたが、厳しい戦局を変えるにしては小さな代償で済んだと言えます。

 トルコにとって非常に効果的なドローンの使用は、全く新しい外交政策である「バイラクタル外交」を形づくるために、彼らの増大する外交発言力をさらに押し上げています。

 低い経済的・人道的なコストで政治的・軍事的な影響の最大化を追求した、規模が小さい介入を基本とする「バイラクタル外交」は、本質的に現代の紛争の特徴に比類なく適した新しいタイプの戦い方を構成しています。 

 それを担う無人機(TB2)は比較的安価なものですが、「バイラクタル外交」は実際には国家の運命を決めたと言えるほど効果的なものでした。なぜならば、「バイラクタルTB2」がなければ GNAはリビアで全滅していた可能性が十分にあり得たからです(注:仮にバイラクタル外交がリビアやナゴルノ・カラバフのように国家の運命を左右したとしても、この外交で使われるTB2は安価で発展性がある無人機であり、決して驚異的な武器ではありません)。



  1. リビアで「バイラクタルTB2」の手で破壊されたことが確認された目標の一覧は、以下のとおりです。
  2. このリストには、画像または動画による視覚的証拠で確認された、破壊された車両及び装備だけが掲載されています。
  3. 場合によっては、地上で撮影された映像だけで判定されている兵器類も掲載されています。 ただし、それらは武装ドローンの使用が現地の目撃者によって報告されているため、無根拠なものではありません。
  4. おそらく、その運用にできる限り注目されないようにするためか、TB2がリビアを空爆した映像は今までにほとんど公開されていません。
  5. したがって、TB2によって破壊された兵器などの数は、ここに記録されているよりもかなり多いと予想されます。
  6. この一覧は、より多くの映像等が入手可能になり次第、更新されます。
  7. 各装備名に続く数字をクリックすると、それぞれの破壊された車両や装備の画像が表示されます。
上の国籍マークが以下の一覧に示された破壊された兵器の運用主体です

                 
戦車(1)


装甲戦闘車両 (2)
  • 1 「アル・マレード」装甲兵員輸送車: (1)
  • 1 MSPV「パンテーラT6」 装甲兵員輸送車: (1)


多連装ロケット砲:MRL (6)


地対空ミサイルシステム (11)
  • 2 「2K12/SA-6 "クーブ "」: (1) (2)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)
  • 7 「パーンツィリ-S1」: (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
  • 1 「パーンツィリ-S1」: (1)


航空機 (6)


各種車両 (44)

[1] Tracking Arms Transfers By The UAE, Russia, Jordan And Egypt To The Libyan National Army Since 2014 https://www.oryxspioenkop.com/2020/06/types-of-arms-and-equipment-supplied-to.html
[2] https://twitter.com/Archer83Able/status/1263253266416230400
[3] Al-Watiya - From A Libyan Super Base To Turkish Air Base https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/al-watiya-airbase-capture.html
[4] https://twitter.com/Acemal71/status/1261714776612356096
[5] Disaster at Tarhuna: When Haftar Lost Another Stronghold In Crushing Defeat To The GNA https://www.oryxspioenkop.com/2020/09/disaster-at-tarhuna-how-haftar-blew-yet.html

 ものです。当記事は意訳などにより、僅かに本来のものと意味や言い回しを変更した箇所
 があります。